[けものびと]あったかいところがいい
2月22日で猫の日と言う事で、獣人レオンと獣人スコール。
主な設定と今までの話は此処と此処。
つい先日、春一番の風が吹いたと、ニュースで言っていた。
けれども一転、その日の夜から急激な冷え込みがやって来て、翌日にはまるで真冬のような寒さに逆戻り。
暦の上で言えばまだ春とは言い難く、それを思えば無理からん事とも言えるが、それまで少しずつ暖かくなりつつあった事もあり、人々は油断していた所を襲われたような気分だった。
明日の朝食がないと気付き、急いでスーパーに出かけただけで、冷たい向かい風に叩かれたラグナの体は、すっかり冷えた。
寒い寒いと帰って来たラグナが玄関を開けると、其処にいつも丸まって待ってくれていた獣人の兄弟は、今日はいない。
寂しいと思いつつ、これもまた無理はないと判っている。
リビングや寝室は暖房が効いているので温かいが、玄関ばかりはそうも行かない。
リビングのドアを開け放ったままにしていても、外からの冷気が滑り込んでくる玄関だけは、中々暖まってはくれないのだ。
ましてや夕食を終えて一時間弱となれば、彼等はそろそろ寝る時間である。
無人のリビングを覗いて、ラグナは彼等が寝室の寝床に入っているであろう事を確かめた。
明日の朝食に使う食材を冷蔵庫に詰めてから、ラグナは風呂へ。
少し熱めの湯を張った湯船に身を沈めると、血行が良くなったお陰で、ぶるりと体が震えた。
それも治まるまで、じっくりゆっくり体を温める。
風呂上りに、久しぶりにビール缶を冷蔵庫から出した。
一人暮らしをしていた時は、風呂上りのビールは習慣であったが、獣人の兄弟を拾ってからは控えていた。
彼等がこの暮らしに慣れた頃、色々なものに興味を持つようになって、ラグナが飲んでいたビールをぺろりと舐めた事がある。
どちらも判り易く顔を顰め、口直しに必死に水を飲んだだけでなく、ふらふらと足元が覚束なくなったり、短毛に覆われた顔の皮膚が赤らんでいる見える事に気付いた時は、彼等にアルコールは厳禁だと悟った。
それ以来ラグナは、うっかり兄弟が酒を口にしないよう、アルコール類の摂取を控えている。
とは言え、風呂上りのビールの気持ち良さは忘れ難く、兄弟が眠ってから一本だけ、と偶の密かな楽しみは継続されている。
窓の向こうで、風が唸りを上げて吹いている。
天気予報を見てみると、明日は晴れるが、風は強く冷たいと言っていた。
明日は兄弟をマンション裏の公園で遊ばせてやりたいと思っていただけに、少々残念だ。
あれだけ風が冷たかったら、空気も冷えているだろうし、まだまだ体の小さな兄弟には辛いかも知れない。
元々彼等はサバンナで暮らしていたのだから、余り寒い所には連れ出さない方が良いだろう。
ビールを空にし、摘まんでいた柿の種も無くなった所で、ラグナはお開きにした。
冷たい水道水で手早く皿を洗って、空き缶の中も水洗いし、シンクの横に干して置く。
明日のゴミは何の日だったかなあ、と頭を掻きつつ、ラグナは寝室へと向かった。
豆電球のみを点けた寝室の中で、一つしかない大き目のベッドの上に丸まっている獣人の兄弟───レオンとスコール。
保護したばかりの頃は、一緒に寝る事なんて夢のまた夢と思う程に警戒していた彼等だったが、共に過ごす日々の中で、ラグナへの警戒心はすっかり消えた。
今では毎日、同じベッドの中で寝起きをしてくれる程、二人はラグナに信頼を寄せている。
ラグナは、彼等が自分と同じベッドで眠っている姿を見る度、その喜びを感じていた。
レオンとスコールは、ぴったりと身を寄せ合い、温もりを逃がさないように丸くなっていた。
暖房が効いている部屋の中とは言え、やはり空気全体の仄かな冷えを感じるのか、それとも暖房の風の所為か。
ラグナは暖房の風の位置を調整し、兄弟に直接当たらないようにして、二人の体に毛布を掛けてやった。
電気のリモコンを片手に、寝ている二人を起こさないようにベッドに乗る。
きしり、と軋む音に、ぴくっ、とレオンの耳が動いた。
「……ぐぅ……」
「あっ。悪い悪い、起こしたか」
ラグナは自分の毛布を手繰り寄せつつ、顔を上げたレオンの頭を撫でる。
丸い鼻がひくひくと動いて、寝床に入って来た者の正体を確かめているようだった。
いつもは細い瞳孔が大きく開いて、目の前にいる人物をじっと見つめた後、ぷん、と尻尾を振って、くぁあう、と大きく口を開けて欠伸をする。
「よしよし。眠たいんだな。起こしてごめんな」
むにゅむにゅと口を動かし、眠たげに目を細めるレオン。
ラグナは、そんなレオンの耳の裏をくすぐって、寝てて良いよ、と言った。
ラグナに言われた事が判ったのか、元より眠くて堪らないのか、レオンは直ぐに顔を伏せた。
うつらうつらとしている様子が判る。
これなら程無く寝るだろう───とラグナは思ったのだが、
「……んぐぅ……」
「ありゃ」
今度は、弟のスコールが顔を上げる。
兄が身動ぎしていた事を感じ取って、目を覚ましたのだろうか。
ラグナは、兄と同じく眠たげに目を細めたまま顔を上げているスコールに、丸い頬を撫でてあやす。
「スコールも起こしちゃったな。ごめんな」
「……ぐぁう……」
「まだ夜だからな。寝てていいよ」
「んぐぅ……」
スコールは鼻頭に皺を寄せながら、眠たげな目許を猫手で洗う。
それから兄と同じように、くあああ、と大きな欠伸をしてみせた。
弟が起きた事に気付いたのか、レオンもまた眠ろうとしていた目を開ける。
レオンの舌がスコールの頬を舐め、毛繕いの心地良さにスコールが気持ち良さそうに喉を鳴らす。
─────と、
「………」
「………」
「ん?」
スコールが上を向いて、頭を小さく揺らしている。
その傍ら、レオンも同じように天井を仰いで、ひくひくと鼻を動かしながら、頭を小刻みに揺らし、
「………っぷしゅ!」
「ぷしゅんっ!」
同時に行われた可愛らしいくしゃみに、ありゃりゃ、とラグナは眉尻を下げて笑う。
鼻先の水気と寒さを嫌うように、ぶるぶると頭を振る兄弟。
ラグナはそんな二人を毛布で包み、小さな体から熱が逃げないようにしてやった。
が、スコールが毛布の中からするりと抜け出してしまい、ラグナの布団の中へと潜り込んで来た。
「うぅ、ぐぁう。がぁう」
「おいおいスコール、重たいよ」
幼いながらも、“ライオン”モデルらしい大きな手が、ラグナの腹の上を動き回る。
生活環境の変化から、少し筋肉の落ちて来たラグナの腹を、ぐっぐっと肉球が押していた。
弟が傍からいなくなって、レオンがまたふるりと身を震わせる。
寒さを嫌った幼い体は、弟を追うようにして、ラグナの布団の中に潜り込んで来た。
布団の中で大きな塊が二つ、ラグナの腹や胸を踏みながら、あっちへこっちへ動き回っている。
ラグナは流石に重いなあ、と思いつつ、二人が落ち付けるのを待った。
先に落ち付いたのはスコールの方で、彼はラグナの腹に体を乗せて丸くなった。
肉布団の暖かさは彼のお気に召したらしく、このまま眠るつもちのようだ。
しかし、ごちん、と布団の中で固いものがぶつかる音が鳴る。
どうやら、丸くなっているスコールの頭と、温かい寝床を探していたレオンの頭がぶつかったようだ。
「ぐぅ」
「…がぁう」
「うー」
布団の中で、レオンがスコールの顔を舐めている。
ごめんな、と謝っているようだった。
「がぁう」
「うぁ」
「うぉっ……ちょっと重…っ」
スコールが丸くなっているすぐ傍で、レオンも体を丸める。
レオンは、体の半分をラグナの腹に乗せていた。
かかる重みは耐えられない程ではないものの、若干、呼吸が阻害されているような気がする。
このままでは、ラグナがゆっくりと眠るのは難しい。
改めて寝入ろうとしている二人には悪いと思ったが、ラグナは一度起き上がった。
「ちょっとごめんな」
「ぐあう?」
「がう?がうぅっ」
寝床が動いた事に驚いたのか、不満だったのか、布団の中で二人が焦ったように動き出す。
ひょっとしたら今までの行動は全て寝惚けていて、ラグナが起き上がった事で目を覚ましたのかも知れない。
悪い事したかな、と思いつつ、ラグナは布団を捲り上げて、二人の腹の上から抱き上げた。
「があうぅ」
「ああ、寒いんだな。うん。だからほら、スコールは此処」
「ぐぅん……」
「レオンはこっち。これなら皆暖かいだろ」
ラグナはスコールとレオンを、それぞれ自分の両脇に下ろしてやった。
心地良かった肉布団がなくなって不満なのだろう、スコールがぐぅぐぅと喉を鳴らして不満を訴える。
ラグナはそんなスコールの背中をぽんぽんと撫でて、片腕に包むようにして抱き寄せた。
レオンはと言うと、スコールと離された事が嫌だったのだろう、もぞもぞと身動ぎし、兄弟の間に横たわるラグナの体を乗り越えようとする。
爪を引っ込めたレオンの手が、ラグナの胸を踏んでいるが、ラグナはレオンの背中を捕まえて、元の位置へと引き戻した。
それでもレオンは暫く抵抗していたが、ラグナが離してくれそうにない事を悟ると、頭だけを持ち上げてラグナの胸にぽてっと乗せ、反対側にいるスコールを見詰めるようになった。
スコールも兄と同じように、寝心地の良いラグナの腹へ戻ろうとしていたが、背中に触れる掌の体温に、次第にそれを忘れて行った。
落ち着いた時には、スコールもレオンも、ラグナの胸に頭を乗せ、お互いの顔を見ながら、うとうとと舟を漕いでいる。
ラグナは、二人の髪に似た濃茶色の鬣を、ゆっくりと指で撫で梳いた。
「……ぐぅ……」
「……がぁう……」
微かに零れた鳴き声は、甘えるように柔らかい。
すぅ、すぅ、と胸に触れる規則正しい二つの寝息。
暖かいなあ、と頬を緩めて、ラグナはゆっくりと目を閉じた。
猫の日と言う事で、獣人レオンと獣人スコールと保護者ラグナ。
皆くっつきあってぽかぽか。
しかしラグナは朝まで寝返りが打てないので、起きたらちょっと体が固くなってる。
主な設定と今までの話は此処と此処。
つい先日、春一番の風が吹いたと、ニュースで言っていた。
けれども一転、その日の夜から急激な冷え込みがやって来て、翌日にはまるで真冬のような寒さに逆戻り。
暦の上で言えばまだ春とは言い難く、それを思えば無理からん事とも言えるが、それまで少しずつ暖かくなりつつあった事もあり、人々は油断していた所を襲われたような気分だった。
明日の朝食がないと気付き、急いでスーパーに出かけただけで、冷たい向かい風に叩かれたラグナの体は、すっかり冷えた。
寒い寒いと帰って来たラグナが玄関を開けると、其処にいつも丸まって待ってくれていた獣人の兄弟は、今日はいない。
寂しいと思いつつ、これもまた無理はないと判っている。
リビングや寝室は暖房が効いているので温かいが、玄関ばかりはそうも行かない。
リビングのドアを開け放ったままにしていても、外からの冷気が滑り込んでくる玄関だけは、中々暖まってはくれないのだ。
ましてや夕食を終えて一時間弱となれば、彼等はそろそろ寝る時間である。
無人のリビングを覗いて、ラグナは彼等が寝室の寝床に入っているであろう事を確かめた。
明日の朝食に使う食材を冷蔵庫に詰めてから、ラグナは風呂へ。
少し熱めの湯を張った湯船に身を沈めると、血行が良くなったお陰で、ぶるりと体が震えた。
それも治まるまで、じっくりゆっくり体を温める。
風呂上りに、久しぶりにビール缶を冷蔵庫から出した。
一人暮らしをしていた時は、風呂上りのビールは習慣であったが、獣人の兄弟を拾ってからは控えていた。
彼等がこの暮らしに慣れた頃、色々なものに興味を持つようになって、ラグナが飲んでいたビールをぺろりと舐めた事がある。
どちらも判り易く顔を顰め、口直しに必死に水を飲んだだけでなく、ふらふらと足元が覚束なくなったり、短毛に覆われた顔の皮膚が赤らんでいる見える事に気付いた時は、彼等にアルコールは厳禁だと悟った。
それ以来ラグナは、うっかり兄弟が酒を口にしないよう、アルコール類の摂取を控えている。
とは言え、風呂上りのビールの気持ち良さは忘れ難く、兄弟が眠ってから一本だけ、と偶の密かな楽しみは継続されている。
窓の向こうで、風が唸りを上げて吹いている。
天気予報を見てみると、明日は晴れるが、風は強く冷たいと言っていた。
明日は兄弟をマンション裏の公園で遊ばせてやりたいと思っていただけに、少々残念だ。
あれだけ風が冷たかったら、空気も冷えているだろうし、まだまだ体の小さな兄弟には辛いかも知れない。
元々彼等はサバンナで暮らしていたのだから、余り寒い所には連れ出さない方が良いだろう。
ビールを空にし、摘まんでいた柿の種も無くなった所で、ラグナはお開きにした。
冷たい水道水で手早く皿を洗って、空き缶の中も水洗いし、シンクの横に干して置く。
明日のゴミは何の日だったかなあ、と頭を掻きつつ、ラグナは寝室へと向かった。
豆電球のみを点けた寝室の中で、一つしかない大き目のベッドの上に丸まっている獣人の兄弟───レオンとスコール。
保護したばかりの頃は、一緒に寝る事なんて夢のまた夢と思う程に警戒していた彼等だったが、共に過ごす日々の中で、ラグナへの警戒心はすっかり消えた。
今では毎日、同じベッドの中で寝起きをしてくれる程、二人はラグナに信頼を寄せている。
ラグナは、彼等が自分と同じベッドで眠っている姿を見る度、その喜びを感じていた。
レオンとスコールは、ぴったりと身を寄せ合い、温もりを逃がさないように丸くなっていた。
暖房が効いている部屋の中とは言え、やはり空気全体の仄かな冷えを感じるのか、それとも暖房の風の所為か。
ラグナは暖房の風の位置を調整し、兄弟に直接当たらないようにして、二人の体に毛布を掛けてやった。
電気のリモコンを片手に、寝ている二人を起こさないようにベッドに乗る。
きしり、と軋む音に、ぴくっ、とレオンの耳が動いた。
「……ぐぅ……」
「あっ。悪い悪い、起こしたか」
ラグナは自分の毛布を手繰り寄せつつ、顔を上げたレオンの頭を撫でる。
丸い鼻がひくひくと動いて、寝床に入って来た者の正体を確かめているようだった。
いつもは細い瞳孔が大きく開いて、目の前にいる人物をじっと見つめた後、ぷん、と尻尾を振って、くぁあう、と大きく口を開けて欠伸をする。
「よしよし。眠たいんだな。起こしてごめんな」
むにゅむにゅと口を動かし、眠たげに目を細めるレオン。
ラグナは、そんなレオンの耳の裏をくすぐって、寝てて良いよ、と言った。
ラグナに言われた事が判ったのか、元より眠くて堪らないのか、レオンは直ぐに顔を伏せた。
うつらうつらとしている様子が判る。
これなら程無く寝るだろう───とラグナは思ったのだが、
「……んぐぅ……」
「ありゃ」
今度は、弟のスコールが顔を上げる。
兄が身動ぎしていた事を感じ取って、目を覚ましたのだろうか。
ラグナは、兄と同じく眠たげに目を細めたまま顔を上げているスコールに、丸い頬を撫でてあやす。
「スコールも起こしちゃったな。ごめんな」
「……ぐぁう……」
「まだ夜だからな。寝てていいよ」
「んぐぅ……」
スコールは鼻頭に皺を寄せながら、眠たげな目許を猫手で洗う。
それから兄と同じように、くあああ、と大きな欠伸をしてみせた。
弟が起きた事に気付いたのか、レオンもまた眠ろうとしていた目を開ける。
レオンの舌がスコールの頬を舐め、毛繕いの心地良さにスコールが気持ち良さそうに喉を鳴らす。
─────と、
「………」
「………」
「ん?」
スコールが上を向いて、頭を小さく揺らしている。
その傍ら、レオンも同じように天井を仰いで、ひくひくと鼻を動かしながら、頭を小刻みに揺らし、
「………っぷしゅ!」
「ぷしゅんっ!」
同時に行われた可愛らしいくしゃみに、ありゃりゃ、とラグナは眉尻を下げて笑う。
鼻先の水気と寒さを嫌うように、ぶるぶると頭を振る兄弟。
ラグナはそんな二人を毛布で包み、小さな体から熱が逃げないようにしてやった。
が、スコールが毛布の中からするりと抜け出してしまい、ラグナの布団の中へと潜り込んで来た。
「うぅ、ぐぁう。がぁう」
「おいおいスコール、重たいよ」
幼いながらも、“ライオン”モデルらしい大きな手が、ラグナの腹の上を動き回る。
生活環境の変化から、少し筋肉の落ちて来たラグナの腹を、ぐっぐっと肉球が押していた。
弟が傍からいなくなって、レオンがまたふるりと身を震わせる。
寒さを嫌った幼い体は、弟を追うようにして、ラグナの布団の中に潜り込んで来た。
布団の中で大きな塊が二つ、ラグナの腹や胸を踏みながら、あっちへこっちへ動き回っている。
ラグナは流石に重いなあ、と思いつつ、二人が落ち付けるのを待った。
先に落ち付いたのはスコールの方で、彼はラグナの腹に体を乗せて丸くなった。
肉布団の暖かさは彼のお気に召したらしく、このまま眠るつもちのようだ。
しかし、ごちん、と布団の中で固いものがぶつかる音が鳴る。
どうやら、丸くなっているスコールの頭と、温かい寝床を探していたレオンの頭がぶつかったようだ。
「ぐぅ」
「…がぁう」
「うー」
布団の中で、レオンがスコールの顔を舐めている。
ごめんな、と謝っているようだった。
「がぁう」
「うぁ」
「うぉっ……ちょっと重…っ」
スコールが丸くなっているすぐ傍で、レオンも体を丸める。
レオンは、体の半分をラグナの腹に乗せていた。
かかる重みは耐えられない程ではないものの、若干、呼吸が阻害されているような気がする。
このままでは、ラグナがゆっくりと眠るのは難しい。
改めて寝入ろうとしている二人には悪いと思ったが、ラグナは一度起き上がった。
「ちょっとごめんな」
「ぐあう?」
「がう?がうぅっ」
寝床が動いた事に驚いたのか、不満だったのか、布団の中で二人が焦ったように動き出す。
ひょっとしたら今までの行動は全て寝惚けていて、ラグナが起き上がった事で目を覚ましたのかも知れない。
悪い事したかな、と思いつつ、ラグナは布団を捲り上げて、二人の腹の上から抱き上げた。
「があうぅ」
「ああ、寒いんだな。うん。だからほら、スコールは此処」
「ぐぅん……」
「レオンはこっち。これなら皆暖かいだろ」
ラグナはスコールとレオンを、それぞれ自分の両脇に下ろしてやった。
心地良かった肉布団がなくなって不満なのだろう、スコールがぐぅぐぅと喉を鳴らして不満を訴える。
ラグナはそんなスコールの背中をぽんぽんと撫でて、片腕に包むようにして抱き寄せた。
レオンはと言うと、スコールと離された事が嫌だったのだろう、もぞもぞと身動ぎし、兄弟の間に横たわるラグナの体を乗り越えようとする。
爪を引っ込めたレオンの手が、ラグナの胸を踏んでいるが、ラグナはレオンの背中を捕まえて、元の位置へと引き戻した。
それでもレオンは暫く抵抗していたが、ラグナが離してくれそうにない事を悟ると、頭だけを持ち上げてラグナの胸にぽてっと乗せ、反対側にいるスコールを見詰めるようになった。
スコールも兄と同じように、寝心地の良いラグナの腹へ戻ろうとしていたが、背中に触れる掌の体温に、次第にそれを忘れて行った。
落ち着いた時には、スコールもレオンも、ラグナの胸に頭を乗せ、お互いの顔を見ながら、うとうとと舟を漕いでいる。
ラグナは、二人の髪に似た濃茶色の鬣を、ゆっくりと指で撫で梳いた。
「……ぐぅ……」
「……がぁう……」
微かに零れた鳴き声は、甘えるように柔らかい。
すぅ、すぅ、と胸に触れる規則正しい二つの寝息。
暖かいなあ、と頬を緩めて、ラグナはゆっくりと目を閉じた。
猫の日と言う事で、獣人レオンと獣人スコールと保護者ラグナ。
皆くっつきあってぽかぽか。
しかしラグナは朝まで寝返りが打てないので、起きたらちょっと体が固くなってる。