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2012年04月

[絆]ウソとホントと、ほんとの気持ち 2

  • 2012/04/01 22:04
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不安そうな顔をしたスコールと、不貞腐れた表情のティーダと。
二人を間に挟んで、レオンがスコールの、エルオーネがティーダの手を握って、港への道を歩く。


ザナルカンド~バラム航路の船が到着する時間が近付いて、ジェクトを迎えに行こうと言った時、ティーダは「絶対行かない!」と言った。
昼にレオンの携帯電話に送られてきた父からのメールを、ティーダは未だに信じていない。
スコールの方は、最初の頃こそ信じていたものの、ティーダが余りにも頑ななので、「やっぱりウソなのかな…?」と思い始めていた。

そんな弟達を、レオンとエルオーネの二人で宥めすかして落ち着かせて、ようやっと家を出た。
しかし、二人の表情は相変わらず晴れず、ティーダに至っては度々「やっぱり帰る」と駄々を捏ねる。


それでもなんとか───半ば引き摺るようにして───、夕暮れの港に到着して、約十分。



「船、遅れてるって?」
「ああ。そうらしい」



ジェクトが乗った船が、何某かトラブルに見舞われたらしく、予定時刻が大幅に遅れてしまった。
この連絡はレオンがジェクトに電話をして確認したのだが、



「……ウソばっか」
「ティーダ、まだ言ってる……」



直接電話して確認を取ったのに、ティーダはジェクトが帰って来る事をまだ信じていなかった。
レオンが電話をした時、直接話をさせて安心させようしても、無言で首を横に振るばかりで、電話を受け取ろうともしない。
これで本当に嘘だったら、恨まれるどころの話じゃないぞ、とレオンは思う。

俯いて唇を尖らせているティーダを、エルオーネが慰めるように頭を撫でる。
ぐす、と泣き出すのを我慢する声がして、ティーダはエルオーネにぎゅうとしがみ付いた。
それを見たスコールが、不安そうにレオンを見上げて来る。
大きな瞳が「帰って来る?」と問うように揺れていて、レオンはそんな弟の傍にしゃがんで、抱き締めて宥めてやった。


船の汽笛が鳴り響き、港内アナウンスが聞こえた。
遅れていたザナルカンドからの船が到着したのだ。



「船、着いたよ、ティーダ」
「………」
「ティーダってば」



エルオーネが促すが、ティーダはエルオーネにしがみついたまま動かない。
ワンピースを握り締めた小さな手が震えていた。

レオンがスコールを促し、エルオーネも固まっているティーダの背を押して、船着き場に向かう────が、ティーダが踏ん張って進もうとしない。
困った顔をするエルオーネにスコールを預け、レオンはティーダを抱き上げた。



「ほら、ティーダ。探してみろ」
「いい。いないもん、どうせ」



ぎゅう、としがみついてくる子供に、レオンはひっそり溜息を漏らす。
エルオーネも同じように、スコールと手を繋いで、小さく息を零していた。


四人は、桟橋の傍で、通り過ぎて行く乗船客達の中に、ジェクトの姿を探す。
其処では再会を喜び合う家族や恋人達の姿があって、父親が久しぶりに会った息子を抱き上げている光景もあった。
それを見たティーダが泣き出しそうになったのが判ったから、レオンはぽんぽんと彼の背中を撫でてやる。

沢山の人波の中で、たった一人の人間を見付け出すのは難しい。
ジェクトは大柄だし、存在感もあるから目立つ方だと思うのだが。


目当ての人物が中々見つからないのが、息子の不安を煽る。
やっぱりウソだったんだ、と呟いたのが、レオンの耳に届いた。

ウソだウソだと口で言って、信じていない態度を取っても、やはり、心の何処かで信じていたのだろう。
いや、信じたかった、と言うのが正しいのかも知れない。
ぐす、と鼻を啜るティーダの頭を撫でながら、レオンはもう一度、流れる人波に目を向けた。


──────すると、ひらりと翳される大きな手があって、



「よう、久しぶりだな」



人ごみを抜けて近付いて来た男のその言葉に、息子に対してもっと他に言う事があるだろう、とレオンは眉尻を下げる。

レオンに抱かれたティーダが、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。
ぽかんと半開きになった口が、とうさん、と夢幻を見ているかのように、小さく呟いた。



「ほら、ティーダ。嘘じゃなかっただろう?」
「……あ?なんだクソガキ、折角俺が帰るっつったのに、信用してなかったのか?」



むにー、とジェクトの太い指が、ティーダの頬を摘まむ。
そんなジェクトの腰に、小さな子供が抱き着いた。



「ジェクト、ジェクト!」
「おう。どうした、スコール」



ぐしゃぐしゃと大きな手がダークブラウンの髪を撫でる。
その手が離れると、青灰色がきらきらと輝いて、兄に抱かれているティーダを見上げた。



「ティーダ、ジェクト帰って来たよ。ウソじゃなかった!」



弾んだスコールの言葉に、ティーダが視線を彷徨わし、ジェクトは眉根を寄せてレオンを見た。



「……おい、なんなんだ、さっきから。ウソウソって」
「ちょっとな。タイミングが悪かったと言うか」
「半分はジェクトさんの所為だと思う」
「なんだ、エルの嬢ちゃんまで。訳判んねぇぞ、説明しろよ」



訝しげに問うジェクトに、レオンとエルオーネは答えなかった。
二人で顔を見合わせて、後でな、とぼかしてやると、ジェクトは判り易く顔を顰める。

レオンは、ずっと視線を彷徨わせているティーダを見て、くすりと笑みを零し、



「ジェクト」
「ん?」
「ほら、」



言ってレオンは、抱いていたティーダを受け取るように促した。
途端、ジェクトまで視線を彷徨わし、一瞬浮きかけた腕が頭の上まで持ち上げられて、後頭部を掻く。



「ジェクト」
「ジェクトさん」



促したレオンとエルオーネの間には、スコールがちょこんと立って、じっとジェクトを見上げている。
兄と姉が何を言おうとしているのか、小さな弟はきちんと汲み取っていた。

もう一度レオンが無言で促せば、ようやく、しっかりとした逞しい腕が息子へと伸ばされて。



「……お前、重くなったな」



ジェクトの言葉に、ティーダが小さく頷いて、父の太い首に掴まった。

それを見上げたスコールが、傍にあった兄と姉の手を握る。
柔らかな力でそれを握り返せば、ブルーグレイが嬉しそうに笑う。




さあ、帰ろう。
揃って踵を返して、潮の匂いの中を歩き出す。

両手を繋いだスコールの足取りは、誰の眼にも判る程に嬉しそうにステップを踏んでいた。






どっちも素直になれない父子。
「ただいま」「おかえり」も中々言えない。

この後、皆揃ってご飯食べて、ティーダはジェクトと一緒に寝ます。
スコールもお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に寝ます。

[三&空]小さな世界、小さなウソ

  • 2012/04/01 20:29
  • Posted by


今日は嘘を吐いて良い日。


悟浄からそう言われた時、悟空は首を傾げた。
嘘は嘘で、言わない方が良いものだから、どうして“嘘を吐いて良い”と言う事になるのか判らなくて。

大体、嘘を吐いて良いと言った悟浄は、その直後、灰皿代わりにした空き缶を八戒に発見され、「どうしてやっちゃうんでしょうね?」と言う八戒に、何も言う事が出来ずにいた。
嘘を吐いて良い日なら、その時こそ嘘でも言って許して貰う事が出来たかもしれないのに、悟浄は嘘を吐かなかった。
どころか、しどろもどろの言い訳に完璧な笑顔(青筋付)を喰らい、真っ青になっていたのである。


結局、どうして“嘘を吐いて良い日”なのかは教えて貰えないまま、悟空は悟浄宅を退散した。
お説教モードになった八戒の、身が縮まるオーラに当てられるのは御免だった。


寺院に戻り、三蔵の執務室に入ると、彼は相変わらず大量の書類と向き合って、不機嫌なオーラを撒き散らしていた。
このオーラは、慣れてしまえばそれ程気になるものではない。
少なくとも、仕事の邪魔さえしないようにすれば、八つ当たりされる事もないのだ。

構ってほしい気持ちはあったものの、此処でまとわりつくと拳骨が落ちるので、悟空は大人しく部屋の隅で丸くなっていた。
八戒に買って貰った落書き帳を開いて、ぐりぐりと黄色のクレヨンで描いて、塗って。


──────そのまま、暫くは静かな時間が過ぎていたのだが、



「失礼します、三蔵様」



僧侶が一人、また大量の書類の追加を持って部屋に入って来た。
その声を聞いた瞬間、三蔵の筆を持つ手が動きを止め、眉間の皺が三割増しになる。

僧侶は、書類を机に置くと、いそいそと部屋を出て行った。
その様は忙しそうと言うよりも、三蔵の不機嫌な空気に飲まれ、恐れ戦いていると言った方が正しい。
悟空はそれを横目に見ながら、まだしばらく遊んで貰えないな、と小さく溜息を吐いた。


しかし、悟空の予想に反して、三蔵は筆を置いた。

カタン、と固い木の音を聞いた悟空が顔を上げると、三蔵は目を閉じて椅子に寄り掛かっている。
悟空は落書き帳を床に置いて、恐る恐る、三蔵に近付いた。



「さんぞ、仕事」
「終わってねぇよ」


言い終わる前に返されて、だよなあ、と悟空は唇を尖らせる。

とは言え、今の所、三蔵は執務を再開させるつもりもないようで、煙草を取り出して火をつけている。
一服する時間くらいは、構って貰えるかもしれない、と悟空は考え直した。



「なあ、三蔵。今日って、ウソついて良い日なんだって。知ってた?」
「ああ……四月馬鹿か」
「しがつばか?」
「何処の国が発祥だか知らんが、四月一日はエイプリルフールっつって、嘘を吐いて良い日って言われてる。そのエイプリルフールを訳すと、“四月馬鹿”」



ふーん、と悟空は机に顎を乗せて漏らす。



「変な日だな」
「そうだな」



ふ、と紫煙が吐き出されて、ゆらゆらと浮かんで消える。

そのまま、しばらく部屋の中は沈黙して─────ふ、と悟空は思った事を口にする。



「なあ、三蔵。そのエイプリルなんとかって、誰でも嘘吐いて良いの?」
「一応な」
「オレも?三蔵も?」


悟空の問いに、三蔵はまた煙を燻らせて頷いてやる。


嘘を吐いて良い人間と、吐いてはいけない人間がいる、と言う事はない。
ただし、嘘の内容に程度は弁えるべき。

三蔵のその言葉を聞いて、ふぅん、と悟空は呟いた後で、



「じゃあ三蔵が腹痛になったってウソでも良いの?」
「………はあ?」



片眉を上げて顔を顰める三蔵に、悟空はやっぱ駄目か、と机に俯せる。


腹痛でも、頭痛でも、理由は何でも良い。
嘘が許される日なら、嘘でも良いから三蔵が仕事を休みになってしまえば、少しは構って貰えるかと思った。

しかし現実はそんなに簡単なものではない。
大体、腹痛だの頭痛だの、そんな理由で仕事を休める程、三蔵は自由な立場ではないのだ。
今こうして雑談しているのも、単なる小休止の間の事なのだし。




「………ふん」



じゅ、と三蔵の煙草が灰皿へと押し付けられる。
仕事再開だ。

─────と、悟空は思ったのだが、



「……あれ?さんぞ?」



執務椅子から腰を上げて、隣の寝室へ向かう三蔵を見て、悟空は首を傾げた。
三蔵はそれに答えないまま、寝室へ入って行く。

悟空は床に投げていた落書き帳とクレヨンを拾って、三蔵を追い駆ける。


寝室を覗いてみると、三蔵は法衣を脱いで、ベッドに横になっていた。



「三蔵、どうかしたの?」



駆け寄ってベッドに登り、三蔵の顔を覗き込む。
すると三蔵は、目を閉じたまま、覗き込んでいる悟空の襟首を掴んで、ベッドに引き倒した。



「わぷっ!」
「煩い。寝てろ」
「だって三蔵、仕事」
「腹痛なんだ。やってられるか」



周囲の雑音を遮断するように俯せて呟いた三蔵に、え、と悟空はぱちりと瞬き一つ。

三蔵は、悟空を抱き枕のように抱えたまま、動かなくなった。
抱えられたままで保護者の顔を覗き込めば、目を閉じていて、完全に寝る姿勢。



「……三蔵、腹痛ぇの?」



問いかけに返事はない。
しばらくして、聞こえて来る呼吸が寝息に変わったのが分かった。





小さな世界の、小さなウソは、壊されるほど大きくはない。


開け放たれた窓から、柔らかな風が吹いていた。







うちの三蔵様って仕事サボってばっかな気がする。

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