[絆]頑張れ、学生 1
「もう無理。マジ無理。うぁああああ……」
「ティーダ、煩い」
何度も何度も繰り返される悲愴な声に、スコールはけんもほろろに言い捨てた。
いつものようにガーデンでの授業を終え、帰宅したスコールとティーダは、直ぐにスコールの家で教材を広げた。
今週末に行われるテスト対策の勉強をする為だ。
成績優秀で知られているスコールだが、それは本人の努力の賜物であった。
文系理系に関わらず、スコールは努力を怠らず、授業は真面目に履修し、家に帰ったらその日一日の授業内容をまとめて復習し、更に明日の授業の予習も欠かさない。
戦闘実技も、授業は勿論、レオンが暇を見ては手解きをしてくれ、これもスコールは真面目に教えて貰っている。
その甲斐あっての、学年トップクラスの成績を誇っているのである。
対してティーダの方は、典型的な運動バカ、とスコールが揶揄する程、体を動かす以外の成績はからっきしであった。
成績表なんてものは、それを体現したような代物で、10段階評価で体育・戦闘実技のみが10、他は1〜3と言う有様だ。
お陰でティーダのテストは、毎回のように赤点が並び、父親であるジェクトでさえこれに関しては揶揄よりも真面目な溜息を漏らす程だ。
テーブルに突っ伏して頭を掻き毟るティーダは、今直ぐにでも脳が破裂しそうなほどに苦悩していた。
スコールはそれを無視して、自分の手元にあるノートを確認して行き、ガーデンの図書室でコピーした科学の問題集を解いていた。
「無理!判んない!」
「じゃあ他の問題を先にやればいいだろ」
「全部判んないんスよ〜!」
泣きながら言われても、スコールは溜息しか出て来ない。
このまま煩く騒がれるのも面倒だし、此方も集中できない。
スコールは仕方なく、頭を上げて、ティーダと向き合った。
「今やってるのはどれだ?」
「問4の五番目」
「…この間レオンに習った所じゃないのか。判ったって言ってただろ」
「あの時は判ったんスけどね……」
スコールの眉間の皺が深くなる。
あの日、レオンはたまの休日だと言うのに、スコールとティーダの勉強の面倒を見ていた。
休んでて良いのに、とスコールは思っていたのだが、ティーダにとっては幸いで、判らない所を何度も質問して教えて貰っていた。
レオンが根気強く付き合ってくれたお陰で、ティーダも問題の解き方を理解する事が出来た─────筈だったのだが。
また判らなくなっちゃった、と愛想笑いを浮かべるティーダを、青灰色がじろりと睨む。
その眼光から逃げるように、ティーダがノートで顔を隠した。
ガチャリ、と玄関のドアが開く音がしたのは、その時だ。
「ただいま」
「……お帰り」
「何してるんだ?ティーダ」
「……なんでもないっス。お帰り」
ティーダはノートを顔から話してテーブルに戻し、判り易く溜息を吐く。
転がしていたシャーペンを取って、また唸りながら問題を見下ろした。
レオンは、手に持っていたガンブレードケースをリビングの隅に下ろし、弟達のいる窓辺のテーブルに近付く。
テーブルに片手を乗せて、二人の手元を覗き込めば、ティーダが大嫌いな科学の問題。
思い付く公式を書いては消して、繰り返された作業の後が残っている。
「う〜レオン〜……」
「悪いな。ついさっきジェクトから電話があって、甘やかすなと言われたばかりだ」
「あのクソ親父!」
ジェクトは今、ブリッツボールの試合でザナルカンドに行っている。
定期的にレオンかスコールの下に連絡を寄越してくるので、バラムガーデンが現在テスト期間に入っている聞き及んでいた。
ジェクトでさえ、ティーダの成績の悪さには頭を痛めている。
それでいて、レオンに勉強について甘やかすな、と言うのは、レオンが率先して教える事で、反ってティーダが自分自身で勉強して覚えようとしなくなる、と言う事を危惧しているからだった。
レオンとしてもそれは気がかりなので、ジェクトに注意を貰って暫くの間は傍観姿勢を取る事にしている。
泣き崩れる幼馴染を見て、スコールは呆れた。
仕方なく、自分の手元にあったノートをティーダに差し出す。
「……スコール?」
「使っていい」
「でもスコールの勉強」
「俺は今から魔法物理をやる」
だから科学のノートは必要ない、と言って、スコールはティーダの前にノートを置いた。
スコールにとっては、ただ授業内容を自分なりに見易くまとめただけのノートなのだが、これがティーダにとっては神から与えられた救済アイテムのように光り輝いて見えた。
ティーダは震える手でノートを手に取って、高揚した表情でスコールを見詰める。
「スコール、愛してるっス!マジで!」
「いいから早くやれ」
素っ気なく言い捨てた弟の耳が赤い事は、黙って置くべきなんだろうな、と二人を眺めてレオンは思った。
レオンは基本的に弟達に甘いです。ベタベタに。たまには自重しないと…と思いつつ、結局甘やかす。
スコールは「甘えちゃいけない」と思いつつやっぱり甘えたい、ティーダは甘えたい時や頼りたい時は隠さない。
……ブラコンしかいないからこうなる。