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[ウォルスコ]腕の中の猫

  • 2023/01/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



各地に点在する歪の見回りは、秩序の陣営にとって、聊か面倒ではあるが欠かせないものだった。
歪の中で発生すると思われるイミテーションは、ともすれば大群となって秩序の聖域を襲いに来る可能性も否めない為、危機回避の常套手段の一つとして、定期的に行う必要がある。
また、イミテーションが増加し続けると、その歪は混沌の領域の影響も濃く受けるようで、混沌の戦士の領域になり得る。
混沌の戦士はこうした歪を利用し、歪を中間地点とした移動を行う事が出来る為、下手をすれば秩序の陣営の懐に簡単に足を運ぶ事も可能となるのだ。
ウォーリアが日課のように、秩序の聖域を中心とした広範囲を見回りを当てているのは、こうした理由もある。

平時であれば、ウォーリアの見回りは、彼自身の都合と裁量で行われている。
混沌の大陸への遠征が入れば別の者が行くが、そうでなければ、誰も言わずとも彼の仕事となっていた。
だが、秩序の聖域の周辺と一言では言うが、その範囲は非常に広い。
混沌の力の影響が強いのは、方角で言えば海の向こうにある北の大陸側であり、また其処と唯一陸続きになっている東部の陸棚が両者の境界線となっているが、それ以下の南部側も大陸と呼んで十分な大きさを持っていた。
この為、他の戦士達も、折々の予定との擦り合わせをしながら、向かった先で赤い紋章の歪を見付ければ、その解放を率先して行っていた。

歪の中は、混沌の力に侵食されてから長い時間が経ったもの程、安定性を喪っている事が多い。
そう言う場所では、空間の不安定さに影響されてか、出入口が一つではない事もあった。
全く異なる地点にある歪が、中に入ってみると同じ空間として繋がっていたり、中を散策している最中に見付けた孔から出てみると、見知らぬ場所に迷い出たり。
出入口が安定してくれていれば、秩序の面々もテレポストーン代わりに使う事も出来たかも知れないが、それはそれで、混沌の戦士の奇襲攻撃にも利用されそうで、一長一短か。
そんな話も出る事はあるが、結局の所、歪は何処もある程度は不安定だと言う事に変わりはなく、火山の火口の真上や、海の真ん中に放り出されるかも知れないと言う恐ろしさもある訳で、秩序の面々としては、余程の緊急時でもなければこれを移動手段と使う事は推奨されない。

ウォーリアが今日の見回りで入った赤い歪も、この類だった。
いつから出現していたのか、それとも何処か別の出入口が混沌の支配側にあって、それが此処まで拡がって来たのか────理由は不明だが、何であれ見付けた以上は放っておく訳にはいかない。
入ってみれば予想通り、イミテーションが蔓延っていたのだが、其処にいたのは人形だけではなかった。

ウォーリアが歪に入った時、其処は既に戦闘の痕跡があった。
砕かれた水晶の破片と、倒れた石柱の残骸が入り交じる向こうに、まだ闘いの音が聞こえていた。
独特の焦げる音と、火薬を炸裂させる音が短い間隔で何度も響く。
他にない独自の構造を持った武器にのみ発されるそれに、ウォーリアがイミテーションと戦っているのが誰なのかを直ぐに理解した。
同時に、今朝、彼と共に出立した筈のメンバーがいない事にも気付き、ウォーリアは直ぐに音の方向へと向かう。

スコールは、四体のイミテーションに囲まれていた。
イミテーションの動きが遠目にも洗練されている事から、上級種か、何らかの変異種である事が見て取れる。
入れ替わり立ち代わりに襲い掛かるそれらを往なす剣捌きは確かなものだが、あれら以外にも相手取っていたのだろう、スコールの剣筋には微かに疲れが出ている。
数の不利にある上、持久戦に持ち込まれているようで、スコール一人では打開策を練るのも難しいだろう。

ウォーリアは剣を構え、強く地面を蹴った。
一足に肉薄した新たな敵を、人形は感知するだに攻撃の姿勢を取ったが、ウォーリアの方が早かった。
魔人の姿をしたその体を袈裟懸けにすれば、イミテーションはノイズのような声を鳴らしながら砕け散る。
それによってスコールも乱入者に気付き、


「────任せる!」
「ああ」


ウォーリアの参戦によって、ターゲットを切り替えたのは、幻想と皇帝。
ならばとスコールは二対をウォーリアに預け、距離を取っていた妖魔に向かって突進した。

幻想の猛攻は此方の手を封じんとする程の乱打であったが、ウォーリアの重鎧は十分に対抗を発揮した。
鎧を通しても響いて来る重みのある一撃は痛いものだが、決定的な有効打としては届かず、ウォーリアは防御を捨てた幻想に容赦のない一撃を叩き込む。
その隙に罠を張り巡らせた皇帝であったが、ウォーリアはそれらを敢えて起爆させる事で、周辺に散らばっていた瓦礫を粉塵にした。
イミテーションの一部は探知能力に優れたものがあるが、それでも多くは視覚情報らしきものを頼りにしている。
舞い上がる粉塵によって視界を遮られ、文字通り人形のように立ち尽くす皇帝は、本物よりもいやに楽に制する事が出来るものであった。

二対のイミテーションを倒し、晴れて行く粉塵の向こうに目を配らせると、スコールが片膝をついていた。
ガンブレードを支えに、肩で息を荒げている彼の下へと向かう。


「スコール、無事か」
「……ああ」


疲れ切った様子で、スコールは辛うじて返事を寄越した。

中々喘鳴の落ち着かないスコールを横目に、ウォーリアは改めて周囲を見渡す。
残存勢力の気配はなく、砕かれ転がる石柱の残骸の他は、それらよりも小さく細かく砕け散った人形の破片がきらきらと光っているだけ。
その宝石のような光が、空間のあちこちに散らばっているのを見て、元は相当の数が蔓延っていたのだと判る。

そんな場所に、この青年は、一人で。
幾らなんでも無謀が過ぎる戦い方に、ウォーリアの整った眉間に皺が寄せられる。


「……君は、一人で此処に?今朝はバッツとジタンが一緒にいたと思ったが」
「………、」


ウォーリアが尋ねると、スコールは一つ大きく息を吐く。
答える為の呼吸を整えると、汗の滲む顔を上げ、


「……空間が歪んだ拍子に、逸れた」
「成程」


一人でいたのは故意ではなく、事故。
スコールはウォーリアを睨むように見つめて、険の抜けない表情でそう言った。

ならば軍勢を相手に孤独の戦いを続けていたのも仕方がない。
寧ろ、そんな状態で、ウォーリアが乱入するまで無事に戦い続けていた事に称賛と労いを送るべきだろう。
ガンブレードを杖替わりにして体を起こすスコールは、誰が見ても判る程に疲労困憊している。
一撃が重い上に攻撃スパンの早い幻想や、罠を張り巡らせて接近を厭う皇帝、遠距離から中距離で魔法を撃って来る妖魔────近距離と手数を持ち場とするスコールにとっては、相性の悪い相手ばかりだ。
他に何を模したイミテーションがいたのかはウォーリアには判らないが、よく斃れずに持ったものだ。
そして、スコールが何処からこの歪に入ったのかは知らないが、ウォーリアが入ったものと空間が繋がったのは、不幸中の幸いと言える。

げほ、と咳を零しながら、スコールはガンブレードを杖替わりにして立ち上がる。
が、戦闘を終えて緊張の糸が切れたのか、その躰はふらふらと揺れて、今にも頽れそうに見えた。


「スコール。無理をしない方が良い。疲れているのだろう」
「……だからって、こんな場所に長居するものじゃないだろ」


諫めるウォーリアに、スコールは真っ当に反論した。
此処は暗闇の雲の領域ともなる、『闇の世界』だ。
安定した足場があるかと思ったら、突然空間が変容して、全体の形が変わってしまう事も多い。
イミテーションを全て倒したからと言って、ゆっくりと腰を下ろして休息できる場所ではないのも確かだった。

ともかく出ない事には、とスコールは出口を探して歩き出すが、やはりその背中は重い疲労が滲んでいる。
その上、ウォーリアの鼻孔に、火薬の匂いに混じって血のそれが含まれていた。


「待て、スコール。怪我をしているな」
「……大したものじゃない」
「出血している。治療をしてから────」
「悠長なことが出来る場所じゃない。後で良い」


ともかく歪からの脱出が優先だと言うスコールの言葉は正しい。
だが、無理をしていると判る歩き方をしている仲間を放って置く訳にはいかない。

ウォーリアは足早にスコールへと近付くと、まずその腕を掴んだ。
疲労で意識も散漫としていたからか、スコールは鎧の音を鳴らしながら近付いたウォーリアにも気付いていなかった様子で、目を丸くして振り向いた。
掴んだ故に判ってしまう、細くも感じられる腕には、碌な力も入っていない。
それを強く引き寄せて、案の定がくんと体勢を崩したスコールの背を、ウォーリアの腕が受け止める。
重力に従って倒れ込もうとする背中を掬い上げながら、逆の腕をスコールの膝裏に引っ掛けて持ち上げれば、存外と軽い体重が両腕にずしりと乗った。


「は……!?」


引っ繰り返った声が上がったが、ウォーリアは気にしなかった。

抱えた人物の体勢が安定するよう、腕の位置を調整しながら、つい先程走った道を逆に向かう。
あれからまだ時間も経っていないし、空間の変容も起こっていないので、ウォーリアが侵入に使った出入口も同じ場所にあるだろう。
傷のあるスコールの体に障らないように気を付けながら、その治療を急ぐ為、ウォーリアの足は自然と早くなる。

が、抱えられた人物がもがいていては、やはりその速度も落ちると言うもの。


「じっとしていてくれ、スコール。落としては怪我をする」
「じゃなくて、下ろせ!自分で歩く!」
「疲れているのだろう。無理をするな」
「してない!良いから下ろせ!」


握った拳でウォーリアの肩を叩き、訴えるスコール。
しかし、重い鎧をまとったウォーリアの肩を幾ら殴った所で、金属の固さが手袋越しにじんと響いて来るだけだ。
抱えられた足元は、ばたつかせれば少しは効果があるだろうが、其処には真新しい傷があった。
正にウォーリアが感じ取った匂いの元であるそれは、何処でどう負ったものかは最早判らないが、それなりに深さがある。
横にいるのがウォーリアだと言う事もあって、弱味を見せまいと意地で歩行しようとしたが、実の所、十分に痛みが出ているのだ。
歩かなくて良かった、とでも言いたげに傷がじんじんと無遠慮な痛みを訴えるものだから、スコールはそれに耐えるに意識を持っていかれてしまう。


「……っ」
「直ぐに外に出る」


傷の痛みに顔を顰めるスコールに、ウォーリアは宥めるように言った。
スコールは「……くそ、」と忌々しげに呟いた後、ようやくウォーリアに寄り掛かるように体の力を抜いた。

思った通りの場所にあった出入口から歪を脱出する。
清廉な青い紋章を浮かばせる歪を背に、ウォーリアは手近な木の根元にスコールを下ろした。
匂いの元と思われるズボンの裾を捲り上げると、足に裂傷と火傷がある。
痛みに耐えて脂汗を滲ませているスコールに、ウォーリアはケアルをかけた。
魔力に長けた者程、効果が望めるものではないが、応急処置程度には効くだろう。

その甲斐あってか、痛みに歪んでいたスコールの表情は、僅かずつ鎮静されて行く。
強く寄せられ皺を浮かせていた眉間も緩み、蒼の瞳が微かにほうっと安堵した色を滲ませた。
しかし、見た目よりも傷が深いのか、負ってから戦闘が終わるまで強引に酷使した所為か、出血はまだ止まらない。
ウォーリアは背に垂れるマントを破り、包帯替わりに傷を覆う。


「簡易だが、一先ずはこれで」
「……十分、だ」


疲れた様子で、スコールは小さく答えた。
はあ、と枝に覆われた空を見上げるスコールの体は、疲労によって見るからに重い。
しばらくは、自力で立ち上がる事も出来ないだろう。

ならば、とウォーリアはもう一度、スコールの体を抱き上げる。
うわ、と言う声にやはり構わず、落とさないように、また出来るだけ揺れを軽減させられるようにと腕の位置を調整していると、


「おい……」
「なんだ?」
「………いや、良い」


何か言いたげな表情のまま、スコールは溜息を吐いて、口を噤んだ。
ウォーリアが首を傾げると、「……何でもない」と念を押すように言う。
眉間にはウォーリアが見慣れたものより深い皺が浮かんでいたが、スコールはそれきり黙ってしまった。

常よりも早い歩調で秩序の聖域へと向かうウォーリア。
その腕の中で、スコールは漏れる溜息を堪えながら、諦めた顔で目的地への到着が一分一秒でも早い事を祈る。
願わくば、誰かにこの状態を見られる事のないように、とも思いながら。




1月8日と言う事で。
ウォル&スコ時代のウォルスコの温度差も良いなと思って。
お姫様抱っこされてハァ!?ってなるスコールと、特に意識している訳ではなく傷に障らないように安定させるならこれだと躊躇なくそれを行うWoLが見たい人生。

WoLにとっては幸いな事に、帰った所でちょうどジタンとバッツもいて合流するんだと思います。
そんでスコールが色々冗談でからかわれてる内に、意外と居心地良かったとか思ってたことに気付いたりする流れが好き。

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