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2012年02月

[絆]頑張れ、学生 2

  • 2012/02/20 19:05
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スコールからノートを借りて、暫く奮闘していたティーダだったが、やはり苦手な物は苦手であった。
30分の後(ティーダにして頑張った方だ)、ティーダはまた頭を抱えて呻き出した。



「ううぅ~……」
「……煩い、ティーダ。集中できない」
「ううー……」



止まない唸り声に、スコールの眉根を寄せる。
キッチンでコーヒーを淹れていたレオンは、スコールとは逆に眉尻を下げて苦笑していた。

ティーダはあああ……と悲愴な声を上げて、テーブルに突っ伏す。



「もう無理、やっぱ無理っス。頑張ったけどこれ以上は無理……」
「………」



溜息を吐いて、スコールがティーダを見た。
しばし無言で見詰めた後、諦めたように視線を手元に戻し、公式を解く手を再開させる。


レオンは、コーヒーと一緒に用意したジュースをトレイに乗せてキッチンに戻った。



「ほら、ティーダ」
「うぁ……あ~…ありがと…」
「スコールも飲め」
「……ありがとう」



テーブルに置かれた、搾りたての生のオレンジジュース。
シロップを適度に(ティーダの分は少し多めに)入れて混ぜたジュースは、程よい甘味と酸味になっていた。


ずー、と気力のない音を鳴らしながら、ティーダがジュースを飲む。

スコールは少しだけ口をつけると、直ぐに問題に意識を戻した。
自力で問題を解きつつ、教科書を捲って公式を確認し、自己採点をしている。



「うー……科学なんて嫌いっス…」
「お前、数学でも同じ事言ってただろ」
「……数字が嫌いなんスよ。見てるだけでやる気なくすしさ」



実験とかならまだ好きなんだけど、と言うティーダ。

公式云々とは違い、目に見えて変化が判るのが楽しい、と言うのは、スコールも同意する。
傍で聞いていたレオンも、くつくつと笑いながら「確かにそうだな」と頷いた。



「俺もうやる気出ないっス」
「俺がノート貸してるのにか」
「…いや、それは、そのー……頑張ります……」



じろりと睨むスコールに、ティーダは縮こまる。
折角の幼馴染の親切である、無碍にするような真似は許されまい。


ティーダは溜息を吐いて、テーブルに突っ伏していた体をのろのろと起こした。
仕方ない、もうちょっとだけ頑張ろう───そんな空気が滲んでいる。



「でもやっぱ、なんつーか……モチベーション上がらないっスね……」
「楽しい事でも考えながらやれ。ブリッツとか」
「ブリッツの事で頭一杯になるから、勉強なんか無理っス。ってか、ブリッツしたい!部活出来ないからストレス堪るんだよ」



バラムガーデンでは、テスト期間中の部活動は行われない事が通例となっていた。
理由は簡単、ティーダのように部活に夢中になってテスト勉強を疎かにする生徒がいる為だ。
学生の本分は勉強であるし、部活を真面目にやりたいのなら、勉強を真面目にやってからにしろ、と言う事だ。

スコールはどのクラブにも参加していないので、テスト期間であるからと、一日の予定が大きく変化する事はない。
しかしブリッツボール部に所属しているティーダにとっては、この期間は勉強だけでなく、ストレス及びブリッツ不足との戦いの日々でもあるのだ。


ブリッツしたい泳ぎたい。
テーブルの下でバタバタと足を暴れさせるティーダに、勉強の邪魔、とばかりにスコールが蹴りをお見舞いする。



「何すんだよ、スコール」
「お前が悪い」



唇を尖らせるティーダを、スコールが睨んだ。
剣呑さを増した弟の眦を見て、レオンが間に入る。



「落ち着け、スコール。ティーダももう少し静かにしろ」
「………」
「だってさー……」



俺は悪くない、と無言で訴える青灰色と、判り易く不満を訴えて来る青。
二つを向けられたレオンは、眉尻を下げてく苦笑する。



「ティーダ、モチベーションが上がらないなら、一つ良い事を教えてやる。ジェクトからの伝言だ」



何処が良い事?とばかりに、ティーダが眉間に皺寄せた。
それを気にせず、レオンは金色の髪をくしゃくしゃと撫で、



「今週末のテストで赤点を採らなかったら、欲しがってたゲームを買ってやる、だそうだ」
「……それマジ?」
「ああ。だから頑張れ。生憎、俺は教えてやれないが」



まあ無理だろうけどな────などと父が言っていたとは、言わない方が良いだろう、とレオンは電話越しに聞いた天邪鬼な父親を思い出して、此処までだと口を噤んだ。
が、流石に親子と言うべきか、レオンが噤んだ先の父の台詞は、しっかりティーダの頭の中で再生されていた。

がたん、とティーダが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、拳を握る。



「あのクソ親父!絶対ぎゃふんと言わせてやっからな!でもってゲームも絶対買わせてやる!」
「煩い。やる気が出たなら、早く座れ」



燃える闘志にスコールが冷水を浴びせたが、ティーダは鎮火しなかった。
先程までの無気力さは何処へやら、やる気十分!と言う表情で椅子に座る。

スコールはそれを冷めた目で見詰めて、ぽつりと呟いた。



「……即物的だな……」



ご褒美がかかっている、となれば、確かにやる気が出るかも知れないが、余りにも極端だろう、とスコールは思う。
そもそも、ご褒美云々がなくとも、普段から真面目にやっていればもう少しは……とスコールは考えるのだが、ティーダにそんな思考はないのである。

心なしか呆れた色を含んだ弟の呟きを聞いた兄は、くつくつと笑っていて。



「いいんじゃないか。やる気が出たなら、それに越した事はない」
「…そうかも知れないけど」
「折角だから、俺も何か考えようか」
「…考えるって、何を」
「決まってるだろう。ご褒美、だ」



くしゃ、とレオンの大きな手がスコールの頭を撫でる。

子供じゃないんだからいらない、と言いかけて、スコールは音を失った。
見下ろす兄の表情が、いつになく楽しそうに見えたから。



「そうだな。政経で平均点以上が採れたら、来月の休暇に何処か旅行に行くか」
「休暇なんてあるのか?」
「有給休暇が溜まっているらしくてな。消費してくれと泣きつかれた」



ああ、そんなのが一応あったんだ。
レオンがSEEDとなってから既に六年が経つが、スコールはそんなものがあったとは知らなかった。
それ程に、レオンは常に多忙なのである。

────となれば、絶対に政経のテストを落とす訳には行かない。
忙殺気味の兄を休ませる為にも。




スコールは改めて、試験に向けて勉強に励む事にした。






平均点なら余裕で採るよ、スコールは。レオンの裁定基準は甘すぎるのが普通です。
ジェクトもジェクトで、ティーダに「平均点ぐらい採れ」と言わない辺り甘いです。息子の成績について、若干諦めてるって所もあるけど……こんな言い方しないと、甘やかせないのです。親子でどっちも素直じゃないからね。

シアトリズム!

  • 2012/02/16 23:00
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発売おめでとー!
予約してたソフト届きましたー!
でも3DS持ってないからプレイできなーいww!!

明日(17日)は私の誕生日です。どうやら、母が3DS買ってくれそうな感じ。以前の3万する状態だったら厳しかったのですが、今は15000……うん、いいかなーな雰囲気です。よっしゃああああマジで感謝してますありがとおおおおおお!オタク卒業しない駄目な子供でごめんなさい!やる事ちゃんとやります、頑張ります。
母はゲームの事なんぞよく判らないので、買いに行く時は多分同行します。姉貴も多分一緒(音楽プレーヤー欲しいらしい)。アイスホワイトがあると良いんだけどなあ。思いっきり痛仕様にしたい。
母の仕事の都合&社員友人割引の為にもう暫くお預け状態ですが、大神伝をうっかり抱き枕と一緒に注文して、一ヶ月もだもだした事に比べれば……!あと、この際なんで今の内に零式の方を進めておこうと思います。ノロノロレベル上げして、いつの間にかナインがLV60です。他キャラも全員LV40まで叩き上げしました。シアトに夢中になる前にクリアしたい(と言って発売に間に合わなかったんだなー)。

シアトリズム!シアトリズム!楽しみー!

奮闘したバレンタインでした

  • 2012/02/14 22:46
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ファイル 57-1.jpgファイル 57-2.jpg

今日はバレンタインだったので、ザッハトルテ作りました~。コーティングで失敗したぜこんちくしょー。
バレンタインで各ジャンルのネタ粒投下したので、お暇な時にでも読んでやって下さい。

18cmホールのレシピでやったのに、20cmホールでぴったりの焼き上がりでした。何処で嵩増ししたんだろうか。メレンゲか。って事は卵か。
スポンジの量はともかく、生地は上手く焼けたんですが、コーティングはやっぱり難しい。ちゃんとテンパリングするべきだったとか、水あめの砂糖がちゃんと溶け切ってなくて(おまけに冷めちゃって)コーティング用のチョコがスポンジにかける間もなく速攻で固まり始めて大いに焦ったとか、反省点は色々あるんですが、一応形にはなりました。転写シートの音符が綺麗に写せなかったのは、初めてやった事だからって事で……今後また、その内。出来れば。
チョコレートはレシピ通りならビターを使う所ですが、自分がビターチョコが好きじゃないんで、全部普通のミルクチョコです。製菓用ですらない。って言うか製菓用なんか近所に売ってない。そんな訳で自分が作るお菓子と言うのは、今回のチョコケーキに限らず大体甘いんですが、家族には概ね好評でしたヾ(*´∀`*)ノ
生地の間に挟んだ生クリームがけっこー余ったので、明日明後日にでも生チョコ作る予定です。冷蔵庫の中が甘い匂いで一杯になるw

今週金曜日は自分の誕生日なのですが、誕生日ケーキは別で買って貰います。家族から「今日ケーキ食べたから、17日いいよね?」と言われましたが「これバレンタイン用で誕生日用と違う…」とワガママ言いました。「自分で作る?」とも言われましたが、もうそんな気力ないよ<丶´Д`>
今日はバレンタインだったからチョコレートケーキにしましたが、生クリーム一杯のスポンジケーキも大好きです。苺が多いと嬉しさ倍増(●´∀`●) かーさん宜しくお願いします。

誕生日の前に、シアトリズムが発売だー!!
……零式まだクリアしてねえ……!

[バツスコ]スウィート・モーニング

  • 2012/02/14 22:27
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バツスコでバレンタイン。現代パラレルで、どうやら同棲してるようです。



キッチンからの漂う、甘ったるい匂いで、目が覚めた。


甘いものは、食べられない訳ではないけれど、殊更に好きな訳ではない。
適度な糖分は頭の回転を助けてくれるし、疲労回復にも一役買ってくれるので、そう言う時には重宝するのだが、平時から理由もなく食べたくなる事は殆どなかった。
匂いなどはどちらかと言えば苦手な方で、あまりに強いと胸やけを起こす事もある。

そんなスコールにとって、寝室の開けっ放しのドアの向こう───のリビングの更に向こうにあるキッチンから漂ってくる匂いは、一種の拷問に近かった。


来たる学年末テストの為に、昨日も夜遅くまで勉強していた。
そして朝早くに恋人の賑やかな声に叩き起こされ、入らない朝食を半ば無理やり胃に詰め込んで、睡眠不足の所為であろう頭痛を抱えながら登校、と言う日々が最近繰り返されている。

今日もそれと同じなのだろう、と思っていたのだが、少々様子が違う事にスコールは気付いた。
窓の向こうは薄暗く、時計を見るとまだ午前5時で、恋人が朝食の準備をするにも早い時間だ。
おまけに漂ってくる甘い匂いは、朝食にするには────少なくとも、スコールにとっては────不適当なものだ。



(何やってるんだ、あいつは……)



睡魔は抜け切っていなかったが、甘ったるい匂いの中で、再度眠る気にはなれない。
砂糖の海で溺れる夢を見るよりも、何か企んでいるであろう恋人を殴る事を決めて、のろのろと起き上がる。


半開きだったドアを押し開けてリビングに出ると、その向こう、壁を間に挟んだキッチンの方からガチャガチャと言う煩い音がする。
その金属音も寝不足の頭に響いて来て、スコールの眉間の皺が深くなった。

取り敢えず殴ろう、と思いつつ、キッチンへと向かう。



「おい、バッツ」
「おっ?スコール、早いな゙っ!?」



シンクで一所懸命に何かを洗っていたバッツ。
呼んで、振り向いた瞬間に、スコールはその顔面に拳を打ち込んだ。

バッツの手からボウルやら泡だて器やらが落ちて、ガチャンガチャンキーンと言う音が響く。
此処のマンションの壁はそこそこ厚く、防音性も優れているが、それでも早朝にこの音は御法度だろう。
スコールは慌てて流しの中に転がった調理器具を拾い集める。



「バカ、煩い!」
「いや、スコールがいきなり殴るから…」
「あんたがこんな時間から妙なこと企んでるからだろう」
「別に企んでなんかいないぞ」



スコールの言葉に、バッツは拗ねたように頬を膨らませる。
その顔を見下ろして、やっぱりこいつが俺より年上なのは納得できない、と胸中で呟いたが、バッツはそんな事はお構いなしであった。
赤くなった鼻頭を摩りながら、おれって信用ないんだなあ、と余り気にした様子のない表情で零している。



「…それで。あんた、こんな朝早くから何してたんだ」
「何って、ケーキ作ろうと思ってさ」
「……ケーキ?」



反芻したスコールに、そう、とバッツは頷いた。

その傍らで、オーブンレンジが焼き上がりのメロディを奏でる。
バッツはいそいそとオーブンの蓋を開けて、中からハートの形をした型を取り出した。



「ほら、今日ってバレンタインだろ。だからチョコケーキ作ろうと思ってさ」
「……こんな時間から?」
「だって今日の大学の講義は外せないからさあ。昼間に時間がないんだよ」



だから、朝食を作る前に作っちゃおうと思って。
にっかりと笑って言ったバッツの思考が、スコールにはいまいち理解できない。
今日が無理なら明日でもいいだろう、と言うのがスコールの思考であった。

でもそれを言ったら、きっとバッツは、今日じゃないと駄目だ、と言うのだ。
先にバッツが言った通り、今日はバレンタインデーだから、チョコケーキは今日の日の為に作るものでなくてはならない。
……じゃあ昨日作って置けば良かっただろう、とまたスコールは思うのだけど。


─────その前に、バッツは根本的な問題がある事をすっかり失念しているらしい。
スコールは溜息一つを吐いて、溶かしたチョコレートと生クリームを混ぜているバッツを見て言った。



「バッツ」
「んー?」
「……俺、甘いものは」
「苦手なんだろ?大丈夫、知ってるよ」



言葉を先んじられて、だったらなんで、とスコールは眉根を寄せた。


食べられない訳ではないけれど、やはりスコールは甘いものは好まない。
そんな恋人を理解していながら、どうしてチョコレートケーキなんて甘そうなものを作るのか。
今も充満する甘い香りで気分が悪くなりそうなのに。

沈黙したスコールの不機嫌な空気を読み取ったか、バッツがボウルを抱えたままで振り返る。
褐色の瞳が此方を見た事に気付いて、スコールはす、と視線を逸らした。
バッツはそんな恋人の素っ気ない反応を見て、眉尻を下げて笑う。



「スコール、怒るなよ」
「……別に。怒ってない」
「そっか?じゃあ良かった」



良くはない、とスコールは思った。

怒ってはいないが、正直、気分は宜しくなかった。
主に甘ったるい匂いと、理解不能な恋人の所為で。


覗き込んでくるバッツから、スコールは更に視線を逸らす。
目を合わせようとしないスコールに、バッツはやはり気を悪くするような事はなく、寧ろ何処か微笑ましそうにしてもいて。



「大丈夫だって。チョコケーキはおれ用で、スコールには、ホットショコラ用意してるからさ。あれはスコール、嫌いじゃないだろ?」



ホットミルクにチョコレートを溶かして作るホットショコラは、以前、試験勉強に疲れたスコールの為に、バッツが作ってくれたものだった。
ビターチョコレートを溶かしたそれは、披露した心身にとても心地よく沁み込んで、以来、時折スコールがバッツに作って欲しいと頼む事もあるものだ。

こくんと小さく頷くスコールに、バッツはにかっと笑う。



「よし、決まり。授業終わったら、直ぐに帰って作っとくから、今夜は二人でチョコレートパーティしような!」
「……ケーキは、食べないぞ」
「判ってる判ってる。あ、でも、一個だけ頼み聞いて欲しいんだけど、いいか?」



頼み、と言う言葉に、スコールは判り易く眉間に顔を顰めた。
にこにこと嬉しそうなバッツの表情は、今までの経験からして、大抵スコールにとって禄でもない事を考えている時のものであったからだ。



「……取り敢えず聞くだけ、聞いておいてやる」



実行するかは別として、と小声で呟いたスコールに、バッツはにっかりとまた笑って、



「あ~んって、アレやって!」



ぴしり、とスコールが固まった。


“あ~ん”って、アレって、ひょっとしてアレか。
アレか、アレしかないよな。

ぐるぐるとスコールの頭の中で、テレビ等の恋人同士のベタベタシーンに使われる図が浮かぶ。
やって、って、つまり、と図の中の登場人物がすーっと入れ替わり、バッツがぱかりと口を開けて待っているのが浮かんだ、後で────にこにこと嬉しそうにチョコケーキの欠片を差し出す自分を想像して、胸やけを通り越して、さぶいぼに見舞われる。


引き攣った顔でフリーズしたスコールを見て、バッツがへにゃりと眉尻を下げる。



「あー……やっぱ、ダメ?」



あはは、と頭を掻いて笑いながら、まあダメ元だったしなーとバッツは言った。
そして彼は、「冗談だよ」「本気にするなよー」等と言って、ひらひらと手を振る。



────バッツはスキンシップが好きだ。
だから、何かとスコールに抱き着いたり、キスをしたり、若しくはキスして欲しいと言うのだが、スコールは大抵それを拒否している。
人の体温に不慣れなスコールには、例えば手を繋ぐとか、そんな些細な事さえも、非常にハードルが高い行為なのである。

バッツもそれは理解しているが、気持ちに真っ直ぐな彼は、自分の欲求にも正直だ。
人と触れ合う事も大好きだから、愛する恋人と一層のスキンシップを図りたいと思うのも無理はない。


思えばスコールは、バッツに対して、恋人らしい事をした事がなかった。
恋愛はおろか、人付き合いそのものに経験値が低いから、何が“恋人らしい事”なのかは判然としない。
けれど、テレビドラマで恋人同士の幸せそうなシーンを見る度、バッツが羨ましそうな顔をしたり、「いいなー」と(他意はないと思うが)言っているのはよく見ていた。

バッツがスコールに対し、目に見えてそれをやってくれ、と言った事はない。
欲求には正直だが、彼は決してスコールに自分の気持ちを強要したい訳ではないから、人付き合いにも温もりにも不慣れな恋人に、少しずつ慣れて行ってくれたらいい、と言って笑うのだ────ほんの少しだけ、寂しさを我慢する顔をして。



……それを考えたら、



「……別に、いい。それくらい」
「……へっ?」



間の抜けた声が聞こえた。
きっと顔も間の抜けたものになっているに違いない、確かめる事は出来ないけれど。

スコールはぽかんとしている恋人に背中を向けた。



「俺が食べるんじゃないなら、別に、いい」
「え?え?え、ほんと?」
「嫌ならいい」



吐き捨てるように言って、スコールは足早にキッチンを出た。
その背中に、キッチンから慌てた声が届く。



「嫌じゃない、嫌じゃないって!って言うかすげー嬉しい!スコールー!」



弾んだ声に返事をする気にならなくて、スコールはリビングを通り過ぎて、寝室に駆け戻った。
甘ったるい匂いと空気を遮断するように、バンッ!と大きな音を鳴らしてドアを閉める。

毛布の中に潜り込んで、冷たいベッドシーツに押し付けた頬がやけに熱くなって感じるのは、きっと気の所為だ。





ツンデレスコールにデレデレバッツ。
バッツはジョブマスターの腕をフルに活かして、「なんでもやってやるぜ!」って感じでスコールに色々作ってあげたりしたらいい。ついでに人付き合いも苦手なスコールに、色々吹き込んだらいい(そして後にヒルクラの刑で)。

[真神メンバー]チョコレート・フレンズ

  • 2012/02/14 16:30
  • Posted by
バレンタインです。皆仲良し真神メンバー。



京一は甘い物は好きではない。
食べられない、とまでは行かないが、出来れば口に入れたくない程度には、好んでいない方だった。

しかし、年に一度のこの日だけは話が違ってくる。



「蓬莱寺先輩ッ!」
「あ?」



グラウンドを通り抜ける最中、唐突に背中から声をかけられて、振り向いてみると、其処には見覚えのない女子生徒が一人。
先輩、と言ったからには恐らく後輩なのだろうが、生憎、京一にはまるで記憶にない少女であった。

長い黒髪を後ろで二つに括った少女は、沸騰しそうな程に赤い顔をしている。
頭から湯気出そうだな、とぼんやり思っていた京一の前で、少女はしばらくもじもじとしていた。
そんな少女から少し離れた所には、これまた見覚えのない少女が数名、必死に何事か口を動かしている。
口の動きを何とはなしに読み取って、「がんばれ!」「いけーッ!」と少女達が言っている事を知り、それが自分の目の前にいる少女へと向けられている事を知った。


少女は何かを堪えるように、への字に噤んでいた口を開いた。
それと同時に、背に隠していたものを京一に差し出す。



「こ、こここ、これッ、受け取って下さいッ!」



やっぱり沸騰しそうな顔のまま、そう言った少女の勢いに、京一が半身を引く。
が、直ぐに少女が差し出したものに気付いて、



「お、おお……サンキュ」
「い、いえッ!それじゃッ!失礼しますッ!」



少女の手から、綺麗にラッピングされた十センチ程の長方形の箱を受け取る。
すると少女は、どもりまくって挨拶をした後、一目散に友人達の下へ駆けて行った。
ほんの数メートルの道程を、足を絡ませて転びながら。

どんだけドジだ、と思いながらしばし少女を見送る格好になっていると、友人達と合流した少女が振り返り、ぺこりと頭を下げる。
京一はそれに対して特にリアクションはしなかったが、少女は構わず、友人達と───京一のいる場所を大きく迂回して───共に下駄箱に向かって消えた。


京一は、自分の手に収まった箱に視線を落とした。
箱にはリボンが取り付けられ、其処にハートのシールで『Happy Valentine』の文字。

……どうりでさっきから視線が痛い筈だ。
僻みと妬みが多量に混じったそれを浴びつつ、京一は思った。
それ以上は特に気にする事はなく、薄っぺらい鞄の中に箱を入れる。


────其処で、元気の良い声が響いた。



「さっすが、モテるわねー、京一は。やっぱり剣道部の主将って肩書きが効くのかしら」
「……ンだよ、アン子か」



ファインダーから此方を覗き込みながら言う遠野。
いつも通りにカメラを握っている彼女だが、その反対の手には、小さな袋が一杯に詰められた紙袋がある。



「なんだ、そりゃあ」
「何って、バレンタイン用のチョコよ。はい、これあんたの分ね」



言うなり、遠野は紙袋から小さな袋を一つ取出し、京一に差し出した。
京一は先程の少女を相手にした時と同じように、ハート型のチョコが詰まった袋を受け取り、また鞄に入れた。

じゃり、と砂を踏む音がして、二人が振り返ると、葵と小蒔の姿があった。



「おはよう、京一君、アン子ちゃん」
「おはよー、二人とも」
「ああ」
「おはよ」



短い反応の京一と、手を振って返事をする遠野と。
そんな二人に笑みを見せて、葵が鞄の中からラッピングされた箱を取り出す。



「はい、京一君。アン子ちゃんにも」
「おー」
「やった!ありがと美里ちゃん、絶対にお返しするからね!」



抱き着いて喜びを全身で表現する遠野に、葵がくすぐったそうに笑う。
その傍ら、ボクも貰ったんだ、と小蒔が手に持っていた箱を見せた。

京一はひらひらと箱を手の中で遊ばせつつ、嬉しそうに箱を見ている小蒔を見る。



「お前は渡す予定はねェのかよ」
「予定がないって言うか、忘れてたんだよね。何、欲しかったの?京一」
「バーカ。誰が男から貰って喜ぶか」
「誰が男だッ!」



噛み付いて来る小蒔を交わし、そうじゃなくてな、と京一は仕切り直す。



「身近に渡すような奴いねェのかって言ってんだ」
「弟達にはあげるよ。ああ、あとお父さんにも」
「……………」
「何さ?」



白い眼で見る京一に、小蒔が唇を尖らせる。
その傍ら、遠野と葵が顔を見合わせて肩を竦めていた事に、彼女は終ぞ気付かなかった。

────其処に、いつものメンバーの残り二人も合流する。



「おはよう」
「おはよう。早いな、皆」
「おう」



挨拶を終えると、醍醐が鞄の中からいそいそと何かを取り出す。
そして、まだ京一を睨んでいる小蒔に声をかけ、



「あ、あの、桜井さん」
「ん?どしたの、醍醐君」
「こ、これ、作ってみたんです。この時期でチョコも安かったし……その、良ければ、どうぞ」
「ホント?いいの?」



やった、と喜んで小蒔が醍醐から受け取ったのは、チョコレート生地の一口サイズのカップケーキ。
女子受けの良さそうな絵柄の入った透明袋に入れて、モールで蝶結びにしてラッピングしてあった。
カップケーキは一つ一つきちんとデコレーションもされていた。

ありがとう、と笑う小蒔を見て、醍醐の顔が崩れるのを、京一は白い眼で見ていた。
それに気付いた醍醐が、なんだ、とばかりに眦に力を込めるが、京一には効果はない。
寧ろ彼は更に呆れるばかりであった。



「お前、情けねェと思わねェのかよ。フツーはお前が貰うトコだろが」
「……別にいいんだ、俺は。桜井さんが喜んでくれるなら」
「あっそ。献身的っつーか、なんつーか」
「それより、ほら」
「あん?」



醍醐が差し出したものを反射的に受け取った後、京一は今日一番の胡乱な顔をして見せた。

其処にあったのは、小蒔と同じカップケーキ。
ただし、此方は少々形が崩れている。



「……ヤローに貰っても嬉しくねえし、気持ち悪ィ」
「俺だってお前にバレンタインプレゼントなんて気持ちが悪い。しかし、食べ物は無駄にする訳にはいかないからな。処理に付き合え」
「…………オレが甘ったるいモン好きじゃねえの知ってんだろ」
「じゃあ、僕が貰ってもいい?」



唐突に割り込んできた声に、醍醐が驚いたように目を瞠る。
京一の方は慣れたものだったから、振り返るついでにカップケーキを差し出した。



「ほらよ」
「ありがとう、京一」
「オレじゃなくて醍醐に言え」
「うん。醍醐君、ありがとう」



カップケーキを受け取った龍麻の言葉に、こっちこそ、と醍醐が眉尻を下げて言った。

京一と違い、龍麻は甘いものが好きだ。
いつもチョコだの苺系の菓子だのと持ち歩いているから、醍醐の作ったカップケーキも美味しく頂ける事だろう。
京一の方は────鞄の中に収まっているものを、果たして全部消費できるのか、正直、微妙な所だ。
それでも今日だけは甘味を拒否はするまい、男から渡される場合は別として。


さて、そろそろ教室に行かねば、始業のチャイムが鳴ってしまう。
めいめい賑やかにしている友人達を置いて行く形で、京一は一歩踏み出した。

─────その肩を、とんとん、と叩かれて引き留められる。



「あ?」



振り返れば、にこにこと上機嫌な相棒がいて、



「はい、あげる」
「んぁ?」




何が、と確認する間もなく、甘ったるいものが口の中に広がった。






うちの龍麻は京一の口に食べ物突っ込むの好きですね……
渡そうとしてるものが大体甘いものだから、普通にしても受け取らないんですよ、京一が。だから了解を待たずに突っ込む。

相変わらずうちの二人はナチュラルにラブラブ。友情でも恋愛でも。
…最近、自分で書いてて龍京なのか龍&京なのか判らない時がある。もういいか、どっちでも。どうせこいつらラブラブだから!

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