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2013年07月08日

[セフィレオ]夕闇

  • 2013/07/08 22:51
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此処しばらく、朝靄の空と夜空しか見ていなかった気がする。
城の奥深く、地下に存在する街のコンピューター室から出て、レオンは久しぶりに見た橙色の空を仰いで思った。

たまには陽の光に当たらないと、もっと根暗になっちゃうぞ、とユフィに言われた事を思い出す。
動物の生態に必要な要素の一つとして、光───出来れば自然光、つまり太陽光───に当たった方が良いと言うのは、レオンも理解できた。
しかし、「もっと根暗になる」とは、一体どういう意味だろう。
まるで今も根暗のようではないか……と思った後で、少なくとも自分が明るい性格をしていない事は確かだと思い出す。
無邪気で元気なユフィと比べられたら、根暗と言われても仕方がないかも知れない。

だが、朝と夜だけ外に出ているだけでも、此処数日はまだ良い方ではないだろうか。
以前は文字通り、城の地下に篭り切りと言う時期もあったし、街の外れに確保した自分の家にさえ帰らなかった。
眠る為だけに帰る家と、仕事場となった城との間を往復するだけでも、あの頃に比べればマシな筈だ。
それが五十歩百歩の違いであるとしても。

今日は予定よりも早めにするべき事が終わったので、夕刻の内に帰路についた。
レオンとしては、今回の作業が終わったついでに、前倒しで次の作業に入りたかったのだが、「後は俺がやるからお前は帰れ」とシドに制御室から蹴り出されてしまった。
締め出されてしまったのでは仕方がないと、レオンも今日はゆっくり休む事にして、シドの言葉に甘える事にした。
そのお陰で、久しぶりに夕暮れを見る事が出来たである。

────そのまま真っ直ぐ帰宅しても良かったのだが、レオンの足は街へは向かわなかった。

いつであったか、小さな勇者から聞いた話を思い出す。
此処とは違う他の世界で、とても綺麗な夕焼け空を見たのだと。
何処までも続く海の向こうに沈みゆくオレンジ色の太陽と、その光を受けて綺麗なシルエットを映し出す列車と線路。
光と影が海に移り込み、風で揺れた波の中できらきらと光っては消えてを繰り返す。
その光景がとても綺麗だったのだと、彼は言った。

レオンは城の崩れた外壁に登り、橙色に染まった世界を見た。
其処には何処までも続く海はなく、あるのは闇に染まった時の爪痕をあちこちに刻んだ、傷付いた街がある。
橙色に染まった空だけは遠く広く続いているけれど、少年が言っていたような景色は此処にはない。
嘗ては美しく、輝ける庭と呼ばれていたこの街や城も、今は見る影もなかった。
最初の頃に比べれば、大分復興が進んだ方だと思っていたレオンだったが、こうして俯瞰で街の全てを見渡すと、全てを取り戻すにはまだ長い時間が必要だと言う事が判る。


(直すだけじゃない。まだあちこちにいるハートレスや、ノーバディも退治しないと)


踵を返して、背にしていた城を見る。
外目には随分と落ち付いたように見える城だが、その周囲には闇の者達が蠢いている。
それらを全て駆逐し、街が以前の光景を取り戻すまで、街の復興は終わらないのだ。

レオンはじっと、夕焼け色に染まった城を見詰めていた。
此処でこうして景色を見詰めていた所で、何が変わる訳でもない。
今日はもう仕事として出来る事がないのだから、早く家に帰って休み、明日に備えるべきだと、頭では判っている。
だが、そんな思考とは裏腹に、もう少し此処にいたい────と言う意識が、レオンの足を引き留める。
随分と久しぶりに見る夕焼け空の中、自分以外の誰もいないこの世界の片隅に留まっていたい、と。

しかし、レオンは直ぐにそんな意識を持った事を後悔した。


「先客か」


暗い気配と共に、頭上から落ちて来た低い声。
誰だ、と、誰も知らない秘密基地を許可なく侵されたような気分で振り返ったレオンの目に、夕暮れの光を受けて柔らかに光るプラチナブロンドが映った。

腰までの長い銀色の髪と、レオンがよく知る男と似た碧色の瞳を持った男。
面は神が厳選を重ねて選んだかのように整っており、それ故に返って人形めいて見えた。
銀色の髪に黒衣の衣装がよく映えたが、それ以上にレオンの意識を奪ったのは、男の肩口から覗く漆黒の片翼だった。


「……あんたは、誰だ?いや、何、と聞いた方が正しいのか」


レオンの言葉に、男の口元がうっそりと笑みを浮かべる。

男はゆっくりと下りて来た。
片翼なのに危なげがないな、と思った後、そもそも片翼で飛べるものなのだろうか、とレオンは首を傾げる。
それから、自分がよく知る男も片翼で飛んでいたな、と思い出す。

レオンと男の距離は、5メートルはあるだろうか。
腰に提げた獲物に手をかけて、レオンはじっと男と動きを見詰める。
男は両腕をだらりと重力に従わせたまま、一見すると無防備と取れる格好だった。

碧眼がじっとレオンを見詰め、唇が薄く開かれる。


「あれのお気に入り、か」
(……あれ?)


何の事だ、とレオンは思ったが、問う事はしなかった。
踏み込むな、と本能的なブレーキが働いた事を、レオンは後になってから理解する。

一挙手一投足を見逃すまいと、僅かでも何かあれば直ぐに反応できるように身構えるレオンに、男は敵意のない証左とでも言うのか、目を伏せて言った。


「ただの通りすがりだ。気にするな」
「随分、変わった場所を通り道にしているんだな」


街を見下ろせるこの壁は、通りがかろうと思って通れる場所ではあるまい。
そんな場所にいるレオンに、この男は、頭上から声をかけて来たのだ。
変わり者の一言で済ませられるような出来事ではない。

だが、それもレオンは追及しなかった。
男の背から覗く漆黒の片翼を見れば、この男が常識的な物事の範疇に納められない事は直ぐに判る。
下手に藪を突いて蛇を出すのは御免だった。

それでも、男の同行を伺うように見詰める蒼灰色は逸らされない。
男はそれを気にする風もなく、それもそうだな、と肩を竦めた後、


「此処は眺めが良いからな」


男の碧眼が眼下の街へと向けられて、レオンも同じようにそれを追った。

大きな街と、美しい城。
その全て全視界で一望できる場所など、早々ない。
だからこそ、今の街の全てを目の当たりにする事が出来る。

“輝ける庭”と呼ばれた街も城も、今ではあの頃の面影を思い出させる事さえ難しい。
西の空に沈み行く太陽に照らされて、橙色に染められた街の中に、動きを止めた大型クレーンの細長い影がある。
それだけでレオンは、胸の奥が締め付けられるような気がして、時折、呼吸を忘れてしまう。
あの日、あの時の、自分の無力さが思い出されてしまうから。

目を逸らしても、何処を見ても、この場所からは街が見える。
夕焼け空に照らされた愛すべき故郷は、いつかの少年が語ってくれたような、きらきらとした表情を見せてはくれなかった。
それが見たくて此処に来た、と言う訳ではないけれど、気紛れなんて起こすものじゃないな、とレオンは思う。

夕焼けに照らされた街を見るのが苦しくなって、レオンは俯いた。
そうして見えた足下に、自分のものではない影が落ちる。


「何を思い煩っているのかは知らないが、少し無防備が過ぎるんじゃないのか」
「それはつまり、あんたは俺に危害を加える気があると言う事か?」


いつの間にか、男との距離が酷く近くなっている事に、レオンは気付いていた。
男への警戒心が解けた訳ではなかったが、可惜に身構えている必要はない────とレオンは思う。
若しもこの男が自分に危害を加えるつもりなら、最初に声をかけた時点で、彼はレオンに手をかけているだろう。
それ位に隙だらけな状態で、ぼんやりと佇んでいた事は、レオンも自覚している。

レオンの指摘に、男は少しの間考えるように沈黙した。
それから、ふ、と小さく笑い、


「危害を加えるつもりはないが、」
「……?」


コツリ、と硬い床を踏む音が鳴った。
それと同時に、レオンの視界に影だけではなく、男のブーツが映り込む。

近いな、とレオンは眉根を寄せた。
敵意らしいものがないので好きにさせていたが、何処の誰とも知れない、“何”かも判らないものに必要以上に近付かれるのは、余り落ち着かない。
離れろ、と言おうとして、レオンは顔を上げた。

しかし言葉は音にならず、柔らかなもので呼吸ごと塞がれる。


(──────なん、だ?)


一体何が起きているのか。

理解出来ずに固まったレオンの眼前で、オレンジ色を帯びた銀色が閃いて、自分が知っているものとよく似た碧眼が笑う。
それを見て我に返ったレオンが、咄嗟に握っていた剣を振り抜いた。


「物騒だな」
「貴様……っ!」


男を睨むレオンの頬は、夕焼けの朱色ではない赤で染まっていた。

薄らと濡れた感触の残る唇を、手の甲で乱暴に拭う。
最悪だ、と呟くレオンから逃れるように、男は外壁の外へと身を投げた。
ふわりと風を纏って宙に浮いた男を、レオンは愛剣を握り締めて睨む。


「そう怒るな。これ位の悪戯なら、可愛いものだろう」
「何処が可愛いんだ。貴様がどれだけ性質の悪い人間か、よく判った」
「だが、お前がいつもされている事と比べたら、軽いものだろう?」


────いつもされている事。
誰が、誰に。

問うまでもなく真っ先に浮かんだ顔に、レオンの顔に火が上る。
それを見た男が、一瞬驚いたように目を瞠った後、くつくつと笑い出した。


「其処まで入れ込んでいたとはな。少々驚いたが、面白い事になりそうだ」
「っ……おい!」


楽しそうに笑う声を微かに残して、男の姿は闇の影に溶けるように消える。
レオンの制止の声は、夜の色を宿し始めた空に虚しく響くだけだった。

再び一人になった外壁の上で、レオンは苦々しい表情を浮かべ、もう一度唇を手の甲で拭う。


(最悪だ)


気紛れに少年の言葉を思い出し、気紛れにこの場所に登った十数分前の自分を、レオンは後悔していた。
やはり気紛れなんてものは、碌なものを呼んで来ない。
いつもと違う行動は、滅多に取るものではないのだと、レオンは思った。




唇に残る感触を、妙に意識している自分がいた事には、気付かない振りをした。






7月8日なのでセフィレオ!

KH準拠のセフィレオは初めて書いたなあ。
そして、なんか知らんがセフィレオは不倫臭がする。

[セフィスコ]一本木の向こう側

  • 2013/07/08 22:44
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秩序の聖域から程近い場所に、小高い丘と、その上に一本の木が立っている。
見晴らしが良く、風通しも良いその木の下は、秩序の戦士達の束の間の休息場所として親しまれていた。
其処でのんびりと刀の手入れをしていたセフィロスの下に、秩序の賑やかし組二人がやって来たのは、五分前の事。

ふらりと行方を眩ませる仲間────スコールを探して、ジタンとバッツは聖域とその周辺を走り回っていた。
なんでも、今日はスコールと一緒にグルグ火山方面へ赴いて、素材集めをする予定だったのに、肝心のスコールの姿が見当たらないのだと言う。
折角三人で素材集め競争をしようと思っていたのに、と言うジタンとバッツに、セフィロスは無邪気なものだと小さく笑う。


「ちぇー。この間はスコールがぶっちぎりだったから、今度こそ勝とうと思ってたのに」
「不参加による不戦敗……にはしないんだな」
「それは前にやった事あるけど、ヒールクラッシュ食らったからもうやらない」


前科があったのか、とセフィロスはくつくつと笑う。
そんなセフィロスを挟んで、ジタンとバッツはきょろきょろと辺りを見回している。

此処に来るような気がしたんだけどなあ、とバッツが呟いて、見当たらない目当ての人物に、ジタンは宛が外れたと肩を竦めた。
これだけ探しても見付からないのなら、一人で探索に向かったのかも知れない。
またウォーリアと揉めるような事になっていないと良いけど、と言いながら、ジタンとバッツは丘を下っていった。

丘を降りた向こう、秩序の聖域と丘を隔てるように存在する森に二人の姿が消えて、セフィロスは手入れを終えた愛刀を手放し、


「行ったぞ」


振り返らずに言ったセフィロスの言葉の、数秒の後。
ザッ、と木の枝葉が音を慣らして、木の上から一人の少年が降りてきた────スコールである。


「……助かった」


スコールはジャケットや髪に絡まった葉を払い除けて、眉間に深い皺を寄せたままの表情で言った。
セフィロスはそれを見ないまま、気にするな、と言うようにひらりと左手を上げて見せる。

────此処に来ると思ったのに、と言うバッツの勘は当たっていた。
スコールが此処に来たのは、ジタンとバッツがやって来るほんの少し前の事。
何かから逃げるように丘を駆け上ってきたスコールを見た時、先客であったセフィロスは何事かと思ったのだが、「邪魔する」と言うごく短い断りをした後、セフィロスの反応を待たずに木に上った。
それから数分後、スコールを探しに来たジタンとバッツを見て、セフィロスは納得した。
スコールがこの丘に来たのは、ジタンとバッツによる素材収集合戦から逃げる為だったのだと。

画して無事にジタンとバッツから逃げ仰せたスコールは、ジタンとバッツが戻って行った方向をじっと見詰めていた。
向かえば秩序の聖域に戻れる方角だが、今行けばジタンとバッツに見つかるかも知れない。
何せ二人は非常に勘が良いので、理由もなく「ちょっと戻ってみよう」と言う提案をして引き返してくる可能性がある。


「あいつらに付き合う気がないのなら、もうしばらく此処にいた方が良いんじゃないか」


セフィロスの言葉に、スコールが視線を落として魔晄の瞳を見下ろした。
じっと睨むように見つめる蒼灰色を見返して、セフィロスは形の良い口許を緩め、


「たまには恋人同士、他愛のない語らいをするのも悪くはないと思うんだが、どうだ?」


薄く笑みを浮かべた男の言葉に、スコールはぱちり、と瞬きを一つ。
魔晄の瞳に映り混んだ少年の頬に、一気に朱色が上ったのはその直後だ。

真っ赤な顔ではくはくと無音の口を開閉させるスコールに、セフィロスはくつくつと笑う。
それを見たスコールの頬が、益々赤くなる。


「あんた…っ!からかってるのか!」
「いいや。可愛いなと思っただけだ」
「やっぱりからかってるだろう!」


常の落ち着き払った大人びた顔は何処へやら、噛み付かんばかりに声を荒げるスコールだが、セフィロスの表情は崩れない。
穏やかな笑みを浮かべたまま、じっと見詰めるセフィロスに、スコールは何か言おうとして、結局それ以上は何も音にならない。

怒りか、羞恥か、それとももっと別の何かか。
色々な感情をごちゃまぜにした表情で睨むスコールに、これは無理かもな、とセフィロスは思う。
滅多に訪れない二人きりの時間、のんびり共に過ごすのも良いだろうと思ったのだが、どうやら誘い方が悪かったらしい。
先日、同じような時間に恵まれた時、遠回しに誘った時には全く気付かれなかった為、今度は直接誘ってみようと思ったのだが────気難しい恋人の操縦方法は、そう簡単なものではないようだ。

さて、なんと言えば彼は応えてくれるのだろう、ともう一度考えていると、


「………」


じゃり、と土を踏む音して、セフィロスの視界に木漏れ日が差し込む。
その木洩れ日は、傍らに立っていた少年によって遮られていたものだった。

去って行く少年の姿は見えない。
当然だ、彼は立ち去る事なく、セフィロスが背にした木の裏側にいるのだから。
彼が其処に留まっている事は、隠さない気配が伝えてくれる。

これは予想外の事だったが、セフィロスにとっては嬉しい誤算だ。
気難しい恋人は、周囲に人の気配がなくとも、二人きりと言うだけで酷く緊張するらしく、“二人きり”である事を自覚した瞬間に逃げるように立ち去ってしまうのが常だった。
そんなスコールがこの場に留まってくれたと言う事は───ジタンやバッツに見付かりたくないと言う思いも少なからずあるのだろうが───、彼も少なからずセフィロスと二人で過ごす事を憎からず思ってくれていると言う事なのだろう。

しかし、セフィロスは思う。


「どうせなら、もう少し近付いてくれると良いんだが」
「……今も十分近いだろ」
「だが、この距離だと、私がお前に触れられない」


傍にいる事を赦してくれた事は嬉しいが、どうせなら触れ合いたい。
人前にいる時は、恥ずかしがって絶対に触れさせてくれないから、尚更。


「だからスコール、こっちに」
「誰が行くか!!」


ふざけるな、と幹の向こうから怒鳴られ、セフィロスはくつくつと笑う。
それが聞こえたのだろう、「笑うな!」と怒鳴られたが、セフィロスは笑う事を止めなかった。

一本木の向こうで、見た目よりもずっと幼い恋人は、果たしてどんな顔をしているのだろう。




腰を上げた英雄が、こっそりと幹の裏側を覗いて見れば、思った以上に赤くなった少年が蹲っていた。






7月8日と言う事で、セフィスコ!
英雄は恥ずかしい台詞をさらっと言って、スコールを真っ赤にさせてれば良い。

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