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2023年12月25日

[16/シドクラ]変わらぬ日々に特別を



いつからソリを引いてやって来る白髭の存在を信じなくなったのかと言われると、さて、と思う。
そもそも、初めから信じていたのかさえ、思い返してみると曖昧であった。
ただ、それを真っ向から否定するような言を使った事もなかった筈だ。
それは一重に、5歳年下の弟の存在があったからで、彼がそれを信じている間は、決して否定はすまいと思っていた。
素直な弟は随分と長い間それの存在を信じ、今年は来てくれるかな、と無邪気な表情で兄に聞いていた。
その度に、お前は良い子だから来てくれるよ、と答えるのが常だった。

もう随分と昔のことだ。
弟も今では大学院生で、流石にあの頃のように無邪気な年齢ではないし、街の軒先を飾るリースを見て、夢物語に思いを馳せることもない。
自分に至ってはそろそろ三十路になる歳で、世間の其処此処で華やぐムードがある今日も、相も変わらず仕事をしている。
今日と言う日でも止まる事のない公共交通機関であったり、人々の生活を明るく照らす電気であったり、そう言うものに従事している人間は案外と何処にでもいるものだった。
それでも赤白緑と、この時期特有のカラーに飾られ、七色に光るイルミネーションに飾られた街の浮かれ振りを見る度に、ああなんでこんな日にまで、と憂う声も聞こえて来る気がした。

クライヴはと言うと、いつも通りに定時に上がって、会社を出た。
幾つか前倒しに終わらせようとしていた案件はあったのだが、社長であり、同居人であるシドから、「クリスマスだぞ。帰って美味い飯でも作っといてくれ」と追い出されたのである。

帰り道にある行きつけのスーパーで、普段よりも少しばかり豪華な買い物をして、自宅に帰る。
夕飯の準備をしていると、携帯電話が鳴ったので確認してみると、メールが二通。
一通は弟から、「プレゼントをありがとう」と言う一文と共に、新品のマフラーの画像が添えられている。
今日と言う日の為に、クライヴが彼に当てて送ったクリスマスプレゼントだ。
それから、年末までに何処かでディナーでも行こう、と言う誘いがあって、都合の良い日を教えて欲しいとあった。
本来ならば今日、と言う予定があったのだが、お互いに上手く都合がつかなくて先延ばしになった。
クライヴは改めて日程を確認し、返信メールを送っておく。

それからもう一通は、動画付きのグリーティングメッセージで、再生ボタンを押してみると、同居人の娘───ミドがクラッカーを鳴らして「メリークリスマス!」と高らかに謳った。
動画に映るミドが着ているカーディガンが、シドが唸りながら選んで贈ったものだと気付いて、クライヴの唇が緩んだ。
ミドのメールは、きっと同じものが同居人の元にも届いているだろう。
今日と言う日を祝う言葉と共に、返信のメールを送信した。

夕食を作る手を再開させ、二品目、三品目と出来た所で、ちょっと量が多いか、と気付いた。
クライヴはそれなりに食べる方だが、シドはと言うと、摘まみになるものはそこそこ食べるが、重くなるものは得意ではない。
それをぼやいていた時、歳か、と言ったら、お前も直にそうなるぞ、と脅して来た。
いずれは辿る道かも知れないが、今の所はそう言う気配もないので、その時の遣り取りは、クライヴが肩を竦めて終わった。
と言った会話も思い出したのだが、


(まあ良いか。クリスマスだし)


パーティを開く程にはしゃぐことはないが、さりとていつも通りの夕飯と言うのも詰まらない。
これ見よがしな鶏の丸焼きを出す訳でなし、品数が多い位は構うまい。
偶には華やかに見える食事を用意するのも楽しいものだと、開き直ることにした。

折角だからワインでも開けようか、と考えていると、玄関から家主の帰宅の音が鳴る。
キッチンからひょいと顔を覗かせてみれば、寒さに赤らんだ顔がクライヴを見付け、


「おう、帰ったぞ」
「ああ」
「良い匂いがしてるな。美味そうだ」
「あんたが作れって言ったからな」


シドはマフラーを解きながらダイニングに入り、其処に並んだ料理を見て苦笑した。


「お前、張り切り過ぎじゃないか?」


バジルソースを添えたトマトとチーズのカプレーゼ、バゲット入りのオニオンスープ、スーパーで今日の為とばかりに売られていた厚みのあるローストビーフに、ミートソースのパスタ。
加えてデザートにと、ヨーグルトにブルーベリーソースとシリアルを添えて並べた。
普段は主食に沿えてサラダとスープ、あとはもう一品軽いもの、と言う具合だが、今日は随分と賑やかな食卓だ。

呆れ気味の表情を向けて来るシドに、クライヴは開き直って、


「良いだろう、クリスマスだし」
「だからってな。ミドがいるならともかく、食い切れんだろう」
「明日も食えば良いさ」
「やれやれ。作るのが楽しかったんだな。仕方ない、無駄にならんようにするか」


眉尻を下げて笑いながら言うシドに、是非そうしてくれ、とクライヴも言った。

折角だから開けよう、とシドがセラーから出して来たワインを開けて、のんびりとした夕食の時間。
特別なのは並ぶ料理が少しばかり豪華と言うくらいで、其処で交わす内容が何か特別になる訳でもない。
それでもなんとなく、満足感と言うのか、幸福感と言うのか、そう言うものをじんわりと感じる。
くすぐったさまで感じさせるそれを、目の前にいる男に悟られないように、クライヴはいつも通りに食事を進めた。

食べ切れないと言った割りには、シドはそこそこ食べてくれた。
パスタは一人分よりも少なめに、あとは食べたい分だけ摘まめるようにしたのと、ワインのお陰だ。
余った分はタッパーに移し、冷蔵庫に入れて、明日の夕飯にすれば綺麗になくなるだろう。

さて、とクライヴが食器を片付けようとキッチンに向かおうとした所で、


「クライヴ。片付けなら俺が引き受けるから、お前はあっちだ」
「あっち?」


呼び止めたシドの言葉に、クライヴはことんと首を傾げる。
あっち、と言ってシドが指差した先には、リビングソファに置いたシドの鞄がある。
それはクライヴにも見慣れたものであったが、その傍らに、小さな白い袋が置かれていた。

シドがさっさとキッチンに行ってしまったので、クライヴは首を傾げつつ、袋を手に取った。
赤いリボンで封をされた袋には、薄い金のインクで『merryXmas』と印字されている。
クライヴはしばらくそれを眺めていたが、


「シド。これ、開けて良いのか」
「ああ」


一応の確認に訊ねてみれば、思った通りの返事があった。

リボンを解いて中のものを取り出すと、シンプルな黒の長方形のジュエリーボックス。
手触りの良い箱に、そこそこ良いものなんじゃないか、とクライヴは眉根を寄せた。
蓋を開けてみれば、鈍銀色のチェーンに、赤紫色に光る石が連なっている。
アクセサリーとしては渋い色合いだが、派手にならずに落ち着いた品位を漂わせたそれは、ファッションとしてもそれなりに上級者向けのデザインをしていた。
当然、クライヴにとっては馴染もないものであったが、決して安い値段でないことは分かってしまう。


「シド」
「お前に合いそうなモンを探してみた。ま、気が向いた時にでもつけてみろよ」
「それは───その、ありがたい、が。急にこんなもの」


戸惑う表情を浮かべるクライヴに、シドはくっと笑う。


「おいおい、クリスマスだぞ。恋人ヽヽにプレゼントを渡すのに、これ以上の理由はないだろう」
「……!」


シドの言葉に、クライヴの存外と幼さの残る顔に朱色が差す。
あ、う、と返す言葉に詰まって口籠る青年に、シドはくつくつと笑いながら、手許の食器の泡を流していた。

クライヴは赤らんだ顔をどうにか宥めて(それでもまだ赤かったが)、ふう、と一つ息を吐く。
落ち着いて手元の宝玉を見て、また別の理由で眉根を寄せた。


「俺、あんたに何も用意していない」
「ああ、気にするな。そいつも、俺の気紛れみたいなもんだからな」
「……だが……」


宥めるシドであったが、クライヴの表情は晴れない。
そんなパートナーに、大方の予想はしていたが、やっぱり律儀な奴だなとシドは呟いて、


「良いさ。お前からの分は、あとで貰うつもりだからな」
「あと?……だから、俺は何も───」
「別に物を渡すだけがプレゼントってもんでもない。色々あるだろ、色々な」


念を入れるように重ねて繰り返すシドに、クライヴはぱちりと瞬きを一つ。
それからしばらくの沈黙の後、シドの“あと”と“色々”の意味を理解して、収まりかけていた頬の熱が一気に再燃した。

沸騰したように赤くなった顔で、じろりと睨んで「……スケベ親父」と憎まれ口を叩くクライヴに、シドは理解したのならお互い様だと返したのだった。


クリスマスと言うことで。

基本的に家族を大事にする二人なので、それぞれジョシュアやミドと何か約束とかしてそうだなーと思いつつ。
それはまたの機会に書ければなと、今回は二人で過ごすクリスマスを書きたかった。
あと顔真っ赤にしたクライヴに「スケベ親父」って言わせたかった。察してしまったのでお互い様。

[絆]内緒のプレゼント・ルーレット

  • 2023/12/25 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



クリスマスと言えば、スコールとティーダにとって、毎年楽しみにしているものだった。
一番はサンタクロースが来てくれる事で、毎年欠かさずやって来てくれるそれに、嘗ては「いない」と思っていたティーダも、今やすっかり当たり前にその存在を信じている。
その影で、兄と姉と、今はザナルカンドで過ごすティーダの父親が、いそいそと忙しく準備に駆け回っている事を、弟達はまだ知らない。

彼等が一番の楽しみにしているのは確かにサンタクロースだが、それ以外にも、彼等の心を引き寄せるものは多い。
例えば、街を歩いていれば必ず目に付く、華やかで楽しそうな飾り付けの数々。
店先に植えられた木々や、小さなプランターにも飾りが施され、夜になるとチカチカち光る電飾も少なくない。
平時のバラムは海辺の穏やかな街に過ぎないが、この時期ばかりは判り易く浮かれてくれた。
街で一等背の高いバラムホテルにある街頭テレビにも、度々クリスマスの時期を報せるニュースが流れ、限定アイテムの販促にも余念がなかった。
バラムガーデンは一足先に冬休みに入るのだが、その前から売店や食堂は華やかに飾られる。
街に住んでいるスコール達は噂にしか聞いていないが、なんでもクリスマス当日には、限定メニューとしてケーキも食べられるらしい。
実家が遠いとか、長期休暇でも家に帰るのが難しい学生達にとっては、ガーデンからのささやかな贈り物と言う訳だ。

そう、ケーキ。
まだまだ甘いものの誘惑が恋しい子供達にとっては、ケーキも楽しみの一つだ。
スコールにとって、それは元々、孤児院にいた頃からの習慣で、クリスマスには決まってママ先生ことイデア・クレイマーがケーキを手作りしていた。
市販のケーキよりもシンプルな作りをしたそれが、実は店売りのものよりも美味しいのだと知っているのは、それを食べたことがある子供達だけの思い出だ。
ティーダはママ先生のクリスマスケーキを食べた事はないが、レオンの下で一緒に暮らすようになってから、折々に彼女が兄弟一家の様子を見に来てくれるお陰で、彼女の手作り菓子にすっかり舌が肥えている。
ママ先生のお菓子作りの腕には定評があって、子供達にとってそれを食べる機会は、幾らあっても足りない位に楽しみなものだった。

其処で、スコールは思い立ったのだ。
今年のクリスマスには、ママ先生に教えて貰って、自分たちでケーキを用意しよう、と。

孤児院がその役割をバラムガーデンへと移すまで、ママ先生は毎年、ケーキを作っていた。
時には十人前後にもなる子供達を満足させ、且つ好き嫌いが激しかったり、時にはアレルギーを持っている場合もある子供達に平等に食べさせてやるには、当時は手作りしてやるのが一番だったのだ。
レオンはその手伝いをしていたこともあるお陰か、菓子作りにも多少なりと知識がある。
とは言え、バラムガーデンを開き、レオンと妹弟が其処から巣立ってからは、流石に手作り菓子に精を出す暇はなくなってしまった。
バラムの街にケーキ屋もあるし、兄弟三人───今では四人───がケーキを食べるのに、ホール一つはやはり大きい。
よく食べるティーダが平らげてくれる事もあるが、ケーキのみで腹を膨らませるのは、やはり如何なものかと言うのが、保護者的立場の考えである。
時間と手間の問題と、勿体無いと言う気持ちも重なって、今では一人一ピースのケーキを買うのが無難となっていた。
それは自然なことであるし、兄がアルバイトの帰りにわざわざ足を延ばし、四人分のケーキを買って来てくれるのも嬉しい。
一人一つ、四種類のうちから、どれにしようかなと迷いながら選ぶのも、楽しいものであった。

ケーキは、クリスマスには欠かせないものだ。
そう言うものだと、スコールは積み重ねた経験から思っている。
そして最近のスコールとティーダは、兄姉が毎年のように色々な準備をしてくれる年中行事と言うものに、自分たちも“準備をする側”として参加する楽しさを見出していた。
其処で、以前バレンタインの時にも頼ったママ先生にお願いして、自分たちでクリスマスケーキを作りたい、と思ったのだ。

その話を、冬休みに入る前、学園長室で彼女に打ち明けた。
「お願いします!」と二人揃ってぺこりと頭を下げる子供達に、イデアは「良いですよ」と笑って言ってくれた。
それからは作るもののレシピを決めて、クリスマスの当日に作りましょう、と言うママ先生に、スコール達はやる気いっぱいで手を叩きあったのだった。

────それから一週間が過ぎ、約束通りのクリスマス当日、バラムの街の海沿いにある兄弟の自宅にママ先生はやって来た。
弟達がケーキを作るんだと聞いていたエルオーネは、玄関を開けて、第二の育ての母を屋内へと招く。


「いらっしゃい、ママ先生。スコール達、丁度今、準備してる所だよ」
「お邪魔します。ふふ、やる気があって何よりね」


イデアは外行きのコートを脱ぐと、持っていた荷物の中から、エプロンを取り出した。
黒を基調にしたエプロンを早速締める彼女の下へ、二階からぱたぱたと足音が二つ下りて来る。


「お姉ちゃん、準備できたよ。あっ、ママ先生!」
「ママ先生ー!」


子供用のエプロンを身に着けたスコールとティーダは、イデアの姿を見付けると、ぱあっと喜び一杯の表情を見せた。
イデアは抱き着いて来るティーダを受け止め、じゃれる彼の頭を撫でながら、姉にエプロンの結び目を確かめて貰っているスコールを見る。


「準備万端ね、スコール、ティーダ」
「うん!」
「ケーキ作るからね!」
「じゃあ、早速キッチンにお邪魔しましょう」


イデアに促されて、スコールとティーダはこっちこっちとキッチンに駆けていく。

キッチンには、小麦粉、バター、砂糖、ベーキングパウダー、卵、牛乳と、今日のレシピに必要なものがしっかりと揃えられていた。
器材もボウルが複数に、泡だて器、計量カップ、計り、そして紙製の型が並べてある。
デコレーションに必要なフルーツや生クリームは、冷蔵庫の中に入ってるよ、とエルオーネが言った。

バレンタインの時にもやったことだし、スコールもティーダも、日々兄姉のお手伝いをしている。
それはきちんと彼等の身についていて、材料を量るのも、レシピの順に入れては混ぜてと言う手順も、随分と慣れたものだった。
イデアは子供達の成長を感じられるそれが嬉しくて、後ろで少し心配そうにそわそわと見守るエルオーネを見遣り、にこりと笑って見せる。
大丈夫よ、と言葉なく告げる育ての母の表情に、姉は眉尻を下げつつホッとした表情を浮かべ、


「スコール、ティーダ。私、洗濯物を畳んで来るから、ケーキ作り、頑張ってね」
「うん!」
「任せて!」
「ママ先生を困らせちゃ駄目よ」
「はーい!」


ケーキ作りへの情熱か、返事をする二人の声は弾んでいた。

エルオーネが風呂場に干している洗濯物を片付けに行って、キッチンにはイデアとスコールとティーダの三人。
剤長を全て入れた生地のもとを、二人の子供は交代しながら混ぜている。
それも十分に終わると、ティーダがオーブンレンジの余熱をセットし、スコールがボウルを持って、生地を型へと流し込んだ。
余熱が終わったレンジに、生地を整えた型を置き、二人で一緒にスイッチを押す。
ぶぅん、と動き始めたオーブンの庫内を、二人はまじまじと見つめていたが、イデアは効率の為にと二人を呼んだ。


「スコール、ティーダ。スポンジケーキが焼ける間に、フルーツと生クリームの準備をしましょう」
「フルーツ!」
「生クリーム!」


ぱっと明るい顔で振り返る二人。

駆け足で冷蔵庫に向かう二人がその蓋を開けると、まだ背の伸び切らない二人でも届く場所に、フルーツの缶詰と生クリームのパックが置いてあった。
まずはフルーツを取り出し、缶切りを使って封を開け、新しいボウルに中身を出す。
蜜柑、黄桃、パイナップル、種を抜いたさくらんぼ。
これだけあればケーキのデコレーションには十分だが、しかし、クリスマスのケーキと言えばやはり───とイデアが思っていると、


「あっ、いちご。野菜室に入れてるって言ってた」
「あら。じゃあ、それも使いましょうね」


スコールが思い出してくれたお陰で、忘れてはいけないものも見付かった。
ティーダが野菜室から出して来たいちごのパックは、小粒だが色艶が良く、今日作るケーキのサイズにも丁度良いだろう。

いちごを丁寧に洗い、切り分け、缶詰のシロップ漬けになっていたフルーツは水切りする。
カットされたフルーツの余分な水分を取る為、一つ一つをペーパータオルに並べていく。
その傍ら、イデアは今日と言う日を楽しみにしていたであろう子供達に、毎年の定番になりつつある質問を投げかけてみた。


「今年は二人に、サンタクロースさんは来たのかしら」
「サンタさん!来たよ、ねっ」
「ね!」


明るく嬉しそうに言ったティーダに、スコールも丸い頬を赤く燈らせて頷く。


「何を貰ったの?」
「あのね、オレね、ブリッツボールの本!選手がいっぱい載ってるやつ」
「僕はね、新しい鞄貰ったんだよ。沢山ポケットがついてるから、沢山入れられるの」
「色んな選手の色んなことが書いてあるんだ。あのね、父さんも載ってるんだ!」
「前のより大きいからね、教科書とか、お道具箱とか、全部入るよ。それでお弁当も入れられるんだ」


ティーダはブリッツボールの選手名鑑、スコールはこれまで使っているものより、一回り大きな鞄。
その特徴、持ってみて嬉しかった所を口々に説明する二人は、きらきらと眩しい笑顔だ。
これだけ喜んでくれるなら、兄も姉も、今年は帰られそうにないと言うティーダの父も、、きっと嬉しいことだろう。

オーブンレンジが焼き上がりの音を鳴らして、イデアはスポンジケーキの生地を取り出した。
潰れないように軽くガスを抜いて、粗熱が取れるまで冷ましておく。
その間に、今度は生クリームの準備をする。

氷水の張ったボウルの上に、一回り小さなボウルへ入れた生クリームをセットする。
泡立て器で一所懸命に混ぜる二人を見守っていると、


「あとね、あのね。お兄ちゃんとお姉ちゃんにも、サンタさん来たんだよ」
「それは嬉しいことね」
「うん」


スコールの言葉に、イデアがにこりと微笑むと、無邪気な子供はにっこりと笑う。
その隣で、混ざって行く生クリームを見つめていたティーダが、得意げな顔をして言った。


「でもね、ママ先生。レオンとエル姉のサンタさんは、オレ達なんだよ」
「あら。そうだったの」


秘密を自慢そうに明かしてくれるティーダに、スコールもつられたように「えへへ」と笑う。
この秘密は知ってしまって良かったのだろうか、と判っていつつも、イデアは苦笑する。
打ち明けてくれたのは子供達の方なので、きっと自分が知る分には大丈夫だと思われたのだろう。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんは、もう大人だから、サンタさんは来てくれないんだって」
「でも、レオンもエル姉も、いつも一杯頑張ってるじゃん」
「だから二人にはね、僕たちがプレゼントを用意してあげて。サンタさんには、僕たちのプレゼントを持ってきて貰った時に、お兄ちゃんたちにこのプレゼントを渡して下さいって手紙を書いておいたの」


言いながら二人は、リビングの向こうで洗濯物を畳んでいる筈の姉を気にしてか、声を潜めて「内緒だよ」と言った。
イデアは優しい子供達の行いに、自然と頬を緩めながら、二人の頭を優しく撫でる。


「頑張ったのね。サンタさんは、レオンとエルの所にプレゼントを持って行ってくれた?」
「うん。起きたらね、二人の枕元に置いてあったんだって」
「二人のプレゼントは何だったの?」
「えっとねー。エル姉にはね、ブローチを作ったんだ。レオンにはブレスレット!」
「僕はね、お姉ちゃんに指輪を作ってあげたの。お兄ちゃんは、首飾り!」


どうやら、小さなサンタクロースは、手作りのプレゼントを兄姉に贈ったらしい。
そう言えば、とイデアが今日のエルオーネの様相をよくよく思い出すと、彼女の左手の指と胸元には、きらきらと綺麗なビーズが光っていた。
彼女の為に一所懸命にそれを作ったサンタクロースに、つけてつけて、とおねだりされたのだろう。
今はアルバイトに行っているレオンも、今日は首飾りとブレスレットを身に着けて行ったに違いない。

生クリームは中々固まらなかったが、仕上げにイデアが泡立て器を握ると、あっという間に搾れる固さまで変化した。
その様子を目の前で見ていた子供達は、おおお、とまるで魔法を見るように目を輝かせる。
粗熱が取れたスポンジを横から二枚に切って、生クリームとカットフルーツでサンドし、更に上にもデコレーションを施す。
盛るのが大好きな子供達の自由な発想で、いちごはふんだんに飾られて、雪の中の小さないちご畑が出来上がった。
これはカットするのが大変そう、とイデアはこっそりと思ったが、潰さないようになんとかするしかないだろう。

子供達の奮闘が終わった後は、ケーキは崩れないようにと冷蔵庫に仕舞われた。
入れ替わって今度はエルオーネがキッチンに立ち、夕飯の準備に取り掛かる。
今日はいつもより豪勢にしたいと言うので、イデアもそれを手伝うことにした。
弟たちは、冬休みに入って渡された課題に取り組みながら、キッチンから漂う美味しそうな匂いと、冷蔵庫で出番を待つケーキに思いを馳せる。
イデアに上手ねと褒められたクリスマスケーキを兄が見たら、どんなに驚いてくれることだろう。
今朝、小さなサンタクロースが来たことを、少し照れ臭そうに喜んでいた兄の顔を思い出しては、スコールとティーダの胸は高鳴っていた。



短い夕方の時間が過ぎ、レオンが家に帰って来て、イデアも交えての賑やかな夕食。
そしてお待ちかねの手作りケーキが登場し、思っていた以上にしっかりとした出来栄えに驚く兄の胸と腕には、イデアが思った通り、ビーズのアクセサリーがきらりと光っていたのだった。



クリスマスと言うことで、ネタ粒では久しぶりの絆シリーズで。
多分そろそろ10歳くらいなので、日々のお手伝いもすっかり身についてる弟たちです。
レオンとエルが頑張ってるお陰で、まだまだサンタクロースを信じています。
その傍ら、お返しがしたいとか、自分たちも楽しみに待つだけじゃなくて、色々準備をしてみたいと言う気持ちも強くなっているので、頼れる人にお願いしながら色んな事に挑戦しているようです。
そうして本人達には露知らず、兄姉弟みんなでプレゼント交換をしたのでした。

レオンはそろそろ卒業が視野に入る年齢なので、この次の年には、SEEDになっている頃だなぁ。
家族と過ごした毎年のクリスマスを始めとした行事ごとは、レオンやエルオーネにとって、弟達の成長を感じられる日だったのだと思います。

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