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[8親子]夏色シロップ

  • 2025/08/08 21:20
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



赤、黄、緑、青の甘い液体。
其処に並べて、白くとろりとしたコンデンスミルクのチューブ。
それらを綺麗に並べる姉の隣で、小さな子供がきらきらと目を輝かせている。
ペンギンを模した手回しのついた機械がキッチンの天板に置かれると、その瞳はより一層輝きを増した。

冷凍庫の製氷室が開けられて、二日前から入れていた、シリコン製の丸い製氷皿が取り出される。
水を零さない為の蓋を開ければ、透明な氷がぴったりと詰まっていた。
直径8㎝になるかならないか、高さは5㎝程で、普通は中々使い所のないサイズの氷だ。
しかし、これは今日この日の為に用意されたもの。

ラグナはシリコンの皮を捲るようにして、氷を取り出した。


「よーし。かき氷作るぞー!」
「つくるぞー!」
「わぁーい!」


腕を振り上げて号令のように宣言するラグナに、エルオーネが続き、スコールが喜びの声を上げた。
両手を上げてきゃらきゃらと嬉しそうに笑う妹弟に、レオンとレインがくすりと笑う。

ラグナがかき氷機の蓋を開けて、氷を其処に納めた。
大きな氷だが、削り機の氷入れにはぴったりのサイズになっている。
蓋を元に戻し、其処についている手回しの取っ手を数回回すと、ぐっと固い物に当たる感触が返ってきた。
これで良し、とラグナは透明なガラス皿を下に置き、


「回すぞ~」
「待って。見たい見たい」
「ぼくも!」


早速氷を削り始めたラグナの下へ、キッチン台の向こう側にいた子供たちが駆けて来る。
あの大きな塊の氷が、どうやって、どんな風に出て来るのか、近くで見たいのだ。

エルオーネとスコールは、ラグナを挟んでキッチンに取りつき、丸々とした瞳でかき氷機を見詰める。
期待に満ちた視線をひしひしと感じながら、ラグナは改めて手回しのハンドルを握った。
硬くて強いものに刃が引っ掛かる反動を感じながら、ぐっと手首に力を込めて、ハンドルを動かしていく。

ガリ、ガリ、ガリ、と氷の削れる音が鳴ること、数回。
わくわくと見つめる子供たちの前で、きらりと光るものが削氷機の下から零れ始めた。


「出て来た!」
「きたぁ!」


興奮した様子の姉の声に、大人しい弟もまた声が弾む。
ガリガリ、ガリガリと氷は更に削れて行き、きらきらとした氷片が皿の上に落ちて行く。

クーラーが効いた室内とは言え、やはり氷にとっては形状を保っていられない温度である。
ガラス皿に落ちた最初の氷片は、常温の中ですぐに溶け始めてしまう。
その上にまた氷が落ち、更に氷が落ち、重なって行く様子を、子供たちは感嘆の眼差しで見つめている。
いつしかそれは容器の上に小さな山を作る程になり、天井の照明の光を反射させ、きらきらと輝いていた。

待ちきれない様子の子供たちに、まずはこの位で、とラグナは小山になった氷の山を二人に見せる。


「どうだぁ。かき氷だぞ!」
「かき氷だ!」
「かき氷ー!」


削氷機の下から出して見れば、それはより一層眩く光る。
それを見たエルオーネとスコールは、ぴょんぴょんと跳ねながら喜んだ。


ラグナは氷の乗った皿をエルオーネに持たせる。


「冷たい!」
「あっちで先に皆で食べてな」
「うん。行こ、スコール」
「うん!お兄ちゃんにも見せてあげなきゃ」


姉に促されて、スコールはとてとてとダイニングにいる兄の下へ。
エルオーネは手にした冷たいガラス皿を落とさないよう、慎重にその後を追った。

ダイニングでは、レオンとレインの手で、今日のおやつタイムの準備が整えられている。
食事の時にはいつも使っているランチョンマットがそれぞれの席に据えられ、氷を食べた子供たちが過度に冷えてしまわないよう、温かいお茶も飲めるようにポットの湯を沸かした。
そして先に冷蔵庫から出していた、かき氷の代表的なフレーバーシロップも、さっきエルオーネが並べた通りに置いてある。

スコールは兄の下へ駆け寄って、氷の耀きに負けず劣らずきらきらと光る眼でレオンを見上げた。


「お兄ちゃん、かき氷!」
「ああ。ほら、最初の味はどれにする?」
「私、いちごが良い!」


レオンの問いに、エルオーネがかき氷をテーブルに置きながら言った。
それをレインが指折りに数え、


「いちごが一票。スコールとレオンは?」
「俺はなんでも。二人が食べたいやつで良いよ」
「ぼくもいちごがいい」
「じゃあいちごね」


希望が採用されて、エルオーネとスコールは手を合わせて喜んだ。

レインがフレーバーシロップの蓋を開け、氷片の小山にトクトクとかけて行く。
真っ白だった氷の山が、鮮やかな色に染められていくのを、二対の丸い瞳が夢中になって見詰めている。
二人はそわそわと落ち着きなく、レオンがさり気無く椅子に座るようにと促してやれば、いそいそと定位置に収まった。

シロップをかけられた氷の小山は、頂点が少し落ち窪んでいる。
其処を通り抜けていった蜜が、ガラス皿の底にも色を作っていた。


「こんなものかしらね。はい、どうぞ」
「やったぁ!」


レインは、二人並んで座ったエルオーネとスコールの真ん中に、かき氷を置いた。
二人は手を合わせて喜び、それぞれのお気に入り専用のデザートスプーンを握って、早速一口。

あーん、と大きく開けた口で、ぱくりと氷を食べてみれば、つんと冷たい感触と甘い味が幼い口いっぱいに広がった。


「つめたぁい!」
「ひゃ~ってする!」


小さな小さな氷片は、子供たちの温度の高い舌の上で、あっと言う間に溶けていく。
シロップの甘い味が水気と混じって咥内に染みて行き、二人はふくふくと丸い頬を興奮に赤らませながら、冷たい氷菓の味を楽しんだ。

キッチンでは、まだガリガリと氷を削る音が続いている。
レオンが其方を覗いてみると、父が一所懸命に削った氷が皿の上でこんもりと山を作っていた。
先に子供たちに持って行かせたかき氷よりも、二回りは山のサイズが違う。

氷を手回し機で削ると言うのは、中々に重労働なものである。
額に薄らと汗を掻いているラグナを見て、レオンは言った。


「父さん、替わろうか」
「うん?いやいや、だいじょーぶだいじょーぶ。お前もほら、楽しみな」


レオンの申し出に、ラグナはにっかりと笑って言った。
キッチンの天板に置いていた山盛りのかき氷をレオンに差し出し、先に食べてな、と言う。
譲ってはくれなさそうな父の様子に、レオンは眉尻を下げつつ、厚意に甘えてかき氷を受け取った。

テーブルに座ったレオンの前に、レインがフレーバーを並べて見せる。


「レオンはどれ?」
「えーと……じゃあ、ソーダで。自分でかけるよ」
「そうね。はい、どうぞ」


母が取ったシロップを受け取って、レオンは蓋を開けた。
氷の山を外周から回るように、くるりくるりと回し掛けすれば、かき氷は綺麗な薄青色のグラデーションに彩られた。


「お兄ちゃん、青だ」
「ソーダ味!」


兄が選んだフレーバーの味に、良いなあ、と二対の瞳が羨ましそうに見つめる。
そんな二人の手元のかき氷は、元々少な目に盛ったのもあって、すっかり空になっていた。

レインはシロップの水溜まりが薄らと残ったばかりのガラス皿を回収しつつ、


「二人はまだ食べる?」
「食べる!」
「あっ、ぼく、かき氷作るのやりたい!」


かき氷の甘い心地良さが気に入ったエルオーネ。
対してスコールは、今日を待ち遠しくさせていた、もう一つの楽しみを思い出して、椅子を下りた。

とたとたとキッチンに駆けていったスコールは、三つ目のかき氷を作っている父の下へ。
ラグナは、削る氷が大分小さくなっているのを確認している所だった。
新しい氷を出そうかな、と削氷機から手を離した所で、腰にくっつくようにして息子が抱き着く。


「お父さん、お父さん」
「お。どした、スコール」
「ぼくもかき氷作りたい!」
「おっと。そうだったな。ちょっとまってな、新しい氷出すから。そうだ、このかき氷、お姉ちゃんに持って行ってやってくれよ」


ラグナはキッチンに置いていた山盛りのかき氷をスコールに渡した。
沢山の氷片で冷やされたガラス皿に触れて、スコールは「つめたぁい!」とはしゃぐように笑う。
落とさないようにな、と念を押されたスコールは、しっかりと頷いて、そろそろとした足取りでかき氷を運んで行った。

ラグナは製氷室を開けて、シリコントレーに入った氷をもう一つ取り出す。
削氷機の中に入っていた氷と入れ替えて、蓋をしっかりとセットし直し、手回しを数回回して氷を固定。
下準備を終えた所で、運搬係を終えた末っ子が戻ってきた。

まだ小さなスコールがキッチンで何かをする時の為に、パントリーの隅に置いていた折り畳みの踏み台を用意する。
それに上ったスコールは、丁度目の前に鎮座するペンギンの顔を見て、わくわくとした表情を浮かべた。
父がやっていたように、蓋の上についているハンドルをぎゅっと握り、


「んん……!」
「氷って固いからな。しっかり力入れるんだぞ」
「うん……!」


スコールは頬を膨らませながら目いっぱいに力んで、ハンドルを回そうと試みた。
入れ替えたばかりの氷は冷たく、固く、幼い力に試練を課すかのように、びくともしない。
んんん、と唸りながらなんとかハンドルを回そうとするスコールを、兄と姉がテーブルの方から首を伸ばして覗いていた。

まだまだ幼いスコールだから、力の入れ方だとか、手首や腕の使い方なんてものは、理屈では判らない。
とにかく出来る限りに全身に力を入れて、ハンドルを持つ手を動かそうとしている。
そんなスコールのハンドルを握る手許に、父の手が添えられて、


「よい……せっ!」
「んぅ!」


父の力添えを受けて、ぐっ、とハンドルが少し動く。
ガリッ、と言う音が聞こえて、スコールはもっと、と頑張った。

ラグナはかき氷機が余分な力で動かないように押さえつつ、スコールの手助けをする。
ガリ、ガリ、ガリ、と段階的な音を立てて、ハンドルが回り、氷が削れる。
やがて常温の中で溶けた氷は、納めた容器の中で薄らと水膜に乗って、滑りやすくなった。
一度スムーズに回り始めると、あとはガリガリ、ガリガリと不規則ながら回り始める。


「んしょ、んしょ、んっしょ……!」
「出て来た、出て来た。良いぞぉ、スコール」


父に励まされながら、スコールは氷を削って行く。
削氷機の下から零れ出してきた氷片が、設置したガラス皿の上にぱらぱらと落ちて行き、しばらくすると小山を作る程の量になった。
その頃には氷も随分と削り易くなり、ハンドルを回す度に、山が大きくなって行く。

父子で二人で作ったかき氷が、綺麗な山を形成するまでに至って、スコールはやっとハンドルから手を離した。


「はふ、はふ……ふあぁ。かき氷作るのって、大変なんだね」
「はは、そうだな。スコールはよく頑張ったな」


全身に力を入れて踏ん張っていたスコール。
力んだ名残に赤らめた頬をつんつんとつつきながら、ラグナはその努力を褒め称えた。

ラグナは氷の山の形を軽く整えて、冷たいガラス皿をスコールに渡す。


「ほら、向こうで食べな。スコールが自分で作ったかき氷だ!」


少し疲れた様子のスコールだったが、自分で作ったかき氷を目にすると、またその瞳が輝く。
それは他のかき氷と、氷こそ新しく取り出しはしたものの、成分に違う所がある訳でもない。
けれど、自分で削り出した、自分が作ったかき氷だと思うと、誇らしいものに思えたのだった。

スコールはかき氷を受け取って、とたとたとダイニングへ。
いつもの席にかき氷を置いて椅子に座ると、母が「どれにする?」とシロップを見せた。


「んと、うんと……いちご、レモン、いちご、むぅ」
「二つでもいいよ、スコール。ほら、私も二つかけたの!」


そう言ったエルオーネのかき氷を見ると、黄色と緑色が半分ずつかかっている。
レモンとメロンを選び切れなかったエルオーネは、レインに頼んで両方とも味わうことにしたのだ。
それを見たスコールの目が、そんなことも出来るんだ、と驚きに見開いた。

期待に満ちた目が、早速母を見ておねだりする。


「お母さん、お母さん。んっとね、ぼくね、いちごとレモンが良い」
「仕方ないわねぇ」
「あと、あとね。ミルクもかけたい」


冷たいかき氷に、甘いコンデンスミルクをたっぷりかける。
それはスコールが夏祭の屋台でかき氷を食べる時の、最高の組み合わせだった。

赤と黄のシロップが、代わる代わるにかけられて、右と左で半分ずつ。
綺麗なコントラストを作り出したその上に、レインはコンデンスミルクをかけてくれた。
とろんとした乳白色の液体が、くるくると山の外周を巡るように降り注いで、氷片の上をゆっくりと伝い落ちて行く。
その姿を目にしたスコールは、まろい頬をぱぁっと明るく火照らせた。


「いただきます!」
「はい、どうぞ。レオンとエルは、ミルクは良いの?」
「俺は大丈夫」
「私はかける!」


最近、甘いものがそれほど得意でなくなってきたレオンに比べると、エルオーネはまだまだ甘味に目がない。
ちょうだい、と手を挙げてミルクをねだるエルオーネに、レインは末子にしたように、半分に減ったかき氷にミルクをくるくると回しかけてやった。

冷たく甘い夏の氷菓を満喫する子供たち。
それを見詰めて柔く目を細めていたレインの下へも、かき氷はやってきた。


「ほら、レインの分」
「ありがとう」


ラグナが差し出したかき氷を受け取って、レインはレモンシロップを手に取った。

そしてラグナも、空いている席に座って、自分のかき氷にソーダのシロップをかける。
家族全員分のかき氷を作った父を、レオンが労う。


「父さん、疲れただろ。お茶は俺が淹れるよ」
「おう、サンキュな」


レオンのかき氷は、もう殆ど氷が解けて、シロップばかりが残っていた。
皿の底に残っているそれを、レオンは口元に持って行って飲み干す。
空になった皿を持ってキッチンに向かう兄を、スコールがあっと呼び止めた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「ぼくが作ったかき氷、ちょっとだけあげる。はい、あーん」


そう言ってスコールは、かき氷からスプーン一口分を取って、兄へと差し出した。
氷は赤と黄が半分に混じり、コンデンスミルクもかかっていて、一番贅沢な部分だ。
それをあげる、と言ってくれる弟に、レオンは笑みを零して口元を寄せた。


「あーん」
「えへへ。美味しい」
「ああ。冷たくて美味しいよ」


頭を撫でてくれる兄に、スコールは誇らしげに笑う。
それを見たエルオーネが、良いなあ、と言ったのがスコールの耳に届き、


「お姉ちゃんにもあげる。あーん」
「あーん。ふふっ、美味しい。スコールにも私のかき氷あげるね」


あーん、とエルオーネが差し出したスプーンに、スコールはぱくんと喰いついた。
雛鳥のように嬉しそうに氷を食む弟に、エルオーネも満足げな表情を浮かべる。

子供たちが食べるかき氷は、時間と共に溶けて行き、最後には冷えたシロップが残る。
ふたつの味をかけたエルオーネとスコールのシロップは、それぞれの色が交じり合った色になっていた。
更にミルクもかけたので、これも溶け込んだシロップは甘くて子供たちに多幸感を誘う。
二人は最後の一滴までしっかり飲み干して、今日のおやつの時間を満喫した。

そして最後に、レオンがポットの湯で淹れてくれたお茶が振る舞われる。


「スコール、エル。冷たいものを食べたから、今度は温かくしよう」
「はぁい」
「お腹の中、ちょっとひんやりしてる」
「うん。そのままにしてると後でお腹を壊すかも知れないからな」


釘を差す兄の言葉に頷いて、二人はマグカップに入ったお茶を飲む。
舌で感じる温度差に、ふぅふぅと息をかけて冷ましながら、冷えた身体を温め直した。

ラグナは早々にかき氷を食べ終えて、余ったシロップに手を伸ばす。
まだまだ半分以上残っているそれを眺め、


「かき氷はまた作っても良いけど、これ、使い切れないよなぁ」
「炭酸で割るとか、アイスにかけるとか。かき氷じゃなくても使い道はあるから、なんとかなると思うわ」


決して高い代物でもないが、余って捨てるのも勿体ない。
なんとかこの夏の間に出来るだけ消費して見よう、と言うレインに、エルオーネが反応した。


「シロップ、アイスにかけて良いの?」
「そうね。アイスを作る時に混ぜても良いだろうし……」
「お母さんのアイス、ぼく、好き」
「私も!」


末っ子と娘のきらきらとした期待の眼差しに、しょうがないなあ、とレインは眉尻を下げて笑うのだった。




皆で一緒にかき氷パーティ。
家で作って食べると、なんとなく夏祭り等で食べる時とは違う特別感がありますね。
手回しのかき氷機って中々難しい(氷の形状にもよるかも知れない)記憶があるのですが、スムーズに回ってくれれば結構楽しかった気がする。

かき氷シロップって、一番小さいサイズのボトルでも大概余ってしまうものですね。何度もやるには、意外とかき氷って根気とエネルギーがいるものだと思う。主には大人のエネルギーが。

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