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[スコリノ]君と二人の世界へ行こう

  • 2020/08/08 21:00
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海が見たい、と彼は言った。
海ならいつでも直ぐに見れる、バラムの地で。
だから、彼が見たい海は、きっと此処ではない海の事なのだろうと、リノアは理解した。

先の魔女戦争の最中、本人の意志とは無関係の内に、バラムガーデン擁するSeeDの指揮官に就いてしまったスコール。
事が終われば直ぐにでも他の人に押し付けてやる、と忌々しげに呟いていた事もあった(恐らく誰にも聞かれていないと思っているだろう)が、結局彼は、今でもその肩書を放り出せずにいる。
人の上に立つような性分ではないと彼は言うが、その反面、真面目な気質が彼の気分的に損をさせるのだろう。
不安定な世界の情勢も相俟ってか、育った“家”への素直になれない愛着か、きちんと実力的に信頼できる者が見付からなければ、『指揮官』と言う役割を捨てる決断が出来ないようだ。
そう言う責任感の強さは、逢って間もない彼の父親に似ている、のかも知れない。
言えば眉間の皺が三倍増しになりそうなので、言わないが。

ともかく、そんな訳だから、スコールは非常に忙しい。
バラムガーデンの金銭的な問題を一手に握り、引き受けていた、マスターと言う存在がいなくなった事で、ガーデンの経営は少々難を被っている。
幸いなのは、金にがめつかったマスター・ノーグの遺産が見付かった事で、当面の資金は一先ずは心配ないと言う事だが、金は有限である。
これの息が尽きない内に、金銭面を好転させなければ、いよいよ後がない。
世界中が“月の涙”の影響を受け、ガーデンに対して魔物退治の依頼が次々と舞い込んでくるのは丁度良い話なのだが、回せるSeeDの数には限りがある。
それを半ば無理やりに回しながら依頼をこなし、不足する人員を埋める為に再度試験を計画準備し、依頼終了により上がって来る報告書や始末書に目を通し……と、スコールの一日はそんな具合で埋まる。
お陰でスコールは、若干17歳でワーカーホリック状態であった。
体が資本の傭兵稼業だと言うのに、書類仕事が多過ぎる所為で、眠る時間も削らなければならない。
本人が案外と自分自身への配慮と言うものに欠けている面がある所為で、一日の食事をコーヒー一杯で済ませていた時など、カドワキから保健室呼び出しからの厳重注意を受けた程だ。
流石に食事はそれなりに時間を取って固形物を摂取するようにはなったが、本人が幾ら自分の生活を改めようと意識しようとしても、環境がそれを守らせてくれない。
周りもスコールの事を大切に思っているから───バラムガーデンの指揮官だから、ではなく、彼個人を───、何とかしてやりたいと各自で出来る事には手を付けているのだが、それが出来る人の数もまた限られるのが現実だった。

こんな状態で、人が消耗しない訳がない。
休みたい、何も考えないで良い場所で、と願うのも当然だろう。
自分の力と意思で、そう言った余裕をもぎ取る努力をするのが難しい人間なら、尚更。

だからスコールが「海が見たい」と言った時、リノアは何としてでも連れて行こうと思ったのだ。
“世界で唯一の魔女”となってしまった自分が、表面的でも、前と変わらない日常を保っていられるのは、“魔女の騎士”でるスコールが矢面に立っているからだ。
彼がバラムガーデンの指揮官として、世界的な信頼を得ていれば、仮にリノアが魔女である事が流布されても、その名を盾に護る事が出来るかも知れない。
そんなに無理しなくて良いよ、とリノアは言ったが、スコールは自分で出来る限りの事をしたいと言った。
俺がリノアを護りたいから、と。
誰より信頼している、誰より愛した人にそんな事を言われて、リノアも嬉しかった。
嬉しかったけれど、自分の為に無理をし通そうとする恋人の姿は、リノアにとって心苦しくもあった。
だからせめて、自分がスコールにとって少しでも心安らげる場所で在りたいと、スコールの為に自分が出来る事があるのならやり通そうと、決めたのだ。



ドールは商的娯楽施設に富んだ国だ。
国の規模そのものは大きくはなく、嘗てガルバディアに攻められた時には、SeeDへの救援依頼をしなければならなかった程だが、国内で動く金はガルバディアの比ではない。
それは国内外の富裕層がこの地に別荘を構えているからで、そうした人がバケーションシーズンには来訪するからである。
この層を狙ったホテルやカジノも数多く並び、また富豪に気に入られようと芸術家も先を争って作品を出品・売り込みに来る。
こうした世情により、ドールは富裕層の保養地の一つとして、一定の人気を持っている。

そんなドールに、カーウェイ大佐が一つ別荘を持っている事をリノアが思い出したのは、数年ぶりの事だった。
母ジュリアが生きていた頃は、家族揃って別荘で休暇を過ごす事もあったが、父娘の間が冷え切ってからはさっぱりだ。
それでもカーウェイは別荘を手放してはおらず、管理者を雇って、状態の保持を続けていた。
其処を数日で良いから使わせて欲しい、とお願いに来た娘に、父は一度目を眇めたが、深くは聞かずに鍵を貸してくれた。
ついでに、管理者には連絡して暇を出しておく、とも言われたので、色々と察せられたような気はするが、リノアはそれは気付かない振りをした。

多忙を極めるスコールを、任務外でガーデン外に連れ出すのは難しい。
だが、スコールが疲れている事は、幼馴染の面々も判っていた。
休む事に気後れするスコールを、サイファーが「湿気たツラが鬱陶しい」と仕事を取り上げて蹴り出す位には、仲間達も理解してくれていたのだ。
そんな彼らが、リノアが行動するまでスコールに休みを出せなかったのは、忙しいと言う理由の他にも、スコール自身が休息が下手だと言う問題があった所為だ。
放っておけば端末を自室に持ち込んで仕事を始めてしまう彼を本格的に休めるには、そう言う行動自体が出来ない環境に送り出すのが良い。
だから、ドールの別荘に連れて行きたい、休ませてあげたい、と言うリノアの行動は、彼女の声なら無視できないスコールを動かすには、幼馴染達にとって願ったり叶ったりだったのだ。

────かくして、リノアはスコールと共にドールにやって来た。
移動を含めて五日間の休暇なんて、スコールが指揮官職に従事するようになってから、初めての事だ。
荷物は一足先に別荘地に付くように手配して、身軽な身体で、バラムの港からドールへ渡った。
ドール港へ着いたその足で、タクシーを使って郊外の住所へと向かえば、二階建てのコテージが建っていた。


「わー、久しぶり!」
「…あんた、こんな所持ってたんだな」
「私じゃなくてパパのだけどね」


役目を終えたタクシーが遠ざかる音を背に、弾んだ足取りで見覚えのある玄関への階段へ走るリノアを、スコールは変わらぬ歩調で追う。
呟きに対し、けろりとした顔で言うリノアに、そう言えばお嬢様だった、と日常的な所作から忘れ勝ちだった事を思い出した。

荷物は管理者が離れる前に届いており、玄関の中に置かれていた。
それらを大きなソファと暖炉が供えられたリビングで開けて、中身を確認し、必要なものを取り出しておく。
食料品は、今日明日の分は管理者が用意してくれたようで、冷蔵庫の中身も充実している。
必要なら明日の午後にでも、これまた用意済みのレンタカーで、ドールの街へ買い出しに行けば十分だろう。
正に至れり尽くせりだ。
そんな中でも、自分が準備した訳でも、そう手配した訳でもないから、スコールはどうしても気になる事が多いようで、


「…リノア。色々確認したいから、見て来ても良いか」
「うん、良いよ。私も久しぶりだから色々見たいし」


初めて訪れた場所は、スコールにとって落ち着かない事も多いだろう。
それでなくとも、彼は名の知れた傭兵で、その恋人であるリノアは“魔女”だ。
否応なくついて回るその肩書は、どうしても幾らかの警戒心を捨てさせてくれない。

コテージの一階はリビングとキッチン、バスルームが設けられ、二階が寝室になっている。
寝室は二つ、ベッドもそれぞれ二つであったが、


「私が此処に来てた頃って、いつも片方の寝室しか使わなかったんだよね」
「…どうして」
「私、小さかったから。三人で一緒に寝てたの。ベッド二つくっつけて、お母さんに引っ付いて寝てた」


リノアが幼い頃から、カーウェイは仕事で忙しく過ごしていた。
リノアが起きている間に家に帰って来る事は稀で、一緒に寝るなんて、彼の休暇で別荘に来た時位しかなかったのだ。
父に対して素直だった頃は、真っ直ぐ甘えられていたから、一緒に寝たいとおねだりするのも難しくなかった。
カーウェイもそんな娘の要望に応え、休暇の間は彼女の可愛い我儘に応えてくれた。

母に抱かれ、父に頭を撫でられながら眠った記憶を思い出して、温かかったなあ、とリノアは思う。
そんな優しい思い出も、此処に来なかったらきっと思い出せないままだっただろう。
まだ少しだけぎこちなくなり勝ちな父との距離感を思いつつ、理由はどうあれ、頼んで良かったなと鍵を貸してくれた父に感謝した。

寝室には大きな掃き出しの開き窓がある。
スコールがそれを開けると、テラスがあり、その向こうに水平線が広がっていた。


「……海」


零れたその声は、きっと無意識だったのだろう。
遠く続く海の向こうを見詰める蒼が、水面に反射する陽光を映してきらきらと輝いている。
そんなスコールの眼を、リノアは随分と久しぶりに見た気がした。

吸い込まれるように海を見詰めるスコールを、リノアは黙って見上げていた。
無防備に垂れている左手に、そっと右手を重ねると、驚いたようにスコールの肩が跳ねた。
油断し切っていた、と焦りも滲んだ顔が此方を見て、リノアはにっこりと笑いかける。
彼が安心できるように、その張り詰めた心が少しでも安らげるように。


「あのね、スコール」
「……なんだ」
「ここね、プライベートビーチなんだ」
「……」
「誰もいないの。私達以外」


テラスの向こうに広がる海。
其処へと続く白い砂浜。

島国バラムで過ごしていれば、そう遠くはない場所に、似た景色がある。
小さな島であるから、少し足を延ばせば浜があり、ガーデンを出なくても二階デッキから臨む事は出来る。
だが、其処で海を見ているのは、“バラムガーデンの指揮官”で“魔女戦争の英雄”の肩書を持ったスコールだ。
周囲に自分をそう呼ぶ者がいる限り、スコールはその肩書から逃げられない。
魔女の力を受け継いだリノアが、自分が何を思っても、“魔女”である事実が変えられないように。

けれど、この海を見ている今は、正真正銘、二人きり。
“スコール”と“リノア”と名を呼び合う以外の存在は、何処にもいない。


「ね、スコール」


名前を呼んで、リノアはスコールに身を寄せた。
ぽす、と頭がスコールの肩に乗せられる。
重ねていた手を握り締めると、そっと握り返す力があった。


「私がスコールに出来ることって、こんな事くらいだけど」
「……別に。十分、だろう」
「……えへへ」


詰まりながら返すスコールの言葉に、リノアは胸の奥が温かくなるのを感じた。


「ほんのちょっとの間だけだけど。のんびりしようね、スコール」
「……ん」


お互いを息苦しく絡め取る柵は、簡単には解けない。
それでも傍にいたいと願うから、この柵は捨てたくない。
でも、時々で良いから、楽に呼吸が出来る場所も欲しかった。
例え一時のものでしかないとしても。

願うように目を綴じたリノアの額に、柔らかい感触が触れる。
不意打ちのそれに目を丸くして顔を上げれば、蒼はもう海を見ていた。





スコールとリノアに二人きりで過ごして欲しかったので。
リノアってお嬢様なんだよなぁ……と思いつつ、あんまりそう言う事を感じさせない言動が多いリノアだけど、そう言う立場だから出来る事もあるよなと。
FFⅧの日常生活の中で、リノアが直接スコールを援けると言うのは難しそうだけど、自分が持ちうることで出来る・思い付く事でスコールを支えようと努力してたら可愛いなって。
そんで疲れたスコールは、人目がないので思い切りリノアに甘えれば良いと思う。リノアを護る為になんでもするけど、彼は本質的に甘えっ子だと思う。

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