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2012年04月19日

[セフィレオ]もがいて足掻く君の隣で

  • 2012/04/19 00:23
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何を血迷ったかセフィロス×レオンに走った。
現代社会人なセフィロスとレオンです。





もう少し手を抜けば、楽になれる事も多いのだろうに。





「─────私の監督不行き届きです。申し訳ありませんでした」


深く頭を下げるレオンに倣って、傍らの青年も慌てて頭を下げる。
二人の前には、でっぷりと腹の膨らんだ中年の男がチェアに腰を沈めて、眦を吊り上げていた。
その男が振り撒く不機嫌なオーラに、青年は完全に飲み込まれており、まだ幼さの残る面立ちに恐怖の感情を滲ませていた。
レオンの方は常と変らない様で、ただ瞼を閉じて、じっと頭を下げ続けて動かない。

それから十秒か、三十秒か、それとももっと長かったのか。
部屋の壁にかけられた時計の、針が動く音は聞こえていたけれど、そんなものを気にしている余裕は、頭を下げた二人にある筈もない。
ただ只管、頭を下げたまま、目の前の男が何らかの言葉を発するのを待ち続ける。

ギ、とチェアの軋む音が鳴って、青年がギクッと肩を揺らせた。
チェアから腰を上げた男は、ゴホン、と見るからに厳格そうな咳払いをする。


「まあ、今回は先方も新人のした事だからと、大目に見てくれたから、私からの処罰も免除するが……今回のような事は、二度と起こさないようにしてくれ給え。良いね、レオン君」
「はい。ありがとうございます」


レオンは一度顔を上げ、男の顔を見て、もう一度深々と頭を下げた。
隣で頭を上げかけていた青年が、慌ててレオンに倣い、「ありがとうございます!」と引き攣った声で言った。

下がって良いと言われて、レオンは青年を伴って部屋を出る。
キィィ……と蝶番が軋んだ音を立てて、重々しい音と共に扉が締まり、ようやく青年が詰めていた息を吐いた。


「はぁ……すみません、レオンさん…」


まだ学生的な雰囲気が抜けない新入社員の、しおしおとした様に、レオンは苦笑を浮かべる。
委縮していた名残のように硬くなっている彼の肩に手を置いて、レオンは努めて落ち着いた声で言った。


「気にするな。今回は、少しタイミングが悪かっただけだ。仕事をしていれば、こういう事が起きる事もあるだろう。お前は此処に入って来てからよくやってくれている。真面目に仕事に打ち込んでいるのも判っているから、そんな顔をするな」
「でも…俺の所為ですし。なのに、レオンさんまで呼び出しかけられて……」
「俺はお前の教育指導を任されている。だから、こういうのも俺の仕事だ。お前が気に病む必要はない」


出来るだけ柔らかい声で言ったレオンだったが、青年の表情はまだ晴れない。
普段、滅多に仕事でミスをせずにこなせていただけに、今回の失敗がかなり堪えているようだった。

レオンは、ぽん、と青年の胸に軽く拳を当ててやった。


「一度やってしまったミスは、次に取り戻せばいい」
「……出来るかな、俺……」


レオンの言葉に返って来たのは、独り言のように零れた言葉。
くすり、とレオンの口元が緩んだ。


「宛にしている」


そう言って、レオンは青年に背を向けた。
胸に詰まった想いを全て吐き出すように、ありがとうございます、と言う青年の声が廊下に響く。
振り返らないまま、ひらりと手を振ってやれば、気合を入れる声が聞こえてきた。

所属の部署室に入って、自分に宛がわれている席に着く。
パソコンの電源を点けて、立ち上がりを待つ間に、引き出しから分厚くなったファイルブックを取り出した。
パラパラとページを捲っていると、コトン、と音がして、顔を上げると、デスクの端に缶コーヒーが一つ。
何故、と数瞬考えた後で、隣のデスクの主が戻ってきた事に気付いた。


「災難だったな」


顔を上げたレオンと目を合わせるなり、美しい銀糸を持つ男は、そう言って小さく笑った。

同じ部署に所属する、レオンよりも二つ年上の男────セフィロス。
レオンと同じ、まだ二十代の半ばでありながら、その業績は他の追随を許さぬ程に優秀な男であった。
レオンも社内の若手の中では、十分トップクラスに入る成績を持っているが、自分が後輩である事を差し引いても、セフィロスには敵わない。

レオンは、デスク端に置かれた缶コーヒーを取って、セフィロスに掲げて見せる。
碧眼が何も言わずに見詰め返して来るので、レオンはしばし逡巡した後、缶のプルタブを開けた。
セフィロスはレオンが一口飲んだのを見届けてから、訊ねた。


「減俸ものだったと思うんだが、どうだった?」
「先方が、新人のやった事だからと、寛大に見てくれた。お陰で、厳重注意だけで済んだ」
「あの狸、お前には露骨に甘いからな」


含みの目を見せるセフィロスの言葉に、レオンはことりと首を傾げた。

あの上司───セフィロス曰く狸───がレオンに甘い所があるのは確かだ。
レオンも、頭を下げていた時は、減俸処分は勿論の事、嫌味の三つ四つは降ってくると思ったていたのだが、良そうに反し、彼は随分あっさりとレオン達を解放した。
連れていた新人にとっては幸運であったが、レオンは何故だろう、と疑問を燻らせていた。

────と、不意に腕が伸びて来て、レオンは驚いて身を引いた。


「逃げるなよ」


セフィロスは、空を掴んだ手を宙に浮かせたまま、レオンに言った。


「……あんたが驚かせるからだろう」
「別にそんなつもりはなかったんだが。お前、相当疲れているようだな」
「何故そうなる」
「さっき、俺が戻って来たのにも気付かなかったんだろう。人の気配に敏感なお前が、周りの人間の気配に気付かない時は、十中八九、疲れが溜まっている時だ」


きっぱりと言い切ったセフィロスに対し、レオンは反論する言葉を持たなかった。

此処数日、レオンは大きなプロジェクトに向けて会議やら、その為のデータ作りやらに追われている。
プロジェクトには先の新人も参加しており、レオンは彼の教育係も引き受けていた。
プロジェクトメンバーは、レオンも含めてその殆どを若手で構成されており、リーダー役となったレオンは上に指示を仰ぎながら、部下となった彼ら他メンバーにあれこれ指定を出してと、心身ともに息つく暇がない。
そんな中で新人の青年が犯してしまった失態で、これによって遅れたものを取り戻す為に、より一層働かなければならない事が決定した。
先刻は新人の青年に対して「気にするな」と笑いかけたレオンだったが、本音を言えば、今のレオンには他者を気遣っていられるような余裕もないのだ。
しかし、自分はリーダーであるし、見るからに落ち込んでいた新人を更に追い込む訳にはいかないと、喉まで出かかった本心を寸での所で飲み込んだ。
……そうした積み重ねが、自覚しているストレス以上に、レオンに疲労を蓄積させていた。

沈黙を誤魔化すように缶コーヒーを口に運ぶレオンに、セフィロスは溜息を一つ。
それが自分の失態を────情けなさを責めているような気がして(勿論、単なる被害妄想であると判ってはいるのだけれど)、レオンは俯いた。
慣れている筈のカフェインの苦みが、常以上に苦い気がして、デスクに戻す。

─────その直後、唐突に腕を掴まれたと思ったら、強い力で引っ張られて、レオンは目を丸くする。


「な、あ、」
「来い」
「来いって、ちょっと、あんた」


まだ仕事がある、と言うかもう仕事に戻らないと、後が不味い。
そう言おうとしたレオンだったが、腕を掴むセフィロスの手が、怒りを握ませているような気がして、口を噤んだ。

引き摺られるようにして連れて行かれたのは、仮眠室だった。
三台の簡易ベッドが並んでいる中、一番端の壁際に連れて行かれて、放り投げられる。
硬い安物のマットレスに埋もれたレオンだったが、直ぐに起き上がって傍らの男を見上げる。


「おい、セフィロス!」
「少し寝ていろ」
「断る。そんな暇はない」


きっぱりと言い切って起き上がろうとするレオンだったが、肩にセフィロスの手が触れた。
それは、払おうと思えば容易に出来る、柔らかな力だったのだが、



「眠れ、レオン。お前が無理をするのは見たくない」



こつん、と額が押し当てられた。
さらりと銀糸が落ちて、レオンの頬をくすぐる。

間近にある碧眼は、とても澄んでいて、穏やかで。
整い過ぎていて高嶺の花のように言われる面立ちも、そうして笑って見せれば、とても柔らかくなる。
けれど、それを知っているのは、レオン一人。

……レオンは、肩の力を抜いた。
ベッドに仰向けになって倒れて、目を閉じる。


「……30分で起こしてくれ」
「ああ、判った」





──────その後、レオンが目覚めたのは、一時間後のこと。







勢いだけで書いた、サラリーマン(的)セフィレオ。
年下には“頼れる男”なレオンが誰かに頼るって良いじゃないか。CCセフィロスならいけると思うんだ、うん。

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