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[ラグスコ]熱の静寂と

  • 2023/08/08 21:10
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



寄りによって、こんな時でなくても良いだろう、と自分の体調管理の甘さに辟易する。
それを口に出した時、聞く者がいれば、無理もないことだと宥めてくれる者もいただろう。

昨晩、スコールは夜のエスタに到着し、ラグナが待っているであろう彼の私宅へと向かった。
デリングシティとはまた別の様相で、眠らぬ街のごとくあちこちに灯りの燈った街は、いつの間にかすっかり歩き慣れた道である。
その途中、突然の俄雨に見舞われて、事前の天気予報でも全く聞いていなかったそれに、スコールは運悪くずぶ濡れになってしまったのだ。
場所はショッピングモールも過ぎた閑静な住宅街で、エスタ特有の創りをした建物ばかりだったから、雨宿りに借りれそうな軒先もない。
スコールと似たような条件で雨に降られた人々が、それぞれの家へと逃げるように走る中、スコールもまだまだ距離があったラグナの家へと急いだのだった。

一番激しい雨の中を過ごす羽目になったので、家に着いてからはラグナが直ぐに風呂を用意してくれた。
どうせ遅い時間でもあったし、夕食を食べれば程無く借りる事になったであろうバスルームを、一足早く貰って休む。
客用ではいつまでも遠慮するだろうと思ってか、いつの間にかラグナが用意し、スコール自身も使い慣れた寝間着を着て、遅い夕食にありつく。
それからは久しぶりの熱の夜だ。
スコールはたっぷりと貪られ、自身もラグナを何度も求め、心地良い疲労感の中で眠りに就いた。

そして、翌日、スコールは熱を出していたのだ。
高熱と言う程ではないのだが、微熱と言うには聊か高く、それを見たラグナは「今日はお休みだな」と苦笑した。
昨晩の熱の交換の後、ちゃんと風呂入れてやれば良かったなあ、とラグナは言ったが、どっちにしろ───とスコールは思う。
大方の原因は昨日の雨の所為だと思ったし、そう考えると、夜を大人しく寝ていても、スコールは風邪を引いていただろう。
スコールにとって悔しいのは、雨に降られたからと、簡単に体調を崩してしまった自分の体のことだ。
土砂降りの中で作戦を実行する事だって珍しくないのに、こんな事で、と思ってしまう。
それをぽろりと口に出すと、


「きっと疲れてたんだよ、お前。いつも仕事頑張ってるもんな。今日はちゃんと休めって、神様のお告げみたいなもんだよ」


そう言ってラグナは、スコールの汗ばんだ額に張り付く前髪を撫で上げた。

休めというなら、熱なんて起こさないで、この休日の間に某か事件が起きないでくれれば良い。
それで十分に休めるものなんだから、発熱なんて本当に余計なことなのだ。
ラグナにも気を遣わせてしまっているし、エスタでしか手に入らないものを買いに行く予定だってあったのに、何もかもが台無しだった。

しかし、歯噛みをした所で熱が下がってくれる訳もなく、仕方なくスコールはベッドの住人と化している。
その傍らでは、公休を合わせてくれていたラグナが、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。


「朝飯は食えたし、薬も飲んだ。夜の間に熱が出て来てたんだろな、汗掻いてたし、着替えとくか?」
「……まだ良い。それより、水が欲しい」
「分かった、ちょっと取って来る」


ラグナはぽんとスコールの頭を撫でて、部屋を出て行った。

一人になった寝室で、スコールはぼんやりと天井を見上げる。
こうやって、静かな場所でただただ横になっていると言うのは、随分久しぶりのような気がした。

眠る時以外で、こんな風に過ごしていたのは、一体いつ振りだろうか────と考えて、三ヵ月ほど前に任務で怪我をした後、ガーデンへと帰投する前に病院に行った時だと思い出す。
思いの他傷が深かった事と、同行していたアーヴァインが「この際だから君はしっかり休んでから帰りなよ」と入院措置を取らせた。
スコールが診断を待っている間に、有能な友人はしっかりキスティスに連絡を回しており、他の幼馴染の面々からも、「帰ってきたらまた仕事漬けになるだろうから、そっちで休め」と言われてしまった。
誰か止めろよ、指揮官だぞ、と等と自分でも大して有り難くも思っていない、一応は重要な役職である筈なのだが、多数決に身分は関係ない。
スコールは三日間を病院のベッドを過ごしてから、バラムガーデンへと帰ることになった。

その出来事から今日までは、相も変わらず忙しい日々である。
ガーデンでは書類の確認に追われる傍ら、任務も回ってくるし、スケジュールは黒塗りだ。
今日明日の休暇もようやっと取れたと言うもので、ラグナと通信越しでない会話が出来るのも、随分と久しぶりだった。
らしくもないが、楽しみにしていた、とも言える位には待ち遠しい休暇だったのに、そんな時に熱を出してしまうなんて、馬鹿な奴だと自嘲も浮かぶ。

部屋のドアが開く音がして、ラグナが戻って来た。
手にはミネラルウォーターの入ったペットボトルと、氷入りのグラスが一つ。
ラグナは、ベッド横のサイドチェストにそれらを置くと、早速グラスに水を入れて、スコールに差し出した。
スコールは重みのある体をゆっくり起こして、ラグナの手からグラスを受け取る。


「ん………」


元々ペットボトルも冷蔵庫に入っていたのだろう、ツンと冷たくて、喉の通りが心地良い。
すっかりグラスを空にして、スコールはそれをラグナへと返した。


「まだいるか?」
「いや、十分だ」
「そっか。他に何か欲しいものとかは?」
「……今は……別に。特には、ない」


布団を手繰りながら、またベッドに横になるスコール。
ラグナは、そっか、と言って、布団の上からスコールの腹をぽんぽんと軽く叩いていた。


「昼飯は、食べれそうか?」
「……今の所は。吐き気もないし」
「じゃあ準備しよう。消化の良いものが良いよなぁ」
「…負担はない方が楽だ」
「うーん、俺、病人食はよく分からないからな。ちょっとキロスにでも聞いてみるよ」


またラグナはくしゃりとスコールの頭を撫でて、席を立った。
部屋を出て行くラグナは、私室に繋いである通信機を使いに行くのだろう。
ラグナが休みであっても、執政官であるキロスやウォードを始めとした誰かは、必ず大統領官邸に一人二人はいる筈だから、相談できる相手はいる筈だ。

また部屋に一人きりになって、スコールは幾何学模様を施された天井を見上げた。
ふう、と漏れた吐息は、溜息にも似ている。
なんとなく、ついさっき、ラグナに撫でられた腹にくすぐったさが残っている気がして、無意識に右手が其処に重なった。


(……静かだな……)


ラグナの私邸と言う訳だから、此処は大統領が住まう為に、目立たないながら最新のセキュリティが施されている。
外から中の様子が見えないように、視覚効果を歪ませる機構が使われていたり、窓も一つ一つに防犯センサーが配置されている。
家の中は、スコールが軽く眺める限りでは、普通の一般家屋と変わりないようだったが、これもきっと、目立たない場所に何か仕込んであるに違いない。
個人のプライバシーとして、寝室に監視カメラがない事は信じたい────でなければ昨夜のように睦言などしていられない筈だ。
頼むから其処だけは、自分と同じ常識の範疇でいて欲しいと思う。

そして家の外と言うのも、庭をぐるりと囲む塀を境にして、侵入防止の策が巡らされている。
ラグナはエスタの人々にとって英雄だが、それを疎み、排斥を狙う者がいない訳ではないのだ。
そんな環境で一人暮らしをしている訳だから、ラグナ自身がどんなに楽観的なことを言って見せても、彼の存在失くして今のエスタはないと思う人々は、固い守りを準備するものであった。

だからこの家の敷地に入って良い人間と言うのは、極力、限られていることになる。
家主本人と、古くから信頼を置いている旧知の友人が二人と、スコール。
後は、スコールが知っている範囲では、デリバリーサービスや宅配くらいのものだった。
必然的に人の気配が少ないので、よく喋るラグナが傍にいないと、この家の中は随分と静かになってしまう。
元々が静かな住宅街であるから、外から感じる人の往来と言うのも少なかった。


(……よく眠れる、気はする……けど……)


静寂はスコールの好む所だ。

物心がついた時からバラムガーデンの寮暮らしである筈だから、人の気配と言うのは当たり前に近くにあった。
SeeD資格を取得するまでは、共有部屋で過ごしていたので、隣の物音が煩かった時期もある。
ハメを外して遊ぶ生徒達が、共有空間で夜までお喋りしていて、鬱陶しさに眠れなかった事も。
そう言う時は、耳栓をしたり、頭まで布団を被ったりして、出来るだけ自分の世界に閉じこ籠ったものだ。
今は一人部屋なのでそれ程でもないのだが、部屋の向こうは廊下だから、時間を問わず人の気配を感じることは多い。
歩きながらの私語を禁じるガルバディアガーデンと違い、比較的開けた校風でもあるから、人のお喋りの声と言うのは、何処にいても聞こえるものだった。

だから、こう言う時の静けさと言うのは、意外と貴重なのだ。
こんな時こそ、のんびりと本を読み耽ったり、お気に入りのアクセサリーを磨いたりするのに丁度良い。
────実際の所は、仕事に追われて一時を味わうも何もないのだが、それは一旦置いておこう。
更には、生憎、今日は発熱の所為でそうする訳にもいかないもので、ただただ天井を見上げているしか出来ない。
それでも、体を休めるのなら、この静寂が一番心地が良いものだ。

……そう思っているのに、何処か落ち着かないものを感じている。


(……眠くならない……)


昨日の夜にエネルギーを消耗しているから、熱の怠さと、薬の効果もあって、眠ってしまっても良い筈だ。
寧ろその方が余計な体力を使わなくて済むし、体も自己回復に集中する事が出来るだろう。
そうでなくとも、任務で必要であれば、最低限でも休息が取れるように、意識の切り替えスイッチはある。
それをカチリとオンにしてしまえば、仮眠程度は取れる───筈なのだが、どうにもスコールは眠れる気がしなかった。


(………)


寝転がっている気にもなれなくて、スコールは起き上がった。
手持無沙汰の気持ちで辺りを見回し、サイドチェストの水を見付ける。
飲んだばかりで、喉が渇いている訳でもなかったが、他に出来ることもないと、ペットボトルに手を伸ばした。

部屋のドアが開いて、ラグナが戻って来たのはその時だ。


「お。また水飲むか?」
「……ああ。少しだけ」


本当は必要性を感じてはいなかったが、そうとは知られないように、スコールは答えた。
ラグナは直ぐに椅子に戻って来て、ペットボトルの水をグラスへと移す。
半分ほど注いだそれを指し出され、スコールは受け取ると、ちびちびと口に含むように飲んだ。

結露の浮いたグラスが手から滑らないように気を付けていると、徐に伸びて来たラグナの手が、スコールの額に当てられる。
ラグナは、ふーむ、と神妙な顔付で、自分とスコールの体温の差を確認し、


「ちょっと上がってるか?」
「……別に、大して変わりないと思うけど」
「そんなら良いけどなぁ。水飲んだら、ちゃんと寝るんだぞ」
「………」


言い聞かせるラグナの言葉に、スコールは何とも言えなかった。
心持ち唇が尖るスコールを、ラグナは「ん?」と首を傾げて見ている。


(寝れない、なんて……言った所で……)


困らせるだけだ、とスコールは思って、水の最後の一口を飲み干した。
大した時間稼ぎにもならない暇潰しも終わって、ラグナが布団を被せ直そうとするので、大人しく横になる。

どうにか意識のスイッチを切り替えよう。
そう思う事にして、スコールは枕に後頭部を預けて、目を閉じる。
薬の副作用も効いてくれれば、時間はかかっても、眠る事は出来る筈だ────と、思った時、


「お休み、スコール」


ふ、と眦に柔らかいものが触れた気がした。
今のは、と確かめる為に目を開けようとしたが、触れた感触が残る所を、慣れた匂いのする指先がそっと撫でる。
まだ明るい外から採光を貰う窓から隠すように、何か優しくて大きなものが目元を覆った。

ぽん、ぽん、と腹を一定のリズムで叩かれているのが判る。
その持ち主の正体は考えるまでもない、此処には自分の他には、ラグナしかいないのだから。
まるで小さな子供をあやし寝かしつけているような行動に、子供じゃないと言いたい気持ちは強かったが、目元を覆う掌がそれを柔く阻んでいる気がした。
ならばその手を振り払えば済む話なのだが、どうにもスコールはそんなつもりになれない。

腹を叩く手は、いつまでこうしているのだろう、とスコールに緩やかな疑問を浮かばせる。
それでも不思議なもので、目元や腹がじんわりと温かくなるにつれ、瞼がとろりと重くなっていく。
腹の奥に感じる温もりが無性にくすぐったくて、眠い頭でゆるゆると右手を持ち上げて其処へ重ねると、一度ラグナの手の動きがぴたと止まった。
それからすぐに、ラグナはスコールの手を握り、体温がゆっくりと溶け合って行く。



いつもお喋りが病まない男は、一言も喋らない。
それでも感じる、たった一つの気配が心地良くて、いつの間にかスコールは眠っていたのだった。


風邪っぴきでちょっと気持ちが弱っていたスコールと、世話焼いて甘やかしてるラグナの図。
スコールは無意識に寂しいやだここにいて欲しいって顔をしていたんだと思います。
勿論ラグナはずっと一緒にいるつもり(ご飯とかは作らないといけないけど)で、今日一日はスコールの傍にいるんでしょうね。

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