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[ちび京一]あなたの為の聖夜

  • 2011/12/25 00:18
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クリスマス色に彩られた店の中をぐるりと見渡す。

壁にはリボンが巡らされ、窓辺には小さなサンタクロースやトナカイが並び、店内の真ん中にはクリスマスツリー。
ツリーの一番上には星が飾られ、その上の天井には、ミラーボールがきらきらと光りながら回っている。
いつもはどちらかと言えば質素な店内が、今日ばかりは賑やかなものになっていた。



数日前から『女優』は忙しなくなっており、朝から買い出しやら何やらとバタバタした日が続いていた。
それは全て今日と言う日の為のもので、手作りのクリスマスグッズ制作に精を出していたらしい。
その傍らで京一はと言えば、此方はいつもと変わらず、『女優』の側の河川敷で木刀を振っていたり、師に稽古をつけて貰って青痣を作っていた。

京一とてまだ10歳の子供であるから、クリスマスと言うものが楽しみでなかった訳ではない。
ぱっと見では興味のない素振りをしていた京一だが、それも生来の意地っ張りと天邪鬼、加えて育ち盛りの背伸びの所為だ。
内心では、運び込まれた日から、段々と着実に色付いて行くモミの木に、心躍っていた。


そしてクリスマスの当日。
京一は、今日ばかりは日課の稽古も休みにして、クリスマス一色の店内で楽しい一日を過ごしていた。




「はァい、京ちゃん、クリスマスプレゼントよォ」




そう言って大きな箱を京一に差し出したのは、アンジーだった。

自分の肩幅と同じだけの横幅のそれを、京一は受け取る。
大きさの割に重さはなく、ゆさゆさと軽く揺すってみるものの、中から音らしい音は聞こえない。


ソファに座ってラッピングを解き、箱の蓋を持ち上げると、綺麗に折りたたまれたタートルトレーナー。
手に取って広げようと持ち上げると、その下からジーンズが出てきて、京一はこれも一緒に箱から取り出した。

どちらも厚手で伸びの良い生地が使われており、よく動き回る京一の邪魔になる事もない。
トレーナーの背中には大きな英字ロゴが入っており、ジーンズにはベルトがついていて、光沢の良い黒皮で出来ている。
かっこいい、と小さく呟いた京一に、アンジーが嬉しそうに笑った。




「ねえ、京ちゃん。折角だから、着てみてくれない?」




京一はこの冬になっても、相変わらず薄着をしている。
日々を過ごす時に着ているのは、決まって家出の時に着ていた草臥れたトレーナーと緩んだジーンズ。
シャツ一枚でないだけマシかも知れないが、それでも夏から秋の時期頃にかけて着るものであったから、やはり防寒としては心許ない。
最近は朝夜の冷え込む間に寒さを覚えて、身を振わせる事も少なくなかった。

───そうした経緯から、京一に新しい服をプレゼントしよう、とアンジー達も思い至った訳である。



京一は着ていたトレーナーを脱いでソファに投げ、プレゼントのトレーナーに袖を通す。
もぞもぞとしばし奮闘した後、頭も潜らせて、ふぅ、と一息。

トレーナーは今の京一には少し大きなサイズで、袖も裾も長さが余ってしまっている。
けれども、京一は今こそが育ち盛りの時期だから、直に足りない分も届くだろうし、一年経つ頃には小さくなっているかも知れない。
京一は余った袖を見ながら、絶対でかくなってやる、とひっそり心に決意した。


余る袖は寄せ上げて、裾は今は諦める。
ジーンズは今から履き直すのは面倒なので、明日にでも履いた時にアンジー達に見せる事にしよう。

京一はソファーから下りて、自分を囲むアンジー、キャメロン、サユリの前で両腕を広げて見せる。




「どうだ?」
「あ~ん、似合ってるゥ!」
「やっぱり可愛いわァ」
「可愛いは嫌だ」
「怒っちゃいやん。格好良いわよォ、京ちゃん!」




アンジーにぎゅっと抱き締められて、頬を摺り寄せられる。
剃り残しのヒゲが少しちくちくと当たったけれど、今日は我慢する事にした。

アンジーばかりずるいと言うキャメロンとサユリにも抱き締められた。
相変わらずキャメロンの強力に潰されるかと思ったが、流石に彼女も、其処まで加減知らずではない。
白粉を塗ったサユリの手が、京一の耳にかかる髪を撫でて、くすぐったさに京一は目を細める。


一頻り京一を抱き締めて、納得したキャメロンとサユリが小さな体を解放する。
そのタイミングを見計らったように、ビッグママとアンジーが沢山の料理をテーブルに並べて行った。




「すっげー美味そう!」




テーブルに乗り出した京一は、今すぐにでも料理に食いつかんばかりの勢いだ。

アンジーはそんな京一を抱き上げてソファに下ろし、自分はその隣に腰を下ろして、皿とフォークを手に取る。
綺麗に盛り付けられた料理の中から、カリッと香ばしく揚げられた唐揚げを取り、




「はい、京ちゃん。あ~ん」
「あー」




子ども扱いするな、と言ういつもの背伸び盛りの台詞はない。
言えばきっと思い出して、真っ赤になって照れて怒るだろうから、誰もそれについては言わなかった。

京一は大きく口を開けて、差し出された唐揚げをぱくっと頬張る。
リスのように頬を膨らませてもごもごと顎を動かすのが、小動物のようで可愛らしい。
彼にそんな自覚はないし、これも言えば真っ赤になって怒り出すだろうから、誰も口には出さない。


口の中一杯に広がるジューシーな味わいに、京一も頬を染めて笑う。
言葉なくとも、全身で「おいしい!」を表現する子供に、『女優』の面々は皆夢中になっていた。




「次は何がいいかしら」
「あの団子みたいなの、なんだ?」
「じゃがいものニョッキね。ソースはママの手作りよォ、食べたい?」
「ん、美味そう!」




頷く京一に、じゃあアタシが、とサユリがフォークを手に、ニョッキの一つを取り上げる。
あーん、と促された子供は、今度も素直にぱかっと口を開いた。

その仕草だけで、アンジー達には可愛らしくて堪らない。





ケーキもあるからね、と言ったビッグママに、子供は嬉しそうに、にーっと笑った。







似たような話を春に書いたような気もするが、まあいいや!
って言うか、うちの『女優』メンバー+京一では、これ通常運転ですな。

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