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[子ウォル+子スコ]きらきらのせかい

  • 2022/10/24 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF
将来的にウォルスコになる二人





スコールとウォーリア・オブ・ライトが出逢ったのは、スコールが5歳、ウォーリアが10歳の時のこと。
スコールの家族が暮らしていた家の隣に、ウォーリアが養母であるコスモスと共に引っ越してきたのが始まりだ。

ご近所さんへの挨拶はきちんとね、と微笑む母に連れられて、ウォーリアは近所住まいの人々へ挨拶をして回った。
皆新しい住人を歓迎してくれ、何か困った事があれば声をかけて、と優しく笑いかけてくれる。
まだ子供のウォーリアに対しても、賢そうでしっかりした子だと、そう言ってくれた。

挨拶に行った時は平日の昼間だったので、子供たちは学校なり幼稚園なりと行っているのが殆どだったのだが、スコールは違った。
彼はとても人見知りの激しい所があって、保育園に中々馴染めず、母の下を離れることをとても嫌がった。
この為、母がどうしても忙しくなる時以外は、家で過ごすことにしているそうで、このお陰でウォーリアが母と共に挨拶に周った時に顔を合わせる事になったのだ。
その時、彼は母の腕にしっかと抱かれていて、ウォーリアとはあまり目を合わせる事も出来なかった。
ウォーリアも幼いながらに、自分が怖がられる事があるらしいとは自覚していたので、幼い子供は嫌いではなかったが、あまり怯えさせては可哀想だと、意識して彼の方を注視しないようにしていた。

────が。
初めて出逢ったその翌日から、ウォーリアは折々に、ひしひしとした視線を感じるようになった。
学校に行く時、帰る時、家で夕飯を食べている時など、それはふとした時に感じられる。
何か悪意があるようなものではないから、ウォーリアは始めこそ深く気にしてはいなかったのだが、何度も感じるとなると、流石にいつまでも無視は出来ない。
だから、その視線を何度も感じるようになってから程無く、ウォーリアはその正体を確かめようと思った。

かくしてその正体はあっという間に判明するのだが、それはそれでウォーリアを困らせた。
正体の方はきっとウォーリアを困らせるつもりはないのだろうが、何と言って出たものかと、まだまだ人生経験の浅いウォーリアには難しい課題が浮上して来たのだ。
相手を捕まえるのは恐らく簡単ではあるのだが、それをするのは聊か躊躇うものがある。
かと言って、いつまでもこのままと言うのは、少しばかり気になり過ぎる位に視線が強くなっていて、それはそれでどうしたものかと思ったのだ。
相手に悪意と言うのはきっとないだろうから、それが尚更、ウォーリアを戸惑わせていた。

今日も学校帰りのとある場所で、ウォーリアはひしっとした視線を感じた。
進む方向から感じるそれは、向かう先にある物陰からで、そこを通り過ぎると今度は背中から視線を感じる事になる。
今日もきっと、ウォーリアが家に入るまで、その視線はじっとついて来る事だろう。

ウォーリアは努めて前を向いて歩きながら、ほんの一瞬、視線の下をちらりと見た。


「………」
「……」


じい、と見つめる蒼色の宝石。
それは、ウォーリアの家の隣家を囲う門柱の陰から覗いていた。

表札を掲げた門柱の傍らには、小さな子供がちょこんと座り込んでいる。
恐らくは、身を低くして小さくして、隠れているつもりなのだろう。
それがウォーリアが最寄の角を曲がってきた所からずっと向けられている、ひしひしとした視線の正体だ。
彼は毎日のように、ウォーリアが小学校から帰って来る時間に、ああして門柱の陰に座っている。

どうしてそんな事をしているのかは判らないが、ウォーリアもすっかりその影を見慣れてしまう位には、決まった光景になっていた。
最近はウォーリアの方も、その視線を感じると、今日もあの子が其処にいる、と思うようになった。
そして、門柱の傍を通り過ぎるほんの一瞬、ちらりと其処にいる子供の姿を確かめるのが癖になりつつある。

毎日ああして同じ場所にいるものだから、声をかけてみようか、と思ったことはある。
けれども、ウォーリアが視線を其方に向けようとすると、彼は素早くその気配を察知して、ぴゅっと隠れてしまうのだ。
それを見ると、やっぱり怖がられているのかも知れない、とウォーリアは思う。
怖い人が通って来るから、家の中に入って来ないか心配で、じっと覗きながら監視している───そう思うと、視線の意味も納得できる気がした。
決して子供が嫌いではないウォーリアにとって、怖がられる事は少しばかり寂しいものがあったが、小さな子供にそれを言っても仕方がない。
ウォーリア自身、子供と率先した話が出来る性質ではなかったし、最近身長が伸び始めた事もあって、小さな子供からは威圧的に見えるのかも知れない。
それなら出来るだけ、これ以上怖がられる事のないようにしよう、と言うのが、若干10歳の精一杯の幼子への気遣いだった。

そうして今日もいつものように、視線だけを感じながら、家へと向かう────筈だったのだが、


「こらっ、スコール」
「ひゃうっ」


子供を叱る声は、門柱の向こうから聞こえた。
あれは、あの子供の母親のものだ。


「またそんな所に座り込んで」
「あう……お、おかあさ……」
「今日はお話してみるんじゃなかったの?」
「ん、ん……んむぅ……」


聞こえる会話が気になって、ウォーリアは足を止める。
隣接する自分の家の門まではあと少しと言う距離だったが、それより隣家の様子が気になった。

振り返ってじっと立ち尽くしていると、門扉が開いて、ロングヘアの女性が如雨露を片手に出て来る。
ブーツカットのジーンズを履いている彼女の傍らに、隠れるようにきゅうっとしがみつく子供の姿があった。


「こんにちは、ウォーリアくん」
「こんにちは」


挨拶をされたので、ウォーリアはぺこりと頭を下げて返事をした。
相変わらず礼儀正しい少年に、女性はにこりと微笑む。
そして女性は、自分の腰元にくっついている子供を見て、もう、と眉尻を下げた。


「ほら、スコール」
「んぅぅ……」
「お話してみたいって言ってたでしょ。はいっ」


ぽん、と母は息子の背を押した。
子供───スコールはいやいやと母の腕に縋ろうとするが、母は優しくも厳しかった。
「お花に水を挙げて来るからね」と言って、彼女は庭を囲う塀を飾る花の方へと行ってしまう。

残された子供は、縋るものをなくした手で、自分の服の裾を目一杯に握っていた。
おろおろと立ち尽くすその様子に、同じく取り残されたような形になっていたウォーリアも、これはどうすれば、と戸惑う。
目を合わせればいつも隠れてしまう子供が、隠れる場所のない所に連れ出されてきたのは、これが初めての事だった。
親が傍にいる時でも、会話らしい会話をした事がなかったので、ウォーリアも尚更、どうして良いのか判らない。

ウォーリアはしばらく考えた末に、取り敢えず、


「……こんにちは、スコール」
「!……こ、……こんにちわ……」


挨拶をしてみると、スコールはびくっと肩を縮こまらせたが、もじもじとしつつもなんとか返事をしてくれた。
泣かせてしまったらどうしようと思ったウォーリアだったが、なんとか其処はクリアしたらしいと、こっそりとほっと安堵する。

しかし、其処から先が続かない。
スコールはすっかり固くなって、足元をじっと見ながら、時々ちらっとウォーリアの方を見る。
小さな口は何かを探すようにもこもことしていたが、中々形のあるものは出て来そうになかった。
ウォーリアは別段短気な性格ではないから、幾らでも彼の次の行動を待つ事が出来たが、


「ん、んむ……あう……」
「……」
「……あう~……おかぁさん~……」


じっと待ち続けるウォーリアに対して、スコールの方は苦しくて仕方がなかったのだろう。
ぐすぐすと母を呼んで泣き出したスコールに、ウォーリアは目を丸くして、慌てて駆け寄る。
鞄に入れていたハンカチを取り出して、それが清潔であることを確認してから、幼子の前にしゃがんで、もう涙でびしょびしょになっている顔を拭いてやった。


「ふえ……えう……ひっく……?」


しゃくり上げていたスコールだったが、目元を何度も優しく振れる感触に気付いて、薄く目を開ける。
其処でようやく、アイスブルーとキトゥン・ブルーが真っ直ぐに重なって、


「ふきゃっ」
「……?」


引っ繰り返ったような声をあげたスコールに、ウォーリアはぱちりと瞬きする。
スコールは自分から出た声に気付いて、慌てた顔で両手で口を覆った。
顔の赤身は泣いてしまった所為もあるのだろうが、目尻の涙はいつの間にか引っ込んでいる。
それでも、大丈夫だろうか、と心配する気持ちからウォーリアがじっと見詰めていると、


「ん、あ、あう……」
「大丈夫か?」
「……おかあさんんー!」


覚束ない様子のスコールに、ウォーリアが努めて小さく潜めた声で訊ねると、スコールは今度こそ母に向かって駆けだした。
逃げるように母の下へ向かったスコールは、今度こそ離れまいとばかりにしっかりとその足にしがみ付く。
息子のその行動に、母レインはやれやれと溜息を吐いて、ウォーリアへと向き直った。


「ごめんね、ウォーリアくん。びっくりさせたでしょう」
「……いえ。此方が怖がらせてしまったんだと思うので、その……」


逃げて行った子供の行動の理由を想像して、嫌な思いをさせたならと謝ろうとしたウォーリアだったが、


「ああ、ううん、違うのよ。ごめんね、そう言う事じゃないの」


先んじてレインにそう言われて、ウォーリアはことんと首を傾げる。
小さな子供が泣いて嫌がるのなら、やはり怖い目に遭っただとか、嫌な思いをしたからではないか。
ウォーリアは彼に何もしてはいないが、醸し出す雰囲気か何かが彼の琴線に触れたなら仕方ない───と言うウォーリアの想像は、どうやら子供の母曰く違うらしい。

レインは後ろに隠れようとするスコールを、もう一度やんわりと背を押して、ウォーリアに向かい合うように立たせる。
スコールは後ろ手で母の腕を捕まえていて、その手を引っ張って隠れようとしていた。


「スコールね、君の事が大好きなの。本当よ」
「……?」
「うん、判らなかったわよね。この子、すぐに隠れてしまうんだもの。自分はあんなに見てるくせにね」
「おかあさん!」


母の言葉を遮るように、スコールが大きな声を出す。
いつも縮こまっているスコールしか見ていなかったウォーリアは、そんな声も出せるのか、と初めて知った。
母はと言うと、息子の様子は見慣れたものと、隠れたがるスコールを好きにさせながら続ける。


「君と初めて会った時から、気になって仕方がなかったみたい。学校が終わったら、君は必ずうちの前を通って家に帰るでしょう。毎日毎日、帰って来る君を見たくて、あそこで待ってたのよ」
「やあ!」
「やーじゃないの。恥ずかしがって自分で言わないからでしょう。ウォルお兄ちゃん、困ってたじゃない」
「んんぅぅ」


言っちゃ駄目、とスコールはレインの口を塞ごうとするが、手強い母は小さな手を捕まえてしまう。
地団駄をする子供は顔を真っ赤にしていて、怒っていると言うより、恥ずかしがっているのがよく判る。

やだやだと一所懸命に首を横に振って抗議していたスコールだが、はっと我に返ると、ウォーリアの方を見た。
ぱっちりと目が合うと、スコールは耳の先まで真っ赤になって、隠れるようにレインの後ろに回り込む。
もう隠しようがなくなった息子の様子に、レインはくすくすと笑いながら、ウォーリアに言った。


「なんでもね、君がとても綺麗だから、ずっと見ていたいんですって」
「……ずっと」
「学校に行く時と、帰って来る時と……夕飯の時もかな。君の家のリビングかな、カーテンが開いてると、二階からちょっと見えるのよ。よそのお家を覗くのは止めなさいって言ってるんだけど……」


ごめんね、と眉尻を下げて詫びるレインに、ウォーリアは首を横に振った。
よく感じる視線はそれだったのか、と得心が行くと、ウォーリアは子供の行動をすんなりと受け入れた。
寧ろ、いつも彼に見られていたのだと思うと、何か変な行動は、がっかりさせるようなことはしていなかったかと、知らず背筋を伸ばす気持ちになる。

母の背に隠れていたスコールが、そろそろと顔を上げる。
あまり外遊びが好きではないのか、彼の肌は頬も腕も白い印象だったが、今日はぽかぽかと火照っている。
蒼の瞳がうるうるとしていたが、その目はちら、ちら、とウォーリアの方を何度も覗いていた。
目を合わるのは恥ずかしいけれど、見ていたい、と言う息子の様子に、レインはチョコレート色の髪を撫でながら、


「スコールは、ウォーリアくんのどこが綺麗だって言ってたっけ」
「んぅ……」
「えーと……髪の色だったかな。きらきらしていて、綺麗だって」
「……ふにゅ……」


レインの言葉は当たりだったようで、スコールは恥ずかしそうに紅い顔を手で隠して俯いてしまう。

ウォーリアの右手が、自身の首元にかかる銀糸に絡まる。
今まで特に気にもしていなかった自分の髪が、小さな子供の興味を引いた。
それが何故だか、無性にくすぐったい気がして、ウォーリアは髪の毛先を緩く握っていた。

そんなウォーリアを、スコールは指の隙間からちらりと見て、


「……んと……」
「うん?」


ぽそりと小さな呟きを聞き逃さなかったのは、レインだ。
なあに、と母が優しい声で訊ねてみると、スコールはそうっと顔を上げ、


「かみも……きれい、だけど……」
「うん」
「……おめめ、も……きらきら、きれいなの、……すき」


そう言って、ウォーリアを映す瞳は、まるで宝石のように大きくて、透き通っている。
前髪が薄いカーテンを引いても、誤魔化す事の出来ない澄んだ輝きが真っ直ぐにウォーリアのそれと交わったのは、これが初めての事だ。

その瞬間、ことん、と何かが自分の中に落ちる音を、ウォーリアは確かに聞いた。





初恋に落ちました。

88の日リクにて、『学生WoLと子スコのほっこり』で書いたのですが、冷静に考えるとWoLの年齢が低過ぎたと気付き(遅)。
これは学生ではなくて児童だ。

でも話は結構気に入っていたので、折角なので。

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