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[8親子]今、此処にある幸せを抱いて

  • 2014/08/08 21:15
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ごちん、と言う音の後、わあああん、と大きな声が響いて、レインは振り返った。
声の発信源を探せば、ローテーブルの足下で座り込み、わんわんと泣いている小さな息子がいる。


「うわっちゃ~。スコール、大丈夫か?」


テーブル傍のソファに座っていた夫が、泣きじゃくる息子スコールを抱き上げた。
スコールは額に大きな赤を作っており、ラグナが其処に触れると益々声を上げて泣く。
どうやら、原因はそれで間違いないらしい。

レインは持っていた包丁をまな板に置いて、息子と夫を振り返る。


「大丈夫?ぶつけたの?」
「うん、そう。テーブルの下に落ちた玩具を取ろうとして、ごーんって」


よしよし、痛かったなあ、とラグナがスコールの頭を撫でる。
ぐすん、ぐすん、と愚図りながら、スコールは父を見上げた。

ばたばたばた、と階段を下りてくる足音が響く。
転ばないと良いけど、と言うレインの胸中は杞憂で済み、ガチャバタン、と慌ただしくリビングのドアが開く。
現れたのは、今年で五歳になったエルオーネと、九歳になったレオンだ。


「スコールが泣いてる声が聞こえたけど。何かあった?」
「スコール、だいじょうぶ?」


二階でぬいぐるみ遊びに夢中になっていたのに、末弟の事となると、本当にこの兄妹は敏感だ。
二人は父の腕の中で泣きじゃくる弟を見付けると、一目散に駆け寄った。


「スコール、どうしたんだ?」
「おでこごちーんってしちゃったんだよ」
「スコール、いたいの?いたいのね。かわいそう」


父の説明に、エルオーネがスコールの頭を撫でて慰める。
スコールはまだ愚図りながら、潤んだ瞳で姉を見た。
引っ込みかけていた涙が、またじわぁ、と滲み出して、ぼろぼろと溢れ出す。


「……ふわぁあああん!」
「いたいの?よしよし。いたくない、いたくない」
「父さん、スコール、ぶつけただけ?他には?」
「ないよ。それより、其処の玩具、取ってやって」


ラグナが指差したのは、テーブルの下に転がった、ラッパの玩具だ。
レオンが身を屈めてテーブルの下に潜り込み、玩具を拾う。
そんな間にも、スコールは大きな声で泣きじゃくり、弟を慰めようと奮闘するエルオーネも、泣き止まない弟に釣られたように、泣き出す一歩手前の顔になる。

空気ポンプで音が鳴るラッパの玩具は、スコールの今一番のお気に入りだった。
レオンは、そのラッパの空気ポンプを押して、ぱふ、と音を出した。
泣いていたスコールの声がぴたっと止み、くるりと首が巡ってレオンを見る。

ぱふ、ともう一度音を鳴らせば、小さな手が伸びて来る。


「うー、あう」
「あ、泣き止んだ」
「スコール、いたい、ない?」
「あーう、あー。ふぁう」
「うん、コレな。落とさないように」


レオンはスコールの小さな手を取って、ラッパの玩具を握らせた。
自分や妹よりも、ずっと小さな手が玩具を握るのを確かめて、レオンは手を放す。
玩具は床に落ちる事なく、スコールの両手に収まり、空気ポンプが押されてぱふっと音を鳴らした。

ぱふっ、ぱふっ、とラッパが鳴る度、スコールが楽しそうに笑う。
それを見て、エルオーネも嬉しそうに笑い、レオンもほっと安堵した。
ラグナは、そんな三人の子供達の様子を、すっかり蕩けた貌で眺めている。


「うー、う。はぐ」
「あっ。スコール、それ食べちゃダメ!」
「食べ物じゃないんだぞ、スコール」
「んぐぅ」
「美味しくないだろ?ほら、離して」
「うーうー、うぅうううう…!」


ラッパの端を口に含んだスコールに、レオンとエルオーネが叱る。
ラグナが強引に口に含んだそれを取り出そうとすると、スコールはまた泣き出してしまった。
おろおろと戸惑う幼い兄と姉の姿に、レインはくすりと笑って、キッチンを離れた。

リビングにやって来た母に、レオンとエルオーネの目が輝く。


「母さん、スコールが」
「はいはい。こら、スコール、お口開ける」
「うぇあああああああ……」
「よいしょ。ラグナ、これ拭いておいて」
「はいよー」


スコールの唾液でべとべとになってしまったラッパを、ラグナがティッシュで綺麗に拭く。
レインは泣きじゃくるスコールを抱き上げて、ぽんぽんと背中を叩いてあやし始めた。

リビングの食卓テーブルの回りをぐるりと歩きながら、レインは腕に抱いた息子をあやす。
その後ろを、エルオーネが弟を見上げながらついて歩く。
妹が弟を見上げてばかりで歩くから、転んでしまうんじゃないかと心配した兄が、その後ろをついて歩く。
今はまだ家族四人分の椅子が並んだテーブルの回りを、妻と子供達がぐるぐると歩くのを、ラグナはソファに座って眺めていた。


「ふぁ、あー、あー…あーっ」
「よーしよし。あれは食べ物じゃないのよー」
「スコール、スコール。食べちゃダメなのよ」
「エル、足元見て。転ぶぞ」


エルは母の真似をして、スコールに玩具は食べ物じゃないんだと言い聞かせる。
そんな小さな姉も、ほんの三年前までは、スコールと同じように色んな物を口に入れて、小さな兄を大慌てさせていた。
そしてそんな小さな兄も、生まれたての頃は、なんでも口に入れて父親を大いに慌てさせていた。

腕に抱いた小さな息子が少しずつ泣き止んで、ぐすん、ひっく、としゃくり上げる声だけが聞こえて来る。
このまま眠ってしまうかな、と背中を撫でていると、ぱふっ、と言う音がリビングに響いた。
ぴくっ、と小さな体が反応して、音の発信源を探してきょろきょろと首を巡らせる。


「スコール~」


夫の声がして、スコールの視線が其方へ向かう。
ぱふっ、ぱふっ、とラッパの音が鳴った。


「あーう、あーう」
「はいはい、あっちね」


音のする方へ行きたがる息子に応じてやる。

振り返ったレインに夫の姿は見えず、彼は身体を縮めてソファの背凭れに身を隠していた。
レオンとエルオーネがぱたぱたと駆け足でソファに向かい、背凭れの裏側から乗り出して、其処に隠れている父を見付ける。


「父さん、何してるんだ?」
「なにしてるの?」
「わっ、しーっ、しーっ」


末息子を驚かせてやろうとしたのに、上の二人のお陰で台無しだ。
レインはくすくすと笑いながら、ソファの前へと回り込んだ。
妻と末息子とばっちり目があったラグナが、へらりと笑って、ラッパの玩具をぱふっと鳴らす。


「だぁう」
「うん、これ、スコールのな」
「もう食べちゃ駄目よ」


母から父へ、末息子を抱く腕が交代する。

キッチンへと戻るレインに代わって、ラグナはスコールを膝上に乗せた。
その両隣にレオンとエルオーネが座る。


「ほーら、ぱふぱふー」
「だう、あぅ、あうー」
「スコールは音の出るオモチャが好きだな」
「ああ、そうだな。レオンやエルと一緒だな~」
「わたし、オモチャ食べたりしないもん」
「あははは」
「どうして笑うの?」
「はは、なんでもない、なんでもない。そうだ、レオン、宿題は?」
「さっき終わった」
「エルは、明日の幼稚園の準備は?」
「終わった!」
「そっかそっか。よしよし」


ラグナはスコールを抱き締め、エルオーネの頭を抱き寄せて、レオンの額と自分の額を合わせる。
レインは鍋の具をおたまでくるくると掻き回しながら、夫と子供達の様子を見て、小さく笑う。

すっかり蕩けた夫と、恥ずかしそうな長男と。
嬉しそうな娘と、玩具に夢中になっている末息子。
子供の成長は大人が思っているよりずっと早くて、手を放す日が訪れるのもも、きっと自分が思っているよりずっとずっと早いのだ。
けれども、それは明日今直ぐにと言う事ではないから、その日まで、こんな日々を大切にしたい。



お母さん、お腹空いた。
催促する子供の声に、はいはいもう直ぐよと応えて、レインはコンロの火を止めた。





スコールくん1さい。エルオーネちゃん5さい。レオンくん9才。パパとママもいっしょ。
幸せ目指して書いてたのに、なんで私泣きそうなんだろうか。レインさーん!!!

音の出るオモチャに夢中だったのは、うちの姪っ子甥っ子です。死ぬほど可愛かった。
ちなみに甥っ子は1歳未満の時、オモチャよりもサッ○ロポ○トの袋の方が気に入っていた(手が当たるだけで音がするので)。

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