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[ソラレオ]スリースターズ・キッチン

  • 2019/02/06 00:05
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KH3の若干のネタバレを含みます。





此処しばらく、指導者の下で修業に明け暮れていた少年が、久しぶりにやって来た。
曰く、少し前から再び世界を巡り始め、新たな力を手に入れる為───正確には、“新たなに得た力をとある事情で失ってしまい、それを取り戻す為”らしい───に奮闘しているのだそうだ。

レオンはと言うと、少年の旅の恩恵とでも言うのか、嘗て故郷が失われた際に行方不明になっていた、賢者の弟子が戻って来た事により、レオン達が『アンセムレポート』と呼んでいた闇の研究に関する詳細を彼等に一任する事が決まり、荷物が一つ減った所である。
期せずして訪れた、故郷を闇に包んだ研究の一端を担っていた者との邂逅に、思う事がない訳ではなかったが、彼等の顛末と現在の心境を聞くにつれ、可惜に握った拳を振り上げる事は出来なくなった。
思う事がない訳ではなかったが、かの研究の詳細は自分達では不明瞭な点が増えて行くばかりであったし、未だ街に現れる心無い影から住人達を守る為に割ける時間も欲しい。
故郷を襲った闇の原因解明、そして二度と同じ事が起きないように、と言うのは、レオンの願いでもあるが、結局の所、餅は餅屋だと、復興委員会のメンバーの意見は一致した。
胸中に残る苦い気持ちを殺し───そうしなければならないと自覚してしまう程度に、自分がまだ大人になりきれていない事を知った───、レオンはこれまで集め研究したデータを、賢者の弟子へと委ねた。

それからのレオンは、街の復興に日々奔走している。
毎日のようにパトロールを繰り返し、シドと共にセキュリティシステムについて打ち合わせをする、傍目に見ればあまり変わった事はない。
だが、打ち合わせの後、城の地下研究室に赴いて、何だかよく判らないデータを延々と調べ続ける時間が減った事は有り難かった。
以前は週の半分以上は無人にしていた郊外のアパートで、週の半分は眠れるようになったのだから。
だからなのか、ユフィから「目の下のクマ、ちょっと減ったね」と言われたので、これは良い変化なのだろう。

久しぶりに会ったソラにも、レオンの変化は顕著であったらしい。
なんでも「クマが減った」「ちょっと顔色が良くなった」「ゆっくりしてる感じ」のように見えるのだそうだ。
クマのことは不眠不休で調べ物をしている事が多かったので、多少なりと自覚している所はあるが、そんなにも自分は硬く見えたのだろうか、とレオンは首を傾げる。
だが、やらなければならない事が一つ減った事を思えば、少し肩から力が抜けるのも当然であった。
レオン自身はいまいち自分のそうした変化に疎かったが。

そんなレオンを前に、何故だかソラはやる気満々と言った様子でやって来た。
しかし、生憎と言えば生憎であったが、今レイディアントガーデンでは、ソラの助力を必要としていない。
彼が心無い影を退治すると、しばらくはその周辺に同様のものが現れなくなるので、そう言った意味でも手伝ってくれるのは吝かではないのだが、以前程窮に瀕した事は起きなくなった。
シドとトロンが作り出したセキュリティシステムに対し、賢者の弟子が追加データを追加してくれたお陰で、更にセキュリティは強化されている。
最近は心無い影よりも、住人が増えて来た事による、住人による事件の方が目立つようになっている位だ。
これは人間の問題である為、ソラを頼れるものではなく、寧ろ自分達で解決しなければならない事だと、レオンは思っている。

────そんな訳で、レイディアントガーデンは比較的平穏になりつつあるのだが、それでもソラはやる気満々でやって来た。
いつもの調子で駆け寄って来たソラは、レオンの顔を見上げてこう言った。


「久しぶり!ね、レオンちのキッチン貸して!オレがご飯作ってあげる!」




帰って寝るだけの日々を送っていた頃でも、レオンの家のキッチンは、それなりに充実していた。
場所が郊外である為、当分は人が住み暮らす事もなく、市場や店と言ったものが揃う事は望めないと言う環境と、レオン自身が家事一般に抵抗がなかったからだ。
常夜の街で生活している間に、家事全般は心得るようになり、その頃の延長のような感覚で、レオンは自炊をするようになった。
週の半分以上は帰らない家ではなったが、稀に休む日が出来ると、少し凝った料理をやってみようと思う事もあったので、生活スタイルの割には物が揃っていた。

一人暮らしである為、そのキッチンにレオン以外の人間が立つ事はない。
時折、何処かをふらふらと渡り歩いている男───クラウドが押しかけて来るが、彼は家事全般に不向きな性質である。
下手に手伝わせて片付けの手間を増やす位なら、出入り禁止の措置が妥当且つ適当であった。
体調を崩した時、見舞いに来たシドであったり、エアリスであったりが借りる事はある程度だ。

そのキッチンに、少年が一人立っている。
それが何とも奇妙な光景に見えて、もっと本音を言えば、彼の不器用さをしっている分、レオンは落ち着けなかった。


「ソラ……あの、本当にやるのか?」
「うん。すっごいの作るから、楽しみに待っててな!」


不安げに声をかけるレオンに、ソラは何処までも無邪気に自信ありげに答えた。
一点の曇りもない、きらきらと輝く瞳に見返され、レオンはそれ以上問う事を躊躇う。
結局、レオンの言及は其処までで、レオンはソラに背を押されてキッチンから離れる事になる。

リビングダイニングの食卓用の椅子に座り、レオンは首を伸ばして、小さなキッチンにいる少年の様子を伺う。
やるぞー、と言う意気込みを上げた後、ソラは冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫の中は、つい一昨日に一週間分の買い物を詰め込んだ所だったので、そこそこ食材が揃っている。
しかし、あれらはレオンが自分の頭にあるメニューで凡その種類と量を買っただけなので、ソラが此処に来る事は想定していなかった。
一応、冷蔵庫の中にあるものは何でも使って良いし、調理器材の使用にも制限はないが、果たしてソラが思い描いているものを作る事は出来るのだろうか。


(いや、そもそも、料理が出来るのかすら……)


今日のレオンの不安は、その一言に尽きる。

ソラは何かと自分の下を訪ねてくれ、パトロールの手伝いへのお礼として、レオンはよく食事を振る舞った。
その際、手伝いがしたいと言ったソラを何度かキッチンに招いた事があるが、その時に見た彼の手付きは、お世辞にも良いものであるとは言い難かった。
塩と砂糖を間違える事は何度か起きたし、包丁を使う時も「猫の手で」と教えたのはレオンである。
火加減に至っては見るからに危なっかしく、油の使いすぎと熱しすぎで火柱が立った時には驚いたものだ。
それ以来、コンロ周りに関しては、煮込み料理の様子を見守る以外では余り触らせていない───ソラもこの件の失敗は応えているようで、やりたいとは言わなくなっている。

レオンが知っているソラの料理の腕とは、そう言うものである。
一所懸命に役に立とうと奮闘する姿は、レオンの贔屓目もあって愛らしくはあるが、それはそれだ。
レオンを厨房から追い出した訳だから、コンロを使わない冷製物でも作るのかと思ったが、彼はフライパンの持ち手の感触を確かめているので、使う予定があるのだろう。
それを見ると更にそわそわとして、やっぱり手伝おうか、と言いたくなるレオンであったが、


「よーし、やるぞ!」


拳を握って意気揚々と、やる気満々になっているソラを見てしまうと、レオンは弱かった。
水を差すのも気が引けて、結局レオンはその場に坐したまま、少年の背中を見詰めるしかない。

トントントン、と軽快な包丁の音が聞こえ、これは練習したのかな、とレオンは思った。
そう言えば大魔法使いの下で修業をしていると聞いていたが、その間に自炊もやったりしたのだろうか。
人間は適応し学習していく生き物だから、否応なしにやらなければならないとなると、苦手としていた事でもそこそこ上手く回せるようになるものだ。
だとすれば、レオンが極端に心配する程、料理の腕は酷くないのかも知れない。

刻んだ野菜をフライパンで炒めながら、手元で何か忙しなくしている。
それが終わると、冷蔵庫から取り出したブロック肉を切り分け始めた。
作業の合間合間でフライパンを揺らして、野菜が焦げ付かないようにと言う配慮もしている。


「えーっと、二人分だから、……いや、そんなに多くなくて良いんだって」


ぶつぶつと大きめの独り言を言いながら、ソラは手を進めていく。
厚みをとって切り分けられた肉を軽くハンマーで叩いた後、胡椒て下味をつけた。
フライパンをもう一つ取り出して火にかけ、油を広げて十分に熱したのを確かめてから、肉を置く。
じゅうう、と表面に熱が通って行くと共に、香ばしい匂いが広がった。

肉を低温で焼きながら、ソラは野菜炒めに水を注ぎ、


「あっちち!ちょっと跳ねた!」
「ソラ?」
「大丈夫!」


悲鳴交じりの声にレオンは腰を浮かせようとしたが、直ぐに元気な声が飛んで来た。
暗に「キッチンに入っちゃ駄目」と言う気配を感じ、レオンは眉尻を下げつつ椅子に戻る。

跳ねた熱湯が触れたのだろう、ソラは右手を振って感覚を逃がした。
残っていた水まで全てフライパンに注いだ後、いつの間にか作っていたソースも投入する。
菜箸でぐるぐると掻き混ぜたら、蓋をして火力を下げた。

もう一つのフライパンで焼いていた肉が引っ繰り返される。
おお~、と感心した声が聞こえたので、恐らく良い具合に焼けたのだろう、とレオンは思った。


「良かった、上手く行って。次は───そっか、サラダだ。ドレッシングは、えーと、何からやるんだっけ。さっぱりした奴が良いかなぁ」


ドレッシングなら冷蔵庫にあるぞ、とレオンは言いかけたが、止めた。
どうやらソラはドレッシングも作るつもりらしい。
何もかも一から作っている様子のソラに、いつの間にそこまで料理の腕が上がったのか、とレオンは感心していた。

それにしても、随分と独り言が多い。
お喋りと言うよりは、長く黙っていられない、重い空気が苦手な所があるソラだが、何かに集中している時は黙しているタイプだったと思う。
だが、作業内容を一つ一つ口に出して確認すると言う所もあるので、別段、可笑しいと思う程でもないか。

サラダドレッシングが出来た頃には、肉にも火が通っていた。
表替えして焼き色を見た後、ソラはよし、と気合を入れるように言って、


「じゃあ見せ場だな」
(見せ場……?)


ソラの大きな独り言に、レオンは首を傾げた。

直後に────ボウッ!と立ち上る紅い火。
それを見た瞬間、レオンは思わずキッチンに駆け寄った。


「ソラ!」
「ん?」


いつかの一件の再来かと慌てたレオンであったが、ソラはけろりとしていた。
フライパンの上の火はぼうぼうと高く昇っていたかに見えたが、数秒もすると縮んで行く。
きょとんとした顔で見上げて来るソラと、鎮火したフライパンを交互に見て、レオンは固まる。


「あ……だ、大丈夫、なのか?」
「へ?何が?」
「い、いや。火が見えたから、てっきり、その、火事かと」
「あ、そっか。あはは、前にもこんな風になった事あったもんな。でも今回は大丈夫!」
「……そのようだな」
「うん。ほら、あともう少しだから、レオンはあっちで待ってて」


呆然気味のレオンを、ソラは方向転換させて、またキッチンから追い出した。

ふらふらとした足取りで元居た椅子に戻ってから、そうか、あれはフランベか、とレオンは理解した。
肉料理等の最期の仕上げに使われる調理技の一つだが、いつの間にソラはあんなものを体得したのだろう。
あれも修行の賜物なのだろうか───だとしたら一体どんな“修行”生活をしているのか───とぼんやりと考えつつ、レオンは今しばらく暇を持て余すのであった。



出来上がった料理が食卓テーブルへと運び込まれる。
メインのステーキ肉は良い色に焼け、赤いソースが絡み、温野菜が彩りに並べられている。
手作りソースを溶かしたスープと、手作りドレッシングのかかったサラダ。
どれもが何処かの人気レストランのメニューになっていても可笑しくない出来栄えのものだった。

召し上がれ、と両腕を広げて促すソラに、レオンも手を合わせてからナイフとフォークを手に取った。
切り分けた肉を口の中に入れて歯を立てると、閉じ込めた肉汁が染み出して、舌の上で溶けて行く。


「美味いな」
「やった!」


目を丸くして言ったレオンを見て、わくわくと同時に、期待と緊張が入り混じっていたソラの表情が弾ける。

野菜スープも飲んでみると、トマトの酸味と甘味がよく溶け込んでいて飲み易い。
サラダにかけられたドレッシングは、醤油と酢をベースにして整えたものだと言う。


「しばらく見ない内に、随分料理が上手くなったんだな」
「へへ。でしょー?」
「レストランを開いていても可笑しくない位だ」
「でしょでしょ!ふふふ」


レオンの言葉に、ソラは自慢げに胸を張る。
鼻を穴を膨らませて、少しだけ照れ臭そうに鼻頭と耳朶が赤くなっていた。

ソラもレオンと向い合せの椅子に座り、頂きます、と両手を合わせた。
料理仕事で腹が減ったか、ソラはぱくぱくと勢いよく食べ進めていく。
美味い美味いと、自分で作った料理を絶賛するソラの様子がなんだか可笑しくて、レオンは笑みを浮かべながら、次の肉を口に入れた。



料理を褒めている時、ソラのフードに隠れた小さな料理人が嬉しそうにしていた事を、レオンは知らない。





KH3発売おめでとう&クリアしました記念。
ソラの成長を色んな場面で感じる事が出来ました。

それはそれとして、うちのソラは相変わらずレオン大好きです。
でもってうちのソラは卵を潰し、よく爆発させます。コンプリート頑張ろう。

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