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[ウォルスコ]この一時は君の為

  • 2022/08/08 22:20
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


一日の授業を終えて、スコールはやれやれと言う気分で校門を出る。
後ろをついて歩くのは、いつの間にかセットでの行動が定着していた、ティーダとヴァンだ。
時には此処に後輩のジタンが加わるのだが、今日は彼が所属している演劇部の活動日なので、彼はいない。
それでも後ろの会話が賑やかな事には変わらず、喧しい奴等だな、と思いながら、それもいつもの光景と慣れた足で家路につく。

高校入学を期に、生まれ育った街から離れたスコールであるが、一人暮らしをしている訳ではない。
入学先であった学校から程近い場所に、嘗ての幼馴染であり、兄代わり的存在であった青年が、社会人として暮らしていた。
彼のもとに下宿と言う形で住むことが決まり───と言うよりは、元々彼の傍に行くことを目当てにスコールは進学先を選んだと言う本音がある。
住み込ませて貰う事まで想定していた訳ではなかったが、しかし彼が傍にいるなら話は早いと、父ラグナの方から兄代わりの彼に連絡が取られた。
女子じゃあるまいし大袈裟な、と言う人はいるかも知れないが、だが父の心配の種は、強ち冗談ではないのだ。
何せスコールは、幼い頃に何度か誘拐未遂をされているし、中学生の頃にもストーカーめいた被害に遭っている。
兄代わりの青年もそれを知っているから、此方に来るのならいっそ、とラグナと彼との間で話はとんとん拍子に進んだ。
そしてあれよあれよと、近所住まい所か、スコールも密かな恋心を持ち続けていた事もあって、好きな人と一緒にいられる、と言う機会を手放す気にはなれず、同居する事が決まった。

それが一年と半年前の話になる。
そして、今年の冬の終わり頃から、スコールと兄代わりの青年───ウォーリアは正式に恋人同士となった。
幼い頃から密かに抱いていた恋心が、まさか叶う事があるなんて、スコールは思ってもいなかったから、今でも時々あれは夢なのではないかと思う。
だが、そんな事を考える度、ふとした折に彼が優しく触れてくれるから、ああ現実なんだと知る。

そんな風に、毎日を夢と現の境目にいるような気分に見舞われるスコールだが、学校帰りはとても現実的な思考になる。
何せ毎日の夕飯の支度はスコールの仕事だから、献立なり冷蔵庫の中身なりと、考えなくてはいけないことは幾らでもあるのだ。
実家で暮らしていた頃から家事はスコールの役目として定着していたので、放課後に入るなり、夕飯のメニューを考えるのは、最早癖のようなものだった。


(残ってたものは昨日全部使ったから、今日は大目に買い出しして……サラダも使い切ったな。スープは何を……その前にメインを肉にするか魚にするか……)


考えることが多い、とスコールは一つ溜息を吐く。

今週の頭に定期テストが入っていたから、その前週の食事は、専ら作り置きを利用し、足りないものは買い込んでいた冷凍食品やフリーズドライを使った。
スコールはそれ程食べる訳ではないし、ウォーリアも必要最低限のエネルギーが摂れれば十分という性質だから、それで食事量は上手く回すことが出来た。
しかし、一週間と言う、常を思えば少々長い期間、買い物の時間を削っていたので、そろそろ冷蔵庫の中は心許なくなっている。
非常食として置いているカップラーメンを開けても良いが、自分一人ならそれで良くても、同居人がいるとなると、やはり其方には気を遣うものであった。

主菜も副菜も当てに出来るものがないので、スコールは程なく考えるのを辞める。
取り敢えず、今日はスーパーに行ってから、必要なものを軒並み揃えて、その中から適当に考えても良いだろう。
財布の中身だけは確認しておかないと、としばらく開けていないその中身について思い出そうとしていると、


「あ、ウォーリアだ」
「……え?」
「本当だ。ほら、あそこあそこ」


ヴァンの言葉に、スコールが聞き違いかと思わず足を止める間に、ティーダが前を指差した。
彼が示した先には、きらきらと眩い銀糸を持った男が立っている。
傍らには、彼が毎日の出勤に使っている、黒の乗用車が停められていた。

見知った顔との遭遇に、ティーダが嬉しそうに走り寄る。
それにつられてヴァンが「行こうぜ」とスコールの手を引っ張って行くものだから、スコールはどうしてウォルが此処に、と言う混乱のまま、彼の下まで引き摺られて行った。


「ウォーリア、今帰りっスか?」
「ああ」
「スコールを迎えに来たのか?」
「ああ」


矢継ぎ早の少年たちの質問に、ウォーリアはそれぞれ頷いて答えた。
それを聞いたティーダとヴァンは、そうかそうかと言って、後ろに棒立ちになっていたスコールを前へと押す。


「そんじゃ、今日は俺達は此処までっスね」
「な……おい、」
「また明日な~」


スコールがまだ何も言っていない内に、友人二人はさっさと退散してしまう。
おい、とスコールの手は彷徨ったまま、半ば呆然として、スコールは二人の背中を見送る事となった。

取り残された形になってから、数十秒か。
我に返ったスコールが振り返れば、柔らかいアイスブルーの瞳が此方を見ていた。
不意を打ったように視線が交わったものだから、スコールは思わず言葉を失うが、ウォーリアの方は心なしか嬉しそうに口元が緩み、


「早く上がって良いと言われたのでな。君も今から帰る時間だろうとお思って、迎えに来た」
「……そうか」
「邪魔をしたかも知れないな。すまない」
「……別、に」


友人との放課後は、学生にとっては少しの自由時間となるものだ。
実際スコールも、友人たちに連れられて、ちょっとした散策に参加する事は儘ある。
その予定だったのならすまない、と詫びるウォーリアに、スコールは緩く首を横に振った。

ウォーリアが助手席のドアを開けてくれたので、スコールは車に乗り込んだ。
エンジンは切られていたが、此処に来てから間もなかったのか、車内は冷房が効いていて涼しい。
ふう、と冷風の心地良さに目を細めている内に、ウォーリアが運転席へと座る。
ウォーリアはエンジンをつけた車のウィンカーを点けて言った。


「何処かに立ち寄る予定があるのなら、其方に向かうが」
「……冷蔵庫の中身が空だ。スーパーに行く。夕飯も考えないといけないし」


第一ボタンを外したワイシャツの襟元で首回りを扇ぎなら、スコールは答える。
すると、ウォーリアは少し考えるように沈黙した後、


「では、今日は外食にしないか」
「外食?」
「ああ。その方が、君も準備や片付けをしなくて良いだろう」
「……まあ、それは助かるけど」


家事は自分の仕事として引き受けてはいるが、日々のそれを面倒に思わない訳ではない。
買い出しでも食事の用意でも、楽が出来るなら、それはスコールにとって有り難いことだった。
素直にそう答えれば、「では、そうしよう」と言って、ウォーリアは車を発進させた。

ウォーリアと一緒に暮らすようになって一年半、その内に外食した回数は非常に少ない。
ウォーリア自身は料理ができないこともあり、以前は外食やコンビニ弁当を食べることが多かったそうだが、同居を始めてからは、スコールがそれを一手に担う事もあり、殆ど機会がなくなった。
昼もスコールが自分の弁当を作るついでに用意するので、其方も行くタイミングは激減している。
同居を始めた頃は、まだお互いの遠慮もあり、スコールも勝手の分からないキッチンを使う事に躊躇いもあったので、何度か外食で済ませた事もあったが、もうそんな話もない。

久しぶりの外食に、何処に連れていかれるのかと思ったら、何処にでもあるチェーン店のファミレスだった。
品の種類が豊富だから、君も好きなものがあるのではないか────と選択の理由をウォーリアは語る。
別に好き嫌いはないし、何処でも良かったスコールだが、ウォーリアが此処を選んだと言うのが少し意外だった。
勝手ながら、少々敷居の高いレストランだとか、コース料理が出る所だとかを想像していたからだ。
だが、気楽に気兼ねをせずに、スコールが楽に過ごせる場所と言う意味で選んだのであるならば、スコールにとっては少し擽ったいものだ。
あくまでこの選択は、スコールの為を思ってのこと、なのだから。

どれでも好きに食べると良い、と言われて、スコールはパスタとサラダを頼んだ。
セットのドリンクバーも頼んでおくと、注文を取った後、ウォーリアが「私が行こう」と席を立つ。
ドリンクバーの使い方を判っているのか、となんとなく不安になって席から見守っていたスコールだが、ウォーリアは問題なく、炭酸ジュースと自分のコーヒーを持ってきた。
よくよく考えれば、スコールが家に来るまでは、こう言う店にも比較的頻繁に足を運んでいたのだ。
何処か浮世離れしている印象が消えない恋人であるが、余計な心配だった、とスコールはこっそり反省する。

夕食を済ませると、「デザートは要らないか?」と訊ねられた。
別に、いるかいらないかと言えば、“どっちでも良い”スコールであったが、なんとなくそれは口に出し難かった。
尋ねる恋人の視線が、酷く柔らかくて、小さな子供をあやしているようにも見えたからだ。
子供じゃないんだが────と思いつつも、多分これもウォーリアからの気遣いだろうと受け取って、アイスを一つ注文した。
程無く運ばれてきたアイスの冷たさに舌鼓を打ちつつ、


「……なんで急に外食しようなんて言い出したんだ?」


食べる所をずっと見られているのが落ち着かない気持ちもあって、スコールは間を埋めるようにそんな質問をしてみる。
ウォーリアは、二杯目となったコーヒーに口を付けていた所だった。
それをソーサーへと静かに戻し、長い睫毛を携えた目元を僅かに伏せて、


「先日まで、君は試験だっただろう」
「ああ」
「その間でも、君は家事を引き受けてくれている。その感謝は常に絶えないが、気持ちだけではどうなのか、と思ったのだ」


曰く。
元々の習慣として、日々のノルマ的に意識にあるものだから、スコールは試験勉強期間の最中も、家事は欠かさなかった。
作り置きを事前に用意し、保存食も活用し、手間を削って時短を優先してはいるが、準備も片付けも全てスコールが行っている。
台所仕事の他にも、掃除や洗濯も。
それはウォーリアよりも自分の方が時間の融通が利くから、家にいる時間が長いから、と効率を優先してのことなのだが、とは言え、其処に試験勉強も重なれば、いよいよ自分の時間が足りなくなる。
スコール自身は、試験期間中だけの話だと割り切っているが、とは言え、大変ではない訳でもない。


「私が君を手伝えれば良かったのだが、結局何も出来なかった」
「それは───別に、あんたの所為じゃないだろう。仕事だってあるんだし」
「君にも勉強がある。試験期間に限った話ではないが、私がもっと君の手を補える事が出来たら、と思うことはあるのだ」
「………」


俺が勝手に引き受けた事なんだから、気にしなくて良いのに。
スコールはそう思う傍ら、どうにも自分が要領が悪いものだから、ウォーリアには「大変そうだ」と言う印象を与えるのかも知れない、とも思う。

口の中に籠る言葉を誤魔化すように、アイスを口に運ぶスコールを見て、ウォーリアは続けた。


「恐らく私が悪戯に手を出しても、余計に君の手を煩わせてしまうだけだろう。今後、君を手伝えるように努力はして行きたいと思っているが……それはそれとして、先日の試験の間も家事を引き受けてくれていた君に、何か返せるものはないかと考えた」
「……」
「だが、これと言って浮かぶものがなかった。それならばせめて、君に楽をさせてやれないかと思って、外食ならば、片付けも準備も要らないだろうと。これは今日限りのことではなく、今後も機会を作れたらと思っている」


────つまり、この外食は、ウォーリアからの精一杯の気遣いと、感謝の形なのだ。
その事にスコールは、大袈裟な、と思いつつも、じんわりと胸の奥が温かくなる。
自分の仕事と割り切っていても、時には目が回りそうなこともあるし、面倒だと思う事は少なくなくて、優しい恋人はそんなスコールのことをちゃんと見ていたのだ。
そして、なんとかしてやりたいと思って、彼なりに見付けた方法が、この外食だった。

アイスも食べ終え、レジへと向かうウォーリアの後ろをついて歩きながら、確かに楽だった、とスコールは思う。
家事はスコールにとって仕事で、別に趣味だとか好きでやっている訳ではないから、しなくて良いのは非情に助かる。
ただ手料理をするより割高にはなるよな、と、環境柄、社会人の恋人に養って貰う立場となっている事が聊か頭を擡げるが、今はそれは追い遣っておくことにした。

駐車場へ出て、車に乗り込もうとすると、ウォーリアがそのドアを開けた。
助手席のドアを開けて待つウォーリアは、まるでレディファーストを心がける紳士のようだ。
女子じゃないんだけど、とスコールは思いつつ、じっとスコールの乗車を待つウォーリアの眼は、何処までも愛しいものを見る甘さを孕んでいて、文句を言う気にもならない。

スコールが車に乗り込むと、ウォーリアも運転席に座り、


「何処か寄る所はあるか?まだ何処の店も閉まっていないから、行ける筈だ」


足になってくれる、と彼は言う。
それじゃあ、とスコールは今日は遠慮しないことに決めた。


「スーパーに行く。明日の食べるものがない」
「了解した。他には?」


今日の夕食は外食で助かったが、明日の朝までそれが出来る訳ではない。
必要なものは買い足しておかないと、と言うスコールに、ウォーリアも頷いた。
その他にはないか、と訊ねて来るウォーリアに、スコールはしばし考えてみるが、


「後は……特にない。……それより、早く帰って、あんたとゆっくりしたい」


家に帰って、二人きりで。
遠慮をしないと決めたから、スコールは今日は目一杯、恋人に甘えたくなってそう言った。

顔が熱くなるのを自覚しながら、隣の恋人をそろりと見ると、綺麗な顔がじっと此方を見詰めている。
薄く開いた唇が、自分の名前を呼ぶのが聞こえて、スコールは体の奥がじんと熱くなった。
吸い込まれるように近付く距離は、すぐになくなって、二人の唇が静かに重なる。

とうに陽が沈んでいる上、この駐車場は広さの割に外灯の数が少ないものだから、車内は互いの顔を見るのが精一杯と言う暗さだ。
車内灯もつけていない今、車の隣か正面にでも来ない限り、人に見られることはないだろう。
だからだろうか、触れ合っていたのはほんの少しの時間なのに、スコールには随分と長く感じられた。
そう感じるのはきっと、じっと見つめるアイスブルーが、何処までも甘くて優しかったからだろう。

ゆっくりと唇が離れていく間、スコールは細めた双眸で、ウォーリアの顔を見つめていた。
ほう、と溶けた吐息を零した後、大きな手がスコールの頬を撫でる。


「では、行こうか」


このキスの続きは、家に帰ってから。
そんな声を聴いた気がして、スコールは小さく頷いた。





『スコールをべたべたに甘やかすウォーリア・オブ・ライト』のリクエストを頂きました。

迎えに来たり、外食に誘ったり、遠慮しがちなスコールにデザートを促したり。
全部含めて甘やかしてますが、一番は“助手席のドアを開けるWoL”だと思う(書きたかった)。
家に帰ったら、人目もない訳だし、存分に(隠喩)甘やかして欲しいですね。

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