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[セシスコ]人差し指の理由

  • 2024/04/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



元の世界でも、使うものが限られていた武器であるから、「見せてくれ」とねだられるのは、それほど珍しいことではなかったと思う。
それに応えてやるかどうかは、その時の気分次第と、相手を信用できるかどうかと言うこと。
一瞬とは言え、愛用の武器を他人の手に預けることになる訳だから、万が一にもそれで不意を突いてくるような相手には渡す訳には行かない。
信頼性として其処が担保できる相手であったとしても、その人物が不慮の事故でもしたら────例えば安易にトリガーを引くとか、振り回してその辺にぶつけるだとか、そんな事があったら目も当てられないのだ。
ガンブレードはその特異な構造の複雑性と、銃と同様に火薬を籠めた弾丸が装填されているものだから、雑に扱えば誤作動を起こしてしまう、繊細な代物なのだ。
元の世界では、その複雑さと繊細さ故に敬遠され勝ちな武器だが、敢えてそれを扱いこなすことにスコールは拘った。
と同時に、それの扱いは慎重にすべきであると、誰よりも理解している。
だからこそ、「見せてくれ」と言われた時、気軽に「ああ良いぞ」とは言えないものなのだ。

神々の闘争の世界で、スコールの武器について、「見せてほしい」と最初に言ったのは、当然ながらバッツとジタンの二人だ。
もとより彼らが一番距離が近くなっていたのもあり、他のメンバーとは長らく距離を取った位置を保っていたスコールに、そうやって踏み込んでくるのは、彼らくらいのものだった。
その頃には、二人の性格と言うものをスコールも把握していたから、返すか刃で切りかかられることはないと判ってはいたが、かと言って簡単に見せる気にもなれなかった。
何せバッツとジタンの二人は、良くも悪くも明るく奔放であったし、ジョークと言うものを好む。
ちょっとした冗談、そうでなくとも好奇心で、軽く振るった拍子にその辺りにぶつけてしまう、と言う事故も想像が容易かった。
だからスコールはそのおねだりを無視していたのだが、結局は飽きずにねだり続ける彼らに抵抗を諦めた。
余計な所を触るなと、諸注意を強く強く言い聞かせた上で、二人の手に預けたのが、この世界で武器を他人の手に渡した最初の出来事だろう。

その後、武器となれば興味が尽きないフリオニールからもねだられた。
こちらはフリオニールの性格を考えて、諸注意を済ませた上で貸している。
元々フリオニールとは、砥石や油の融通をすることもあり、一緒に武器のメンテナンスをしている事もあった。
ガンブレードが特殊な構造をしていることも、スコールがその扱いを粗雑にするのを嫌うことも判っていたから、「フリオニールなら大丈夫だろう」と思ったのだ。
この扱いの差に、先の二人からは文句も出たが、どうせそれもじゃれつく理由の一つに過ぎないので、大して気にしてはいない。

それからしばらくすると、クラウドがやって来た。
彼とは元の世界こそ異なるものの、文明や機械技術の発展レベルが近しいことは知っていた。
世界に普遍的に普及している武器の一つとして、銃器の類も珍しくはなかったし、大型駆動の機械兵器や、電子技術も含めて作られた、大型の大砲もあるのだとか。
そんな彼でも、ガンブレードは初めて見るものだったらしい。
あるものと言ったら、銃歩兵が接近戦の時に使う、銃先に刃を取り付けるもので、それも結局は、銃が使えない環境下での応急武器に過ぎない。
あくまで“剣”として使うものに、弾倉など取り付けることはない、と彼は言った。

またしばらくすると、そろそろ来そうだなと思っていた所に、ルーネスがやって来た。
知識欲の好奇心か、彼はとにかく、他にない形と構造を持ったガンブレードが気になって仕方がなかったようだが、見たいとねだるまでに随分と悩んでいたらしい。
他の面々が折々にガンブレードについてねだっているのを見て、今なら、と思って来たのだとか。
爛々と輝く好奇心の目は、スコールには聊か眩しくて眉根が寄ったが、この頃にはスコールの方も、仲間たちと過ごすことに慣れていた。
定型文のように、取り扱いに関する注意を告げた後、ガンブレードをその手に持たせている。
ルーネスは一頻り眺めた後、馴染みがないのであろう、銃機構部に関する特性や役割について、あれこれと質問して来た。
そして満足すると、「ありがとう」と丁寧な手付きで、持ち主の手に返している。

他人の武器に興味を持つメンバーは、こんなものだろう────と思っていた所へ現れたのが、セシルだった。

紆余曲折の果て、近しい間柄になったのは最近のことではあるが、とは言え彼が武器に興味を持つような性格だったとは思わなくて、スコールは少し驚いた。
が、見せて貰っても良いかな、と言ったセシルに、スコールは断る理由が見付からない。
まず性格として、セシルが他人の武器をぞんざいに扱う訳もなかったし、フリオニールにねだられた時と同様、メンテナンスをしている場に居合わせる事もあったから、その構造の繊細さも判っている。
銃については、馴染みがないと言うので、諸注意事項は必要と判断したが、スコールにとってもそれは慣れたものになりつつあった。

そして今、スコールの愛剣は、セシルの手に委ねられている。


「綺麗な刃だね。まっすぐで厚みにムラもない。良い造りだ」


秩序の聖域の裏側、普段は人気も多くはなく、偶に特訓などで人一人が素振りなどを行う場所で、セシルはしげしげと剣を眺めている。
その眼には、歪みのない銀色に反射する、自分の顔が映っていた。


「こんなに綺麗な剣は、僕の世界には珍しいな。余程腕の良い鍛冶師じゃないと」
「……そう言うものか」
「スコールの世界では、この位のものが普通に出回ってるものなのかい?」
「……いや、其処まで普遍的でもない。質の悪いものだって幾らでもある。少し打ち合っただけで折れるような粗悪品もあるだろうな。安価で質の悪い大量生産品も珍しくない」


ガンブレードは使い手が限られるものだが、かといって需要がまるでない訳でもなかった。
軍の訓練で使っている所もあったし、使い手は少なくとも、武器のカテゴライズとしてはコアな人気があったから、頻度は高くないものの、武器のアップグレード品やパーツは流通していた。
スコールの愛剣も、元は凡庸な代物だったが、使用パーツを厳選・洗練するにつれてカスタマイズが重ねられ、現在の質に仕上がったものだ。
その過程には、安物のパーツで試して失敗した例もあり、やはり金額は質にも影響するのだとひしひしと感じたこともあった。

セシルは歪みのない刀身をじいっと見つめ、うん、と何かに満足したように頷いた。
それから右手元の柄を見て、それを両手で握って構えてみる。
スコールが素振りをしている時の見様見真似のそれは、形だけは綺麗なものだったが、


「なんだか不思議な感じだな。普通に構えると切っ先の位置も違うし」
「剣の角度が違うんだ。それから、人差し指を伸ばしてトリガーに当てる」
「ええと────」
「あんた、銃は持ったことはないんだったか」
「全く知らない訳ではないと思うけど、扱ったことはないな」


精々、見たことがある、という程度だろうか。
セシルの言葉から、スコールはそう察して、普段自分が武器を持っている時の手の形を作って見せる。


「俺の場合は、大体この形になる」
「ふむ。これは今やってみても大丈夫?」
「安全装置をかけてある。指をあてるだけなら問題ない。不安なら良い」
「いや、やってみよう。こんな機会はそうないだろうしね」


慎重でありながらも、好奇心はあるのだろうか、セシルは言われた通りにスコールの手の形を真似してみる。
その手でガンブレードを握り直し、トリガーに人差し指をかけるセシルだったが、


「これは指が引き攣りそうだな」
「まあ……そうなる事もあるかもな」


セシルの言葉に、そういう事もあったかも知れない、とスコールはぼんやりと思った。
もう愛剣が手に馴染んで久しいので、スコールの手はすっかりそれを握る型を覚えたし、引き金を引く時に撃鉄の抵抗感を重く感じる事も滅多にない。
だが、使い始めた頃は、セシルが言うようなこともあったのだ────恐らく、ではあるけれど。


「何も常にその状態でいる訳じゃない。戦況に応じて必要な握りにして、威力が必要な時には引き金を引く。それから、弾の数も限られるから、無駄遣いも出来ない」
「中々難しい武器だな」
「あんたも似たようなものじゃないか。武器に魔力を込めながら振るうだろう」
「確かに魔力を込める時には、集中する必要があるけれど、握りをその時に合わせて都度持ち替えたりはしないよ。少なくとも、僕はね」


セシルの言葉に、そういうものなのか、とスコールは眉根を寄せる。
“疑似魔法”しか扱ったことのないスコールには、上手く想像は出来そうになかった。
戦いながら、動きながら魔法の発動に集中を割くよりは、引き金を引けば発動する構造になっているガンブレードの方が、易いものに思う。


(……詰まるようなことがなければ、だけど)


戦闘中、引き金を引いた瞬間に、普段と違う感触をした時の、嫌な感覚と言ったら。
そんな事が起きないように、愛剣のメンテナンスは細かく行っているものだが、誤作動と言うのはいつ何時起こるか判らない。
勿論、それが起こっても冷静に戦い続ける訓練をしてはいるつもりだが、やはり一拍の焦りと言うのは生じてしまうものであった。

そんなことを考えているスコールの傍らで、セシルは剣の握りを何度も確認している。
人差し指が数回、伸ばして戻してを繰り返し、トリガーに指を当てては離して、


「うん。成程。面白い武器だな」
「……そうか」
「僕には扱えそうにないけどね。感覚が違うのがよく判ったよ」


そう言ってセシルは、ガンブレードの切っ先を下ろした。
ありがとう、と返される剣を受け取り、スコールは握り手の感触を確かめながら、一回、二回と剣を振る。
普段のそれと遜色がないことを確認して、スコールは愛剣を光の粒子へと戻した。

これでセシルからの用事も済んだだろうと、スコールは屋敷内に戻ろうと踵を返そうとしたが、


「道理で、ね」
「……?」


聞こえた呟きに、スコールがその主を見遣れば、セシルはくすくすと笑っている。
何かに納得し、楽しそうな表情に、スコールの眉間の皺が二割増しに寄せられた。
それに気付いたセシルが、じっと睨むように見つめる少年を見て、柔い笑みを浮かべて言う。


「スコール。右手の人差し指の力、他の指より強いだろう」
「……そうかもな」


セシルの指摘に、思い当たる節はある、とスコールは頷いた。
其処はガンブレードのトリガーを引く場所で、戦闘の為に頻繁に使うから、指の形も癖がついている。
挙げれば他にもなんらかの癖がついた指はあるだろうが、最も酷使しているのは其処だと言って良いだろう。
トリガーは決して軽いものではないから、引く際にはそれなりの抵抗力が返ってくるものだし、それを突破する為に強く引くことを繰り返していれば、自然と指の筋肉も鍛えられている。

セシルは自分の右手をひらりと翳すと、その手で引き金を引く仕草をして見せる。
彼の手は、中性的な容貌とは裏腹に、固い骨と厚みのある筋肉に覆われて、戦士らしく骨張っている。
その人差し指がぴんと真っすぐ伸びて、スコールに曲げる様子を見せながら、


「背中で君を感じる時に、“此処”のが特に伝わってきてね」
「……は?」
「手全体もそれなりに強く感じるけど、やっぱり、此処が一番残る気がするんだ」


急に何を言い出すのか、何を言っているのか。
セシルの言わんとしていることの意図が読めず、スコールは眉根を更に寄せて首を傾げる。
しかしセシルは、それ以上を詳しく言うつもりもないようで、いつもの柔い笑みを深めるばかり。

スコールは立ち尽くして、セシルの言葉を頭の中で反芻させる。
背中、人差し指、残る────何が。
自分の指が、セシルの背中に、何かを残すなんて────と、其処まで考えてから、まだ遠くはない薄闇の中で見た情景が、それまでの思考を塗りつぶすように脳裏に蘇る。


「……────!」


自分の指が、セシルの背中に当たっている、そんな瞬間は一つしかない。

訝しげな表情から一転、沸騰したように真っ赤になったスコールに、セシルはまた満足げに笑う。
見開いた眼に、限界まで羞恥心を浮かばせる少年へ、セシルは翳していた手をそのまま頬へと運ばせた。



赤らんだ頬に滑る人差し指の感触に、言葉を失う恋人を、セシルは愛おしげに撫でるのだった。



4月8日と言うことでセシスコ!

オペオム終了日、記念に最後にガチャを回したら、スコールとセシルがやって来たので、武器関連でセシスコが話をしてるのとか書きたいなと。世界はディシディア013ですが。
セシルの世界は大砲はあったし、飛空艇もあるし、月の文明もあるので、銃火器類と無縁ではないと思うのですが、セシル自身がその手で銃を持ったことはないだろうなと。
触り慣れない感触にふんふんとしつつ、スコールの癖の理由の一つを知って満足感に浸ってると良いな。

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