[サイスコ]AM0:00のその時に
何度目の熱の交わりになるか、もう数えることもバカバカしくなる。
若い体でその解放感と心地良さを覚えてしまえば、忘れてしまうことなど出来なくて、まるで盛りのついた犬猫のように求めてしまう。
任務を終えて帰った日は尚更で、相手が不在であれば仕方がないと自己処理するしかないが、いるのであれば必然的に足が向いた。
日が落ちるのも早いこの時期、夕刻など一時程度しかないから、船がバラム島に着いた時には、もうとっぷりと夜は更けていた。
諸々の確認を終えて、同行したSeeD達に解散を言い渡すと、彼等は足早に港を離れて行った。
トラビア大陸で味わう寒波に比べればマシだと言っても、港は海風が皮膚に痛い。
レンタカー屋まで歩いて行くのも面倒で、もう帰るのは明日で良いかと、スコールはホテルで一泊明かそうと決めた。
愛剣を納めたケースをいやに重く感じる位には、疲労があったのは確かだ。
そんな折に、ホテルの前でばったりと逢った。
対の傷を抱いた金髪のその男も、自分と殆ど同じタイミングで、バラムステーションに帰って来た所らしい。
ガルバディア大陸西部のウィルバーン丘陵で魔物退治に勤しんでいた彼は、大陸横断鉄道に長いこと揺られて、存外と疲れた顔をしていた。
ホテルに来たのも、街からガーデンへの帰路が面倒臭かった、と言うスコールと全く同じもの。
宿で見知った顔と出くわしたなら、金銭的な所に重きを置いて、二人部屋を取るのは然程不自然ではないだろう。
それを提案したのはサイファーの方で、スコールも別に構わないと言った。
────それを認めた理由については、億尾にも出したつもりはなかったが、きっとサイファーは判っていた。
判っていたし、きっとスコールと同じだったから、彼もそんな提案をして来たのだ。
本当にゆっくり眠って朝を迎えたいなら、こんな事を言い出す事もないだろうから。
そうして渡されたキー番号の部屋に入って、すぐにベッドに縺れ込んだ。
お互いに厄介な魔物を相手に戦って、終わって直ぐに帰路の足へと移ったから、体の熱を持て余している。
とにかく発散しないと碌に眠れる気がしなかったし、何より、燻るものが目の前の存在を求めていた。
窓の向こうの寒さも、そこから滑り込んで来る冷気も、何もかもを忘れるように、汗だくになって絡み合う。
動物の方がもっと慎み深いかも知れない。
だとすれば此処にいるのはケダモノ二匹か、とそんな取り止めのない思考は、繋がり合った瞬間に綺麗に熔けて消えて行った。
自分と対の傷のある額に、粒の雫が伝い流れていくのを見ていた。
おもむろに手を伸ばして其処に触れ、しっかりした掘りのある作りをした目元を辿り、頬へと滑らせる。
翠色の宝石が微かに笑ったのが判った。
頬から滑る手は首へと周り、もう片方の腕も同じように回してやると、背中に触れていた腕に抱き寄せられる。
支えられながら、ベッドに沈めていた上体を久しぶりに起こし、深く深く口付けた。
「ん……、ふ、んん……」
絡み合う舌が音を立てて、耳の奥で響いている。
その度に繋がった場所が熱を滲ませて、其処に入ったままのものを締め付けていた。
足元がシーツを滑り、逃げを打ったつもりもないが、捕まえようとするように腰を押し付けられるものだから、深くなる繋がりに喉奥で喘ぐ。
たっぷりと唾液を交換し合って、ようやく唇を離した。
が、今度は相手の方からやって来て、下唇を食むように吸われる。
「んん……っ!」
ぢゅ、と啜られるのが判って、ひくっと肩が震えた。
濡らした其処を次はゆっくりと舌が舐めて行き、ああ、とあえかな声が漏れる。
ようやっと唇の戯れが終わって、持ち上げていたスコールの頭がベッドに落ちた。
背中を支えていた腕が解け、きしりとスプリングが小さく音を立てる。
「っは……はぁ……あ……」
「……えらく熱烈じゃねえか」
足りなくなった酸素を補給しているスコールに、覆い被さる男が楽しそうに言った。
スコールが薄く目を開ければ、まだケダモノの情欲を宿した翠が其処にある。
ふう、とようやく呼吸を整えてスコールは言った。
「……にじゅうに……」
「ん?」
「……に、なったから……」
熱に浮かされて拙い舌遣いのスコールの言葉に、サイファーは少しばかり眉根を寄せる。
それから数秒、間を置いてから、ああ、と理解した。
「22日、ね」
12月22日、それが今日の日付。
二つ並んだベッドの間に置かれた、ラジオ付きのデジタル時計は、つい今しがたその日を迎えた事を示している。
それを認識して、サイファーもスコールの行動の理由を察した。
「プレゼントか」
「……さあ」
「もっとくれよ」
「……やだ」
視線を外して素っ気ない反応をするスコールに、サイファーがくつくつと笑う。
態度ばかりは冷たくても、見下ろす其処にある顔は、分かり易く赤らんでいる。
その赤らみの理由が、自分の行動なのか、今もまだ共有している熱なのかは曖昧であったが、サイファーにしてみればどちらでも良いことだ。
繋がっている場所をぐっと押し付けてやると、びくっと細身の躰が跳ねた。
紅い目元がじろりと睨むが、サイファーは構わずに、スコールの目尻にキスをする。
「良いだろ、折角の俺の誕生日だ。サービスしろよ」
「もうした」
「足りねえ」
「っ……擦るな、バカ……!」
もうこれ以上につけるサービスなんてあるものか、とスコールはサイファーに言った。
体も熱も繋げ合って、口付けだって今晩だけで何回したか判らない。
その癖、夜はまだまだ長くて、中にあるものが一向に大人しくならないことも判っているから、これ以上なんてしたら体が持たない。
何より、自分らしくもないことをした自覚があるものだから、同じ事を何度もしろと言われても、土台無理な話なのだ。
サイファーだってそんな事は判っているのに───判っているから、まだ足りない、と彼は言う。
「普段は俺が山ほどしてやってるだろ」
「別にしろって言ってない……」
「嬉しい癖に」
サイファーの言葉に、スコールは首を横に振る。
どうやっても素直になれない恋人に、サイファーは悪戯心が膨らんだ。
「恋人の誕生日に、一番に祝ってくれるなんて、嬉しいもんだぜ」
「じゃあもう十分だろ」
「ヤってる間、ずっと時計気にしてたのか?」
「別に」
「そうでなきゃ、こんなタイミングで出来る訳ねえだろ」
「……偶々目に入っただけだ」
「でも意識してたんだろ」
「……してない」
どうやっても口では認めたくないスコールに、サイファーは軽く腰を揺すった。
中にあるものがスコールの柔らかく濡れた所を弄って、ビクンッと判り易く跳ねる。
「知ってるか。キスしながら中擦ると、お前良い顔するんだぜ」
「このっ」
悪い顔をして耳元で囁いたサイファーに、スコールの右手が出る。
が、サイファーにしてみれば判り切っていた事だし、何より、この状態でスコールが本気の一撃を出せる訳もない。
難無く手首を捕まえて、ベッドシーツに押し付けながら、覆い被さって唇を重ねる。
繋がっている所の角度が変わって、くぐもった悲鳴が短く零れた。
咥内で戦慄いていた舌を捉えて、ちゅる、と音を立てて啜ると、中の肉が切なげに締め付けて来る。
滾るものがどくどくと集まって来るのを感じながら、サイファーはスコールの咥内をたっぷりと味わった。
「んむ、ぁ……は、んぁ……っ!」
スコールの自由な片手は、抗議にサイファーの肩を叩いていたが、長い口付けに段々とその意欲も失う。
薄く開いた瞼の隙間に覗く蒼灰色は、さっきまで浮かべていた羞恥心も忘れて、とろりと飴のように溶けている。
此処も舐めたら甘そうだなと、サイファーはこっそりと思いながら、絡めた舌を外へと誘いながら、ゆっくりと恋人の呼吸を解放した。
はあっ、と熱の籠った吐息が零れ、二人の唇を細い銀糸が繋ぐ。
それが切れてしまうかと思った時、サイファーの頬に白い手が添えられ、またスコールから口付けが贈られた。
「ん、ちゅ、んぷ……」
「ふ……ん、ん……っ」
「うんっ……!ん、は……サ、イファー……っ」
呼吸の為に一時離れれば、耳心地の良い声が男の名を呼ぶ。
呼ばれた男は嬉しそうに口元を弧に歪ませて、それに応えるように、何度目かの熱の交わりに没頭して行く。
そう言えば、祝いの言葉がなかったなと二人それぞれに気付くのは、昼も過ぎてのことであった。
12月22日ということで、サイファー誕生日おめでとう!
しっぽりいちゃいちゃしながら祝いの日を迎えて貰いました。
完全に二人揃って朝帰りコースでしょうね。一緒に泊まっちゃってるんだから。