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[フリスコ]手のひらがくれるもの

  • 2022/08/08 22:10
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


目が覚めた時、酷く体が重かった。
まるで長い間、重石にでも浸けられていたかのような怠さで、起き上がろうとするのも面倒に感じる。
しかし今日の予定は詰まっているから、起き上がらねばなるまいと思って、出来なかった。
頭の奥がくわんくわんと揺れているような感覚があって、ああ多分これは駄目だ、と思った。
何がどう駄目なのか、と言う理屈まで考えることは出来なかったが、感覚的に駄目だ、と言う結論が見えたのだ。
取り敢えず、この泥沼に沈んでいるような感覚が消えるまでは、碌に動ける気がしなかった。

────二日前の話だ。
一人索敵に出ていたスコールは、南北の大陸を繋ぐ細道の袂で、複数のイミテーションに遭遇した。
両陣営の境目でもある其処で退く訳にはいかない、これ以上の数が増える前に殲滅するのが良策であると判断し、戦闘を開始する。
イミテーションの練度はバラバラで、一発で仕留められるような物もあったが、その奥には司令塔を担う皇帝のイミテーションがいた。
本物とよく似て、いやらしいトラップ魔法を幾つも仕掛けるそれを倒す為、スコールは少々の無茶を押し通した。
敢えてトラップを避けずに突き進み、逃げようとするターゲットに最短距離で肉薄する。
こうしてイミテーションの群れは、一体残らず殲滅したのだが、その時に少々深手を負ったのだ。
勿論、そのまま放置していた訳ではなく、応急処置を施して屋敷に戻ることにしたのだが、皇帝のトラップ魔法と言うのは、後から効いて来る代物もある。
恐らく、毒魔法と掛け合わせて仕込まれていたのだろうその効果が、帰還した後になって、じわじわとスコールの体を蝕んだのだ。
帰還してから一夜が過ぎ、毒は体をすっかり巡り、発熱と言う形でスコールの体を苦しめた───と言う訳だ。

……それから次にスコールが目を覚ました時、部屋の中は薄暗かった。
傍らには、タオルを絞っているフリオニールがいて、スコールの看病をしていた。
ベッドの住人が目覚めたことを知ったフリオニールは、急いでバッツを呼びに行き、容体を診せる。
バッツはスコールの様子をよくよく観察した後、


「うん、大丈夫そうだ。毒ももう抜けてるしようだし」
「そうか。良かった」
「微熱っぽい感じもするけど、昨日に比べれば全然マシだ。これも直に下がるんじゃないかな」


バッツの言葉に、本人以上にほっとした様子で、フリオニールは胸を撫で下ろす。

一応これは飲んどいてな、とバッツは煎じた薬を置いて、スコールの部屋を後にした。
残ったフリオニールが椅子に座り、ベッドヘッドに背中を預けて座っているスコールを見て笑みを浮かべる。


「昨日は中々熱が下がらないから心配したよ」
「……そんなにか」
「氷嚢が足りなくなるんじゃないかと思った」


フリオニールはそう言うが、スコールは全く思い出せない。
酷い高熱に魘され、毒も回って意識がほぼなかったのだから無理はないだろう。
しかし、肩やら腕やら、背中やらが痛むのは、恐らくその所為なのだ。
意識朦朧として、寝返りも打てない程に重くなった体は、ただただベッドに預けるしか出来ず、その内に体の筋肉が固まってしまったのだろう。
少し体を動かして解したい、と思うスコールだったが、


「今日の所は、まだ大人しくしていた方が良いぞ。ぶり返す可能性もあるからって、バッツが言ってたからな」
「……判った」


バッツがそう言うのなら、今日の所はあまり動かない方が良いだろう。
そうしないと、よく効くから早く治る、と言って、酷く苦い薬を飲まされることになる。
今サイドテーブルに置かれて行った薬だって、彼の手ずからもので、恐らく苦いだろうと想像がつくのに、それ以上のものは御免被りたい。

それでもせめて柔軟くらいはしないと、体のあちこちが痛くて、ゆっくり休める気がしない。
横になった状態で出来るものがあったよな、と思い出しつつ、布団を引き上げる。
そんなスコールに、フリオニールは「着替えた方が良いよな」と、予備の寝間着を渡した。


「飯は食べられそうか?」
「……腹は減ってる」
「はは、昨日は水しか飲んでないもんな」


空腹を感じる、食欲があるのなら十分だと、フリオニールは言った。

着換えを終えたスコールは、ベッドに横になって、布団の中でごそごそと体を動かしてみる。
出来れば立ってやりたかったかが、バッツと言い、フリオニールと言い、まだベッドから抜け出すことは赦してくれそうにない。
肩と背中だけでも解せばマシになるだろう、と寝返りを打った所で、ふと見下ろす紅を見付ける。

スコールを見詰めるフリオニールの表情は柔らかく、ほんのりと甘い。
恋人同士と言う関係になって以来、二人きりの時に彼がそんな顔をするのは珍しくはなかったが、正面からそれを見付けてしまうと、どうしてもスコールは意識してしまう。
見なかったふりをして反対側に寝返りを打つと、今度は其方に戻るのが難しくなった。
猫の伸びのように腕を伸ばして気分を誤魔化していると、項にかかる髪を払う指の感触を感じ取る。


「……良かった。元気になって」


零れたその声は小さくて、ひょっとしたら独り言だったのかも知れない。
けれども、聞こえてしまうと勝手に耳が熱くなって、スコールは胸の内を隠すように蹲る。

温度を確かめるように、フリオニールは何度もスコールの首筋に触れた。
覚えていないが、相当な高熱だったと言うから、昨晩はかなり汗を掻いたのだろう。
後ろ髪の生え際が少し湿っているような感覚があって、そこに髪がまとわりつくのが鬱陶しいのだが、フリオニールが指を滑らせる度、隙間が空いて肌が外気に触れる。
じわじわとしたくすぐったさに首を竦めても、フリオニールはただの身動ぎにしか見えないのか、滑る指は離れなかった。

フリオニールの指は、その背でスコールの首横を撫でて、耳元を掠めた。
とくん、とスコールの胸の内で鼓動が一つ、高鳴る。
そろ、と振り返ってみると、やはり甘くて柔いルビー色が、じっとスコールの顔を見つめていた。


(……あ、)


その目が、色が、ほんのりと熱を持っているのを見付けて、またスコールの鼓動が鳴る。
久しく重ねていない熱の記憶が蘇り、じんじんと体中に広がって行くのが判った。

スコールに熱を呼び覚まさせた当人はと言えば、何処までも優しい表情で見下ろしている。
相当な心配をかけたのだろうと思うと、俄かに申し訳ない気持ちにもなって、目を反らし続けているのも聊かばつが悪くなった。
もう一度寝返りをして、フリオニールと向き合うポーズになると、柔い瞳が愛おしそうに細められる。


「……フリオニール」
「ん?」
「……悪かった」


心配と手間と、恐らく随分とかけたのだろうと詫びれば、フリオニールは眉尻を下げて笑う。
良いよ、と言葉なく告げながら、フリオニールはスコールのまだほんのりと高い体温を確かめるように、何度もその頬を手のひらで撫でた。

新陳代謝が良いのか、フリオニールの体温は、スコールの体温よりも少し高いものだった。
それが今はスコールが微弱ながら発熱している所為だろう、頬を撫でる手が僅かにひんやりと感じられる。
温かい彼の体温が好きなスコールにとっては少々残念だったが、しかし今はこの手の冷たさも心地良い。


「夕飯は消化の良いものにしような」
「……あんたが作るのか」
「うん」
「……そろそろ作り始めないと、間に合わないんじゃないのか?」
「ああ、いや。皆の飯はもう作ってあるんだ。だからこれから作らないといけないのはスコールの分だけだし、そう時間はかからないと思う」
「……」
「スコールは、ちゃんと目が覚めてからじゃないと、食べれる状態かも判らなかったしな。まあ、先に何か作っていても良かったんだけど……」


フリオニールの言葉に、気を遣わせているな、とスコールは眉根を寄せる。
そんなスコールを見て、フリオニールは殊更優しく、火照りぎみの頬を撫で、


「……スコールが起きるまで、俺が此処にいたかったんだ。目が覚めた時、すぐに気付けるようにって」


秩序のメンバーの半数は、傷病人の看病と言うものに慣れている。
科学レベル、医療レベルの差により、知識はそれぞれ分野で差別化されるが、一般的な手法は何処もそう変わらない。
毒の心配があった時にはバッツやセシルに看病を任せるしかなかったが、それも落ち着いたら交代を申し出た。
氷嚢を用意したり、体を拭いてやったりと、フリオニールもその位のことは出来る。
熱に魘されるスコールの様子は見ていて辛いものではあったが、僅かに目を覚ました時など、すぐに求めるものに応じれるようにしたかった。
そうして甲斐甲斐しく看病したお陰で、スコールは無事に山を越えたのである。

そう言えば、時折ふっと意識が浮上した時、フリオニールの声を聴いたような気がする。
熱に魘された頭は、それを夢だと認識していたが、ひょっとしたら、本当に彼の声だったのかも知れない。


(……あまり覚えてないけど)


朧な記憶を、今になって酷く勿体無く思う。
もっとはっきりと覚えていれば、頬に触れる手が酷く大切そうに撫でる理由も、もっと判ったかも知れないのに。

頬から離れようとしない手に、スコールはそうっと自分の手を重ねた。
ぴく、とフリオニールの指が微かに震えたが、構わず柔く捕まえて、掌に唇を宛がう。
微かに舌先を出して、皺のある場所を舐めてやると、


「……スコール」
「……」
「駄目だぞ」


恋人の甘い誘いを、フリオニールはきちんと受け取ったようだ。
その上で、駄目だ、としっかり釘を刺してくれる彼に、スコールは拗ねた顔を浮かべる。


「まだ熱があるんだぞ」
「……平気だ」
「駄目だ。……ちゃんと治ってからにしてくれ。無理させたくない」


フリオニールのその言葉は労わるものであった。
が、スコールはと言うと、そうか無理をさせられるのか、と独り言ちる。
それ位に、フリオニールの方も、スコールの事を求めてくれているのだと思うと、面映ゆい。


「……判った。今日は寝る」
「ああ」
「……それまで、……」
「うん」


スコールが俄かに口を噤んでも、フリオニールはその先をきちんと理解してくれる。
此処にいるよ、と言って、頬に触れた手がまたゆっくりと肌を撫でた。





『フリスコ』のリクエストを頂きまして。
リク下さった方が病み上がりと言う事で、病み上がりでいちゃいちゃするフリスコが浮かんだのです。
治ったら存分に無理させてくれると良いと思います。

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