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[シャンスコ]講義再開申し込み

  • 2022/11/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


新たな女神に闘争の世界へと召喚されて、幾何か。
それぞれの思惑と思案の末、やはりこの世界でもまた、闘わなければならない事が、戦士達に突き付けられた。
以前ほどには切迫した空気に欠けているが、とかく闘わなくてはこの世界が維持できない上、崩壊すればやはりそれぞれの世界に何が引き起こされるかも判らない、となれば、否応なく剣を取る必要性が見えて来る。

以前ならば味方同士で戦う事は、敵に塩を送るも同然と言うこともあって、少なくとも秩序の陣営に置いては、訓練を除いて刃を向けあう事は先ずなかった。
混沌の軍勢の方は個が強すぎる事もあり、また策謀を主な手段として使う者、それに乗るもの、乗らされる者と入り混じっていた為、案外とそう言う事も少なくはなかったそうだが、それはそれだ。
今回はその枠組みが、ふとした時に入れ替わり立ち代わりとなる為、昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵、となり得ることが多いにある。
実際、スコールも最初こそ秩序の女神の陣営に属しており、多くの戦士が過去の配置と同じ場所に立っていたが、ある日を境にその顔触れはがらりと変わった。
かと思ったらまたある時を境にまたまたがらりと変わるので、今回の闘争の世界と言うのは、以前よりも遥かに曖昧な線引きの中を行ったり来たりしているらしい。
面倒と言えば面倒であったが、以前ならば叶わなかった腕試しのチャンスがあると、妙に息巻いている者もいたりする。

今回のスコールは混沌の陣営に配置された。
スコール以外にも、女神の召喚に呼ばれた者の姿はあり、全体バランスで言えば半々と言った所。
その中に、一際小さなシルエットがある。
スコールは特にそれを気にしていたつもりはなかったのだが、シルエットの方がトコトコと此方に近付いて来た。


「お久しぶりですわね」
「……ああ」


声をかけて来たのは、シャントットである。

彼女は元々、スコールと同じ、秩序の陣営に所属していた人物だ。
それがいつの闘争の事だったのかはスコールには判然としない部分があったが、しかし彼女が一応の味方であったことはぼんやりと覚えている。
その他、過去では個人的にも少々交流があった事も、断片的にではあるが、記憶に残っていた。

初めてこの闘争の世界に喚ばれた際、新たな女神の下に集った時にも、その姿は確認している。
しかし、その後、スコールはこの世界のあらましを探る方向へ、シャントットは下らない遊びには飽きたとばかりに元の世界に戻る方法を探しに向かった為、互いが向き合うことは当分なかった。
そして今、久しぶりに、こうして相対していると言う訳だ。

相変わらず小さいな、と近付いて来る淑女を眺めていたスコールを、シャントットもまたしげしげとした様子で観察している。


「ふむ。一目見た時に少し違和感を感じていたのですけれど、やはり。前よりも魔力の帯が濃いですわね」


シャントットの言葉に、スコールは徐に自分の手を見た。
其処に在るのは、何ら変わらない、見慣れたグローブを嵌めた手だ。
シャントットが言うような、“魔力の帯”とやらは全く意味が判らないが、スコールはなんとなく、そう言われることへの心当たりがあった。


「……ジャンクションしているからだろう。この世界は、前の世界よりも、元の力の影響が強く出るようだから」
「ああ、ジャンクション。そう、貴方の世界にはそんなものがありましたわね」
「お陰でドローも出来る。前はストックを碌に回復させる手段がなかったから、大分楽になった」
「ドローとは、……其方は聞き覚えがありませんわね。いえ、何か書物で見かけたかしら」
「前は使えなかったし、俺もあんたに話した覚えがない。多分本だろう」


以前の闘争の世界では、各自の力はそれぞれの世界の法則にある程度依存しているものの、それを自在に操る事の出来る者は少なかった。
魔法に関しては特にその傾向が強く、スコールは“疑似魔法”として、他の戦士達よりも扱える魔力の力が弱く、戦闘手段としては精々牽制に使う程度しか当てにはならない。
スコール自身もそれを理解しており、且つ自身の持ち場は近接であると自負していた事もあって、魔法を主体にした戦い方はしていない。
しかし、手段として選択の幅を広げる目的もあり、また威力の底上げが出来ればそれも十分良い事なので、一時期、魔法のエキスパートと言えるシャントットに師事を請うていた事がある。
その折、シャントットも魔法を研究する人間として、他の世界の魔法の様式というものに興味を示し、スコールに魔法の使い方を教える傍ら、彼から独特の成り立ちを持つ”疑似魔法”について情報を得ていた。

シャントットはふぅむ、と丸い顎に手を当てて考える仕草を取る。
スコールはその場に立ち尽くしたまま、シャントットが次に何か聞いて来るであろうことを予想しながら、頭の中を動かす。


「……以前もジャンクションはしていたのかしら」
「恐らくは、していた。ただ、前は碌に記憶がなかったし、そう言う意味でもジャンクションの効果を万全に引きだせていたとは思えない」
「ジャンクションは魔法の威力にも影響するものなんですの?」
「そう言う作用もある。ジャンクションは言わば身体強化だ。魔力に干渉する量も、これで底上げは出来る」
「ドーピングのような使い方が出来る訳ですわね」


成程、とシャントットは頷く。

どんぐりのように丸い目の中で、心なしか瞳孔が尖ったように見える。
頭の中で組み立てたものを整理しているのだろう、となると此処で下手に声をかけるのは邪魔をする事になる。
スコールはまたしばしの間、立ち尽くしてシャントットの様子をじっと見つめるに務めた。

それから数分が過ぎたか、シャントットが一つ息を吐いた。
整理整頓が終わったと見做して、スコールはようやく声をかける。


「あんた、少し良いか」
「何かしら。五分程度なら構いませんわよ」


暇ではありませんので、としっかり有限を釘にして来るシャントットに、スコールは判っていると頷いた。


「前にあんたから魔法に関して色々と教えて貰っただろう」
「ええ、そんな事もしていましたわね」
「また同じように教わる事は出来るか?」


スコールの言葉に、シャントットは「あら」と微かに目を丸くする。
そして双眸がすうと細くなり、笑みを孕む。


「そんなにも私の講義が気に入ったんですの?」
「……有意義だった」


正直に感想を述べるスコールに、シャントットは機嫌を良くしてふふふと笑う。
細めた眼が聊か凶悪そうに見えてしまうのは、この淑女が“悪魔”の異名を持っている事を知っているからだろうか。
それでも、スコールにとって、元の世界で魔法の授業を受けるよりも、遥かに厚みのある知識で教鞭を取ってくれていた事は事実であった。


「同じ陣営にいる時、それであんたの手が空いている時で良い。今回の闘争は、どうも敵味方が固定されていないし、あんたとやり合う事もあるだろう」
「そうですわね。敵に懇切丁寧な授業をする程、私も甘くはありませんことよ。いつ味方が敵になるか判らない事を思えば、こうして同じ側にいる間であっても、同じ事は言えるけれど」
「……そうだな」


傭兵であるスコールにとって、敵味方が安易に引っ繰り返ると言うのは、珍しい事ではない。
雇い主が変われば、嘗ての戦友でも同胞でも、切り結ぶのは必然であると知っているからだ。
だからこそ、シャントットがスコールに特訓をつけるのは、必ずしも彼女にとって有益ではないことも判る。

シャントットとスコールが同じ陣営に揃っている間、味方でいる内は、有用な戦力補強になるだろう。
しかしそうして力を付けた後、所属する陣営の配置が変われば、今度は敵になる。
力を付けた敵など面倒なものでしかない訳だから、そのデメリットと、シャントットの手間を思えば、彼女が今回の提案を頷くとは言い難い。

───と、スコールは思っていたのだが、


「まあ良いでしょう。取り敢えずは、暇な時にでも、また色々と調べさせて貰いますわね」
「……良いのか」


案外とすんなりと承諾の返事が出て来た事に、スコールは目を丸くした。
シャントットは暇を潰すように、コツコツと靴音を鳴らしながら、スコールの周りをくるりと回る。

いつかもこうやって、思いの外すんなりと受諾されたことに驚いたなといつかの記憶を辿るスコール。
その周囲を歩きながら、シャントットは快諾の理由を述べる。


「貴方の扱う”疑似魔法”について、以前授業をしていた時は、結局然したる進展もしなかったし。消化不良なんですのよ。続きが出来るのなら、私としても得られるものがありますわ」
「………」
「貴方自身が元の世界の記憶を持っている事、ジャンクションとやらを適切に扱える事、……以前と条件も違うなら、採れるデータも変わるでしょうし。この世界と以前の世界と、神も代替わりをした。影響の違いを比較できるとすれば、この世界の仕組みを明かす一縷になるかも知れませんわ」
「つまり、あんたの研究にとっても、多少のメリットがある、と」
「使えるデータが揃えばの話ですけれど」


今は何事も仮説でしかない、とシャントットは言った。
それを明確な説として裏付けをする為にも、様々な情報は必要となる。

何処まで行っても、シャントットは研究者気質なのだろう。
彼女の興味の行き付く先を思えば、それはスコールや他の戦士達にとっても有益なものにもなり得る。
情報提供に応じてくれるかはさて置くとしても、この世界の仕組みを理論的に解き明かす事に積極的に動いてくれる事は、有り難い事とも言えた。

シャントットは一頻りスコールの立ち姿を観察して、一先ず満足したように背を向ける。


「私が暇でないのは勿論だけれど、貴方も決して暇ではないでしょう。適当に予定を組む必要がありますわね。戦闘に行く機会が決まっているなら楽だけど───」
「……神様の気紛れだからな」
「全く勝手ですこと。こんな世界だからこそ、色々と調べられるのは悪くありませんけれど、こっちの都合を考えてほしいものですわ」
「……そうだな」


本当にそうしたら、あんたは闘いに応じないだろう───と思いつつ、スコールはそれを飲み込んだ。
スコールとて、傭兵として闘うことそのものは構わないまでも、此方の都合を無視して急に召喚してくれる神々には聊か業も煮えているのだ。
文句を言って帰れるものでもないので言わないが、歯に衣着せぬシャントットの物言いには、多少なり胸がすくものもある。
今ばかりは同調を口にしても良かろうと、スコールは彼女の言葉に頷いた。

その数秒後、ふと思い出したようにシャントットが言った。


「それはそれとして。授業をするなら、授業料が必要ですわね」


シャントットの言葉にスコールは一瞬眉根を寄せるが、確かに以前も授業料は払っていた、と思い出す。
金銭の類ではないが、彼女の時間を占有する代価として、研究データや情報の提供の他、スコールは少々の雑事を引き受けていた。
彼女が研究の合間に嗜んでいた茶葉の調達や、摘まめる菓子類を届けたり、休息の為の茶を淹れたりと言う具合だ。

しかし、この世界で果たしてそれらは必要だろうか。
以前の闘争では、秩序の陣営は一つ屋敷を拠点としていたが、シャントットは自身の研究に没頭する為、離れ小島の洞窟に住んでいた。
だから物資の補給などは聊か面倒なこともあり、それを授業の為に通うスコールが行くついでにと調達していたのだ。
しかし今回の闘争では、秩序、混沌の陣営共に、今回は塔のようなものが拠点として出現しており、どちらで過ごすにしても、それなりの利便性は整えられている。
わざわざスコールが準備に赴かなくても、シャントットが自分でモーグリショップに行く事も出来るだろう。

頼み事をするのなら、代価は必要だ。
それを渡して置いた方が、スコールとしても気兼ねなく時間を占有させて貰う事が出来る。
となると何から出せば良いか、と考えていると、それはシャントットの方から掲示された。


「授業の日は貴方がお茶を淹れなさいな。それに合うお菓子も添えてね」
「……そんな事で良いのか」
「下手な淹れ方をしたら千切りますわよ」


他愛もない事で良いのかと思っていたら、存外と強いプレッシャーをかけられた。
その言葉が冗談で笑えない事を知っているスコールは、眉根に深い皺を刻みつつ、「……了解」と返す。

相変わらず、察しと表向きの態度は良い生徒に、シャントットの喉がくつりと笑うのだった。





11月8日と言う事で、久しぶりにシャントット×スコールです。
闘争の世界での授業風景の続きを、NT軸でも続けてたら私が嬉しいなと言う話。

スコールからすると、新たな世界でも、やはり魔法に関してはシャントットだろうと(ヤ・シュトラの事はよく判らないし)。
シャントットもスコールと過ごす授業や、その合間の休憩時間が存外気に入っていたって言う。

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