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[8親子]なないろ夏模様

  • 2023/08/08 21:20
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



最近のスコールは、“なんでも自分でやりたい期”だ。
兄や姉がやっている事は勿論、母や父がやっている事も、真似してみたい。
例えば、換気の為の窓の開け閉めだったり、玄関口の施錠だったり、遊んだものを片付けする時も、自分でそれをやりたがる。
元々が怖がりで余り積極的な性格ではないのだが、今はそれを飛び越えて、好奇心と、ちょっとした自立的自我が芽生えているのかも知れない。

今日のスコールは、母レインが庭の花壇に水やりをしているのを見て、「ぼくもやりたい」と言った。
レインはそんなスコールに、シャワーノズルを取り付けたホースを渡した。
母が丹精込めて育て整えた花壇は、リビングの窓から毎日見ることが出来る。
手入れをしている所も、リビングからよく見ているスコールだから、彼は心得たように、花壇全体に満遍なく水を与えている。


「お花さん、お水ですよー」


舌足らずに言いながら、スコールは両手で握ったシャワーノズルを、右へ左へとゆっくり動かす。
さらさらと降り注ぐ雨が、夏の暑さに辟易していた草花の葉を濡らし、陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
レインはそんな末っ子の様子を都度確認しながら、花壇の端に根を張った雑草を抜いて行く。

スコールはホースと花壇の段差に足を取られないように気を付けながら、少しずつ横に移動していく。
低木の下に添えて植えられた草にも、スコールはきちんと水を遣る。
地植えなのでそれ程丹念な水遣りが必要と言う訳ではないが、今夏の熱さは地面の中まで熱される程の気温が続いているから、草木の根元にはしっかりと水を与えねば。

みんみんみん、と低木の幹に取り付いた蝉が、騒がしく羽根を震わせている。
夏だなあ、とレインが滲む汗を拭っていると、


「あ、ちょうちょ!お母さん、ちょうちょいる!」


見て見て、と呼ぶ声にレインが顔を上げれば、花壇の奥を指差しているスコールがいる。
其処には白い蝶がひらひらと羽根を躍らせ、蜜を探して花から花へと遊んでいた。
レインはくすりと唇を緩め、見て、と何度も訴える息子に、うん、と頷く。


「きっとご飯を探しているのね。ちょうちょさんを濡らさないように気を付けてあげてね、スコール」
「うん!ちょうちょさん、ご飯いっぱい食べていってね。お花にお水あげるから、気を付けてね」


飛び回る蝶に話しかけながら、スコールはシャワーを花に向ける。
花の上を渡り飛ぶ蝶を濡らしてしまわないように、低くしゃがんで腕を伸ばし、シャワーノズルを花の根元近くに寄せている。
緑色の葉に水滴を散らしながら、花の根元はたっぷりと潤った。

レインが花壇半分の草取りを終えた所で、玄関の方からきゃらきゃらと元気な声が聞こえて来た。
見れば、リビングで夏休みの課題をしていた二人の子供が、監督役をしていた父ラグナと共に此方へやって来る所だった。


「スコールー!」
「あっ、お姉ちゃん!」


早速弟を構いに行く姉に、スコールがぱあっと嬉しそうな表情を浮かべる。

駆け寄ったエルオーネに、何してるの、と聞かれたスコールは、お花にお水あげてるの、と答える。
そんなエルオーネを追って二人の下に合流する兄レオンは、日に焼けて赤くなったスコールの頬を労わるように撫でた。


「ほっぺが真っ赤だぞ、スコール。暑いだろう」
「平気だよ、ぼく」
「そうか。でも少しお茶を飲もうな、おいで」
「お花のお水、まだ全部あげてないよ」
「じゃあ私がやっといてあげる!」
「やあ、ぼくがやるの」


ホースを引き取ろうとしたエルオーネに、スコールは剥れた表情を浮かべて、ホースを遠ざける。
最近のスコールはこんな事が多くて、エルオーネは困った顔で兄を見上げた。
レオンは苦笑しつつ、屈んでスコールと目線を合わせ、


「スコールがお茶を飲んだ後で、またお花にも水をあげよう。エルオーネも一緒にな」
「…ぼく、お茶、いい……」
「ダメよ、スコール。またくらくらしてご飯が食べられなくなっちゃうよ」


スコールは素直で、いつも兄姉の後ろをついて来るのが常だった。
だから家族が促す事を拒否することは滅多になかったのだが、最近はこうやって、ちょっとした我儘を言うことが増えている。
それをレオンは宥めつつ、エルオーネは叱りつつ、まだまだ無茶の効かない子供が体調を悪くしないように、誘導する事に苦心していた。

むう、と拗ねた顔をしているスコールだったが、父ラグナがホースの元栓に近付いて、


「おーい、水止めるぞ~」
「ぼくがやる!」


ラグナの声に、スコールははっとなって声を上げた。
持っていたホースを兄に渡して、小さなコンパスをぱたぱたと動かして父の下へ。
僕が、僕が、と言うスコールに、ラグナは笑顔を浮かべて、ホースに繋いだ蛇口の栓を譲った。

レオンの手に握られていたシャワーノズルから水が止まる。
ありがとな、とラグナに頭を撫でられて、スコールは嬉しそうに笑った。

レインは雑草を抜く手を止めて、子供たちと一緒にリビングと繋がる吐き出し窓へ向かう。
窓辺の内側には、琥珀色の液体と氷の入ったグラスが五つ。
窓を開けてそれを運び出す間に、三人の子供は、末っ子を真ん中に挟んで、窓辺のウッドデッキをベンチに座った。
一つストローの入ったグラスがスコールのものだと差し出せば、スコールは両手でそれを持って、早速ちゅうっと吸い込む。


「つめたぁい」
「お茶おいしいね。飲んで良かったでしょ?」
「うん」


いい、いらない、と言っていたことなどすっかり忘れて、スコールはストローを食む。
兄と姉が勉強をしている間、母と一緒に外にいたので、体内の水分は汗ですっかり減っていた。
それをきちんと補給すれば、体も程好く冷気が回り、小さな体の健康も守られる。

三人並んで水分補給をする子供たちを眺めながら、レインとラグナもグラスに口をつけた。
末っ子と一緒に庭にいたレインには、よく冷えた水分が染み渡るように美味く感じる。
首にかけていたタオルで滲む汗を拭きながら、レインは「あっちいな~」と何処か楽しそうに言う夫に訊ねた。


「二人の宿題はどう?」
「ああ、順調だよ。二人とも頭良いからなぁ、俺が教える必要もない位」


夏休みに入ってから、レオンとエルオーネは、一日の決まった時間に宿題を熟している。
まだ夏休みの始まりと言うこともあり、やる気もあるお陰か、今の所は予定に沿って消化されているようだ。
判からない所があれば父に教えて貰う、と言う助け舟は用意されているものの、元々真面目で成績優秀なレオンと、弟の見本になろうと奮闘しているエルオーネである。
時折苦手な設問に手は止まる事があっても、投げ出す事もなく、決まった時間になるまでは勉強に向き合う癖は出来ていた。

子供たちの水分補給が終わり、スコールが花の水遣りを再開すると言う。
もう勉強には飽きてしまったエルオーネも一緒だ。
花壇の縁に置いて来たシャワーノズルの下へ向かう妹弟に、レオンは蛇口の方で待機して、二人がノズルを構えるのを待ってから水を出した。


「スコール、あそこ、あそこにお水届いてないよ」
「んぅ、遠いよう」
「レオン、お水もっと出してー!」
「出してえー!」


声を揃えて訴える妹弟に、レオンはくすくすと笑いながら、水の勢いを強くする。
しゃああああ、と沢山の水滴を散らすシャワーに、きゃあ、と高い声を上げながら、二人は水遣りを続けた。

グラスを空にしたラグナが、蛇口の横に立っている長男に声をかける。


「お前も行っといで、レオン」
「うん」


水の傍で遊ぶ幼子たちは、涼しそうで楽しげだ。
レオンもその傍に行きたい気持ちはあって、父の言葉に促されて、二人の下へ向かう。
代わりにラグナが蛇口の傍に立って、子供たちの様子を見ながら、水の勢いを調節する。

花壇の水遣りが終わっても、スコールたちは中々ホースを手放さなかった。
冷たい水が齎す冷気が、この暑い夏には心地良いのだから無理もない。
そんな妹弟に、レオンはシャワーノズルの口を捻って、吹き出し口の形を変えた。
すると、それまで如雨露のように出ていた水が、小さな小さな霧飛沫になって出て来る。
それをレオンは、スコールの離れない手を重ねて握って、頭上に向かって放水を始めた。


「きゃあ、つめたーい!」
「気持ち良いー!」


降り注ぐ細かな霧飛沫は、太陽の熱で熱くなった空気を冷やしてくれる。
日差しで火照った子供たちの柔肌には、それはそれは心地良くて、二人は高い声を上げながら、霧雨の下をぐるぐると駆け回った。
その雨の真ん中にいるレオンも、心なしかほっとしたように、冷えた空気の感触を堪能している。

きらきらと輝く水のカーテンの中で楽しそうな子供達に、レインはやれやれと眉尻を下げ、


「服がびしょびしょになっちゃうわね。後で着替えさせなくちゃ」
「そうだなぁ。三人は俺が引き受けるから、レインも着替えた方が良いんじゃないか。汗びっしょびしょだろ?」
「そうね。もう、草取りをしているだけなのに、汗が止まらないんだもの」
「お疲れさん。お茶、まだいるか?」
「ううん、大丈夫。後は皆とおやつの時にね」


レインの言葉に、そっか、とラグナは言って、蛇口を捻る。
水の勢いが更に強くなって、子供たちの頭上を覆うように霧雨が降り注いだ。


「きゃー!」
「冷たいー!」
「あははは!」


すっかりはしゃいだ声をあげる幼子に、両親の口元も緩む。
昨年買って存分に遊んだビニールプールを出してこようかな、と水に親しむ子供達を見て思っていると、


「あっ、虹!」
「お兄ちゃん、虹ー!」
「ああ、よく見えるな」
「おとうさーん、おかあさーん!」
「見て見て、虹があるのー!」


頭上で輝く太陽が齎す光が、散りばめられた水滴の中で幾重にも反射して、七色の橋がかかる。
それを見付けたスコールとエルオーネがはしゃぎ、軒下で見守る父母へと報告した。

見て見て、と指差す二人が見ているものは、同じ場所に立っている訳ではないレインとラグナからは確認できない。
二人と一緒にいるレオンもそれは理解しているだろうが、彼ははしゃぐ妹弟に水を差す事はしなかった。
それは父母も同様で、「ああ、綺麗だな」と言ったラグナに、スコール達は嬉しそうに笑うのだった。



レオン12歳、エルオーネ8歳、スコール4歳くらい。
暑い時の水遊びは楽しいもんです。

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