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[ラグレオ]愛おしいのはその全て

  • 2020/08/08 21:15
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中で溶け合う瞬間に、今が夢ではないのだと、そう思っているのが自分だけではない事を、彼は気付いているだろうか。

何度目の触れ合いになるのか、そろそろ片手が埋まる筈だが、はっきりと思い出す事は出来なかった。
そんな事に意識を割いている暇があるのなら、腕の中で強張る躰を抱き締めていたいと思う。


「あ…あ……っ」


最後の余韻を示すような声が漏れて、ラグナの首に縋っていた腕から力が抜ける。
引き締まった腕がぱたりとシーツの海に落ちて、はあ、はあ、とあえかな吐息が零れて消える。
濃茶色の髪が散らばって広がる光景が、酷く扇情的で現実味のない景色に見えて、ラグナはほうと息を吐いて目を細めた。

まだ強張りの抜けきらない感触から、ラグナはゆっくりと自分自身を取り出した。
レオンが緩く首を振る仕草を見せたが、疲れ切った身体がラグナを追う事はない。
ただ、蒼の瞳が少し寂しそうにしているのが判ったから、ラグナはそっと青年の頭を撫でて、傷の走る額にキスをした。


「ラグ…ナ、さん……」


力なく恋人の名を呼ぶ唇は、何度もラグナが吸った所為で、ほんのりと赤い。
ラグナがその唇に指を掠めると、ふ、とレオンの目尻に笑みが滲んだ。

形の良いレオンの唇を、なぞり擽り遊んでいると、ベッドに投げ出されていたレオンの腕が持ち上がる。
その手がするりとラグナの髪を梳いた後、ゆっくりと頬へと触れる。
若々しい雰囲気を持っと言われるラグナではあるが、加齢の現象は確かにその相貌にも浮かんでいた。
レオンの指はその痕跡を探すように、すり、すり、と丹念な仕草でラグナの頬を撫でている。


「……」
「ん?」
「………」


見下ろす男を、レオンはじっと見詰めている。
そんなレオンに、ラグナが顔を近付けてみると、レオンの目は嬉しそうに細められた。

ラグナの半分をようやく越えた頃の青年は、いつも一分の隙を見せない程に出来た人物だ。
けれど、肌を重ねて抱き合った後、レオンはまるで小さな子供のように、素直で甘えん坊な一面を見せる。
重ねた情交によって、理性も矜持も溶かされた後だから、彼の一番柔らかい部分が曝け出されているのだろう。
きっとレオンの核に一番近い場所だから、ラグナは殊更優しく、レオンに触れるように努めていた。

レオンの手がもう片方も持ち上がって、ラグナの頬を包み込む。
耳の縁に指先が触れるのがこそばゆくて、ラグナがふふっと笑うと、伝染したようにレオンの口元も緩んだ。


「ラグナさん……」
「うん」
「……ラグナ…」
「うん」


レオンはラグナの顔を撫でながら、其処にある存在を確かめるように、何度も恋人の名前を呼ぶ。
何かある訳でもなく、ただ名前を繰り返すレオンに、ラグナは短い返事を返してやった。

放って置けばいつまでもラグナの顔を撫でているであろうレオン。
ラグナはそんなレオンの背中を抱いて、起き上がるようにと促した。
レオンがラグナの肩に掴まったので、二人でゆっくりと体を起こす。
ベッドの上に向き合って座った格好になると、またレオンの手はラグナの顔へと移動して、ぺた、ぺた、と掌でラグナの顔の形を確かめた。


「レオン」
「…はい」
「俺の顔、好き?」
「……はい」


ラグナの問いかけは唐突なものだったが、レオンはその意図を確かめる事もなく、素直に頷いて答えた。


「一番好きな所ってある?」
「…一番、ですか?」
「うん。俺の顔で、一番好きな所」


続けた問いかけに、レオンはうぅん、と首を捻る。

ひた、とラグナの額にレオンの手が触れて、長く伸ばされた前髪をそうっと撫で上げる。
さらさらと指の隙間から零れ落ちて行く黒髪を眺めた後、レオンの手はラグナの眉へと触れた。
整った形を指先がそっと辿り、生え際まで来ると、直ぐに下にある目尻へ。
ぱち、ぱち、と瞬きをするラグナの邪魔にならないように気を付けながら、レオンの指はゆっくりとラグナの涙袋の縁をなぞった。


「……目……」
「目?」
「……綺麗な碧色で、きらきらしていて、好きです」


そう言って、レオンは眩しそうに目を細めた。
じっと見つめる瞳から、愛しいと言う感情が惜しみなく溢れ出す。

ラグナはそんなレオンの顔をじっと見つめ、ゆるりと笑みを浮かべて、


「そっか」
「はい」
「俺も、レオンの目、好きだなぁ」


お返しにとレオンの好きな場所を告白すると、レオンの頬がほんのりと赤くなる。
恥ずかしそうなレオンは目を逸らしたがっているようだったが、そうすると自分がラグナの顔が、眼が見れなくなるので、もどかしい葛藤が生まれたらしい。
逃げては戻る、向かう先の定まらない蒼灰色に、可愛いなあ、とラグナはくつくつと笑った。

結局レオンは、またラグナと向き合った。
照れ臭さより、ラグナの顔を見ていたいと言う気持ちが勝ったようだ。

もう一度レオンはラグナの顔に触れて、火照りの落ち着いた肌をそっと撫でる。
滑って行く指先が、小さなピアスの穴が開いた耳朶を掠めて、そのまま後ろへと流れて行く。
項にかかる髪の隙間に指が、手が通って、レオンの腕がラグナの首へと絡み付いた。
ラグナは、近付いて来るレオンの顔をじっと見詰めて、その唇を迎え入れる。


「ん……」


柔らかな感触を確かめるように、レオンはラグナの唇に長い間触れていた。
薄く開かれた蒼の瞳が、長い睫毛の隙間から覗くのを、ラグナはじっと見詰めている。

熱に浮かされ、一度蕩けた甘い瞳。
眠って目覚めればきっといつも通りの冴えた光を帯びる宝石は、今夜のうちはラグナの虜であり続けるだろう。
普段は人目もあって具に隠しているその感情が、止める事を忘れたように溢れ出す様が、ラグナは好きだった。
だからラグナは、レオンの目が好きなのだ。
どんなに隠す事に長けていても、本当は何よりも正直な瞳だから。

満足するまでラグナを感じて、レオンはようやく唇を離す。


「は…ふぅ……」
「満足した?」
「……少し」


ほうっと息を吐いたレオンにラグナが訊ねれば、レオンは微かに頬を赤らめて答えた。
だが、瞳の奥には、不満とまでは言わずとも、物足りなさげな色が滲んでいる。

ラグナはレオンの頭をわしわしと犬を撫でるように掻き混ぜた。
柔らかな毛質の髪が、ラグナの指の隙間からぴんぴんと跳ねている。
レオンは掻き撫ぜる手を大人しく受け入れて、くすぐったそうに目を細めて笑っていた。
そんなレオンに釣られるように笑いながら、ラグナはレオンの頬に口付けた。
突然の事に驚いたように目を丸くするレオンに構わず、何度も触れては離れて、レオンにキスの雨を贈る。


「ラグナさん、」
「ん~?」
「ふふ……」


恥ずかしがるかと思いきや、レオンは上機嫌だった。
照れ臭いのか未だに頬は赤かったが、ちょっと待って、とも言わないので、ラグナも構わず続ける。
これは反って朝になってからの方が大変かも───と理性を取り戻した時のレオンの慄く様を想像したラグナだったが、目を閉じて口付けを享受する青年の姿に、それもまた良いかと思う事にした。

目一杯にレオンを愛でるラグナだが、幾ら触れてもまだ足りない、と思う。


「んー……な、レオン」
「はい」
「もう一回して良いか?」


瞼に口付けながら言ったラグナに、レオンは「え、」と小さく声を漏らした。
ラグナは唇を離して、レオンの顔を見て訊ねる。


「駄目か?明日も仕事あるしなぁ」
「それは、その。そうですけど」
「一回だけでも?」


駄目かなあ、と言うラグナの顔は、眉尻を下げて弱った子供のようだ。
レオンが自分のそんな表情に弱い事を、ラグナは知っている。
ちょっと狡い事してるよなあと思いつつ、レオンに自分を受け入れて欲しくて、そんな言い方をした。

するとレオンは、近い距離にあるラグナの視線から逃げるように俯いて、


「……別に、俺は…その…駄目とは……言ってない、です……」


レオンのその言葉に、ラグナはぱちりと目を丸くした後で、確かにそうだと小さく笑った。

明日も仕事があるし、明後日だってそれは同じだ。
ラグナはそれなりに歳を重ねているから、何度も出来ないし、遅くまで起きていれば疲れも残ってしまう。
だから二人の情交は、ゆったりと長い時間をかけた一回、二回で終わる事が多い。
お互いの事を慮っての事であるから、レオンもそれに不満がある訳ではないが、やはり改めてもう一度とラグナに求められるのは嬉しかった。

どちらともなく唇を重ねて、角度を変えて、深く舌を絡ませ合う。
ラグナの手がゆっくりとレオンの背中を辿って行くに連れ、蒼の瞳がまたとろりと溶けて行く。
其処に映り込んだ碧色も、再び芽吹き始めた熱を露わに映し出していた。





しっとりしっぽりなラグレオ。

偶には好きな人に甘えたり好き好きって素直なレオンも良いんじゃないかなと思った。
普段はしっかりしているレオンが、甘えモードに入るとデレデレになるのが可愛いラグナも良いな。

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