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2021年07月08日

[セフィレオ]ムーンシャイン・テイスティ

  • 2021/07/08 22:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


飲み会と呼ばれるような集まりに、セフィロスは先ず参加する気はないのだが、会社主導でそれが企画されると、流石に逃げるのは難しい。
仕事のスケジュールを理由に躱せればよかったのだが、毎回そう都合良くはいかない。
寧ろ、セフィロスのように飲み会の類を躱そうとする者程、今回はなんとしてでも参加させろ、と言う上の意思が働いたのではないだろうか。
そんな事を勘繰ってしまう位には、珍しい人間が揃っていた。

所謂今時の若者と言うのは、縦の繋がりよりも自然的な横の繋がりを求めつつ、尚且つ自分の時間は保持したい、或いはするべきと言う意識があるので、強制参加の飲み会や勉強会は余り評判が良くないのが現実だ。
しかし、飲み会によって構築される社員同士の信頼関係と言うのもあるので、企画される事自体は悪い話ではない。
出来れば其処に参加に関して自由意志にさせて欲しい、と言う声も多く出ているが、残念ながら、会社の上の方には中々それは届いていないらしい。
だから、セフィロスのように平時であれば間違いなく不参加を貫くであろう人間も、顔出しだけでも済ませておかなければならないのである。

会社主導とあって、飲み会の店はそこそこ良いランクで、更には大宴会場を貸し切ってと言う中々豪胆なものになっていた。
アルコールの豊富さは勿論、摘まみになる食事も豪勢で、その負担の多くは会社が出し、社員は最低限の参加費は必要だが、その金額が安く済んでいると言うのは幸運だ。
半ば強制参加とも言えるようなものであったから、せめてそれ位はして欲しい、と言うのは社員の当然の気持ちである。

セフィロスは今日の夕食分を腹に収めれば、早々に帰ってしまおうと思っていた。
が、自分と同じく運悪く参加する事になってしまった同類仲間を見付けて、少し気が変わった。

酒に強くないこと、悪酔いすると迷惑をかけるからと、どちらかと言えば真っ当に真面目な理由でいつも酒の席を断っていたその人物───レオンはセフィロスの同僚だ。
同じ時期に入社した事から始まって、それなりに近い付き合いを続けている彼とは、いつしかその関係に“恋人”と言うカテゴリが加わった。
男同士であるが、そんな事よりも、彼を腕に抱いた時の心地良さが忘れられなくて、セフィロスは彼を手放したくないと思っている。
レオンは余りそう言った事をセフィロスに伝えては来ないので、彼の胸中がどうなっているのかはセフィロスにも判らない部分はあるが、真面目で誠実な彼が別れを切り出さない事、ふとした折に見られる笑みが柔らかい事から、彼からもこの関係を望まれていると確信している。

そのレオンが、今回の飲み会に参加していたのだ。
入り口で顔を合わせ、「お前も逃げ損なったか」と言ったセフィロスに、レオンは苦笑いをしていた。
お互い運が悪かったのは判り切った話で、適当な所で抜けようとは思うんだ、とレオンは言っていた。
しかし、良くも悪くも真面目で押しに弱い所があるレオンは、上司も多く参加するこういった席で、中々誘いを上手く躱す事が出来ない。
だからセフィロスも、早々に逃げるつもりだった腰を落ち着けて、思った通り、絡みが面倒と定評のある上司に捕まっている恋人の様子を見守っていたのだが、


(限界だな)


何杯目になるか、件の上司が寄越してきた酒を、どうにか飲みほしたレオンを見て、セフィロスは席を立った。
隣に座っていたザックスが「お帰りか?」と言うので、片手だけを上げて返事をする。
どうせ途中退席するからと、参加費は先にザックスに預けてあるので、セフィロスがこのまま帰っても問題はない。
しかしその前に、回収するものは回収しなくては。

目的の場所へと向かう道すがら、セフィロスはあちこちから声をかけられた。
その殆どは上司、更には女性である事が多く、中にはセフィロスの手を引こうとする者もいる。
それを適当に往なし避けながら、セフィロスは目当ての人物に声をかける。


「おい、レオン」
「……んん……」


テーブルに突っ伏しているレオンの反応は、捗々しくない。
肩を揺らすと、嫌がるように腕がセフィロスの手を払う仕草をした。
揺らさないでくれ、と言う彼の後ろ髪の隙間から見える首は、見るからに赤らんで汗を掻いている。

そんなレオンの隣を陣取っていた上司は、もう一人、今回狙っていた人物が来た事に、喜色満面を浮かべた。


「おお、セフィロス。お前もほら、飲め!レオンも随分飲んだから、お前も一杯くらい良いだろう」


にこにこと上機嫌な上司は、悪い人間ではないのだが、逆に何事にも悪気がないのが性質が悪い。
部下の間で密かに囁かれているその評判は、全くもって的を射ている。
故に、適当に機嫌を取ったら後は物理的距離を取るのがベターであるのだが、レオンはどうにもその引き際が弱いのだ。

セフィロスはやれやれと言う気持ちで、差し出されたグラスを受け取った。
高さのあるグラス一杯分、なみなみと継がれている透明なそれを、一気に飲み干していく。
その潔さに、おお~、とテーブルから拍手が上がった。
そしてすっかり空にすると、セフィロスはグラスをテーブルに置き、ぐったりとしているレオンを抱え起こした。


「では、私はこれで。レオンも限界のようですから、ついでに帰らせますよ」
「おいおい、レオンはまだだぞ。お前より中々参加しないんだから、もうちょっと」
「殆ど意識がないので無理ですよ。では、失礼します」


引き留めたがる上司をさらりと躱して、レオンの荷物も回収し、セフィロスはレオンに肩を貸しながら、テーブルを離れて行く。
レオンは足元にも碌に力が入っていないが、暴れる訳でもないので、運ぶ分には楽な方だ。

宴会場を離れて店の出口となるエレベーターを待っていると、其処から見慣れた金髪───クラウドが現れた。


「タクシーを止めておいた。店の前で待っている」
「ああ」


セフィロスの動きをザックスから聞いたか、用意の良い後輩に一言だけを返して、入れ違いにエレベーターに乗り込む。

エレベーターの中で、セフィロスはレオンを背に負った。
耳元で唸る声がするが、まだ意識は戻りそうにない。
元々酒に強くないと言うのに、上司に薦められたからと断り切れずにお代わりまで飲んでいたのだから、潰れてしまうのも無理はないと言うもの。
これがパターンになっているから、平時のレオンは頑なに宴会への参加を固辞しているのに、強制参加の飲み会と言うのも考え物である。

クラウドが言っていた通り、タクシーは店を出て直ぐの場所で待機していた。
ドアが開けられ、レオンを奥に乗せてから、セフィロスも座席に深く座る。
どちらまで、と訊ねる運転手に、セフィロスは一瞬考えてから、自宅の住所を伝えた。


(あれだけ飲んでいたからな。家まで帰らせた所で、碌に動かんだろう)


レオンを彼の自宅へと送る選択肢もあったが、結構な酒量を飲んだレオンは、まだ目覚めそうにない。
結局家の玄関先まで自分が運ぶ事になるし、レオンがその後目を覚ますか、覚ましたとしてきちんと諸々の処理をしてベッドに入れるか、セフィロスは全く信用していなかった。

都会の車の波に乗って、タクシーが走り続けて三十分が経った頃、セフィロスが自宅としているタワーマンションが見えて来る。
閑静な住宅街に聳えるそれは、多くの人々から憧れの場所として見上げられているのだが、セフィロスにとっては通勤に便利な場所が其処だった、というだけの事だ。
それを言った時には、ザックスから「これだから根っからセレブな奴は!」と言われたのは記憶の隅には残っている。

レオンを背負ってタクシーを降り、マンションの玄関ロビーを潜る。
レセプションスタッフから郵便物を受け取った後、背負われた青年の様子を見て察したか、ミネラルウォーターのペットボトルを貰った。
起きたら飲ませた方が良いな、とまだまだその兆しの見えないレオンを背に、エレベーターへと乗り込む。

飲み会など進んで参加する事は先ずないので、セフィロスもそれなりに疲れている。
やはり酒を飲むのは一人でのんびりと傾けるか、気の知れた者とのみ飲み交わす位が丁度良い。
しかし、最近は仕事の忙しさも増している事もあって、自宅ですらあまり酒を開けていない気がする。
気が向いた時にでも少し良い酒を買って、レオンがまた泊まりに来た時にでも開けようか。
そんな事を考えながら、セフィロスは自宅の扉を開けた。


「……ふう」
「……ん……」


一つ息を吐いたセフィロスの背中で、もぞ、と荷物が身動ぎした。


「う……?」
「起きたか」
「……セフィロス……?」


薄らと目を開けて、きらきらと光る銀糸のカーテンに、レオンは眩しそうに眉根を寄せる。
名前を呼ばれたセフィロスは、短い返事をしながら、背負っていたレオンを下ろして立たせるが、


「う、ん、」


アルコールが回っているレオンの足元はふらふらと危なっかしい。
セフィロスはレオンの腰を抱いて支えながら、靴を脱ぐように促した。
レオンはセフィロスに掴まり、のろのろと靴を脱いで框を上がる。


「ここは……」
「俺の家だ。お前を帰らせても、碌な事にはならなさそうだったからな」
「……うん……」
「歩けるか」
「………」


レオンはセフィロスに捕まったまま、その手を放そうとしない。
酔いが抜けないものだから、自力で立っているのも辛いのか、縋るものを求めているようにも見える。
やれやれ、とセフィロスはそんなレオンを支えながら、リビングへと向かう。

レオンをソファへと座らせて、セフィロスは玄関ロビーで貰ったペットボトルを出し出した。
茫洋とした青の瞳が、ぼんやりとペットボトルの口を見詰める。


「飲んでおけ。大方、明日は二日酔いだろうが、少しは楽になるだろう」
「……ああ」


促された通りにペットボトルを受け取ろうとするレオンだったが、持った筈のその手から、すとんとペットボトルが落ちてしまう。
床に転がるそれを見詰めるのみの恋人に、仕方がないとセフィロスはペットボトルを拾った。
蓋を開けて水を口に含み、レオンの顎を捉えて上向かせ、唇を重ねる。


「ん……、ふ、」


濡れたセフィロスの唇の感触に、レオンは薄く相貌を細め、そっと唇を開けた。
少し温まったとろりとした液体が、レオンの咥内へとゆっくりと滑り込み、乾いていた舌を湿らせていく。
体の不足した水分を補おうと、こく、こく、と喉が小さく鳴る音が聞こえた。

含んだものを明け渡すと、セフィロスはもう一度ペットボトルを口へと運ぶ。
直接飲ませるのが手っ取り早いとは思うが、今のレオンにはペットボトルを渡した所でまた落とすだろうし、飲もうとして胸元をびしょびしょにしてしまうのがオチだろう。
手のかかる酔っ払いだ、と思わないでもなかったが、こうしたレオンの姿が見られるのは珍しいので、それを独占できる優越感もある。
そろそろと伸びて来たレオンの腕が、甘えるようにセフィロスの首に絡むのも、悪い気はしなかった。

ぴちゃ、ぴちゃ、と濡れた音を鳴らしながら、二人の舌が絡み合う。
もっと、と求める舌に応じる為に、一旦唇を離そうとすると、縋る腕がそれを嫌がった。


「んぅ……っ」


今度はレオンの方から、セフィロスへと口付けが押し付けられる。
湿った舌がつんつんとセフィロスの唇をノックして、明け渡す事を強請っていた。
望むままに応じてやれば、直ぐにレオンの舌が進入して来て、セフィロスのそれを絡め取る。


「ん、ん……っ、」
「ふ……、ん……」
「んむぅ……っ」


差し出された舌を啜ってやると、びくん、とレオンの躰が判り易く震えた。
ちゅるりと唾液を絡める名残の音を鳴らしながら、ようやっと唇を放せば、レオンの口からほうっと甘ったるい吐息が零れ、


「セフィ…ロス……」


レオンの手がセフィロスの頬をゆったりと滑る。
蒼の瞳が甘い甘い熱に染まり、見下ろす銀糸の男をうっとりと誘っていた。

セフィロスもレオンも、明日の仕事はない。
だから飲み会に捕まって逃げられなかったのだが、今となってはそれが非常に好都合だ。
明日になればきっと頭痛に悩まされるだろう恋人を想像しつつ、それよりも今は愉しんでやろうと、甘える腕を取るのであった。





7月8日と言うことで、セフィレオ。
レオンが酔っ払ってるので結構積極的だし、セフィロスもケロッとしてはいるけど酒を飲んでるので、色々燃え上がる夜になりそうです。覗きたい。

※ムーンシャイン(Moonshine):密造酒

[クラスコ]リフト・ユー・アップ

  • 2021/07/08 22:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


一時、恋人同士の時間を持ちたくて、スコールを連れて秩序の聖域を離れた。
何をしたいと言う訳でもなかったし、そう言うものは夜に集約されていた所もあり、それが不満と言う事もなかったのだが、それはそれ、だ。
聖域には他の仲間の気配もある事から、恥ずかしがり屋の恋人は、どうしてもスキンシップの類に積極的ではない。
元々がそう言う性格である事は判っているつもりだが、それでも時々、スコールの方から接触を求めて欲しいな、と些細な我儘を持つ事はあった。

だからスコールを連れ出した訳だが────秩序の女神の恩恵が届く範囲から一歩でも離れれば、其処は何処であろうと戦場だ。
徘徊するイミテーションや魔物に襲われるのは日常の一部で、それらは此方の都合など鑑みてはくれない。
静かな湖畔の袂で、少し緊張した面持ちのスコールから、不慣れながらも精一杯のキスが貰えそうな所だったのに、茂みの奥から匂った魔法の気配に、甘い空気は吹き飛んだ。

現れたのはイミテーションの群れだ。
練度は高くないが、どれもが通当てを得意とする魔法タイプのものであったのが、二人にとっては厄介なこと。
魔女を司令塔に、少女、妖魔、道化と言う配置に、近接パワータイプであるクラウドとスコールは聊か不利である。
先ずは魔法に癖があって、本人とよく似た軌道の読み辛い道化を集中して叩き、破壊する。
次に少女と妖魔を分断し、彼女らの懐に潜り込み、魔法使いが得意とする遠距離の攻撃を殺した。
僅かな時間差で二体は破壊され、最後に残った魔女を追う。
他の三体に比べれば精巧な造りをした魔女のイミテーションは、己の有利な立ち位置と言う者を正確に把握しているようで、決してクラウド達と距離を縮めようとはしない。
追えば追っただけ逃げる魔女に、痺れを切らしたのはスコールだった。


「一気に詰める」
「無理をするなよ」


ガンブレードを構え直し、リボルバーに弾を込めると、スコールの全身から闘氣の圧が溢れ出す。
狙いを定めた一歩を踏み出した直後、スコールは爆発的に加速した。
力の流れを刃の切っ先に集約し、発生する氣の流れに乗って、一気に魔女との距離を詰める。
魔女は抵抗に矢の雨をスコールに向かって放った。
スコールの氣の圧力を切り裂いて、黒曜の矢が彼の躰を掠めるように貫いて行くが、スコールの進軍は止まらない。
あと一歩と言う距離で、スコールは次の踏み込み、そこからもう一段階加速する。
ゴウッ、と真空を切り裂いて迫った刃に、魔女は後退姿勢を取りながらもう一度詠唱を始めるが、遅い。

耳障りな断末魔と共に、人形は粉々に砕け散った。

スコールの走った軌跡の刻まれた後を追う格好で、クラウドも走る。
人形の末路である破片が、光の粒子を纏って塵も残さず消えた頃、クラウドは少年の下へと到着した。


「他に敵はいないようだ。終わったな」
「ああ」


ふう、とスコールがようやくの一息。
その足元が僅かに揺れて覚束ないのを見て、クラウドは眉根を寄せた。


「怪我をしたか」
「……別に」
「隠すな。ちゃんと見せてみろ」
「大したものじゃない」
「お前のそれは信用ならないからな」


もう一度、見せてみろ、とクラウドが促す。
するとスコールは、判り易く眉間に深い皺を寄せたが、じっと見つめる魔晄の瞳に敗けて、ズボンの裾を捲り上げた。

スコールの足は、矢が突き刺さった痕がくっきりと残り、出血している。
大漁出血、と言う程に大きなものではないが、このまま歩くのは辛いだろう。


「ポーションもないしな……ケアルは?」
「戦闘で魔力は使い切った。……応急処置だけ済ませる」
「俺がやろう。ちょっと座れ」


必要ない、自分でする、と言われる前に、クラウドはスコールに楽にするようにと言った。
案の定、スコールは「自分で」と言おうとしたのだろう、口が中途半端に開いたが、クラウドが応急処置用の包帯を用意するのを見て、大人しく腰を落とした。

地面に座り、ズボンを膝下まで捲り上げるスコール。
遠出のつもりなら水筒位は用意して出たのだが、今回は直に戻るつもりであったから、使える道具は然程ない。
スコールが持っていた布地で足を濡らす血を拭いたら、包帯で手早く周りを覆う。
後は早めに聖域に帰って、魔法で治療するのが良いだろう。

その為にも、とクラウドは、スコールの躰をひょいと抱いて立ち上がった。


「な……!ちょっ、おい!」
「ん?」


急な浮遊感に驚いて声を上げるスコールに、クラウドはけろりとした声で返事をした。
どうかしたか、と平然とした顔で訊ねる男に、スコールは赤い顔で近い距離にあるクラウドの顔を睨む。


「下ろせ!歩ける!」
「歩けはするだろうが、それだと悪化するだろう」
「問題ない!」
「まだ出血も止まってないんだ。安静にしておけ」


そう言って、クラウドは歩き出した。
出来るだけスコールの足を揺らさないように───と思っているのだが、抱えられている本人が暴れるものだからどうしようもない。


「あまり騒ぐな。落とすとまた怪我をするぞ」
「あんたが下ろせば良い話だ!」
「それじゃ傷が悪化する」
「平気────っ……!」


平気だ、と言おうとしたスコールの声が途中で途切れる。
足を引き攣ったように強張らせ、顔を顰めるスコールに、言わない事じゃないとクラウドは溜息を一つ。


「意地を張るからだ」
「……意地なんて張ってない」
「ああ、そうだな」


意地っ張りで負けず嫌いの少年は、図星である程それを認めたがらない。
クラウドが流す形で返してやれば、今度は拗ねた顔で唇を尖らせた。

抱えたスコールを出来るだけ揺らさないように、しかしのんびりとする訳にも行かないので、クラウドは急ぐ歩調で帰路を進む。
スコールは時折眉根を寄せ、痛みを堪える仕草を見せており、やはり歩かせなくて正解だったとクラウドは思った。
クラウドとしては、欠片でも自分に魔法の才があれば、もう少し痛みをなくしてやる事が出来たのにとも思うが、ないもの強請りをしても仕方がない。
ちょっとしたデートの気分で出掛けるにしても、ポーション位は用意しておくべきだったな、とそれは反省した。

聖域の気配が近付いてきた頃、おい、とスコールが声をかけた。


「なんだ?」
「……着く前に下ろせ」


その言葉にクラウドが足を止めて腕の中の少年を見れば、薄らと赤い顔が此方を睨んでいる。
恥ずかしがり屋の彼の事だ、このまま帰って誰かに目撃されたくないのだろう。

そんなスコールに、クラウドは俄かに悪戯心が擽られた。


「別に俺は疲れていないぞ」
「あんたの事を気にしてるんじゃない」
「怪我人を運ぶのは普通の事だ。恥ずかしがる事でもない」
「じゃあせめてこの運び方を止めろ」
「怪我人や病人の運搬には適した手法だと思うが」


クラウドはスコールの背中と膝裏に腕を通し、横抱きにしている。
これだと両手が使えなくなる為、戦場と言う環境には適していないと言えるだろう。
スコールは意識があるので、背負えば自分でクラウドに掴まる事も出来るし、クラウドも武器を持つ手が空くので其方の方が無難だ。
しかし横抱きにしていると、運んでいる人物の顔が確認し易い為、負傷者の容態を確かめながら運ぶことが出来るので、クラウドの言うことは事実である。

しかし、この体勢はクラウドやスコールの世界では、俗に“お姫様抱っこ”と言われる奴で、女性がロマンスを求めて憧れるスタイルでもある。
女性は抱える男性の腕に体をすっかり預け、男性は人一人をその腕のみで抱えなくてはならないので、腕だけでなく体幹にも十分な筋肉を求められる。
この時、女性がドレスでも着ていれば、それはそれは映える絵になるのだが、現実は中々難しかったりする。
それを平然とやってのけるクラウドの筋肉は伊達ではない───が、抱えられているスコールは男だ。
背に感じる腕の逞しさは力強く、頼り甲斐があるのだろうが、それにときめく心をスコールは持ち合わせていない。


「とにかく下ろせ。出血も止まったし、もう歩く」
「無理をするな」
「してない。もう、あんた、しつこい!」


スコールは腕を振り回して、クラウドの腕から逃げようとする。

しかし、この抱き方は、古くは花嫁を攫う為の手法として使われた、等と言う話もあり、抱えられた者が其処から抜け出す事が難しい。
何せ腹に力を入れようにも腹部が折り畳まれた状態で、膝は曲げられ、踏ん張りも利かないのだ。
由来については真偽の判らない事だが、スコールが幾ら暴れた所で、簡単に逃げられる訳もないのは確かだった。

クラウドの肩を掴んで腕を突っ張ったり、顎を押してみたりと奮闘するスコールだが、クラウドはけろりとしていた。
寧ろ、何処か微笑ましそうに魔晄の双眸が細められ、それに気付いたスコールが益々悔しくなる。


「くそ……」
「着いたら下ろすさ。それまで良い子にしていろ」
「子供扱いするな」


苦い表情で、最後の抵抗のように、スコールはクラウドのアシンメトリーに伸ばしたもみあげを引っ張る。
いたた、とクラウドが顔を顰めれば、ようやく幼い留飲が下がったようだ。

クラウドに全く下ろす気がない事、これ以上抵抗しても自分が疲れるだけだと悟ったか、スコールは一つ息を吐いて、体の力を抜いた。
クラウドの腕に感じる重力感が少しばかり増したが、気になる程でもない。
暴れてくれたお陰で楽なポジションから少しずれてしまった体勢を、クラウドは抱え直して整えてから、歩く足を再開させた。

規則正しい歩調のリズムに揺られながら、スコールはクラウドの肩に頭を乗せる。
歩かなくて良い事が楽であるのは事実だし、それなら利用させて貰おう、とようやく切り替えたのだろう。
肩を擽る柔らかい髪の感触を感じながら、クラウドは進む。


「痛みはどうだ?」
「……マシにはなった」
「次はちゃんとポーションを持って行った方が良いな」
「……ああ」
「まあ、俺はまた“これ”でも構わないが」


クラウドの言葉に、じろりと蒼が睨む。
絶対に御免だ、と言う音のない声を聞きながら、クラウドは傷のある額にキスをした。

真っ赤になって下ろせと再び叫び出したスコールを往なしつつ、やっぱりこの抱え方が正解だな、と思うのであった。





7月8日と言うことで、いちゃいちゃクラスコ。
戦闘中はどっちもそのスイッチが入ってるから、無茶するのもまあ仕方がない位の心構えだけど、終わったら甘やかしたいし大事にしたいクラウドでした。

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