[クラスコ]精一杯の勇気
誕生日が近いから、とスコールは前置きをした。
顔が赤くなっていて、ここから先を聞くのは勿論、話題を出す事にさえ、きっと抵抗があったのだろう。
らしくもない事をしている、必要ないと言われたらどうしよう、そもそもこんな話を聞く事自体が迷惑なのかも知れない────そんな事を何度も考えていたのではないだろうか。
自分の誕生日と言うものに、クラウドは大して興味がない。
友人知人が誕生日だと聞けば、何かプレゼントでも、用意する時間がないならせめて言葉を、と思うが、それらが自分に向けられなかったからと言って、気にする性格でもなかった。
幼い頃はもっと普通に、御馳走やケーキ、母からのプレゼントにはしゃいでいたように思うが、流石にそんな無邪気な年齢は過ぎている。
誕生日だから仕事が休みになるとか、そんなプレゼントでもあれば嬉しいんだが、と思ってしまう辺りに、自分が大人になってしまった虚しさを感じた。
とは言え、愛しい恋人からに祝われるのは、嬉しい。
しかし、何が欲しいか、と聞かれてしまうと少々困った。
物欲は割とある方なので、欲しい物は挙げて行けば案外色々と出てくるとは思うのだが、それは誕生日だからと恋人に強請る程のものだろうか。
ゲームは完全に自分の趣味だから、自分の金で買いたいし、一緒に遊べるようなゲームならともかく、自分だけで楽しむようなものを、欲しいからという理由で恋人に頼む気にはなれなかった。
バイクのカスタマイズにかかる費用は馬鹿にならないが、それだって恋人に出して貰うのはどうかと思う。
第一、クラウドの恋人は、年下の学生なのだ。
家庭の事情で中々アルバイトも出来ないそうだから、金のかかるものは論外だ、とクラウドは思った。
週に二回、彼はクラウドの家に来て食事を作って行くので、其処に好きなものをちょっと多めに頼む、と言うのも出来るが、それは日々の生活の中で、割と甘やかして貰っている。
そう思うと、どうせなんだからもっと別の、と思うのだ。
しばし熟考していたクラウドに、恋人はそわそわと落ち着きなさそうにしていた。
返事に迷う時間が長い程、きっと彼を不安にさせてしまうのだろう。
さてどうしよう、と自分の気持ちと恋人の気遣いに挟まれつつ考えた末に、クラウドは思い切って言った。
「お前が欲しいな」
それは時間を指している事でもあったし、彼自身を指している事でもあった。
頬に触れて、上がる体温を感じさせてやれば、少し鈍感な所のある彼でも、流石に判ったらしい。
ぽかんとした後に真っ赤になるのを見て、クラウドは可愛い奴だな、と思った。
クラウドのその言葉は、半分本気で、半分冗談だ。
いや、もっと正確に言えば、七割から八割が本気で、残った分が冗談だった。
それは初心な所が抜けない、恥ずかしがり屋な恋人へ、ふざけるなと怒って逃げる事も出来るように、と言う気持ちからだ。
だが“誕生日なんだから”と言う甘えと欲がある事も否定はしない。
無理強いはしたくなかったから、恋人に選んで貰おう。
真っ赤な顔で怒ったら、冗談だと言って、その日一日のデートを予約させて貰おう────と思っていた所で、
「………わか、った……」
と、耳まで首まで赤くなって頷いた少年に、クラウドは驚きに上がりそうになる声を抑えつつ、にやける顔を片手で覆って隠したのだった。
誕生日の当日は、結局の所、彼の時間そのものも貰える事になった。
学生である彼は夏休みとあって休みになっているし、クラウドは仕事が入っていたのだが、ザックスが変わってくれた。
どうせ約束があるんだろ、と言って背中を叩く友人の察しの良さにはいつも感服する。
明後日の仕事には彼もいつも通りに出勤になっている筈だから、何か礼をしなくてはなるまい。
と言えば、そんなの要らねえよ、とザックスは言うのだろうけれど、これはクラウドの気持ちなのだ。
友人への感謝の形は明日にでも考えるとして、クラウドは誕生日を満喫した。
恋人はクラウドの行きたい所に行こう、と言ってくれたので、先ずはゲームセンターだ。
夏休みのゲームセンターは人が多くて煩いので、平時ならあまり寄り付かないのだが、学生の恋人と一緒に健全に遊べる所と思えばうってつけだろう。
先ずはクラウドがよく遊ぶビデオゲームをプレイし、次に恋人と一緒にカードゲームをして(こてんぱんにされたが、彼が楽しそうな顔をしていたので満足している)、プライズゲームをした。
UFOキャッチャーでシルバーアクセサリーが獲れたので、彼にあげると、あんたが獲ったものなのに、と遠慮されたが、そのアクセサリーに惹かれていたのをクラウドは知っている。
クラウドが、俺は獲れれば満足なんだ、と言って押し付けるように渡すと、恋人は少し視線を彷徨わせた後、じゃあ貰っとく……と言ってそれを鞄の中へ入れた。
序に浮かれた気分でプリクラも撮ってみた。
恋人は基本的に写真嫌いだが、今日はクラウドの誕生日だから、クラウドの希望を聞くと決めて来たらしい。
露骨にハートマークが散りばめられたバックスクリーンを選んだ時には、真っ赤になって怒ったが、結局譲ってくれたから、優しいなと思う。
ファーストフードで昼を食べ、午後は映画館に行った。
気になる作品がある訳でもなかったが、暑いばかりの外を歩き回るよりも、その方が良いと思ったのだ。
丁度良く上映五分前だった作品のチケットを買って、シアタールームに入ると、程無くして二人揃って寝てしまった。
そんなにゲームセンターではしゃいだだろうか。
クラウドが目が覚めた時には、物語はクライマックスシーンに入っていたのだが、前提の流れが全く判らないので、主人公が誰なのかも判らなかった。
恋人が目を覚ましたのはエンドロールも終わる頃で、彼は上映の二時間でしっかり休む事が出来たらしい。
お陰で作品の話なんて揃って何も判らず仕舞いであったが、休息時間が取れたと思えば結果オーライだ。
クラウドが目を覚ましてから、自分に寄り掛かって眠る恋人の寝顔を眺めていた事は、秘密にしよう。
夕暮れがビルの向こうへと沈んで行く頃に、帰路へ着いた。
その途中で近所のスーパーに立ち寄って、夕飯の材料を買う。
何が食べたい、と聞かれたので、シチューが食べたいな、と言うと恋人は手際よく材料を揃えて行った。
買い物袋を片手に歩く道の途中で、手を繋ぎたい、と言うと、恋人は夕日に負けない程に真っ赤になった。
少しの間だけで良いから、と言うと、目を逸らしたままで手を差し出してくれたので、握った。
それから彼は家に着くまで一言も口を利いてくれなかったのだが、少しの間だけと言う話で握った手は、最後まで離れる事はなかった。
彼が作ってくれるシチューはとても美味しい。
実家の母が作ってくれるシチューも美味しいが、それとはまた別の味で、クラウドの胃袋を捉えて離さない。
相変わらず多めに作って貰って、半分は冷蔵庫へ、もう半分は冷凍庫で長期保存に。
これで当分美味いシチューが楽しめる、と言うクラウドに、彼は夏だから気を付けろと釘を刺した。
食事が終わったら風呂だ。
一日の汗をしっかり流して、風呂上りに髪を乾かしながら、少し念入りに歯を磨く。
入れ替わりに風呂に入る恋人と擦れ違った時、彼はクラウドと目を合わせなかった。
少し強張った肩を見て、緊張させている事に気付いて少し可哀想な事をしたかな、と思ったものの、やはり募る期待は否めない。
そわそわとした気持ちで、彼の入浴が終わるのを待った。
予想していた通り、彼の入浴時間は長かった。
出た後の事を想像してしまって、出るに出られなかったのだろうと思う。
そんな恋人に、早く戻ってきて欲しいと思いつつ、急かすのもまた辛いだろうと、クラウドは待ち続けた。
そのまま長いようで短い時間が過ぎて行き、ぼんやりと眺めていた雑誌を閉じた時、
「……クラウド」
呼ぶ声に顔を上げると、寝室の戸口の所で、立ち尽くしている恋人───スコールがいた。
風呂上りのほんのりと火照った体に、大きめの真っ白なシャツの白が眩しい。
肩幅の合わないシャツはクラウドが貸したもので、スコールには少し身幅サイズが大きい───のだが、裾は少し足りないのが、こっそりと悔しい。
が、すらりと伸びる長い脚の、シャツの裾からちらちらと覗く太腿は刺激的だった。
黒のボクサーパンツは履いているので、局部が見える事はないが、それでも其処が“どう”なっているかは察してしまう位には膨らんでいる。
スコールは戸口に立ったまま、なんとも言えない表情で、視線を彷徨わせている。
なんとか此処まで戻ってきたは良いものの、あと数メートルが彼には辛いのだ。
うぅ、と唸る声が微かに漏れるのを聞きながら、クラウドは彼の名前を呼んだ。
「スコール」
「……」
急かしたつもりでもなかったが、スコールにはそう聞こえたかも知れない。
が、踏み出す一歩を作る理由付けにはなったようで、スコールはのろのろとした足取りでクラウドの下へ向かう。
ぎしり、とベッドの軋む音がして、スコールがベッドに乗った。
四つん這いで近付いて来るスコールは、ちらちらとクラウドのいる方を見てはいるものの、顔は見れていない。
それでもなんとか目の前まで来ると、シーツを握っていた手が解け、そっとクラウドの膝に触れる。
其処で体重を支えながら、スコールは体を伸ばして、クラウドの唇にキスをした。
「……ん……」
躊躇い勝ちなキスは、最初はほんの少し触れただけだった。
離れてから一拍置いて、スコールの薄く開いた瞳に碧眼が映る。
スコールの眉根が寄せられて、クラウドは言わんとしている事を感じ取り、大人しく瞼を下ろした。
「……ふ…ん……っ」
もう一度唇が重ねられ、今度はしっかりと触れ合う。
スコールの手がクラウドの肩へと移動して、体重を寄り掛からせるように重みが乗った。
クラウドもスコールの腰に腕を回し、膝の上へと座るように促す。
スコールは少し緊張したぎこちない動きで、クラウドの膝上へと腰を下ろした。
スコールの手がまたするりと滑って、クラウドの頬を包み込む。
口付ける角度が変わったのが判って、クラウドが薄く唇を開けると、熱を持った舌が入ってきた。
絡め取って撫でてやれば、ひくんっ、とスコールの肩が跳ねる。
「ん、ん…っは……」
「スコール」
「…は……んぅ……っ」
名を呼ぶ声に操られるように、スコールはまたクラウドにキスをした。
今度はクラウドの方から、スコールへと侵入する。
ビクンッ、とスコールの体が弾むが、彼は逃げる事はせず、顔を赤らめながらクラウドの首に腕を回す。
ちゅく、ちゅく、と言う音を立てながらスコールの咥内を堪能しつつ、クラウドは細い体を抱いてベッドへと倒れた。
スコールの体をベッドと自分の体で挟む形で縫い留めて、クラウドはスコールの唇を思う存分味わった。
息苦しさにスコールがいやいやと首を振ると、呼吸の時間を与えてから、また塞ぐ。
はふ、は…っ、と籠った呼吸が互いの中で混じり合うのを感じながら、クラウドはスコールのシャツの中へと手を入れる。
「っ……!」
シャツ一枚しか来ていないから、侵入は簡単だ。
するりするりと肌を撫でながら、シャツをたくし上げて行く。
「ん…っ、んぅ……っ」
やだ、と抗議するようにスコールの声が漏れる。
しかし、彼の体は大人しいもので、悪戯をするクラウドの体を止める事もしない。
それが言葉以上のスコールの答えだとクラウドは知っているし、そもそも、今日は“そう言う事”をするのも含めて、スコールは自分の時間をクラウドに渡してくれたのだ。
此処で止めるのは、あの時頷いてくれたスコールの精一杯の勇気を無駄にする事になる。
とは言え、強引に進めればスコールを怖がらせてしまう事も判っている。
クラウドはたっぷりと堪能した唇を離し、胸を撫でていた手も止めた。
スコールはくったりとベッドに沈み、はっ…はっ…と酸素を取り込みながら、ぼんやりとした瞳を彷徨わせ、
「……は……、クラ、ウ、ド……」
少しだけ意識を取り戻して、蒼の瞳が恋人を見る。
おずおずと伸ばされた白い手が、クラウドの頬を撫でて、濡れた唇に指が振れた。
「……もっと……」
その言葉を口にするだけで、きっとスコールには堪らない程に恥ずかしかったのだろう。
呟いてからスコールはまた赤くなって、目を逸らす。
クラウドはそんな恋人に笑みを零しながら、耳元にキスをした。
クラウド誕生日おめでとう!と言う事でいちゃいちゃ。
恥ずかしいけど頑張ってスコールの方から積極的に動いたりするんだと思います。