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[レオスコ]意地と矜持

  • 2025/08/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



柔らかな眼差しが此方を見ていることに気付く度、どうしようもなく、悔しくなる。
それが自身の勝手で酷く個人的な見方と感情から来るものであることは、理解しているつもりだ。
だから相手にそれをぶつけるものでもない、と言うのもまた判っているのだが、零れる感情を隠すことは難しい。
そもそも、隠せていないからそれは零れているのだ。
零れてしまえば、敏い彼が気付かない訳もない。
其処でまた、突くように指摘をされないのも、何とも言えず歯痒さを誘う。

その瞳はいつもスコールを見守っている。
愛いものを柔く眺めて綻んでいるような顔は、彼が自分を愛してくれている証左でもあった。
面倒見の良さも相俟って、年下の面々には総じて優しい彼だが、自分に対しては格別に甘い。
それは欲目があるからで、それがなければ、こうも甘くはしてくれないだろう───一応、公私の別はしっかりと分けているのだから、それは判る。
故に公的な場面───話し合いであるとか───では決してスコールを贔屓することはなく、私的な場面───ひそやかな睦みあいの時であるとか───では蜂蜜のようにスコールを甘やかす。
ただ瞳だけは、その場に応じたスイッチを必要に切り替えている時を除けば、常にやさしく柔らかく、スコールを見つめていた。

それがどうにも、子供扱いをされているようで気に入らない。

自分のことを特別に見てくれている、それは悪い気はしない。
けれども、垣間見える小さな子供を見守るような眼差しは、スコールの小さくはないプライドを悪い意味で刺激するのだ。


「……その目、やめろ」


振るっていたガンブレードを下ろして、スコールは屋敷の壁に寄り掛かっているレオンを見て言った。
言われた当人は、ぱちりと瞬きひとつして、はて、と首を傾げる。

スコールはガンブレードを粒子に戻して、無手になってじっとレオンを睨んだ。
通常、素振りは規定にしている回数に届くまで続けているのだが、今日はもう完全に気が散った。
その原因である青年は、何か邪魔をしてしまったか、と思案する表情を浮かべている。
当人にその原因や自覚がないのは無理からぬことで、スコールが一方的に、彼の視線に意識を割いていただけだ。

スコールの表情はむっつりとして、不機嫌を露わにしている。
それをレオンは特に臆することもなく見返して、


「何か気に障ったか」


自分自身に思い当たるものがないので、レオンは直球で尋ねて来た。
何かしたなら詫びよう、と言う姿勢は誠実でもあったし、寛容でもあった。
一方的に睨んでくるスコールに対し、謂れがないと攻め返しに来ない所に、レオンの懐の広さが伺える。

スコールはしばらくレオンを睨んだ後、はあ、と露骨な溜息を吐いた。


「……あんたの目、煩い」
「それは、邪魔をしたな。悪かった」
「……」


案の定、レオンは直ぐに詫びをくれる。
眉尻を下げている表情は、そうも煩くしたか、と無自覚を反省していることが伺えた。

そうじゃない、とスコールは思う。
そうも寛容でおおらかな反応が欲しかった訳ではない。
どちらかと言うと、今に限っては、真逆のものを望んでいた節がある。
しかし、それもまた、スコールが勝手に「今はこういう反応をして欲しい」と押し付けに思っていた事だから、レオンがそれに応じてくれないのは無理もない。
元より、レオンが自分に対してそう言った応対をしないことは、分り切っている事でもあった。

沈黙したまま、拗ねた表情で立ち尽くすスコールに、レオンがゆっくりと歩み寄る。
秩序の聖域全体に、結界のように薄く張る水面が、レオンが歩く度に小さな水音を立てた。
それはスコールの前まで来て止まる。


「熱心にやっているから、つい見ていた。あまり無理をするなよ、昨日戻ったばかりだろう」
「……」
「無理をすると、後で痛手が返ってくるからな。時には休息に集中することも考えると良い」
「……」
「でも、一汗掻いた方が気兼ねなく休めるのも、あるな」


若い少年の無茶を諫めるように釘を差しながら、最後はやんわりと、スコールの自由を赦す。
其処にスコールの反応らしい反応がなくても、レオンが気を悪くすることはない。

レオンの手が伸びてきて、スコールの髪をくしゃりと撫でる。
閨ではいつも心地良く髪を梳いてくれる手を、スコールは今じゃない、と頭を振って拒んだ。
スコールのその主張を察して、レオンは直ぐに手を放してくれる。


「素振り、まだ続けるか?」
「……いや」
「そうか。邪魔をして悪かったな」


再開させる気分ではなかったから、首を横に振れば、レオンはもう一つ詫びてくれた。

レオンはスコールから離れると、自身のガンブレードをその手に握って、一回、二回とそれを振る。
グリップの握り具合の感触を確かめて、レオンは両手でグリップを握った。
ガンブレードはスコールが持つリボルバーよりも、一回り程大きく見える。
手許の形も、スコールのそれと比べると、微妙に違う意匠やサイズ感があるのだが、レオンの体格で見るとしっくりと来た。

レオンはスコールよりも一回り身長が高く、体格も完成している。
年齢差があるのだから無理もないかも知れないが、スコールだって───記憶は聊か不確かだが───傭兵として幼い頃から訓練を重ねて来たのだ。
大してレオンの方は「鍛えてはいたが、進んでやるようになったのは十五を過ぎた頃だったかな」と言った。
スコールにしてみれば、レオンはずっと遅くにそのスタートを切った訳だが、それでも彼の体躯はスコールのものよりもずっと安定している。
自分が貧弱と言うつもりはないが、レオン然り、他もウォーリア・オブ・ライトやセシル、フリオニールと言った面々と比べると、全く足りない。
如何にも頼り甲斐のあるシルエットをしているレオンを見て、スコールも安心感を覚えることは少なくなかった。

だが、今日のスコールは少々ささくれだった気持ちがある。
片手の脊力で大振りのガンブレードを振り薙ぐレオンを見つめながら、スコールは何度目か、思う。


(……ずるい)


噤んだ唇の中で、そんな事を呟く。

秩序の戦士たちの中で、年上組と呼んで良い面々は、総じて年下のメンバーに対して寛容的だ。
それが大人の面子、とでも言うのだろうか。
その中でも、年齢が曖昧なウォーリアを除くと、レオンは最年長になる。
リーダー役に関しては満場一致でウォーリアに委ねられているが、メンバーのまとめ役と言う点で言うと、レオンがそれを引き受けていた。
下への配慮を欠かさず、意見があれば拾い、適当な落としどころを見付けるのが上手いのが、彼だったからだ。
それを回りが感心すれば、当人は決して得意な分野ではないと苦笑いするが、年の功として任せられることを受け止めている節がある。
皆が自分で良いと言うのなら、その仕事を引き受けて、勤めるには吝かではないのだと。
己の意思で選んだことでもないのに、わざわざ面倒を引き受けてくれることが、また仲間たちには有難く頼もしい事だった。

スコールも、その頼もしさに甘えている所はふんだんにある。
沢山の人間をまとめたり、上手く操縦したりと言うのは、スコールには向いていない。
そう言う立場に祀り上げられたことがあるような気もするが、とにかく、目の前の事に必死になって齧りつくしかなかったと思う。
レオンのように、あっちを見て、こっちを気にして、そっちを考えて、等と言う器用さはなかった。
誰かと話をする度に、どう言えば良いのか、何と言えば伝えるべきが伝わるのか、手探りのまま、藻掻いていることしか出来なかった。

……夜に触れ合う時のことを思えば、彼の寛容さと、スコールへの甘さはより一層深みを増す。
スコールが駄々を捏ねても、わがままを言っても、彼は怒る事はない。
スコールが望むように、嫌がらないように、真綿で柔らかく包み込むような愛で、スコールを愛してくれる。
────思い出すと、それだけで顔が熱くなってしまう程に。

そんなことを思いながら、レオンは屋敷の玄関の階段に腰を下ろす。
視線の先では、仮想敵を相手に立ち回るレオンの姿があった。
ガンブレードの重みと、自身の体重もあってか、レオンの動きはスコールと比べると僅かに遅い。
それでもウェイトによる安定感があり、片足一本を軸に半身を翻す時も、重心がぶれることもなかった。


(……あとどれ位やったら、あんな風になれるんだ?)


仲間たちはよく、レオンとスコールが似ていると言う。
兄弟なんじゃないか、ひょっとして双子とか、未来の姿とか、なんて空想を膨らます者もいた。
その都度、スコールは兄弟なんていない、双子もいないと言っている。
未来の姿じゃないか、と言う点については、レオンが「それはないだろう」と苦笑していた。
バッツなどは「でも傷も全然同じところにあるぞ」と言ったが、スコールがごく最近にこの傷を作ったのに対し、レオンはもっと早い時期だと言う。
レオンもスコールも、元の世界の記憶は曖昧な所は多いものの、それだけははっきりと覚えていた。
お互いの過去が既に違うのだから、レオンがスコールだ、と言うことは有り得ない。

とは言え、似ている、似ている、と何度も言われるので、スコールもほんの少しだけ彼の影を追う意識がついてきた。
レオンがあんな体格になれるのなら、遠からず自分も同じようになる事が出来るのではないか、と。


(もっと肉を食べて、腹筋と腕立ての回数を増やして。それから……プロテインでもあれば良いけど、この世界にそんなもの見た事がないんだよな)


肉体訓練のプランを頭の中で組み立ててみる。
体組織の酷使と超回復の理論を繰り返し実践すれば、少しでも近づけるだろうか。
効率の良さを考えると、高い栄養素も必要となるが、この世界ではそう言うアイテムは手に入らない。
鶏肉を大目に食べればなんとかなるだろうか、と考えてはみるが、食糧事情もその時々に因るのだ。
どうしても上げられる効率には限界がある。

観察すれば、何かもっと判る事があるだろうか。
レオンの立ち振る舞いを、例えば真似ることが出来たら、彼のように余裕を持った人間になれるだろうか。
スコールは、水膜の只中で一人特訓を続けるレオンを、じっと見つめていた。

────と、そうしてどれ程の時間が経っただろうか。
レオンの額に滲む汗が珠になり、動かし続けた体にレオンの息が上がった頃に、彼は動きを止めた。
此処までの自分の動きを振り返っているのか、息を整えながら佇むそのシルエットすら、地に両足がついた安定感がある。

呼吸が一頻り整った頃、レオンは握っていたガンブレードを粒子に替えた。
どうやら特訓は此処までらしい。
もう少し見ていたかった、と思うスコールの下に、レオンはゆっくりと近付いて来る。
その目が、見つめるスコールの瞳とぶつかって、レオンは眉尻を下げて苦笑した。


「成程な。こうも熱心に見ていられると、無視するのは難しい」
「……あ」


つい数十分前、自分がレオンにされていたことを思い出して、スコールは途端にばつの悪さを感じた。
気まずさに視線を逸らすスコールに、レオンは「良いさ」と笑う。


「見られていると、気が引き締まる。格好の悪い所を見せられないからな」
「……」
「かと言って、それに気を取られ過ぎれば、足元が疎かになる。俺もまだまだか」
「……悪かった」
「お前の所為じゃない。良い勉強になった」


玄関前の階段に座ったままのスコールの頭を、くしゃり、と大きな手が撫でる。
小さな子供をあやすことに慣れた、無理な力も入っていない、おおらかな触れ方だ。

それを感じて、また、スコールの眉間に皺が寄る。


「……」
「どうした?」


スコールの纏う雰囲気に、じんわりと苦いものが漂ったことを、レオンはしっかりと感じ取った。
そのまま彼は隣に座って来て、顔を反らしたスコールの耳元に指が触れる。
グローブを嵌めた手が、ゆっくりと拗ねた子供を宥めるように、スコールの耳元から首筋までのラインを辿った。

それにあやされたつもりはない、と思いつつ、スコールは立てた片膝に口元を押し付けるように隠しながら、


「……ずるい」
「?」


スコールの零した一言に、レオンはことんと首を傾げる。
この一言だけですべてを察しろというの言うのは、如何に敏い男と言えど、流石に無理筋であった。
スコールもそれを判っていて、敢えて投げている。

スコールは隣に座る男から顔を背けたまま、続ける。


「あんた、いつも落ち着いてるし。俺より体がしっかりしていて。ずるい」
「……そうか?」
「……俺だって、……」


俺だって、少しは。
少しはレオンのように、落ち着いていて、体もしっかりして───いるとは、言えない。
少なくとも、こうして並んで座っていて明らかな体格の差は勿論のこと、口惜しさに拗ねている精神が、レオンのように大人として確立しているとは思えない。

自分で自分の現実を突きつける形になって、スコールは益々ひねた気分になった。
レオンはそんなスコールを知ってか知らずか、相変わらず、宥めるようにスコールの皮膚に触れている。
それは閨の中で、むつみ合って甘え癖を発揮し始めたスコールを、優しく寝かしつけている時の感触に似ていた。

そう感じた瞬間、スコールは自分の感情の根底にあるものが溢れ出す。


「レオン」
「ん?」


ぐるん、と振り返って詰め寄る勢いのスコールを、レオンは変わらぬ表情で受け止める。
スコールはじっとそんなレオンを見つめながら、


「……俺は子供じゃない」
「?」
「子供扱いするな」
「どうした、突然」
「……」


目を丸くしているレオンの言葉に、スコールも一瞬冷静になる。
スコールにとっては、この数十分間、ぐるぐると頭を巡っていたことでも、傍のレオンから見れば突然の沸騰である。

益々自分の幼さを見たようで、スコールは俯いた。
レオンは首を傾げつつ、またスコールの頭を撫でようとして、止まる。
その手はレオンの顎元に行って、ふむ、とスコールの言葉の意味を考え始めたようだった。

このまま此処にいると、レオンの寛容さに甘えて、益々幼稚な言動をしてしまいそうだ。
スコールは立ち上がると、「……休む」とだけ言って、玄関の奥へと逃げ込んだ。

置いてけぼり気味に残されたレオンは、何処か自己嫌悪に気落ちした様子の少年の背中を見送る。
閉じた扉をしばらく見つめた後で、間近な距離で彼が言ったことの意味を考えていた。
やはり、唐突にぶつけられた言葉の真意は図り切れなかったが、取り合えず、額面の通りに受け取ってみる。
その上で、レオンは小さく苦笑した。


「これでも、子供扱いしているつもりはないんだが」


当人にこれを言ってやれば良いのかも知れないが、あの状態のスコールは、頭の中で色々なことを巡らせているから、外からの言葉は届き難い。
しばらく時間を置いてから、昼の頃にでも様子を見るのが良いだろうな、と思った。

その傍ら、


(まあ……俺の方が年上らしく振る舞いたいと言うのは、あるかな)


スコールを相手に、少しでも余裕を持った態度を保っていたい。
年上として、まだまだ青い匂いのする少年を、見守り愛する立場でいたい。
それはレオンの、年上としての矜持のような、いやどちらかと言えば意地のようなものだった。
転じて、そうした態度が相対的にスコールにとって“子供扱い”に感じる所はあるかも知れない。
ひょっとしたら、彼はもっと、対等な間柄でいたいのかも知れない。


(しかし、こればかりはな。俺の勝手な意地だ)


レオンは、スコールを可愛がってやりたかった。
それは恐らく、同等の間柄になれば、適わないのだろうと思う。
少なくとも、レオンがスコールを甘やかしてやりたくても、彼のプライドがそれを許さないだろう。
だから、レオンがスコールを思う存分に甘やかす為には、このバランスが必要なのだ。

レオンはスコールが望むことなら、何であろうと叶えてやるつもりだが、こればかりは譲れない。
昼には自分の態度を鑑みて、気まずい顔を浮かべて来るであろう少年を思って、さてどうやってあやそうかと考えるレオンであった。





対等な関係(でも甘えたい気持ちはある)でいたいスコールと、スコールを甘やかしたいレオン。
甘やかす為には、スコールが「こいつには甘えて良い」と思うだけの頼り甲斐と寛容さ、そして年上であると言う雰囲気が必要なのだと思います。基本的にスコールは年下っ子なので。

DFFではスキンと言う形でレオンが実装されるので、体格はスコールのままだけど、KHのレオンだと結構体がしっかりしている訳でして。この経験と人生経験の違いによる体格差と人との距離感の違いが好き、と言う話です。

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