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[レオスコ]こぼれる糸の情景を

  • 2020/08/08 22:15
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心地良さと充足感で、頭が真っ白になって行く。
熱の籠った声が名前を呼ぶのを耳元で聞いて、首の後ろにぞくぞくとしたものが奔るのを感じた。
それは決して嫌悪感ではなく、寧ろ逆の性質のものだ。
身を委ねる事に恐怖に似たものを感じていたのは初めの頃だけの話で、今はそれを感じると、来た、と思って体が期待に震えてしまう。

覆い被さる躰の重みを感じながら、直ぐ其処にある頭に腕を回してしがみ付く。
力加減が出来なくて、とにかく名前を呼びながらそれに掴まっている事しか出来なかった。
指の隙間から零れ落ちて行く髪を擦りながら、スコールは無我夢中で縋る。

勝手に出て行く高い声を、自分のものだと認識するのには、何故だか酷く労が要る。
その後はしばらく躰が強張って、短い呼吸を繰り返した後、ようやく全身から力が抜けた。
そうなってしまうと今度は指一本と動かせない。

何処か靄がかかったような視界の中で、スコールは覆い被さる男がゆっくりと体を起こすのを見ていた。
隙間がないほど触れ合っていた肌が離れて、溶け合っていた熱が遠ざかる。
それが無性に寂しく思えて、捕まえようと腕を伸ばせば、心得た手がその手を柔く握ってくれた。
ああ、と安心した気持ちで息を吐きながら、体を起こした男を見詰めていると、彼は一つ息を吐いて天井を仰ぐ。
詰め込み続けた空気を肺から追い出して、代わりに新鮮な酸素を取り込んだ後、かくんと頭が下を向いた。
そうして目元に掛かる長い髪を厭うように、スコールと繋いだ手とは逆の手が持ち上がり、目元から額にかけて髪を上へと掻き上げる。

鬣のように流れる濃茶色の髪を見詰めて、スコールはほうっと熱の籠った息を零した。



体を起こす事も儘ならないスコールを、レオンは丁寧に介抱して、またベッドへと戻る。
ベッドシーツも綺麗なそれに整え直し、清潔な寝床を作ってから、レオンはスコールを其処に横たえた。
肌触りの良いシーツの感触に頬を埋めるスコール。
レオンもその隣に横になって、気怠い様子の恋人の体を抱き寄せた。

まぐわい合っての夜と言うのは、長いようで短いようで、不思議だった。
最初にベッドに入ってから、肌を重ねている間は、あっという間に時間が過ぎていく。
終わって緩やかなに過ごしていれば、今度は一分一秒が長く感じられた。
それなのに、眼を閉じて眠ってしまえば、一瞬のうちに数時間が過ぎて朝になってしまう。
その朝を出来るだけ後に伸ばしてしまいたくて、スコールはまだ眠りたくないと思っていた。

向かい合って横になっているから、二人の距離はとても近くて、暗がりの中でもスコールはレオンの顔を視認できていた。
とうに見慣れた顔をじっと見つめて、徐に腕を持ち上げ、頬にかかる横髪を摘まんでみる。
毛の流れに沿って指を滑らせながら、スコールはその毛先が自分の頬を掠める時の事を考えていた。


(……くすぐったいんだよな)


体を重ね合わせて、唇と唇を交わらせている時。
レオンの横髪がスコールの頬を滑る度、その感触にスコールは肩が震えてしまう。
それを知られると、レオンは宥めるようにもう一度キスをして、ゆっくりとスコールの唇を吸ってくれた。
怖いんじゃなくてくすぐったいだけなんだと、別に宥める必要も、慰める必要もないのだとスコールは思っているけれど、彼に与えられるキスは心地が良いから、黙っていつも受け止めている。

そんな事を考えながらレオンの髪に触れていると、瞳を隠していた瞼がゆっくりと持ち上がる。
寝てはいないと判っていたから、特に驚く事も気にする事もなく、スコールは摘まんでいた髪を指先にくるりと巻いて遊んでいた。
柔らかな蒼はその様子を視界の端に捉えると、くすりと笑みを浮かべてスコールを見る。


「楽しいか?」
「……まあ」


それなりに、と返して、スコールはレオンの耳の後ろへと手を持って行く。
レイヤーの入った髪の隙間に手を入れると、柔らかな髪の感触が指の隙間をするすると擦り抜けた。
ライオンの鬣ってこんな感触なんだろうか、知らない生き物の知らない感触を思い描きながら撫でていると、


「鬱陶しいか?」
「……何が?」


訊ねるレオンに、スコールは訊ね返す。
いや、とレオンは零してから、続けた。


「長いと色々、な。好きで伸ばしているんだが、自分でも邪魔に思う事は時々あるし」
「……」
「お前から見てどうなんだろうと、ちょっと思って」


そう言ってレオンは、髪に触れるスコールの腕に手を滑らせる。
自分の後ろ髪に埋もれる形になっているスコールの手を探り宛て、すり、と手の甲に指先を当てる。
骨の隙間をくすぐるように辿られるのを感じながら、スコールはゆるゆると首を横に振った。


「別に……邪魔とか、そう言うのは、ない」
「そうか」


スコールの言葉に、レオンは目を伏せて唇を綻ばせた。
それが心なしか安堵しているような表情に見えたのは、スコールの気の所為だろうか。
詳しい事は、訊いて良いのか判らないので、スコールには洋と知れない事だった。

それでも、レオンの長い髪は、スコールにとって厭うものではない。
覆い被さられている時、長い髪がカーテンのように周囲の視界を遮ってくれるのを、スコールは彼の世界に閉じ込められているように思えて、こっそりと気に入っていた。


「まあ……くすぐったいと思う時は、多いけど」


その事実だけは伝えておくと、くすりとレオンが笑う。


「悪いな」
「……別に」
「次からセックスする時は髪を結んでおこうか?」


冗談めかした顔で言ったレオンに、スコールは彼が髪を結んでいる時の事を思い出してみる。

長く伸ばしたレオンは髪は、平時は流れに任せるままだが、時々結われている事もある。
それは食事当番としてキッチンに立っている時であったり、風呂上がりの熱を逃がす為に首回りを開けたい時であったりだ。
大抵は首の後ろで簡単にまとめているだけなのだが、時々、変わった髪型をしている時もあった。
そう言う時は女性陣におねだりされて遊ばれている名残で、半日程度はそのままにしている。

髪を結い上げていると、首元がすっきりとしているお陰か、普段と違ったシルエットになる。
普段は鬣のように見える横顔や後ろ姿が、首筋が晒される事で無防備に見えるのか、隠されているものが見えている事が人の悪戯心を刺激するのか、賑やか組に何やら襲撃される場面も見る事があった。
それをちゃっかり躱して流してしまう当たりは、大人の余裕のなせる技か。

────セックスの時にも、髪を結んでいたら、そんな風に見える事もあるのだろうか。
そんな事を考えながら、スコールは指に絡む柔らかな髪を撫でながら、


「……いや」
「うん?
「…このままで良い」


そう言ってスコールは、レオンの胸に顔を寄せた。
胸板に鼻先を埋めながら、体の下敷きにしていた腕も伸ばして、レオンの首に絡める。
抱くようにレオンの後頭部に腕を回して身を寄せれば、手首に柔らかな髪がくすぐった。


「良いのか。構わないんだぞ、遠慮しなくても」
「遠慮はしてない。あんたの髪、嫌いじゃないから。このままで良い」


絡む髪の感触を楽しむように、スコールはレオンの髪を手櫛で梳く。
癖が付き易いレオンの髪は、後処理の為にシャワーを浴びた後、しっかりと乾かさずに布団に戻った所為で、もう寝癖がついている。
それを動物が毛繕いをするように、スコールは丁寧に梳いて解して行った。

───こうやって誰かの髪をじっくりと触るのは、初めての事ではないだろうか。
自身の履歴を振り返りつつ、先ず己から始める行動ではないなと分析しながら、スコールは柔い髪の感触を堪能する。
髪の流れに逆らうように、下から上へと掬い上げるように指を通した後で、乱した流れを撫でて直す。
何度もそれを繰り返していると、ふふ、と小さく笑う声が聞こえた。


「楽しいか?」
「……まあ」


それなりに、とついさっきも交わした遣り取りと、全く同じ言葉を交わす。
そうか、とレオンは笑みを交えて言って、スコールの背を抱いていた手を滑らせた。


「…気持ち良いな」
「……そうなのか」
「ああ。それに、少し懐かしい。誰かに頭を撫でられるのも、随分久しぶりだしな」


レオンの言葉に、そうだろうな、とスコールは思った。
時折女性陣に髪を遊ばれている時を覗けば、レオンが誰かに髪を───頭を触らせる事は先ずない。
その必要がないからと言うのもあるのだが、見た目の話として、彼より背が高い者、或いは年上の者がいないからと言う事も挙げられる。
自分は撫でられるより撫でる側であるのが、レオンにとっては当たり前の認識なのだろう。

レオンの手がスコールの後頭部に添えられて、自分と同じ色をした髪をそっと撫でる。
二人でしばらくの間、互いの髪に触っていた。
何をするでもなく、言葉を交わすでもなく、ただただ梳いて撫でてを繰り返す。
スコールは首の後ろがくすぐったいような気がして、レオンも同じ感覚なのだろうか、と考えた。
指の隙間を通り抜けていく髪を捕まえるように、緩く手を握る形にしてみれば、手の中でくしゃりと毛先が絡む。
すると後頭部でレオンが同じように髪を緩く握って、けれど短い髪はレオンの手の中にそれほど納まりはせず、するりと指の隙間を逃げて行った。

無心でレオンの髪に触れていたスコールの頬に、大きな手が添えられる。
つきさっきまで、自分の髪を撫でていた手。
それに誘われるままにスコールが少し目線を動かすと、酷く近い距離に、柔らかな笑みを湛えた男の顔がある。


「スコール」


名前を呼ばれて、呼び返そうとした唇が、レオンのそれで塞がれた。
ゆっくりと深くなっていく口付けの中で、レオンの手は頬から耳の後ろへ、後頭部へと添えられて行く。


「ん、…んん……」


舌をくすぐられる感覚に、ぞくりとしたものがスコールの首の後ろを走った。
その形跡を辿るように、レオンの指が項に触れる。

耳の奥で唾液の交わる音を聞きながら、スコールはレオンの後頭部を抱く手に力を込めた。
長い髪を弄るように掻き乱しながら、もっと、と強請る。
レオンは呼吸の為に一度唇を離した後、はあ、とスコールが一呼吸するのを確かめてから、またキスをした。

深く深く交わって行く中で、レオンが身を起こして、スコールの上へと覆い被さる。
薄く開いたスコールの視界に、薄暗がりの中で流れる髪の毛先のシルエットが見えた。
顔の横から流れ落ちた髪の毛が、スコールの頬を、首元をくすぐって行く。


「ふ…、あ……っ」
「は……っ」


互いの味をたっぷりと堪能して、レオンはスコールを開放する。
仰向けになっていたスコールは、レオンの首に腕を回して縋る格好のまま、天井を仰いではふはふと足りなくなった酸素を懸命に取り込んだ。

落ち着いたスコールが正面を見上げると、じっと見つめる蒼の瞳とぶつかった。
其処に再びの熱が灯っているのを見て、明日も早いんじゃなかったのか、と思ったが、体が熱いのはスコールも同じだ。
しっかりと引き締まった腰に、するりと膝を摺り寄せれば、悪戯な肢体に判り易くレオンが興奮するのが伝わった。


「……レオン」
「もう一度だけ、な」
「……ん」


一度で本当に終わるのか、とは聞かなかった。
夢中になったら、どちらも終われないだろうし、その頃には口約束など忘れている。
それより今は、目の前にある熱が欲しい。

また重ねられ行く唇を、スコールは夢現に堕ちる心地良さの中で受け止めた。
何度目か、顔をくすぐる髪の毛の感触に、じわりと燻る熱が燃え上がるのを自覚する。
指に絡む長い髪を掬いながら、もっと深く、もっと来てと急かしてやれば、レオンの手もスコールの髪をそっと撫でた。
それが我慢の利かない子供を宥めているようで、少し癪に障る気もしたが、撫でる指先の感触は相変わらず気持ちが良い。

でもどうせなら熱を煽って欲しい───と、スコールは情事の最中を思い出させるように、指の隙間で散らばる髪を緩く握って引っ張った。





『レオンの髪の毛を触るスコール』のリクエストを頂きました。

スコールからレオンの髪を触る時ってあまりなさそうなので、どういうシチュエーションかな~と思った末に、やっぱりいちゃいちゃしてる時だね!という結論。
夢中になってしがみついた時、髪を掴んでしまってるって言うのが好きです。

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