[クラレオ]気まぐれバースディ
特別に気に掛ける程の間柄ではない、と言ったら語弊になりそうだが、実際にそう言う間柄なのだ。
そもそもが誕生日等と言うものを意識するような性格でもないし、ユフィやエアリスが言い出さなければスルーしている事も多い。
況してや祝われる立場になる本人が不在である事も多いので、気合を入れて準備した所で、空振りなんて事もあるのだ。
そんな事に限られた時間を費やすのなら、パトロールをしていた方が良い、とレオンは思う。
セックスをしている事を恋人と呼ぶのなら、そうなのだろうとは思う。
お互いが何処で何をしているかも知らず、知らなければいけないとも思わない、それでも二人の関係を呼ぶのならば、“恋人同士”になるのだろう
そうでなければ“セックスフレンド”と言う事になるのだが、それはあちらが嫌がった。
世の中で言うような、甘い甘い砂糖菓子のような雰囲気などは求めないが、その呼び方は嫌だ、と彼が言ったので、一応、自分達の関係を指す言葉は“恋人”と言う事にしている。
それを思うと、相手の誕生日と言うのはやはり某か祝ってやるべきではないか、とも思うのだが、それとこれとは話が別なのだ。
だが、仲間達が祝おうとしている空気があるのなら、レオンはそれに合わせるようにしている。
彼も自身の誕生日に然したる興味はないが、祝って貰えるのなら嬉しい事だと受け止めるようになった。
それからは、自分の誕生日が近いと知ると、日付感覚を少し意識して過ごし、当日には故郷に足を運ぶようにしている────切っ掛けがないとすっかり忘れている事も多いが。
今年の彼────クラウドは、偶然にも三日前からレディアントガーデンに戻って来ていた。
特に要件があったと言う訳ではないのだが、何処かの世界で大規模な戦闘に巻き込まれ、休息を求めて帰ってきたらしい。
レオンは彼が帰ってきたら色々と任せたい仕事があったのだが、玄関で出迎えた時から寄り掛かって来るのを見て、仕事の事は諦めて、誕生日が終わるまではのんびりと休養させる事にした。
そのついでに、本人がいるのなら丁度良いと、誕生日に欲しいものはないかと尋ねてみると、
「お前が欲しい」
と言う、直球且つ即物的な返事が寄越された。
疲れているのにそう言う欲は元気なのか、と呆れたが、まあ良いか、と思う事にした。
クラウドの誕生日の当日、再建委員会の本部では、細やかなパーティが開かれた。
レオンとエアリスが作った料理を食べながら、ユフィとシドの手製のポータブルゲームがクラウドにプレゼントされた。
セキュリティシステムの構築で忙しいだろうに、よくゲームなんて作る暇なんかあったな、とクラウドは思ったが、プログラムの殆どは既存の物を流用しているのだと言う。
データ世界の中にいる仲間の手も借り、其処に存在しているありとあらゆるプログラムの中から、遊びに使えそうなものを送って貰い、シドがそれを組み立てた。
キャラクターデザイン等はユフィが行ったそうで、独特な味のあるテクスチャが3Dポリゴンを彩っている。
ゲーム自体は単純な作りのものが多く、壮大な物語を追うようなものはないが、暇な時間を潰すには丁度良いだろう。
食事の後は成人メンバーで少し酒を嗜み、シドが潰れた所でお開きにした。
レオンとエアリスが片付けをしている間に、クラウドがシドをベッドへ運ぶ。
ユフィも夜更かし気分で起きていたのだが、エアリスから寝るように促されて、自分の足で部屋へと帰った。
それから片付けを終えたエアリスに見送られ、レオンとクラウドは帰路へ着く。
街の中心部から離れ、未だ人の気配のない静かな道を歩きながら、レオンはクラウドに言った。
「もう疲れは取れたのか」
「ああ。良い休暇になった」
頷くクラウドに、それは良い事だ、とレオンは呟き、
「じゃあ、明日からはしっかり働いて貰うとするか」
「……面倒な事をやるのは御免だぞ」
「さて。色々とやる事が溜まってるからな。まあ、セキュリティ云々の所を触らせる事はないだろうから、それは安心しろ」
レオンの言葉に、それなら良いか、とクラウドも安堵する。
セキュリティプログラムの構築なんて物は、専門家のシドと、平時からそれを見てチェックも行っているレオンの仕事だ。
肉体労働が専門なんだと呟くクラウドに、それで十分だとレオンも思う。
何せ再建委員会は、頭脳労働担当も足りないが、肉体労働のみに集中する人間も足りないのだ。
どちらにせよ人が増えてくれるのなら、レオンは足りない方に集中できる。
「シド達が作っていたゲームは、楽しめそうなのか」
「ああ。ミニゲーム系が多いが、悪くない。テクスチャに慣れるのに時間がかかりそうだが」
「ユフィの絵か。随分楽しんで作っていたようだし、確り遊んでやれ。その方が作った方も喜ぶだろう」
「あんたとエアリスは触っていないのか?」
「エアリスは───ユフィと一緒に何か描いていたから、何処かに組み込まれてるんじゃないか。俺はゲームはさっぱりだからな、見ていただけだ」
プログラムの構築そのものは、シドの作業に付き合わされている内に慣れたが、娯楽事と言うとレオンはさっぱりだ。
暇を潰すなら本を読んでいれば十分で、遊ぶ事自体にもやや疎い所があるから、どんなゲームが楽しいかと考えても、レオンにはさっぱり判らない。
試遊も兼ねてデバッグに少し付き合ったものの、そもそもゲーム慣れしていないレオンでは、何が正しい挙動なのかもよく判らなかった。
言われる通りにキャラクターを動かし、プログラムの作動を見守った程度なので、手伝った内には入るまい、とレオンは考えている。
古びたアパートに着いて、二階への外階段を上る。
玄関を開けて部屋の電気を点けると、レオンはバスルームへと向かった。
「先に入るぞ」
「ああ」
クラウドはひらひらと手を振って、先に寝室へと向かう。
勝手知ったるレオンの家であるから、何か必要なものがあれば自分で適当に漁るだろう。
室内が汚れるような事がなければ、別に何をしていても構わない、とレオンは思っている。
皆で開けた酒による心地良さはまだ続いていて、酩酊はしていないが酔ってはいるのだろう。
湯を入れてのんびりと休息したい気持ちもあるが、これで入浴するのは危ないな、と諦めた。
少し温めのシャワーで汗を流しに留めて、レオンはバスルームを出た。
タオルを片手に寝室に入ると、クラウドがベッド横に背を預けて、早速ゲームを試していた。
ピコピコと昔懐かしい電子音を鳴らしながら遊んでいるのは、何十年も前に発売されたゲームデータを発掘して作ったものだ。
「面白いか」
「ああ。操作性が限られるから、今時のものより難しい」
ふぅん、と気のない返しをしつつ、レオンはベッドに上る。
まだ水分の抜けきらない髪を拭いていると、何度か嘆く声が聞こえた。
ぐあああ、と特訓中よりも苦しそうな声が聞こえるのが、少し面白い。
放って置けばいつまでもゲームに熱中していそうなクラウドだったが、今日は祝われ疲れでもしたのか、十分程で手を離した。
一頻り試して今日の所は満足したのだろう、次に遊ぶのを楽しみにしている横顔が見れた。
その横顔に、レオンは声をかける。
「おい、クラウド」
「なんだ」
呼んだ所で、クラウドが振り返らないのは判っていた。
だからそのまま、レオンはクラウドの頬にキスをする。
「……!?」
一瞬、何が起こったのか判らない様子で固まった後、バッとクラウドは勢いよく振り向いた。
何をした、と言わんばかりの表情に、レオンは悪戯が成功した子供の気分で口角を上げる。
レオンはベッドヘッドに背を預け、呆然とした表情で見上げる男を見下ろして言った。
「誕生日だからな。ほら、プレゼントだ」
「……本気か?」
レオンが何を指して“プレゼント”と言ったのか、はっきりとは言わずとも、クラウドも理解した。
が、いつにないレオンの誘い文句に、クラウドの目が胡乱に細められた。
まるで罠を疑っているような表情に、レオンはくつりと笑い、
「要らないなら別に良いんだが」
「誰が受け取らないと言った」
ぎしっとベッドのスプリングが軋み、クラウドがベッドに乗って来る。
ベッドヘッドに寄り掛かっているレオンを、自分の体で挟んで追い詰めるように閉じ込めて、クラウドはレオンの唇を塞いだ。
何度も唇の形を舐められているのを感じながら、レオンは薄く唇を開く。
舌が直ぐに入ってきたので、絡めて応じてやると、あちらもムキになったように絡めて来た。
舐め合って絡まり合う唾液が、くちゅ、ちゅく、と言う音を立てている。
クラウドの手がシャツの上からレオンの胸を弄り、膝が足を割って、体が割り込む。
それをレオンは止める事なく、応じる形で足を開きながら、クラウドの好きなようにさせてやった。
肩を捕まれ、ベッドシーツの上へと倒される。
上に伸し掛かって来る重みを感じながら、レオンはクラウドの口付けに応えていた。
「ん…ふ…、っは……、」
「……おい、レオン」
「……なんだ」
口付けが離れて、酸素を取り込む為に呼吸している所に名を呼ばれ、レオンの蒼が碧眼を見る。
クラウドはそれをじっと見つめ返し、
「貰って良いんだな」
「どちらでも」
「じゃあ貰う」
確かめるように念押しするクラウドに、意地の悪い言い方をすると、クラウドは開き直った。
顎を捉えられて口付けされ、絡め取った舌を連れ出され、音を立てて啜られる。
シャツが捲り上げられて腰が撫でられ、クラウドの膝がぐりぐりとレオンの股間を押して刺激していた。
性急な事だと思いつつ、そう言えばこの三日間は一度もしていなかった、と思い出す。
レオンの方から彼を誘うのは殆どない事だから、クラウドが促して来なければ、二人がセックスをする事はない。
そんなに疲れていたのか、と思うと同時に、それなら大分溜まっていそうだな、と思う。
ちらりと伸し掛かる男の貌を見れば、いつも無気力気味な瞳に、ぎらぎらとした熱が宿っている。
普段からその顔で仕事をしてくれれば良いのに、と何度思ったか知れない。
ついでに、この分だと、明日の朝は起きられなくなりそうだな、とも思ったが、
(……まあ、良いか)
今日はクラウドの誕生日だから、彼の希望に応えてやろうと思った。
そう考えた時点で、明日の予定などご破算になったも同然なのだ。
腕を伸ばして頬に触れると、少し驚いた瞳に自分の貌が映る。
自分はそんなに普段から素っ気ないだろうか、と思ったが、進んで接触しないのも確かである。
今日だけは此方から触れてやろう、と決めて、レオンは降りて来た唇に己のそれを押し当てた。
クラウド誕生日おめでとう!と言う事で甘やかしつつのいちゃいちゃ。
目に見えて甘やかすのはこんな時位だけど、普段も割と甘やかしている節はある。