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[レオスコ]目覚めに映る愛に囁く

  • 2024/08/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



若手きっての実力派俳優と呼ばれるレオンが、家に不在勝ちなのは無理もなかった。
一年のうち、殆どを映画やドラマの撮影の為にスケジュールを取られ、遠いロケ地の方で一週間以上も泊まり込みになる事も少なくない。
成人する以前でも、都内の撮影スタジオは勿論、特撮ものに使われるような郊外にも頻繁に通っていて、普通の学生よりも遅い時間にやっと帰宅、と言う事もあった。
八歳年下のスコールは、そんな兄が一分一秒でも早く帰ってくるのを、毎日祈るように待っていたものだ。

現在、スコールは十七歳になり、レオンは二十五歳になっている。
幼い頃は寂しがり屋で、兄が帰ってくるのを待ち遠しく思っていたスコールだが、流石に分別の着く年頃だし、一人での留守番も慣れた。
引っ込み思案でクラスの誰とも話すことすら出来なかった昔と違い、高校生になって賑やかな友人も出来たし、一人で退屈を埋める手段も持っている。
父も仕事で遅くまで帰れないことも増えてきて、昔とは逆に、一人の時間を気儘に過ごす余裕もあった。

スコールが一日の就学を終えて、三日分の買い物をして自宅に帰ると、其処には自分よりサイズが一つ大きい靴がある。
カジュアルなスニーカーであるので、兄が帰って来たのだと言う事を理解した。
聞いていた予定よりも少し早い、と思いながら、スコールも靴を脱いで框を上がる。

リビングダイニングに入ると、テレビの前のソファから、長い脚が出ている。
あの状態になっていると言う事は、とスコールはダイニングテーブルに荷物をそっと置き、足音を立てないようにそろりとソファへ近付いた。
背凭れの向こう側を覗き込んでみると、思った通り、レオンがクッションを枕にして寝息を立てている。


(……おかえり)


スコールは声に出さずに、兄の帰宅を迎えた。

ソファの足元に、レオンがいつも仕事の時に使っている鞄が置かれているのを見付ける。
自分の荷物は自分の部屋に置きに行くのに、それをしていないと言う事は、帰ってきてそのまま直ぐに寝落ちたのだろうか。
と言う事は、随分と疲れている筈だと、休ませる為にスコールは敢えて兄に触れないことにした。

買ってきたものをキッチンへと運び、冷蔵庫の中に収めて、今日の分の食材だけを取り出す。
レオンが今日帰ってくることは予定にはなかったが、二人分でも三人分でも、この家で必要になる食事の量はそれ程大きくは変わらない。
どうせ数日分をまとめに買い置きしているのだから、人参を半分ではなく丸一本使う、と言うくらいで十分対応できることだった。

静かな家の中で、包丁の音がト、ト、ト、と鳴る。
普段からスコールは余計な物音を立てない方だが、今日は眠っているレオンの事もあって、一層丁寧な仕事をしていた。
キッチンはリビングダイニングと対面式で繋がっているが、リビング空間は、ダイニング空間を挟んだ向こう側にある。
ソファの背凭れに隠れている兄の姿は、キッチンからは全く見えない。
多少の音が煩く響くことはないだろうが、それでも、なんとなく、今日のスコールは音を嫌った。

野菜を全て刻み終え、火にかけていた鍋の中に入れて、火が通るのを待つ。
その間に、夕飯のメインメニューになる、鳥団子の肉だねを作っておくことにした。
肉だねに使う野菜をまな板の傍に並べ、順番に切り刻んでいく。
作業を楽にする為に電動スライサーはあるが、モーターの音がそこそこ大きいので、今回は此方も包丁で切る事にする。
基本的にスコールは効率を優先する質であったが、兄の安眠を守ることは、更に上位の優先権を持っていた。


(食感を優先するなら粗くて良いな)


タマネギ、ニンジン、ゴボウ。
メインとなる肉団子の大きさを考えながら、仕込む野菜は余り細かくし過ぎないように。
刻み終えたら、電子レンジで一度火を通してから、繋ぎと一緒に鶏肉のミンチとボウルに入れて、捏ねる工程に入った。

肉だねが出来たら、野菜スープの中に小分けに丸めたそれを入れて、火が通るまでじっくりと煮込む。
今日はこれがメインとなるが、兄は疲れているだろうし、父ラグナも腹を空かせて帰ってくるだろう。
もう一品くらいあった方が良いな、と冷蔵庫を覗いて、


(……卵焼きで良いか)


簡単に決めておいて、それなら夕飯前に作ろう、と蓋を閉じる。
火にかけた鍋をこまめに気にしながら、スコールは洗い物に手を付けた。

済ませることを済ませて、ようやく手が空いた。
まだ静かだな、とリビングダイニングに行ってソファを覗き込んでみると、レオンはまだ眠っていた。
それなりに人の気配には敏い筈なのだが、全く微動だにしていないと言う事は、そこそこ深い眠りの中にいるらしい。


(珍しい)


背凭れに後ろから寄りかかって、眠る兄の横顔を見つめる。
いつ帰って来たのか知らないが、こんな所で寝落ちていることと言い、相当疲れが溜まっていたのだろう。

スコールはそうっと手を伸ばして、レオンの頬にかかる横髪を退けた。
指先が微かに頬を掠めて、ぴく、と長い睫毛が震える。
起こしたか、と手を引っ込めることも出来ずに固まっていると、


「……ん……」


ぎゅ、と眩しさを嫌ってか瞼を強く閉じた後、蒼灰色がゆっくりと零れ覗いた。
ぱち、ぱち、とゆっくりと瞬きをした後、視界にかかる陰りに気付いたのか、瞳はゆっくりとスコールの方へと向かう。
天井の照明を丁度遮る位置にいたスコールを、レオンは逆光の視界でしかと捉えた。


「……スコール」
「……あ、」
「……ただいま」


帰ってきた挨拶と共に、するりとレオンの手が伸びてきて、覗き込んでいる格好になっているスコールの頬を撫でる。
頬に添えた手が求めるものに誘導されるように、スコールの頭が少し下がる。
それに今度はレオンの方から近付いてきて、五日ぶりの感触が唇に触れた。

今時の若い女性が夢中になって已まない顔が、スコールの視界を一杯に埋め尽くしている。
映画やドラマの中で、沢山の女優と共演しては、様々な愛を伝える言葉を囁いているレオンだが、彼自身は決して言葉数は多い方ではない。
コミュニケーションが苦手な訳ではないが、自ら積極的にそれを求める程でもない彼は、言葉よりも態度や表情で相手への情を示す方だ。
蒼灰色は柔く優しく緩んで、頬に触れる手は暖かく、触れる唇はついばむように少しずつ───それが段々と深くなるのが、レオンの愛情の示し方だと知っているのは、スコールだけだ。

深くなった口付けと共に、細められた蒼灰色に凛とした光が宿って行く。
寝起きの挨拶のようなキスから始まったそれは、いつの間にか常の深さになり、起き上がっていたレオンの両手がスコールの頬を包んでいた。
離さない、と言わんばかりのレオンに、スコールもただただ、追い駆けるように応じてレオンの存在を確かめる。

久しぶりの感触を、満足する程の熱を交わして、ようやく唇は離れた。


「っは……あんた、いきなり……」
「起きたらお前の顔が見えたからな。つい」


酸素不足に赤らんだ顔で睨むスコールを、レオンは何処までも柔い瞳で見つめ返す。
愛しい気持ちを隠すつもりのないその目に、スコールは益々顔が熱くなるのを自覚した。

スコールの頬を捕まえていた手が離れて、レオンが体の向きを直す。
ソファにきちんと座る格好になったレオンの後ろで、スコールは赤い顔を背凭れの上に押し付けていた。

あふ、と欠伸を漏らすレオンは、雑誌やテレビ番組で見る時と違い、随分と無防備だ。
それが気を許した相手、とりわけ家族にのみ見せる、素の状態のレオンである。
カメラ越しにはまず見ることのないその顔を、当たり前に見れる事に、スコールは密かな優越感を抱いていた。

顔の赤みが消えていない自覚を感じながら、スコールはレオンを見ながら言った。


「あんた、いつ帰ったんだ。撮影スケジュールはまだ二日くらいあっただろ」
「家に着いたのは昼過ぎだったかな。スケジュールはそう取ってはいたけど、順調に進んだから早く終わったんだ。次のシーンはスタジオでの撮影だから、どの道戻らないといけなかったし、それなら、もう帰っていいと思ってな。お前の顔も見たかったから」
「………」


さらりと告げられる言葉に、スコールの顔がまた熱を持つ。

人気俳優と言う立場の為、忙しいのは間違いないが、それでもレオンはスコールのことを優先しようとする。
昔から愛してやまない弟と、一分一秒でも長く、傍にいたいと思っているからだ。
そんな風にレオンに特別に思われることが、どんなに稀有なことであるか、スコールはよく知っている。

レオンの体が背凭れに寄り掛かり、その向こうに立っているスコールを見た。
蒼の瞳に映り込んだスコールの顔は、分かり易く赤くなっている。
それを自分で見ていられなくて、視線を逸らしたスコールに、レオンは眉尻を下げながらくすくすと笑った。

レオンの指がスコールの頬に触れる。
滑る指先が、兄弟で揃いのピアスをした耳朶に触れて、


「スコール」


足りない分を取り戻したいと、名前を呼ぶ声に、スコールが拒否を示す訳もなかった。





レオンからの寝起きのキスをさせたかった。
スコールの方も、レオンがするならしたい(して欲しい)ので逃げない。
あとなんとなく俳優をしているレオンが見たいなと思ったんです。仕事中と家とで完全にスイッチが切り替わるタイプ。

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