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[ジェクレオ&ティスコ]触れた指先 1

  • 2016/10/08 23:06
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10月8日と言う事で、ティーダ×スコールとジェクト×レオン。
[我儘な大人]と同じ設定です。





賑々しい音楽があちらこちらで鳴り響き、楽しそうな笑い声が反響し、空から悲鳴と歓声が降ってくる。
昼間でも眩しいネオンで彩られた沢山の看板や、アーティスティックな踊りで噴き上がる水飛沫。

遊園地なんて、本当に何年振りだろう。
ジュース入りの紙コップを片手に、ベンチに腰かけて、レオンはそんな事を考えていた。
その隣では、同じように考えているのだろう筋骨逞しい男が座っており、遠く伸びるランドマークの塔を眺めている。
そんな二人の前を、元気な子供達が駆けて行き、それに続くようにして、金髪の少年と茶髪の少年が横切って行く。


「スコール、次あれ!あれ乗ろう!」
「判ったから引っ張るな!走るな!」


右手をティーダにぎゅっと握られ、引っ張られて走るスコール。
さっきはジェットコースターに乗りに行っていた彼等は、今度はウォーターアトラクションへ向かうようだ。

ティーダはこの遊園地に入った時からハイテンションで、アトラクション全制覇を目指すと言っていた。
そんな幼馴染とは対照的に、賑やかな場所も人ゴミも嫌いなスコールは、人気の少ないのんびりとしたクルーズ系が一つでも乗れればそれで、と言った風だった。
しかし、ティーダにあっちへこっちへ引っ張られているスコールは、意外と楽しんでいるように見える。
言えば絶対に否定するのだろうが、手を引くティーダの手を振り払わないので、口では素直でない事を言いつつも、彼なりに数年振りのテーマパークと言うものを満喫しているのだろう。

────と、10代の少年達が思い思いに楽しんでいる傍ら、保護者組のレオンとジェクトはのんびりとしたものだ。
初めこそ、ティーダにせがまれて一緒にアトラクションに乗っていたレオンだったが、人気の高い乗り物を三つほど回った所で、休憩すると言って二人から離れた。
スコールの兄として、またティーダの兄代わりとして、彼等から完全に目を離すつもりはないものの、それでも弟達とて5歳6歳の子供ではないのだ。
アトラクション搭乗のルールはきちんと守れるし、危ない事はしないと約束し、それを信じて、自由にさせる事にした。
ジェクトはと言うと、アトラクションは最初に一つ乗ったきりで、後は子供達の行く所について行くのみ、すっかり付き添いの保護者に徹している。

レオンが紙コップの中身を空にして、腕時計を見ると、時刻は午後3時を回っていた。
昼前に入園し、早目に食事を済ませてからアトラクション巡りを始めてから、もう三時間。
意外と早いな、と呟くと、隣でジェクトが立ち上がって、丸めっぱなしにしていた体を仰け反って伸ばす。


「っか~……じっとしてるだけだってのに、妙に疲れる気がするな」
「慣れない場所に来ているからだろうな」
「やっぱそれかねぇ。スコールは大丈夫なのか?あいつ、こう言う場所はあんまり好きじゃねえだろ」
「それはそうだが……」


レオンが視線を左方へと向けると、ジェクトも倣って首を巡らせた。
二人の視線の先では、ウォーターアトラクションに乗り込むスコールとティーダの姿がある。

一番前が良いと言うティーダに、スコールは渋々顔でついて行き、二人並んでコースターの先頭に座った。
スタッフから大きなビニールシートを渡されて、スコールが恨むようにティーダを睨むと、ティーダがへらっと愛想笑いを見せる。
スコールはしばらくティーダを睨んでいたが、スタッフから安全バーを下ろすように言われると、諦めたように溜息を一つ。

二人の遣り取りを遠目に見ていたレオンが、くすりと頬を緩める。


「思ったよりは大丈夫そうだ。ティーダが一緒だからな」
「だったら良いんだけどよ」


コースターが発進して、大きな山を登って行く。
レールコースの下からそれを見上げているレオン達には、先頭に乗っている弟達の顔は見えない。
それでも、きっと楽しんでいるのだろうな、とレオンは思う。


「とは言っても、そろそろスコールも疲れが出てくるだろうから、何処かで休憩した方が良いかな」
「飯屋にでも入るか?」
「……そうだな」


レオンはジャケットの内ポケットに入れていた長方形のパンフレットを取り出した。
開いて記された飲食店の傾向をチェックしていると、のしっ、と肩に重みが乗る。
丸太のように太い腕が、レオンの肩に乗せられて、ジェクトが寄り掛かってパンフレットを覗きこんでいた。


「今日日の遊園地ってのは、デザートだけでも凝ってるもんだな」
「アトラクションより、これを目当てに来る人もいる位だからな。色々な客層を取り込もうとしてるんだろう」
「よく考え付くもんだぜ。で、何処に行く?」
「軽食なら、この辺りが。少し遠いから、スコール達が面倒そうだったら、こっちのフードコートに……っ!」


パンフレットを眺めながらルートを確信していたレオンだったが、その表情が一瞬強張る。
右肩に乗せられていたジェクトの腕が、いつの間にか体重を移動させて、レオンの左肩まで回されていた。
僅かに抱き寄せるように力が籠められているのを感じ取って、視界の端に映る不精髭に、その距離感の狭さを悟って、レオンの頬が僅かに赤くなる。


「おい、近過ぎる…っ」
「この方が見易いんだよ」
「だからって……」


余りに近い距離に、レオンは自分の体温が上がるのを自覚した。
そんなレオンの前を、遊園地を楽しむ人々が通り過ぎて行く。
傍らの男とは勿論、行き交う人々との距離が近い事を再認識して、レオンは益々顔が熱くなって行く。

ジェクトは存外と初々しい気配の抜けない青年に、くつくつと笑って、濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でた。
幼い頃から、父を支え、弟を守る為に自分自身を律し続けていた青年は、どれだけ甘やかしてやっても、慣れる事が出来ない。
その事を心の隅で寂しく思いながらも、こんな反応を見せてくれるのは自分だけだと思うと、優越感で頬が緩む。

────が、細やかな甘い時間と言うものは、いつまでも続かないものだ。


「思ってたより水凄かったっスね!」
「お陰でズブ濡れだ……」
「良いじゃん、涼しくなったし」
「良くない。気に入ってたんだぞ、これ。それなのに」
「乾いたら元に戻るって」


聞こえた少年達の声に、レオンがはっと我に返る。
慌てて肩に回されたジェクトの腕を振り解こうとするが、ぐいっと強い力で捕まった。
弟達が戻って来るのに、と赤らんだ顔を必死で平静に取り繕っていると、


「ただいまーって、何レオンにくっついてんだよ、親父」
「パンフ見てんだよ」
「そんなにくっつく必要ないだろ。離れろよ、レオンが迷惑してんだろ」
「迷惑なんて言われた事ぁねえぞ。なあ?」
「あ、ああ……」


ジェクトの言葉に、レオンは頷いたものの、その表情はぎこちない。
ティーダはしっかりその事に気付いていたようで、


「レオン、はっきり言って良いんスよ。体臭だってキツいだろ?」
「いや、別にそんな事は……」
「ほら、離れろってば。レオンに迷惑かけんなよ、クソ親父」
「うるせえなあ、だったらお前もそっち離してやれよ」


離れろと繰り返す息子に、ジェクトは判り易くうんざりとした表情で指を差す。
ティーダはそれを見て、「そっち?」と首を傾げて、ジェクトの示す先を視線で負う。

其処には、しっかりと幼馴染の手を握る、自分の手があった。

ティーダが自分の手を見る以前から、その手は繋がっていた。
詳しく言えば、ウォーターアトラクションを終えて、保護者の下へ戻って来る最中、人気のステージへ向かう人ゴミの中を横切る際、逸れないようにと繋いだもの。
良い年をした男同士で、と嫌がるスコールに構わず、ティーダがやや強引に握った。
それから、レオン達の所に行くまでなら、と束の間の繋がりの許しを貰って────その許可時間は、此処に辿り着いた時点で、終了している筈のもの。

日焼けをした手に握られた、色白の自分の手。
ジェクトに指摘された事、ついで兄に見られた事で、それまでで既に赤かったスコールの顔が、一気に沸点を突破した。


「……!」
「あっ。ちょ、スコール!」
「……っ!!」
「スコール、何処行くんだよ!?待てって!」


沸騰したように真っ赤になって、ティーダの手を振り払ったスコールは、ぐるんっと踵を返して歩き出した。
人込みの向こうへ逃げるように、足早で離れて行く幼馴染を、ティーダが慌てて追い駆ける。

雑踏に紛れ込んで行く弟と、それを追う幼馴染の少年を見詰めて、レオンは一つ溜息を吐く。


「ジェクト……此処にいる間は、余計な刺激をするなって言っただろう」
「あー……そうだったっけか」
「……全く……」


弟もその幼馴染の少年も、思春期真っ只中のデリケートな時期。
些細な事が思いも寄らなかった事に発展するのはよくある事で、それが彼等を成長させる事もあれば、逆に傷になってしまう事もある。
また、他人にとっては意味のない一言でも、当人にとってはそうではない、と言うのはよくある話だ。
だからレオンは、まだまだ難しい頃合いの少年達に、悪戯な事はしてくれるなとジェクトに釘を刺しているのだが、日々息子を揶揄うのが日課とも言えるジェクトは、ついつい要らぬ一言が出てしまう。

けれども、ジェクトがつい息子に意地の悪い事を言ってしまう気持ちも、レオンは理解できない訳ではなかった。
自分達の関係を思えば、ジェクトが先のティーダの言に、ちょっと意趣返しをと思うのも無理はないかも知れない。
─────が、やはりそれでも、堪えてやるのは此方の方だろうとレオンは思う。


「ほら、そろそろ離れてくれ。スコール達が戻って来た時、またケンカになるぞ」
「……ちっ」


唇を尖らせて、厳つい貌を子供のように拗ねさせるジェクト。
レオンはそんな男を見て、眉尻を下げて唇を緩め、


「迷惑だなんて、思った事はない。だから、その───……」




次は、誰もいない所で。
誰にも見られない時に。

そう言って赤らんだ顔を背ける青年に、ジェクトは伸ばしかけて、止めた。







ティスコとジェクレオ。
全力の俺得。

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