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2016年10月08日

[ジェクレオ&ティスコ]触れた指先 1

  • 2016/10/08 23:06
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10月8日と言う事で、ティーダ×スコールとジェクト×レオン。
[我儘な大人]と同じ設定です。





賑々しい音楽があちらこちらで鳴り響き、楽しそうな笑い声が反響し、空から悲鳴と歓声が降ってくる。
昼間でも眩しいネオンで彩られた沢山の看板や、アーティスティックな踊りで噴き上がる水飛沫。

遊園地なんて、本当に何年振りだろう。
ジュース入りの紙コップを片手に、ベンチに腰かけて、レオンはそんな事を考えていた。
その隣では、同じように考えているのだろう筋骨逞しい男が座っており、遠く伸びるランドマークの塔を眺めている。
そんな二人の前を、元気な子供達が駆けて行き、それに続くようにして、金髪の少年と茶髪の少年が横切って行く。


「スコール、次あれ!あれ乗ろう!」
「判ったから引っ張るな!走るな!」


右手をティーダにぎゅっと握られ、引っ張られて走るスコール。
さっきはジェットコースターに乗りに行っていた彼等は、今度はウォーターアトラクションへ向かうようだ。

ティーダはこの遊園地に入った時からハイテンションで、アトラクション全制覇を目指すと言っていた。
そんな幼馴染とは対照的に、賑やかな場所も人ゴミも嫌いなスコールは、人気の少ないのんびりとしたクルーズ系が一つでも乗れればそれで、と言った風だった。
しかし、ティーダにあっちへこっちへ引っ張られているスコールは、意外と楽しんでいるように見える。
言えば絶対に否定するのだろうが、手を引くティーダの手を振り払わないので、口では素直でない事を言いつつも、彼なりに数年振りのテーマパークと言うものを満喫しているのだろう。

────と、10代の少年達が思い思いに楽しんでいる傍ら、保護者組のレオンとジェクトはのんびりとしたものだ。
初めこそ、ティーダにせがまれて一緒にアトラクションに乗っていたレオンだったが、人気の高い乗り物を三つほど回った所で、休憩すると言って二人から離れた。
スコールの兄として、またティーダの兄代わりとして、彼等から完全に目を離すつもりはないものの、それでも弟達とて5歳6歳の子供ではないのだ。
アトラクション搭乗のルールはきちんと守れるし、危ない事はしないと約束し、それを信じて、自由にさせる事にした。
ジェクトはと言うと、アトラクションは最初に一つ乗ったきりで、後は子供達の行く所について行くのみ、すっかり付き添いの保護者に徹している。

レオンが紙コップの中身を空にして、腕時計を見ると、時刻は午後3時を回っていた。
昼前に入園し、早目に食事を済ませてからアトラクション巡りを始めてから、もう三時間。
意外と早いな、と呟くと、隣でジェクトが立ち上がって、丸めっぱなしにしていた体を仰け反って伸ばす。


「っか~……じっとしてるだけだってのに、妙に疲れる気がするな」
「慣れない場所に来ているからだろうな」
「やっぱそれかねぇ。スコールは大丈夫なのか?あいつ、こう言う場所はあんまり好きじゃねえだろ」
「それはそうだが……」


レオンが視線を左方へと向けると、ジェクトも倣って首を巡らせた。
二人の視線の先では、ウォーターアトラクションに乗り込むスコールとティーダの姿がある。

一番前が良いと言うティーダに、スコールは渋々顔でついて行き、二人並んでコースターの先頭に座った。
スタッフから大きなビニールシートを渡されて、スコールが恨むようにティーダを睨むと、ティーダがへらっと愛想笑いを見せる。
スコールはしばらくティーダを睨んでいたが、スタッフから安全バーを下ろすように言われると、諦めたように溜息を一つ。

二人の遣り取りを遠目に見ていたレオンが、くすりと頬を緩める。


「思ったよりは大丈夫そうだ。ティーダが一緒だからな」
「だったら良いんだけどよ」


コースターが発進して、大きな山を登って行く。
レールコースの下からそれを見上げているレオン達には、先頭に乗っている弟達の顔は見えない。
それでも、きっと楽しんでいるのだろうな、とレオンは思う。


「とは言っても、そろそろスコールも疲れが出てくるだろうから、何処かで休憩した方が良いかな」
「飯屋にでも入るか?」
「……そうだな」


レオンはジャケットの内ポケットに入れていた長方形のパンフレットを取り出した。
開いて記された飲食店の傾向をチェックしていると、のしっ、と肩に重みが乗る。
丸太のように太い腕が、レオンの肩に乗せられて、ジェクトが寄り掛かってパンフレットを覗きこんでいた。


「今日日の遊園地ってのは、デザートだけでも凝ってるもんだな」
「アトラクションより、これを目当てに来る人もいる位だからな。色々な客層を取り込もうとしてるんだろう」
「よく考え付くもんだぜ。で、何処に行く?」
「軽食なら、この辺りが。少し遠いから、スコール達が面倒そうだったら、こっちのフードコートに……っ!」


パンフレットを眺めながらルートを確信していたレオンだったが、その表情が一瞬強張る。
右肩に乗せられていたジェクトの腕が、いつの間にか体重を移動させて、レオンの左肩まで回されていた。
僅かに抱き寄せるように力が籠められているのを感じ取って、視界の端に映る不精髭に、その距離感の狭さを悟って、レオンの頬が僅かに赤くなる。


「おい、近過ぎる…っ」
「この方が見易いんだよ」
「だからって……」


余りに近い距離に、レオンは自分の体温が上がるのを自覚した。
そんなレオンの前を、遊園地を楽しむ人々が通り過ぎて行く。
傍らの男とは勿論、行き交う人々との距離が近い事を再認識して、レオンは益々顔が熱くなって行く。

ジェクトは存外と初々しい気配の抜けない青年に、くつくつと笑って、濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でた。
幼い頃から、父を支え、弟を守る為に自分自身を律し続けていた青年は、どれだけ甘やかしてやっても、慣れる事が出来ない。
その事を心の隅で寂しく思いながらも、こんな反応を見せてくれるのは自分だけだと思うと、優越感で頬が緩む。

────が、細やかな甘い時間と言うものは、いつまでも続かないものだ。


「思ってたより水凄かったっスね!」
「お陰でズブ濡れだ……」
「良いじゃん、涼しくなったし」
「良くない。気に入ってたんだぞ、これ。それなのに」
「乾いたら元に戻るって」


聞こえた少年達の声に、レオンがはっと我に返る。
慌てて肩に回されたジェクトの腕を振り解こうとするが、ぐいっと強い力で捕まった。
弟達が戻って来るのに、と赤らんだ顔を必死で平静に取り繕っていると、


「ただいまーって、何レオンにくっついてんだよ、親父」
「パンフ見てんだよ」
「そんなにくっつく必要ないだろ。離れろよ、レオンが迷惑してんだろ」
「迷惑なんて言われた事ぁねえぞ。なあ?」
「あ、ああ……」


ジェクトの言葉に、レオンは頷いたものの、その表情はぎこちない。
ティーダはしっかりその事に気付いていたようで、


「レオン、はっきり言って良いんスよ。体臭だってキツいだろ?」
「いや、別にそんな事は……」
「ほら、離れろってば。レオンに迷惑かけんなよ、クソ親父」
「うるせえなあ、だったらお前もそっち離してやれよ」


離れろと繰り返す息子に、ジェクトは判り易くうんざりとした表情で指を差す。
ティーダはそれを見て、「そっち?」と首を傾げて、ジェクトの示す先を視線で負う。

其処には、しっかりと幼馴染の手を握る、自分の手があった。

ティーダが自分の手を見る以前から、その手は繋がっていた。
詳しく言えば、ウォーターアトラクションを終えて、保護者の下へ戻って来る最中、人気のステージへ向かう人ゴミの中を横切る際、逸れないようにと繋いだもの。
良い年をした男同士で、と嫌がるスコールに構わず、ティーダがやや強引に握った。
それから、レオン達の所に行くまでなら、と束の間の繋がりの許しを貰って────その許可時間は、此処に辿り着いた時点で、終了している筈のもの。

日焼けをした手に握られた、色白の自分の手。
ジェクトに指摘された事、ついで兄に見られた事で、それまでで既に赤かったスコールの顔が、一気に沸点を突破した。


「……!」
「あっ。ちょ、スコール!」
「……っ!!」
「スコール、何処行くんだよ!?待てって!」


沸騰したように真っ赤になって、ティーダの手を振り払ったスコールは、ぐるんっと踵を返して歩き出した。
人込みの向こうへ逃げるように、足早で離れて行く幼馴染を、ティーダが慌てて追い駆ける。

雑踏に紛れ込んで行く弟と、それを追う幼馴染の少年を見詰めて、レオンは一つ溜息を吐く。


「ジェクト……此処にいる間は、余計な刺激をするなって言っただろう」
「あー……そうだったっけか」
「……全く……」


弟もその幼馴染の少年も、思春期真っ只中のデリケートな時期。
些細な事が思いも寄らなかった事に発展するのはよくある事で、それが彼等を成長させる事もあれば、逆に傷になってしまう事もある。
また、他人にとっては意味のない一言でも、当人にとってはそうではない、と言うのはよくある話だ。
だからレオンは、まだまだ難しい頃合いの少年達に、悪戯な事はしてくれるなとジェクトに釘を刺しているのだが、日々息子を揶揄うのが日課とも言えるジェクトは、ついつい要らぬ一言が出てしまう。

けれども、ジェクトがつい息子に意地の悪い事を言ってしまう気持ちも、レオンは理解できない訳ではなかった。
自分達の関係を思えば、ジェクトが先のティーダの言に、ちょっと意趣返しをと思うのも無理はないかも知れない。
─────が、やはりそれでも、堪えてやるのは此方の方だろうとレオンは思う。


「ほら、そろそろ離れてくれ。スコール達が戻って来た時、またケンカになるぞ」
「……ちっ」


唇を尖らせて、厳つい貌を子供のように拗ねさせるジェクト。
レオンはそんな男を見て、眉尻を下げて唇を緩め、


「迷惑だなんて、思った事はない。だから、その───……」




次は、誰もいない所で。
誰にも見られない時に。

そう言って赤らんだ顔を背ける青年に、ジェクトは伸ばしかけて、止めた。







ティスコとジェクレオ。
全力の俺得。

[ジェクレオ&ティスコ]触れた指先 2

  • 2016/10/08 23:05
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スコールとティーダが微妙な距離感を持って戻って来た所で、レオンは休憩を兼ねて甘いものでも食べよう、と言った。
二人は何処かぎこちなくも、兄の言葉に頷いて、飲食店エリアへ向かう。

先にレオンが目星を付けていた店は、人気でいつも満席と言う歌い文句があったが、運良く空席があって直ぐに座る事が出来た。
二人ずつで向かい合わせに並ぶ四人テーブルでは、スコールとティーダ、レオンとジェクトで並び、父子を向い合せにしないのがパターン。
足が当たった当たらなかった、腕が当たった当たらなかったで父子が揉めるのを避ける為だ。
手のかかる親子だ、とスコールは愚痴を零すが、そんな彼も、自分の父ラグナとは並びたくない、向かい合わせは嫌だと言う、難しい年頃であったりするのだが。
ちなみに、ラグナは今日は急な仕事が入ってしまい、家族旅行から外れてしまった。
今朝まで「行きたくない」「スコールとレオンと一緒にコーヒーカップに乗りたい」と言っていたのだが、止む無く旧友達に引っ張られて行った。
その際、ラグナはジェクトに「うちの子達を宜しくな~!」と涙ながらに託し、いつもの事と呆れつつも、ジェクトはそれに頷いている。
車に乗るまで未練たらたらに何度も振り向いていた父の姿は、スコールも少し考えるものがあったようで───何せ家族揃って出掛けるなんて事は、もう随分と久しぶりの事だったから、ラグナが仕事を嫌がるのも無理はない───、土産くらいは、と思っているので、彼が父の事を心から嫌っている訳ではない。

話を戻して。

デザートメニューは少々値が張るものの、食材からデコレーションから凝った作りをしていた。
きらきらと光るジュレや、見事な飴細工、チョコレート等、ティーダは勿論、スコールも少し興奮していた様子だった。
そんな少年達を前に、レオンとジェクトはのんびりとコーヒーを飲みながら、パンフレットを眺める。
スコールとティーダがデザートを食べ終え、あれが良かった、あれは疲れたと話をした後、次の行先は決定した。

此処に行こうぜ、とジェクトが指差したのは、飲食店エリアに隣接された、屋内施設を中心としたエリアの一角。
パンフレットのイラスト地図ですら、おどろおどろしく描かれた其処は、ホラーハウス、またの名をお化け屋敷であった。
なんでそんな所に、とティーダが噛み付いたのは言うまでもないが、それに対してジェクトが「怖いのか?」等と煽るものだから、ティーダは反射的に「恐くない!」と叫んだ。
それを受けて、じゃあ決まりだな、と笑う父に、ハメられたと息子も気付いたが、やっぱり嫌だと撤回出来ないのが、反抗期真っ只中の青臭さの面倒な所であった。

しばしの休憩でまったりと過ごした後に、どうしてこんな場所を選ぶのか。
呆れつつも、特に行きたい所がなかったスコールは、父と口ゲンカをするティーダに引き摺られながら、ホラーハウスへと到着した。
ホラーハウスの入り口に設置されたスピーカーから、ぎゃああだのきゃああだのひいいいだのと悲鳴が繰り返されている。
時々、振り切れて何もかも可笑しくなったか、大爆笑する声も聞こえていた。
どうやら、アトラクション内の音声をリアルタイムで拾って流しているらしい。
ティーダが叫んだらスピーカーが割れそうだ、とスコールは思った。

二人ずつ整列して下さい、と言うスタッフのアナウンスに従って、入場待ちの列に並ぶ。
此処でジェクトとティーダが、どちらが先に入るかと揉めたのだが、やはり此処でも「怖いのか?」の一言で煽られたティーダが、付き添う形となるスコールと共に、先に入る事になった。

─────そうして、思いの外早くまわって来た入場順に、蒼い顔をしたままのティーダを先頭で入場したまでは良かったが、


「ぎゃああああああ!首!生首ー!」
「……煩い」


耳元で叫ぶティーダに、スコールは顔を顰めた。
素っ気ない反応のスコールに、だって首が!とティーダは叫ぶ。

進行方向を示す床のライトだけが頼りとなる、暗闇の道。
その向こうで、ふわふわと浮遊している人の頭部。
不規則な揺れを見せながら、くるくると回転しているそれが此方を向くと、爛れた皮膚が頼りない毛髪の隙間から覗いた。


「ゾンビいいぃぃぃぃ!!」


ぎゅうう、と抱き付いて来る幼馴染に、スコールは今日何度目か知れない溜息を吐く。
恐くない、と息巻いていた突入前の空元気は何処に行ったのか。

とは言え、無理もないのはスコールも理解しているつもりだ。
ティーダは、テレビの曜日プレミアムで放送されるホラー映画も、一人で見る事が出来ない。
人気があったり、話題性のあるものは内容が気になるので見てみたいが、おどろおどろしいものは好きではないし、スプラッタも苦手だ。
だから必ずスコールやレオンと一緒に見るようにしているのだが、それで怖さが一切なくなる訳でもない。
映画を見ている間中、震えて怯えて叫んで、と言う具合だ。
ジェクトもそんな息子を知らない訳ではないだろうに、どうしてホラーハウスに行こうなんて言い出したのか。

ふわふわと彷徨っていたゾンビ生首が、道案内をするように突き当りの角を曲がって行く。
スコールがそれを追い、ティーダは彼の腕にしがみついたまま、及び腰でついて歩いた。


「ううう~……やっぱ苦手…ぎゃあっ!」
「……ただの酸素ガスだろ」
「判ってるけどビックリするんだって!」


曲がり角を曲がった途端、ブシュッと噴き出した白いガスに驚くティーダ。
何かあるだろうと踏んでいたスコールは、特に驚きはしなかった。

また暗がりの道を進んで行くと、何処かから生温い風が吹いた。
ビクッとティーダが硬くなり、スコールの腕にしがみつく力が強くなる。


「……ティーダ、離せ」
「置いてかないで!」
「置いて行かない。……痛いんだ」
「あっ、ごめん」


スコールの一言に、ティーダは掴んでいた腕を慌てて離した。
ジャケットの長袖に皺が寄っているのを見て、ごめん、とティーダが改めて詫びる。

腕は離しはしたものの、やはり縋るものは欲しいのだろう。
ティーダはあちこちを見回しながら警戒しながら、スコールの傍に密着する程に身を寄せて来る。
スコールは眉根を寄せたが、縋る子犬のような貌で見上げる幼馴染に、好きにさせる事にした。
足も重いであろうティーダに合わせ、歩調を落として先へ進む。


「そんなに怖いなら、正直に怖いから嫌だって言えば良かったんだ」
「ンなの言える訳ないだろ……あのクソ親父……うわあああっ!」


壁の向こうから突如現れたゾンビに、ティーダが悲鳴を上げる。
ゾンビはビタンッ!と透明ガラスに憑りついて、うごうごと動きながら此方を恨めしそうに見ていた。
スコールは、蒼い貌でふらふらとしているティーダの手を引っ張り、ゾンビから離れて行く。


「ビックリ系だけでもヤなのにさ~、なんでゾンビ…すげーリアルだし…」
「それが売りなんだろ」
「あーもー早く外に出たいっス……」
「……まだ半分も過ぎていないようだが」
「ええええ」
「一応、リタイアゾーンはあるらしいぞ」
「リタイアはしない!」
「………」


面倒な、とスコールが胡乱な目でティーダを睨む。
スコールの胸中が伝わったのだろう、ティーダがだって、と弱った顔になった。
リタイアなんてしたら、ジェクトは間違いなく息子を揶揄いに来るだろう。
それもそれで面倒だ、とスコールは思った。


「…じゃあ、もう少し早く歩け。そうすれば早く出られる」
「が、頑張るっス……」


────と、なんとか返事をしたティーダだが、早く出たいのは山々、しかし足は重い。
進む先に何があるかと思うと、どうにも体が緊張で固くなってしまう。
此処はお化け屋敷、進めば進む程に何かが待ち受けている、と言う残酷な運命が、ティーダを益々緊張させていた。

……スコールとて、ティーダの気持ちが判らない訳ではない。
子供の頃はスコールもホラーが大嫌いだったし、スプラッタなんて以ての外、うっかり映画を見たら、夜は怖くて眠れない。
幼い頃、ラグナも含めて小さな遊園地に来て入った、もっとチープなお化け屋敷も、スコールは駄目だった。
あの時は薄暗い通路だけで怖くて怖くて、兄に宥められ、父に抱き上げられて運ばれ、それでも我慢できずに途中でリタイアしてしまった程だ。
ちなみにティーダも同じ時にジェクトに連れられてお化け屋敷に入っており、此方は父の手を痛いほどに握りながら、「怖くない!!」を繰り返してなんとか踏破していた。
あの時もティーダは、揶揄う父への対抗心で意地を張って、なんとか先へ進んでいたのだろう。

あれから月日が経ち、スコールは暗闇やホラーへの耐性がついた。
と言うか、ティーダと一緒に見ている内、自分が怖がる前にティーダが全力で怖がるので、泣き叫んだりする暇がなくなり(一時はティーダの叫び声の方が怖かった程だ)、昔ほど恐れる事はなく。
不意打ちのトラップ系には驚くものの、お化け屋敷は基本的に作り物、或いは人間が演じているものと冷静に分析するようになると、緊張する事もなくなって行った。

しかし、ティーダは相変わらず、ホラーもスプラッタも大の苦手だ。
進む程に、まるで足元を引き摺られているかのように重くなるティーダの歩みに、スコールは何度目かの溜息を吐いて、


「……ティーダ」
「な、何?」
「……ん」
「ん?」


右手を差し出したスコールに、ティーダがきょとんと首を傾げる。
スコールは僅かに熱くなる頬を無視して、努めていつもと同じ貌をしていた。


「引っ張って行ってやる。だから掴まれ」


スコールの言葉に、ティーダはぱちりと瞬きを一つ。
マリンブルーの瞳が、幼馴染の顔を見て、差し出された手を見て、また顔を見る。
それから、ついさっきまで幼馴染にしがみ付いていた自分の手を見て、またスコールの手を見る。

少しの間逡巡するように沈黙してから、ティーダは恐る恐る手を伸ばす。
二人の手が重なると、一瞬スコールの指に緊張が走ったが、ティーダがぎゅっと掌を握ると、スコールもそれを握り返した。


「……行くぞ」
「う、ん……でも、良いのか?このまんまで」
「じゃないとあんた、進まないだろう」
「そ、そうだけど。後ろにさ、ほら……」


ちら、と後ろに目を遣るティーダ。

二人の後ろには、数メートルの距離を開けて、レオンとジェクトが歩いている。
どちらもホラーを怖がるタイプではないので、ギミックを眺め観察しながら、のんびりと進んでいるようだ。
通路が暗くて数メートル先も碌に見えない上、叫び声がないので、ひょっとして置いて行ってしまったのでは、と俄かに不安が過ぎったが、時々聞き慣れた会話がぼそぼそと聞こえて来るので、ついて来ているのは確からしい。

ティーダの脳裏には、休憩する前、手を繋いでいた事をジェクトに揶揄われた時の事が浮かんでいた。
スコールも同じ記憶が浮かんで、恥ずかしさの余り、ティーダの手を振り払った事を思い出し、


「……嫌なら、離す」
「それはやだ」


握った手を解こうとスコールが指の力を緩めると、逆にティーダが確りと握った。


「やだ。離したくない」
「………」
「このままが良い」


人目を気にし、また人との触れ合いを苦手としているスコールは、滅多に自分から他人に触れない。
家族や幼馴染に対してはまだ平気だが、父ラグナのようなスキンシップは出来ないし、人からそれを求められるのも苦手だ。

ティーダと手を繋ぐのは、決して嫌ではないものの、人目が気になって出来ない。
けれど、スコールとティーダの関係は、秘密のものだ。
いつかは兄、父、そしてジェクトにも伝えなければと思うけれど、否定されたらと思うと、恐くて出来ない。
否定された所為で、ティーダが自分から離れてしまったらと考えれば、尚更怖くて堪らなかった。
だから迂闊に触れ合って、それを皆に見られて、秘密の関係がバレてしまったらと思うと、どうしても一定の距離を保たなければと思ってしまう。

けれど、此処はお化け屋敷。
恐がりな連れ合いを外まで引っ張って行くと言うのは、不自然な話ではないだろう。


「このまま行こう。……引っ張って貰うの、俺の方だから、格好つかないけど」
「……全くだ」


恥ずかしそうにはにかみながら言うティーダに、スコールも呆れた表情。
しかし、ダウンライトの昏く頼りない光が映すその貌は、仄かに緩んでいるようにも見える。

行くぞ、と言って、宣言通り、スコールはティーダの手を引っ張って歩き出した。




前を歩く少年達と、僅かに距離を置くように進むようになったのは、入場してから間もなくの事。
離れた所で、ティーダのよく通る叫び声が聞こえるので、二人が順調に進んでいる事は判る。
出来るだけそれに追い付かないように、距離感とスピードを図りながら、レオンとジェクトは歩いていた。

ぐねぐねと幾つもの曲がり道で距離を稼いだ後、真っ直ぐの道に出た。
通路の向こうで叫び声がして、見れば暗闇の中に薄らと弟達のシルエットが浮かんでいる。
二人はぴったりと寄り添うように密着して、ルートを進んでいるようだった。
その後ろ姿を見て、レオンの隣でジェクトが溜息を吐く。


「ったく、情けねえ。またピーピー泣いてやがる」
「苦手なんだから仕方がないだろう。判っている癖に、こんな所に連れて来た方が悪いと思うぞ」
「だからこそ、男を見せるチャンスだってもんだろ?」


息子がホラーもスプラッタも苦手な事は、ジェクトもきちんと判っている。
それなのにティーダを煽ってホラーハウスに入らせたのは、先刻、ティーダを揶揄ってスコールの臍を曲げさせた事への詫びの目的もあった。

まだ息子達が幼かった頃、スコールがお化け屋敷を途中リタイアした事を、ジェクトは覚えていた。
そんなスコールに対し、息子が父の手を握り締め、わんわん泣きながらもお化け屋敷を踏破した事も。
ジェクトにしてみれば、子供達のホラーへの耐性の印象は、その頃のままであったから、少し情けなくても男らしくスコールを引っ張って行く事が出来るのでは、と言う思惑があった。
暗くて人目も殆どないお化け屋敷なら、彼等がもう一度手を繋ぐのも、そう難しい話しではないだろう、と。

結果として、二人がもう一度手を繋ぐ事は出来たのだが、その形が少々あべこべになっている。


「スコールの奴、ホラーは平気なのか?」
「割と慣れたかな。不意打ち系には驚くけど、恐がらなくなった。作り物や人間の演技だって達観するようになったから」
「その辺はお前と同じだな。ガキの頃にラグナに連れられてた時も、作り物だから恐くない、大丈夫ってスコールを宥めてたしよ」
「はは……そう言う事も言ったかな」


曖昧に笑うレオンに、言ってたぜ、とジェクトは釘を刺す。


「あいつもそれ位冷静になれりゃ良いのによ」
「良いじゃないか。ティーダはあれ位元気な方が良い。スコールもその方が楽しいだろう」
「楽しい、ねえ。それはそれで良いんだけどよ。あれは流石に情けないだろ」


幼馴染に手を引かれ、縋るように密着して歩いているティーダ。
入場直後は息巻くように先頭を歩いていたのに、今や先行しているのはスコールの方だ。
出来れば想い人の手を引く息子が見たかった父としては、複雑な光景であろう。

レオンはどう思うかと言うと、弟達の初々しさと純粋さが、ただただ愛らしいばかり。
お互いに取り繕う必要もなく、素のままの自分を曝け出せているのが伝わってくるので、十分満足している。
そんな二人を邪魔しない為にも、もう少し歩みを遅くした方が良いだろうか、と後続がまだ追い付いて来ない事を確信しようと振り返った時、


「……ジェク、」
「黙ってろよ」


指先に触れたものに、思わず隣の男の名を呼びかけて、赤い瞳に制される。
僅かに強張った指先が、太い指と絡み合って、柔らかく強い力で握られた。


「誰にも見られない時なら、良いんだろ?」


そう言って悪戯っぽく笑う男に、ずるい、とレオンは思う。
そんな顔で、そんな風に嬉しそうに言われたら、振り払えなくなるではないか。




前方から聞こえる叫び声に、頼むから逃げ戻ってきたりはしないでくれ、と切に願うのだった。






青春真っ只中のティスコ+大人の秘め事ジェクレオ。
対比が楽しくて堪りません。

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