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[フリスコ]フリープランをご希望です

  • 2023/08/08 21:25
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



改めてデートなどと言われると、何をすれば良いのか、フリオニールは全く判らなかった。

フリオニールがスコールと恋人同士と言う関係になってから、早三ヵ月。
お互いに学業が忙しい上に、一人暮らしのアルバイターと、父子二人暮らしで家事の一切を引き受けている身であるから、存外と一緒に過ごす時間を自由には出来なかった。
一番ゆっくりと時間を共有できるのは、学校が終わった放課後の帰路くらいのものだ。
それもフリオニールはアルバイトで、スコールは教員に呼ばれて雑用を手伝わされることも多いので、回数も多くはない。
よくそんなので平気だなぁ、と言ったのはジタンだったか。
フリオニールとて平気な訳ではなく、もっとスコールと話が出来たら良いのにとは思うのだが、お互いにやらねばならない事を投げ出して私事を優先できない性格なものだから、仕方がないと諦め混じりと言うのが本音であった。

平日はそれで仕方がないとして、休日はどうなのだと聞かれると、あまり変わりはない。
苦学生なフリオニールにとって、アルバイトは日々の生活と勉強の為には欠かせないし、雇用主もそんな彼の内情を知っているから、規則を破らない程度に仕事日を多めに入れてくれている。
週に一度は休みを貰ってはいるものの、それ以外では閉店時間まで詰めているのが常だ。
その所為なのか、ただのアルバイトなのに、フロアのチーフリーダーよりも店の事に詳しくなってしまった。
お陰で助かってるよ、と給料を少しばかり上乗せしてくれるのは有り難いもので、フリオニールは恩返しの気持ちも込めて、出られる日にはなるべく応えようと思っている。

スコールの方はと言うと、フリオニールに比べれば時間の自由は利く方だった。
だからと時間に余裕があるとは言い難く、家事を熟して、勉強をして、更に将来に向けた資格試験の勉強もしているので、これが中々時間を占領してくれる。
フリオニールには聞いた事もないような、専門的な国家資格を取得するつもりらしく、毎年実施されるその試験の合格者は、全体の10%を切ると言う難関だ。
まだ高校生のスコールは、認定試験を受ける事は出来ないが、今からでも学んで置かなければ足りない、と言う程だとか。
目の前の日々を生きる事で精一杯のフリオニールには、とても出来ない事だ。
だから彼もとても忙しい身な訳で、フリオニールはそんなスコールを邪魔したくないと思っている。

お互いがお互いの事情を知っている上で、迷惑はかけたくない、と一歩を踏み込む事を躊躇するのが、フリオニールとスコールだった。
それで当人たちは良いと思っているのだが、周りの方がそれを黙って見ていられなかった。
そう広くはない交流関係の中から、じれったい、と言い出した面々が、フリオニールの知らぬ間に、あれよあれよとお膳立てをしてくれたのだ。
よく気の回る友人達のお陰で、スコールの方のスケジュールもいつの間にやら押さえられ、二人のデート日が決まったのであった。

そして日々は恙なく回り、デートの日がやって来る。
フリオニールは、不格好にならない程度を意識した私服で、待ち合わせの駅前広場に来ていた。
人の往来の多い真ん中で、賑々しさに少し落ち着かない気分になりながら、待ち人を探して辺りを見回す。


(スコールの事だから、10分前には来ると思うけど。そろそろかな)


時刻は、午前10時前。
生真面目な性格のあるスコールだから、予定された時刻よりも早くに来るのは想像に難くない。
もしも遅れるような事があれば、必ず何か連絡がある筈だ。

なんとなくそわそわとした気持ちが沸いて来て、フリオニールの踵がコツコツと地面を鳴らす。
緊張しているのだろうか、と自問して、そうだな、と納得した。


(こんなの、初めてだ。何を話せば、何をすれば良いのかも、よく判らないし)


二人が恋仲になってから、放課後以外で一緒に過ごすのは、これが初めての事だ。
そんな機会が訪れるとも思っていなかった所があるから、少しの戸惑いもある。
けれども、きっと自分では中々用意しようともしなかっただろう貴重な時間だから、出来れば大事にしたいと思う。

ただ、どうすれば大事にした事になるのか、これから来るであろうスコールに楽しい思いをさせる事が出来るのかが判らない。
場所は都心の真ん中、若者の街と呼ばれる区域だから、何処で何をするにも選択肢は多い筈だ。
しかし、元よりそう言うものに特別惹かれる性質でもなければ、興味を持って情報を追う事もしないので、何処に何の店があるのかも知らなかった。
スコールが楽しんでくれたら、とは思うものの、では何をすれば良いかと言う、具体的な所は全く浮かばないのだ。
昨日のうちにもう少し調べておけば良かったな、と遅蒔きに反省する。

そんな事を考えている所に、背にした街路樹の向こうから、聞き慣れた声。


「フリオニール」
「ああ、スコール。おはよう」
「……ん」


待ち侘びていた恋人の到着に、フリオニールの頬は自然と綻んだ。
高い位置へと上り行く太陽の光を受けて笑むフリオニールに、スコールは小さく頷いて隣に並ぶ。


「遅くなった」
「そんな事ないだろ。時間より早いし」
「あんたは俺より早く来てる。もっと早く来れば良かった」
「俺は、やる事がなかったからさ。この辺りもあまり来た事がなかったから、迷って待ち合わせに遅れでもしたら悪いなと思って」


待たせたことを詫びるスコールを宥めながら、実の所は、家でじっと時間を待っているのが落ち着かなかっただけなのだ。
初めてのデートと言う事実に、どうにも心臓が跳ねるから、誤魔化すような気持ちで家を出た。
道中もずっと心は落ち着かなくて、何をしよう、何処に行こうと考えていたのだが、結局、今の今まで何もスケジュールは固まっていない。

ええと、とフリオニールは頬を掻きながら、久しぶりに目にした私服姿のスコールを見る。
学校の制服は、上から下までいつもきっちりと着こなすスコールだが、私服はもう少しラフだった。
羽織った薄手のジャケットの前は開けており、首元には銀色のリングを通したネックレスが光っている。
ダメージジーンズなんて穿くんだな、と学校での真面目な印象とはまた違う服装に、なんでも着こなすよなあ、とフリオニールは思った。

頭のてっぺんから爪先まで、しげしげと眺めていたフリオニールに、スコールはことりと首を傾げる。
その眉間に皺が寄って、「なんだよ」と言う気持ちが目に出ているのを見付け、フリオニールははっと我に返った。


「す、すまない。スコールの私服ってあまり見ないから、ちょっと、新鮮で」
「……」


フリオニールの言葉に、スコールは自分の格好を見た。
眉間の皺が一層深くなり、心持ち拗ねたように唇が尖り、


「……おかしいか」
「いや、全然。よく似合ってる」


スコールの小さな呟きに、フリオニールは首を横に振った。
真っ直ぐに正直な感想を伝えれば、スコールの白い頬に朱色が上って、それを隠すように視線が逸らされる。

横を向いたスコールの耳には、小さなピアスが光っている。
学校では校則がある為に身に着けていないが、其処に小さな穴が開いている事は、フリオニールも知っていた。
触れると柔い耳朶を飾る銀が、スコールの耳の赤みをより強調しているように見えた。
それを見ていると、なんとなくフリオニールも照れのようなものが沸いて来て、熱を感じる頬を誤魔化すように指で掻く。

────さて、いつまでも待ち合わせ場所に留まっていても仕方がない。
折角だから何処かに出掛けるのが良いとは思うが、フリオニールには何も当てがなかった。


「なあ、スコールは何処か行きたい所とかあるか?」
「……行きたい所?」


訊ねるフリオニールに、スコールが鸚鵡返しにして首を傾げる。


「その、何処に行こうかって色々考えはしたんだけど、俺、この辺りのことはよく知らないから、何があるのかも判らなくて。スコールに何かやりたい事があるなら、それをしようかなと思って」
「……俺もこの辺りのことはあまり知らない」
「そうなのか。ティーダやジタンと、よく一緒に遊びに来てるのかと」
「来るのは来るけど。何がしたいとか、何処に何があるとかは、いつもあいつらに任せてたから」


スコールの返答に、成程、とフリオニールは思った。

この地域は若者向けの店が沢山集まっているから、ティーダやジタンのように、賑やかし事が好きな友人達は、頻繁に足を運んでいる。
テレビや雑誌で紹介された人気の店や、流行のアンテナショップ等、彼等の好奇心を擽るものは多いに違いない。
スコールもよくそれに連れ出されているのだが、彼自身はあまりそう言った事には興味がないから、あくまで友人の付き合いと言う感覚なのだ。
だから行った店の細かな詳細などは覚えていないのだろう。

となると、どうしようか。
腕を組んでうーんと考え込むフリオニールを、スコールが見詰めていると、ふと携帯電話のマナーモードが震える音が聞こえた。
スコールはジャケットのポケットに手を当てるが、其処にある携帯電話は静かにしている。
となると、この音の発信源は、


「フリオ。携帯が鳴ってる」
「本当だ。ティーダからメール?」


なんだろう、とフリオニールが通知欄からメールを開くと、『デートプランその①!』と言うタイトルがあった。
面食らった気持ちで、赤い瞳をぱちりと瞬かせるフリオニールに、スコールが訝しむ表情を浮かべる。


(……オススメの情報、なのか?)


メッセージ欄には、昼食に使えそうなファストフード店や、ランチ営業のある店の情報が連ねられている。
飲食が出来る場所の他にも、最新機器を導入した体験型アトラクションが遊べる場所や、デートスポットに最適と言う川沿いの広場などが綴られていた。
添付されたアドレスを開けば、マップアプリで店の位置情報が表示されるのを見て、フリオニールは友人が「参考にするっスよ!」と親指を立てているのを聞いた気がした。
更に続け様に着信が鳴り、今度はジタンから、大まかな時間割りまで添えて、今日一日の過ごし方が提案されている。

気が利くと言うか、何と言うか────タイミングの良さに、フリオニールは眉尻を下げつつ感心する。
その様子をずっと見つめていたスコールに、フリオニールは携帯電話の液晶画面を見せた。


「ティーダとジタンから、これが来たんだけど」
「……」
「何処か行ってみるか?スコール」


友人たちの情報は有り難いと思いつつも、あくまでフリオニールはスコールの希望を優先したかった。
この提案の中から、スコールの琴線に触れたものがあれば、其処に行くのも良い。
もっと違う場所が良いなら、それも全く構わなかった。

が、スコールはメール画面をじいっと睨み、眉間に深い皺を刻んでいる。
あまり好きな所はないのかな、とフリオニールが思っていると、スコールはきょろきょろと辺りを見回した。
どうしたのかと見ていると、スコールは突然にがしっとフリオニールの手を掴んで、人混みの多い方へと歩き出す。


「スコール?」
「お節介なんだ、あいつら」


手を引かれながら名を呼べば、スコールは苦々しそうに呟いて、


「どっちもタイミングが良すぎるだろう。絶対何処かで見てるんだ」
「そうなのか?」
「二人一緒にあんたにメールを寄越してくるなんて、そうに決まってる」


スコールにとって、それはほぼ確定したことらしい。
彼の言葉に、フリオニールも確かにと納得していた。

スクランブル交差点の人混みの真ん中に入って、信号が変わるのを待つ。
此処は四方八方から人が行き交う場所だから、紛れてしまうのなら此処が一番だろう。


「あいつらを撒く」


見られているのは嫌だ、とスコールの目がありありと語っている。
何せ、今日は久しぶりどころか初めての、恋人と二人きりのデートの日なのだ。
今日の日取りを押さえてくれた友人達の気遣いと、邪魔をする気はないが心配だと言う心遣いは少なからず感謝はするが、見られていると悟って平静としていられる度胸をスコールは持ち合わせていない。
どうせならもっと上手くやれと思いつつ、信号が切り替わって直ぐに、スコールはフリオニールの手を引いて歩き出した。

フリオニールはスコールについて歩きながら、ちらりと後ろを振り返ってみる。
待ち合わせにしていた広場の方に、如何にもなサングラスと、帽子を被った金髪の少年が二人。
しっかりとそれと目を合わせると、誤魔化すようにささっと視線が外されて、逆に確信させて貰った。

サングラスをしていた方───ジタンがそうっと此方を伺ったのが見えたので、フリオニールは詫びと感謝の気持ちで眉尻を下げて笑った。
それを見たジタンが、サングラスを外してひらりと手を上げてくれたから、これでもう大丈夫だろうと理解する。
空気を読む事に長けた二人の友人は、後のことはもう判ってくれている筈だ。

信号を渡り切って、スコールは一つ息を吐きつつも、まだ警戒するように辺りを見回している。
そんなスコールの手を、フリオニールは強く握りし返した。
はっとした表情で此方を見上げたスコールに、フリオニールは柔い笑みを浮かべ、


「大丈夫だ、スコール。行こう」


そう言って、今度はフリオニールがスコールの手を引く。
しっかりと握られた自分の右手を見て、スコールの顔が赤くなったことを、フリオニールは知らない。



『フリスコ』のリクエストを頂きました。

どっちもデート慣れしてなさそうだなと思ったので、見守られている二人です。
でも見守られていると分かって堂々過ごせる訳もないので、友人達に感謝はあるけど、恥ずかしいので逃げたいスコールと、それに応えるフリオニールでした。
ジタンとティーダの如何にもな変装(と言う程でもない)は、割と見付かること前提なのではないだろうか。
大丈夫だと思ったら引き上げるつもりはあったんだと思います。友人たちの事は心配しつつも理解しているので。

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