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2026年08月08日

[レオスコ]鎮めの声

  • 2026/08/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



変異種と言うのは総じて厄介だ。

大抵のイミテーションは、その姿の下となった人物の行動を真似る。
攻撃の時、回避の時、それぞれの癖まで再現する。
精密な造りのものほど、その再現度が高く、尚且つ、癖をカバーする為の知恵も回っているように見えた。
そう言う意味で、精巧な造りのイミテーションと言うのは、元となった人物の歪な上位互換と言えるのかも知れない。
悔しいことに、本人よりも強い、とまで言わしめることも決して少なくはなかった。

だが、本人と似ているのなら、少なくともそこに攻略の糸口もあるのだ。
攻め手のパターンが判っていれば、それを強固に真似る個体ほど、裏を掻くことも出来る。

変異種の場合、その理屈データが通用しない個体が多い。
本物にはあり得ない、一定の行動に固執するものであったり、全く理屈の見えない行動を取るものがあったり、我が身の摩耗を顧みず猛攻するものもある。
面倒なのは、その違いを一見して判断するのは難しい、ということ。
見た目に精巧な造りをしている変異種も少なくはなく、こうした手合いに絡まれると、煮え湯を飲まされることもあった。

スコールの宿敵である魔女アルティミシアは、持ち得る膨大な魔力を遺憾なく行使する為に、対峙する際には必ず距離を保つ。
遠方から放射される凶悪な魔法は、近接戦を持ち場とするスコールにとって分が悪い。
しかし、だからと言って、近距離ならばこちらのペースになるかと言えば、そうは優しくはないのだ。
至近距離で放たれる魔法は、人の躰など容易く貫いてくれるのだから。


(……判っていた。だからこちらも、十分警戒して戦った)


森を歩くスコールの歩調は遅い。
痛む腹を抱えて歩くのは、その傷の深さ以上に足を重くさせる。

───禍々しい色に光る歪の中で、魔女のイミテーションに遭遇した。
即座に戦闘態勢を取ったスコールだったが、初手から調子を狂わされる羽目になる。
魔女の領分として、距離を取られるものと思っていたから、逃げられる前に接近しようとしたスコールだったが、先に肉薄したのは魔女の方だった。
正面から不意を突かれた格好になり、初撃こそ咄嗟に躱したが、先手を取られたのが痛かった。
至近距離から息つく暇もなく撃ち続けられる槍に、スコールは防戦を強いられる。
いつ尽きるとも知れない魔力で全身を串刺してやろうとする魔女に、スコールは強引にそれを突破する方法を取った。
放つ魔法がほんの一瞬、途切れた瞬間に、防御を捨てて突進する。
結果は功を奏し、魔女のイミテーションを砕くことが出来たが、状況としては相討ちと言えた。
闘い終えたスコールは、腹と足にそれぞれ槍を食らっていたのである。

歪に巣食っていたイミテーションが、あの魔女一体だけだったのは幸いだった。
それを屠ったことで歪は浄化され、スコールもそれ以上の戦闘を臨むことなく脱出する。
その時点で傷の痛みは明らかで、早い治療をするべきだったが、魔女との戦闘でスコールは体力と魔力を使い切っていた。
ケアルをひとつ唱えた所で、応急処置にもならず、まず体を休める必要がある。

だから、少しでも安全な場所を探して、痛む体を引き摺り歩いているのだ。
そこに加えて、空がごろごろと不穏な音を鳴らしている。


(せめて、降りだす前に)


森の中の危険は、イミテーションや混沌の戦士だけではない。
徘徊する魔物や野生動物からも、身を隠せる場所を見付けなくては。

体力の限界が先か、雨が降るのが先か。
どちらにせよ、スコールにとっては回避したい。
ずきずきと痛む腹を手で抑え、歯を食いしばりながら歩いた末に、


(……洞窟)


突き当たりに辿り着いた崖の下に、それはあった。
生き物が巣にしていたのか、地盤が崩れて穴が開いたのか。
いずれにせよ、空模様が見るからに怪しい今、スコールに悩んでいる暇はなかった。

危険な獣の気配がないことだけを確認して、洞窟の中へ入る。
入り口から奥へは数メートル、雨風の侵入から逃げられるだけの距離はあった。


(……ここで)


入り口からは距離を取り、しかし外の光は確認できる場所で、スコールは壁に身を寄せた。
しばらく座ってゆっくりと呼吸を整えようと試みたが、どうにも傷が痛む所為で上手くいかない。
体を縦に保っているのも辛くなり、スコールは迷ったが、已む無く横になることにした。

傷む傷を庇って、熱が逃げないように手足を縮めて丸くなる。
スコールはゆっくりと深呼吸をしながら、少しだけ、少しだけだと自分に命じ、目を閉じた。




意識の浮上とともに、雨音が聞こえていた。
崖から程近い場所に茂る木々を、雨粒が絶え間なく叩いている。
ひんやりとした空気が頬を撫でていくのが判った。

それと同時に、温かいものが逆の頬に当たっている。
柔らかさと堅さと、中間にあるような感触に、温い暖かさ。
微睡の中で意識が浮上と沈下を繰り返し、もう少しこのままでいたい、と天秤が傾く。
けれど、ここがいつまでも寝ていられる程に安全が確約されていないことを、スコールは辛うじて覚えていた。

重みの取れない瞼を薄く開けると、薄い光が遠くにある。
岩肌が剥き出しの暗いトンネルを見つめ、ああ、と自分がどうしてここにいるのかを思い出した。
降る前に逃げ込めたのは幸いだった、とぼんやりと思いながら、頬に触れる温もりにまたうつらうつらと意識が浮く。

と、するり、と何かが首筋を触れた。
瞬間、は、と目を瞠って飛び起きる。


「────!」
「おっと」


跳ね上がるようにして体を起こしたスコールを、蒼灰色の瞳が丸くなって見ていた。
驚いた表情だったが、それはすぐに和らいで、そこにいた人物はホールドアップの体勢を取る。

自分とよく似た色の長い髪、蒼の瞳の狭間に走る斜め傷。
ともすれば鏡越しにその顔を見ているような気分になる。
しかし年齢は明らかに自分よりもいくつか上で、スコールって成長したらこんな感じになるのかな、等と仲間たちが雑談していたこともあった。

レオンだ。
その顔、その形が間違いなく彼であることを確認して、スコールは詰まらせていた息が抜ける。


「あんた……なんで」
「いや、何」


この洞窟には一人で辿り着いた筈だ。
そもそも今日は同行者もなく、単独で歪を解放して回っていた。

問うスコールに、レオンは両手を下ろしながら、


「ウォーリアたちと混沌の大陸方面の歪を調べていたんだが、その途中で次元の圧縮に巻き込まれてな。どうにか脱出はしたが、その弾みにこの辺りへ飛ばされた。他の皆とも逸れてしまって、どうしたものかと思っていたんだが、雲行きが怪しかったから、適当に雨宿りできる場所を探して───ここを見付けた訳だ」


そう語るレオンの肩は、薄らと濡れている。
長く雨に晒されたと言う程ではないが、運悪く見舞われたのは間違いないようだ。

中途半端な姿勢でレオンの話を聞いていたスコールは、はたと自分の体のことを思い出した。
脇腹に手を遣ると、じん、とした鈍い痛みが走ったが、顔を顰める程ではない。
足を動かせばこちらも同様で、痛み方が随分と楽になっているのが判った。

自分の体を観察するスコールに、レオンが言った。


「傷なら治して置いた。俺の魔力では、応急処置が精々だが」
「……いや。助かった」
「傷の原因については、聞いても?」
「魔女の変異種。討伐はした」
「そうか。ご苦労だったな」


くしゃ、とレオンの手がスコールの髪を撫ぜる。
子供を褒めるような仕草に、スコールは眉根を寄せて、その手を押し退けた。
眉間に皺を寄せて睨むスコールに、レオンは肩を竦めて手を下ろす。

レオンの視線は、トンネルの向こうの光へと向けられた。


「雨はまだ止みそうにない。もうしばらく、ここで休憩だな」
「……そうか」


レオンの言葉に、スコールは嘆息した。

傷の手当はレオンがしてくれたとは言え、彼も魔力は潤沢ではないから、あくまで表面の治療をしたに過ぎない。
早く聖域に戻って、ティナやセシルに頼んだ方が良いが、負傷した体を雨の中に引きずり出すのも悪手だ。
一時眠ったことで、反って疲労を自覚したか、体も重く感じる。
この洞窟の奥から危険生物でも現れない限りは、ここから動く気にはなれなかった。

傷のあった場所を庇いながら起き上がろうとすると、やはり痛んだ。
横になっている方が楽、と身体が訴えている。
……それを察したかのように、レオンがぽんと自分の膝を叩いて、


「ここ、使って良いぞ」
「は?」
「さっきもそうしていたしな」


ここ───レオンの膝。
そこを“使う”とはつまり、そこを枕にして横になる、と言うことだ。

スコールは判り易く眉間の皺を深くした。


「……いらない」
「そうか?見付けた時、寝辛そうにしていたから、この方が良いと思ったんだが」
「別に、問題ない」
「寝床の環境は大事だぞ」
「こんな状況で、環境も何もないだろ」


冷たい岩肌が剥き出しの、灯りもないトンネルの中。
今のところは獣の気配もなく、雨風から守ってくれると言うだけでも重畳だ。
だからスコールは、ここなら、と意識を飛ばすことも許された。

眠る時には、周囲の冷気への抵抗と、何かあった時に身を守る為に体を縮めていた筈だ。
そうすると、どうしても神経までは休める訳にはいかず、体のどこかは緊張で硬化する。
しかし今現在、体はそこまでの重怠さはなく、───その理由は、今目の前で柔い笑みを浮かべている男がしてくれたことに他ならない。


「負傷しているんだ。雨が止むまでに、体力を回復させた方が良いだろう」
「……」
「膝が嫌なら、せめてこっちに寄る方が良い。冷えると体に障る」


レオンの言うことは尤もだ。
雨の外界もあり、岩肌は冷たい空気を反射放出させて、洞窟の中の気温を更に下げている。
暖があるなら、それを使わない手はなかった。

判っている、判っているが。
先に自分がされていたこともそうだが、どうにもそれに甘えるのは、スコールのプライドに障る。
それは単なるスコールの意地、見栄っ張りの話だが、そこを容易く折れないのがスコールたる所以である。

ただ、体については、確かにもうしばらく休めたい。
疲労感を訴える体が、良いからさっさと楽な体勢になれ、と言っていた。


(……それに、相手はレオンだ)


この男は、どうしてかスコールに甘い。

仲間の中では彼が年上組で、スコールは年下組に割り振られるのもあるだろうが、それにしても、レオンはスコールをとかく贔屓し勝ちである。
その様子を見たティーダなどは、「お兄ちゃんが弟の世話焼いてるみたいっスね」と言う。
それをレオンが満更でもない顔をして受け止めるから、最近、賑やかしの面々からは、レオンのことを「スコールの兄ちゃん」などと言う認識になっているらしい。
────それはともかく。

年の甲なのか、危険感知に関しても、レオンは優秀だ。
何かあれば間違いなく動くことが出来る、その信頼性も高い。
今現在のこの状況と、スコール自身の容態と併せて、体を休めるのに見張り役を預けるには十分な相手だった。


「………」
「ん?」


じっと見つめるスコールの視線を受け止め、レオンはことんと首を傾げる。
お前の好きにすると良い、とその眼は言っていた。

じり、とスコールの体が身じろぐ。
地面を膝で擦りながら、じわじわと近付いて行くと、レオンはじっとその様子を見つめていた。
その内に二人の距離はゼロにも等しいものになり、レオンの横にスコールが座る。
数拍、スコールが静かに細い呼吸を繰り返した後、ようやくその身体から力が抜け始めた。


「……は……」
「何かあったら起こすぞ」
「……ん」


この雨の中で何が起ころうものか。
そんな風にも思ったが、イミテーション然り、この世界の魔物然り、確証はない。
下手に「何があっても起こさないようにするから」なんて言われるより、余程信用できる。

二人揃って舌の回る質ではないから、洞窟の中は静かなものだ。
出入口の方から聞こえる雨音は相変わらずで、まだまだ途切れる様子がない。
少し風が強くなっているようだから、これが雨雲を連れて行ってくれると良いのだが。
夕暮れの時刻までに雨が止んでくれれば、夜になる前には聖域に戻れる算段だったが、天気の気紛ればかりは祈るしかなかった。

レオンと過ごす静寂は、気まずいものがないのが良い。
隣に感じる温もりの気配から離れないよう、二の腕をわざと当てると、レオンは好きにさせてくれた。


(……こんなのだから、嫌なんだ……)


この男に甘えるのは。
際限なく甘やかされて、勝手に体の力が抜けるから。

まだ休息を欲する体が、とろとろとした睡魔を連れてくる。
眠るなんて無防備なこと、と思いはすれども、今スコールは一人ではないのだ。
隣を見れば、じっとトンネルの向こう───雨の外界の様子を見つめる男の横顔があって、彼に任せていれば良い、と言う甘えたな声が内側から聞こえる。

じっと横顔を見ていると、至近距離の視線の煩さが伝わったか。
しかし、こちらを振り返ったレオンの口元は、どこまでも柔い。


「大丈夫だ、スコール」
「……」


何がどう、と彼は言わなかった。
ただその言葉だけがあれば、スコールには十分でと言うことを、きっと彼は知っている。

結局スコールも、それに甘えてしまうのだ。


「……少し、寝る」
「ああ」
「少しだけだ」
「ああ」


雨が止んだら、歩かなくてはいけない。
その為にも、戦闘で使い切った体力も、魔力も、少しでも多く回復しなくては。
見張りを引き受けてくれる男がいるのだから、回復に集中できるのは良い事だ。

これからの自分の行動に対し、まるで言い訳の様につらつらと思考を巡らせながら、スコールはレオンに寄り掛かる。
断りなく体重を預けた少年を、レオンは咎めることなく受け入れた。



────静かな寝息が零れ始めるまで、それから幾許もなく。
男は満足そうに笑みを浮かべて、寄り掛かる少年の柔い髪をそっと撫でた。





雨宿りのレオスコ。
相手がレオンなら大丈夫、と無意識に刷り込まれているスコールと、判ってて甘やかすレオンでした。

[スコリノ]歩いた軌跡を辿ったら

  • 2026/08/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



自分のことだけを話すのは、どうにも恥ずかしい。
けれど、聞いてほしくないと思う程、嫌な話題だと言う訳でもない。
だから、どうせなら皆で同じ話が出来れば、楽しく話せるかも知れない。

理由は色々と挙げられるが、仲間たちのことをもっと知るにも、良い機会になると思ったのだ。
何せ、ここで出会った人々は、皆それぞれ違う世界から迷い込んだ───招かれた、のかも知れない───ものだから、それぞれの常識や感覚も違う。
そう言ったところを打ち明けたり、知ったりすることで、信頼関係も作ることが出来る。
リノアはそう思っているから、皆で話す機会を持つことは悪くないと思っている。

とは言っても、結局のところは、リノアも年頃の乙女だと言うところが大きいか。
コイバナと言うのは、リノアのように青春真っ盛りの少女にとって、放っておけない話題なのである。


「───って思ってたのに。集まってもくれないなんてぇ」


とある駅前にあるカフェテリアのテラスで、リノアは唇を尖らせた。
丸テーブルを囲んで一緒に席についているのは、クルルとリュックだ。


「まあまあ。皆も忙しいからね。仕方ないよ」


眉尻を下げてそう言ったのは、クルルである。
自分よりも年下の仲間に宥められては、リノアも口を噤むしかない。
それでも残念な気持ちは誤魔化せず、渋面は隠せなかった。

二人の間で、リュックは生クリーム入りのカスタムシェイクをストローで混ぜながら、


「まあカタブツも多いもんね~。あたしはこういう話題は好きだけど」


リュックはリノアが最初に誘って、一番に「行く行く!」と食いついてくれた。
お陰でリノアは他の仲間へと声をかけ易かったのだが、生憎とその輪は然程広がらなかったのである。


「コイバナだけじゃなくて、他にも話せるチャンスになると思ったのになあ。ガイアには断られちゃったし」
「そもそも喋るのが得意じゃなさそうなヒト多いよね」
「カインは来てくれるかと思ったのに。お喋りしなくても、聞いててくれるし。お店に行くのも嫌いじゃないから」
「カインは今日は銀座だっけ?」
「うん。クリスタルの様子を見てくるって言ってた。あそこは不安定なことが多いからって」
「なんか体よく逃げられた気もするけどな~」


リュックの言葉に、クルルが苦笑している。


「でも、カインのお陰で、私たちはこうしてゆっくり出来るから」
「クルルは良い子だねぇ。ま、あたしもお休み貰えるのは嬉しいし。そこは感謝してるよ」


そう言って、リュックはシェイクを一口啜る。
クリームと冷たいミルク、そして限定フレーバーのストロベリーソースの甘い味わいに、「んー、おいし!」と上機嫌だ。

クルルもココアを、リノアもラテを一口飲んで、さて、と顔を見合わせる。


「こうして集まったんだし。今日はこの三人で、色んな話しよ!」
「そうだね。じゃあ、先ずは───」
「やっぱりリノアからでしょ。言い出しっぺなんだし」


リュックの指名とともに、仲間二人の視線がリノアへ集まる。
リノアは途端に気恥ずかしさに見舞われるが、しかし、確かにことを提案したのは自分だ。
自分が色々話せば、仲間たちからも色々なことが聞けるかも知れない。


「じゃあ、えーと……」
「やっぱりカレシのことかな~?」
「え!やっぱりそれ?」
「だって元々コイバナしたかったんでしょ?」
「そうだけど。別にそれに限らなくても……」
「え~、あたしは聞きたいよ。クルルは知ってるんだよね」
「アンジェロが教えてくれるからね」


にこりと笑って言ったクルルに、リノアは足元で寝ている愛犬を見る。

クルルは生まれつき、動物と話をすることが出来るのだと言う。
それを聞いた時は俄かに信じられなかったリノアだが、日々を過ごすうちに、アンジェロが特別クルルに懐いているのが判った。
自分の言葉をクルルが通じてくれるのが、彼女にとっても嬉しいようで、よく甘えるのだ。
そうして散歩や遊び相手をしているうちに、アンジェロが色々と話してくれるのだと言う。
それはもう、色々と。

飼い主の視線を感じたアンジェロが顔を上げ、つぶらな瞳でことんと首を傾げる。
当然ながらそこに悪気も悪意もなく、リノアは肩を竦めて苦笑するしかない。


「うーん……じゃあ、うん。しょーがない。私からね」
「えへへー、楽しみだな。ね、ね、どんな男の子なの?どこで逢ったの?」


リュックは早速、テーブルに前のめりになって訊ねる。
リノアは、改めて自分から話すと言うのは恥ずかしいなぁ、と思いつつ、


「格好良いんだよ。強くて、私のこと、守ってくれるの」
「逢ったのはどこで?」
「就任式典……うーんと、パーティで。私、そこにいる人に用事があったんだけど、中々見付からないし、ダンスタイムになったから、誰か誘って見ようかなと思って。一番格好良かったから、声かけてみたの」
「リノアからだったんだ」
「最初は“踊れないんだ”って言ってたんだけどね。あれ、踊りたくなかったんだろうな~」


いつかの出逢いを思い出して、リノアは苦笑する。
彼の性格を考えると、そもそも、ああした華やかな雰囲気自体が好きではないだろう。
誰とも関わるまいと、意図的に壁の花になっていたのは想像に難くない。

それでも、リノアは彼を見付けて、声をかけたのだ。
見上げていた空から視線を外した後、彼と目が合ったのは、単なる偶然ではないと思っている。


「その後で、私が出した依頼に、彼が派遣されてきて。最初はケンカばっかりだったなぁ」
「そうなの?」


意外そうにクルルが目を丸くする。
アンジェロと色々話している彼女だが、どうやら出会いの頃のことは聞いていないようだ。

リノアはカフェラテを一口飲んで、ほうっと頭上を見上げる。


「私と全然違うんだ。すごく現実的で、理性的って言うか。冷たい人だって、最初はそう思ってた」
「え~、なんか想像と違うかも。リノアみたいに明るいタイプかと思ってた」
「あはは、ないない」


リュックの言葉に、リノアはひらひらと手を振る。
そう言った言葉自体、彼とはまず縁遠いものであると、リノアはよく知っている。


「SeeD……んー、特別な傭兵になる為に、子供の頃からずっと頑張って来た人だったから。あの時、一緒にいた皆、そう言う所はあったんだよね。私はそう言うのじゃなかったから、よくぶつかっちゃったの」


身を寄せていたレジスタンスの下で再会して、短い間に、何度口論をしただろう。
小さなものから、声を大きくして言い合いになったものまで、数えれば片手が埋まる。
それは彼一人とのものではなくて、仲間たちも巻き込んでのこともあった。

あの頃、彼らにとって異質だったのは、きっとリノアの方だった。
リノアが彼らと接して感じていた感覚の違いを、彼らも感じていたに違いない。


「───で。それが今は、だーいすきなカレシになったのはなんで?」
「なんか、そういう言われ方するとすごく恥ずかしい~!」


にやにやと聞いてくるリュックに、リノアは途端に顔が沸騰する。
火照った頬に両手を当てて冷却を試みるが、まるで効果はなかった。

赤い顔のまま、リノアはえーと、えーと、と考えて、


「なんて言うか、えーと……最初は、私のこと、守ってくれる人だって、思ったって言うか……」
「どこでどこで?」
「んんん~……」


矢継ぎ早にリュックに訊かれ、リノアの頭から湯気が出る。

あれは、特別な言葉だ。
思い出すと、あの時に感じた胸の鼓動が、巻き戻ったように再来する。


「……“俺の傍から離れるな”、って。そう、言ってくれたから」
「わ」
「ひゃあ~」


赤い顔で、彼の言葉を反芻する。
その言葉があまりにも直線的だったからか、或いはリノアの表情につられたか。
クルルとリュックの頬にも、判り易く紅が差した。

それはきっと、彼にとって、なんでもないただの忠告だった。
自分は彼のクライアントであったし、彼は傭兵として、クライアントを守るのは義務だと思っていたに違いない。
実際、彼は初めてその言葉を発した時のことを忘れていたし───G.F.の所為だと彼は主張したが───、リノアが感じたほど、特別な意味はなかったのだろう。

けれど、それでも、リノアにとっては特別だったのだ。
ともすれば自分が死んでいたかも知れない状況と、得体の知れないものを前にした時の、言葉にならない恐怖。
一人ではどうすることも出来ないと、そんな自分を知った直後に向けられた、あの一言。
だから、もう一度その言葉を聞いた時が嬉しかったし、必死に誤魔化している様子も含めて、少しおかしくて胸に残った。

リノアは真っ赤になった顔を両手で隠した。
そこにある仲間たちの顔が見れないくらい、顔が緩んでいるのが判る。


「う~……自分で言うとこんなになるなんて思わなかったよぅ」
「ふふ。リノアの心の中、ぽかぽかしてる感じ」
「……クルル、アンジェロだけじゃなくて、私の心の中も見えるの?」
「まさか。見てたら判るよ」


少女の柔らかな笑みに、リノアは益々体温が上がる。
自分が分かり易いタイプの人間であることは自覚しているが、こうも穏やかに見つめられると、なんとも言えない気持ちが湧き上がってくる。

手扇で熱を冷まそうと試みるリノアに、リュックが興味津々に顔を寄せる。


「その言葉が決定打みたいな?」
「ん?うーん……それも、結構あるけど……」


改めてリノアは、出来事を振り返る。

彼との記憶は、色々な出来事が重なっていて、一言で言い表せないものばかりだ。
気付いたら宇宙に漂っていたとか、それを彼が捕まえに来てくれたとか。
そんな場所まで自分を追い駆けて来てくれたことが、涙が出そうになるほど嬉しかったとか。
その後に、もう二度と逢えなくなるんだと、離れなければいけないのだと悟った時の、悲しさも。

───そんな中で、リノアにとって一番嬉しかったのは、やはり、


「……ぎゅーって、してくれたんだ」
「ぎゅー?」


首を傾げるクルルとリュックに、リノアは、「うん」と頷いた。


「触るのも、誰かに触られるのも、苦手な人なの。でも、私のこと、抱き締めてくれた」


そして、彼は言ってくれた。
“魔女”でも良い、と。

嫌われる前にいなくなりたいと、一度はリノア自ら離した手を、彼は追い駆けて来てくれた。
冷たく霞んでいく意識の中で、呼ぶ声に目を開けた時の感情を、なんと表せば良いだろう。

“魔女”と言う存在の意味を、それが持つ力の恐怖を、異世界の仲間たちに説明するのは難しい。
リノアの持つその力は、この世界でも異質なものだが、それがアグレシオを退ける力になるからか、誰もリノアを怖がらなかった。
そのことがリノアにとって、どんなに安堵を齎したか、知る人はいない。
だから、彼のあの言葉が、抱き締める腕が、“魔女”になったリノアにとってどんなに特別だったのかも、想像は出来ないのだ。

頬に赤みを残したまま、瑪瑙の瞳を柔く瞬かせるリノアに、クルルとリュックは顔を見合わせて小さく笑う。


「その人、リノアのことがとっても大事なのね」
「そんな風にして貰えたら、好きになっちゃうね」


二人に合わせて言われて、リノアの頬が熱くなる。
今日は完全に赤面症だ。


「んん~、もう限界。私ばっかりじゃなくて、皆の話も聞きたい!」
「そう言われてもなあ。あたし、そう言う人いないからよく判んないよ」
「私も……」
「えー!」


仕返しとばかりに話題をそのまま投げたリノアだが、返ってきたのはすげないもの。
これでは何の為に話したのだか、と頬を膨らませるリノアに、クルルが宥める形で言った。


「コイバナは難しいけど、私の仲間の話なら出来るよ。一緒に旅してた時のこととか」
「あたしもそれなら良いよ。ってことで、コイバナの続きはまた今度!」
「今度って、また同じようなことにならないかなぁ……」
「まーまー。リノアのカレシの話もっと聞きたいし、平等に、コイバナも誰か話してくれる人捕まえようよ」


リュックにも援護されて、リノアも拗ねた顔は引っ込めた。
何であれ、皆で話をする機会が作られるのは、リノアにとって嬉しい。
こうして積み重ねていけば、もっと気軽に、色々な話ができるようになるかも知れない。

それに、とリノアは思う。


(こうやってスコールのことを思い出せるなら、寂しいばっかりじゃなくなるかも知れない)


どんなに思いを馳せても、この世界に彼はいない。
だから、思い出す度に寂しさも募る気持ちは誤魔化せない。
けれど、こうして共有してくれる人がいたら、ふとした時に感じる寂しさも薄らぐ気がする。
誰かに話す度に、その思い出が増えていくのは、嬉しかった。

足下に身を寄せる愛犬の毛並みを感じながら、旅の思い出を語り始めたクルルの話に耳を傾ける。
それが終わったら、リュックの番になるだろう。
次に自分の番になった時、今度は何を話そうかと巡らせるのだった。





デュエルムメンバーでプチ女子会。
コイバナしたい!と言うリノアのFINEから、素直に集まってくれそうなメンバーに付き合って貰いました。

リノアのコイバナって言うか、スコールトーク。
もっと話すと、スコールが格好良いだけじゃなくて可愛いところもあるとか、色々語ってくれると思う。
リノアは自分の好きなものを誰かと共有できるのは楽しいタイプだと思うので。
そもそも現状、身内のことならあるけれど、自分を当事者としてコイバナできるメンバーが少ないと言う。ストレートにヒロイン枠から参戦してるのは、今のところリノアだけですしね。

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