[絆]受け止められるものには限りがある
任務を終えて報告書を提出しようとミッドガル社に戻ってきたレオンを迎えたのは、山積みされた沢山のプレゼントだった。
「……なんだ、これは……」
帰社するなり放送で呼び出しをかけられて、事務課に書類を提出した後、赴いた会議フロアの一室。
大人数でのミーティングの際に使用される大会議室に入ると、其処はファンシーな箱で埋められていた。
部屋の中には、大量の箱の他、仕分けに追われているスタッフが数名。
会社に送られる荷物が厳重なセキュリティにかけられるのは当然の事だが、暇を持て余していたSeeDも駆り出されており、宛先や差出人の確認は勿論、金属チェックにX線チェック、盗聴探知機なども持ち込まれ、かなり大掛かりな作業になっている。
そうしてチェックされている荷物は、どれもこれも、レオンに寄せられたプレゼントなのだと言う。
「さすが売れっ子SeeDだな。モテモテじゃん」
「………」
楽しそうにバシバシと背中を叩いて来るザックスに、レオンは額の傷に手を当てて溜息を吐く。
「これを俺にどうしろって言うんだ…」
「持って帰ればーって言いたいけど、まあ流石に量が多すぎるよなあ」
暢気に笑ってそんな事を言いながら、ザックスも仕分け作業に参加する。
そのついでに、伝票に記載された内容を読んで、おお、と声を上げた。
「すげーぞ、レオン。デリングシティで有名な一流シェフの店から、焼き菓子の詰め合わせ!これ一つ1000ギルする高い所だぞ」
「……そうか」
ラッピングに記載されたロゴマークを見せるザックスだが、レオンの反応は冷ややかなものである。
そんなレオンに、判ってねーなぁ、などとザックスが唇を尖らせるが、レオンにしてみればブランド品など大した意味を持たないのだ。
ロゴマークに記載されている社名から、先日、其処の社長令嬢の警護任務に当たった事を思い出した。
恐らくその礼で送られて来たのだろうが、レオンにとってはあれは単なる仕事の一つで、こうして謝礼を送られるような謂れはないと思う。
任務に当たっていたのはレオン一人ではなかったし、ミッドガル社宛に送られてくるなら判るのだが、個人当てに送られてくるものは、レオンにとって手に余る代物であった。
それに───レオンは元来、甘いものはあまり得意ではない。
トリュフケーキやマドレーヌなどを渡されても、送って来てくれた人には申し訳ないが、レオンは殆ど手を付けなかった。
だからこういう時、送られてきた物を食べるのは、レオンのパートナーである青年だった。
「レオン、レオン」
「……いいから、好きなもの持って行け」
つんつんと後ろからジャケットを引っ張るクラウドに、レオンは振り返らずに言った。
やった、と小さな声が聞こえて、金色のチョコボ頭がザックスの下に駆けて行く。
「ザックス、俺それ食べたい」
「おお、いいぜ。もうチェック終わったからな」
「ザックスも食うか?」
「貰う貰う。最近疲れてるみたいでさ、妙に甘いもの食べたくなるんだよ」
言いながら、ザックスは包装紙を取り去って箱を開けた。
念の為にと待機していたSeeDの一人にそれを渡し、毒物チェックを済ませる。
問題なしと判断が出て、早速クラウドがトリュフケーキを口へと放る。
クラウドの表情は常のものとそう変化を見せなかったが、心なしか碧眼が嬉しそうに輝いて見える。
ザックスも一つ失敬し、口の中に放り込んで、もごもごと咀嚼しながらチェックする手を再開させた。
───いつまでも此処で棒立ちしている訳には行くまい。
レオンは思考を切り替えて、自身もプレゼントの仕分け作業に加わる事にした。
チェックをしていると、手紙や菓子やブランド品装飾類の他に、妙なものが混じっているのを見付ける事がある。
それは殆どがプレゼントとは程遠い、嫌がらせや脅迫紛いものもであるのだが、時折それにすらカテゴリされないものもあった。
X線チェックを行っていた科学部スタッフに呼ばれて、レオンは其方に向かった。
モニター画面に映し出されたものを見て、眉根を寄せる。
暗がりのモニターの中に、プレゼントと思しき菓子のシルエットが映っているのだが、その中の一つに奇妙な白い影がある。
「なんだ…?」
「開けてみましょうか」
「俺が開ける。爆発物ではないんだよな?」
スタッフから箱を受け取って蓋を浮かせると、綺麗な形に飾られたチョコレートが並んでいる。
その中から真ん中にあったチョコレートを取って、科学部スタッフに渡した。
チョコレートの中に特殊な液体を流し込み、それが固まるのを待って、チョコレートを切り刻む。
刻んだチョコレートの一片───真ん中に白いモノが入っているそれを、スタッフが電子顕微鏡にかけて調べると、
「……人の爪のようですね」
「うわあ、怖ぇ」
スタッフの言葉に、いつの間にかレオンの隣に来ていたザックスが顔を引き攣らせた。
その傍らでクラウドが首を傾げる。
「爪って食えるのか」
「食べるなよ。試すなよ。腹壊すからな」
「判った。でも、じゃあなんで爪なんか入ってたんだ?」
「……俺が聞きたい」
何かの呪いか、まじないか、嫌がらせか、いずれにしても気分の良いものではない。
異物が混ざっていたのはこのチョコレート一つのようだったが、もう他のを食べる気にもならない。
「悪いが、適当に処分しておいてくれ……」
「って言われても、俺も食う気しねえぞ~」
「じゃあ俺」
「お前も駄目」
すーっと箱を受け取ろうと手を伸ばしたクラウドを、ザックスが襟を掴んで止める。
なんで、と言う顔で見上げてくるクラウドに、俺が嫌、とザックスは言った。
むーと拗ねた顔をするクラウドの髪をぐしゃぐしゃと撫でて宥めつつ、ザックスは頭痛を抱えるレオンに眉尻を下げて笑いかけた。
「そんな顔すんなって、レオン。あっちにコーヒークッキー届いてたぜ。それなら食えるよな?」
「まあ……」
「持って帰って、弟と一緒に食えよ。チェックももう俺達でやるからさ。疲れてんだろ」
任務を終えて、長時間の移動で帰って来たばかりなので、疲労が溜まっているのは確かだ。
移動中はずっと提出用の書類を書いていたので、食事も採っていない。
ぐ、と腹の奥が鳴るのを感じて、レオンはザックスの言葉に甘える事に決めた。
チェックの終えた山の中から、ザックスが行っていたコーヒークッキーの箱を探し出す。
ついでにガトースフレも二箱、大きなものを持って帰る事にする。
一つは隣家の少年へ、もう一つはトラビアガーデンに留学中の妹へ送るつもりだった。
会議室を出て、エレベーターへ向かう途中、
「うわっバカクラウド!そんなもん食うなよ!」
響き渡った同僚の声に、何があったのかは深く考えない事にした。
売れっ子SeeDは色々と大変です。
最後にクラウドが何食べたのかは考えてません(おい)。絆シリーズのクラウドは空気読まない子。保護者が大変。