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2012年02月

[スコリノ]見えなくっても伝わるよ

  • 2012/02/14 01:26
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バレンタインでラブラブカップル。恋愛初心者なスコールがいます。



はいっ、と言って差し出されたそれを見て、スコールは眉間の皺を深くした。
それを見た目の前の少女は、にこにこと笑みを崩さないまま、スコールが差し出された物を受け取るのを待っている。


どうすればいいんだ。
どうするのが正しいんだ。

立ち尽くしたまま、スコールはぐるぐると頭の中で問い掛ける。
目の前の少女に、此処にはいない幼馴染達に、ガーデンで身に付けた自分自身の知識に。
けれど、声に出してはいないから、少女は何も答えてはくれないし、幼馴染達は此処にいないし、学んできた知識の中にこれに該当しそうな答えは見つかりそうにない。
そもそも、簡単に答えが見つかってくれるのなら、こうして立ち尽くす必要はない。



可愛らしいピンクの包装紙と、ラメ入りのリボンを結んだ、ハートの形をした大きな箱。
直径20センチ程のそれを、スコールはただただ、見下ろした。


どうすればいいんだ。
どうしたらいいんだ。

先程と同じことをもう一度考える。
目の前の少女は、やはりにこにこと笑っていて、スコールの反応を待っている。


そのまま、一分か二分か、たっぷり固まった後で、ようやくスコールは動いた。



「…………」



無言のままでハートを受け取る。
と、途端に少女───リノアは喜びを全身で表すようにスコールに抱き着いて来た。



「はっぴーはっぴーバレンタイン!ありがと、スコール!」
「……それは、俺の台詞なんじゃないのか」



はっぴー云々はともかく、ありがとう、は間違いなく自分の台詞の筈だ。
頬を撫でる、さらりとした黒髪に心地良さを覚えながら、スコールは思う。



バレンタインと言う今日のこの日のイベントを、恋人が逃す筈がないのは判っていた。

数日前からこそこそと(バレバレだったけれど)準備に勤しみ、セルフィやキスティスを捉まえては何かを仕切りに尋ねていたり、スコールの顔を見ては何かを想像してにこにこと嬉しそうに笑ったり、かと思ったらはっと何かに気付いたように蒼くなって悩みだしたり……とにかく、忙しなかった。
それを見て、そしてゼルやアーヴァインの遠回し(しかしこれもバレバレであった)なお節介のお陰で、スコールも来たる今日と言う日の意味を理解して、当日を迎えていた。


少し前のスコールなら、今日が“何”の日であるかなど気に留めず、そのまま流れてしまう事もあっただろう。
実際、ガーデンで過ごした今日と言う日は、殆どそうして過ぎて行ったと思う。
よくよく思い起こせば、教室の自分の席であったり、ロッカーだったり、所謂“個人スペース”と言われるような場所に何かが置いてあった事もあったかも知れないが、スコールにとっては大して重要な記憶ではなかった為か、G.Fの副作用とは別に、殆ど思い出す事は出来なくなっていた。

そうしたスコールの性格を知っているから、ゼルやアーヴァインもお節介を焼いたのだろう。
あの戦いの日々の後、多少はスコールの周りへの態度は緩和したものの、やはり根は内向的な性格であるし、人の感情の機微に疎い部分がある。
これが原因で、出逢って間もない頃は恋人と諍いを起こす事も少なくなかったので、幼馴染達は彼らが心安らかに───ひいては自分達に要らぬとばっちりが来ないように───過ごせるようにと、スコールとその恋人の周りであれこれ世話を焼くのである。



ともかく────そんな幼馴染達のお陰で、スコールは、リノアが持ってきたハート型の箱の意味も判っている。
それでいて、差し出された時に「どうしたらいいんだ」と考えたのは、何も受け取りたくなかったから、と言う訳ではない。
差し出された時、胸の奥が心なしか温かくなったのも事実である。

だから判らなかったのは、受け取るか突き返すか、と言う事ではなくて、



(……どうしたらいいんだ)



はぐはぐ~といつもの不思議な言の葉で懐いてくるリノア。
最近、ようやく慣れてきた触れる温もりに、心密かに甘えながら、スコールは眉間の皺を更に深くしていく。


どうすればいいんだ。
どうしたらいいんだ。

延々と頭の中で同じ言葉を繰り返して、問い続ける。


リノアはまだくっついたままだ。
だから、スコールから彼女の顔は見えなくて、と言う事は、リノアにもスコールの顔が見えないと言う事だ。
それにひっそり、スコールは安堵していた。

どうして安堵なんてするのか、それは、



(どういう顔、したらいいんだ)



嬉しい。
温かい。
柔らかい。

それを教えてくれる彼女のように、スコールは笑えない。
どういう風に笑えば、彼女のように、そんな気持ちを伝える事が出来るだろう。


判らないからスコールは、彼女の細い体を抱き締めて、



「おっ、おっ?スコール君、なんか甘えたい感じ?」
「……多分」
「いいよー、バレンタインだもん。一杯はぐはぐしてあげる」



首の後ろに回された彼女の腕に、きゅ、と力が篭る。




どんな顔をすればいいのか判らない。

だから言葉の代わりに、精一杯の“ありがとう”の気持ちを込めて、抱き締める。






スコリノかわいい。この二人は、お互いに甘え甘やかしての関係がいいなあ。
ラグナ語録を考えるのも難しいけど、リノア語録はもっと難しい……

[悟空総受]心知らずに罪はなし

  • 2012/02/14 01:25
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バレンタインで悟空総受。



街中から甘い匂いがする。
それに万年欠食児童の子供が、気付かない訳もなく。



「いいニオイする~」



甘ったるさにうんざりとした表情の三蔵の傍らで、悟空が涎を垂らしている。
だらしのない顔をした養い子にも呆れるが、それよりも三蔵には、漂う匂いの方が鬱陶しくて仕方がない。

三蔵は饅頭や葛きりなど甘味は好きだが、チョコレートのような洋菓子の匂いは好まない。
そんな彼にとって、この街中で漂う匂いは、拷問に等しかった。


あちこちから漂う匂いに誘われるように、悟空の足がふらふらと彷徨い出す。
それを悟浄が襟首を掴んで引き留め、しかし彼の紅い瞳もにやにやと笑みを浮かべていて、心なしか何かを期待しているような表情を浮かべている。
悟浄も三蔵と同じように甘いものは得意ではないのだが、年に一度、この日だけは別だ。


悟浄に襟首を掴まれたままの悟空が、微笑ましそうに眺めている八戒を見た。



「八戒、このニオイ、何?」
「チョコレートですよ」
「チョコ?」



八戒の言葉に、悟空の表情がぱっと弾む。

世界中の子供の多くが甘いものが好きである事に違わず、悟空も甘いものは大好物だ。
街中から漂う香りが、大好きな甘いものだと聞いて、心躍らない訳がない。


悟空は直ぐ様、保護者である三蔵の下に駆け寄る。



「さんぞ、さんぞー!」
「喧しい。静かにしてろ」



ぐいぐいと法衣を引っ張る悟空の要求は、三蔵には考えるまでもなく判ることだった。



「三蔵、チョコ食べたい!」
「ふざけんな。ンな無駄な金はない」
「えー!」



悟空は街中に響き渡るのではと思う程の大声で、保護者に不満を訴える。
不機嫌な最高僧はそれをすっぱり黙殺し、今日の宿屋を探すべく歩き出した。

一切の無視を決め込んだ背中を睨む子供。
それを遠目に眺めながら、悟浄と八戒は顔を見合わせて苦笑する。



「猿の事だから、知らねえだろうな」
「三蔵がわざわざ教える事もないでしょうし、ね」



肩を竦めた八戒の言葉に、悟浄も同意した。
二人が再び子供を見れば、それが真実である事を示すように、今一度保護者におねだりしようと駆け出している所だった。


─────もしも、悟空が今日と言う日の意味を知っているのなら、ああして保護者にチョコレートをねだる事もないだろう。
いや、今日と言う日の恩恵に(本来とは別の意味で)あやかろうと、結局はおねだりしたかも知れないが。

三蔵が今日と言う日を悟空に教えていなかった事は、特別、不思議な事ではない。
本人が神を信じていようがいまいが、彼が仏教徒である事、それに置いて最高位の人間である事は事実であるから、他宗教───八戒に言わせれば、これは宗教的な習慣とも異なるのだが───の行事など関係のない話だ。
そうでなくとも、世俗の浮付くような行事は、三蔵が基本的に嫌うものであった。
おまけに、子供が喜ぶような事となれば尚の事、後々の面倒臭さもあって、三蔵が養い子に知らぬ存ぜぬを貫くのも無理はない。


それで今までは問題なかった。
悟空だけでなく、三蔵も。

けれど、幼い子供の日々を終えて尚、未だに子供の域を脱しない悟空に、三蔵が苛立ちに似た感情を持て余しているのは、悟浄と八戒にとって明らかな事であった。


悟浄がにやりと口角を上げる。



「ま、いいんじゃね?三蔵様は甘いモン嫌いだし?」
「貴方も確かそうだったでしょう」
「今日だけは特別。甘いモン大かんげーい、って事で、おーい猿ー!」
「猿ってゆーな!」



悟浄が軽口で呼んでやれば、いつもの返事が跳んでくる。
そんな子供の反応に笑いながら、悟浄が悟空の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。



「付き合いの悪い野郎は放っといて、買い物行こうぜ」
「買い物?」



悟浄の言葉に、金瞳がきらりと輝く。

必要な物の買い出しを言い付けられた時、悟空は荷物持ちとしてついて行く事が多い。
小柄だが四人の中で一番力があるのは悟空だし、市場などで買い物をすると、見た目が幼い悟空は気風の良い店主に対してウケが良く、商品をおまけしてくれる事がよくあるのだ。
悟空としても、買い出しに行ったついでに、ご褒美として何某かを買って貰える事を密かに期待しているのだ。


ご褒美目当ての悟空にとって、一番ついて行って美味しいのは、悟浄だ。

財布の紐を握っており、且つ厳しい三蔵は、余程機嫌が良くなければワガママに付き合ってはくれない。
運が良ければ、安い食堂で食事にありつけるが、これはごくごく稀なケースである。
八戒の場合、三蔵よりも比較的ワガママを聞いて貰えるのだが、彼は金銭に関して非常にシビアな思考をしているので、タイミングが悪いと、ご褒美どころではなくなる。

それらに比べると、悟浄は非常にガードが甘い。
彼自身も、言い付けされた以外のものを買うので、気付いた時には言い付けられたものを忘れ、悟空とグルメツアー状態になる事も珍しくない。



きらきらと輝く悟空の眼を見て、悟浄は得意げに胸を張って見せる。



「折角だから、お前がさっきから食いたがってるモンも少しは買ってやるよ」
「ホント?チョコ食っていい?」
「後でちゃんと歯磨きするんですよ?」



八戒の言いつけに、悟空は大きく頷いて、諸手で喜んでいる。



「やった!早く行こ、行こ!……って、そうだ、三蔵」



勢い余って置いて行こうとしていた三蔵の事を思い出し、悟空が慌てて振り返る。
その時には、三蔵は既に遠い場所にいて、不機嫌オーラを背中で振り撒いている状態だった。

保護者の機嫌が最悪の状態である事を察して、呼び止めようとした悟空が凍り付く。



「なんかオレ、三蔵のこと怒らせた…?」
「さあ、どうでしょうねえ」



少しばかり不安そうに眉尻を下げる悟空の言葉に、八戒は曖昧に呟くに留めた。

遠ざかる金糸を見詰める金色の瞳に、微かに寂しさが灯る。
それを遮るように、悟浄が悟空の頭に腕を乗せて寄り掛かった。



「ほっとけ、ほっとけ。それよか、チョコ食いたいんだろ。早く行かねぇと、美味いモンは直ぐなくなるぜ」



悟浄の言葉に、悟空が「それはやだ!」と叫び、走り出す。
先ずは真正面にある洋菓子屋に突入する子供を、悟浄と八戒はのんびりと追い駆けた。




─────今日と言う日を知らない子供に、言葉もないのに察しろと言う方が無理なのだ。

矜持の高さが邪魔をして、自分が子供に、と言う事も出来ずにいて。
それでいて、余計な事をするなと言われても、同じ感情を持つ者として、わざわざ敵に塩を送る真似などする訳もあるまい。


不機嫌を通り越し、射殺すような視線で背中を刺されつつ、悟浄と八戒は思った。







バレンタインで久々悟空総受!
たまには三蔵に苦~い想いして貰おうと。三空の甘々を期待した方、すいませんでした。

[絆]レインドロップ 1

  • 2012/02/13 12:51
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ガーデンでの授業を終え、エルオーネが二人の弟と共に家に帰って間もなく、バラムの街には雨が降り始めた。
朝から空に曇が出ていた事は知っていたが、天気予報で『今日は雨が…』とは言っていなかった。
傘を持っていなかったエルオーネは、小さな弟達を濡らせる事にならなくて良かった、とほっと息を吐いた。


雨は時間が経つと共に、その足音を強めて行った。
最初はリビングでゲームをしてはしゃぐティーダとスコールの声に掻き消されていたのだが、少しずつ、キッチンで夕飯の下拵えをするエルオーネの耳に届くようになって来た。

刻んだ野菜を鍋に入れて、昆布出汁を取った水に入れて浸し置きし、シンクの片付けをして、エルオーネはキッチンを出た。



「また負けちゃった…」
「あいつは普通に『たたかう』使ったら、カウンターして来るんだよ。『まほう』でやっつけるんだ」



コントローラーを握ってしょんぼりするスコールと、得意げに攻略法を教えているティーダ。
楽しそうだな、と思いつつ、エルオーネは二人に声をかけた。



「スコール、ティーダ。洗濯物、片付けるから、手伝ってくれる?」
「うん」
「はーい」



スコールがゲームデータを保存して、ゲーム機の電源を落としたのを確認し、エルオーネは洗面所へ向かった。


洗面台の横に置いてある洗濯機は、蓋が横側についている。
これならスコールとティーダでも服を出し入れする事が出来るので、お手伝いも順調に捗るのだ。
スコールとティーダが交代で順番に服を取り出して、エルオーネが絡まりを解きながら籠に入れる。

全ての服を出し終わったら、バスルームに移して、取り付けの物干し竿に吊るして行く。
此処でもスコールとティーダは、交代でエルオーネに洗濯物を渡して行った。

空になった籠を元の位置に戻して、最後にバスルームの換気扇のスイッチを入れる。


これでよし、とエルオーネがバスルームのドアを閉めた時、くいくい、と小さな手がエルオーネのスカートを引っ張った。



「なぁに?スコール」



視線を落とすと、スコールがエルオーネを見上げている。
柔らかく笑んで訊ねると、スコールが洗面所の小さな窓に視線を移した。



「雨、一杯降ってるよ、お姉ちゃん」
「うん、そうだね」
「お兄ちゃん、傘持ってってないよ」



スコールの言葉に、エルオーネも、ああそうだ、と思い出す。


高等部になって授業時間が長くなったレオンは、まだガーデンに残っているが、時計を見ればそろそろ授業が終わる時間だ。
今日は珍しくアルバイトがないので、ひょっとしたら友人達とのんびり過ごすかも知れないが、過保護な兄の事だ、授業が終わったら直ぐに此方に帰ってくるだろう。
─────降りしきる雨が止むのを待たずに。

天気予報を信じて、エルオーネ達が傘を持って行ってなかったのだから、彼も持って行っていない。
仮に振ったとしても、直に止むだろうと思っていたのだが、今の様子を見る限り、雨雲はまだしばらくバラム上空に停滞するようだった。


ティーダも窓の外に視線を移す。
小さかった雨粒が、大きな水滴となって窓に残っていた。



「レオン、大丈夫かなあ……」
「お兄ちゃん……」



心配そうなブルーグレイとマリンブルーは、今にも泣き出しそうに見えた。
幾らいつも強くて頼りになる兄とは言っても、やはり心配になるのだ。

エルオーネは、二人の頭を優しく撫でて、膝を折って目線を合わせる。



「私、レオンに傘、届けに行くけど。スコールとティーダはどうする?」
「お兄ちゃんのお迎えするの?」
「うん、そう。二人は、お留守番してる?」
「お迎え行くー!」



ティーダが元気よく両手を上げて言った。
「スコールは?」とエルオーネが再度聞くと、「僕も」とスコールが言った。



「じゃあ、先に玄関に行って、長靴を履いてね。外に出ちゃ駄目よ?」
「うん」



エルオーネの言い付けに、スコールが頷く。

それから二人が揃って玄関に向かい、エルオーネは洗面所、リビング窓の施錠を確かめ、キッチンでは窓の施錠と火元をきちんとチェックする。
二階は今朝ガーデンに向かう時にレオンが確かめたから、きっと大丈夫だろう。


リビングと続きになっている玄関では、スコールとティーダが言いつけ通りにして待っていた。
早く早く、と急かすティーダを宥めながら、エルオーネは二人にレインコートを着せる。



「カエルさーん!」
「僕、ネコさん?」
「似合うよ、二人とも」



フードをかぶった二人の頭を撫でて、エルオーネは下駄箱横に立て掛けていた二本の傘を手に取った。

さあ、しゅっぱーつ。
エルオーネの明るい声に、二人も楽しそうに雨の世界へ踏み出した。





レインコート着たちびっ子は可愛い。

[絆]レインドロップ 2

  • 2012/02/13 12:49
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バラムの街に、色とりどりの花が咲いている。
それは右へ左へ進んで、それぞれの安らぎの家へと向かっていた。

その流れとは反対方向進んでいる花が一つと、その花の中を出たり入ったりしているカエルが一匹。
子猫は花の下にいて、花を咲かせた少女と手を繋いでいた。



「ティーダ、走ると転んじゃうよ」
「平気ー!」



エルオーネの言葉も構わずに、ティーダは雨に濡れた道をあちこち駆け回っている。
仕事帰りの大人とぶつかりそうになる度に、大人の方がおっとっととよろめいた。
それに気付かず駆け抜けてしまうティーダに代わって、エルオーネは何度も頭を下げ、スコールも一緒になってごめんなさいをする。

レオン、エルオーネ、スコール、そしてティーダの四人は、バラムでは有名な兄弟であった。
レオン達がまだクレイマー夫妻が経営していた孤児院にいた頃からの話である。
だから、擦れ違ったのが兄弟である事、雨ではしゃぐ無邪気な子供のやる事だからと、大人は皆許してくれた。
でも後できちんと叱らなきゃ、とエルオーネは駆け回るカエルを見て思う。


バラムのバス停留所に来ると、エルオーネは屋根の下に行って、傘を畳んだ。



「ふう……ちょっと肌寒くなって来たかな」



薄着の上に一枚羽織っているのだが、少し足りない気がして、エルオーネは二の腕を摩った。
それを見たスコールが、心配そうにエルオーネを見上げる。



「お姉ちゃん、寒い?僕の上着、貸してあげる」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。スコールが風邪ひいちゃうから、上着はスコールが着ていていいよ」



そう言って、安心させるようにエルオーネが笑うと、スコールも嬉しそうに笑顔を零す。


ぱしゃぱしゃと水が跳ねる音がする。
屋根の外で、ティーダが水溜りでステップして遊んでいた。

私もやったなぁ、なんて思いながら眺めていたら、つるん、とティーダがバランスを崩す。



「あっ」
「あ」



思わず声が漏れて、エルオーネとスコールの声が重なった。

ばちゃん、と一つ大きな水が跳ねて、ティーダが水溜りの真ん中で俯せに転んでいた。
エルオーネは傘を開いて、慌ててティーダの下に駆け寄る。



「ティーダ、大丈夫?」
「ティーダ」
「………うわああああああん!」



エルオーネとスコールの呼ぶ声に返って来たのは、盛大に泣く声だった。
大人達が何事かと振り返る中、エルオーネはティーダを起こして、屋根の下へと戻る。

閉じた傘を柱に立て掛けて、エルオーネはハンカチを取り出した。
ティーダはぐすぐすと泣いて、泥のついた顔を泥のついた手で拭こうとしている。
それを手で制して、エルオーネはハンカチでティーダの顔を丁寧に拭き取ってやった。



「ひっく…ひっ…エル姉ちゃーん……」
「冷たかったね、痛い所はない?」
「ひっく……うん……」
「痛いのない?ティーダ、ホントに痛いのない?」



心配そうに繰り返したのはスコールだ。
うん、とティーダがもう一度頷く。
良かったあ、とスコールも泣きそうだった顔を綻ばせた。


ぷしゅー、と音がして、停留所にバスが到着した。
スコールが其方を見て、ぱっと表情を変えて走り出す。



「お兄ちゃん!」



両手を広げて駆けていくスコールの先には、丁度バスから降りて来たばかりの兄の姿。

レオンは一瞬驚いた表情を見せた後で、すぐにそれを笑みへと変えた。
膝を曲げて、飛び込んできた弟を抱き留める。
塗れたレインコートから滴が移って、服が濡れてしまう事なんて、きっと彼にとってはごくごく些細な事に違いない。


エルオーネもティーダを連れてレオンの下へ急ぐ。



「お兄ちゃん、お帰りなさい」
「お帰り、レオン」
「ああ、ただいま。……ティーダ、どうしたんだ?」



まだ少し目元の赤いティーダを見て、レオンは先程とは違う意味で驚いた顔をした。
ティーダはごしごしと目を擦って、ころんだ、と言った。



「大丈夫か?」
「うん」



痛いのもない、と言うティーダに、レオンは「なら良かった」と笑って、ティーダの赤らんだ頬を撫でた。



「それにしても、どうしたんだ?お前達」
「どうって、レオン。こんな雨だもの。濡れちゃうと思って」



エルオーネが腕にかけていた大き目の傘を見せると、ああ、とようやく合点が行ったらしい。

弟達と違い、小さな子供ではないのだから、レオンがちょっとやそっとの事で体調を崩す事がないのは、エルオーネも判っているつもりだ。
しかし、万が一と言う事もあるし、兄は絶対に自分の体調不良を隠して、家事をして授業に出て、アルバイトもこなして……といつも通りに過ごそうとするに違いない。
それはエルオーネが嫌だった。



「あのね、お兄ちゃん。僕たち、お兄ちゃんのお迎えしに来たんだよ」
「レオンの傘、持って来たんだよ」
「ああ。ありがとう、スコール、ティーダ」



嬉しい事をしてくれる弟達に、レオンは唇を緩ませて、二人の頭を撫でる。
それから彼は立ち上がり、



「エルも、ありがとうな」



大きな手が、エルオーネの艶のある黒髪を撫でた。

もう小さな子供じゃないのに。
そう思いながら、エルオーネはくすぐったさで笑った。




花が二つ、並んで歩く。
子猫とカエルを、空から落ちる涙から隠して。






お兄ちゃん幸せ。子供のお迎えってなんか和むし、無性に嬉しい。
確り者のお姉ちゃんも、なんだかんだでお兄ちゃん子です。

拍手お返事(2月6日)

  • 2012/02/08 01:59
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