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2016年02月08日

[ヤシュスコ]この手が届く距離感で

  • 2016/02/08 23:10
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ヤ・シュトラ×スコールを目指してみた。

※14未プレイの為、ヤ・シュトラさんが偽物気味です。こう言う距離感だったら良いなと言う妄想。
ディシディアアーケードを意識しつつ、色々と捏造もしています。





魔法を“設置”すると言うのは、スコールの意識には存在しなかった概念だ。
そもそも、疑似魔法は威力も大したものではないので、戦闘の補佐には利用できても、直接的な戦力になるとは言い難い。
だから、個数として大量の魔力を補充し、ジャンクションとしてドーピング代わりに意識下でセットする事で、個人の身体能力を飛躍的に高めると言う使い方が生み出されたのではないだろうか。

こうした使い方が出来ると知る事が出来たのは、良い経験かも知れない。
この世界で体験した物事を、そのまま元の世界に持ち越せるかは判らないが、それが可能であれば、疑似魔法の更なる研究・発展にきっと役立つだろう。
────自分がそうした研究に触れられる人間なのか如何か、と言う疑問は、別として。

魔法を“設置”する戦士は、これまでにも存在していた。
混沌陣営に駒を置いている皇帝がそうで、彼は自身の身体能力の低さをカバーする為、魔法をトラップにして此方の足場を奪う戦法を得意としている。
ゴルベーザやエクスデスもそれに近い使い方をするが、最たるはやはり皇帝だろう。
それ以外にも魔法を使用する者は少なくないが、その多くは、アルティミシアのように放出させる形で魔法を使用していた。
秩序陣営はと言うと、ティナやルーネス、シャントットと言った魔法に秀でた面々はいるが、彼女らも放出させる形で魔法を使用する。
“設置”型の魔法の使用者は、今までいなかったのだ。

其処へ来て、新たな戦士の召喚である。
ネコ科の動物に似た、細い瞳孔を映す瞳と、頭の上に三角形の耳、更にはジタンと同じ尻尾を持っているその戦士は、ヤ・シュトラと言う名の女性であった。
召喚されたばかりとあって、彼女自身の記憶は余り確かではないが、断片的な記憶を元にした所によると、彼女はミコッテと言う種族であると言う。
彼女自身にとっては、自分の特徴は然して珍しく思われるほどのものではないらしく、彼女の世界では有り触れた種族なのだろう。

初めこそ、見慣れぬ世界と、虚ろな記憶に戸惑っていたヤ・シュトラであったが、馴染むのは案外と早かった。
神々の闘争に参戦し、打ち勝つ事が出来れば、元の世界に戻れると言う簡潔な説明も効いたのかも知れない。
彼女は早々に、この世界で自分が出来る事を確かめると、秩序の戦士達と共に、混沌の戦士との戦闘に備えて、自身の魔法の腕を磨き始めた。

元々は防御系の魔法が得意だと言うヤ・シュトラであったが、攻撃魔法も心得ている。
特に仲間達が感心したのは、他のメンバーでは殆ど使用する事が出来ない、魔法の“設置”技術だ。
構成させた魔力をその場に敷き、設置が完了すればその場を離れる事が出来る。
正しく、皇帝と同じ使い方が出来るのだ。
同様の戦い方を持つ人間が同陣営に現れたのは、秩序の戦士達にとって頼もしい事だった。
ヤ・シュトラは参戦から日が浅く、まだ混沌の戦士とも大きく衝突した事がない為、彼女の詳細は───絶対とは言い難いが───まだ敵陣営には知られていない筈。
今の内に、彼女にこの世界に慣れて貰うと同時に、“設置”される魔法への対策を学ぶべき、と言う意見が採用された。

まだこの世界に不慣れと言う事もあり、ヤ・シュトラを交えた特訓は、数日に一度と言う頻度だ。
回復に秀でた白魔法に特化した魔法使いは、平時でもその力を発揮させる機会が多い。
一度枯渇した魔力は、数日をかけなければ回復しない注意点もあり、いざという時の為にも、ティナ同様、ある程度の魔力は残して貰って置く必要もあった。

新戦力を交えた生活が、二ヶ月ほど経つと、彼女もこの世界の有り様に慣れてきた。
少しずつ訓練もハードさを増して行く傍ら、ヤ・シュトラもこの世界での自分の魔法の変化に気付いたらしい。
幾つかの魔法は使えず、代わりに制限の合った魔法が使えるようにもなっている、らしい。
前者は混沌の影響、前者は秩序の女神の影響だろうか。
深い研究については、その手の研究に意欲的なシャントットに委託する事にして、ヤ・シュトラは自身の自分の魔法の発展性を探っている。
そのお陰か、彼女の魔力が闘争の世界に馴染んだのか、召喚から目覚めた当初に比べると、彼女が扱える魔力量は日に日に成長して行き、今では十分な力を発揮できるようになった。

そんな彼女と、スコールが対戦したのは、今日で四回目の事だ。
ウォーリア・オブ・ライトやセシル等、生真面目な面々が彼女との特訓を希望する為、順番待ちでようやく得た訓練である。
前回の訓練で学んだ事を加味しながら、如何に立ち回って“設置”された魔法を回避、或いは利用するかを考えながら、次の手の為に地面を蹴る。
一足、二足と跳んで、一気に距離を詰めようとした時だった。
三足目の右足が地についた瞬間、スコールを囲む魔法陣が出現する。


「─────!」


しまった、と思った瞬間、眩しい熱球がスコールの周囲で弾け飛ぶ。
灼けるような閃光の中で、スコールは身を守る為に躯を丸めた。
ドンッ、と背後で弾けた衝撃が、スコールの背中を強く殴る。


「くっ……!」


唇を噛んで衝撃が消えるのを待っていると、程無くそれは訪れた。
まだ続きそうだったのに、と思って顔を上げると、木杖を持ったヤ・シュトラが二メートル先で立ち尽くしている。
彼女にとっては、自分を的に晒すだけの距離だった。

飛び掛かるのは容易だったが、スコールはそうしなかった。
彼女の仕掛けたトラップを踏んだ時点で、スコールの負けなのだ。


「良かった、誘われてくれて。引っ掛かってくれなかったら、私が危なかったわ」
「……っ」


移動する彼女を追って、距離を詰めようとしたのが失敗だった。
見事に罠へ誘導された事を悟って、スコールは舌を打つ。

片膝をついて、苦い表情を浮かべているスコールに、ヤ・シュトラが歩み寄る。
白い毛に覆われた尻尾が、ゆらゆらと揺れていた。
なんとなくその尻尾を目で追っているスコールの前に、ヤ・シュトラは片膝を追って、目線を合わせる。


「威力は抑えたつもりだったんだけど、大丈夫かしら」
「……問題ない」
「そう。でも、念の為、ね」


スコールの返事に頷きながら、ヤ・シュトラは右手をスコールへと翳した。
淡い光がヤ・シュトラの右手から生まれ、スコールの体を包み込む。


「大した怪我じゃない。あんた、魔力を無駄にするな」
「大した怪我じゃないんだもの。そんなに消費する事もないわ」


そっくり同じ言葉を返し、だから平気よ、と言いながら、ヤ・シュトラはスコールの体の傷を癒した。
白魔法に特化しているとあってか、治療の速度はティナやセシルよりも早い。

治療を終えると、ヤ・シュトラは満足したように立ち上がった。
訓練予定の時間はまだ余っていたが、共に走り回って疲労した状態だ。
少し休憩しましょう、と言うヤ・シュトラに、スコールも否やを唱えるつもりはない。

が、負けた悔しさの所為もあり、スコールはその場から素直に動く気にはなれず、その場に胡坐で座り込んだ。
ヤ・シュトラは数歩を歩いた所で、スコールの様子に気付き、踵を返す。


「どうしたの。何処か痛めた?」
「……別に。少し考え事がしたいだけだ」


スコールの言葉に、ヤ・シュトラは「……そう」とだけ言った。

彼女もあまり多弁ではないのか───ティナやライトニングと雑談している所を見るので、他者との会話には特に抵抗はないようだが───、余り他者の領域に踏み込んで来る事はない。
普段、ジタンやバッツと言った賑やかし組に囲まれているスコールだが、彼女くらいの距離感が丁度良いと思う。
あいつらも見習って欲しい、と思いつつ、スコールは今の特訓を振り返る。


(追い詰めたと思って踏み込むのが良くなかった。距離を詰めるに当たって、設置された魔法の位置に気を付けないと…)


トラップを警戒する余り、距離を取るのは、スコールには良策ではない。
近距離を持ち場とするスコールは、如何に相手との距離を詰めるかが肝である。
距離を詰めて罠を張る余裕を与えないのは当然として、問題なのは距離が開かされた場合だ。
これは皇帝やアルティミシアと言った、遠距離を維持しようとする敵に対しても、同じ課題である。
それだけに、ヤ・シュトラとの特訓はスコールにとってかなり有意義なものになるのだが────それはそれとして、負けるとやはり悔しいものがある。


(……負けたのはこれで何回目だ?負けた数の方が多いよな…)


ヤ・シュトラとの特訓が始まったばかりの頃は、スコールの方が有利である事が多かった。
彼女自身が、この世界での力の使い方に慣れていなかったからだろう。
度重なる仲間達との特訓を経て、叩き上げられるように戦力性を上げているのは間違いない。
対してスコールは、未だ彼女に対して有益となる一手が見付からず、着実に黒星を増やしていた。

味方に負けたからと言って、恨み言を零すつもりはないし、全ては自分の実力不足が原因だ。
悔しければ体を動かし、頭を動かすしか、打開の道はない。

それでも滲む歯痒さ誤魔化せず、スコールは立てた片膝に乗せた腕に、額を押し付けた。
零れる溜息は、現状を変えられない自分への苛立ちだ。
こうしていれば、ああしていれば或いは、と言う考えを、戦闘中に考えられなかった事が悔しくて堪らない。
そうして余裕を失くして行く自分にも、また苛立ちが募っていた。


(……頭を冷やさないと……)


残った時間で、もう一度特訓したいが、このままでは同じ結果になってしまう。
水でも浴びれば、文字通り冷えるだろうか、と思っていると、何かがスコールの頭に触れた。


「……!」
「あら」


反射反応に近い動きで、スコールが顔を上げると、細い瞳孔を移す瞳が目の前にあった。
ヤ・シュトラは顔を上げたスコールと目を合わせると、ぱちりと瞬きをした後、ふわりと笑う。


「こうすると、ティナやジタンは喜んでくれるのだけど。貴方は嫌いだった?」


そう言って、ヤ・シュトラはもう一度スコールの頭を撫でる。
細くしなやかな指が、濃茶色の髪の隙間をゆっくりと滑って行った。

口元に柔らかな弧を描き、猫に似た眦が眩しげに細められている。
撫でる手を払い除けるのは簡単な事だが、スコールの体は動かない。
バインドでもかけられたか、と思ったが、魔力の匂いはしないし、ヤ・シュトラは魔法を使う際に利用している杖を地面に置いている。
彼女は全くの無防備な状態で、小さな子供をあやすように、スコールの頭を撫でていた。


「今日はゆっくり休みましょう、スコール。気持ちが急いても、苦しい事が増えるだけよ」
「……そんな事、判ってる」
「そう。じゃあ、もう少しこのままね」


このまま休めと、ヤ・シュトラは言う。
彼女に頭を撫でられたままで。

跳ね除けるのは簡単だったが、スコールはその気が失せた。
もう勝手にしてくれ、と立てた膝に顔を伏せる。
ヤ・シュトラはそんなスコールに眉尻を下げて微笑み、手触りの良い濃茶色の髪を、ゆっくりと撫で続けていた。





12+2=14と8日でヤシュスコ書いてみた。
お姉さんキャラに頭を撫でられているスコールが好きです。

FF14は未プレイなので、ヤ・シュトラさんのキャラがこれでいいのかは判りません。こんなのだったら良いなと言う私の夢。

[フリスコ]その言の葉を聞くだけで

  • 2016/02/08 22:46
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鈍い鈍いと言われていても、それに多少なりとも自覚があろうとも、此処まで来れば嫌でも判る。
真っ赤になって「す」「…す、」「……す…っ!」等とどもり続けられていれば。



こうなる前から、感じ取ってはいたのだ。
赤い瞳とぶつかる度、真っ赤になって逸らされたり、かと思えば背中を見詰められていたり。
幼年の頃から訓練されているのだから、人の気配や視線には敏感な方だと思う。
じろじろと不躾な程に熱い視線を送られれば尚更で、気付くなと言う方が無理だろう。
その癖、熱視線を長らく放置する形になったのは、赤い瞳が抱く感情の正体が掴めなくて、掴めた後も何を返せば良いのか判らなくて、気付かない振りを続けるしかなかったからだ。

戸惑いが戸惑いを呼ぶように、此方からは目を合せないようにする事が増えた。
あちらもそれは感じ取っていたようで、嫌われているのかも知れない、と落ち込んだ事もあったと言う。
それはジタンとバッツが間に入る形で、あっちへこっちへと駆け回っている間に解決したようだが、スコールは詳しい事は聞いていない。
ただ、自分が知り得ない所で、ジタンとバッツに迷惑をかけていた事は理解出来たので、短い言葉で詫びた。
すると二人は「オレ達への詫びは良いから、ちょっと二人で話して来な?」と言ったのだ。

それからは─────とんとん拍子と言えば、そうだったのだろう。
あちらは既にそう言う感情を抱いていて、此方はよく判らなかったものの、その事に対して、然程悪い印象は抱いていなかった。
後々になって思い返すと、スコールが抱いていたのは、不慣れと無自覚から来る感情の芽生えへの不安だったのかも知れない。
慣れないものには回避行動を取ろうとする所為で、感情の正体を知らないまま、スコールは右往左往とするしかなく、その感情を呼び込む原因から逃げていたに過ぎない。
けれど、向き合ってしまえば、意外と簡単な事だった。
感情を隠せない赤い瞳が、明け透けに伝える心に、またしても戸惑いは生まれたが、それは決して嫌な感覚ではなかった。
その事に気付く頃には、スコールの内にも、彼と同じ感情が宿っていた。

─────が、話は其処まで。

お互いの気持ちが、お互いを向いている事は判った。
そうと言う話があった訳ではないが、互いの顔を見ていれば、それは判る───そう思う程に、二人の気持ちは真っ直ぐに向かい合い、交じり合っている。
だが、“其処まで”なのだ。
気持ちが交じり合っている事が判っていても、二人ともそれを口に出す事をしない。
共に多弁とは言い難い性格な上、片や究極の初心、片や対人スキルが赤点以下の組み合わせだ。
色の沙汰となれば尚更、容易に進む事はないだろうと、仲間達も予想してはいたが、此処までとは思わなかった。
何せ二人と来たら、目を合わせるだけで真っ赤になったり、そんな相手を見て嬉しそうに口元を綻ばせたり、ようやく二人きりになったと思ったら、隣合って座っているだけで幸せそうに顔を合わせたりと言う具合なのだ。
口付ける訳でもない、手を繋ぐ訳でもない、ただ相手が自分の傍にいてくれるだけで、満足だと言う表情で。

彼等が自分の気持ちをはっきりと口にしない理由については、仲間達も直ぐに察する事が出来た。
神々の闘争の世界と言う、不安定なこの世界に置いて、強い情は必ずしも良い物とは言えない。
特にスコールは、初めの頃、この世界で出逢った仲間達とは、遅かれ早かれ別れが来ると言う事もあって、頑なな態度を取っていた。
今ではその態度も軟化しているが、根底にある別れへの意識は拭えず、特別な繋がりを持つ事に強い忌避感を抱いているようだった。
それは二人の間で少なからず共感できる事なのか、どちらともなく、この感情は口にはするまいと、暗黙のルールになっていた。

だから彼等は、いつまで経っても、友達以上恋人未満の関係だ。
それを非難するつもりはないし、悪い事だと指摘する者はいない。
しかし、余りにも味気なくはないか、とも思う。
人と人との繋がりの形は多種多様で、何が間違いで何が正解とも言えないから、彼等が納得した上で今の関係を築いているのなら、それで良いのかも知れない。
だが、いつか別れてしまうからこそ、目の前に在る幸せを目一杯抱き締めても良いのではないか、とも思うのだ。



────そんな調子で、お節介な仲間達に背中を押されたのだろう。
真っ赤になって、がちがちと歯の根を鳴らしているフリオニールを見て、スコールはそう分析していた。

放って置いてくれたら良いのに。
真っ赤になってどもり続けているフリオニールを見ながら、頭の隅でそんな事を思う。
だが、お節介にはそれなりに理由がある事も判っているし、スコールの性格を理解している上で、仲間達がお節介を焼いている事も判るつもりだ。
以前ならそれを「余計なお世話だ」とはねつけたスコールだが、今は少し違う。
目の前の人物が、一杯一杯になりながら、それでも言おうとしている言葉が判るから、此処で背を向けたら、彼の気持ちにも背を向ける事になる。
それは嫌だ、と思う程に、スコールも目の前の人物に気持ちを傾けていた。


(……でも、いつまでこの状態でいればいいんだ?)


進軍の休憩として設けられた、僅かな時間の隙間。
いつの間にか、一人、また一人と席が外され、残されたのはスコールとフリオニールの二人。
仲間達がそれとなく気を遣ってくれた事は明らかであったが、だからと言って、甘い睦言を囁くような仲ではない。
仲間達からすれば、「何を今更!」と言うかも知れないが、それで良いのだとスコールは思っていた。

だが、フリオニールはそうではなかったらしい。

真っ赤になって、視線を忙しなく彷徨わせながら、「……話があるんだ」と言ったフリオニール。
深刻さを帯びた表情に、スコールが真っ先に考えたのは、現在の関係の終焉であった。
飽きられたか、とマイナスに思考が向いたのは、スコールの性格上、仕方のない事だ。
しかし、予想は覆され、フリオニールは“あの言葉”をスコールに告げようとしている。

……しているのだが、


「………ス、スコール……」
「………」
「………………」
「………」


スコールの名前を呼んでは、黙り込んで俯く。
そのまま視線を彷徨わせたり、何かに助けを求めるように後ろを振り返ったり。
フリオニールは、拳を握ったり解いたり、唇を開いては引き結び、えっと、その、とはっきりしない言の葉ばかりを繰り返している。

時折、スコールの名前を呼ぶのとは違うイントネーションで、「す、」と音を零す。
其処から先に続く言葉を、スコールも既に判っていた。
そんなスコールの前で、フリオニールは、何度目かの吐露に失敗して、また俯いている。


(……もう俺から言った方が良いのか?)


声をかけて来たのはフリオニールだったので、スコールは自分は受け止める側だと思っていた。
元々、こうした事に積極的な性格ではないし、自分の気持ちを口にする事に対し、上手く伝わる試しがないと言う思考もあって、己から口にする事はあるまいとも考えていた。

だが、此処までじれったい時間が続くと、流石にそろそろ待ち草臥れる。
目の前の人物が、どれ程の気持ちで「話がある」と言ったか、決して判らない訳ではない───自分だったら、呼び止める時点で止めてしまう自信がある───だけに、待とうと思ってはいたが、そろそろ忍耐力も限界だ。

あと一分待って、状況が変わらなければ、自分で言おう。
そう思って、ひっそりと胸中でカウントダウンを始めた時だった。


「スコール!」
「!」


いきなり強い声で名前を呼ばれて、思わず肩が跳ねた。
かと思ったら、ぐいっと強い力で腕を引っ張られ、固い胸にぶつかる。
背中に回された腕に力が篭ったと気付いた時には、彼の腕の中に閉じ込められていた。


「……好き、だ……っ!」
「……!」


絞り出すように紡がれた言葉が、耳元をくすぐって、鼓膜を震わせる。
途端、どくん、と心臓が大きく音を鳴らした。

抱き締める青年の顔は、スコールには見えない。
バンダナの隙間から覗く銀色が、陽の光を受けてきらきらと光っている。
尻尾のように伸びた後ろ髪が、戦闘の度に躍動するように踊るのを見るのが好きだった。
だが、今のスコールに、その綺麗な銀色を見詰める余裕はない。


(心を言葉で正確に表すなんて、無理だと思っていた)


人間の心は厄介で面倒で、複雑に折り重なって出来ている。
それを言葉で全てを現すのは非常に難しく、口にした傍から、これは意味が違う、と思う事も多い。
特にスコールはその感覚が顕著で、尚且つ、折り重なる自分の感情の形を綺麗に整える作業が苦手だった。
この考え方は、そのまま周囲の人間に対しても向けられており、使い手と受け取り手で齟齬が起きやすい事から、“他人の考えなんて判る訳がない”と言う結論にも行き着く理由となっている。

だが、今のフリオニールの言葉は、何よりも真っ直ぐに、彼の気持ちを表している。
その彼の心が、言葉のまま、真っ直ぐに自分に向けられている事が、無性に─────


(……嬉しい)


いつか別れてしまうのだから、要らない言葉だと思っていた。
聞けば、後の別れを想像して、辛くなるだけだと思っていた。
だから告げる必要はなく、聞く必要もないと、割り切っていた。

けれど、緊張の所為か、微かに震えながら紡がれた言葉は、とても温かいものだった。
たった二文字の言葉が、こんなにも心を満たしてくれるなんて、知らなかった。

銀の髪から覗く耳が、真っ赤になっている。
背中を抱き締める腕が震えているのが伝わって、スコールは微かに口元を緩め、


「……フリオニール」
「な、なんだ?」


名前を呼ぶと、フリオニールはがばっと顔を上げて、抱き締めていた体を離す。
赤い顔が蒼灰色に映り込み、スコールはその頬に、手袋を外した手で触れる。

赤い頬は、その色に違わず、熱かった。
その体温を確かめるように頬を撫でていると、フリオニールの顔が益々赤くなって行く。
このまま沸騰して倒れそうだな、と思いながら、スコールは小さく口を開き、



「俺も、あんたの事が─────」




たった二文字。
それを伝えるだけで、こんなにも。






2月8日と言う事で、フリスコの日!

告白させてみたら、じれったいったらありゃしない。
この後は正式にお付き合いが始まりますが、やっぱり進みは遅いと思います。
しばらくは意識し過ぎて逆に一緒にいられなくなったりするんじゃないかな。本当に手がかかる。

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