[バツスコ]スウィート・モーニング
バツスコでバレンタイン。現代パラレルで、どうやら同棲してるようです。
キッチンからの漂う、甘ったるい匂いで、目が覚めた。
甘いものは、食べられない訳ではないけれど、殊更に好きな訳ではない。
適度な糖分は頭の回転を助けてくれるし、疲労回復にも一役買ってくれるので、そう言う時には重宝するのだが、平時から理由もなく食べたくなる事は殆どなかった。
匂いなどはどちらかと言えば苦手な方で、あまりに強いと胸やけを起こす事もある。
そんなスコールにとって、寝室の開けっ放しのドアの向こう───のリビングの更に向こうにあるキッチンから漂ってくる匂いは、一種の拷問に近かった。
来たる学年末テストの為に、昨日も夜遅くまで勉強していた。
そして朝早くに恋人の賑やかな声に叩き起こされ、入らない朝食を半ば無理やり胃に詰め込んで、睡眠不足の所為であろう頭痛を抱えながら登校、と言う日々が最近繰り返されている。
今日もそれと同じなのだろう、と思っていたのだが、少々様子が違う事にスコールは気付いた。
窓の向こうは薄暗く、時計を見るとまだ午前5時で、恋人が朝食の準備をするにも早い時間だ。
おまけに漂ってくる甘い匂いは、朝食にするには────少なくとも、スコールにとっては────不適当なものだ。
(何やってるんだ、あいつは……)
睡魔は抜け切っていなかったが、甘ったるい匂いの中で、再度眠る気にはなれない。
砂糖の海で溺れる夢を見るよりも、何か企んでいるであろう恋人を殴る事を決めて、のろのろと起き上がる。
半開きだったドアを押し開けてリビングに出ると、その向こう、壁を間に挟んだキッチンの方からガチャガチャと言う煩い音がする。
その金属音も寝不足の頭に響いて来て、スコールの眉間の皺が深くなった。
取り敢えず殴ろう、と思いつつ、キッチンへと向かう。
「おい、バッツ」
「おっ?スコール、早いな゙っ!?」
シンクで一所懸命に何かを洗っていたバッツ。
呼んで、振り向いた瞬間に、スコールはその顔面に拳を打ち込んだ。
バッツの手からボウルやら泡だて器やらが落ちて、ガチャンガチャンキーンと言う音が響く。
此処のマンションの壁はそこそこ厚く、防音性も優れているが、それでも早朝にこの音は御法度だろう。
スコールは慌てて流しの中に転がった調理器具を拾い集める。
「バカ、煩い!」
「いや、スコールがいきなり殴るから…」
「あんたがこんな時間から妙なこと企んでるからだろう」
「別に企んでなんかいないぞ」
スコールの言葉に、バッツは拗ねたように頬を膨らませる。
その顔を見下ろして、やっぱりこいつが俺より年上なのは納得できない、と胸中で呟いたが、バッツはそんな事はお構いなしであった。
赤くなった鼻頭を摩りながら、おれって信用ないんだなあ、と余り気にした様子のない表情で零している。
「…それで。あんた、こんな朝早くから何してたんだ」
「何って、ケーキ作ろうと思ってさ」
「……ケーキ?」
反芻したスコールに、そう、とバッツは頷いた。
その傍らで、オーブンレンジが焼き上がりのメロディを奏でる。
バッツはいそいそとオーブンの蓋を開けて、中からハートの形をした型を取り出した。
「ほら、今日ってバレンタインだろ。だからチョコケーキ作ろうと思ってさ」
「……こんな時間から?」
「だって今日の大学の講義は外せないからさあ。昼間に時間がないんだよ」
だから、朝食を作る前に作っちゃおうと思って。
にっかりと笑って言ったバッツの思考が、スコールにはいまいち理解できない。
今日が無理なら明日でもいいだろう、と言うのがスコールの思考であった。
でもそれを言ったら、きっとバッツは、今日じゃないと駄目だ、と言うのだ。
先にバッツが言った通り、今日はバレンタインデーだから、チョコケーキは今日の日の為に作るものでなくてはならない。
……じゃあ昨日作って置けば良かっただろう、とまたスコールは思うのだけど。
─────その前に、バッツは根本的な問題がある事をすっかり失念しているらしい。
スコールは溜息一つを吐いて、溶かしたチョコレートと生クリームを混ぜているバッツを見て言った。
「バッツ」
「んー?」
「……俺、甘いものは」
「苦手なんだろ?大丈夫、知ってるよ」
言葉を先んじられて、だったらなんで、とスコールは眉根を寄せた。
食べられない訳ではないけれど、やはりスコールは甘いものは好まない。
そんな恋人を理解していながら、どうしてチョコレートケーキなんて甘そうなものを作るのか。
今も充満する甘い香りで気分が悪くなりそうなのに。
沈黙したスコールの不機嫌な空気を読み取ったか、バッツがボウルを抱えたままで振り返る。
褐色の瞳が此方を見た事に気付いて、スコールはす、と視線を逸らした。
バッツはそんな恋人の素っ気ない反応を見て、眉尻を下げて笑う。
「スコール、怒るなよ」
「……別に。怒ってない」
「そっか?じゃあ良かった」
良くはない、とスコールは思った。
怒ってはいないが、正直、気分は宜しくなかった。
主に甘ったるい匂いと、理解不能な恋人の所為で。
覗き込んでくるバッツから、スコールは更に視線を逸らす。
目を合わせようとしないスコールに、バッツはやはり気を悪くするような事はなく、寧ろ何処か微笑ましそうにしてもいて。
「大丈夫だって。チョコケーキはおれ用で、スコールには、ホットショコラ用意してるからさ。あれはスコール、嫌いじゃないだろ?」
ホットミルクにチョコレートを溶かして作るホットショコラは、以前、試験勉強に疲れたスコールの為に、バッツが作ってくれたものだった。
ビターチョコレートを溶かしたそれは、披露した心身にとても心地よく沁み込んで、以来、時折スコールがバッツに作って欲しいと頼む事もあるものだ。
こくんと小さく頷くスコールに、バッツはにかっと笑う。
「よし、決まり。授業終わったら、直ぐに帰って作っとくから、今夜は二人でチョコレートパーティしような!」
「……ケーキは、食べないぞ」
「判ってる判ってる。あ、でも、一個だけ頼み聞いて欲しいんだけど、いいか?」
頼み、と言う言葉に、スコールは判り易く眉間に顔を顰めた。
にこにこと嬉しそうなバッツの表情は、今までの経験からして、大抵スコールにとって禄でもない事を考えている時のものであったからだ。
「……取り敢えず聞くだけ、聞いておいてやる」
実行するかは別として、と小声で呟いたスコールに、バッツはにっかりとまた笑って、
「あ~んって、アレやって!」
ぴしり、とスコールが固まった。
“あ~ん”って、アレって、ひょっとしてアレか。
アレか、アレしかないよな。
ぐるぐるとスコールの頭の中で、テレビ等の恋人同士のベタベタシーンに使われる図が浮かぶ。
やって、って、つまり、と図の中の登場人物がすーっと入れ替わり、バッツがぱかりと口を開けて待っているのが浮かんだ、後で────にこにこと嬉しそうにチョコケーキの欠片を差し出す自分を想像して、胸やけを通り越して、さぶいぼに見舞われる。
引き攣った顔でフリーズしたスコールを見て、バッツがへにゃりと眉尻を下げる。
「あー……やっぱ、ダメ?」
あはは、と頭を掻いて笑いながら、まあダメ元だったしなーとバッツは言った。
そして彼は、「冗談だよ」「本気にするなよー」等と言って、ひらひらと手を振る。
────バッツはスキンシップが好きだ。
だから、何かとスコールに抱き着いたり、キスをしたり、若しくはキスして欲しいと言うのだが、スコールは大抵それを拒否している。
人の体温に不慣れなスコールには、例えば手を繋ぐとか、そんな些細な事さえも、非常にハードルが高い行為なのである。
バッツもそれは理解しているが、気持ちに真っ直ぐな彼は、自分の欲求にも正直だ。
人と触れ合う事も大好きだから、愛する恋人と一層のスキンシップを図りたいと思うのも無理はない。
思えばスコールは、バッツに対して、恋人らしい事をした事がなかった。
恋愛はおろか、人付き合いそのものに経験値が低いから、何が“恋人らしい事”なのかは判然としない。
けれど、テレビドラマで恋人同士の幸せそうなシーンを見る度、バッツが羨ましそうな顔をしたり、「いいなー」と(他意はないと思うが)言っているのはよく見ていた。
バッツがスコールに対し、目に見えてそれをやってくれ、と言った事はない。
欲求には正直だが、彼は決してスコールに自分の気持ちを強要したい訳ではないから、人付き合いにも温もりにも不慣れな恋人に、少しずつ慣れて行ってくれたらいい、と言って笑うのだ────ほんの少しだけ、寂しさを我慢する顔をして。
……それを考えたら、
「……別に、いい。それくらい」
「……へっ?」
間の抜けた声が聞こえた。
きっと顔も間の抜けたものになっているに違いない、確かめる事は出来ないけれど。
スコールはぽかんとしている恋人に背中を向けた。
「俺が食べるんじゃないなら、別に、いい」
「え?え?え、ほんと?」
「嫌ならいい」
吐き捨てるように言って、スコールは足早にキッチンを出た。
その背中に、キッチンから慌てた声が届く。
「嫌じゃない、嫌じゃないって!って言うかすげー嬉しい!スコールー!」
弾んだ声に返事をする気にならなくて、スコールはリビングを通り過ぎて、寝室に駆け戻った。
甘ったるい匂いと空気を遮断するように、バンッ!と大きな音を鳴らしてドアを閉める。
毛布の中に潜り込んで、冷たいベッドシーツに押し付けた頬がやけに熱くなって感じるのは、きっと気の所為だ。
ツンデレスコールにデレデレバッツ。
バッツはジョブマスターの腕をフルに活かして、「なんでもやってやるぜ!」って感じでスコールに色々作ってあげたりしたらいい。ついでに人付き合いも苦手なスコールに、色々吹き込んだらいい(そして後にヒルクラの刑で)。
キッチンからの漂う、甘ったるい匂いで、目が覚めた。
甘いものは、食べられない訳ではないけれど、殊更に好きな訳ではない。
適度な糖分は頭の回転を助けてくれるし、疲労回復にも一役買ってくれるので、そう言う時には重宝するのだが、平時から理由もなく食べたくなる事は殆どなかった。
匂いなどはどちらかと言えば苦手な方で、あまりに強いと胸やけを起こす事もある。
そんなスコールにとって、寝室の開けっ放しのドアの向こう───のリビングの更に向こうにあるキッチンから漂ってくる匂いは、一種の拷問に近かった。
来たる学年末テストの為に、昨日も夜遅くまで勉強していた。
そして朝早くに恋人の賑やかな声に叩き起こされ、入らない朝食を半ば無理やり胃に詰め込んで、睡眠不足の所為であろう頭痛を抱えながら登校、と言う日々が最近繰り返されている。
今日もそれと同じなのだろう、と思っていたのだが、少々様子が違う事にスコールは気付いた。
窓の向こうは薄暗く、時計を見るとまだ午前5時で、恋人が朝食の準備をするにも早い時間だ。
おまけに漂ってくる甘い匂いは、朝食にするには────少なくとも、スコールにとっては────不適当なものだ。
(何やってるんだ、あいつは……)
睡魔は抜け切っていなかったが、甘ったるい匂いの中で、再度眠る気にはなれない。
砂糖の海で溺れる夢を見るよりも、何か企んでいるであろう恋人を殴る事を決めて、のろのろと起き上がる。
半開きだったドアを押し開けてリビングに出ると、その向こう、壁を間に挟んだキッチンの方からガチャガチャと言う煩い音がする。
その金属音も寝不足の頭に響いて来て、スコールの眉間の皺が深くなった。
取り敢えず殴ろう、と思いつつ、キッチンへと向かう。
「おい、バッツ」
「おっ?スコール、早いな゙っ!?」
シンクで一所懸命に何かを洗っていたバッツ。
呼んで、振り向いた瞬間に、スコールはその顔面に拳を打ち込んだ。
バッツの手からボウルやら泡だて器やらが落ちて、ガチャンガチャンキーンと言う音が響く。
此処のマンションの壁はそこそこ厚く、防音性も優れているが、それでも早朝にこの音は御法度だろう。
スコールは慌てて流しの中に転がった調理器具を拾い集める。
「バカ、煩い!」
「いや、スコールがいきなり殴るから…」
「あんたがこんな時間から妙なこと企んでるからだろう」
「別に企んでなんかいないぞ」
スコールの言葉に、バッツは拗ねたように頬を膨らませる。
その顔を見下ろして、やっぱりこいつが俺より年上なのは納得できない、と胸中で呟いたが、バッツはそんな事はお構いなしであった。
赤くなった鼻頭を摩りながら、おれって信用ないんだなあ、と余り気にした様子のない表情で零している。
「…それで。あんた、こんな朝早くから何してたんだ」
「何って、ケーキ作ろうと思ってさ」
「……ケーキ?」
反芻したスコールに、そう、とバッツは頷いた。
その傍らで、オーブンレンジが焼き上がりのメロディを奏でる。
バッツはいそいそとオーブンの蓋を開けて、中からハートの形をした型を取り出した。
「ほら、今日ってバレンタインだろ。だからチョコケーキ作ろうと思ってさ」
「……こんな時間から?」
「だって今日の大学の講義は外せないからさあ。昼間に時間がないんだよ」
だから、朝食を作る前に作っちゃおうと思って。
にっかりと笑って言ったバッツの思考が、スコールにはいまいち理解できない。
今日が無理なら明日でもいいだろう、と言うのがスコールの思考であった。
でもそれを言ったら、きっとバッツは、今日じゃないと駄目だ、と言うのだ。
先にバッツが言った通り、今日はバレンタインデーだから、チョコケーキは今日の日の為に作るものでなくてはならない。
……じゃあ昨日作って置けば良かっただろう、とまたスコールは思うのだけど。
─────その前に、バッツは根本的な問題がある事をすっかり失念しているらしい。
スコールは溜息一つを吐いて、溶かしたチョコレートと生クリームを混ぜているバッツを見て言った。
「バッツ」
「んー?」
「……俺、甘いものは」
「苦手なんだろ?大丈夫、知ってるよ」
言葉を先んじられて、だったらなんで、とスコールは眉根を寄せた。
食べられない訳ではないけれど、やはりスコールは甘いものは好まない。
そんな恋人を理解していながら、どうしてチョコレートケーキなんて甘そうなものを作るのか。
今も充満する甘い香りで気分が悪くなりそうなのに。
沈黙したスコールの不機嫌な空気を読み取ったか、バッツがボウルを抱えたままで振り返る。
褐色の瞳が此方を見た事に気付いて、スコールはす、と視線を逸らした。
バッツはそんな恋人の素っ気ない反応を見て、眉尻を下げて笑う。
「スコール、怒るなよ」
「……別に。怒ってない」
「そっか?じゃあ良かった」
良くはない、とスコールは思った。
怒ってはいないが、正直、気分は宜しくなかった。
主に甘ったるい匂いと、理解不能な恋人の所為で。
覗き込んでくるバッツから、スコールは更に視線を逸らす。
目を合わせようとしないスコールに、バッツはやはり気を悪くするような事はなく、寧ろ何処か微笑ましそうにしてもいて。
「大丈夫だって。チョコケーキはおれ用で、スコールには、ホットショコラ用意してるからさ。あれはスコール、嫌いじゃないだろ?」
ホットミルクにチョコレートを溶かして作るホットショコラは、以前、試験勉強に疲れたスコールの為に、バッツが作ってくれたものだった。
ビターチョコレートを溶かしたそれは、披露した心身にとても心地よく沁み込んで、以来、時折スコールがバッツに作って欲しいと頼む事もあるものだ。
こくんと小さく頷くスコールに、バッツはにかっと笑う。
「よし、決まり。授業終わったら、直ぐに帰って作っとくから、今夜は二人でチョコレートパーティしような!」
「……ケーキは、食べないぞ」
「判ってる判ってる。あ、でも、一個だけ頼み聞いて欲しいんだけど、いいか?」
頼み、と言う言葉に、スコールは判り易く眉間に顔を顰めた。
にこにこと嬉しそうなバッツの表情は、今までの経験からして、大抵スコールにとって禄でもない事を考えている時のものであったからだ。
「……取り敢えず聞くだけ、聞いておいてやる」
実行するかは別として、と小声で呟いたスコールに、バッツはにっかりとまた笑って、
「あ~んって、アレやって!」
ぴしり、とスコールが固まった。
“あ~ん”って、アレって、ひょっとしてアレか。
アレか、アレしかないよな。
ぐるぐるとスコールの頭の中で、テレビ等の恋人同士のベタベタシーンに使われる図が浮かぶ。
やって、って、つまり、と図の中の登場人物がすーっと入れ替わり、バッツがぱかりと口を開けて待っているのが浮かんだ、後で────にこにこと嬉しそうにチョコケーキの欠片を差し出す自分を想像して、胸やけを通り越して、さぶいぼに見舞われる。
引き攣った顔でフリーズしたスコールを見て、バッツがへにゃりと眉尻を下げる。
「あー……やっぱ、ダメ?」
あはは、と頭を掻いて笑いながら、まあダメ元だったしなーとバッツは言った。
そして彼は、「冗談だよ」「本気にするなよー」等と言って、ひらひらと手を振る。
────バッツはスキンシップが好きだ。
だから、何かとスコールに抱き着いたり、キスをしたり、若しくはキスして欲しいと言うのだが、スコールは大抵それを拒否している。
人の体温に不慣れなスコールには、例えば手を繋ぐとか、そんな些細な事さえも、非常にハードルが高い行為なのである。
バッツもそれは理解しているが、気持ちに真っ直ぐな彼は、自分の欲求にも正直だ。
人と触れ合う事も大好きだから、愛する恋人と一層のスキンシップを図りたいと思うのも無理はない。
思えばスコールは、バッツに対して、恋人らしい事をした事がなかった。
恋愛はおろか、人付き合いそのものに経験値が低いから、何が“恋人らしい事”なのかは判然としない。
けれど、テレビドラマで恋人同士の幸せそうなシーンを見る度、バッツが羨ましそうな顔をしたり、「いいなー」と(他意はないと思うが)言っているのはよく見ていた。
バッツがスコールに対し、目に見えてそれをやってくれ、と言った事はない。
欲求には正直だが、彼は決してスコールに自分の気持ちを強要したい訳ではないから、人付き合いにも温もりにも不慣れな恋人に、少しずつ慣れて行ってくれたらいい、と言って笑うのだ────ほんの少しだけ、寂しさを我慢する顔をして。
……それを考えたら、
「……別に、いい。それくらい」
「……へっ?」
間の抜けた声が聞こえた。
きっと顔も間の抜けたものになっているに違いない、確かめる事は出来ないけれど。
スコールはぽかんとしている恋人に背中を向けた。
「俺が食べるんじゃないなら、別に、いい」
「え?え?え、ほんと?」
「嫌ならいい」
吐き捨てるように言って、スコールは足早にキッチンを出た。
その背中に、キッチンから慌てた声が届く。
「嫌じゃない、嫌じゃないって!って言うかすげー嬉しい!スコールー!」
弾んだ声に返事をする気にならなくて、スコールはリビングを通り過ぎて、寝室に駆け戻った。
甘ったるい匂いと空気を遮断するように、バンッ!と大きな音を鳴らしてドアを閉める。
毛布の中に潜り込んで、冷たいベッドシーツに押し付けた頬がやけに熱くなって感じるのは、きっと気の所為だ。
ツンデレスコールにデレデレバッツ。
バッツはジョブマスターの腕をフルに活かして、「なんでもやってやるぜ!」って感じでスコールに色々作ってあげたりしたらいい。ついでに人付き合いも苦手なスコールに、色々吹き込んだらいい(そして後にヒルクラの刑で)。