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2013年10月

[レオスコ]誰も知らないスピンオフ

  • 2013/10/31 21:54
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俳優レオンと、高校生スコールの兄弟で、ハロウィンレオスコ。






舞台演劇で用意された衣装は、配役主が持ち返り────買取する事が可能な場合がある。
有名デザイナーが舞台の為に特別に誂たものや、コーディネートされたものも多く、劇の内容によっては日常生活で着られる衣装もある。
いやらしい話もするなら、誰々が使用した衣装、と言う謳い文句と共に、ファンやマニアに向けて人知れずオークションに提出される事もあった。

レオンも時折、舞台やドラマで使用した衣装を買い取って帰って来る。
それは大抵、日常生活で普通に着る事が出来るものなのだが、偶に奇抜なものを持って帰って来る事があった。

今日、学校を終え、家に帰ったスコールが見付けたのが、正にそれ。


「……なんだ、これ」


リビングのソファに綺麗に畳まれていたものを見付けて、スコールは眉根を寄せた。

手触りの良い黒い服が綺麗に畳まれており、それだけなら特に可笑しい所はないのだが、襟の作りや、裏地が目が覚める程に真っ赤である事が、スコールの目を引いた。
立て襟なんて今時流行らない形の服だが、衿には板紙でも縫い込んであるのか、立たせる事が前提となっているようだ。
合わせられた襟元には、金色の金属プレートが嵌められているのだが、どうにもプレートの光り方が安物っぽい。
その原因は、光の反射を抑えるようにコーティングされているからなのだが、素人のスコールにはそんな事は判らなかった。

今朝までは家になかった奇抜な服が、何故此処に在るのか。
スコールが思案するように立ち尽くしていると、リビングと寝室を繋ぐ扉が開く。


「お帰り、スコール」
「……ただいま。これ、レオンのか?」


帰宅の挨拶をそれぞれ交わした後、スコールはソファに置かれた布を指差して訊ねた。
レオンは示された物をちらりと見遣ると、ああ、と頷く。


「今日までやっていた舞台の衣装だ」
「…どんな衣装なんだ?」


レオンの今回の舞台公演を、スコールは一度も見に行く事が出来なかった。
平日の公演は学校があるから当然行けないし、加えて期末試験が近かったので、外に遊びに行く時間も取れなかった。
今回はいつものようにスコールがレオンの大本読みに付き合う時間も作れなかった為、スコールはレオンの舞台内容すらも知らない。

百聞は一見にしかずとでも言うのか、レオンは徐に黒布を手に取ると、広げて見せた。
表は黒一色、裏は赤一色で、縦衿と言う特徴的な形のそれは、どうやら羽織りマントとして着用するものらしい。
その色合いと形、マントと言う点から見て、スコールはひょっとして、とマントを見詰め、


「……ドラキュラ?」
「ああ。今回の舞台は、吸血鬼を主役にしたものだったんだ」
「…で、その衣装を、なんでわざわざ買取なんかして来たんだ?」


レオンの説明には納得したが、マントなんてものは、買い取っても早々着る機会には恵まれまい。
せめて、マントの下に着ていたのだろう、ブラックスーツなら────と思ったスコールだったが、広げたそれが燕尾服であり、ブラウスにもフリルがふんだんにあしらわれているのを見て、これもないな、と思う。
西欧諸国ならばともかく、少なくともこの国では、日常で着用される服ではないだろう。

洋服ダンスには空きがあるので、収納云々の問題は気にしていないが、タンスの肥やしになるのは先ず間違いない。
レオンもそれが判らない訳ではないだろうに、と胡乱な目を向けるスコールだったが、レオンはそれを気にする事なく、衣装を一つ一つ広げている。


「特に理由はないんだがな。強いて言うなら────ほら、今日はハロウィンだろう?」
「……ああ」


ソファに座ったスコールの前で、徐に着替えを始めながら言ったレオンに、そう言えばそんな日もあったか、とスコールは気もそぞろに頷いた。

ハロウィンと言えば、真っ先に浮かぶモチーフは南瓜だ。
しかし、ハロウィン用の飾り付けには、南瓜の周りを飛び交う幽霊や、蝙蝠の姿も見られる。


「ハロウィン…だから、吸血鬼の衣装を持って帰ったのか?」
「そんな所だな」


弟の言葉に頷いて、レオンはシャツを脱いでブラウスに袖を通した。
その上に黒のマントを羽織れば、フィクションによくよく見られる、如何にも“吸血鬼”と言った様相が出来上がる。


「どうだ?」
「…うん」
「うん?」
「……吸血鬼、っぽい」
「そうか」


ハロウィンなんてものではしゃぐような性格でもないだろうに。
レオンが脱いだシャツを拾い、畳みながら、スコールは呆れたように小さく吐息を漏らす。
公演が無事に終わって、傍目には判り難いが、以外とテンションが上がっているのかも知れない。
なんだか妙に楽しそうに見える兄に、今日ばかりは水を差す事もあるまいと、スコールはこれ以上気にする事は止めた────が。

衣擦れの音がして、スコールの顎を形の良い指が捉えた。
くん、と顎が上向いて、蒼と濃茶色がスコールの視界を埋める。


「スコール、─────Trick or Treat?」
「………え?」


囁くように聞こえた声に、スコールはぱちり、と瞬きを一つ。
常の感情を殺した大人びた表情は何処へやら、きょとんとした顔で見上げて来る弟に、レオンの唇が緩く弧を描く。

柔らかなものが、スコールの頬に触れた。
一瞬だけのそれが離れると、今度は温かな手が同じ場所を撫でて、横髪を透いて耳元を指先が辿る。
レオンの唇が、スコールの耳に近付いた。


「悪戯か、お菓子か。どっちだ?スコール」
「……っ!」


吐息がかかる程の距離で、よく通る低い声が囁く。
途端、ぞくん、としたもの背中を奔るのを感じて、スコールは咄嗟に目の前の男を押し退けようとした。

が、押した身体はびくともせず、逆にスコールを腕の中へと閉じ込める。


「レオっ……!」
「どっちだ?」


繰り返し囁きながら、レオンの唇がスコールの耳に触れる。
かふ、と柔らかく耳朶を噛まれて、スコールは息を飲んだ。

身を固くしたままのスコールの耳を、ゆっくりと、生暖かいものがなぞる。
レオンの舌だ。
ぴちゃ、と小さな音が耳元で鳴って、スコールの躯がふるりと震えた。


「れ、おん……やっ……!」
「お菓子は────持ってない、か」


レオンの手がスコールの首筋を撫で、背筋を下りて、腰を抱く。
更に手は下りて行き、スラックスの尻ポケットを探るように臀部を彷徨った。

カッターシャツの裾が持ち上げられて、レオンの手が滑り込み、スコールの柔肌をくすぐる。
唇を噛んで肩を震わせるスコールを眺めながら、レオンは耳朶を食んでいた歯を離し、スコールの輪郭を辿って、首筋へ。
薄く開いたスコールの視界に、濃茶色の髪と、赤い裏地の襟が見えて、────一瞬だけ、レオンの耳が尖ったような錯覚を抱く。

スコールの首に、柔らかく、優しく、歯が立てられる。


「あっ…あぁっ……」


ちゅ、ちゅぅ、と吸い付かれて、スコールの肩がビクビクと跳ねる。
微かに皮膚に食い込むように喉を噛まれて、スコールは喉を反らして唇を震わせた。

つ……と濡れた舌先がスコールの喉仏を這って、離れる。
震えていたスコールの躯から力が抜けて、レオンの腕に抱き寄せられた。
スコールがぼんやりと瞼を持ち上げると、間近で真っ直ぐに見下ろしてくる、青灰色の瞳がある。


「レ、オ、ン……」


至近距離で見詰める蒼灰色の瞳の中で、蕩けた表情をしている自分がいる。
歯を立てられた喉が、耳が、異常な程の熱を持って、じくじくとした感覚を生み出している。
心なしか尖ったように見える瞳孔に見つめられていると、まるで誘惑か幻惑の魔法でも施されたかのように、思考が麻痺して行く。

レオンの手がスコールの後頭部を撫でて、指先で柔らかな髪の毛先を弄ぶ。
くすくす、くすくす、と笑う男の気配に、スコールも何処か楽しい気分になって来て、逆らう意志も融解して行く。

吸血鬼に噛まれた者は、どうなるのだったか。
不老不死になるとか、同じように吸血鬼になるとか、隷属するとか、フィクションでは色々と設定があった気がするが、目の前の吸血鬼の場合はどうだろう。
男の指が肌を滑る度、彼の唇が掠めるように触れる度、ぞくぞくとしたものが背中を奔るのは、これも彼に噛まれた所為なのか。
だとしたら、酷く性質の悪い吸血鬼だ────と思いながらも、ふわふわとした心地の良さは拒めない。

スコール、と呼ぶ声がして、蒼の瞳が交じり合う。


「お菓子がないなら、悪戯するぞ?」


良いな、と問い掛けと言うよりは、決定事項のように告げられて、スコールの唇が震える。
レオンのマントを掴んでいた手が、知らず知らずの内に震えていた。

唇が重ねられて、呼吸が出来なくなる。
咥内をゆっくりとまさぐられる感覚に、スコールの肩が小さく跳ねて、マントを握り締めていた手から力が抜けた。
傾いた躯をソファが受け止めて、カッターシャツの前が開かれる。




もう一度、首に歯が当てられる。

同じ場所からじん…としたものが沸き上がるのを感じて、スコールは目を閉じた。





正統派で演技派な売れっ子俳優レオンのハロウィンでした。
スコールはレオンの演技と雰囲気とオーラにすっかり飲み込まれてしまえば良い。

[589]Trick and treat!

  • 2013/10/31 21:37
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「Trick!」
「「And!」」
「Treatーーーー!」


帰還するなり、二つの声が重なって突進してきた。

悪意や敵意を一切感じさせないそれが誰の物なのか、最早考えなくても判る。
この声の持主達に対して、特に警戒する必要がない事も判っているが、それ以上に、彼等が何を考えて、何を意図しているのかは、未だに理解できずにいる。
その所為か、認識から理解、理解から把握、把握から行動と言う理屈に則った行動を取ろうとする体は、認識から理解・把握の段階で手順を頓挫させてしまい、行動するに至らないのが常だ。
早い話が、飛び掛かる影に対する反応が遅れ、硬直している間に、襲撃完了に至ると言う事だ。

どたんばたんと賑やかな音が玄関に響き、なんだどうした、とフリオニールとティーダがリビングから顔を出す。
が、玄関口に倒れている面々を見付けると、ああいつもの事か、とまたリビングに戻って行く。
頼むからこいつらを回収してから引っ込んでくれ、とスコールは思うのだが、そんな彼の胸中に気付いてくれる人物は、今の所、いない。


「おーい、スコールー」
「Trick and treat!」
「……取り敢えず、其処を退け」


腹の上に乗っている二人────ジタンとバッツを睨んでやれば、二人はいそいそと退いた。
起き上がったスコールは、じんじんと痛む背中に顔を顰める。
無傷で帰還した筈なのに、自陣の拠点で負傷すると言うのは、一体どういう事なのだろう。
いつもの事と言われればそれまでだが。

スコールは溜息を吐いて、目の前に座る二人を胡乱な目で見る。


「なんだ、Trick and treatって」
「ん?スコールの世界には、ハロウィンはないのか?」
「…それは、ある」


質問に質問で返された事に眉根を寄せつつ、スコールは端的に答える。

ハロウィンと言うものは、スコールの世界では余り一般的ではなかったが、賑やかし事好きのバラムガーデンでは、何かと理由をつけては行事を行っているので、これも食い付いていた気がする。
スコールは余りその光景を明確に覚えていないが、菓子を配り歩く者がいたり、菓子を貰えないと悪戯を仕掛けられたり、と言う生徒の姿が其処此処にあった。
菓子を渡せなければ悪戯をされる────恐らく、そう言う祭りなのだろう。
その時、よく飛び交っていた言葉も、スコールは覚えていた。

その覚えていた言葉が、スコールの記憶にあるものと、二人が口走っているものとで、微妙に違う。


「…“Trick or treat”じゃないのか?」
「ああ、そうとも言うな」
「ティーダがそれでクラウド達にねだってたな」


けろりとした表情で二人に返されて、スコールは眉根を寄せる。


(こいつらの世界では、そう言うのか?)


それぞれ違う世界から召喚された仲間達から聞く各世界の話は、全く違うかと思えば、そうではない。
重なる所、似て非なる所と様々で、似ているし同じ物を指すけれど、微妙にそれを指す言葉が違うと言う事も少なくなかった。
今回も、それに当て嵌まるのだろうか。

やれやれ、と溜息吐きながら、スコールはジャケットの内ポケットに手を入れた。
ごそごそとポケットを探るスコールを見て、おお?おおお?とバッツとジタンの目が意外そうに、且つ期待を込めてきらきらと輝く。


「……これしかない」


そう言ってスコールが取り出したのは、二つの小さな飴玉。
非常食と息抜きにと携帯していたものだった。

まさかスコールが菓子類を持ち歩いているとは思っていなかったのだろう、バッツとジタンは丸くした目で、スコールの手の中の飴をまじまじと見詰める。


「飴だ」
「スコールが飴持ってた」
「…悪いか」


如何にも驚いたと言う表情をする二人に、スコールは眉間の皺を深くする。

いつまでも眺めているだけで、飴を受け取ろうとしない二人に焦れて、スコールは飴を持った手を引っ込めようとした。
が、一足早くそれに気付いた二人が、がしっ!とスコールの手を掴み、それぞれの飴を浚う。


「スコールから飴ゲット!」
「ゲット!」


二人揃って飴を高らかに頭上に掲げ、まるでレアアイテムでも手に入れたかのように、弾んだ声で宣言する。
飴一つでよくもはしゃげるものだ、と思いつつ、スコールは溜息を吐いて、腰を上げた。

今日は一人でイミテーション退治をしていたので、怪我こそないものの、疲れているのは事実。
単独行動していた事をウォーリア・オブ・ライトに気付かれる前に、部屋に帰って寝てしまおうと思っていた。
ジタンとバッツの襲撃は、ある意味、単独行動からの帰還後にはお決まりのものなので、文句を言いたい気持ちはあるものの、キリのない事なので全て諦める。
それより早く休みたい、と思いながら廊下を進もうとすると、


「おりゃっ!」
「うりゃっ!」
「っ…!」


二人分の人間の重みが、順番に重なって来る。
油断していた事、疲労していた事で、がくっとスコールの膝が折れて、床に突っ伏す羽目になった。

背中の重石をじろりと睨みつけてやる。


「なんなんだ、あんた達。菓子ならもうやっただろう」
「うん、貰った」
「だったら、さっさと退け」


邪魔だ、と言わんばかりの表情を浮かべるスコール。
しかし、そんなスコールを見ても、ジタンとバッツはにやにやと楽しそうな笑みを止めない。

─────嫌な予感がした。
逃げなければ、と背中の二人を振り落としてでも立ち上がろうとして、それよりも僅かに早く、がしっ!!と二人が全身で以てスコールの背中にしがみ付く。


「俺達、言っただろ?スコール」
「Trick and treat、ってな」


“Trick and treat”────“悪戯とお菓子を”。
接続詞が一つ変わるだけで、言葉は全く意味を変える。




その日の夕食、猫耳を生やした獅子の姿が、見られたとか見られなかったとか。






ジタンとバッツに言わせたかっただけ。ハメられたスコールが書きたかっただけw
皆から可愛い可愛いって言われまくったそうです。屈辱。でも可愛いと思う。
ティナに嬉しそうに「かわいい」って言われて、怒るに怒れなくて固まったりしてるに違いない。

[動物パロ]わんわんにゃんにゃん

  • 2013/10/30 22:29
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ホームセンターに行ったので、同建物の二階のペットショップに寄って来ました。癒されたかったので。
わんこもにゃんこも可愛かった。


プレイルームのような大きなウィンドウの中で、犬2匹と猫1匹が仲良く遊んでいたのに萌えた。
犬はポメラニアンとビーグルの子供、猫はスコティッシュフォールドの子供でした。
皆そこそこ大きくはなってたけど、まだ大人ではない感じ。皆大体同じくらいの大きさでした。
ポメとビーグルがずっとじゃれてて、スコがちょっかい出したり離れたりを繰り返していたので、なんだか589に見えて仕方なかった……と言う事で、

猫スコールと犬ジタンと犬バッツ → [いっしょにあそぼ! 1][2]


あと、小さな部屋では仔猫(ソマリだったかな?)が毛布の中で包まれてすやすや寝てました。
あったかいんだろうなーって気持ち良さそうに目を細めてた顔が可愛かったです。
と言う事で、

[ペットショップ・ファンタジア]の猫レオ子スコ → [おひるね・ふぁんたじあ]


やっぱり動物は癒されますね。

[猫レオン&猫子スコ]おひるね・ふぁんたじあ

  • 2013/10/30 22:02
  • Posted by



すぅ すぅ すぅ


ぽかぽかと暖かそうな陽気が降り注いでいて、花の咲いた庭がある。
ぴんと張られた紐に、真っ白なタオルや毛布が吊るされて、風が吹くと翻った。
幼子の瞳とよく似た真っ青な空に、眩しい白が、とてもとても映えている。

その瞳は、今は瞼の裏に隠れていて、しばらくは人目に映りそうにない。
幼子は窓辺から差し込むぽかぽか陽気に身を委ね、太陽の匂いのする毛布に包まって眠っていた。

ふかふかの毛布は、幼子がとても気に入っている寝床だった。
毎日、この毛布を引っ張って、転んで、包まって、遊んでいる。
時々取り上げられる事があって寂しい事もあるけれど、必ずその日の内に帰って来て、その時にはくしゃくしゃだった毛がふわふわになっていた。
今日はそのふわふわの日で、幼子は気持ち良さに包まれている内に、すやすや眠ってしまったのだ。

幼子の傍にいつでも一緒にいる兄は、今はいない。
この広くて優しい住処の何処かにいるのは知っているから、彼の姿が見えなくても、もう怯える事はない。
この優しい住処には、優しいものしかないと知っているから。

─────きぃ、と小さな音がして、小さな小さなドアが開く。
ドアの隙間からするりと滑り込んで来たのは、幼子よりも少し体の大きな兄。


すぅ すぅ すぅ


兄は、眠る幼子を見付けると、幼子に近付いた。
ゆっくり、ゆっくり、音を立てないように気を付けて。


すぅ すぅ すぅ


兄が直ぐ傍らまで来た時、幼子は変わらず、すやすやと寝息を立てている。
毛布の中で丸まった、小さな腹が、小さくふか、ふか、と動く。

そっと幼子の腹に頭を寄せて、兄は幼子の腹を舐めてやる。
ぴくっ、ぴくっ、と幼子の尻尾が動いて、心なしか嬉しそうに揺れた。
そんな幼子の反応が嬉しくて、兄の尻尾も嬉しそうに微かに揺れる。

腹に埋められた幼子の貌に頭を寄せて、小さな額を舐める。
ぴくん、と小さな耳が動いて、ぴょこっと兄の方を向いた。


んぅ……?


とろとろと瞼を持ち上げた幼子の、きれいなきれいな蒼色が、兄を映す。
それだけで、幼子はふんわりと嬉しそうな貌をして、兄の口元に頬を寄せた。


おかえりなさい、お兄ちゃん


嬉しそうな幼子の声と、眩しそうに笑う幼子の貌が、兄の心をぽかぽかと暖める。

毛布の中に包まった幼子を、自分の体で包み込むようにして、兄も丸くなる。
幼子はふわぁ、と小さな口で大きな欠伸をして、眠そうに目を細める。


んぅ……


うとうと、うとうと。
こっくり、こっくり。

小さな頭を上下に揺らす幼子に、兄はくすりと小さく笑う。
寝ていて良いぞと耳をくすぐれば、幼子はもぞもぞと身動ぎして、ころんと寝返りを一つ。
幼子は、兄の腹に顔を埋めて、丸くなった。


ふにゅ……ふふ


小さく笑う声が聞こえて、見て見ると、幼子がくすくすと笑っていた。
尻尾の先端がゆらゆらと嬉しそうに揺れて、兄の足元をくすぐる。


あのね、お布団ね、ふかふかしてて、あったかいんだよ
でもね、でもね、一番あったかいのはね、お兄ちゃんなんだよ
知ってた?


嬉しそうに、自信満々に言った幼子の言葉に、足元だけではなくて、胸の中もくすぐったくなった。
なんだか無性に照れ臭くて、それを誤魔化すように、幼子の耳元を舐めてやる。
くすぐったいよう、と幼子は言って、もっと、と言うように兄の腹に顔を埋める。

幼子はしばらく嬉しそうに兄にじゃれついていたけれど、程無く、静かになった。
自分の腹の上で、すやすやと穏やかな寝息を立てる幼子を見詰めた後、兄もゆっくりと目を閉じる。

それから少しの時間が経って、キィ、と大きなドアが開けられる。
幼子と兄と同じ、綺麗な蒼い瞳の生き物が、おやつの缶を持って来た所だった。
綺麗な蒼は、自分が名付けた幼子と兄の名前を呼ぼうとして、止める。


すぅ すぅ すぅ
くぅ くぅ くぅ


規則正しい、二つの寝息。
ぽかぽか柔らか陽気の中で、毛布にくるまって眠る子供達。
起こしちゃ可哀想だから、今日のおやつはもう少し後で。



お兄ちゃんが一番あったかい。

そう言った幼子に、一番あったかいのはお前だよ、と兄は思った。





ペットショップで、仔猫が毛布に包まって気持ち良さそうに寝てたので。
その子は一匹だけだったのですが、仔猫スコにはやっぱりお兄ちゃんが欲しくなる。

[犬59&猫8]いっしょにあそぼ! 1

  • 2013/10/30 21:58
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高いキャットタワーの上が、スコールの特等席であり、指定席だった。
其処にいれば、下がどんなに賑やかでも、被害を被る事はない。

しかし、スコール、スコール、と繰り返し呼ぶ声は、相変わらずよく通って、スコールの鼓膜に届く。


「おーい、スコールぅ」
「遊ぼうぜー」


キャンキャンと犬の声がして、スコールは伏せていた頭を上げた。

傍らの窓から差し込む、ぽかぽかと温かな陽気が、丁度スコールの腹に当たって気持ちが良い。
くぁあ、と欠伸をして、消えない微睡に目を細めていると、もう一度、キャン、と呼ぶ声。
煩いな、と思いながらスコールが視線を下へと落とすと、二匹の犬が尻尾を振って此方を見上げていた。


「おっ、やっと起きた」
「おーい。新しいボール貰ったんだよ。一緒に遊ぼうぜ!」


二匹の犬の名前はジタンとバッツで、スコールと一緒に住んでいる。
懐こい性格の二匹は、スコールの事を痛く気に入って、毎日のようにじゃれついていた。

スコールは犬ではない。
丸い顔、小さく折れた三角形の耳、細長い尻尾、しなやかに動く手足と、瞳孔を細めたキトゥン・ブルーの瞳を見れば判るように、正真正銘の猫だった。
生まれが何処であるかは判らない、生まれて間もない頃に道の隅で段ボールの中で捨てられていたのを、フリオニールと言う物好きな人間が拾ってくれ、その時既に家にいたジタンとバッツと共に育てられた。
ちなみに、ジタンとバッツも生まれは何処とも知れないらしく、バッツは傷付いて倒れている所を、ジタンは家族と逸れて一匹で彷徨っている所を、偶然見つけたフリオニールが拾ったとの事だ。

ジタンとバッツは犬、スコールは猫とあって、両者の生活には色々と差がある。
広い場所を駆け、じゃれあって遊び回るのが好きなジタンとバッツに対し、スコールは日向でのんびりと昼寝をするのが好きだった。
元々、スコールは大人しい性格をしており、仔猫の時分から、はしゃいで遊び回る事は少なかった。
しかし、ジタンとバッツはそんな事はお構いなしで、スコールに隙さえあれば飛びついて行く────のだが、今日のスコールはキャットタワーの天辺で優雅に昼寝。
猫と違って高くジャンプするのが難しいジタンとバッツは、スコールに「下りて来いよ」と何度も鳴いて呼んだ。


「ほら、これこれ。すげー跳ねて面白いんだぜ」


バッツが足元に置いていたボールを咥えて、持ち上げて見せる。
半透明のボールの中で、きらきらとした星粒が光っていた。


「きらきらしてて綺麗だろ?スコールも気に入るかもって、フリオニールが選んだんだってさ」


だから、これを使って一緒に遊ぼう、とジタンが誘う。

スコールはしばし、櫓の上でじっと下方を見詰めていた。
それを見上げる空色と褐色の瞳には、ボールよりもきらきらと輝いて、期待に満ち満ちているのが判る。

───-が、スコールは、ぷい、とそっぽを向いた。


(……眠い)


ぽかぽかとした陽気が、スコールの眠気を更に助長させている。
ジタンとバッツのテンションに付き合う気になれず、それよりももう一眠りしたい、とスコールは丸くなる。

たらん、と櫓の天辺から垂れたスコールの尻尾を見て、クゥン、とジタンとバッツの声が零れる。


「おーい、スコールぅ」
「あーそーぼー」
「あーそぼー」


尻尾を振りながら、ジタンとバッツは繰り返す。
それに対し、スコールはゆら、ゆら、と垂れた尻尾を微かに揺らすだけ。

ジタンとバッツは、ぐるぐると櫓の周りを回り始めた。
スキップするようにぴょんぴょんと足元を弾ませながら、スコール、スコール、と繰り返し呼ぶ。
二匹とも櫓上にいるスコールを見上げながら回っているので、全く前を見ていない。
そんな訳だから、案の定、ごちんと衝突して引っ繰り返った。


「あってぇ!」
「いって!顎いって!」
「鼻いてぇ!」


悶えるようにごろごろと櫓の足下で転がり回る二匹。
身体が小さい二匹とは言え、揃ってこうも賑やかにされると、スコールの短い堪忍袋は容易く張り詰め、


「……あんた達、煩い」


腹に埋めていた顔を上げて、もう一度二人を見下ろし、スコールは顔を顰めた。
静かにしろ、と睨むスコールの視線の先では、二人でごろごろと転げ回っていた二匹が、何が面白いのかけらけらと笑っている。

眼下では、起き上がったジタンとバッツが、ぶつかったのはお前の所為だ、いやお前の所為だ、と責任の押し付け合いをしている。
ならば勝負で決めよう、と言い出したバッツに、ジタンが先手必勝!と高らかに再現しながら飛び掛かった。
後ろ足で立ってジャンプしたジタンがバッツに覆い被さるが、バッツは前足でジタンの顔面を押し退ける。
フリオニールが買ってきたと言うボールは、ころころと明後日の方向に転がった。

ボールで一緒に遊べと言う話は一体何処へ行ったのだろう。
呆れつつ、スコールは今度こそ、と丸くなって目を閉じる。

ぽかぽかと心地の良い陽気の傍ら、もっと陽気で無邪気な声が、スコールの耳に届く。


「やったな、ジタン!仕返しだ!とうっ」
「うぉおっ!あっ、こら、耳噛むなよ!」
「じゃあ舐めてやるよ」
「オレを毛繕いして良いのは、可愛いレディだけだっ。野郎はお断り」
「そう言うなって、おれ達の仲だろ~」
「あいてて、お前乱暴だからイヤなんだっつの!」


ばたばた、キャンキャン、ごろごろ、キャンキャン。

賑々しい二匹のじゃれ合いに、静かにしろよ、とフリオニールは叱りに来ない。
出掛けているのか、何か手が離せない事でもしているのだろうか。
ちょっとで良いから、叱りに来てはくれないだろうか、と櫓の上で騒がしさに辟易しながらスコールは思う。

あっ、ボール、ボールで遊ぼうぜ、とようやっと思い出したジタンが言い出した。
そうだった、そうだった、と言いながら、バッツがボールを回収しようとすると、横から風が駆け抜ける。
一足先にボールを奪ったジタンが、ふふん、と尻尾を振って自慢するように咥えたボールを見せ付けた。
おれのだぞ!と奪い取ろうとするバッツから、ジタンが走って逃げ回る。

キャンキャン、どたばた、キャンキャン、どたばた。

ああ、煩い。
スコールは音を嫌うように耳を伏せながら思った。
折角気持ち良く昼寝をしていたのに、これでは二度寝出来そうにない。


(………)


むくっと起き上がったスコールの狭い眉間には、くっきりと皺が浮いている。
スコールは四方50センチ程度の足場に立つと、櫓を一段、二段とゆっくりと音を立てずに下りて行く。

スコールは地上までは下りなかった。
櫓の一番下で足を止めて座ると、ボールを転がして結んだタオルを引っ張り合って遊ぶジタンとバッツを一瞥し、


「……あんた達、もうちょっと静かにしろよ」
「おっ」
「おぉっ」


我慢の限界を訴えるように、低い声で言ったスコール。
ジタンとバッツは、タオルを引っ張って二匹揃って上下逆さまに引っ繰り返った状態で、スコールを見上げた。
何をどうしたらそんな体勢になるんだ、とスコールは益々呆れる────が、そんな悠長な事をしている暇はなかった。


「スコール!」
「スコール!」


遊ぼう!と二つの声が重なって、スコールに二匹が飛び付いた。
一瞬の内に間近に迫った二匹の影に、思わずスコールの尻尾がぶわっと爆発する。

櫓の一段にいたスコールは、二人に押し退けられるように、後ろに引っ繰り返った。
どうしてあの櫓の一段目は、あんなに低い位置にあるのだろう、と妙に冷静な事を考えたのは、一瞬だけ。
ごちっ、とスコールは後頭部を打って、その上にジタンとバッツが二匹揃って覆い被さって来たものだから、溜まったものじゃない。
幾ら二匹とも小型犬で、猫のスコールと大差ない体格をしているとは言え、二匹分の体重はやはり重い。
ごろごろと団子になった状態で転がった後、三匹は上からバッツ、ジタン、スコールの順で重なり合って倒れた。


「あいててて……」
「うあー……やっちまった」
「………このっ!」


暢気に呻くバッツとジタンの声に、スコールが苛々とした声を上げた。
ぐっと体に力を入れて起き上がり、背中に乗った二匹を振り落とす。
ころんころん、と二匹が床を転がっている隙に、スコールは大きくジャンプして、櫓の三段目に上った。


「あっ」
「あっ」
「ふん」


櫓は全部で四段になっており、一段目は低い位置にあるが、二段目からは高さがある。
猫のスコールにとっては特に問題のない高さだが、犬のジタンとバッツにとってはそうではない。
だから此処は、スコールにとって絶対不可侵の安全地帯だ。


「スコールぅ」
「スコール、悪かったよ。怒るなよ」
「………」
「お詫びにおれのおやつ、あげるからさ」
「オレもオレも」
「………」


訴える二匹に、スコールは知らない、と言わんばかりにつんとそっぽを向いてやる。

台から食み出て重力に垂れる尻尾に、二匹の鼻先がじゃれてくる。
スコールは尻尾の先端で、ぺしっと二匹の頭を叩いてやった。
それきり、スコールは尻尾すらも引っ込めて、つんと二匹に背中を向けて丸くなった。





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