[真神メンバー]チョコレート・フレンズ
バレンタインです。皆仲良し真神メンバー。
京一は甘い物は好きではない。
食べられない、とまでは行かないが、出来れば口に入れたくない程度には、好んでいない方だった。
しかし、年に一度のこの日だけは話が違ってくる。
「蓬莱寺先輩ッ!」
「あ?」
グラウンドを通り抜ける最中、唐突に背中から声をかけられて、振り向いてみると、其処には見覚えのない女子生徒が一人。
先輩、と言ったからには恐らく後輩なのだろうが、生憎、京一にはまるで記憶にない少女であった。
長い黒髪を後ろで二つに括った少女は、沸騰しそうな程に赤い顔をしている。
頭から湯気出そうだな、とぼんやり思っていた京一の前で、少女はしばらくもじもじとしていた。
そんな少女から少し離れた所には、これまた見覚えのない少女が数名、必死に何事か口を動かしている。
口の動きを何とはなしに読み取って、「がんばれ!」「いけーッ!」と少女達が言っている事を知り、それが自分の目の前にいる少女へと向けられている事を知った。
少女は何かを堪えるように、への字に噤んでいた口を開いた。
それと同時に、背に隠していたものを京一に差し出す。
「こ、こここ、これッ、受け取って下さいッ!」
やっぱり沸騰しそうな顔のまま、そう言った少女の勢いに、京一が半身を引く。
が、直ぐに少女が差し出したものに気付いて、
「お、おお……サンキュ」
「い、いえッ!それじゃッ!失礼しますッ!」
少女の手から、綺麗にラッピングされた十センチ程の長方形の箱を受け取る。
すると少女は、どもりまくって挨拶をした後、一目散に友人達の下へ駆けて行った。
ほんの数メートルの道程を、足を絡ませて転びながら。
どんだけドジだ、と思いながらしばし少女を見送る格好になっていると、友人達と合流した少女が振り返り、ぺこりと頭を下げる。
京一はそれに対して特にリアクションはしなかったが、少女は構わず、友人達と───京一のいる場所を大きく迂回して───共に下駄箱に向かって消えた。
京一は、自分の手に収まった箱に視線を落とした。
箱にはリボンが取り付けられ、其処にハートのシールで『Happy Valentine』の文字。
……どうりでさっきから視線が痛い筈だ。
僻みと妬みが多量に混じったそれを浴びつつ、京一は思った。
それ以上は特に気にする事はなく、薄っぺらい鞄の中に箱を入れる。
────其処で、元気の良い声が響いた。
「さっすが、モテるわねー、京一は。やっぱり剣道部の主将って肩書きが効くのかしら」
「……ンだよ、アン子か」
ファインダーから此方を覗き込みながら言う遠野。
いつも通りにカメラを握っている彼女だが、その反対の手には、小さな袋が一杯に詰められた紙袋がある。
「なんだ、そりゃあ」
「何って、バレンタイン用のチョコよ。はい、これあんたの分ね」
言うなり、遠野は紙袋から小さな袋を一つ取出し、京一に差し出した。
京一は先程の少女を相手にした時と同じように、ハート型のチョコが詰まった袋を受け取り、また鞄に入れた。
じゃり、と砂を踏む音がして、二人が振り返ると、葵と小蒔の姿があった。
「おはよう、京一君、アン子ちゃん」
「おはよー、二人とも」
「ああ」
「おはよ」
短い反応の京一と、手を振って返事をする遠野と。
そんな二人に笑みを見せて、葵が鞄の中からラッピングされた箱を取り出す。
「はい、京一君。アン子ちゃんにも」
「おー」
「やった!ありがと美里ちゃん、絶対にお返しするからね!」
抱き着いて喜びを全身で表現する遠野に、葵がくすぐったそうに笑う。
その傍ら、ボクも貰ったんだ、と小蒔が手に持っていた箱を見せた。
京一はひらひらと箱を手の中で遊ばせつつ、嬉しそうに箱を見ている小蒔を見る。
「お前は渡す予定はねェのかよ」
「予定がないって言うか、忘れてたんだよね。何、欲しかったの?京一」
「バーカ。誰が男から貰って喜ぶか」
「誰が男だッ!」
噛み付いて来る小蒔を交わし、そうじゃなくてな、と京一は仕切り直す。
「身近に渡すような奴いねェのかって言ってんだ」
「弟達にはあげるよ。ああ、あとお父さんにも」
「……………」
「何さ?」
白い眼で見る京一に、小蒔が唇を尖らせる。
その傍ら、遠野と葵が顔を見合わせて肩を竦めていた事に、彼女は終ぞ気付かなかった。
────其処に、いつものメンバーの残り二人も合流する。
「おはよう」
「おはよう。早いな、皆」
「おう」
挨拶を終えると、醍醐が鞄の中からいそいそと何かを取り出す。
そして、まだ京一を睨んでいる小蒔に声をかけ、
「あ、あの、桜井さん」
「ん?どしたの、醍醐君」
「こ、これ、作ってみたんです。この時期でチョコも安かったし……その、良ければ、どうぞ」
「ホント?いいの?」
やった、と喜んで小蒔が醍醐から受け取ったのは、チョコレート生地の一口サイズのカップケーキ。
女子受けの良さそうな絵柄の入った透明袋に入れて、モールで蝶結びにしてラッピングしてあった。
カップケーキは一つ一つきちんとデコレーションもされていた。
ありがとう、と笑う小蒔を見て、醍醐の顔が崩れるのを、京一は白い眼で見ていた。
それに気付いた醍醐が、なんだ、とばかりに眦に力を込めるが、京一には効果はない。
寧ろ彼は更に呆れるばかりであった。
「お前、情けねェと思わねェのかよ。フツーはお前が貰うトコだろが」
「……別にいいんだ、俺は。桜井さんが喜んでくれるなら」
「あっそ。献身的っつーか、なんつーか」
「それより、ほら」
「あん?」
醍醐が差し出したものを反射的に受け取った後、京一は今日一番の胡乱な顔をして見せた。
其処にあったのは、小蒔と同じカップケーキ。
ただし、此方は少々形が崩れている。
「……ヤローに貰っても嬉しくねえし、気持ち悪ィ」
「俺だってお前にバレンタインプレゼントなんて気持ちが悪い。しかし、食べ物は無駄にする訳にはいかないからな。処理に付き合え」
「…………オレが甘ったるいモン好きじゃねえの知ってんだろ」
「じゃあ、僕が貰ってもいい?」
唐突に割り込んできた声に、醍醐が驚いたように目を瞠る。
京一の方は慣れたものだったから、振り返るついでにカップケーキを差し出した。
「ほらよ」
「ありがとう、京一」
「オレじゃなくて醍醐に言え」
「うん。醍醐君、ありがとう」
カップケーキを受け取った龍麻の言葉に、こっちこそ、と醍醐が眉尻を下げて言った。
京一と違い、龍麻は甘いものが好きだ。
いつもチョコだの苺系の菓子だのと持ち歩いているから、醍醐の作ったカップケーキも美味しく頂ける事だろう。
京一の方は────鞄の中に収まっているものを、果たして全部消費できるのか、正直、微妙な所だ。
それでも今日だけは甘味を拒否はするまい、男から渡される場合は別として。
さて、そろそろ教室に行かねば、始業のチャイムが鳴ってしまう。
めいめい賑やかにしている友人達を置いて行く形で、京一は一歩踏み出した。
─────その肩を、とんとん、と叩かれて引き留められる。
「あ?」
振り返れば、にこにこと上機嫌な相棒がいて、
「はい、あげる」
「んぁ?」
何が、と確認する間もなく、甘ったるいものが口の中に広がった。
うちの龍麻は京一の口に食べ物突っ込むの好きですね……
渡そうとしてるものが大体甘いものだから、普通にしても受け取らないんですよ、京一が。だから了解を待たずに突っ込む。
相変わらずうちの二人はナチュラルにラブラブ。友情でも恋愛でも。
…最近、自分で書いてて龍京なのか龍&京なのか判らない時がある。もういいか、どっちでも。どうせこいつらラブラブだから!
京一は甘い物は好きではない。
食べられない、とまでは行かないが、出来れば口に入れたくない程度には、好んでいない方だった。
しかし、年に一度のこの日だけは話が違ってくる。
「蓬莱寺先輩ッ!」
「あ?」
グラウンドを通り抜ける最中、唐突に背中から声をかけられて、振り向いてみると、其処には見覚えのない女子生徒が一人。
先輩、と言ったからには恐らく後輩なのだろうが、生憎、京一にはまるで記憶にない少女であった。
長い黒髪を後ろで二つに括った少女は、沸騰しそうな程に赤い顔をしている。
頭から湯気出そうだな、とぼんやり思っていた京一の前で、少女はしばらくもじもじとしていた。
そんな少女から少し離れた所には、これまた見覚えのない少女が数名、必死に何事か口を動かしている。
口の動きを何とはなしに読み取って、「がんばれ!」「いけーッ!」と少女達が言っている事を知り、それが自分の目の前にいる少女へと向けられている事を知った。
少女は何かを堪えるように、への字に噤んでいた口を開いた。
それと同時に、背に隠していたものを京一に差し出す。
「こ、こここ、これッ、受け取って下さいッ!」
やっぱり沸騰しそうな顔のまま、そう言った少女の勢いに、京一が半身を引く。
が、直ぐに少女が差し出したものに気付いて、
「お、おお……サンキュ」
「い、いえッ!それじゃッ!失礼しますッ!」
少女の手から、綺麗にラッピングされた十センチ程の長方形の箱を受け取る。
すると少女は、どもりまくって挨拶をした後、一目散に友人達の下へ駆けて行った。
ほんの数メートルの道程を、足を絡ませて転びながら。
どんだけドジだ、と思いながらしばし少女を見送る格好になっていると、友人達と合流した少女が振り返り、ぺこりと頭を下げる。
京一はそれに対して特にリアクションはしなかったが、少女は構わず、友人達と───京一のいる場所を大きく迂回して───共に下駄箱に向かって消えた。
京一は、自分の手に収まった箱に視線を落とした。
箱にはリボンが取り付けられ、其処にハートのシールで『Happy Valentine』の文字。
……どうりでさっきから視線が痛い筈だ。
僻みと妬みが多量に混じったそれを浴びつつ、京一は思った。
それ以上は特に気にする事はなく、薄っぺらい鞄の中に箱を入れる。
────其処で、元気の良い声が響いた。
「さっすが、モテるわねー、京一は。やっぱり剣道部の主将って肩書きが効くのかしら」
「……ンだよ、アン子か」
ファインダーから此方を覗き込みながら言う遠野。
いつも通りにカメラを握っている彼女だが、その反対の手には、小さな袋が一杯に詰められた紙袋がある。
「なんだ、そりゃあ」
「何って、バレンタイン用のチョコよ。はい、これあんたの分ね」
言うなり、遠野は紙袋から小さな袋を一つ取出し、京一に差し出した。
京一は先程の少女を相手にした時と同じように、ハート型のチョコが詰まった袋を受け取り、また鞄に入れた。
じゃり、と砂を踏む音がして、二人が振り返ると、葵と小蒔の姿があった。
「おはよう、京一君、アン子ちゃん」
「おはよー、二人とも」
「ああ」
「おはよ」
短い反応の京一と、手を振って返事をする遠野と。
そんな二人に笑みを見せて、葵が鞄の中からラッピングされた箱を取り出す。
「はい、京一君。アン子ちゃんにも」
「おー」
「やった!ありがと美里ちゃん、絶対にお返しするからね!」
抱き着いて喜びを全身で表現する遠野に、葵がくすぐったそうに笑う。
その傍ら、ボクも貰ったんだ、と小蒔が手に持っていた箱を見せた。
京一はひらひらと箱を手の中で遊ばせつつ、嬉しそうに箱を見ている小蒔を見る。
「お前は渡す予定はねェのかよ」
「予定がないって言うか、忘れてたんだよね。何、欲しかったの?京一」
「バーカ。誰が男から貰って喜ぶか」
「誰が男だッ!」
噛み付いて来る小蒔を交わし、そうじゃなくてな、と京一は仕切り直す。
「身近に渡すような奴いねェのかって言ってんだ」
「弟達にはあげるよ。ああ、あとお父さんにも」
「……………」
「何さ?」
白い眼で見る京一に、小蒔が唇を尖らせる。
その傍ら、遠野と葵が顔を見合わせて肩を竦めていた事に、彼女は終ぞ気付かなかった。
────其処に、いつものメンバーの残り二人も合流する。
「おはよう」
「おはよう。早いな、皆」
「おう」
挨拶を終えると、醍醐が鞄の中からいそいそと何かを取り出す。
そして、まだ京一を睨んでいる小蒔に声をかけ、
「あ、あの、桜井さん」
「ん?どしたの、醍醐君」
「こ、これ、作ってみたんです。この時期でチョコも安かったし……その、良ければ、どうぞ」
「ホント?いいの?」
やった、と喜んで小蒔が醍醐から受け取ったのは、チョコレート生地の一口サイズのカップケーキ。
女子受けの良さそうな絵柄の入った透明袋に入れて、モールで蝶結びにしてラッピングしてあった。
カップケーキは一つ一つきちんとデコレーションもされていた。
ありがとう、と笑う小蒔を見て、醍醐の顔が崩れるのを、京一は白い眼で見ていた。
それに気付いた醍醐が、なんだ、とばかりに眦に力を込めるが、京一には効果はない。
寧ろ彼は更に呆れるばかりであった。
「お前、情けねェと思わねェのかよ。フツーはお前が貰うトコだろが」
「……別にいいんだ、俺は。桜井さんが喜んでくれるなら」
「あっそ。献身的っつーか、なんつーか」
「それより、ほら」
「あん?」
醍醐が差し出したものを反射的に受け取った後、京一は今日一番の胡乱な顔をして見せた。
其処にあったのは、小蒔と同じカップケーキ。
ただし、此方は少々形が崩れている。
「……ヤローに貰っても嬉しくねえし、気持ち悪ィ」
「俺だってお前にバレンタインプレゼントなんて気持ちが悪い。しかし、食べ物は無駄にする訳にはいかないからな。処理に付き合え」
「…………オレが甘ったるいモン好きじゃねえの知ってんだろ」
「じゃあ、僕が貰ってもいい?」
唐突に割り込んできた声に、醍醐が驚いたように目を瞠る。
京一の方は慣れたものだったから、振り返るついでにカップケーキを差し出した。
「ほらよ」
「ありがとう、京一」
「オレじゃなくて醍醐に言え」
「うん。醍醐君、ありがとう」
カップケーキを受け取った龍麻の言葉に、こっちこそ、と醍醐が眉尻を下げて言った。
京一と違い、龍麻は甘いものが好きだ。
いつもチョコだの苺系の菓子だのと持ち歩いているから、醍醐の作ったカップケーキも美味しく頂ける事だろう。
京一の方は────鞄の中に収まっているものを、果たして全部消費できるのか、正直、微妙な所だ。
それでも今日だけは甘味を拒否はするまい、男から渡される場合は別として。
さて、そろそろ教室に行かねば、始業のチャイムが鳴ってしまう。
めいめい賑やかにしている友人達を置いて行く形で、京一は一歩踏み出した。
─────その肩を、とんとん、と叩かれて引き留められる。
「あ?」
振り返れば、にこにこと上機嫌な相棒がいて、
「はい、あげる」
「んぁ?」
何が、と確認する間もなく、甘ったるいものが口の中に広がった。
うちの龍麻は京一の口に食べ物突っ込むの好きですね……
渡そうとしてるものが大体甘いものだから、普通にしても受け取らないんですよ、京一が。だから了解を待たずに突っ込む。
相変わらずうちの二人はナチュラルにラブラブ。友情でも恋愛でも。
…最近、自分で書いてて龍京なのか龍&京なのか判らない時がある。もういいか、どっちでも。どうせこいつらラブラブだから!