[クラスコ]放課後は俺のもの
着地点を見ないで見切り発車で書いた現代クラスコ。
一日の就学時間を終えて、帰宅しようと校門に向かったスコールは、その五メートル手前で足を止めた。
不意に立ち止まったスコールを、数歩先に進んだティーダとヴァンが振り返る。
どうした、と問うヴァンに、スコールは答えなかった。
進む先、一点のみを凝視して固まったスコールに、ティーダとヴァンは首を傾げ、前へ向き直る。
三対の瞳が捉えたのは、校門横に佇む金色だった。
空から落ちる太陽の光を受けて煌めく金糸は、まるで鶏冠のように逆立っている。
それを見たヴァンが「ヒヨコみたいだ」と言った時、その持ち主は怒鳴りこそしなかったものの、一日不機嫌であった。
ヴァンがそれを知る由はないが、不機嫌に当てられたスコールにとっては、溜まったものではなかった。
金色の持主の名は、クラウドと言う。
スコールとは幼少時から近所付き合いが深く、スコールが中学生になるまでは兄貴分を自称していた。
現在は社会人となり、運送業者で働く傍ら、弟のように思っていたスコールに、いつしか抱いていた恋心を告白し、晴れて恋人となった仲である。
「クラウド、また来てるんスね」
「よく来るなー。暇なのかな。師走なのに」
ティーダとヴァンが呟くと、その横をスコールが早足で通り過ぎた。
つかつかつかつかと近付いて来るスコールに気付いて、クラウドが顔を挙げる。
ジャケットのポケットに突っ込んでいた右手を挙げ、ひら、と手を振る。
柔らかな虹彩を宿した瞳と、小さな口が笑みの形を作っていたが、スコールはそれを見ていなかった。
「遅かったな、スコール。少し心配したぞ」
「あんた、なんでまた此処にいる!?」
労いの言葉をかけるクラウドを無視して、スコールは小声で叫んだ。
それを受けたクラウドは、きょとんとした貌をして、何を言っているんだ、と首を傾げ、
「お前の迎えに来ただけだが」
「止めろって言っただろう!」
さも不思議そうな顔をして返答をしたクラウドに、スコールは顔を顰めて言った。
「もう子供じゃないんだ。あんたの迎えなんかなくても、一人で帰れる」
幼い頃、引っ込み思案で泣き虫だったスコールは、何処に行くにもクラウドがいなければ駄目だった。
一人でお使いなんて出来た事もなく、常にクラウドの傍にいて、「くらうどお兄ちゃん」と呼んで懐いていた。
クラウドもどちらかと言えば人見知りの気があったのだが、スコールの前では兄らしくなろうと振る舞い、少しずつ人見知りも克服した。
だが、スコールの引っ込み思案は長い間続き、小学校の六年間など、クラウドが毎日登下校に付き添わなければならなかった。
しかし、中学生になった頃、スコールは一念発起して自分を変えた。
一人で学校に通えるようになり、泣き虫も形を潜め、新しい友達も出来た。
苦手だった体育の授業でも好成績を残し、高校生になった今では、クラス委員に選出される程の優秀な生徒と言われている。
もう、クラウドがいなければ何も出来なかった小さな子供ではないのだ。
────だと言うのに、クラウドは未だに、暇さえあればスコールの登下校の送り迎えをしに来る。
それがスコールには、自分が子供扱いされているように思えて、酷く腹立たしかった。
睨むスコールの視線と、噛み付くような表情で告げられた言葉を聞いて、クラウドは首を傾げる。
うーん、と考えるように唸って、クラウドは鶏冠頭をがしがしと掻いた。
「別に、子供扱いしているつもりはないぞ?迎えに来るのは、単に俺がお前に逢いたいからだ」
「……っ!」
クラウドの言葉に、スコールの頬に朱色が上る。
言い返す言葉を探すように、はくはくと口を開閉させるスコール。
クラウドは其処から音が出てくるのを待たずに、スコールの手を握って、ティーダとヴァンを見る。
「そう言う訳だから、悪いな」
「了解っス」
「じゃーな、スコール」
何がどういう訳で、何が了解で、何がじゃあななんだ。
スコールの胸中の疑問は、何一つ音にされる事なく、引っ張る手に掻き消された。
また明日なー、と言う友人達の暢気な声が、無性に腹立たしい。
颯爽とした足取りの男の手は、スコールの手をしっかりと握り、どんなに力を込めても振り払えない。
くそ、とスコールが口の中で苦味を潰していた事を、目の前の男は知っているだろうか。
知っていたとしても、きっと彼は繋いだ手を離そうとはするまい。
それが判り切っている事が、またスコールには腹立たしい。
せめて、これ以上同じ轍は踏むまいと心に決めて、スコールは鶏冠頭を睨んで言った。
「あんた、もう学校に来るな。明日から絶対に来るな」
「何故だ?」
念を押して言うスコールに、クラウドは至極不思議そうに問い返した。
「昨日も言った。あんたの所為で、周りで妙な噂が立ってるんだ」
「妙な噂って?」
「……あんた、いつもでかいバイクで迎えに来るだろう。その所為で、俺が暴走族だか何だかと付き合いがあるんじゃないかって話になって、職員会議になったって」
クラウドはいつも、愛用の大型バイクに乗って迎えに来る。
バイク通学禁止の学校にあって、あの大型バイクは目立ち過ぎる。
最近はスコールに注意されて、最寄の駐車場に停めて来るようになったが、それまでは校門の真横に乗り付けていた。
あのバイクを見た学校の教員達は、優等生で知られているスコールが、良からぬ事に巻き込まれているのではないかと戦々恐々としているらしい────と言うのは、職員会議前に呼び出しを食らったティーダが偶々耳にした話だが、強ち嘘ではあるまい。
人目を気にするスコールにとって、自分を中心に立つ噂は、早急に消えて貰いたい。
それなのに、クラウドがこうして迎えに来ていては、噂は尾鰭背鰭と共に広まる一方だ。
ついでに、クラウドの方は、自分達が周りからどう見られようと気にしていないらしく、
「良いじゃないか。言いたい奴には好きに言わせて置け」
「あんたはそれで良くても、俺は困るんだ。変な噂の所為で、教師が変な目で見て来る」
「そうか。じゃあ、尚更、今のままで良いな」
「……あんた、俺の言ってる言葉の意味、判ってるのか?」
何故そんな結論に行き着くんだ、と睨むスコール。
クラウドは、そんなスコールの手をぐっと強く引っ張った。
蹈鞴を踏んだスコールと、立ち止まって振り返ったクラウドの距離が近付く。
「良いから、送り迎え位させてくれ。お前と二人きりで話せる時間は、これ位しかないんだから」
家では、良くも悪くも過保護な父と、弟の恋路を心配して止まない義理の姉。
学校にいる時は、その時間は学友たちと過ごす者で、部外者のクラウドは其処に加わる事は出来ない。
だから、学校でもない、家でもない、登下校の時間だけでも、恋人を独り占めしていたい。
虚を突かれたように頬を赤らめ、蒼灰色の瞳を瞬かせるスコールを見て、クラウドは小さく笑う。
くしゃりと濃茶色の髪を撫でて、クラウドはまた歩き出した。
繋いだ手は、もう振り払おうと暴れる事はなかった。
なんか大人風吹かせたクラウドと、青臭いスコールが浮かんだので。
クラウド、噂に便乗して周りを牽制してます。
一日の就学時間を終えて、帰宅しようと校門に向かったスコールは、その五メートル手前で足を止めた。
不意に立ち止まったスコールを、数歩先に進んだティーダとヴァンが振り返る。
どうした、と問うヴァンに、スコールは答えなかった。
進む先、一点のみを凝視して固まったスコールに、ティーダとヴァンは首を傾げ、前へ向き直る。
三対の瞳が捉えたのは、校門横に佇む金色だった。
空から落ちる太陽の光を受けて煌めく金糸は、まるで鶏冠のように逆立っている。
それを見たヴァンが「ヒヨコみたいだ」と言った時、その持ち主は怒鳴りこそしなかったものの、一日不機嫌であった。
ヴァンがそれを知る由はないが、不機嫌に当てられたスコールにとっては、溜まったものではなかった。
金色の持主の名は、クラウドと言う。
スコールとは幼少時から近所付き合いが深く、スコールが中学生になるまでは兄貴分を自称していた。
現在は社会人となり、運送業者で働く傍ら、弟のように思っていたスコールに、いつしか抱いていた恋心を告白し、晴れて恋人となった仲である。
「クラウド、また来てるんスね」
「よく来るなー。暇なのかな。師走なのに」
ティーダとヴァンが呟くと、その横をスコールが早足で通り過ぎた。
つかつかつかつかと近付いて来るスコールに気付いて、クラウドが顔を挙げる。
ジャケットのポケットに突っ込んでいた右手を挙げ、ひら、と手を振る。
柔らかな虹彩を宿した瞳と、小さな口が笑みの形を作っていたが、スコールはそれを見ていなかった。
「遅かったな、スコール。少し心配したぞ」
「あんた、なんでまた此処にいる!?」
労いの言葉をかけるクラウドを無視して、スコールは小声で叫んだ。
それを受けたクラウドは、きょとんとした貌をして、何を言っているんだ、と首を傾げ、
「お前の迎えに来ただけだが」
「止めろって言っただろう!」
さも不思議そうな顔をして返答をしたクラウドに、スコールは顔を顰めて言った。
「もう子供じゃないんだ。あんたの迎えなんかなくても、一人で帰れる」
幼い頃、引っ込み思案で泣き虫だったスコールは、何処に行くにもクラウドがいなければ駄目だった。
一人でお使いなんて出来た事もなく、常にクラウドの傍にいて、「くらうどお兄ちゃん」と呼んで懐いていた。
クラウドもどちらかと言えば人見知りの気があったのだが、スコールの前では兄らしくなろうと振る舞い、少しずつ人見知りも克服した。
だが、スコールの引っ込み思案は長い間続き、小学校の六年間など、クラウドが毎日登下校に付き添わなければならなかった。
しかし、中学生になった頃、スコールは一念発起して自分を変えた。
一人で学校に通えるようになり、泣き虫も形を潜め、新しい友達も出来た。
苦手だった体育の授業でも好成績を残し、高校生になった今では、クラス委員に選出される程の優秀な生徒と言われている。
もう、クラウドがいなければ何も出来なかった小さな子供ではないのだ。
────だと言うのに、クラウドは未だに、暇さえあればスコールの登下校の送り迎えをしに来る。
それがスコールには、自分が子供扱いされているように思えて、酷く腹立たしかった。
睨むスコールの視線と、噛み付くような表情で告げられた言葉を聞いて、クラウドは首を傾げる。
うーん、と考えるように唸って、クラウドは鶏冠頭をがしがしと掻いた。
「別に、子供扱いしているつもりはないぞ?迎えに来るのは、単に俺がお前に逢いたいからだ」
「……っ!」
クラウドの言葉に、スコールの頬に朱色が上る。
言い返す言葉を探すように、はくはくと口を開閉させるスコール。
クラウドは其処から音が出てくるのを待たずに、スコールの手を握って、ティーダとヴァンを見る。
「そう言う訳だから、悪いな」
「了解っス」
「じゃーな、スコール」
何がどういう訳で、何が了解で、何がじゃあななんだ。
スコールの胸中の疑問は、何一つ音にされる事なく、引っ張る手に掻き消された。
また明日なー、と言う友人達の暢気な声が、無性に腹立たしい。
颯爽とした足取りの男の手は、スコールの手をしっかりと握り、どんなに力を込めても振り払えない。
くそ、とスコールが口の中で苦味を潰していた事を、目の前の男は知っているだろうか。
知っていたとしても、きっと彼は繋いだ手を離そうとはするまい。
それが判り切っている事が、またスコールには腹立たしい。
せめて、これ以上同じ轍は踏むまいと心に決めて、スコールは鶏冠頭を睨んで言った。
「あんた、もう学校に来るな。明日から絶対に来るな」
「何故だ?」
念を押して言うスコールに、クラウドは至極不思議そうに問い返した。
「昨日も言った。あんたの所為で、周りで妙な噂が立ってるんだ」
「妙な噂って?」
「……あんた、いつもでかいバイクで迎えに来るだろう。その所為で、俺が暴走族だか何だかと付き合いがあるんじゃないかって話になって、職員会議になったって」
クラウドはいつも、愛用の大型バイクに乗って迎えに来る。
バイク通学禁止の学校にあって、あの大型バイクは目立ち過ぎる。
最近はスコールに注意されて、最寄の駐車場に停めて来るようになったが、それまでは校門の真横に乗り付けていた。
あのバイクを見た学校の教員達は、優等生で知られているスコールが、良からぬ事に巻き込まれているのではないかと戦々恐々としているらしい────と言うのは、職員会議前に呼び出しを食らったティーダが偶々耳にした話だが、強ち嘘ではあるまい。
人目を気にするスコールにとって、自分を中心に立つ噂は、早急に消えて貰いたい。
それなのに、クラウドがこうして迎えに来ていては、噂は尾鰭背鰭と共に広まる一方だ。
ついでに、クラウドの方は、自分達が周りからどう見られようと気にしていないらしく、
「良いじゃないか。言いたい奴には好きに言わせて置け」
「あんたはそれで良くても、俺は困るんだ。変な噂の所為で、教師が変な目で見て来る」
「そうか。じゃあ、尚更、今のままで良いな」
「……あんた、俺の言ってる言葉の意味、判ってるのか?」
何故そんな結論に行き着くんだ、と睨むスコール。
クラウドは、そんなスコールの手をぐっと強く引っ張った。
蹈鞴を踏んだスコールと、立ち止まって振り返ったクラウドの距離が近付く。
「良いから、送り迎え位させてくれ。お前と二人きりで話せる時間は、これ位しかないんだから」
家では、良くも悪くも過保護な父と、弟の恋路を心配して止まない義理の姉。
学校にいる時は、その時間は学友たちと過ごす者で、部外者のクラウドは其処に加わる事は出来ない。
だから、学校でもない、家でもない、登下校の時間だけでも、恋人を独り占めしていたい。
虚を突かれたように頬を赤らめ、蒼灰色の瞳を瞬かせるスコールを見て、クラウドは小さく笑う。
くしゃりと濃茶色の髪を撫でて、クラウドはまた歩き出した。
繋いだ手は、もう振り払おうと暴れる事はなかった。
なんか大人風吹かせたクラウドと、青臭いスコールが浮かんだので。
クラウド、噂に便乗して周りを牽制してます。