[レオスコ]秘密の花を咲かせよう
肌を重ね、互いの熱を分け合って、一番気持ちの良い所で相手の存在を確かめた。
一度や二度で終わらない濃厚な夜となったのは、数日振りの事だったから当然と言える。
必然的に、それだけ深く繋がった後で、スコールが意識を飛ばしてしまったのも、無理のない事だった。
レオンもまた、そんなスコールの寝顔を見詰めながら、ゆらゆらと心地の良い倦怠感に沈む。
それから、どれ程の時間が経ったのか。
窓の向こうに既に月は見えなかったが、空は暗く、朝の兆しは見えない頃。
水底からゆっくりと揺蕩い上るようにして、スコールの意識は浮上した。
(………?)
重い瞼を半分だけ持ち上げて、スコールはぼんやりとしていた。
額に当たる温かな感触に顔を上げると、すぅ、すぅ、と静かな寝息を立てている男の顔がある。
それを、レオンだ、と認識するのは早かったが、どうして彼がこんなに近い位置ににるのだろう、と言う事を理解するには十数秒の時間を要した。
するり、とスコールの背中に大きな手が滑る。
その感触を受けて、自分も彼も裸身であると知ってから、ようやくスコールは意識を失う以前の事を思い出した。
途端に赤くなる顔を、眠る男の胸に埋めて隠す。
ぐりぐりと、スコールの額を押し付けられたレオンは、小さくむずがる音を漏らしただけで、目を開ける事はなかった。
(……ああ、もう……)
褥の中、触れる熱に翻弄されて、スコールはあられもない声を上げていた。
そんな事まで思い出してしまった所為で、顔が熱くて仕方がない。
スコールはしばらくの間、レオンの腕の中で、じっと体の火照りが引くのを待った。
時計が見えないので時間が判らないが、スコールが気絶してから、まだそれ程時間が経っていないのだろうか。
何も入っていない筈の秘部に、レオンの感触が残っているような気がしてならない。
汗塗れになったであろう体は綺麗に清められているし、きっとレオンの事だから後処理もしてくれていると思うのだが、奥で彼を感じた時の名残は失われていなかった。
ともすれば、目の前にある顔を見ているだけで持ち上がってしまいそうな中心部を、静まれ静まれと言い聞かせて過ごす。
自己暗示が効いたかどうかは定かでないが、甲斐があったか、なんとかスコールの体は火照りを治めていく。
伴って頭も少し冷えた所で、スコールはレオンの胸に埋めていた顔を、もう一度上げた。
(……寝てる……)
其処にある男の顔をまじまじと見て、スコールは素直にそう思った。
自分とよく似た色の、けれど僅かに柔らかい余裕も灯した蒼灰の瞳は、瞼の裏に閉じられて見えない。
時間を思えば当たり前の事だが、スコールがその色を探す時、彼は直ぐに応えて此方を見てくれるのが普通の事だったから、今に限ってそれを叶えて貰えない事が、俄かに寂しさを誘う。
が、逆に言えば、スコールが滅多に見れないレオンの寝顔を拝む、絶好のチャンスでもあった。
彼と同衾するようになってから、何度も同じ夜を過ごしたスコールだが、スコールはいつも彼より先に寝落ちてしまう。
目を覚ますのは必ずレオンの方が先で、スコールが目を覚ました時には、ブルーグレイはいつも恋人を映して優しく微笑んでいた。
その瞬間がスコールはこっそりと好きだったのだが、いつも自分の寝顔を見ていると言うレオンに、恥ずかしいような悔しいような気持ちがあったのも確かだった。
(……今なら)
今なら見れる。
レオンの寝顔を、誰より近くで、見ていられる。
そう思うと、俄かにスコールの心が弾む。
途端にドキドキと煩くなった心臓が、レオンに気付かれる事のないように、スコールは息を詰めて宥めようと試みる。
余り収まる気配はなかったものの、レオンがすやすやと規則正しい寝息を零している事に安堵して、スコールはそろそろと腕を持ち上げた。
身体が密着しているから、自分の動きでレオンの眠りを妨げないよう、ゆっくりと。
秘密の行為をしているような気分で、スコールは目と鼻の先にあるレオンの貌に、そうっと掌を当てた。
長く伸びてレオンの頬に落ちている横髪を退かすと、すっきりと整った面が露わになる。
(……綺麗な顔だな)
見慣れた顔を、改めるようにまじまじと見つめて、スコールは素直にそう思った。
長い睫毛と少し釣り気味の目尻に、鼻は高く、薄く開いた唇の形も程好い山形を描いている。
眠っているから瞳の意志の強さは今ばかりは臨めないが、その代わり、無防備な口元の様子も相俟って、見る者に安らぎを感じさせる雰囲気がある。
スコールの手がレオンの貌を滑り、目元の涙袋に指が触れた。
下を向いている長い睫毛を掠めない位置で、外から内に向かってそのラインをそっとなぞる。
それから鼻筋を辿って降りて、顔のパーツで一番高さのある頂きに辿り着く。
つん、と其処を突いてやると、「……ん、」と小さく零れる声があったが、瞼はじっと降りたままだった。
(大分深く寝てるな。これなら……)
レオンは他人には勿論、スコールに対しては特に気配に聡い。
だから直ぐにスコールの視線に気付くし、スコールが求めている事を、本人が口にするよりも前に察知する。
以心伝心なんて、信じるのも眉唾だとスコールは思っているのだが、レオンに対してはそうも言えない気がしていた。
だが、こうしてスコールが触れていても、目を覚まさない程に深く眠っているのなら、今しか出来ない事がきっとある。
そう思うと、スコールの心臓が興奮したように煩く高鳴った。
(……ちょっと、だけ……)
興奮から荒くなりそうな鼻息を努めて堪えつつ、スコールはそっと首を伸ばした。
眠るレオンの唇に、そっと、触れるだけのキスをする。
ただそれだけの事なのに、レオンが眠っていると言う事が、スコールの心にそこはかとない緊張感を生んでいた。
「ん……っ」
「……」
「ふ…ん……、」
離れた感触が名残惜しくて、もう一度重ねる。
情交の最中のような深い口付けは流石に憚られたが、代わりにスコールは、何度も唇を重ねて離してと繰り返した。
満足するまでキスを重ねて行く内に、それでも起きないレオンの貌を見て、また心臓が躍る。
此処に触れたらどうなるだろう、と言うスコールの想いの表れに、頬に添えていた手が滑ってレオンの首筋を擽る。
起きないよな、起きてないよな、と何度も睫毛の位置を確かめながら、スコールはレオンの首筋に唇を寄せた。
「……ん…ぅ……っ」
窄めた唇で、ちゅぅ、とレオンの喉を吸う。
ぴく、とレオンの肩が微かに震えたが、スコールは構わずにレオンの首筋を愛し続けた。
身体を重ねている時、レオンはよくスコールの身体に痕を残す。
主には服で隠せる場所だが、時折興奮に任せて、鎖骨や手首と言った隠れ切らない場所に華を咲かせてくれる。
その事をスコールは何度か抗議しているのだが、事が始まってしまうと、スコールがそれを振り払う術はなかった。
レオンもそれを判っていて、スコールを蕩けに蕩けさせて、痕を欲しがる様を待っている事がある。
その度、わざと見える場所にキスマークを残されて、誰かに見られたらどうするんだと真っ赤な顔で抗議するスコールを、レオンは楽しそうに眺めていた。
偶にはあんたも、同じ気持ちを味わえばいい。
そんな気持ちで、レオンが普段全く隠す事をしていない首筋にキスマークを作ろうとするスコールだったが、
(……薄い)
レオンの首から口を離して、触れた場所を覗き込みながら、スコールは眉根を寄せる。
何度も繰り返し吸った筈なのに、レオンの首筋には薄らとした赤い点が残っただけだった。
部屋が暗いから見辛いだけなのかも知れないが、かと言って部屋の電気を点けて確認する訳にも行かないだろう。
もう一度したら、少しははっきり見えるようになるだろうか、と考えていると、背中を抱く腕がするりと動いて、寝癖のついた濃茶色の髪を梳くように撫でた。
同時に、瞳に映った男の唇が、緩く孤を描いている事に気付く。
「レオ、」
「可愛いことをしてくれてるな」
目を瞠ったスコールに、レオンがくつくつと笑いながら言った。
降りていた瞼はしっかり持ち上がり、蒼灰色の瞳が楽しそうに年下の恋人を見詰めている。
スコールの顔が、暗がりの中でも判る程、真っ赤に沸騰する。
咄嗟にそれを目の前の男から隠そうと、スコールは背を抱く腕を振り払って逃げようとした。
が、一足早くそんなスコールの行動を察知したレオンは、髪を撫でていた手でスコールの手首を捕まえて、自分より一回り細い体をベッドシーツへと仰向けにして縫い留める。
更に自分の体で檻を作るように覆い被さって、スコールの首筋へと吸い付いた。
「あっ……!」
ちゅう、と強く首筋を吸われて、びくん、とスコールの身体が跳ねる。
スコールの足元がばたばたと暴れて抵抗を示したが、覆い被さる男には何の効果もなかった。
レオンは構わずスコールの首筋を食み、組み敷いた肢体が抵抗を忘れるまでたっぷりと寵愛して、ようやく解放する。
そうして白い肌に残された赤い蕾を見下ろして、レオンの蒼の瞳がうっそりと悦に染まる。
「こうやるんだ。判ったか?」
痕を残したばかりの首筋を、レオンの指がそっとなぞる。
ぞくぞくとした感覚がスコールの背中を奔って、身体の奥に覚えのある熱が蘇る。
スコールは潤んだ瞳で組み敷く男を見上げた。
はあ、と熱を孕んだ吐息を零せば、その内情を既に覚っているのだろう、レオンの顔がゆっくりと近付いて来る。
その顔が酷く楽しそうにしているのが判って、いつから起きてたんだ、とスコールは聞きたかった。
しかし、問おうと開いた唇は、簡単にレオンのそれに塞がれて、呼吸すらも奪われるように貪られる。
こうなってしまえば、もうスコールにはどうする事も出来ない。
その夜、レオンは手本を示すように、幾つもスコールの躰に痕を残した。
対してスコールがレオンに残したのは、付けられたと知っているから気付く程度の淡色が一つ。
それでも、その一つの花を愛でるように、レオンが何度もそこに触れる事を、スコールは知らない。
寝込みを襲うスコールと、さていつから起きていたでしょう?なレオン。
どうやってもレオンの方が一枚も二枚も上手なレオスコ。
この後、スコールがムキになってレオンにキスマークを付けたがるようになる。
レオンはスコールが一所懸命つけたキスマークを鏡で確認して、ご機嫌になるんだと思います。