[クラスコ]宝物つかまえた
肌を重ね合わせた後に、スコールが起きている事は珍しい。
大抵は疲れ切って意識を飛ばし、それでクラウドがようやく終わってくれるからだ。
出来ればそれより早めに終わって欲しい、と思っていたりするのだが、最中は快感と愛しい人に抱かれていると言う心地良さで、そんな事は忘れている。
寧ろクラウドにしてみれば、スコールがもっともっとと求めて離さないから、彼が意識を飛ばすまで終わる事が出来ない───と言う所なのだが、そんな事はスコールに自覚はないのだった。
今日はクラウドも疲れていたから、スコールが二回、クラウドが一回果てた所で終わった。
とは言え疲れている事は変わりなく、スコールはクラウドに抱えられてシャワーを済ませ、また抱えられて部屋へと戻った。
仲間達に見付かるのは嫌だから自分で歩く、とスコールは言ったのだが、下肢の違和感に幾らも立ってはいられず、結局クラウドに身を預けている。
部屋に戻ってからは二人とも寝る体勢で、ベッドでのんびりと横になっていた。
壁を向いていないとどうにも落ち着かないスコールを、クラウドは背中から覆うように身を寄せて抱き締めている。
スコールの腹に回された手が時折撫でる仕草をして、くすぐったさにスコールの体が微かに震えた。
正直睡魔を妨げるので止めて欲しい、と思っていたりするのだが、ちらりと後ろの引っ付き虫を覗き見れば、柔らかな光を宿した魔晄の瞳があった。
目が合うと何処か嬉しそうに笑うので、スコールはなんともむず痒い気分で、諦めるようにクラウドに好きにさせている。
その内に腹を撫でる手は、段々と心地良いものになってきた。
何か悪戯をする訳でもないし、何より、背中に感じられる恋人の体温が安心感を誘う。
このまま眠れるかも知れない、とスコールは白い壁を見詰めながら思っていた。
ぼんやりと霞が滲み始めた意識の中で、スコールの投げ出されていた手がシーツの上を滑る。
腹を抱いた手にスコールの手が重ねられると、ぴく、と指先が反応したのが判った。
その指を軽く摘まんでやると、背後で俄かに戸惑う気配があったが、逃げる事はなく、どちらかと言えば此方の様子を伺っているような雰囲気が醸し出される。
警戒と言う程尖ったものはなかったが、動向を気にしているのは隠されなかった。
(……指、太い)
指先で摘まんだ、クラウドの指。
その人差し指の形をなぞるように辿って、ゴツゴツとした骨の感触を覚る。
以前の闘争を終えて、元の世界で二年と言う歳月を過ごしていたと言うクラウド。
新たな世界で彼と再会した時には、急に彼が遠い存在になったようで戸惑っていたものだった。
だが、こうして肌を重ね合わせている内に、年齢を重ねているとしても、彼が自分の知る恋人と本当に同一人物であると感じる事で、少しずつスコールの蟠りは解けて行った。
こうやって指先一つを摘まんで、あの頃にも感じた感触と変わらない事に笑みを零す位に、スコールの気持ちには余裕がある。
平時はスコールと同じように手袋をしているから、クラウドの手が晒されている事は殆ど無い。
直にその感触に触れる機会は、恋人のスコールと言えど、案外と少なかった。
こうやって褥の中で緩やかな時間を過ごせる間柄だからこそ、だ。
(……爪、少し欠けてる)
スコールはクラウドの指を辿り、その先端で少し伸びた爪が不自然に欠けている事に気付いた。
彼の振り回す武器は、長さも重量もあるから、薙ぐだけで結構な遠心力が働く。
時にはその物理法則に逆らった扱いをする時もあるから、手全体に大きな負荷がかかる事もあるだろう。
爪が微かに欠けているのは、そんな戦い方の表れなのかも知れない。
腹に触れていた手をそっと剥がしてみると、クラウドは抵抗しなかった。
スコールは横になった体勢のまま、布団の中を覗き込んでみる。
スコールの手に掴まれたクラウドの手が、たらんと力なく垂れて、時々落ち着きなさそうに指先がぴく、ぴく、と動いた。
その手に右手を合わせ絡める。
思いも寄らない事だったのか、背後で息をのむ気配があって、同時に鼓動の音が忙しくなった。
そんなに驚く事か、と何処か面白いものを見た気分になって、スコールはこっそりと笑いながら、クラウドの手を握り締める。
(大きい。あと、固い)
スコールとクラウドの身長には、対して差はない。
スコールの方がほんの数センチ高いようだが、手の大きさはクラウドの方が大きいようだった。
そう感じる位に、クラウドの手は厚みがあるのだ。
それから、重ね合わせた事でよく判るのが、皮膚の厚みだ。
少しざらついた皮膚は、固い感触に覆われていて、剣胼胝のある場所などは特に顕著である。
その手が自分の体をゆっくりと撫でる時の事を思い出し、まだ最中の感覚の残る場所がひくりと疼く。
背後の恋人にそれを知られるまいと頭を振ると、クラウドはきょとんと首を傾げたが、スコールがそれに気付く事はなかった。
もう一度掌を握ると、今度はそうっと握り返された。
柔らかく弱い力で、とても大剣を振り回しているとは思えないような、優しい握り方。
壊れ物を扱うような丁寧さに、そんなに軟じゃない、とスコールは思うのだが、大事にされていると言う事が実感できるのは嫌いではなかった。
(でも。手首、よく痕が付くんだよな。やってる最中はあまり加減してくれないし)
ちらりとスコールが布団の中の自分の腕を見るが、暗がりなので皮膚の色は判らない。
しかし、繋がっている最中、何度かその腕を掴まれた事を思い出し、多分痕にはなっている、と思う。
明日の朝までそれが残っているかは判らない。
手首に痕が着くのは、人に見られそうで嫌なのだが、しかしスコールは最中にクラウドの手を振り払う事はしない。
自分よりも僅かに大きな手に掴まれ、ベッドに縫い留められる瞬間、その力強さで、それ位に彼が自分を求めてくれているのだと言う事が実感できる。
それと同時に、肌の上を滑るゴツゴツとした手の感触も、スコールを虜にして已まなかった。
スコールは握った手を揉むように、指先の力の入り抜きを繰り返す。
にぎ、にぎ、と一定のリズムを握り開きをするスコールを、クラウドは好きにさせていた。
(……指の隙間、ゴツゴツしてる。やっぱり骨が太い)
指の隙間に順に差し込んでいた手を少し動かして、スコールの人差し指が、クラウドの人差し指と中指の間に入る。
親指と人差し指で、クラウドの人差し指を摘まんで、付け根を摩ってみた。
指と掌の骨が繋がっている所を見付けると、親指で其処を何度も擦り、ゴツゴツとした感触を確かめていると、
「……スコール」
「……ん」
名を呼ぶ声が聞こえて、まだ起きていた、とスコールは思った。
スコールは観察する手を止めずに返事だけ投げると、背後で少し唸るような音が零れる。
「その、くすぐったいんだが」
「……」
クラウドの言葉に、スコールも流石に探る指を止めた。
肩越しに後ろを見遣れば、心なしか恥ずかしそうな、照れくさそうな顔をして、眼を逸らしている恋人がいる。
スコールは少し考えた後、まあ良いか、と思う事にした。
「別に良いだろう。変な事をしてる訳じゃないし」
「いや、うん。それはそうなんだけどな」
「あんた、明日は出るんだろう。気にせず寝れば良い」
「ああ」
「俺もその内寝る」
「……ああ」
好きにしたら良い、と言うスコールに、クラウドは鈍いながらも頷いた。
そうだな、と呟くクラウドの声は、何処か上の空だったが、スコールは気にしなかった。
さて、とスコールは改めた気分で、またクラウドの手を触る。
絡め合わせていた手を離して、掌の皺の形を重ね合わせてみた。
もう少しよく見たいなと思って、掴んだ手を目線の高さまで持って行く。
見易くした所で、スコールは指先でクラウドの掌の皺をゆっくりとなぞり始めた。
(ここは長い。こっちは……なんか、途切れてるな)
手相などスコールは知らないから、クラウドの掌が示す運命云々と言うものはさっぱり判らない。
なんとなく苦労していそうだな、とは思うが、詳細を聞く事はしなかった。
そう言えば、クラウドは元の世界で二年を過ごしているから、見た目も色々と変わった所があるのだが、この掌も変わっていたりするのだろうか。
以前の闘争の中、何度となく体を繋げる度、この掌も握り合ったように思うのだが、その頃とは違うものが此処にはあるのか。
そう考えると、スコールの知らないクラウドがこの手の中にいると言う事になるのか。
決して知り得ないそれを感じて、俄かにスコールの胸に寂しさのようなものが去来するが、同時にそれだけの時間が重ねられても自分の事を忘れずにいてくれたクラウドへの愛しさも増した。
もう一度、そっと、掌を絡めあわせて握る。
その感覚を感じ取ったのだろう、クラウドも何も言わず、スコールの手を握り返した。
(……クラウド……)
心の中で名前を呼びながら、スコールはその手を引き寄せる。
少し手首を捻って、クラウドの手の甲が此方へ向くようにする。
引き寄せたそれにそっと唇を当てると、ぴく、と絡めた指が小さく震えるのが判った。
それだけで逃げる仕草を見せない事に甘え、頬へと寄せて柔らかく握り締める。
頭の芯の靄が濃くなってきている自覚があった。
このまま寝ても良いだろうか、と思っている間に、瞼が重くなって行く。
頬に寄せた、少し武骨な手をやわやわと握りながら、スコールはゆっくりと夢の世界へと落ちて行った。
────それから幾何かして、クラウドがゆっくりと体を起こす。
「……スコール」
「……」
「……眠ったか」
耳元で小さく名を呼ぶと、すぅすぅと心地良い寝息だけが返された。
情事の後の気怠さもあり、恐らくは深い眠りにあるだろう恋人の米神に、クラウドはそっとキスをする。
(さて……)
健やかに眠る恋人を見下ろしながら、クラウドはちらりと視線を横にずらす。
壁に向かって横向きになっているスコールの顔の下には、彼に握られたままの手があった。
眠りに落ちても、スコールはクラウドの手を離そうとはしなかった。
クラウドがこっそりと手を離そうとすると、引き留めるように指先に力が籠る。
それを受けてクラウドが手の力を抜くと、スコールも安心したように握る力が緩んだ。
「そんなに気に入ったのか?」
くすりと笑みを浮かべてクラウドが囁くと、耳元を掠める吐息が擽ったかったのか、んん、と小さくむずがる声。
それからスコールは、クラウドの手をきゅうと握って、また規則正しい寝息を立てるようになった。
やれやれ、とクラウドは一つ息を吐いて、また横になる。
スコールに捕まった手はそのまま、恋人の好きにさせる事にした。
(正直ちょっと辛い所があるんだが……まあ、仕方がないな)
スコールが自分の手で遊んでいる間、クラウドはちょっとした我慢を強いられていた。
普段、接触嫌悪のきらいもあるスコールは、滅多に自分から他人に触れる事をしない。
癖にもなっているのだろうそれはクラウドに対しても同じで、情事の時ですら、蕩けるまでは中々自分からは触れてくれない程だ。
それだけに、彼が自ら触れてくれる瞬間と言うのは貴重であった。
且つ、今の所、スコールが積極的にクラウドへと触れてくれるのは、熱に溺れた時だと言うのが、クラウドの欲をじわじわと刺激する。
しかし、眠るスコールの寝顔は穏やかなものだ。
愛しい人の手を握り眠る少年の安寧を脅かすのは、例え恋人と言えど、どうかと思う。
「おやすみ、スコール」
囁いて、項にそっとキスをして、繋がれた手を緩く握る。
力の入っていない指がぴくりと震えた後、きゅう、と握り返される感触があった。
『クラウドの手を無心でにぎにぎしているスコール』のリクエストを頂きました。
クラウドの手が大好きなスコール、可愛いです。
大好きなので離したくない、離れたくない。
半分寝惚けつつもあるので素直にそんな気持ちが表に出てたスコールでした。