[絆]息抜きだって必要です
[受け止められるものには限りがある]の続き
「うわあああ終わんねええー!!」
「煩い、ティーダ。近所迷惑だ」
リビングに響き渡ったティーダの悲鳴に、スコールは冷静とした反応。
そんな素っ気ない幼馴染に、スコール酷い!とティーダが言った。
リビングの窓辺のテーブルに陣取っている二人が向き合っているのは、明日が提出期限の数学の課題だった。
スコールとティーダのクラスの数学を受け持つ教師は、堅物人間で通っている。
期限までに課題を提出しなかった生徒の成績は容赦なく引かれて行き、温情裁定などしてくれた事がない。
その癖課題の量は他の教師とは群を抜く多さで、毎回大量のプリントを寄越してくる。
そんな事は高等部に進学した時からなので、今更嘆いても仕方のない事だ。
喚いている暇があったら頭と手を動かせ、と言うのがスコールの率直な意見である。
ティーダは情けない声を上げながら、プリントの重なったテーブルの上に突っ伏す。
「もう無理っス。頭ぐるぐる~……」
「半分は終わったんだろ。あと少しだ、頑張れ」
「頑張ってこれが限界なんスよ。もうやだ。スコール、答え写させて」
「断る。自分ばかり楽できると思うなよ」
スコールとて、大量のプリントを片付けるのが面倒に思わない訳ではない。
しかし真面目な性格をしているので、放置する訳にも行かない、と思うのだ。
だから、面倒でも厄介でも、本音はティーダと同じ気持ちが欠片でもあろうとも、きちんと済ませるつもりだ。
其処に来てティーダの「写させて!」と言うのは、正直ズルいと思う。
スコールは自分で考えて解いている問題を、彼は無条件にクリアしてしまうなんて、不平等だと思う。
うーうーと唸りながら、ティーダがテーブルの下で足をじたばたさせる。
テーブルがガタガタと音を立てて、スコールは眉根を寄せた。
「やめろ、ティーダ」
「じゃあ答え写させて」
「………」
「いてっ!なんで蹴るんスか!」
「お前が悪い」
テーブルの下で邪魔をする足を蹴飛ばせば、ティーダが直ぐに抗議して来た。
抗議したいのはこっちの方だ、とスコールは判り易く眉根を寄せてみせる。
テーブルが動かなくなったので、スコールは改めてプリントと向き合う。
先日習ったばかりの公式を頭の中で思い出して、数字を当て嵌めて書き出して行く。
それをティーダが覗き込んでいた。
「……ティーダ」
「いーじゃないっスか、一問くらい」
判んないんだもん、と頬を膨らませる幼馴染に、ティーダは溜息を吐いた。
甘やかしてはいけないのは判っている。
しかし、こうでもしないとティーダの課題が終わらないのも確かだった。
「終わったら教えてやるから、ちょっと待て」
その間に、出来る所だけをやって置くように言いつける。
丸ごと転写は腹立たしいので、多少面倒ではあったが、スコールは自分の労力を使う方を選んだ。
今日の夕飯は遅くなりそうだ───そんな事を考えながら、連なる数字を連結させる作業を続けていると、
「ただいま、スコール、ティーダ」
「レオン!」
「…お帰り」
数日振りに見た兄の顔に、スコールとティーダの顔が綻ぶ。
レオンは抱えていたガンブレードケースを床に下ろし、逆の手に持っていた紙袋をテーブルに置いた。
いつも最低限の荷物だけを持って仕事に向かうレオンは、帰ってくる時も最低限の物だけで帰ってくる。
スコール達が幼い頃、レオンがSeeDになったばかりの頃は、エスタやデリングシティ、イヴァリース大陸に行った時には何某か土産を買って帰る事もあったのだが、数年前からそういった事はめっきりなくなった。
ほぼ毎週、毎日のように海外に行き、弟達にとってもそれが当たり前のようになったからだ。
そんなレオンが珍しく、何かを持って帰って来た。
何かと思って目を丸くするスコールに代わり、ティーダが紙袋を覗き込む。
「なんスか、これ。食い物?」
「ああ」
「土産?」
「まあ、そうなるな」
出先からのものじゃないんだが、と断るレオンだが、ティーダはそんな事は気にしなかった。
早速紙袋から中身を取り出し、箱を開ける。
中に入っていたのは、小さなカップに入った卵色とチョコレート色のスフレだった。
「うまそー!」
「食べて良いぞ。それはお前の分だからな」
「やりっ!」
「もう一つはエルオーネに送る分だから、そっちは駄目だぞ」
「はーい。じゃ、こっちはスコール?」
ティーダは違う箱の一つを手に取って、また蓋を開ける。
「クッキー?」
「コーヒークッキーだ」
「……ドールの?」
「ああ」
スコールが思い当る節を一つ見つけて尋ねれば、レオンがその通りと頷いた。
いつであったか、レオンがドールでの任務中、先方からの差し入れで貰ったクッキーを持って帰った事があった。
コーヒー独特の香りと、ほんのりと苦みのあるそれを、スコールも殊の外気に入ったものである。
「俺、ジュース持って来るっス!」
「おい。まだ課題が途中だぞ」
「後で後で!」
言うなり椅子を立ってキッチンに駆けこむティーダに、スコールは呆れて溜息を吐いた。
レオンはそんな弟の隣に立って、テーブルに広げられた課題プリントを覗き込む。
「数学か。成程な、ティーダが逃げる訳だ」
「……あんなのだから、いつまで経っても終わらないんだ。明日提出しないといけないのに」
「お前は大丈夫なのか?」
「もう半分終わったし、難しくもないし……」
じゃあ心配ないか。
そう言って、くしゃりと大きな手がスコールの頭を撫でた。
しかし、スコールにとっては然程難しくない内容でも、ティーダにとっては違う。
数字の羅列を見るだけで眠くなる、と言っているティーダである。
彼もスコール同様になんとか半分までは終わらせたが、もう集中力は残っておらず、勉強への気力は皆無だ。
どうやってもう一度プリントに向い合せよう、と考えているスコールに、レオンがくすりと笑んだ。
「俺がティーダに教えよう。だからスコール、お前は自分の分に集中していろ」
「…でも疲れてるんだろう」
「お前が気にする程じゃない。ティーダに教える位、どうと言う事はないさ」
そう言って、レオンはティーダが座っていた椅子の隣に腰を下ろした。
疲れていない訳がない───スコールはそう思ったが、口にした所で、兄が引き下がる訳もない。
こうなったら自分が早く終わらせて、レオンと交代しよう、とスコールは決めた。
ジュースを持ってきた幼馴染の顔を見て、お前は暢気でいいな、とスコールは前触れもなく言ってやる。
なんスか、急に!と怒る声は無視して、土産のコーヒークッキーを口の中に放り込んだ。
学生だって大変なんです。
「うわあああ終わんねええー!!」
「煩い、ティーダ。近所迷惑だ」
リビングに響き渡ったティーダの悲鳴に、スコールは冷静とした反応。
そんな素っ気ない幼馴染に、スコール酷い!とティーダが言った。
リビングの窓辺のテーブルに陣取っている二人が向き合っているのは、明日が提出期限の数学の課題だった。
スコールとティーダのクラスの数学を受け持つ教師は、堅物人間で通っている。
期限までに課題を提出しなかった生徒の成績は容赦なく引かれて行き、温情裁定などしてくれた事がない。
その癖課題の量は他の教師とは群を抜く多さで、毎回大量のプリントを寄越してくる。
そんな事は高等部に進学した時からなので、今更嘆いても仕方のない事だ。
喚いている暇があったら頭と手を動かせ、と言うのがスコールの率直な意見である。
ティーダは情けない声を上げながら、プリントの重なったテーブルの上に突っ伏す。
「もう無理っス。頭ぐるぐる~……」
「半分は終わったんだろ。あと少しだ、頑張れ」
「頑張ってこれが限界なんスよ。もうやだ。スコール、答え写させて」
「断る。自分ばかり楽できると思うなよ」
スコールとて、大量のプリントを片付けるのが面倒に思わない訳ではない。
しかし真面目な性格をしているので、放置する訳にも行かない、と思うのだ。
だから、面倒でも厄介でも、本音はティーダと同じ気持ちが欠片でもあろうとも、きちんと済ませるつもりだ。
其処に来てティーダの「写させて!」と言うのは、正直ズルいと思う。
スコールは自分で考えて解いている問題を、彼は無条件にクリアしてしまうなんて、不平等だと思う。
うーうーと唸りながら、ティーダがテーブルの下で足をじたばたさせる。
テーブルがガタガタと音を立てて、スコールは眉根を寄せた。
「やめろ、ティーダ」
「じゃあ答え写させて」
「………」
「いてっ!なんで蹴るんスか!」
「お前が悪い」
テーブルの下で邪魔をする足を蹴飛ばせば、ティーダが直ぐに抗議して来た。
抗議したいのはこっちの方だ、とスコールは判り易く眉根を寄せてみせる。
テーブルが動かなくなったので、スコールは改めてプリントと向き合う。
先日習ったばかりの公式を頭の中で思い出して、数字を当て嵌めて書き出して行く。
それをティーダが覗き込んでいた。
「……ティーダ」
「いーじゃないっスか、一問くらい」
判んないんだもん、と頬を膨らませる幼馴染に、ティーダは溜息を吐いた。
甘やかしてはいけないのは判っている。
しかし、こうでもしないとティーダの課題が終わらないのも確かだった。
「終わったら教えてやるから、ちょっと待て」
その間に、出来る所だけをやって置くように言いつける。
丸ごと転写は腹立たしいので、多少面倒ではあったが、スコールは自分の労力を使う方を選んだ。
今日の夕飯は遅くなりそうだ───そんな事を考えながら、連なる数字を連結させる作業を続けていると、
「ただいま、スコール、ティーダ」
「レオン!」
「…お帰り」
数日振りに見た兄の顔に、スコールとティーダの顔が綻ぶ。
レオンは抱えていたガンブレードケースを床に下ろし、逆の手に持っていた紙袋をテーブルに置いた。
いつも最低限の荷物だけを持って仕事に向かうレオンは、帰ってくる時も最低限の物だけで帰ってくる。
スコール達が幼い頃、レオンがSeeDになったばかりの頃は、エスタやデリングシティ、イヴァリース大陸に行った時には何某か土産を買って帰る事もあったのだが、数年前からそういった事はめっきりなくなった。
ほぼ毎週、毎日のように海外に行き、弟達にとってもそれが当たり前のようになったからだ。
そんなレオンが珍しく、何かを持って帰って来た。
何かと思って目を丸くするスコールに代わり、ティーダが紙袋を覗き込む。
「なんスか、これ。食い物?」
「ああ」
「土産?」
「まあ、そうなるな」
出先からのものじゃないんだが、と断るレオンだが、ティーダはそんな事は気にしなかった。
早速紙袋から中身を取り出し、箱を開ける。
中に入っていたのは、小さなカップに入った卵色とチョコレート色のスフレだった。
「うまそー!」
「食べて良いぞ。それはお前の分だからな」
「やりっ!」
「もう一つはエルオーネに送る分だから、そっちは駄目だぞ」
「はーい。じゃ、こっちはスコール?」
ティーダは違う箱の一つを手に取って、また蓋を開ける。
「クッキー?」
「コーヒークッキーだ」
「……ドールの?」
「ああ」
スコールが思い当る節を一つ見つけて尋ねれば、レオンがその通りと頷いた。
いつであったか、レオンがドールでの任務中、先方からの差し入れで貰ったクッキーを持って帰った事があった。
コーヒー独特の香りと、ほんのりと苦みのあるそれを、スコールも殊の外気に入ったものである。
「俺、ジュース持って来るっス!」
「おい。まだ課題が途中だぞ」
「後で後で!」
言うなり椅子を立ってキッチンに駆けこむティーダに、スコールは呆れて溜息を吐いた。
レオンはそんな弟の隣に立って、テーブルに広げられた課題プリントを覗き込む。
「数学か。成程な、ティーダが逃げる訳だ」
「……あんなのだから、いつまで経っても終わらないんだ。明日提出しないといけないのに」
「お前は大丈夫なのか?」
「もう半分終わったし、難しくもないし……」
じゃあ心配ないか。
そう言って、くしゃりと大きな手がスコールの頭を撫でた。
しかし、スコールにとっては然程難しくない内容でも、ティーダにとっては違う。
数字の羅列を見るだけで眠くなる、と言っているティーダである。
彼もスコール同様になんとか半分までは終わらせたが、もう集中力は残っておらず、勉強への気力は皆無だ。
どうやってもう一度プリントに向い合せよう、と考えているスコールに、レオンがくすりと笑んだ。
「俺がティーダに教えよう。だからスコール、お前は自分の分に集中していろ」
「…でも疲れてるんだろう」
「お前が気にする程じゃない。ティーダに教える位、どうと言う事はないさ」
そう言って、レオンはティーダが座っていた椅子の隣に腰を下ろした。
疲れていない訳がない───スコールはそう思ったが、口にした所で、兄が引き下がる訳もない。
こうなったら自分が早く終わらせて、レオンと交代しよう、とスコールは決めた。
ジュースを持ってきた幼馴染の顔を見て、お前は暢気でいいな、とスコールは前触れもなく言ってやる。
なんスか、急に!と怒る声は無視して、土産のコーヒークッキーを口の中に放り込んだ。
学生だって大変なんです。