[三空]寒い朝
「さーむーいー!!」
朝一番に響いた声に、三蔵は叩き起こされた。
折角のたまの休日だと言うのに。
姦しさに辟易しながら起き上って見れば、ベッドの下の床で座り込んでいる養い子がいる。
子供が座っているのは敷布団の上なのだが、底冷えがするのか、子供は鳥肌の立った腕を摩っていた。
――――取り敢えず。
朝っぱら騒ぐな、静かにしろ、まだ寝てろ、等々言いたい事はあるのだが、それよりも。
「…ンな薄着してりゃ、寒いに決まってんだろうが」
布団の上で凍えて縮こまる悟空は、タンクトップに短パンと言う出で立ちだ。
タンクトップは勿論の事、短パンも薄い絹で作られている夏の寝間着用なので、当然、防寒など考えられていない。
既に暦が12月に入ったと言うのに、悟空がこんな格好で寝ていたのは、昨晩までが例年に比べ酷く暖かかったからだ。
加えて夜はいつも熱めの風呂に入るので、熱が引く前に毛布に包まってしまえば、朝起きるまで寒さを感じる事もない。
結果、今しがた布団を出て初めて、悟空は本日未明からの冷え込みにやられた、と言う訳だ。
呆れた眼を向けられた悟空は、がたがた震えながら足元に広がっている毛布を手繰り寄せる。
それを上から被って布団の上で蓑虫になり、頭だけを出して、ベッド上の三蔵を見上げた。
「なんでこんな寒いの!?」
「冬なんだから当たり前だろうが」
「昨日は暖かかったじゃん!」
「知るか」
素っ気ない返答だけを返して、三蔵はもう一度ベッドに横になった。
仕事がないのに早起きする気などない三蔵は、今日は昼まで寝るつもりだった。
それを悟空の大音声に叩き起こされて邪魔された訳だが、寺の僧侶が仕事を持って駆け込んでくるよりは良い。
寒い寒いと喚く養い子は無視する事にして、もう暫く惰眠を貪る事にする。
――――が、もぞもぞと何かが毛布を引っ張るのを感じて、三蔵は閉じかけていた目を開ける。
「……何してやがる、このチビ猿」
肩越しに背中を見遣れば、毛布に侵入してくる不届き者の怖い物知らずが一名。
不自然に膨らんだ毛布は、しばらくうごうごと芋虫宜しく蠢いた後、三蔵の背中にぶつかった。
振り上げた腕をその塊に落としてやれば、いてっと短い悲鳴。
芋虫は団子状に蹲った後で、またうごうごと動き出し、三蔵の後ろでひょこっと顔を出した。
芋虫の正体は、無論、悟空である。
悟空はぴったりと保護者の背中にくっついて、三蔵の夜着に頬を摺り寄せる。
悟空と違い、既に冬用の物を使用していた三蔵だが、夜着である以上、やはり生地は薄めだ。
だからくっついた悟空には、布一枚越しでも三蔵の体温を感じる事が出来て。
「さんぞー、あったかい」
「うぜえ」
「いいじゃん、ちょっとだけ」
まるい頬を三蔵の背中に押しつけている悟空。
癖っ毛の大地色の髪の毛先が、三蔵の首の付け根をくすぐっていた。
それを鬱陶しいと思いつつ、背中に密着した子供の体温は、この冷え込みの朝には良い暖取りになる。
「……煩くしたら蹴り落とすぞ」
それだけ言って、三蔵は悟空を睨むのを止めた。
うん、と言う小さな声が背中から聞こえて、それから間もなく、寝息が聞こえてくるようになる。
―――――窓の向こうで朝を告げる鳥の声は、聞こえない。
……随分久々に最遊記のSS書きました。
なんか色々変わってね…?