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User: k_ryuto

[クラスコ]エタニティ・リング

  • 2021/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


最初に誕生日祝いだと言ってプレゼントをくれたのは、友人のザックスだ。
いつも通りに出社して、今日配達の荷物を確認している所へ、一拍遅れて会社に到着した足で、そのまま渡しに来てくれた。
ファッションの類にまるで興味のない友人を慮って、良さそうな上着を見付けたんだよ、と言っていたザックス。
クラウドはそれを有り難く受け取ると、自分のロッカーの中へと納めておいた。

それを切っ掛けにしたように、他の友人たちからも祝いの品を貰った。
多くは今日がクラウドの誕生日である事に初めて気付いたようなものだったから、手持ちに愛用している飴玉だったり、社の冷蔵庫に常備している摘まめる駄菓子だったり。
だが女性社員は前々から準備してくれていたようで、女性社員一同から、と言う形で、ペンケースをくれた。
革製の黒い光沢のあるペンケースは、使い込む程に手に馴染んで行く事だろう。
長く使えるものを用意してくれた女性社員に感謝を述べて、クラウドはそれもロッカーの中へと仕舞った。

仕事は滞りなく片付ける事が出来、気分の良さも相俟ってか、一日は案外と早く終わった。
空を多く橙色に、ぼちぼち早くなり始めた宵闇が滲む頃に、クラウドは退勤のタイムスタンプを押す。
特にいつもと変わった事がある訳ではなかったが、それでも誕生日であるし、帰りにコンビニで酒でも買って帰ろうか。
そんな事を思いつつ、プレゼントを詰めた鞄を肩に担ぎ、会社を出ようとした所で、


「クラウド。例の子、来てるってさ」


事務方に今日の報告書を提出しようとしていたザックスに言われて、クラウドの胸が弾む。
大した距離でもないのだが、進む足が早くなったのは、自然な事だ。

社員用の通用口である裏口から出ると、外は大分暗くなり、街灯が煌々と点いている。
クラウドは駐車場に置いていた大型バイクを押して、敷地の外へと出た。
其処からほんの数メートル離れた場所で、一人の少年が電柱に寄り掛かっている。


「スコール」
「……お疲れ」
「ああ」


名前を呼べば、少年───スコールが顔を上げる。
今日を労ってくれるスコールの言葉に、クラウドは小さく頷いて、彼の傍へと近付く。


「塾は終わったのか」
「ん」


スコールは高校二年生で、この近くにある進学塾に通っている。
この案外と近い距離が縁で、二人は知り合い、今では深い仲へと発展していた。

スコールは電柱に預けていた背を放すと、クラウドを向き合って少し俯いた。
街灯に照らし出された大人びた顔立ちの中、噤まれていた小さな唇が、何度か開いて閉じてと繰り返す。
何かを言おうとして言葉を探している時の様子だと察して、クラウドはスコールが音を出す準備を整えるのを待った。

しばしの沈黙の後、スコールは肩にかけていた鞄を下ろし、中から小さな箱を取り出した。
掌に乗せていられるサイズの正方形のそれには、銀色のテープが飾られている。


「……これ。あんた、今日、誕生日だから…」


そう言って箱を差し出すスコールは、判り易くクラウドから目を逸らしている。
夕暮れがまだ僅かに届く中、耳が赤くなっているのを見付けて、くすりとクラウドの唇に笑みが滲む。


「ありがとう、スコール」
「……別に」


小さなプレゼントボックスを受け取り、感謝の言葉を告げれば、スコールは益々赤くなる。
素っ気ない言葉は彼の口癖のようなもので、それすらもクラウドは愛らしく思っていた。

箱はサイズの割には重さが感じられる。
銀色のテープには薄く刻印が施されており、クラウドが愛用しているアクセサリーのブランド名が記されていた。
ロックを外して蓋を開けてみれば、きらきらと一寸の穢れもない、銀色の狼を頂いたシルバーリングが納められている。
学生が手に入れるには少々根が張るものだった筈だ。
スコールが夏休みに入る前から、懇意にしている友人の紹介を頼り、アルバイトをしていた事は聞いている。
この為に、自分の為に頑張ってくれていたのかと思うと、クラウドは面映ゆくて仕方がない。

クラウドは視線を逸らしたままのスコールの肩を優しく捕まえると、そっぽを向き続ける赤らんだ頬にキスをした。
突然の事にスコールは一瞬固まった後、益々赤くなってクラウドの方を見る。


「あんた、何して……っ!」
「お前が可愛いことをしてくれたから、その礼だ」
「ば、かじゃないのか!」


恥ずかしさからだろう、飛び退こうと体を引くスコールだったが、クラウドの腕がそれを許さなかった。
しっかりとその肩を捕まえたまま、今度は唇にキスをする。


「ん、ん……っ!」


未だにスキンシップと言うものに慣れないスコールは、手を繋ぐだけでもぎこちない。
キスともなれば尚更で、ついつい体が緊張して硬直するのが癖になっていた。
そんなスコールの唇を柔く吸いながら、反射反応で逃げを打とうとする背中に腕を回し、しっかりと檻の中に閉じ込める。
うんうんと唸る声はしばらく続いていたが、絡め取った舌を吸ってやれば、ビクッと震えるのを最後に、あとはクラウドのされるがままだ。

たっぷりと恋人の愛しい唇を堪能して、クラウドはゆっくりとスコールを解放する。
濡れた桜色の唇から、はあ……っ、と熱の籠った吐息が漏れた。
スコールはそのまま一回、二回と息を吸って、足りなくなった酸素を補った後、相変わらず赤い顔でクラウドを睨む。


「……こんなとこで…やめろって言ってるのに」
「ああ、そうだったな。嬉しかったから我慢できなかった」


クラウドの言葉に、スコールは「やっぱりバカだ」と呟く。

クラウドはシルバーリングの入った箱を鞄の中に入れた。
家に帰ったら真っ先に取り出して、もっとじっくり見てみよう。
薄暗くなり始めた空の下でも、白銀の瞬きが美しかったのだから、明るい場所で見たらどんなにか。
その精巧さと、スコールが選んでくれたと言うことも含めて、きっとお気に入りの一つになるに違いない。

スコールが大通りの方に向かって歩き始めたので、クラウドもバイクを押して後を追う。


「高かったんじゃないか、あの指輪」
「……別に」
「アルバイトをしてたって」
「…もうやってない」
「楽しかったか?」
「……それなりに」


クラウドが投げかける言葉に、スコールの返す言葉は短い。
元々お互いに無口な方であるし、沈黙は苦ではない方だが、クラウドはスコールを構いたかった。


「よく買えたな」
「……足りて良かった」
「大事にするよ」
「……大袈裟だな」
「お前から貰った“指輪”だぞ?大事にしないと罰が当たる」
「だから、大袈裟だって言ってる。……ただの指輪だろ」


スコールの言葉は何処までも素っ気ない。
歩く足は心なしか速くなっていて、バイクを押すクラウドを置いて行こうとしているかのようだった。
それが彼の照れ隠しであると、クラウドは知っている。


「婚約指輪にしようか。あれ」
「……は?」


クラウドの台詞に、スコールは思わずと立ち止まり、振り返る。
ぽかんと丸くなった蒼い瞳が此方を見たので、クラウドが口角を上げて笑んでやると、またスコールの顔は沸騰して行く。


「た……ただの指輪だって、言ってるだろ!」
「俺にとっては特別だ。ああ、結婚指輪の方が良かったか。お前はまだ17歳だし、配慮したつもりだったんだが、野暮だったな」
「誰もそんな話してない!そんな馬鹿な事言ってるなら返せ!」
「それは断る。婚約破棄になるだろう」
「だから婚約じゃないって……!」


思わず声を大きくしていくスコールに、クラウドは笑みを浮かべた表情のまま、人差し指を立てて口元に当てる。
一応、この辺りには住宅もあるので、人の生活の気配もあるのだ。
あまり大きな声を出すと聞かれるぞ、と促してやれば、賢くて恥ずかしがり屋の少年は、赤い顔で唇をはくはくとさせるしか出来ない。

路地を抜けて通りが広くなると、ライトをつけた車が絶え間なく行き交っていた。


「さて……乗れ、スコール。家まで送るぞ」
「……」
「バイクの方が楽だろう?」


先の会話を引き摺ってか、恥ずかしそうに睨んで来るスコールに、クラウドはバイクの後部座席をぽんと叩いて促す。

スコールの家は、此処からは電車に乗る必要がある。
もう通い慣れたものではあるのだが、塾の終業時間が多くの会社の退勤時間と重なる事もあって、電車はいつも満員だ。
人混み嫌いのスコールはそれを嫌っており、クラウドはそれを理由にスコールをバイクに乗せて家まで送り届けていた。

座席を開けてスコールのヘルメットを取り出すと、代わりに二人の鞄が収納される。
クラウドがバイクのエンジンをかけて、良いぞ、と視線を投げると、スコールも慣れた様子でバイクを跨いだ。


「何処か寄りたい所はあるか?」
「……特にない」


買い物でもあるなら、と訊ねたクラウドだったが、スコールの返事はシンプルだった。
じゃあ直帰か、とエンジンを回す。

バイクが走り出し、スピードに乗るに連れて、クラウドに捕まるスコールの腕に力が籠って行く。
スコールは人と近付く事を、物理的にも精神的にも苦手としているが、クラウドのバイクに乗る事には随分と慣れてくれた。
背中に触れる温もりが、緊張していない事に気付いたのは、いつだっただろう。
カーブでバイクを傾ける時も、しっかりとタイミングを合わせてくれるようになって、クラウドはバイクに乗っている間、スコールと呼吸が一つになっているように思う。
その感覚がクラウドは心地良くて、一分一秒でも長く、この時間を味わっていたかった。

スコールは父子二人暮らしをしていて、そう言った環境故か、父は少々過保護気味だ。
クラウドもそれを知っているから、早い内に家に送り届けた方が良い、と言うことは判っている。
それでも今日は、今日だけはと、わざと遠回りの道を選んでも、背中の少年は何も言わなかった。


(そう言えば、スコールの誕生日も、もう直ぐだな)


あと十日と少し後で、スコールも18歳の誕生日を迎える。
今日のお返しも含めて何か用意しなくては───と考えて、直ぐにクラウドの頭に浮かんだのは、


(やっぱり、指輪かな)


スコールがクラウドにしてくれたように、彼が好きなブランドの中から、似合いそうな指輪を贈ろう。
指輪の交換だと言えば、またスコールは赤くなるのだろうか。
遠くはない日の事を想像しながら、背中の少年が少しでも喜んでくれるものを選ばねばと思った。





クラウド誕生日おめでとう!なクラスコ。

スコールとしては似合いそうだし、喜んでくれるだろうと思って選んだのが、偶々指輪だった。のだけど、クラウドがこんな事を言い出したから、自分の誕生日に指輪を渡されたら完全に意識してしまうんだと思います。

[レオン♀]花園の歌

  • 2021/08/08 22:20
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


待ち続けていた“勇者”は、随分と頼りなさそうな少年だった。
それに溜息が漏れないレオンではなかったが、勝手に色々と期待を膨らませていたのは此方であり、少年に非がある訳ではない。
邂逅に少々痛い目を見せる事になったのは、どうやらまだ彼自身が何も知らない事、判っていない事がありありと感じられた事と、口で説明する暇がなかったからだ。
子供相手に可哀想、と言う仲間達の言うことも判らないではなかったが、止むを得ないものであった事は理解して欲しい。

キーブレードの勇者として選ばれた少年の名は、ソラと言う。
彼も嘗てのレオン達と同様に、突然現れた闇に自分の故郷を奪われて、常夜の街トラヴァーズタウンへと流れ着いた。
どうやら彼には程無く次の行先が示され、鍵の力を使って外の世界へ向かう事が可能であると言う。
成り行きの中で道中を共にする事になった二人の仲間を連れて、ソラは行方の知れない友達を探すと言う目的も共に、世界へと旅立つ事になった。

────が、旅立った先で色々な出来事に巻き込まれる事もあり、また最初に彷徨っていたソラを保護して道を示した縁か、ソラは度々トラヴァーズタウンを訪れる。
旅に必要となる物や、シドを頼ってグミシップの素材類を調達する目的もあり、存外と頻繁に彼はレオン達の下へやって来た。
レオン達もそんなソラを支援するのは吝かではないので、街に滞在している間に宿泊場所を貸したり、まだまだ形に決まりきらないソラに戦い方を教えたりしている。
また、街に現れるハートレスの被害を抑える為に行っているパトロールにソラも参加してくれるようになり、鍵の力が影響しているのか、以前よりもハートレスが増える速度が遅くなっており、トラヴァーズタウンの人々の生活にも安心感が生まれるようになっていた。

二週間ぶりに街にやって来たソラが、新しく覚えた魔法の練習をしたいと言うので、レオンは彼と共にパトロールに出た。
雷の魔法をハートレスに当てながら、コントロール方法を体で覚えようとしているソラ。
どうにも理屈を頭に入れるよりも、実践で体感する事の方が彼には向いているらしい。
まだまだ扱い慣れない魔法である為、度々的を外してしまうのは、ご愛敬と言うことにして置こう。
ソラが撃ち漏らしてしまった敵が逃げ出すのを、レオンが追って切り捨てる、と言うコンビネーションでパトロールは続いた。

三番街を一通り周り、ソラの魔力も尽きて来た。
奥まった通路に屯していたハートレスの群れを片付けて最後にしようと、二人で路地に飛び込む。
一匹、二匹、三匹と、着実のその数を屠って行く最中────それは起こった。


「あ!レオン、そっち!」


ソラの頭上を飛び越えて、青年へと襲い掛かるハートレス。
ソラが声を上げたのにレオンは直ぐに反応し、ガンブレードを返す刀で振り薙いだ。
───ばちんっ!と言う音が響いたのは、その瞬間だ。


「!?」


何事、と目を瞠ったレオンの胸元に、ハートレスが飛び付いた。
温かくも冷たくもない黒い影だけで構成された物体が、レオンの胸にしがみ付いている。
虫が掴まっているような余り宜しくない感覚に、レオンは顔を顰めて腕を振るった。
払われたハートレスは呆気なく飛び逃げて行き、レオンは直ぐに追い駆けようとしたが、胸元にあるものが流動性を持って重石になったのを感じて姿勢を崩してしまう。

うりゃあ、と言う一声を上げて、ソラがキーブレードを振り下ろす。
ぱかぁん、と叩かれたハートレスの頭がスライムのように潰れた後、影はすっかり消えてしまった。
最後の一匹を倒したソラは、直ぐに踵を返して、立ち尽くしているレオンの下へ駆け寄る。


「レオン、大丈夫!?」
「……ああ。すまなかったな、ミスをした」
「良いよ、別に。……胸、どうかした?怪我した?」


胸元を片腕で抱えるように庇っているレオンを、ソラが心配そうに見つめる。
レオンは少年の瞳に見詰められ、少々苦い表情を浮かべると、


「怪我はない、だが、……ブラが壊れたみたいなんだ。悪いが、今日は此処までで良いか?」


そう言ってレオンは、胸元を隠していた腕を下ろす。
其処には、白いシャツを押し上げる豊乳が、彼女の仕草に合わせてたぷたぷと弾んでいた。



一番街にあるシドの店に戻った二人は、労いにエアリスが淹れた茶を貰った。
ソラは店の一角にあるソファに座って、グラスをちびちびと傾けている。
レオンはと言うと、二口程度で茶を飲み干してしまうと、店番をしていたエアリスとユフィを伴って、店舗の一階フロアにある道具屋に下りていた。

まだ幼い兄弟が三人で営んでいるこの道具屋は、傷薬から日用品まで、様々な商品が並べられる。
三番街に並んでいたブティック程ではないが、被服類も少ないながら仕入れられ、兄弟の商人としての逞しさが垣間見えるようだった。
トラヴァーズタウンは元々、二番街を宿場町、三番街を広場と商業施設が多く占めていたのだが、ハートレスが現れるようになった今では、店の多くが閉店休業状態である事もあって、余り利用する事が出来ない。
そんな中で日用雑貨類を幅広く揃えてくれるこの道具屋は、レオン達にとっても助かるものであった。

その道具屋の奥に、服の試着を求める客の為にと、手作りの小さなフィッティングルームがある。
天井から釘止めで吊るしたカーテンで仕切っただけの簡素なものだが、幼い店長兄弟が精一杯の努力で客の要望に応えようと手作りしたものだ。
等身大の姿見も傍に備えられているし、大人の手を借りない中で作ったことを思えば、上等なものだろう。
レオンは其処に入って上着とシャツを脱ぎ、ホックの壊れたブラジャーを外した。


「うーん……これを直すのは無理だな……」
「レオン、それ、壊れたんでしょう。前にしていたのも壊れちゃったって言ってたし、ひょっとして、サイズが合ってないんじゃないのかな」


カーテンの向こうから聞こえたエアリスの声に、ふむ、とレオンは外したブラジャーを眺める。


「……サイズか。確かに、少し窮屈な気はしていたが、洗濯の所為かと…」
「大きくなってるんじゃない?サイズ測ってみようか」
「えっ、レオンのおっぱい、また大きくなってんの?」


ばさっ、とカーテンの併せが捲られて、レオンは思わず「うわっ」と声を上げてしまう。
此処は幼馴染の面々と暮らす家ではなく、道具屋の中なのだ。
自分達の他にも客が来る事もあろうに、全く気にしない様子で試着室の仕切りを外されるなんて、事故でも起きたらどうするのかと、レオンは眦を吊り上げる。


「ユフィ、急に開けるな。人がいたらどうする気だ」
「ごめんごめん。それより、胸、また大きくなったって?」
「かも知れないという話だ」
「んん~……」


ユフィの視線がレオンの胸をじいっと見詰める。
女同士なので恥ずかしい事もないが、あまりじろじろと見つめられると、少々落ち着かない気分になってきて、レオンは体ごと明後日の方向へと胸を隠す。


「あっ。良いじゃん、見せてよ~」
「見てどうする気なんだ……」
「どうって事もないけど。あ、でもちょっと分けて欲しいのはある」
「……分けれるのなら分けたいけどな。重いし、肩が凝るし、邪魔になるし……」
「何それェ、厭味じゃん。あたしだってコレ欲しいのにー!」


呆れた様子のレオンの台詞に、ユフィは判り易く唇を尖らせると、がばっと勢いよくレオンの背中に飛び付いた。
そのままレオンの前側へと回した両手で、レオンの乳房を持ち上げる。
思いも寄らぬ年下の少女の行動に、レオンは目を白黒とさせた。


「おい、ユフィ!何をして、ちょ、あっ」
「ふあ~、柔らかい。良いなあ、このサイズ感」
「ん、こら、揉むな!」
「やっぱ結構重い。はー、こりゃ筋トレみたいなもんだね。大変そう」
「……判ったなら離してくれ」
「やだ。もうちょっと~」


レオンの下乳を支えるように掬うユフィの手が、むにむにと脂肪の膨らみを揉んでいる。
掴むように強い訳でもないので痛くないのはレオンにとって幸いだが、悪戯っ子はあまり好きにさせると調子に乗ってしまうのがパターンだ。
余計な事をしない内にと剥がしたいのだが、背中にぴったりとくっつかれていては、流石にレオンも難しい。
汗も掻いているから匂うだろうに、と思うと恥ずかしくなって来るのだが、ユフィはまるで気にする様子もなく、ほうほう、ふむふむ、と何かを確かめるような呟きを零しながら、丹念にレオンの胸を揉み続けた。


「ねー、どうやったらこんなに大きくなるの」
「…そう言われてもな。いつの間にか……」
「あー、いいなーいいなー!ねえ、分けてよぉ」


甘えるように言うユフィに、無茶を言うな、とレオンは呆れる。
中々離れないくっつき虫に、いつになったら満足してくれるかなと、最早諦念でされるがままになっていると、


「カーテン開けるよ、レオン」
「ああ」
「お邪魔します。ほら、ユフィ、ちょっと離れて。胸のサイズ、ちゃんと測らなくちゃ」


エアリスがカーテンを捲り、狭いフィッティングルームに入る。
下より一人ずつの試着が前提であるから、服の脱着に必要な最低限の面積しか確保されていないので、其処に三人も入れば窮屈だ。
しかしユフィはレオンから離れはしても、また此処から出る気にはならないらしい。
もうレオンもエアリスも気にする事はなく、バストサイズを測る準備を始める。

エアリスが巻き尺を伸ばして、レオンの胸のトップをアンダーを計測する。
それを終えると、エアリスは嫋やかな手でレオンの乳房を揉み、その感触を確かめながら言った。


「やっぱり、大きくなってるよ。成長期、かな?」
「もう25だぞ……」
「ソラが来たからとか」
「へえ~、母性に目覚めたみたいな?」
「馬鹿な事を言うなよ、ユフィ」
「冗談だよ。でも、やっぱ大きくなってんだねえ」
「そうだね。重さも前よりあるし、これじゃブラも合わなくなってる筈だよ」


エアリスの手がレオンの乳房を掬うように持ち上げる。
エアリス手に支えられた乳房に、ユフィの手が重ねられる。


「なんかちょっと張ってない?気の所為?」
「ん~……?」
「む、ん……?」


ユフィの指摘に、エアリスが真剣な面持ちを浮かべる。
エアリスは触れる肌の感触を確かめるように、両手でレオンの乳房を丹念に撫でたり、揉んでみたりと繰り返す。

むにゅ、もにゅ、とエアリスの指の動きに合わせ、形を変える柔らかな肉。
あまりにじっくりと揉まれて、レオンはむずむずとした感覚を覚えて来た。
乳の下にじんわりと汗がに滲むのを感じて、それそろ解放して欲しい、と切に思う。


「ん……、エアリス、まだか?」
「うーん……何処か悪いんだったら、お医者さんに行かなきゃだけど…」
「余りそう言う感覚はないな」
「じゃあ、平気かな。取り敢えず、一個上のサイズのブラ、探してくるね」
「ああ、頼む」
「いいなーいいなーー。あたしも成長期来ないかなー。分けてよレオン~」
「またそれか」


エアリスがフィッティングルームを出ると、残ったユフィがまたじゃれついて来た。
ユフィはレオンの胸の谷間に鼻頭を埋めながら、左右から挟むように胸に触れている。
自分の顔を挟み込む要領で胸を寄せ、滑らかな肌に頬を擦り合わせられて、レオンはくすぐったさに眉尻を下げる。

「開けるよー」と言う声がカーテンの向こうから聞こえ、併せが捲られる。
戻って来たエアリスの手には、これまでレオンが使っていたものと比べ、ワンサイズ上になったものが握られていた。
レオンがブラジャーを受け取ると、エアリスは「出て待ってようね」とユフィをレオンの胸から剥がしてフィッティングルームから連れ出す。

やっと落ち着いた、とレオンは一つ息を吐いて、ブラジャーを身に付ける。
サイズを一つ大きくしたお陰で、最近何かと感じていた、胸元の苦しさがない。


「どう?」
「ああ、良さそうだ。もう一つ持って来ておいて貰えるか、まとめて買うから」
「はーい」
「レオン、ちょっと見せてー。おっ、結構カワイイ」
「ユフィ、せめて俺が良いと言ってからそこを開けてくれ」


エアリスの返事と重ねるタイミングで声をかけながら、カーテンを捲るユフィ。
あはは、と笑って誤魔化すユフィに、レオンはやれれと溜息を一つ。

正しいサイズのブラジャーを身に付けたレオンを、ユフィはまた眺める。
綺麗にブラジャーに包まれ、支えられながら寄せられた胸は、真ん中に綺麗な谷間を作っていた。
その上にレオンがいつもの白いシャツを着込むと、胸に持ち上げられた布地が突っ張って横皺が浮かぶ。
首からかけたネックレスの銀色が、丁度その谷間の皺がある場所に乗っていた。

ブラジャーを持ってきたエアリスが、そのまま会計へと行こうとするレオンを引き留める。


「レオン、下着も買って置いた方が良いんじゃないかな」
「別にそっちは困ってないし、必要は……」
「揃えておいた方が可愛いよ。ユフィもそう思わない?」
「そりゃね~。困んなくても、やっぱりちょっとカッコ悪いよ。あたしだって一応合わせたの持ってるよ」
「……そう言うものか。まあ、こっちも消耗品だしな……」


どうせ遠かれ早かれ買うだろうと思うと、今の内にまとめて、と言う気にもなる。
その方がセットにして少しお得にもなる、と言うのもあって、レオンはエアリスに手を引かれて、もう一度下着売り場へと向かった。

────その頃、店舗二階では、未だに麦茶をちびちびと飲んでいるソラがいる。
来客が一服できるようにと備えられた椅子に座っている少年を、シドはカウンターの中から眺めていた。

シドの店とその階下にある三兄弟の道具屋は、階段一つで行き来が出来る。
日用雑貨の店と、細々とした生活用品の修理の両方を利用する客は多く、その往来の邪魔にならないようにと、階段元は封鎖しないように開けっ放しになっていた。
この為、上下のフロアで交わされる人々の会話は、意外と筒抜けになっていたりする。
それを知らないレオン達ではないのだが、人目を気にしなくてはならないような会話をする事もないし、特に気にせず話をしていた。
……初めてこの場に居合わせてしまった少年が、意識するしないに関わらず、耳を大きくしてしまう事など知りもせず。

ソラはようやく中身が半分以下まで減ったグラスを口から離して、煙草をく燻らせているシドを見る。


「……なあ、シド」
「なんだよ?」
「……レオン達、いつもあんななの?」
「まあな」


シドの返答に、ソラは「うあ~……」と鳴き声を上げて天井を仰ぐ。
シドは彼女達を育て、共に生活する過程ですっかり慣れてしまったが、まだまだ幼い少年にとって、階下で交わされた女性陣の会話は、存外と刺激が強いものだったらしい。

買い物を終えた三人が上階へと戻って来た時、ソラはソファにぐったりと突っ伏していた。
どうかしたのかと経緯を訪ねようとする女性三人に、シドは肩を竦めるに留めるのだった。





『何故かおっぱいを揉まれるレオンさん♀』のリクエストを頂きました。
あまりエッチな雰囲気ではなく、との事でしたので、健全に。健全?健全。

レオンさんのたわわなおっぱい揉みたい。
12歳のソラには、少々刺激が強かったようです。ブラが外れたってレオンが言った時から、つい意識してしまう位にはインパクトのある出来事だったんじゃないだろうか。
しかしレオン達にとっては、この頃のソラはまだまだ子供扱いな頃なので、その辺をあまり意識して注してはなかったんですなぁ。ガンバレソラ。

[ウォルスコ]素顔の貴方で

  • 2021/08/08 22:15
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


数学科準備室で、ウォーリアは明日の授業に使うプリントの作成をしていた。
教師と言う職業に就いてからかけるようになった伊達眼鏡に、打ち込まれる数字の羅列が反射して映り込んでいる。

夕暮れの色が強くなった空から降り注ぐ橙色の陽光は、随分と傾いた場所から注がれているようで、室内は少し暗い。
パソコンの画面が煌々としているので然して困る事はなかったが、ふと液晶画面から顔を挙げた時のコントラストの差に、目が疲労を訴える。
プリント作りはもう少しで終わりそうだが、このまま電気を点けないまま作業をし続けると言うのはどうか。
目の健康の為にも、電気位はつけたの方が良いか。
壁にあるスイッチ一つで電気は灯るのだから、その程度を横着するのもどうかと、ウォーリアはようやく思い至った。

ふう、と一つ息を吐いて、ウォーリアは眼鏡を外した。
視力に問題がある訳ではないので、一枚ガラスを挟んだ視界と言うのは未だに慣れないのだが、校内にいる限り、ウォーリアはそれを身に付けるようにしている。
それは今のウォーリアにとって、一つのけじめの為に用意した道具だった。

パソコンの横に置いていたケースから眼鏡拭きを取り出し、レンズを軽く拭いていると、コンコン、とノックの音が聞こえた。
眼鏡をかけ直している間に、「失礼します」と言う挨拶と共にドアが開く。
室内と同じように、オレンジ色を帯びた廊下を背景に、濃茶色の髪の少年────スコールが入って来る。


「今日期限だったアンケート、全員分回収して来ました」


スコール・レオンハートは、ウォーリアの担当するクラスのクラス委員をしている。
成績優秀で知られた優等生で、それを知っていた生徒達から、半ば祀り上げられる形で委員長へと推薦、そのまま決定した。
本人はそれを「推挙された」のではなく、「生贄にされた」と言って苦い表情を浮かべるが、根が真面目な彼は、委員長としての役割をきちんと果たしてくれる。

今日もスコールはその仕事を熟しており、両手に暮らす人数分のアンケートプリントを持っていた。
アンケートは、来年に本格化する将来への進路希望に関する調査だったのだが、まだ二年生と言うこともあってか、記入の遅い生徒はいるものであった。
まだ碌に決まってない、それを考えてもいない、中にはプリント自体なくした、なんて言う者も出て来る中で、スコールはなんとか期限内に全員分のプリント回収と言う任を果たしたようだ。
今日の今日まで記入していなかった、それ自体忘れていた者もいた中で、根気強く役割を担ってくれた少年に、ウォーリアは定型ながら心から労いを送る。


「ありがとう、スコール。ご苦労だった」
「……いえ。これ、何処に置けば良いですか」
「では、其処の棚の三番目に」


丁度スコールが立っている場所の右隣に、プリント等の紙類を収納している棚があった。
空いているスペースを指して言うと、スコールはプリント束の端を揃えて入れる。


「あと、世界史のガーランド先生から伝言です。来週月曜の課外授業に使うものが職員室に届いたので、回収を、と」
「ああ、判った」
「先生の机に置いてるそうです」
「了解した」


少年の言葉に応答を返しながら、ウォーリアはパソコンに向き直った。
電気を点けねばと思った所ではあったが、今席を立つ訳にはいかない。
密かなその自戒は、少年がこの部屋を出て行くまで続くものであった。

ドアの滑る音がして、静かに閉められる。
さて、と電気を点けるべくパソコンから顔を挙げたウォーリアだったが、閉じたドアの前に佇んでいる少年の影を見付けて、レンズの奥で微かに眉を潜めた。
カチャン、と言う金属の当たる音は、ドアの内鍵が閉められたものだ。
それが意味する所を悟って、ウォーリアが密に溜息を零す。

此方へと近付いて来る少年の気配を感じながら、ウォーリアはまたパソコンへと向き直っていた。
プリント作りを再開させれば、静かな教室の中に、キーボードを打つ音だけが木霊する。


「……先生」


呼ぶ声に、ウォーリアのキーボードを打つ手が止まった。
デスクの横に立ち尽くしている少年を見上げれば、じっと蒼の瞳が此方を見詰めて来る。
その瞳に滲む浮かぶ声に、ウォーリアは口を噤んだままを保っていたが、


「……ウォル」


二人だけの呼び名を口にしたスコールに、ウォーリアは目を伏せる。
それは、駄目だと言うことを少年に告げると同時に、自分を律する為に必要な時間でもあった。


「…学校にいる間は、“先生”と呼びなさい。そう言っただろう」
「……良いだろ、別に。どうせ誰もいないんだから」


窘めるウォーリアに対し、スコールは砕けた口調で言った。
基本的に教師に対しては、正した言葉を使うスコールでだが、“ウォーリア”に対しては別だ。
二人の関係が、密やかなながら”恋人”と言う関係であるが故に。

しかし、此処は数学科準備室で、二人きりであるとは言え、学校内である。
教師と生徒が特別な関係になっている事は、誰にも知られてはいけない。
それはスコールの立場と未来を守る為に、ウォーリアが彼を想って作った線引きだった。
スコールは賢い子供であるから、二人の関係が他者に知られればどうなるのか、判っていない訳ではないだろう。
しかし若さから来る無鉄砲、言い換えれば顧みないが故の強さか、スコールは度々これを越えようとしていた。


「誰もいなくても、だ。気を付けなさい」
「………」


教員としての距離を保って、注意と言う形で窘めるウォーリアに、スコールは判り易く唇を尖らせる。

平時は教職員を相手に、聞き分けの良い優等生然としているスコールだが、実は中々頑固で臍を曲げやすい性格であると知る者は少ない。
教員に対して反発的な態度を取っても、大した得にもならず、目を付けられて面倒が増えるから、大人しくしているだけだ。
だから気心の知れた人間の前だと、こんな表情もして見せる。
それは恋人としてスコールに信頼されている証であると、ウォーリアもそう思いはするのだが、かと言って甘い顔をしてはいけない。
この線引きは、万が一の不幸からスコールを守る為の、大切なけじめなのだから。

だが、ウォーリアはそのつもりでも、スコールはそれを良しとしていない。
徐に伸びたスコールの手が、ウォーリアの銀色の髪の端を滑る。
人差し指が甘えるようにその毛先に絡まって、目を逸らすウォーリアを咎めるようにくん、くん、と引っ張る感触があった。


「……」
「……ウォル」


甘えたがっている時の声だった。
何か嫌な事があったのか、それとも。
考えてみるウォーリアだったが、スコールはとても繊細だから、事件のような事がなくても、ふとした瞬間に不安に襲われる事があった。
そして一度巣食ってしまった感情は、まだ未熟な彼には自力で追い出す事が難しくて、縋るものを求めて恋人の温もりを欲しがる。

パソコンへと集中させようとしていた顔を挙げれば、じっと見下ろす蒼灰色とぶつかった。
ウォーリアの髪の毛で遊んでいた指が、服の端を摘まむ。
目線を合わせてしまうと、途端に消極的になってしまう少年のいじらしさが、ウォーリアには振り払えない。

ウォーリアは座っていた椅子を少しだけ引いた。
体とデスクの間に隙間が出来ると、スコールは其処に寄り掛かるようにして収まる。
膝上に乗った体重はウォーリアには軽いもので、スコールがまだまだ線の細い未熟な体をしている事がよく判った。
その背に腕を回して、落ちないようにと支えてやれば、近い位置にあるスコールの顔がウォーリアの顔を覗き込み、


「……これ、邪魔だな」


呟いたスコールの指が、ウォーリアの目元を庇うものに触れた。
する、と前髪を持ち上げるように外されて、ウォーリアの手が逃げるフレームを追う。


「返しなさい」
「嫌だ。あんたの顔がちゃんと見えない」
「スコール」
「…キスしてくれたら返す」


至近距離で大胆な事を言ってくれる、年下の恋人。
膝に乗せているだけでも、人に見られたら何を言われるかと言うのに、とウォーリアが眉根を寄せていると、スコールは少しバツの悪い表情を浮かべながら目を逸らし、


「……良いだろ、偶には。毎日あんたと顔を合わせてるのに、ずっと“生徒と先生”で我慢してる。そのご褒美くらい、寄越してくれたって」


────この線引きを言い出したのは、勿論、ウォーリアの方だ。
関係に付きまとうリスクはスコールも判っていたから、堂々と宣言できるような間柄ではない事も理解している。
だから学校にいる間は、と言うウォーリアのそれが、自分を想うが故の配慮である事も、ちゃんと受け止めているつもりだ。

けれど、スコールは本質的に寂しがり屋で不安性な所がある。
幸せを感じるほどにそれが崩壊した時の事が恐ろしくなり、その感情は自分で拭う事は難しい。
だから一層、恋人であるウォーリアの存在を確かめたくなるのだけれど、そんな時間を作るのもまた難しかった。
学校に行けば毎日顔を合わせる事が出来るのに、遣り取りはいつも淡泊なものだけで、特別な時間なんて幾らもない。
そうして募って行く不安や焦りが、時にこんな風に、無心にウォーリアを求める行動に現れるのだ。

じっと見詰め、求める蒼灰色の宝石の訴えに、ウォーリアは何度目かの溜息を洩らした。
それを見たスコールの眼に、また不安げな揺れが映るが、


「スコール」
「何────」


名を呼ばれて返事をしようとしたスコールの声が、中途半端に止まった。
一枚レンズから解放された、アイスブルーが真っ直ぐにスコールの眼を見詰めている。
どくん、と幼い熱を宿した心臓が跳ねて、スコールは息を詰まらせた。

ゆっくりと近付く、美術品のように整った顔に、スコールは瞬きすら忘れていた。
鼻先が掠め合ったのを感じて、あ、と小さな音が零れる。
食い入るように見つめる少年の唇は、無防備に薄く開いて、其処に触れる感触を待ち侘びていた。

───が、触れる感触があったのは、唇のほんの少し横。
ほんの一瞬、温かな感触が当たったかと思ったら、それはついと離れてしまった。


「此処までだ、スコール」
「……な……」


やはり引いた線引きは守るウォーリアの行動に、スコールの顔に一気に朱が浮かんだ。
期待していた自分が恥ずかしくて、やっぱり越えて来てはくれない恋人が腹立たしくて、……けれど触れた感触は暖かくて、彼の心の中は嵐のように騒がしい。
何を言わんとしているか、本人すらも判らない様子ではくはくと開閉する唇に、ウォーリアの指先が触れる。
その指先が名残を伝えるようにゆっくりと離れるから、スコールは結局、何も言う事が出来なくなる。

夕暮れの明りの所為だけではない、真っ赤になったスコールの顔を見詰め、ウォーリアはくすりと笑う。


「眼鏡を返して貰えないか。スコール」
「………」


嘆願するように言ったウォーリアを、スコールがじろりと睨む。
しかし、赤らんだ顔では凄みもなく、結局彼は、奪っていた眼鏡をウォーリアの手へと返してくれた。

ウォーリアが眼鏡をかけ直している間に、スコールは恋人の膝上から逃げてしまった。
離れた温もりに、こっそりと寂しさを覚えながら、しかし仕方がないとウォーリアは表情を隠す。
スコールは少しふらふらとした足取りで、廊下へと続くドアへと向かって行った。

そのまま出て行くかと思われたスコールの足は、ドアの前で一度止まる。


「……外で待ってる」
「遅くなるかも知れない」
「良い」


早く帰りなさい、とウォーリアが促す前に、スコールは言い切った。
背中越しに、一緒にいたい、と言う声が聞こえたのを、ウォーリアは聞いた。

ウォーリアがそれ以上に何かを言う前に、スコールは出て行った。
ぴしゃ、と仕舞ったドアを見詰めて、ウォーリアはひっそりと息を吐く。
それは溜息のようで、仕様がないと諦めにも受け入れにも似ていた。

ウォーリアは眼鏡を外し、パソコンの電源を切った。
プリントの作成はまだ途中だったが、やる事は自宅に戻ってからでも十分可能なのだ。
それよりも今は、本当にいつまでも待ち続けるつもりであろう少年を、早く迎えに行かなくてはいけない。
それは教員の責任として───ではなく、恋人を大切に想うが故の事であった。





『現パロのウォルスコ』のリクエストを頂きました。
設定はお任せして頂きましたので、教師×生徒でうまうましました。

伊達眼鏡かけたウォーリアが、それで意識の切り替えしてると良いなと思って。
でも案外その切り替えは緩々だったりして、なんだかんだスコールに甘いと良いなあ。でも一番の所には手を出さないから、スコールはやきもきしながらでも幸せだと良い。

[ウォルスコ]始まりの鼓動へ

  • 2021/08/08 22:10
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF
小説[黄金の色に映るもの]の前日譚





教員を目指すに当たり、その為の机上の勉強は勿論であるが、それ以上にも実際に人と向き合う事が大事だろうと、ウォーリアが大学教員である恩師から諭されたのは、昨年のこと。
人を導くことを考えるのならば、導くべき人とどう向かい合い、何を考えるべきか、それを知る事から始めるべきであると。
そう言われた時、カリキュラム上に上げられる勉学には時間を惜しまなかったが、確かに“人”と接した事はない、とウォーリアも自覚した。

ウォーリアの誠実な人柄は他者から大変好まれるもので、見目の美しさも手伝って、過去には(本人の知り得ぬ所で)ファンクラブもあった程だ。
しかし、彼自身は決して人嫌いではないものの、積極的に他者との交流を取る方でもなかった。
それに別段の理由があった訳ではなく、学生として、勉強を本分とした生活を送っている内に、そう言う風になっていただけの事。
だからこそウォーリアは中学、高校と生徒会長に推薦され、またそれも立派に勤め上げて来たし、その姿に感銘を受けてついて来る者も多かった。
そう言った場所からウォーリアの交流関係は広がって行き、一部は今も繋がり続けているのだが、それらを“ウォーリアの方から”求めたのかと言われると、其処は首を傾げるしか出来なかった。

だが、教師とになるのであれば、受け身ばかりでいる訳にもいかないだろう。
ウォーリアが向かい合うのは黒板ではなく、その黒板を見ている少年少女達なのだ。
彼等はそれぞれに違う世界と価値観を持ち、ウォーリアとは違う景色を見ながら、嘗てウォーリアが辿った道をそれぞれに歩いて行く。
その道の歩き方を彼等に教えるのが教師と言う役割なのだから、彼等に数々の道がある事を伝える為には、彼等と向き合い、並び、時に衝突しながら心を解し合う方法を知らなくてはならない。

そうして出逢ったのが、中学三年生のスコール・レオンハートなのだが、まだ教師の卵とも言えないウォーリアから見ても、彼は家庭教師など必要ないと言い切れるほどに優秀だった。
成績表を見ればそれは判り易い数字評価として並べられ、普通の高校を狙うのなら推薦入学でも十分に合格が取れるだろうと言える程。
目標としているのが難関と有名な進学校であった為、その手段は取れなかったそうだが、テストで優秀過ぎる結果を残しているのを見れば、何も心配はいらないだろうと思えた。

だが、彼に付きまとう問題は、単純な勉強への不安ではなかった。
元々が児童施設で育てられていたのが、最近になって父親が判り、迎えに来た事で彼は施設を出る事になった。
それからはぎこちないながらも父子二人の生活が始まったのだが、思春期には聊か厳しくも思える環境の変化に加え、引き取られた際に転入した学校での環境が更に良くなかった。
環境の変化の連続で、繊細ながらそれを表に出さないように寡黙に過ごしていたスコールの態度を、教員の多くが悪い意味で受け取ってしまったようで、彼と教師たちの間には強い軋轢が起きていた。
出自を理由に偏見を持つ者も多く、生徒間でも孤立し、それを出逢って間もない父親に相談する事も難しく────彼は孤独の中で過ごしていた。
父親は息子の違和感には気付いていたが、踏み込もうにも息子の方から拒否の意思が遠回しに示された事で、差し出す手を彷徨わせてしまう。
こうした環境が齎す負のスパイラルが、元々繊細であった彼の精神を更に摩耗させ、人間不信にも陥っていた。
そんな息子をなんとか助けられないかと、彼の父がウォーリアの恩師に相談したのが、二人を繋ぐ切っ掛けになった。

人と向き合う事は教師を目指す者として大事なこと───とは言え、余りにも少年の背景事情が複雑で、話を聞いた時には自分では力不足ではないかとウォーリアも思った。
一度は恩師にも伝えたが、恩師はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、「貴方なら」と告げたのみ。
その言葉の真意は未だにウォーリアにも判らないが、少年と向き合う者として、恩師が自分を挙げた事には確かな意味があるのだろうと思う。
それを知る為と、恩師への信頼に応える為、……そして何より、初めて会った時、冷たく閃いた蒼い瞳の奥に、小さな子供が泣き出しそうな光を見付けたのが放っておけなくなって、ウォーリアは彼と向き合い続けようと決めたのだった。

────それが今から、四ヵ月ほど前のこと。
スコールが中学二年生か三年生へと上がる、春休み中に、ウォーリアは彼と初めて顔を合わせた。
その時からスコールはウォーリアに対して厳しい態度を取っており、三年生の最初の中間テストの時には、その結果をウォーリアに見せて、「あんたの指導は必要ない」とも言った。
それでもウォーリアは彼の家庭教師として、僅かに在る失点やケアレスミスなどを見付けると、その失敗の理由などを確かめ、注意すべきポイントとして指導した。

今でもコールのウォーリアへの態度は素っ気ないものである。
ただ、勉強について、ウォーリアが指導しようとすると、彼は案外と大人しくそれを聞いている。
口元は不満そうに尖ってはいるが、ウォーリアの言葉を遮る事はしなかったし、例題を作って出せば、文句を言わずにそれを解いて返してくる。
だからウォーリアは、向けられる態度がどんなに厳しいものであっても、彼はとても真面目な少年であると言うことを感じ取っていた。
実際、ウォーリアが来ると判っている日に彼がサボタージュ的な行動をとる事はないし、必ず家にいて、家庭教師の到着を待っている。
その時には勉強道具もしっかり出し並べており、前日に出した宿題のプリントも綺麗に並べて、ウォーリアが来れば直ぐに確認が出来るように整えられていた。

そんなスコールが、今日は様子が違っていた。


「スコール?」


通い慣れるものになったマンションの一室、父子二人が暮らすその部屋の奥。
一番日当たりの良い場所だからと、父親から奨められたので使う事にしたと言う、スコールの部屋。
その角隅に据えられたベッドの上に、制服姿のままで蹲っている少年がいる。

これは一体、とウォーリアが後ろを見遣れば、其処には眉尻を下げたスコールの父親───ラグナが立っている。
ラグナはがりがりと頭を掻いて、息子には聞こえないようにと、部屋を出てから小さな声で話し始めた。


「今日、期末試験の答案が戻って来たんだけどさ」
「はい」
「その結果が、なんて言うか……良くなかったんだよ。言っちゃうと、ボロボロって言うか。無理もなかったんだけど」


ラグナの言葉に、ふむ、とウォーリアは考える。

春の中間テスト、そして先日の期末テストに限らず、スコールはテストや試験と名の付くものに敏感な傾向があった。
特に期末試験の時には、苦手な科目に苦手な範囲の問題が多量にあったようで、終わってからも自己採点を繰り返しては暗い表情をしていたように思う。
中学三年生になった今、一つ一つの成績評価が、本番の受験にも影響し得るから、強く意識せざるを得ないのは理解できる。
そんなスコールにとって、テスト結果が悪かったと言うのは、確かに落ち込む事にもなるのだろうが、


「無理もなかった、と言うのは?」


ウォーリアが訊ねると、ラグナは苦い表情を浮かべ、


「当日って言うか、本番直前になって、高熱が出たんだ。学校に行ってからの事だったもんだから、帰る訳にはいかないって、そのまま受けたみたいなんだけど……」
「突然の発熱であったと」
「うん。なんか、昔からそう言う所はあったみたいなんだ。本番になると緊張とか不安とか、そう言うのでぐるぐるなっちまって、失敗しちまうって言うの」


ラグナの言葉に、成程、とウォーリアも納得した。
苦手科目、苦手範囲、更に言えばその教科の際、監督するのがスコールを目の仇にしていた教員でもあったとか。
どうやらスコールは、心因的な負荷にかなり弱い所があるようで、それを処理し切れずに臨んだテストで、体が拒否反応を起こしたのではないだろうか。
それでも無理を押して頑張ったのに、テスト結果が報われなかったと言うのは、スコールにとっては踏んだり蹴ったりと言うものだろう。

ラグナは更に続ける。


「本番でやっちまう事があるって言うのは、本人も気にしてるから、気を付けてはいたみたいなんだけど、そう言うのって、ほら、なんともないようにしようって思う程、余計に意識しちまってガチガチになっちゃうだろ?多分、熱が出たのもその所為だったんだと思う」
「……そのようですね」
「俺は、結果がどんなだったって、頑張ったんだから十分だと思うんだけど、スコール自身はそれで済ませられないもんだからさ。励ましてやりたいけど、俺、煩いって言われちゃってさ。あんまりそう言う事は言わない子だから、ああこりゃ堪えてるんだなあって」
「……」


参った、と言う表情を浮かべるラグナ。
ウォーリアは閉じたドアの向こうを見て、其処で蹲っている少年の姿を思い出していた。

あの様子では、今日のウォーリアとの授業に身を入れるのは無理だろう。
丸くなった背中は、周りの干渉の一切を拒否し、自分の世界を守ろうと閉じ篭っているように見えた。
となれば、今日のウォーリアがこの場で出来ることはない────のだが、このまま帰ってしまう訳にもいかないだろうと思う。
まだ教員の卵にすらなっていない、アルバイトで此処に通わせて貰っている身とは言え、ウォーリアにとって、スコールは初めての生徒である。
落ち込んでいる生徒の姿を見て、放っておく訳にはいくまい。


「……少し話をしても?」
「ああ、うん。多分、それは大丈夫……だと思う。でも、嫌がったら、早めに下がっては欲しい、かな」


ピリピリしちゃってっからさ、と眉尻を下げるラグナに、ウォーリアは勿論、と頷いた。

先に一度開けたものではあったが、ウォーリアは改めて部屋のドアをノックした。
予想通り、返事はなかったが、構わずに開けて中へと入る。
スコールは先と全く変わらない格好で、ベッドの上で丸くなっていた。

部屋の前にいたラグナの気配が静かに遠退いて行くのを待って、ウォーリアはベッドの傍へと近付く。
僅かにスコールの頭が動いて、彼が眠っている訳ではない事だけは察せられた。
しかしスコールが起き上がる事はなく、顔を埋める枕を抱える手に力が籠る。
絶対に起きない、と言う意思が滲んでいるのを感じながら、ウォーリアはスコールの頭に近い位置で、フローリングの床に座った。


(さて……何と言えば良いのだろう)


放っておく事を良しと出来ず、こうやって部屋まで入って来たが、特段、ウォーリアの頭に言葉が浮かんでいた訳ではなかった。
余り人と積極的に交流してこなかった所為か、誰かを慰める言葉と言うものを、ウォーリアはよく知らない。
そう言った事は、誰かを励ましたり、鼓舞したり、そう言うものが得意な人が担ってくれていた。
しかし、此処にいるのは、ウォーリアのみ。
自分の言葉で、目の前の少年が、顔を挙げられるようにしなくてはならない。

スコールは、ウォーリアの気配は敏感に感じ取っているようで、ごろりと寝返りを打って背を向けてしまった。
壁に向かって極力近付いて、益々縮こまるように背中も肩も丸めている。
ウォーリアは、しばらくその背中をじっと見つめていたが、やがてゆっくりと手を伸ばし、チョコレートブラウンの柔らかな髪をそっと撫でた。


「っ!」


ぱしん、とスコールの腕がウォーリアの手を振り払った。
その動きに引っ張られてか、起き上がったスコールの眼がウォーリアを睨む。


「馬鹿にしてるのか」


苛立ちと怒りを露わにした蒼が、凄むようにウォーリアを貫いた。
出逢ってから何度となく、ウォーリアを拒否する目を見て来たが、こうも感情を露骨にしているのは初めて見る。
それだけ、今回のテスト結果が振るわなかった事が、スコールを追い詰めていると言うことか。

ウォーリアは払われた手を下げて、少年の言葉に緩く頭を振った。


「馬鹿にしているつもりはない」
「だったらなんだ、今の。俺は子供じゃない」
「……そうか。これは、子供を慰めるものだったか。すまなかった」


己の行動が稚拙であった事を理解して、ウォーリアは詫びる。
すると、スコールはぱちりと瞬きをして、訝しむ表情を浮かべた。


「……なんなんだ、あんた……本当、変な奴だな」


混乱した様子で、スコールはベッド端に座って壁に寄り掛かる。
枕を腕に抱えている様子が、普段の大人びた様子とは裏腹に、幼い子供を彷彿とさせていた。

ともかく、起き上がってくれたのなら、ウォーリアにとっては幸いであった。
また彼が貝になってしまう前に、ウォーリアは口火を切る。


「テストの結果が良くなかったと聞いた。見せて貰っても良いか?」
「……勝手にしろよ」


悪い結果を他者に見せるのを嫌がるのは、ウォーリアの若い頃にも、周囲でよく見られた光景だった。
一応の許可を求めて訊ねると、スコールはつっけんどんに言って、視線を横へと流す。
視線が向いた先にはスコールの勉強机があり、放り投げたのであろう鞄が置いてあった。

ウォーリアが鞄を取って中を探ると、ファイルブックに返却されたテスト結果が入っていた。
結果の殆どは良好なものであったが、最終日にあると聞いていた苦手科目を筆頭に、その日の科目分だけが点数が低い。
数字だけを見れば、平均点には十分に届くもので、“ボロボロ”と言う程のこともないのだが、平時のスコールの成績を基準にすれば、確かに悪い結果と言えるかも知れない。

テストを見詰めるウォーリアから、スコールは目を逸らしていた。
その表情には苦いものが浮かび、唇を噛んで、泣き出したいのを堪えているように見える。


「…試験時間の際に、熱を出していたと」
「……言い訳だと思ってるんだろ」
「言い訳?何故そんなことを」
「病院にも行ってないし。終わって帰って寝てたら直ぐ治った。診断書もないし。……証明になるものがない」
「わざわざ証明を出さなくてはならない程のものではないだろう。君が仮病を使うような人間でない事は、知っているつもりだ」
「………」


ウォーリアの言葉に、ゆっくりと蒼が此方へと向けられる。
じい、と見つめるその瞳は、ウォーリアの胸中を探ろうとするかのように、深い疑念と戸惑いが浮かんでいた。
そんなスコールに、ウォーリアは聞き返してみる。


「誰かが、君が熱があったと言った事を、嘘だとでも言ったのか?」
「………」


スコールは答えなかったが、逸らされる瞳が如実に事実を語っていた。

スコールは学校の教員たちの多くと、折り合いが良くない。
それでも成績優秀で通っている事から、一部の教員からの露骨な贔屓はあるらしい。
問題児扱いをする傍ら、成績の数字にだけはニコニコと良い顔をする大人ばかりに囲まれている事が、スコールの大人に対する不信感を強くしていた。
そう言う大人は、スコールの成績が僅かでも翳りを見せると、途端に掌を返すのだ。
もっと出来る筈だ、何をしていたんだ、等───ひょっとしたら彼方は発破をかけているだけのつもりかも知れないが、スコールにとっては口煩い説教でしかない。
ストレスを含め、スコールが体調を崩している時でも、それを『スコールが手を抜く為の言い訳』だと言って信じようとしない。
特に苦手にしている教員は、その傾向が強いようで、スコールは辟易していた。

───酷い教員がいるものだと、ウォーリアはスコールの話を聞く度に思う。
これもまたスコールからの伝聞のみであるから、教員側にも言い分はあるのかも知れないが、少なくとも、彼等の態度がスコールにとって一切の信頼に値しないものとなっているのは間違いない。

スコールは枕を抱えて、またベッドに転がった。
俯せで縮こまって行く姿に、スコールが本当に落ち込んでいた本当の理由を悟る。
彼はテスト結果が散々であった事に加え、その原因となった当日の発熱と、それを押してまで努力した事を大人達に信じて貰えなかった事にショックを受けていたのだ。

ウォーリアはベッドに伏せるスコールに、出来る限り、静かに語りかけた。


「……スコール」
「……」
「君は、とてもよく頑張っている。このテストの日も、君は精一杯、努力をしたのだろう」


ウォーリアの言葉に、スコールがゆっくりと首を傾ける。
顔半分を枕に埋めたまま、片方の蒼の瞳がウォーリアを伺うように見上げていた。
薄らと眦に雫が浮かんでいるようにも見えて、ウォーリアはその揺らめく目元にそっと指を当てて囁く。


「だが、残念な事だが、その努力が報われない事もある。このテストの結果がそうだったのだろう。しかし私は、君が精一杯に頑張った事を否定する事はしたくない」
「……」
「君は十分過ぎる程によくやった。期末試験があったのは、一週間前だったか。あれから他に体調を崩したりはしていないか?」
「……別に。ない」
「そうか。ならば良かった。君は努力を怠らないが、時々、勉強の為に無理を押す事があるようだ。それは少しだけ、直した方が良い事かも知れないな」


努めて静かな声で言うウォーリアを、蒼の瞳はじっと見つめていた。


「今日は授業は休みにしよう。君はゆっくりと休むと良い」
「……良いのか?」


スコールは意外そうに言った。
蒼の瞳が戸惑うように彷徨い、本心を伺おうとするように、ウォーリアへと戻る。


「……そんな事言う大人、初めて見た……」
「そうなのか」
「……学校の先生達は、次に取り返せって言うし、その為にも勉強しろって。狙ってる高校に推薦して欲しかったら努力しろって。別に推薦はいらないけど……、皆そればっかりだ」
「次に取り返す為の準備は確かに必要だろう。しかし、今の君に必要なのはそれではない。君が次にベストを尽くす為にも、私はそう考えている」


スコールに今必要なのは、心身ともに含めた休息だ。
無理を押して報われなかったテスト結果の現実と、学校の教員からの安易なプレッシャーに追い詰められる少年を、これ以上苦しめてはいけない。

ウォーリアは、スコールの白い頬に手を当てた。
大人びた雰囲気とは裏腹に、まだ幼さを残した丸みのある輪郭をしている。
其処にゆったりと指を滑らせて、ウォーリアは眦を緩めて言った。


「今はきちんと休みなさい。自分を大切にする為に」


じっと見つめる深い深い蒼の瞳に、ウォーリアの顔が映り込んでいる。
スコールはぎこちない笑みを浮かべるそのかんばせを見詰めながら、頬に宛がわれた大きな手に、自分の手を重ねた。
ウォーリアがその手を取って緩く握ってやれば、ほんの僅かに握り返す力があった。

それからしばらく、ウォーリアはじっと動かなかった。
スコールもベッドに横になったまま、重ね合わせた互いの手を見ていたが、次第にその瞳はとろとろと瞼の裏に隠されていく。
やがて聞こえて来たのは規則正しい寝息で、存外と幼い寝顔を前に、ウォーリアの口元は知らず緩むのだった。





『[黄金の色に映るもの]のウォルスコ(時系列は自由)』のリクエストを頂きました。

まだ信頼関係がそこまでしっかり出来ていなかった頃の二人です。
WoLは教員を目指す過程の予行演習、スコールは父親が勝手に連れて来たのと必要ないけど何故か辞めないので仕方なくと言う感じだったけど、こういう出来事がぽつぽつと出て来るに連れ、放っておけないとか信じて良いかも知れないとか思うようになって行ったようです。

[ラグスコ]その瞳に染められて

  • 2021/08/08 22:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


案外と判り易い所があるのは、まだ青いが故、だろうか。
それとも、本質的に爪の甘い所があるのか。
何れにせよ、そう言った所が愛らしいと思ってしまう位に、密かに嵌っている自覚はある。




「お前がいてくれると安心するよ」


そう言ったラグナの手の中で、ロックアイスの揺れるグラスが小さな音を鳴らしている。
炭酸水で割られた薄い琥珀色の液体は、今日のドール市長との会談で、今年は特に出来が良いからと贈られたものだった。
てっきり気心の知れた友人たちと楽しむとばかり思っていたが、今日のラグナは手酌酒で嗜んでいる。
この賑やか好きな男でも、静かに飲みたいと思う事でもあるのか、と少し意外に思っていた。

会談に合わせた大統領警護の依頼にスコールが派遣されるのは、最早決まった事になりつつあった。
エスタから警護の依頼が寄せられると、スコールのスケジュールは強制的に空きが作られ、其処に警護任務が入れられる。
報酬額が群を抜いて良い事もあって、ガーデン側はエスタからの依頼は上客物として扱っている。
指揮官であり、現在のガーデンにとって最主力とも言えるスコールを惜しげもなく派遣するのは、得意先をこれからも捕まえ続ける為、と言う意味もあった。

今日の予定が一段落しているので、ラグナはすっかり休憩モードになっている。
だからこその晩酌である訳だが、其処にスコールも添えられているのはどういう訳だか。
終日警護がスコールの仕事であるから、傍に控えている事は好都合だが、一人で飲みたいのなら、自分も部屋の外に出せば良いだろうに、ラグナはそうしない。
追い出す所か、ラグナはちらりとスコールの顔を見ては酒を傾け、まるでスコールを肴に楽しんでいるかのようにも見える────自惚れだとスコールも判っているが。

それより、先のラグナの台詞だ。
スコールがいると安心する、と言う言葉は、額面通りに受け取れば、警護任務の為にこの場にいる者としては、有り難く受け取るべきものだろう。
スコールはそう考えた。


「……ご贔屓にどうも」
「あっ、本気にしてないな?」
「別に」


そう言うつもりはなかったが、聊か反応に困ったのはある。
ラグナのこの手の台詞は初めての事ではないのだが、その都度、スコールはどう返事をして良いか考えてしまう。
これがラグナ以外の依頼主から向けられたものなら、スコールもいつも通りの無表情で、社交辞令を返せば済む話なのだが、それだとラグナは今の通り「信じてねえだろ~?」と言って食い下がって来る。
そうじゃないけど、と返すと、じゃあもっと嬉しい顔してくれよ、なんて言われるので、スコールは益々窮する羽目になってしまう。

恐らくは、大した意味などないのだろうな、とスコールは思う。
一人酒を楽しんでいる割に、お喋り好きのラグナだから、アルコールが気分よく回って来た事も加えて、話し相手が欲しくなったのだ。
それなら自分じゃなくて友人二人を呼べば良いだろうに、何故かラグナはそうしない。


(……別に、良いけど)


ラグナがどうしてか友人たちを呼び寄せない事に、スコールは密に喜びを感じている。
彼等が此処に戻ってくれば、スコールはのんびりとソファに座ってなどいられない。
好みの酒の味にしようと、こうしてこうして、と酒に炭酸を入れたり氷を加えたりと遊んでいるラグナを観察している暇も奪われる。
警護中とは思えないような気の抜き方だと自覚はしていたが、こんな時でもなければ、スコールはラグナの顔をじっと見ている暇はないのだ。

マドラーで液体をくるくると混ぜているラグナ。
それをスコールがじっと見ていると、視線に気づいたラグナが顔を上げ、


「お前も飲む?」
「……勤務中だ」
「そっか。でも、酒じゃなくても、何か飲む位は良いだろ」


ラグナは席を立つと、細長いグラスを一つと、冷蔵庫に入っていたペットボトルを持ってきた。
ドールの街でよく見るラベルのついたそれの中身は、炭酸入りの果汁ジュースだ。
ピッカーで砕いた氷をグラスに入れ、ジュースを注いで、ラグナはそれをスコールの前に置く。


「どーぞ」
「……どうも」


付き返す訳にもいかなくて、スコールはグラスを手に取った。
一口、舐める程度にその味を貰って、テーブルにグラスを戻す。
その間にラグナは、自分のグラスを空にしていた。


「はー、確かに美味いなあ。明日、何本か買って帰ろうかな。皆へのお土産に」
「税関に引っ掛からない程度にしておけよ」
「判ってる、判ってる。スコールも何かお土産とか買っていくか?」
「観光に来てるんじゃないんだ。俺は良い」
「そう言うなよ。いつもお仕事頑張って貰ってるし、お前のお陰で今回も無事に会談は終わったし。そのお礼って事で何か買わせてくれよ」


そんな事は、報酬額に少々色でもつけてくれれば良い、とスコールは思うのだが、それとこれはラグナにとって別らしい。
報酬額の事は吝かではないようで、本当に色をつけて寄越してくれる事もあるが、其方はSeeDの胴元的存在である“バラムガーデンへ”渡されるものなので、ラグナの狙いとは違うとか。
ラグナは“スコールへ”感謝の気持ちを贈りたいのだと、以前にも言っていた。


「明日、何か欲しいものが見付かったら、なんでも遠慮なく言えよ」
「……見付かったらな」


素っ気なく返してやれば、ラグナはよしよし、と満足気にスコールの髪を撫でる。
その手を振り払う事をしなくなったのは、いつからだろうか。
余りに何度も撫でられて、振り払っても懲りないものだから、面倒になって好きにさせている内に、すっかり慣れてしまった。
絆されているような気もしていたが、今ではその手が酷く心地良い。

ラグナは次の酒を造りながら、あーあ、と残念そうな声を漏らした。


「明日にはお前とお別れかあ」
「……大袈裟だな。三週間後の予定でまた大統領警護の任務が入っていたと思うんだが」
「ああ、うん。それはそうなんだけどさ。三週間後じゃん、結構長いこと寂しいなーって思っちゃって」


寂しい、と言うラグナの言葉に、微かにスコールの肩が揺れる。
ラグナがそんな風に感じる事に、密かな喜びを感じている自分に、スコールはグラスを口に運んでその表情を誤魔化した。


「もういっその事さ、お前をうちの専属とかに出来ないかなって話してるんだよ」
「……ヘッドハンティングでもする気か?」
「出来るんならしちゃいたいかな。それが出来れば、お前はずっと一緒にいれくれる訳だし」
「…ガーデンと交渉するんだな」
「やっぱりそうだよな。うーん、お前、指揮官だもんなぁ。指揮官権限で辞めます!宣言とか出来たら、フリーになれる?」
「……さぁ。どうだか」


それが出来ればスコールはさっさと指揮官職を放り出してやりたい所なのだが、生憎、現状のガーデンの状況がそれを許してくれない。
少なくとも後釜に出来る者が現れるか、スコールがガーデンにいられる正式期間である卒業が目に見えて来るまでは、このまま指揮官職を手放す事は出来そうにない。
学園長が隠居みたいな格好をしていないで、表に出てくれればスコールは自由になれるのではないかと思うが、サイファー曰く“狸ジジィ”はそのつもりがないらしい。
もう若い人の時代ですよ、なんて行燈な顔で言ったのを思い出して、スコールの表情は苦いものを噛んだ。

ラグナは酒の味見をして、うーん、と唸る。
炭酸水を少しずつ足してはマドラーで掻き回しながら、スコールの方を見て言った。


「じゃあ、卒業した後はどうだ?ガーデンに籍を置いていられるのは、えーと」
「二十歳まで」
「ふむふむ。じゃあ二十歳になったら、お前はガーデンを出れるのか?」
「……多分。ガーデンに残って教師になる奴もいるけど、でも……」


卒業後の例を出しながら、スコールは自分がそれに当て嵌まる気はしなかった。
指揮官職をしている間に、多少なり人とのコミュニケーションには慣れて来たが、やはりスコールはその手の事は相変わらず苦手にしている。
キスティスのように生徒達と上手く接する自信もないし、大体、自分が人に物を教えて指導できるような気がしない。
それよりは、よくいる卒業生(偶に放校生もいる)のように、フリーランスか何処かの軍、自警団の類に所属する方が現実味のある話に思えた。

それを言葉少なに話してやると、ラグナはふんふんと興味津々の顔で聞いて、


「やっぱり、お前が卒業する時がチャンスな訳だ」
「チャンス?」
「ああ。お前をエスタで正式に、専属契約的なものでも出来たら良いなって」
「それは、……光栄だな」
「だろ~?契約金とかは弾むからさ、先約しといてくれる?」
「他に良い話がなければ」
「じゃあ、卒業した時には宜しくな」
「まだあんたの所に行くって決まった訳じゃない」
「判ってる判ってる。でも、絶対良い契約持って行くからさ。俺が声かけるまで待っててくれよ」


朗らかに言って、ラグナはスコールの髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。
止めろ、とスコールがその手を払うも、ラグナはにっかりと笑って、益々楽しそうに笑うばかりだ。
ラグナのお陰で跳ねてしまった髪を手櫛で直しながら、スコールは呆れた溜息を零して見せる。

卒業後の話なんて、スコールにはまだまだ先の事に思えた。
何せスコールは今年で十七歳、何事もなければあと三年はバラムガーデンで過ごす事になるだろう。
短いようで長い三年の間に、世界情勢的なものが大きく変わらず、傭兵の類への需要が続いているならば、ラグナの誘いは中々魅力的なものだった。
だから卒業のタイミングで良い契約を寄越してくれれば、スコールにとっても十分に美味しい話になるだろう。

───でも、とスコールはこっそりと思う。


(……そんなのなくても、行きそう、だけど)


ラグナの誘い文句に対し、素気のない返事をしておきながら、スコールはそんな事を考えていた。



ほんの少し、丸い耳に赤みを上らせながら、グラスを口元に運ぶ少年を眺めて、ラグナの唇は笑みを浮かべる。
無表情でいるつもりの少年の様子が愛らしくて、ラグナはついつい揶揄ってみたくなる。
今はアルコールも入っているので、スコールもそのつもりで相手をしているのだろう、ラグナの話もあまり本気で受け取っている風でもない。

……本当は、卒業後なんて待たないで、今すぐにお前が欲しいのだと言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
やはり先ずは驚いて、次に揶揄っていると怒り出すか、素っ気なく社交辞令を返してくれるか。
指揮官と言う役職を任されているとは言え、まだまだ経験不足も多い十七歳の若人は、狡さに慣れた大人が考える謀略にはまだまだ鈍い。
謀略などと言う言葉は聊か大袈裟ではあったが、絡め取られる本人に覚らせずに外堀を埋める事をそう言うのなら、少年は確かに、策謀の中に取り込まれていた。


(お前自身は隠してるつもりって言うのが、本当、可愛いよ)


いつの頃からか、蒼の瞳に滲み始めた、恋情の色。
ラグナがふと気紛れに触れる度、驚いたように目を瞠ってから、緊張するように唇が引き結ばれる。
零れ落ちそうになる心を精一杯に堪えて隠そうとする初々しさが、ラグナには酷く可愛らしい。
本心を知られるまいと一所懸命に隠しながら、お喋りな瞳から何もかもが透けて見えてしまっているのも、全て。

ラグナの言葉一つ一つに、スコールの感情は判り易く動きを見せる。
褒めたり喜んだりしてみせれば、まるで愛情に飢えた子供が、スポンジに水を吸収するかのように、ラグナの言葉を受け止めて染まっていく。
その度、自分が満更でもない表情を浮かべていると、彼は気付いていないだろう。
気付かせてはいけない。
自覚していないからこそ、彼はラグナの言葉で、真っ白だったその心を染めていくのだ。

ラグナは徐に手を伸ばして、スコールの手櫛で整えられたばかりの髪に触れた。
酔っ払いの戯れと思ってか、スコールは少しだけ睨むようにラグナを見たが、それだけだ。
ピアスを嵌めた耳朶に指先を掠めさせて、その後ろにある髪の生え際に触れると、


「……何してる」
「いや、綺麗なピアスしてんなーって思ってさ」


何処のブランドかと訊ねれば、スコールは忘れたと言う。
本当か嘘かは判らなかったが、ラグナの指が触れる感覚を、スコールが強く意識しているのは明らかだ。
ピアスの為に、柔らかい耳朶を指で挟んで顔を近付けると、スコールの白い首が判り易く紅潮していた。

このままこの少年を押し倒して、青い花を貪る事は、可能だろう。
雇い主と言う立場もあって、スコールがラグナに対して強く拒否の態度を取る事は難しい。
そして何より、スコール自身、ラグナに自分が求められる事を強く欲しがっているから、ラグナが寄越せと言えばきっと彼は差し出すだろう。


(でも、それは勿体ないからな)


今此処で、ラグナがスコールの求めているものを与える事は容易い。
しかし、欲しいものが簡単に手に入ってしまうと言うのは、逆に手放す事へのハードルも下げてしまう。
こんなものか、こんな程度のことか、と夢から醒めてしまうような行為をするのは、余りにも勿体無い話ではないか。
どうせなら焦らして焦らして、ゆっくりと染め上げながら、もっとスコールが欲しがるようにしたい。
そうしてスコールが、もう我慢できないと、ラグナの前に自分からその身と心を捧げる事で、ラグナは彼に応えるのだ。
自らがはっきりと“欲しい”と言わなければ、求めるものは手に入らないのだと学習させた時こそが、この青い果実が一番美味しく熟す瞬間なのだから。


(だからスコール。お前も早くこっちにおいで)


愛しくて可哀想な少年の、耳朶の形を指先でそっとなぞる。
流石に触れ方が意図的すぎたようで、スコールは顔を真っ赤にして体を引いた。
あんた、と肩を戦慄かせる少年に、少し首を傾げて見せれば、またスコールは呆れたように溜息を吐く。
寄っている相手の行動に目くじらを立てても仕方がないと思ったのだろう。
其処でラグナが狙った通りに折れてくれるから、ラグナの笑みは深くなる。

ラグナが整えた見えない籠の中で、スコールは心地良さに慣れていく。
離れ難いと彼が強く願う程、ラグナは染まり行くその姿に悦びを感じていた。





『スコールから向けられている気持ちに気付いているラグナが、それに気付かないふりをしながら、少しずつ自分への感情が深まるようにスコールの感情をコントロールしていく』のリクエストを頂きました。

狡いラグナは大好きです。
自分への自信のなさだったり、トラウマ的に温もりを求めながら怖くなってしまう為に自分から踏み出せないスコールを、ゆっくりゆっくり囲って行こうとするのは良いですね。
その為にスコールが自分の下へやって来る選択肢も掲示しつつ、それをスコール自身が選ぶように誘導したり、着々と外堀を埋めてたりとか。
スコールも隠しているつもりで駄々洩れなのが良い。周りから見るときちんと隠せていても、ラグナを前にするとどうしてもとか。自覚してないから余計に。

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