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[フリスコ]静寂の眠りに

  • 2021/02/08 22:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


皇帝の居城であるパンデモニウム城は、迷路のような作りになっている。
その上、あちこちにトラップが仕掛けられているのが常であった。
生き物のような壁が突然消えたり現れたり、床や天井が針のように突き出して来たりと言った物理的なものは勿論、不可視の魔力を施した魔法トラップもある。
魔法トラップに関しては、魔力探知に優れた者がいれば、ある程度の回避は可能だが、それも全てではない。
いやらしい策謀を巡らせる皇帝らしくとでも言うのか、二重に三重にと張り巡らされたトラップは、其処で戦い慣れた者であっても中々に面倒な代物であった。

パンデモニウム城の複雑さは、混沌の大陸に近いほど、その深度を増す。
やはり、混沌の力が強く作用する事で、中の精密性も高くなるのだろうか。

秩序の戦士達は、タイミングを見ては誰かが混沌の大陸に渡り、大陸内部の探索調査を行っている。
混沌の大陸は相手側の陣地の真っ只中であったが、大陸の調査は不可欠だった。
一人で行くのは流石にリスクが高い為、出来る限り、二人以上の班を組んで調査に向かう方針が立てられている。
今回はフリオニールとスコールがその役目を担うことになった。
魔力の探知に長けた者が一人欲しい所ではあったが、ティナもルーネスも昨日の戦闘で魔力を多く消費しており、その回復が追い付いていない。
その為、今回の調査は深くは踏み込まず、既に調査済みの所の確認を主として、また異常があれば直ぐに報告に戻れる場所まで、と決まった。

そんな道中で見つけた赤い歪に入った二人を、パンデモニウム城が迎え入れる。
見通しが悪く、一所に留まって様子を見るにも不向きな場所に、スコールが舌打ちをしたが、愚痴を言っていても空間の様相は変わらない。
まだ此方に気付かず、二人は彷徨うように歩き回っているイミテーションに奇襲をかけた。
幸いにも練度の高いイミテーションの姿はなく、程無く全ての人形を片付ける事が出来たのだが────


「フリオニール!」
「!」


出口へ向かおうと踵を返したフリオニールの背を、スコールが強く押した。
前へ数歩、蹈鞴を踏んだフリオニールが振り返ると、青い靄に覆われたスコールの姿がある。


「スコール!」
「……っ」


助けに走ろうとするフリオニールを、スコールの蒼が睨む。
来るな、と制するスコールの声を読み取って、フリオニールは二の足を止めた。

スコールはまとわりつく靄を、腕と頭を振って払い除けた。
靄が完全になくなるのを確かめてから、フリオニールが駆け寄る。
目元に手を当て、ふらりと足元をよろめかせたスコールを、フリオニールの腕が支えた。


「スコール、大丈夫か?」
「ああ……」
「すまない、トラップがあったんだな。毒…ではなさそうだけど」
「……コンフュかスリプルだと思う。少し眩暈がするような…」


そう言ってスコールは、戦闘が終わった後で良かった、と呟く。
どうやらスコールは精神感応系の魔力耐性が低いらしく、かかってしまうと進行が早く、抜けも遅い。
もし戦闘中にこのトラップを食らっていたら、意識が揺らいで応戦どころではなかっただろう。

とは言え、戦闘後でも決して安心できない環境である事は変わらない。
庇われた形となったフリオニールは、自分の代わりにトラップを食らったスコールに、すまなかったな、と詫びてエスナを唱えた。


「俺の魔法じゃ大して効果はないかも知れないけど」
「……十分だ」


フリオニールの手から魔法の光が消えると、スコールはしっかりと両の足で立つ。
行こう、と促すフリオニールにスコールは頷いて、今度こそ二人は歪の出口へと向かった。




パンデモニウム城の歪を出てからは、其処を中心にして調査を続けた。
赤い魔紋の歪は件の一つだけ、後はまだ清浄な青を灯している。

鬱蒼とした森を抜け、広大な砂漠が広がる場所まで来た所で、空は夜闇に覆われていた。
砂漠には視界を遮るものが少なく、イミテーションに見付かり易い上、風除けもないし、冷えも酷い。
砂漠に出るのは明日にしよう、と言ったフリオニールに、スコールも同意した。

スコールが焚火を作っている間に、フリオニールは一度森に戻って、夕飯にする魔獣を仕留めた。
野営地に戻ると、焚火の傍でスコールがうつらうつらとしている。
今日は歪内の戦闘は一度だけだったが、聖域を出立してから此処まで、丸一日歩き通しだ。
疲れているのも無理はないと、フリオニールはスコールを休ませて、魔獣を捌いて簡単な肉のスープを作った。
それが食事の形になる頃には、スコールも揺らせていた頭をしゃんと戻していた───ように見えたのだが、


「………」


半分になったスープの入った器を持って、スコールはぼんやりとしている。
焚火を挟んで向かい合う位置にいたフリオニールは、空になった器を持って、茫洋と揺れる蒼を見詰めていた。


「……スコール?」
「……」


呼ぶとスコールは顔を上げた。
一拍を置いて、ゆっくりと。
青の瞳がフリオニールを捉えるが、どうにもその光が弱い気がして、フリオニールはええと、と少し迷った後、


「…大丈夫か?これ、口に合わなかったかな」
「……問題ない」


答えて、スコールはようやく食事の続きを始めた。
食べ進めると言うことは不味かったと言う訳ではないのだろう、多分。
フリオニールは、黙々と口を動かしているスコールの貌を注意深く観察して、半ば希望混じりにそう思うことにした。

スコールはフリオニールやティーダ程に健啖家ではない。
元々食に対しての執着もそれ程強くはないようで、必要なエネルギーが確保できれば十分、と言った風だった。
それでも食事のスピードは遅くはなく、会話に参加せずに黙々と食べ進めている事もあってか、メンバーの中で一番に席を立つ事も少なくない。
……が、今日のスコールの食事は、随分とゆっくりだ。

いつもの倍の時間はかかって、スコールは食事を終えた。
食器類を片付けた後は、賑やか組でもいれば他愛のない会話が始まるのだが、今日は二人きりである。
静かな夜は久しぶりだな、と思いながら、フリオニールは焚火の向こうの少年を眺めていたのだが、


「………」
(……なんだか、眠そうだな……)


スコールの長い睫毛が、半分ほど降りている。
焚火が揺れると、眩しそうにゆっくりと瞬きをして、次に持ち上げられるまでに間が空いた。
時折頭が落ちて行き、それに気付いたかごそごそと身動ぎして姿勢を戻すが、まだゆっくりと落ちて行くのを繰り返していた。


「……スコール?」
「……なんだ」


名前を呼ぶと、一拍置いて返事があった。
ブルーグレイの瞳には今こそ光が灯っているが、数秒の間を置くと、またほわりと柔らかくなる。


「ええと……その。眠いのなら先に寝ていていいぞ。見張りは俺がするから」
「……別に、眠くはない」
「そう、か……?」


否定するスコールの言葉に、フリオニールは眉根を寄せる。
焚火越しにまじまじと顔を見るフリオニールだが、その印象はやはり眠そう、と言うもの。
誰がどう見ても、今のスコールは、眠気を我慢しているようにしか映らないだろう。

フリオニールからの疑惑の視線を誤魔化すように、スコールは傍らに置いていた薪を焚火に放った。
からん、と薪が転がって、火がゆらると揺れると、猫のようにスコールの双眸が細められる。
そのまま目を閉じ続けていたら、程無くて寝てしまいそうな、それ位にフリオニールから見た今のスコールの様子は無防備なものだった。

フリオニールの脳裏に、数時間前の歪で起きた事が蘇る。


(スリプルのトラップだった、とか?)


あの時は、スコールの意識が飛ぶ程の効能はなかったようなので、フリオニールのエスナでも十分治療が出来たように思えた。
しかし、遅効性とでも言うのか、エスナで一時的に効果が軽減されていたのか、どちらにせよ時間が経って再びトラップの効能がスコールに効き始めた可能性は否定し切れない。

フリオニールはぐるりと周囲を見回して、安全を確認した後、スコールに言った。


「スコール。見張りは俺がやるから、今日はもう休んだらどうだ?」
「……」


休息を促すフリオニールを、蒼の瞳がまたゆっくりと向き合った。
相変わらず遅い瞬きを繰り返しながら、スコールはしばしの間の後、ふるふると首を横に振る。


「…まだ良い」
「無理しなくて良いんだぞ」
「…別に無理はしていない」
「そうは見えないんだが」
「……あんたの方こそ、先に寝れば良い。見張りは俺がする」


言い返すようなスコールの口調であったが、フリオニールは眉尻を下げるしかない。
何せ、口ではそう言っていても、スコールの顔が眠そうなのだ。
意地を張っているのか、それとも自分が眠いことまで認識できない程に眠いのか。
自己への状態の認識がズレていると言うのは、まあまあ良くないよな、と思いつつ、フリオニールは腰を上げた。

フリオニールはスコールの隣へ移動すると、すとん、と腰を下ろす。
スコールはその様子を、猫が飼い主の動きを観察するように、じっと目で追っていた。
そして隣に落ち着いたフリオニールを見て、不思議そうな顔をしている。


「……フリオニール?」


どうした、と訊ねるスコールに、フリオニールはマントを拡げると、スコールの背中を覆って、その肩に腕を回した。


「何……」
「ちょっと寒いなと思って。俺が寝るまで、暖になってくれると有り難いな」
「……」


へら、と笑って言ったフリオニールを、蒼瞳が丸くなって見詰めている。
眉間の皺が減って幼く見えるその顔を、フリオニールがじっと見詰め返していると、


「……」


スコールは俯いて、すり、とフリオニールの肩に頭を摺り寄せた。
鎧の感触の所為だろう、「……かたい」と小さく呟いたのが聞こえる。
こればっかりはとフリオニールが苦笑していると、スコールはより熱を求めるように、体ごとフリオニールに寄り掛かって来た。
フリオニールは何を言う事もなくそれを受け止め、より体温を感じやすいようにと、スコールの肩を抱き寄せる。

ぱち、ぱち、と焚火が小さな音を鳴らす。
それがこの静寂の中で仄かに耳に心地良くて、スコールの瞼がゆっくりと下りて行く。
程無く、すぅ、すぅ、と寝息が聞こえてくるようになって、フリオニールはマントの中で眠る少年を見て、小さく唇を緩ませたのだった。





2月8日と言うことでフリスコ!
ねむねむしてるスコールを寝かしつけるフリオニールが見たいなって。

このままスコールが一頻り寝て起きるまで、フリオニールはスコールとくっついたまま過ごしてると思います。
スコールは寝惚けてたようなもんだったから、目が覚めた時にぴったり密着してる状態に驚くんだと思う。

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