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[ラグレオ]イレブンシズ・コーヒー

  • 2023/08/08 21:15
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



何度目かになる、共に迎える朝は、少しの気怠さを滲ませながらも、心地の良いものだ。

普段は決まった時間には自然と目が覚めると言う青年───レオンは、どちらかと言えば遅くに起きるラグナの隣で、まだ夢の中にいる。
すぅ、すぅ、と規則正しく聞こえる寝息に、彼の眠りが健やかであると分かって安心した。
恐らくはあと一時間もすれば目を覚ます程度の睡眠だとは思うが、それならば尚更、起こしはすまいとラグナは静かに彼の目元にかかる前髪を撫で上げる。
んん、と小さくむずがる声が漏れるものの、直ぐにまた穏やかな寝息が聞こえ、ラグナの唇が緩む。

時計を見れば午後10時前で、朝食を取るには聊か遅いし、昼も遠くない。
食べるなら軽いもので良いなあと思いつつ、このまま食べずに惰性に過ごし、昼を迎えるのも悪くないだろう。
そもそも冷蔵庫の中身は真面だったろうかと思ったが、昨晩の残り物がある筈だと思い出した。
パンも買い置きのものがあるから、空き腹で買い出しに行く必要もないだろう。

身動ぎに衣擦れの音が聞こえて、ごろん、とレオンが寝返りを打った。
縮こまるように丸くなった青年の手が、転がった拍子で、ラグナの膝に乗せられる。
偶然なのだろうが、それでも甘え下手な青年が身を寄せてくれた事が嬉しくて、ラグナはその手に自分のそれを重ねた。
ぴく、と形の良い指先が震えたので、緩く握って温めてやると、柔く握り返す感触があった。

共に良い年の大人であるから、日々は何かと忙しいものだ。
レオンは若手の中でもチームリーダーを任される事が多い為、あちこちから仕事が回って来る。
レオンは始業の時間になる前からオフィスに入り、夜の間に上がって来た案件などを総浚いしたりと、ラグナよりもよっぽど手が埋まっている事も多かった。
そしてラグナの方も、会社役員としてあちこちに顔を出さねばならない事が多く、移動の車の中で大急ぎでコンビニの握り飯を胃に突っ込んでいる。
二日前までは海外に出張していた所で、其方でもスケジュールが朝から晩まで詰められていた為、息が抜けたのは飛行機の中だった。

そんな毎日を送っている中で、ようやく取れた休みの朝だ。
昨晩、久しぶりの温もりに、存外と甘えてくれた青年を見て、ラグナも年甲斐もなく熱を上げた。
明日の事も忘れ、お陰で普段よりも回数が増えて、ラグナは今になって少々体が痛かったりする。
自分がこうなのだから、若いとは言え負担の多い役のレオンはもっと大変だろうと、ラグナは疲労を訴える腰を宥めながら、食事の準備は自分がしようと考えていた。


(これから食べるんだったら、シリアル位で済ませるのが良いよなぁ。でも果物とかも欲しいな)


あと二時間もすれば、時間としては昼食の頃合いだ。
とは言え、今日丸一日が休みであることを思えば、正午を過ぎてゆっくりとランチをしても良いだろう。
レオンの体に障りがなければ、街へと出かけて、気になっている店へ食べに行くのも悪くない。

いや、昼はどうにでもなるから構わないのだ。
それよりも、朝食と言うのは一日の活力だから、しっかり食べておかなくては。
こう言う所はレオンよりもラグナの方がしっかりと意識しており、軽くても良いから何か栄養は入れておいた方が良いと思っている。
レオンは日々の忙しさもあって、ついつい其処を後回しにし、そのまま一日何も食べない、等と言うことも珍しくはなかった。
だからラグナは、こうして一緒の朝を迎える時には、きちんと食べさせてやらねば、と思っている。

となると、そろそろベッドを抜け出し、ブランチの準備を始めるべきではあるのだが、柔衣の中からはまだ離れ難い。
その理由は他でもない、傍らですやすやと眠る青年の為だ。


(俺が動いたら多分起きちまうよなー)


眠るレオンは健やかな寝息を零しているが、時間的には既に睡眠は浅くなっている筈だ。
人の気配にも敏感なようで、ラグナが多少の身動ぎをする位ならともかく、ベッドから抜け出すと、きっと目を開けるに違いない。
平時から眠りは浅い節のあるレオンに、少しでも心地良い眠りを持たせてやりたいと思うと、ラグナは中々動き出す気になれなかった。

膝の上に乗ったままのレオンの手が、する、と動く。
そろそろ起きるかなと顔を見ると、幼年期に作って消えなかったと言う、傷のある眉間に微かに眉根が寄っている。


「うう……ん……」


カーテンの向こうから伝わる明るさが、瞼の裏まで通って来て、眩しいのだろう。
レオンは嫌がるようにむずがっていたが、その光が睡魔の名残を浚って行ってしまった。
重みのある瞼がゆっくりと持ち上がり、ぼんやりと白い波を見つめる。
それから、蒼の瞳が二回、三回と瞬きに隠れた後、レオンは隣に座っているラグナを見上げた。


「……ラグナ、さん……」
「ん。おはよう、レオン」


微かに赤みのある頬にかかる横髪をそっと指先で掬い払って、ラグナは朝の挨拶をした。
レオンは頬を擦る指先のくすぐったさに目を細めながら、「おはようございます…」と小さく返す。

ラグナの膝に乗っていたレオンの手が離れ、むくりと起き上がる。
あふ、と欠伸をしている横顔が、いつも凛としている彼を酷く幼く見せて、ラグナはくすりと笑った。
レオンは眠い目元を猫手で擦りながら、きょろりと辺りを見回して、


「時間、は……」
「そろそろ10時半だな。朝飯、食べるか?」
「………」


食べるも食べないもどちらでも、とラグナが尋ねてみると、レオンは少し考えるように頭を傾ける。
寝癖のついた長い濃茶色の髪が、裸の肩の上でさらりと落ちた。


「あまり、食べる気には、ならないかなと……」
「減ってはいる?」
「それは、まあ、なんとなくは」
「じゃあリンゴとかで良いか。切って来るよ。お前はゆっくりしてな」


ぽん、とラグナはレオンの頭を撫でて、ベッドから足を下ろした。
ようやくシーツを抜け出すと、それでレオンの体が冷えないように包み込んでやる。
過保護な事をしてくれるラグナに、レオンは少し恥ずかしそうに眉尻を下げたが、シーツに残る愛しい人の温もりは心地良くて、離れた体温の代わりを手繰り寄せた。

寝室を出てキッチンに立ったラグナは、まずは眠気覚ましにと、コーヒーを淹れる為の湯を用意する。
電気ケトルに入れた水が沸くまでの間に、冷蔵庫を開けてリンゴを一つ取り出した。
簡単に八つに切り分け、芯の部分を取ってしまえば、これで今日の朝食となる。
最初に考えたように、シリアルを用意しても構わなかったし、栄養を取るならその方が良いのも判っていたが、やはり昨晩の頑張りのお陰で、まだ少し体が重怠い。
昼はきちんと食べるつもりで、今は少々サボらせて貰う事にした。

一分もすれば湯が沸き、インスタントで作った二杯分のコーヒーが出来上がる。
その片方にシュガースティック一本分の砂糖を入れた。
トレイにそれらを乗せて寝室に戻ると、レオンはベッドからすらりとした足を下ろして、まだ眠そうに目を擦っていた。


「レオンー、飯だぞー」
「……あ。はい、有難う御座います」


声をかければ、レオンは柔く笑みを浮かべた。
隣に座って、トレイに乗せていたマグカップを一つ差し出すと、レオンは両手でそれを受け取る。

職場では専らブラックコーヒーを愛飲しているレオンだが、寝起きは少し糖分が欲しいのか、砂糖入りのものを好んでいた。
まだ熱の冷めないマグカップで両手を温めながら、ふ、ふ、と息を吹きかけるレオン。
小さな唇が縁に触れ、こく、と喉が動いた。


「は……ふぅ……」
「ほら、リンゴも」
「はい」


リンゴを乗せた皿を差し出すラグナに、レオンは爪楊枝の刺さったものを取った。
ラグナも一つ口に運び、瑞々しい果肉をしゃくしゃくと咀嚼する。


「昼はどっか食いに行くか」
「そうですね。折角の休みだし」
「気になる店とかあるか?」
「いえ、そう言うものはあまり。ラグナさんの行きたい所で良いですよ」
「うーん、そうだなぁ」


昼の予定を話し合うも、こんな時、大抵レオンは自分の希望を言わない。
そんな彼に初めは遠慮しているのかと思っていたが、どうやら忙殺されている所為で、仕事以外の世間の情報に疎いのだと理解してからは、ラグナの方が遠慮なく自分の希望を薦める事にしている。


「ああ、パンケーキ屋とかどうだ?この前テレビで見たんだけど、すげえ行列でさ。若い子たちの間で流行ってるみたいで、一回覗いてみたかったんだよな。レオン、行った事ないだろ?」
「それは、確かに入ったこともないですけど。行列なら入るのも難しいんじゃ……」
「うん、まあ、休日ならな。でも今日は平日だし、ちょっとはマシだよ。多分」


根拠も何もなかったが、そう言うものだろうとラグナは言った。
レオンは首を傾げつつも、そもそも自分に希望がある訳でもないし、ラグナが行きたいと言うならそれで十分でもあった。


「それじゃあ、其処で昼食に」
「うん」
「でも、甘いものになるのでは。食べ切れると良いんですが」
「それは大丈夫だと思うぞ。ちゃんと飯っぽい奴もあるんだ。ベーコンとか乗っててさ」
「へえ……」


ラグナの言葉に、レオンは意外そうに声を漏らした。
パンケーキと言えば、おやつに食べるような甘いものばかりと思っていたので、意外だったのだろう。
ラグナも店のメニューがテレビに放送されるまでは、同じような印象を持っていた。
それがまたラグナの好奇心を刺激した訳だ。

昼食が決まった所で、皿のリンゴは空になり、二人ともコーヒーを飲み切った。
トレイに戻したそれを、ラグナがキッチンへと運んでいる間に、レオンも着換えを始める。

ごく少ない食器を洗い終わって、ラグナがリビングへと行くと、着換えを終えたレオンがソファに座っている。
その後ろ姿を見つめながら、慣れてくれたなあ、とラグナの口元が緩んだ。
何かと気を遣い過ぎな位によく気の付く青年であるから、どうにも他人の家と言うのは気後れする所があったらしく、座る場所にも迷っていたのはまだ記憶に新しい。
それでも、休みを重ねる度、時には仕事終わりに招き、一緒に過ごす内に、段々とその肩の強張りも解けていった。
今ではテレビ前のソファを定位置にして、ラグナが朝食の片付けを終えるのを待つ位に、リラックスするようになってくれた事が、密かに嬉しい。

レオンは、ソファ前のコーヒーテーブルに新聞を開き、じっと眺め読んでいる。
ラグナは緩む口元を自覚しながら、レオンの隣へと座った。
テーブル下にあるリモコンを取って、テレビの電源をつければ、朝の情報番組が流れている。
たしかこの番組は、昼前には終わる筈だから、暇潰しには丁度良い。


「これが終わったら出掛けるか」
「そうですね」


ラグナの言葉に、レオンは新聞から顔を上げて、傍らの男を見て頷いた。

そうして正面からはっきりと目が合って、柔く愉しそうな光を灯す蒼灰色を、じっと見つめる。
するとレオンは、段々と顔を赤くして、恥ずかしさに逃げるように視線を反らしてしまうのだ。
赤くなった耳が髪の隙間に見えて、ラグナは年齢の割りに初心な反応が抜けないこの青年を、愛しく思う。

レオン、と名前を呼ぶと、彼はそろりと此方を見た。
もう一度目線が絡まり合うのを確かめて、ラグナがゆっくりと手を延ばせば、昨夜の熱の余韻を残す頬に触れる。
少し迷うような表情を浮かべた後、心地良さに身を委ねて頬を寄せる青年を、ラグナはゆっくりと撫であやしてやるのだった。



朝のいちゃいちゃラグレオ。
ラグナといちゃつく事に大分慣れてきたレオンが書きたくなったので。

昼は流行のパンケーキ屋に行き、その後は二人でぶらぶらして、夜は帰ってまたいちゃつくんだと思います。

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