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[セシスコ]不確かなものより確実な

  • 2023/04/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



「あんた、慣れてるよな」


そう言ったスコールに、セシルはぽかんと目を丸くしていた。

唐突と言えば唐突であったスコールの言葉が、なんとなく、彼が何を指してそう言ったのかは読み取れた。
と言うのも、時間は深夜も更けた頃、場所はセシルの部屋のベッドであったからだ。
更に付け加えれば、ついさっきまで二人は濃密な時間を共有していて、体にはまだその熱の名残が宿っている。
もう一回なんて言ったら怒るかな、なんてセシルが思っていた所に出て来た台詞だったから、間違いなく、それが閨の過ごし様を指していると言う事は、余程に鈍い人間でも読み取ることが出来ただろう。

とは言え、どうしてスコールがそんな事を言い出したのかは、まだ想像し難いものだった。
何処か拗ねたように唇を尖らせているスコールに、セシルはええと、と頬を掻き、


「それは───セックスのことで良いんだよね?」
「他にないだろ」


スコールは時々、溜め込んだ後に最後の部分だけを零す癖がある。
それで誤解が生じることも多いので、セシルは念の為に確認を取ったが、スコールはむっとした表情でぶっきら棒に肯定した。
怒ったような表情になったのは、「わざわざ言わなくても判るだろ」と言う、少々子供めいた自分勝手な期待から来るものだろう。
それを裏切ったのは申し訳ないと思うが、かと言って、下手な誤解を作りたくもなかったから、こう言った確認は許して欲しい。

それはともかく、スコールがそんな事を言い出した理由だ。
セシルは一考してみたが、幾ら恋人の言葉と言えど、ヒントもなしに解に辿り着くのは難しい。
スコールが自分の心中と言うものについて、明確な説明を得意に思っていないことは分かっていたが、やはりこれも改めて問いかけてみる他ないだろう。


「どうしてそう思ったの?」
「……」


回りくどい訊ね方をしても、スコールのヘソを曲げてしまうだけだ。
直球に聞いてみると、スコールは思った通り、口にするのは嫌と言う表情を浮かべた。
しかしセシルが柔い笑みを浮かべて見詰めていると、存外とお喋りなブルーグレイを右へ左へと逃がした後、はあ、と溜息を吐いて、


「……あんたとすると、すぐに変になる」
「気持ち良くなるってこと?」
「………」


じろ、とスコールが此方を睨んだ。
剣呑な目つきに反して、耳の先まで赤くなっているのを見れば、それが正解であると判る。
それは良かったとこっそりと思いつつ、セシルは先を促した。


「……俺は、あんたが初めてだ」
「そうみたいだね。ちょっと嬉しかったよ」
「……そういう事は別に聞いてない。それで、初めてって言うのは……きついものなんだろう、普通は」


また顔の赤みを深め、苦々しく視線を逸らしつつ、スコールは言った。
その言葉に、セシルはううんと考えつつも、一般的にはそう言われていると頷く。
これは男同士のことであることは勿論、男女の場合であっても、そう変わりはあるまい。

スコールは顔を埋めた枕を抱きかかえるように捕まえながら、ちらと隣の恋人を見遣り、


「あんたとする時、全然苦しくない訳じゃない」
「そうだね。見ていて、そうなんだろうなとは思うよ」
「……でも、大体それは最初の方だけだ」


その言葉に、それは努力の甲斐があったな、とセシルは思う。

スコールは彼の世界で言えばまだ学びの下にいる段階で、異性交流と言うのもそう広くはなかったという。
彼の性格からして、そうなのだろうなとはセシルも想像していたが、しかし若者が多く集まる場と言うのは、良かれ悪しかれ奔放にもなるものだ。
セシルも一兵卒としてタコ部屋で過ごしていた頃は似たような環境だったし、風紀を乱し易い者が一人や二人もいただろう。
スコールの場合、そう言った人間にも滅多に近付かない性質だったから、それらとは一線を隔していたようだが。
お陰でスコールは、この世界で初めて、セシルの手によって開花された。
それを彼自身がどう思っているかはまだ判らないが、こうして閨を共にするのを厭われていない事を思うと、セシルもついつい嬉しく思ってしまう。

と、そんな訳で、ベッドの中のことについて、スコールは全くの未経験であった。
性教育と言うのは、青少年の健全な成育の範囲で教えられてはいたそうだが、無論、実践の経験はない。
教わっていた範囲ですら知り得なかった、同性同士の性交と言うものをするに辺り、必然的にリードはセシルが持つことになった。
それは年齢であったり、経験であったりと、色々と理由があるものだが、そうなるのが無難である事だけは間違いではなかっただろう。
組み敷かれる側になる方が、少なからず負担が大きくなることは判っていたが、かと言ってスコールも、下手なことをしてセシルを傷付けたり、次を忌避するようになるのも嫌だった。
何より、セシルがスコールを抱きたいと思ったのが、二人のポジションの決め手となった。

そうして既に片手では足りない夜を共に過ごして、スコールは思ったのだ。
セシルは、“こう言う事”に慣れている────と。


「……初めてあんたとした時も、そんなにきつくはなかった」
「時間をかけたからね。君は、焦らすなって怒ったけど」
「……言ってない、そんなこと」
「ふふ、そう言う事にして置こうか」


笑みを浮かべるセシルに、スコールは枕に口元を埋めて舌打ちした。
全く悔しさを隠せない少年の横顔に、本当に素直だなあとセシルは頬を緩めている。

スコール曰く。
セシルとのセックスは、初めてした時のことも含めて、辛いのは精々最初の方だけだと言う。
恥ずかしさやどうにも慣れない異物感に歯を噛んでいる時間はあるものの、次第にそれも判らなくなるのだとか。
セシルが触れている場所から、彼を感じる場所から、段々と力が抜けて行くと、いつの間にか頭の中はその心地良さだけで一杯になっている。
其処まで行ってしまえば、もう苦痛らしい苦痛を感じることもなく、ただただ熱に翻弄されるだけ。
後になって腰が痛いとか、少し無茶な体勢をした所為で背中が軋むとかはあるけれど、傷になるような事は先ずなかった。
それだけセシルが丁寧にスコールの体を慣らし、十分に解れた上で挿入していると言う事だ。

だからスコールも、セシルと行為をする事に、抵抗する気持ちも徐々になくなってきている。
この間もしたのに───と言う理性の抵抗はあれど、忌避する程に嫌悪を覚えた事もなかった。

───そんなスコールの話を聞いたセシルは、恥ずかしそうに赤らんでいる恋人の頬に触れながら微笑む。


「君が辛い思いをしていないのなら良かったよ」
「……まあ、それは、……感謝はしている」


視線を反らしながら言ったスコールに、セシルは面映ゆいものを感じて、眦にキスをする。
スコールは目尻に触れる和らい感触に目を細めつつ、


「ただ、それはそれで」
「うん?」
「……あんたはやっぱり、慣れてるんだな。こう言う事に」


蒼の瞳が、また拗ねたようにセシルを見る。


「………した事があるみたいだ。男との」


睨むような、探るような、そんな顔が其処にはあった。
自分が知らない何処かで、今の自分と同じ立場にいる人間がいたのではないかと、疑うような。
それでいて、そうであって欲しくないと、此処は自分だけの場所なのだと信じたがっている瞳。
本当に、感情が全て瞳に出て来るのだと、セシルは眉尻を下げて苦笑する。

スコールに触れていた手が滑り、まだ赤みの引かない耳に触れる。
くすぐったさにか、スコールが逃げるように頭を揺らしたが、セシルは指先で耳朶を摘まんでやった。
ぴく、と震えるスコールの肩に唇を寄せ、小さな花を咲かせてやる。


「まあ、一応、立場もあったから、そう言うことがなかったとは言えないだろうな」
「……こう言う事をする立場ってなんだよ」
「男所帯の軍属だと言えば、君も少しは判るんじゃないかな。あんまり褒めれるものでもないけどね」
「……」


彼も、セシルと形は違えど、兵隊として生きるべく学びを積む場所にいると言う。
であればと俗な話を匂わせると、少なからず理解が及んだのか、スコールは納得と不満の間の表情を浮かべる。


「まあ、僕も自分の世界のことがはっきり思い出せない所があるから……正確な事は言えないけど。でも、そうだな。こうして抱いて、可愛いと思うのは、スコールだけだって言うのは、本当だよ」
「……証拠もない話だ」


スコールはふいと視線を逸らして言った。
振られたなあ、とセシルは思ったが、スコールの頬が赤くなっているのを見付けて、くすりと笑みを漏らし、


「じゃあ、証拠を見せてあげようか」
「は?────ちょ、待っ、」


耳朶に触れていた手を、その向こうに回しながら、顔を近付ける。
中性的な印象を持たせる顔が近付いて来るのを見て、スコールが焦った表情を浮かべて止めようとするが、聞く訳もない。
後頭部をしっかりと捕まえ、指先で顎を持ち上げ、上向いた唇を塞いでやれば、蒼灰色の瞳が零れんばかりに開かれた。

熱の名残を持つ咥内を、たっぷりと愛でて濡らしてやる。
耳の奥で鳴っているであろう音を、何度も何度も聞かせてやれば、細身の肩がぴくぴくと震えるのが判った。



4月8日なのでセシスコ!
この後はお楽しみになるのだと思います。

中世西洋ファンタジーな世界観のセシルなら、20歳で十分色んな経験をしてるんだろうなあと言う夢。
現代感の強いスコールから見たら、セシルや他ファンタジー強めな世界の成人は経験豊富だろうな~悔しさこみで拗ねそうだな~って言う話。

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