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[スコリノ]君の時間を一人占め

  • 2019/08/08 21:00
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スコールのスケジュールと言うものは、大抵真っ黒に塗り潰されているものだった。
それはスコールの立場故のものもあるが、それ以上に、SeeDが慢性的に人手不足だと言う点が大きい。

“月の涙”の影響で、魔物討伐の類の依頼が殺到するようになり、経営難のような話には捕まらなかったバラムガーデンであるが、元よりSeeDと言うのは限られた者のみが得られた称号のようなものだったから、全てのSeeDを投入しても、世界中から舞い込んでくる依頼全てに応えるのは難しかった。
その上、“月の涙”によって落ちて来た魔物や、それにより生息地を追われた魔物が街に近付くようになったとかで、危険度の高い魔物の出現が増えている。
SeeDとは言えその実力はピンからキリまであり、誰もがスコールやその幼馴染達のようなSランク級ではない。
加えて、各国の要人警護と言った依頼もあり、これはこれで断る訳にも行かない事も多く、時にはスコールを指名して護衛を求める者もいて、これもまた厄介であった。
キスティスやシュウがスコールのスケジュールを管理し、どうにかこうにか調整して、無理のないように回すように務めてはいるが、そんな彼女達にも実働任務は寄せられる。
サイファーも引っ張り出して魔物討伐の依頼を集中的に回したりもするが、やはり追い付かない事も多かった。

が、そんなスコールのスケジュールが、ぽっかりと空いた。
それは誰が調整した訳でもなく、偶然の産物で、誰もその日の予定が空白である事には気付かなかった。
スコール自身も含めて、だ。

今朝、今日もいつもと変わらず任務があるとばかりに思って目を覚ましたスコールは、パソコンのスケジュール表を開いて首を傾げた。
任務でなければ、大体二つか三つは何かしら予定や用事が書いてある表に、何も書いていない。
間違えて削除したかと思い、キスティスに連絡してみると、彼女も「あら……?」と不思議そうな声を零しつつ、今日は特に予定はないと言った。
キスティスがそう言うのだから、予定が入っていないのは確かなのだろう───とは思ったが、やはり何か腑に落ちない気がして、スコールはサイファーにも連絡を取った。
彼にはスコールが任務で不在の際、スコールの代わりに諸々の仕事を任せる(押し付ける、と彼は言う。否定はしない)事になっているので、スケジュールを半分ほど共有している状態にある。
今日の昼から任務に出る筈のサイファーに連絡をし、確認させると、彼もまた訝し気な様子で、お前の予定は何もない、と言った。
流石に此処まで来ると、正真正銘、予定は入っていないのだと納得するしかなかった。

これは即ち、休みだ。
意図せず得たが、休日と言うものだ。
サイファーならラッキーだと言って、ガンブレードを片手に気晴らしに訓練所へ向かう所だろう。
スコールも常ならばそうしていた────常ならば。

今、スコールは、じっと自分の部屋の天井を見上げている。
今朝抜け出したベッドにもう一度横になり、眠る訳でもなく、ぼんやりと過ごしていた。


(……暇だ……)


意図せず手に入れた休日と言うものを、スコールは持て余している。
仕事があると思って目を覚ましただけに、拍子抜けしたような気分が拭えない。
其処からくる虚脱感とでも言うのか、改めて何かをする為に動き出す気になれなかった。

ごろり、と寝返りを打って、今度は白い壁を見詰める。
いつかは何かあるとこうやって白い壁や天井を見詰めていたような気がするが、最近はそんな時間もなく忙殺されていた。
それを思うと、この一日は非常に貴重なものであり、溜まりに溜まったあれやこれやを片付けたり、羽を伸ばすには格好の日だ、とは思うのだが、


(……何もする気にならないな)


元々スコールは惰性な性質である。
必要なことであると割り切れば、心中で愚痴を零しつつも熟すスコールだが、そうでないなら放置する事に抵抗はない。
そして今日、どうしてもしなければならない事柄はない。
となれば、スコールの惰性癖が顔を出すのも、当然の流れであった。

しかし、余りにこうして何もせずに過ごすと言うのも退屈過ぎる。
何もしていないのだから当たり前だ。
せめて本でも読めば暇潰しになるのだろうが、スコールはそれを手に取る気も湧かなかった。


(……いっそ任務があった方が楽で良いな)


そもそも、朝はそのつもりで起きたのだ。
何か雑務でも良いから、手を紛らわせるものが欲しい。
普段は仕事なんて面倒臭い、としか思わない自分を棚に上げて、スコールはそんな事を考えていた。

執務室に行けば、何か書類が残っているかも知れない。
そんな事を思って、スコールはようやくベッドから起き上がった。
ドアを開けた瞬間、キスティスに「何しに来たの?」と言われそうな気もするが、仕事を前倒しに片付けるのは何も悪い事ではないのだから、構わないだろう。

と、自室のドアを開けようとした所で、それは勝手に口を開けた。
正しくは、ドアの向こうに立っていた人物によって開かれた。


「おハロー、スコール!」


快活な笑顔と共に、独特の挨拶をしてくれたのはリノアだ。
ガルバディアの実家にいるとばかり思っていた彼女の姿に、スコールは目を丸くする。


「……リノア」
「はい、リノアちゃんです。久しぶり」
「…ん」


見慣れた変わらない笑顔に、スコールの目元が綻ぶ。
ついさっきまで腐るように過ごしていた事を忘れ、スコールは時間が動き出すのを感じていた。

リノアは魔女戦争の後、実家に戻りはしたものの、内包している魔女の力の問題も変わらず抱えている。
望まずして手に入れてしまった力を、今後どうして行くのか、リノアは度々バラムガーデンを訪れては、魔女の先輩であるイデアに相談しているらしい。
また、バラムガーデンには自分の事をよく知る仲間達の存在もあるので、顔を見て話をするのが楽しみなのだと言う。
その中でもリノアはスコールと逢える事を切望してはいるのだが、如何せん、スコールのスケジュールが余りにも真っ黒である為、中々その機会に恵まれなかった。

と言う事情を抱える彼女にしてみれば、今日と言う日は千載一遇のチャンスである。


「ね、ね。スコール、今日はお暇なんだって?キスティスが言ってた」
「……ああ」
「今だけ暇?もう何か予定が入ってる?」
「別に、何も」


予定を入れるも何も、余りにもやる事がなさ過ぎて、仕事に手を付けようとしていた位だ。
それを言うと、リノアは眉をへの字にして困ったように笑い、


「スコールらしいなあ」
(…なんだよ。駄目か?)
「おっ、眉間のシワ」


傷の走る眉間に寄せられる皺を見て、リノアは悪戯っ子の顔で、指でつんと突く。
益々眉間の皺が深くなるスコールだが、リノアは特に気にしなかった。
想像通りの反応をしてくれるスコールの様子に、くすくすと笑みを零しつつ、


「ねえ、スコール。暇なら一緒に出掛けない?」
「……出掛けるって、何処に?」
「何処でも良いよ。バラムに行く?今からティンバーは日帰りキツいかな」


今日は暇でも、明日は忙しいよね、と言うリノアに、スコールは頷いた。
明日からは任務で出なければならないから、今日の夜にはガーデンに戻って準備をしなければならない。
────そう思うと、今日は暇だと思っても、スコールが完全に自由にできる時間と言うのは、案外少ないのだ。

そんな時に来てくれたリノア。
だからこそ、一緒にいられる時間が作れるんじゃないかと、きっとそんな気持ちで此処までやって来たのだろう。
そう思うと、胸の奥が言いようもなく温かくなって、慣れない感覚にスコールは少し戸惑う。
けれど同時に、その感覚が嫌ではない事も、スコールはよく知っていた。


「……バラム、行くか」
「ほんと?」


スコールの言葉に、リノアの表情がぱあっと明るくなる。
花が咲くような表情の変化に、スコールの唇が緩んだ。


「あのね、あのね。綺麗なブックカフェのお店が出来てたんだよ」
「ブックカフェ?」
「色んな本が置いてあるの。月間武器もあったよ」
「それは毎月読んでるから良い。他には?」
「ファッション雑誌もあるし、小説も。静かで居心地が良いから、スコールも気に入るんじゃないかな~って」
「…じゃあ、其処に行くか。でも俺、場所は知らないぞ」
「お任せください。ご案内します!」


胸を張って自信満々に宣言するリノアに、余程気に入ってるんだな、とスコールは思う。

歩き出したスコールの隣を、心なしか軽い足取りのリノアが歩く。
地面を軽く弾み蹴るように歩く彼女は、今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気だ。
そんなリノアを横目に見ながら、これなら急な休みも悪くない、と今日初めて思うのだった。





いちゃいちゃスコリノ。
二人とも立場やら環境やらと色々あるけど、一緒に過ごして欲しいね。

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