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2026年08月

[16/シドクラ]煽情

R15




どうにも上手くいかないことはあるものだ。

取引先のひとつが、すっかり駄目になってしまった。
それなりに大きい案件として依頼があり、こちらも人数態勢を整えて挑んでいたのだが、それも水の泡。
原因はあちら側の内々にあって、いわゆる不祥事と言うもの。
詳しい事はシドもまだ追っていないが、締結に向けていた話がすっかり飛んだのは間違いない。
何せ、当事者である相手の会社が火の車と化したので、こちらも関係を続ける訳にはいかなかった。
損害のことを考えると、シドも早々に打ち切るしかなかったのである。

上手く言えば実入りの多い話だったのだが、こうなってしまっては仕方がない。
幸いなのは、まだ本締結まで至っていなかったことで、仕事そのものを積み上げていなかったこと。
だが、それに向けた具体的な準備はしていたから、そのコストが無駄になったのは痛かった。
気持ちとしても、懐としても。

嘆いたところでどうなる訳でもない。
この事態を受けて、シドは根回ししていた関係各所に、事情説明と詫びの行脚をすることになった。
────それが、今日一日のことである。

外回りは自分の仕事と請け負っているが、昨今の夏、延々と外を歩くのはお薦めされない。
天気予報では「危険な暑さとなっています。外出は必要最小限に留めましょう」などと言ってくれるが、それが出来れば苦労はない。
電話一本で済ませてくれるところばかりではないから、直に出向く必要がある。
車で動けるだけマシではあるが、その車内も五分も日向に置けばサウナと化す。
数時間後とにコンビニで水分を入手して、ついでにアイスで体の深部体温を下げなくては、とてもやっていられない。

お陰で今日のシドは、始業の時以外、全く自社に寄り付かなかった。

行脚が終わった時には、時刻は終業時間になっていた。
オットーに連絡して、事務所の施錠を頼み、今日のところはそのまま直帰させて貰う。
旧友はシドの疲れ具合を察したようで、「ああ、判った」のひとつ返事で許してくれた。

夜になっても気温は中々下がらない。
都会のコンクリートジャングルは、足元も建物もすっかり燻され、一向に温度を下げない。
日が暮れてようやく、日光が直接当たらなくなって、少し楽になったかも知れないな、と思う程度だ。

家に帰ると、同居人である恋人のクライヴが、夕飯を作っていた。


「お帰り。夕飯はもうすぐだけど」
「ただいま。あー……その前に風呂に入ってくる。汗で酷い有様だ」
「俺も帰った時に入った。湯は抜いてないから、すぐ入れる」
「そいつは有難い」


気の利く采配に、シドは久しぶりに口元が緩んだ。
鞄をダイニングテーブルの椅子に置いて、すぐに風呂場へと向かう。

同じ40℃でも、外気温を押し付けられるのと、温められた湯では全く違う。
汗でべたつく体をすっかり洗い流すと、気分が変わった。

リビングダイニングに戻れば、そのまま夕飯だ。
気を利かせたクライヴがビールを出してくれたので、一杯やりながら腹を満たす。
椅子にすっかり落ち着いて、のんびりと傾ける酒と、つまみになる食事。
それでようやく、今日一日の苦労から抜け出せた。

疲れはあったが、寝るには聊か惜しかった。
時間もそれなりだったから寝床に入っても構わないが、なんとなくそう言う気にならない。
リビングのソファに座って気晴らしにテレビを見ていたが、


「シド」
「ん?」


呼ぶ声に振り返れば、ソファの後ろにクライヴが立っていた。
見下ろす青に、薄らと期待の色が滲んでいる。

シドはくつりと笑って、指先で「来い」と示した。
クライヴが背凭れに寄り掛かりながら、整った顔がシドへと近付いて来る。
唇を合わせてやれば、青が嬉しそうに細められた。

テレビの電源を切って、クライヴが隣に座る。
唇を重ね合わせて、丹念に咥内をまさぐりながら、唾液を交換した。


「ん……ふ……」


クライヴが鼻にかかった声を漏らす。
その見栄えの良い体躯にシドの手が這うと、クライヴも応じるように、夜着のシャツを捲る。
直接、と求める無言の訴えに応える形で、シドの手が体温の高い肌に濡れた。

愛撫を与えている間に、クライヴはボトムも緩めていく。
盛んな年齢であるから、彼の中心部は既に反応していた。
そこも軽く触れてやれば、ビクッ、と腰が震える。


「は……っ、シド……」
「ああ……」


求める声に、シドもじわりと熱が浮かぶ───筈だったが、


「……」
「シド?」
「いや……」


ふと動きを鈍らせたシドに、敏いクライヴも気付いた。
どうかしたか、と問う視線に、シドは答えを濁らせる。

───もう一度、とシドは気を取り直した。
クライヴの首筋に唇を当てて吸い、彼の体に触れる。
意外と他人に触れられることに慣れていない体は、シドの触れ方をよく覚えて、素直に反応を示した。
その様子を見ているだけで、いつもシドは興奮を煽られて行く。

今日もそうだ。
もどかしげに体を捩るクライヴの姿に、シドは確かに興奮を抱いている。
……の、だが。


「……クライヴ。悪い」
「え?」


唐突に詫びたシドに、クライヴは夢見心地の名残の中で首を傾げる。
何かあったか、と問う瞳に、シドは苦い表情を浮かべて、


「……駄目だな。勃たない」
「は?」


今まさにと言うところまで寄せていた体を放し、そう言ったシドに、クライヴは困惑の表情を浮かべている。

シドはソファに座り直して、背凭れに寄り掛かって天井を仰ぐ。
気分は確かにその気であるのに、体がそれについて行っていない。
クライヴもその様子を服越しに察したようで、途端に不安そうな表情になった。


「シド、」
「お前の所為じゃないよ。ただの疲れだ」


自己卑下が早いクライヴが、いたずらに自分を貶めないように、シドは先に言った。
でも、とクライヴは言いたげな表情をするが、シドはその目尻に軽く指を擦り付ける。


「一日、外を動き回ったからな。その所為だろう」
「そう、か……」
「気分は乗ってるんだがな」


あくまでしたくない訳ではないのだと、シドは念を押す形でそう言った。

シドは自身の下肢に手を遣って、下着の中に手を入れた。
自分のものを握って見ると、すっかり草臥れていて、まるでその気がない。
刺激でもすれば少しは反応するかと揉んでみるが、あまり効果はなさそうだった。

───はあ、とシドは溜息を漏らす。
こういうものは、無理に反応させようとした所で、反って心理的プレッシャーで余計に鈍くなる。
心配そうにこちらを見ている男にとっては物足りないかも知れないが、今日の所は、他の方法で応じるしかないだろう。

そう思っていると、


「シド、ちょっと」
「ん?」


横合いから伸びてきた手が、シドの下肢に触れる。
クライヴは少し緊張した面持ちで、下着の中へと手を入れた。

先に侵入していたシドの手を辿って、クライヴは中心部へと辿り着く。
節のある大きな手が、そこを包み込むように柔らかく握った。
感触からして、萎えた状態であることはクライヴにも伝わったらしく、彼の眉根が僅かに潜められる。


「なる、ほど……」
「したい気持ちは、山々だが。これじゃお前を満足させられやしないだろう」
「……」


肩を竦めるシドに、クライヴはなんとも言えない表情を浮かべていた。

ちら、と青色が上司兼恋人の顔を見て、少しの逡巡の後、ゆっくりと近付く。
その意図を読み取ってシドがじっと待っていれば、髭のある頬にキスをされた。
触れては離れる口付けが繰り返され、それと同時に、中心部を握る手がゆっくりと動き出す。

クライヴは指で輪を作って、シドの中心部を扱いている。
不慣れな動きではあるが、同じ性を持つ者同士だから、どう触れれば刺激になるのかは判っていた。


「シド……」
「いじらしいことしてくれるな」
「……俺もしたい、からな」


ささやかなボディタッチだけで、クライヴは満足できない。
出来ることなら、ちゃんと中で感じたい。

クライヴの愛撫は、初めこそ恐る恐るとしたものだったが、次第に大胆になって行く。
甘えるように身を寄せてくる男を、シドも抱き寄せてやった。
密着すれば羞恥が反って薄れるのか、クライヴはシドの額や目尻に口付けながら、雄の覚醒を促している。

恋人の奮闘のお陰で、じわじわと熱が集まってくる。
しかし、それでもしっかりと頭を起こすにはまだ足りず、


「……シド」
「ん」
「口は、あんた……嫌いではない、よな」


確かめる形で聞くクライヴに、シドは一瞬、目を丸くした。


「大丈夫か?お前、苦手だって言ってただろう」
「うまく出来てるか分からないから。でも、このままだとあまり……効果もなさそうだし」


シドは自分の胎内で起きている変化が判るが、傍目にはまだそれは出ていない。
この程度では駄目なのかも、とクライヴが思うのは無理もなかった。

クライヴはソファを下りて、シドの下肢を緩めさせた。
取り出した雄に顔を寄せて、恐る恐る顔を近付ける。
小さな口が開かれて、ゆっくりとシドの中心部を咥え込んだ。


「ん、ん……っ」


萎えているとは言っても、それなりの質量があるものだ。
咥え込んだクライヴは、俄かの息苦しさに眉根を寄せていたが、離れようとはしなかった。

縋るようにして足の間に体を割り入れ、懸命な奉仕を行うクライヴに、シドの口端が歪む。
性欲は年相応にあるとは言っても、クライヴ自身は清廉な性格だ。
自ら積極的に性に及ぼうと言うことは珍しく、初めばかりは誘っても、後はシドに任せていることが多い。
そんな男が、珍しく積極的に、かつ自発的にことを進めようとしている様子は、いじらしく、同時に形容しがたい背徳性を漂わせる。

生暖かく濡れた咥内で、雄がじわじわと熱に染まっていく。
それをクライヴが感じ取ったかは定かでないが、彼の奉仕もまた、熱の入りを増して行った。


「ふ、ん、ん……っ!」
「は……クライヴ……っ」


下肢に縋る男の癖っ毛をくしゃりと撫でる。
熱の塊を咥え込んだまま、クライヴの視線だけがこちらを見た。
上目に様子を伺う瞳に、シドが薄く笑みを据えて見せれば、彼は安心したように奉仕を再開させる。

一心不乱に頭を動かすクライヴ。
その耳元や項にシドが指を滑らせると、ひくっ、ぴくっ、と些細な反応が見られた。

クライヴの首の後ろが、じっとりと赤らんで汗を掻いている。
咥内では質量が確かな形になりつつあった。
次第に口に咥えているのは辛くなったか、クライヴは喉奥で小さく咳込みながら、唾液を引きつつ雄を解放する。


「っは……は……、どう、だ……?」


口端の唾液を拭いながら確かめるクライヴ。
その眼には、すっかり頭を起こしたシドの象徴があった。

クライヴの小さな唇から、ほう、と熱のこもった吐息が漏れる。


「これなら……」


クライヴの手が伸びて、自己主張するそれに触れる。
神経が高ぶったお陰で、それだけでぞくりとしたものがシドの背中を奔った。


「シド。これなら、問題……ないよな?」
「見た通りだよ」


シドはそう答えると、もう一度クライヴの頭をくしゃりと撫でた。
頑張ってくれた恋人に、ご褒美の感覚で撫でてやると、クライヴはいつも嬉しそうに眦を緩める。

シドを昂らせている間に、彼自身も熱が増したのだろう。
クライヴは急くようにして衣服を脱ぐと、ソファに膝立ちになって、シドの膝に跨った。
体躯の良い重みが乗って、丁度良い位置を探して身動ぎする。
それをシドからも適度になる場所へ誘導した。



シド、と急く声に併せて、ゆっくりと彼の中へと侵入する。
ようやくの感触に甘い声が漏れるのを聞いて、この声が一番効くかも知れない、とシドは思った。





『シドクラでの現パロで、ちょっとシオシオなシドを元気出させるシチュエーション』のリクエストを頂きました。
可能であれば雰囲気R指定で、とのことでしたので、喜んで書いていた私です。
お仕事大変ですねのシドでした。

いつもはシドの手管が上手いので、任せきりにして安心してるクライヴ。
でもクライヴの方も何かしたいとか、シドを気持ち良くしたいとかはあるので、スイッチが入ると結構積極的だと思う。
たまに見られるその様子に、またシドも興奮してると言いなあって。

[16/ジョシュクラ]君が望むならいつだって



ただいま、と言う声を聞いただけで、弟の疲れ具合はよく判った。
出迎えに玄関まで赴けば、案の定、少しやつれた顔がある。


「お帰り、ジョシュア。大変だったようだな」
「うん……いや、思ったよりは大事じゃなかったから、良いんだけどね」
「俺も行った方が良いかと思ったんだが……」
「ありがとう。気持ちだけで十分だよ。なんとか片は付いたから」


首元のネクタイを緩めながら言うジョシュアに、クライヴは眉尻を下げつつ頷いた。


「風呂を沸かしてある。ゆっくり入ると良い」
「そうするよ。ありがとう」


クライヴはジョシュアの手から鞄とスーツの上着を受け取った。
少しふらついた足取りでバスルームへと向かう弟を見送って、自身はリビングダイニングへと戻る。

────世界的にも名高いロズフィールド家の最大企業の社を、引退した父エルウィンから引き継いで早五年。
通例であれば長男であるクライヴが直に受け継ぐものであったが、内々の交々の末、結局は次男であるジョシュアへと渡された。
対外的に見れば異例の出来事であり、その采配を取った父の下には、親戚縁者から日々電話が止まなかった。
が、今となってはそれも過去のことで、ジョシュアが舵取りの才覚を発揮したことで、実力主義の他家を封殺している。

反面、槍玉に挙げられるようになったのがクライヴだ。
兄としての面目や、弟に使われる立場になったことについて、周囲からは勝手な噂が絶えない。
しかし、クライヴ自身は、自分が大観衆の頭に立つよりも、ジョシュアの方が向いていると自覚がある。
だから今のクライヴは、ジョシュアの側近の秘書と言う立場になって、彼を支えることを役目としていた。

現在、クライヴとジョシュアは、一つ所で共に暮らしている。
対外的にはどう映るにしろ、二人はお互いが最も自分に近い理解者であると思っている。
同居人として、これほど気を遣わなくて良い相手はいなかったし、何より、お互いの存在が他の何にも勝るほどに大切なのだ。
二人それぞれの学生時代、学びの都合で別々に過ごしていた時の方が、余程辛かったと言える。

湯を浴びたジョシュアがリビングダイニングに来ると、夕飯の用意が整っていた。
時間は既に夜の十時が近いのに、温かな食卓が用意されることに、得も言われぬ幸福を感じる。
加えて、それが一人分ではないことに気付き、


「兄さん、食べてないの?」
「ああ。お前が帰ってから、一緒に食べようと思ってな」


テーブルにつきながら言った兄に、ジョシュアは眉尻を下げた。


「ごめん、こんなに遅くなってしまって。お腹空いただろう?」
「はは、まあ……それなりにな」


クライヴは眉尻を下げて笑った。
大丈夫だよ、と言わない辺り、彼もやはり限界だったのだとジョシュアは苦笑する。

クライヴは高校生の頃に寮生活を、大学生では一人暮らしをしていたから、家事全般に親しんでいる。
ずっと実家で母の手許にいることを選ばされていたジョシュアより、慣れたものだ。
スープは昨日の残り物だとクライヴは言うが、そうとは思えないほど、味わい深いものであった。


「美味しいよ、兄さん」
「それなら良かった。人参が入っているんだが、それも大丈夫そうだな?」
「んぐっ」


にんまりとイタズラな笑みを浮かべたクライヴの言葉に、ジョシュアは思わず咽る。
予想通りの反応だったのだろう、クライヴはくつくつと笑いながら、


「すりおろした人参を入れてある。そんなに睨んでも、ほとんど目には見えないさ」
「……」
「美味しいって言ったんだから、その一杯くらいは飲んでくれ。体に良いものだから」


鈍い表情を浮かべている弟に、兄はしっかりと釘を差した。

どうにも子供の頃から苦手な食べ物なのだ、人参と言うやつは。
しかし、食べ物として栄養豊富であることは理解しているし、兄も意地悪で言っている訳ではない。
ジョシュアのことを思うからこそ、この食材を、あの手この手で食べさせようと苦心しているのだ。

見る限り、スープの中には、細かな粒になった野菜が入っているようだ。
それも人参だけではなく、玉葱やパセリなども溶け込んでいる。
ここに大きな人参の塊を投入していないのは、兄の優しさに違いない。

ジョシュアは意を決して、スープをもう一度口に運んだ。
味は何も知らずに飲んだ時と同じなのに、“人参が入っている”と言う情報だけで、喉が途端に拒否をしようとするのだから、人体とは我儘なものである。


「……飲んだよ、兄さん」
「ああ。良く出来ました」
「はあ……いっそ何も知らずに飲んだ方が良かったかも」
「じゃあ、次からはそうしよう」
「……それもなんだかなぁ。警戒しながら食べるのも嫌だ……」


溜息を漏らすジョシュアに、「我儘な奴だ」とクライヴが笑う。
窘める口調ではあったが、いつものことだとも思っているのは間違いない。

他の料理もすっかり食べ終えて、クライヴが食器を片付けている間に、ジョシュアはリビングのソファに座ってパソコンを開いていた。
今日の仕事で穴の開いた部分を埋める為、諸々の都合を動かせないか、マネージャーのシリルに連絡を取る。
返事がすぐに帰って来て、相変わらずあの男はいつ寝ているのだろう、などと思った。

黙々とパソコンを打っている間に、クライヴも風呂を済ませていた。
リビングに戻って来たクライヴの気配に、ジョシュアは液晶画面から久しぶりに顔を上げる。


「兄さん」
「まだ仕事は続きそうか?」
「いや、もう終わるよ。あとは明日で良さそうだ」
「スケジュールの変更は?」
「今のところはまだ。今週は予定通りのつもりだけど、週末が少し判らないかな」
「動くかも知れないんだな。判った、覚えておく」


頭の中のスケジュール帳を、ざっくりと大幅に組み替える。
細かな詰めは明日以降、会社で行った方が間違いがないだろう。

これでようやく、今日一日のやる事が終わった。
ジョシュアがパソコンの電源を落とした所で、ソファの反対側にクライヴが腰を下ろす。
ちらとそちらを見れば、兄弟揃いの青い瞳がこちらを見て、


「お疲れ様、ジョシュア」


そう言ってクライヴは、両腕を差し出すように広げて見せた。
おいで、と促すその仕草に、ジョシュアは吸い込まれるように身を寄せる。

大学の頃からだったか、クライヴは目に見えて体格が良くなった。
その厚みのある胸板に顔を埋めて、ジョシュアはゆっくりと深く呼吸する。


「はあ……」
「今日も大変だったな」
「兄さんも。あちこち呼ばれたんだろう?」
「まあな。でも、お前程じゃないよ」


くしゃり、と大きな手がジョシュアの金糸を優しく撫でる。
その感触を芯から堪能できるのは、この限られた空間の身だと言うことを、ジョシュアはよく判っていた。

この家は、父から跡目として多くを継承した後に、唯一自分の我儘で誂えた、ジョシュアの小さな城だ。
身内のものすらほとんど来訪することはなく、兄と二人きりの生活空間。
職場も生活も一緒だなんて、どんな殺伐としているだろうと、勝手に吹聴している輩がいるのは知っている。
だが、そんな雑音にもならないものは、気にする意味もなかった。
敬愛し、何より大事に思う兄が、余計な音を耳に入れず、自分のことだけを見てくれる場所であれば良い。

ジョシュアがそんなことを思っている間にも、クライヴの手は弟をあやし続けている。


「そう言えば、叔父さんから連絡があった。今季は顔を見れるのか、と」
「もうそんな時期だったのか。そうだね、どこかで時間を作ろうか」
「ああ」
「でも、先ずは今日の予定のズレから見直さないと」
「それがどれくらい影響するか、か」
「うーん……来月まではいかないと思う。だから、うん、行くなら来月か、それ以降か……」
「判った。そのつもりで予定を調整して置こう」


聞こえるクライヴの声は、どこまでも優しい。
ジョシュアには馴染みのあるものだ。

髪を撫でる手を捕まえて、自分の頬へと導く。
クライヴは直ぐにその意図を汲んで、大きな手でジョシュアの頬を、眦をくすぐった。
すこしざらついた肌荒れのある手が、優しく触れてくれることが、ジョシュアは嬉しい。


「兄さん……」
「ん?」


甘える声で呼べば、クライヴは柔い目でこちらを見ていた。
胸に埋めていた頭を少し起こして、首を伸ばし、キスをする。

下唇を吸って、そのまま深く口付けた。
頬に触れていた兄の手がするりと落ちて、ジョシュアはその手に自分の手を絡める。
強く握りしめれば、一瞬は戸惑いか躊躇かあったが、結局兄は握り返してくれた。


「ん、ん……」
「ふ……兄さん……」


ちゅう、と舌を軽く吸って、解放する。
はっ、と甘い吐息が漏れて、ジョシュアの鼻先を掠めた。


「兄さん、良い?」


何を、とも言わずに告げれば、クライヴは困ったように片眉を下げる。


「明日も早いだろう」
「うん。でも、平気だよ」
「寝坊したらどうするんだ?」
「ちょっとくらい、問題ないさ」


ジョシュアは引き下がるつもりがなかった。
クライヴもそれは察している。


「しょうがないな。今日は頑張ったから」
「うん」


赦してくれる兄に、ジョシュアはもう一度キスをした。
寝着のシャツの下に手を入れて、逞しい胸板を撫でていく。

今日は慌ただしくて、仕事の最中に、兄弟で顔を合わせる時間が少なかった。
ジョシュアは件の騒動を鎮静化させる為に方々に向かう必要があったし、クライヴは社内でジョシュア不在の穴を埋めるのに忙しかった。
連絡を取り付けるのは専ら仕事に関することで、普段のささやかな雑談など挟む暇もない。
昼を過ぎた頃だったか、ジョシュアは一瞬、会社の社長室に戻ったが、その時クライヴはいなかった。
お陰で、今日一日、兄弟はすっかりお互いが不足してしまっている。

愛撫を続けるジョシュアの手を好きにさせながら、クライヴは服を脱いだ。


「ベッドに行った方が良さそうだが」
「待てないよ、兄さん」
「だろうな」


くつくつとクライヴが楽しそうに笑う。

ジョシュアの手が下へ下へと向かい、クライヴの窮鼠のあたりを撫でた。
ズボンのウェストの縁を辿るように指を滑らせると、


「ん……、ジョシュ、ア……」


むずがるように名前を呼ぶ声が耳元に聞こえて、ジョシュアは言いようもない興奮を覚える。

クライヴが自らボトムを脱ぎ下ろしていく間に、ジョシュアは彼の頤や首筋に何度もキスをする。
時折舌で皮膚を撫でると、汗ばんだ匂いと味がした。


「兄さん……」
「ん……ジョシュア……」


お互いを呼び合うだけで、体の奥が熱くなる。
それをもっと、深い場所で触れ合いたかった。

裸になったクライヴの秘所に、ついに触れようとしたジョシュアだったが、


「ジョシュア」
「何?兄さん」
「俺からしても良いか」


兄の言葉に、ジョシュアは目を丸くする。
顔を見れば、ほんのりと頬を赤く染めながら、熱を浮かせた瞳とぶつかる。

クライヴはジョシュアの耳元に指を滑らせながら言った。


「今日は疲れているだろう。だから、あとは俺がやろうと思って」
「……してくれるの?」
「人参も頑張ったしな」
「そんな子供みたいな理由で」
「冗談だ」


くつくつと笑うクライヴに、半分は本気だな、とジョシュアは思う。
拗ねた面持ちになる弟に、クライヴは宥めるつもりで頬を撫で、


「少し、お前の手を借りることはあると思うけど。嫌じゃないなら」


ジョシュアは直ぐに首を横に振った。
そんな弟の反応に、クライヴはくすりと笑みを浮かべて、今までのお返しのようにキスをする。

ジョシュアが体を起こすと、二人の間に隙間が出来て、少し寂しさが浮かぶ。
しかしそんなことを気にしていられるのは、一瞬だった。

ソファに座ったジョシュアに、クライヴが跨る形で体を重ねる。
体躯の良い兄の体は中々重い。
クライヴもそれを自覚しているようで、ジョシュアに負担をかけ過ぎないよう、ソファの背凭れに捕まった。

見栄えのする体つきを見せつけるクライヴに、ジョシュアは熱のこもった瞳を細める。


「兄さん。全部見せてくれる?」
「……ああ。お前がそうして欲しいなら」


返事が一拍遅れたのは、捨てきれない理性の所為だ。
それでもジョシュアが望むなら、それに応えてやりたいと、クライヴは思っている。
例えそれが、自分にとってどんなに羞恥心を刺激することでも。

軋む音が続くにつれて、甘露の声も漏れるようになり、思考が浮いて行く。
その様子をひとつでも見逃さないように見つめる瞳に焦がされながら、クライヴは熱を追い続けた。







『攻めを甘やかしたい受』で『ラグスコかクライヴ受』のリクエストを頂きました。
一番受けが攻めを甘やかしたそうなのはジョシュクラだなぁ、と思ってジョシュクラになりました。

現パロで同居してると、この兄弟は際限なくいちゃいちゃしてそうです。
クライヴからすると、仕事場ではともかく、家ではずっと甘やかしてそう。相手が弟なので。
ジョシュアにしても当たり前の特権だと良いなと思いました。

[16/シドクラ]遠い場所にて日常を



世間が長期休暇の時季となれば、シドの会社も例には漏れない。
それぞれの予定・計画の礎ともなる、休日申請が随時届き、事務方はその処理で大わらわである。
できれば希望は叶えてやりたいが、生憎とそうもいかない。
オットーがゴーチェと共にそれを捌いて、可能な限りの希望を通しつつ、全体のスケジュールを調整する。
日取りの交換に応じてくれる者を探し、どうにか都合を変えて貰って詫びを入れつつ、ようやく大方の予定が決まった。

社長であるシドはと言うと、その立場の権限でいつでも休んで構わないことではあるが、彼がいないと回らない案件と言うのも多い。
当人もそれは判っているし、口では自分のずるさを仄めかしながら、その特権を振るうのは好まない質だ。
全体スケジュールが概ね決まってから、彼自身の休みの日取りがつけられた。

それに倣って休む日取りが決まったのが、クライヴである。

先達てまで真っ黒なところで働いていたクライヴだ。
そもそも、休暇申請と言うものを、彼は能動的に利用しない。
体調が思わしくなければ有給休暇を使うことを一考する、と言う程度である。
それが悪い訳ではないのだが、皆が取っている休暇時期の休みを、彼だけ使わないというのも不公平だ。
そんな訳でシドから「公平性の為にお前も休め」と言う、半ば強制の休みが取られることとなった。
日程は、同居しているシドと同じ日で決まった。
シドが勝手に通した話だが、クライヴもそれで反発はしなかった。

かくして二人揃っての休暇が始まり、


「折角だからな。少し遠くへ出かけよう」


そう言ったシドの段取りで、クライヴは彼と共に、避暑地で有名な島へと渡った。

飛行機に乗り、船に揺られてやって来た、群青色の海の中に佇む島。
そこは世界的にも有名なリゾート地として知られた島で、沢山の観光客の憧れの的となっている。
テレビでもよく紹介されるところだから、クライヴも名前は知っている。
海の蒼に映える、真っ白な壁に囲まれた入江の街は、そのコントラストで見栄えが良く、絵葉書でもよく見るものだった。

自宅を朝早くに出発して、島に着いた時には夕刻。
西の海へと沈む夕日が照らす光が、白亜の壁を眩しいオレンジ色に染めていた。
夕餉に誘う匂いや灯りがあちこちて燈る中、入り組む階段迷路を、案内地図を頼りに上へ上へと昇って行く。
中々腰に来る、と苦笑するシドを横目に、クライヴは高台から見える海と島の景色に目を奪われていた。


「ここだ、クライヴ」
「あ───ああ」


名前を呼ばれてクライヴが前を見ると、ホテルの看板を吊るした門がある。
ボタニカルに飾られた門を押し開けると、南洋植物の小庭に迎えられた。
その奥にある扉を開ければ、外観と同じように、白亜色の壁に貝や鱗のオーナメントを飾ったエントランスに迎えられる。

シドが受付で宿泊予約の確認を通し、部屋のキーが渡される。
行こう、と促されて、受付横の階段を登って、奥角の部屋が自分たちの寝床だ。

部屋に入ると、ほう、とクライヴは目を丸くした。
窓から差し込む夕日を取り込んで、部屋の中はオレンジ色と影のシルエットが入り混じっている。
壁が白いから余計な色が混ざらず、虹色の鱗のオーナメントが照明を綺麗に反射させていた。
家具は緩やかな弧を描く曲木で統一され、冷たい印象のあるものはひとつもない。


「良い宿だな」
「ああ。ちょっと奮発した甲斐はあったな」


クライヴの呟きに、シドも満足そうに言って、部屋の隅に荷物を置いた。
クライヴも肩の重石になっていたリュックを下ろす。

きょろきょろと物珍し気に室内を見回すクライヴに、シドはくつりと笑みを浮かべる。


「こう言う場所は初めてか?」
「……そうだな。避暑地の類なら、叔父さんの別荘に邪魔させて貰ったことはあるけど、こういう所じゃなかったし」


言いながらクライヴは、そこここにあるドアを開けてみて回った。
何の設備がどこにあるのか確認もしたかったし、単純に見慣れないので好奇心が勝っていた。

ポットの置かれたミニキッチンに、シャワールームと、トイレ。
どこも白亜色の壁に覆われ、小さな明かり取りの窓もあり、洞窟的だが閉鎖的ではない。
それぞれの部屋には観葉植物も配置され、角の取れたカーブを描くアーチ状の天井が、解放感を演出していた。

寝所とリビングルームも含めて見て回っていると、シドの声が聞こえた。


「クライヴ、こっちに来てみろ。外も悪くないぞ」


外、と言うことは、テラスだろうか。
確か寝室の方に等身大の吐き出し窓があった。

向かって見ると、寝室奥の窓がひとつ、開いている。
夕日の差し込むそこを潜って見ると、小坪程度の広さのテラスがあった。
縁の方でシドが佇み、腰高の壁に寄り掛かって煙草を燻らせている。

テラスからは、海と街と、そして夕日を同時に見ることが出来た。
街は海から内陸に向かって昇り、建物の高さも大きなものはほとんどないから、視界を遮る塊がない。


「これは……すごいな」
「ああ。天気も良いし、海が随分遠くまで見える。ここは当たりだったな」


シドは満足げに笑った。


「ここまで上って来るのはちょいと骨が折れたが」
「そうか?荷物があったから少し疲れたけど、良い運動だろう」
「若いねえ。生憎、こちらは年寄りなんでな」
「それなら低い場所のホテルを取れば良かったのに。宿を選んだのはあんただろう?」
「それじゃこの景色は見れんだろう」


詰まらないことを言ってくれるなと、シドは煙を吐きながら苦笑する。


「お前も気に入りそうな場所を探したんだ」
「それなら、ここで正解だな」
「合格点か?」
「十分」


クライヴの返答に、シドの口角が緩む。

クライヴは柵壁に寄り掛かって、遠くに続く海を見た。
テラスは丁度真南を向き、右側奥にオレンジ色の赤い光が浮いている。
あと小一時間もしないうちに、その光は海と空の境界へ沈んでいくのだろう。
そうなったら、今度は街のあちこちで灯りが燈って、また景色の色が変わるのだ。

海の匂いが風に乗って運ばれてくる。
こんなにも潮風が近い距離を、クライヴは初めて経験していた。


「静かだな」
「ああ。この辺りは小径だらけで、車もほとんどないしな」
「そう言えば、港の近く以外で見なかったな。こうも狭い坂道と階段ばかりでは、無理もないか」
「ちゃんと大きな通りもある筈だが、そっちは通らなかったからな。そっちの方は明日にでも散策してみよう」


シドの言葉に、「ああ、そうだな」とクライヴは言った。
しかし、その眼はじっと海の方へと向けられ、シドの方を見ていない。

オレンジ色に彩られた白い街並みを見つめるクライヴの目は、どこか子供のようだ。
見知らぬ場所に来て、少しの戸惑いと、高揚とが入り混じっている。
透明度の高い青の瞳に、陽光と、遠い海波に反射する光が映り込んで、ちかちかと輝いていた。

シドはその横顔を見つめながら、


(こいつの出を思うと、こんな場所も見慣れたものかと思ってたんだが───いや)


脳裏に浮かんだ想像を、シドはすぐに否定した。

世界的に有名な資産家を出自に持つクライヴだが、その経歴は特殊だ。
本来なら今時分には実家に戻って企業の柱になっている年齢だろうに、彼はつい最近まで、ブラック企業で使い減らされていた。
実家の企業は今は弟が跡目となっている為、兄であるクライヴは放逐された形になる。

実家の母と折り合いが悪いとかで、家を出てからはほとんど帰っていないと言う。
クライヴと母の間のことは、幼い内からずっと続いていることだとか。
母以外とは問題ないそうだが、どうにも自分が家の空気を悪くしていることを感じ取って、帰る足も向かないそうだ。
和気藹々とした家族旅行も、あまり経験したことがないのだろう。

唯一の例外が、クライヴと弟を昔から気に入ってくれている叔父御の下に招かれることだったらしい。
それも山の中の別荘だったらしいから、海を身近に感じることはなかったのだろう。

いつまでも海を見つめて動かないクライヴに、シドはおもむろに手を伸ばす。
癖っ毛の頭をくしゃりと撫でると、ぱちりと丸くなった目がこちらを見た。


「なんだ?」
「別に」


シドは手を離すと、煙草を咥えたまま、部屋の中へと戻った。
クライヴは首を傾げつつ、その後ろをついて来る。

曲木の椅子に腰を下ろして、シドは灰皿を手許に寄せた。


「ここはワインが有名だ。明日、ワイナリーにでも行ってみるか?」
「良いな。近いのか?」
「さてな。まあ、島自体がそんなに大きくはない。行けそうなら歩いて行っても良いし、面倒ならタクシーを捕まえよう」


クライヴもソファに座りながら「そうだな」と頷いた。
それから視線は、壁にかけられた、小鳥の絵が描かれた可愛らしい時計を見る。


「今日のところは、もう夕飯だな。この時間だと、どこも混みそうだが……」
「ホテルの受付で聞いてみるか?」
「宛てもないしな。そうしてみよう。すぐ出るか?」
「こいつが終わるまで待ってくれ」


シドは口元の愛用品を指して言った。
クライヴは眉尻を下げて、しょうがないな、と肩を竦める。

シドは煙草の灰を落としながら、悠々と煙を吐き出した。


「別に焦って出る必要もないだろう。夜が遅くなったって良い。明日はゆっくり起きれば良いからな」
「ゆっくり、か……」


そう言えば休暇なんだった、とクライヴは思い出す。

いつも朝は規則正しく目を覚まし、身嗜みを整えて仕事の準備をしていたが、ここでそんな野暮なことは必要ない。
移動に費やした今日一日は勿論のこと、明日、明後日は休みを満喫すれば良いのだ。
観光だってフリープランだから、いついつにどこそこに行って何を見て、とも決まっていない。
つまり、長々とベッドで午前を潰したところで、何も困ることはないのである。


(明日でも、明後日でも。朝はどうにでもして良いんだ。それなら───)


それなら、いつもよりも、じっくりと。
熱を交える時間を持つことだって、出来るかも知れない。

そんなことを考えて、じんとした感覚が体の奥から滲んでくる。
俄かに熱が昇ってくるのを、クライヴは口元を手で隠して堪えた。


(……何を考えているんだ、俺は。シドは疲れてるだろうに)


今日の単純な移動距離と、ホテルに着くまでの長い坂道とを考えれば、シドは今夜はしっかり休みたいに違いない。
休みだからと、ここがリゾート地だからと、勝手に期待するものではない。
ここには羽根を休める為に来たのであって……とつらつらと、自己説教もどきが頭の中で巡る。

そんな連れ合いの様子を、シドの目はしっかり見ていた。
一人で百面相の真似事をしているクライヴに、シドはくつりと笑って、最後の煙を吐き出す。
短くなった煙草を灰皿に押し付けて、さてと、とシドは椅子を立つ。


「十分休んだ。ぼちぼち行くか」
「あ、ああ」


クライヴは慌てて顔を上げた。
なんでもないように努めて顔を引き締めながら、部屋を出て行くシドを追って、


「ああ、クライヴ」
「なんだ?」


ドアノブを握って振り返ったシドに、クライヴが首を傾げる。
年齢の割に、少し幼い頤をした顔を見て、シドは小さく笑って言った。


「明日なんだがな」
「ああ」
「出掛けるのは昼からでも良いな?」
「それは、別に」
「そうか。じゃあ、今夜は多少、頑張るかな」


それだけ言って、シドはくるりと踵を返した。
部屋を出て行くシドの背中に、クライヴは今日何度目か、ぱちりと目を丸くして立ち尽くす。

今の遣り取りはなんだったのかと、シドの言葉の意味を探して、ぐるぐると頭の中が巡る。
そのうち、それは点と点を結び付け、敏い男に全てを悟られたことを知った。



おい、と紅い顔で声を大きくしたクライヴに、先を行く男の背中は、明らかに笑いを堪えていた。






『現パロシドクラのバカンスか温泉旅行』のリクエストを頂きました。

どこに行かせるのが良いかな~と探しまして、リゾート島に行って貰いました。
シドなら色々考えて、ちょっと非日常感の強い場所で、内装や景色の良いところを惜しまず使いそうだなあと。
クライヴはこだわりはないけど、景色の良い所や、静かに過ごせるところが好きそう。
夕飯の後は、ゆっくりしっぽりしてると思います。

[バツスコ]オプス・ムシウム

  • 2026/08/08 22:20
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

R15
スコールがふたなり(基本男性体)




バッツがスコールと思いを遂げてから、それなりに時間が経っている。
その間、バッツはいつからとは言わないが、悶々とした日々を過ごしていた。

愛し合うなら然るべき行為があって然るべき、とは言わないが、やはりバッツも男だ。
そう言う欲はやはり抱いているもので、それは明確にスコールに向かっていた。

彼が触れあうことを苦手としているのは知っているが、しかし、だからと言って完全に拒絶される様子もない。
バッツがそう言う匂いを醸し出せば、スコールは赤い顔をして、「もうちょっと待ってくれ」と言った。
ここで重要なのは、スコールは「待って」と言ったのであって、「嫌だ」とは言っていないことだ。
つまりはバッツにそう見られていることを、彼自身は受け入れているのである。

だからバッツも待った。
スコールの性格もよく判っていたし、無理にことを押し進めて、彼を傷付けては意味がない。
冷静な振る舞いをするけれど、スコールはこと人との触れ合いに置いては、恐怖症の節がある。
焦らなくて良い、ゆっくりで良い、スコールが良いと思った時で───バッツもそう思ったからこそ、待つことに厭は言わなかった。

……しかし、一月、二月、三月と時間が経って行くと、さすがにバッツも不安になって来る。


(ひょっとして、本当は嫌なのか?)


それもあり得ない話ではない。

スコールは、嫌なら嫌とはっきりと口にする性格だが、懐に入れた者には弱い。
自分の発言が、返答が、相手にどんな思いをさせてしまうかを想像して、急に線引きが弱くなってしまう。
バッツから見て、スコールの愛らしい部分でもあるが、こういう問題については、反って悩ましい。
スコールが「バッツに嫌われたくないから、嫌だと思ってもそれを言わない」と言う可能性もあるからだ。

こういう時に、遠回しに聞いてみよう、等とは思わないのがバッツである。
何度目になるか、誘った際に返って来た「もうちょっと」の言葉に、バッツはついに切り込んだ。


「なあ、スコール。ひょっとしておれとセックスするの、嫌か?」


秩序の聖域のバッツの部屋で、二人でベッドの上にいる。
傍から見るものがあれば、今から正に、と言うシチュエーションだ。
故にバッツもスコールの体に触れ、ささやかなスキンシップから流れを作ろうとしていたのだが、其処へきていつもの「待ってくれ」である。

眉尻を下げるバッツの問いに、スコールはぐっと黙り込んだ。
蒼の瞳が泣き出しそうに歪むのを見て、バッツの表情も悲嘆が浮かぶ。
やっぱり嫌だったのか、とバッツが受け取るのも無理はなく。


「嫌なら嫌って言ってくれよ」
「……そ、れは……」
「おれがしたいのは確かだけど、スコールが嫌なことは、したくないしさ」


下手に気遣うよりも、正直に言ってくれた方が、バッツも切り替えられる。
確かに欲はあるが、愛し合う為の手段は、何もそれに限ったことではないのだ。
一番判りやすい方法をやめて、他を探せば良いことだ。

バッツはそう思っているのだが、スコールはまた首を横に振った。


「そう、じゃ、ない……」
「ほんと?」
「……ああ」


重ねて確かめるバッツに、スコールはちゃんと目を見て答えた。
嘘ならその目が判り易く彷徨う。
それは見付からなかったから、スコールが本心を言っていることが読み取れた。

バッツを見つめていた瞳が、気まずい様子で俯いた。
もぞ、とスコールが身動ぎをする。


「ただ、その……」
「うん」
「……俺は、……あんたに、」
「うん」
「……言ってない、ことが……ある、から……」


その唇は、酷く重いものを抱えていた。
蒼灰色は泣き出しそうに歪んでいて、恐怖に似たものも混じっている。

バッツが顔を覗き込むと、スコールは眼を逸らそうとして、留まった。
恐々とした様子に、バッツがそっと白い頬に触れると、スコールは強く唇を噤む。
言いたいけれど言えない、言うのが怖い───そんな顔だ。

ここでバッツが引き下がるのは簡単だった。
我慢しきれなくて拒否する理由を聞いたのはバッツの方だが、それでスコールに負荷をかけるのも望まない。
スコールが望まぬことをするのはバッツの本意ではないし、もしもトラウマのようなものを抱えているなら、焦らず時間をかけるべきだ。
スコールは、「待って」と言っているのだから。

ただ、長引かせる程、スコールが貝になるのも知っている。
逡巡を繰り返している今が、スコールにとって境界線の狭間だ。
ここを彼が、前に行くのか、後ろに下がるのか、それをバッツが急いて決めてはいけない。


「……バッツ……」
「うん」


名前を呼ばれて、バッツは返事をした。
スコールはベッドシーツの端を強く握っている。


「……誰にも、言ってないことが、ある」
「うん」
「あんたにそれを……見せる、から。見たものの、ことは、誰にも、言わないで……欲しい」
「うん。言わない」


バッツがすかさずそう答えると、スコールは目を丸くして顔を上げる。
まだ何も言ってないのに、と表情に浮かべるスコールに、バッツは歯を見せて笑った。
彼が胸に抱く不安が、少しでも薄らいでくれるように。

スコールはじっとバッツの顔を見つめた後、もう一度唇を噛んだ。
意を決した表情になって、ベッド端から腰を上げる。

何をするのか、バッツがじっと見つめる前で、スコールはジャケットに手をかけた。


「へ?」


今度はバッツが目を丸くする番だ。

スコールはジャケットを脱ぐと、その下に来ていたシャツも捲り上げた。
脱いだ上衣は床に放り捨てて、次に腰のベルトに手をかける。

突然始まった恋人の、前触れもないストリップショーに、バッツは思わず固まって、


(あ。そうだ。傭兵だから、傷とか、何か、そういう───)


スコールは、SeeDと言う特殊な名のついた傭兵だと言っていた。
となれば、額の傷と同様に、その身体にも様々な痕跡があっても可笑しくない。
その“痕跡”あるいは“傷”とは、男でありながら屈辱を飲んだ残滓が刻まれている可能性はある。
少なくとも、バッツの感覚では、そう言う出来事は多かれ少なかれ聞く話だった。

スコールはベルトを緩めたズボンを下ろした。
靴と一緒に足元にまとわりついたそれを蹴って、仕草だけ見れば自棄を起こしたように見える。
しかし、恐らくは、そうしないとスコール自身が止まってしまうからだろう。
ブレーキがかかってしまう前に、行くべきところまで行ってしまおうと、引き結んだ唇がその決意の象徴だ。

最後に下着に手をかけて、スコールは一瞬止まった。


「……っ」


息を詰めて、スコールは逡巡する。
それはバッツから見ればほんの数秒のことだったが、きっとスコールには長い時間だった。

下着が下ろされ、足元を潜って、遂にスコールは一糸まとわぬ形になった。
まだ薄い色をした中心部が晒されて、ごくりとバッツの喉が鳴る。
彼の裸身は、風呂で見た事がある筈だが、そこが隠されていないのは初めてだ。
彼は必ず、そこを他人に見せないように、タオルで覆うようにしていたから。

だがそこに、バッツが想像していたような“痕”はない。
一瞬頭を過った、象徴が削ぎ落されているようなこともなかった。


「えっと……スコール……?」
「……」


スコールはまだ口を噤んでいる。
何がどういうことなのか、訊いても良いのだろうか、とバッツはまだ判じかねていた。

裸になったスコールがベッドに乗る。
きし、と音がして、裸身の恋人が自分のベッドにいると言うことに、バッツはどうしようもなく昂った。
逸る心臓が、据え膳宜しく飛び出しそうになっているのを、微かな理性を抑えている。
今はまだ飛び出すな、と。

スコールはベッドの奥に身を寄せるように近付くと、壁を背に向き直った。


「……どう、言えば良いのか判らない。だから……見せ、る」
「何を?」
「……」


首を傾げるバッツに、スコールは答えなかった。
どうしても口が重い。
言えない、と、言いたくない、が混ざっていた。

スコールは、壁に寄り掛かって、ゆっくりと膝を開いた。
これもまた、当然ながらバッツには予想外の行動だ。
ことにガードの固いスコールが、相手が恋人とは言え、自らそんなことをするなど思ってもいなかった。

その理由を、バッツはそこにひた隠しにされていたものを見付けて、悟る。


「え?」
「……」
「スコールって───」


そこから先の言葉を、バッツは口に出来なかった。
そんな筈はない、と言うことは、晒された場所にあるものを見れば明らかだ。
だが、またそれを否定するものも見えていて、益々バッツを混乱させる。

スコールの顔と、晒された場所を、バッツは交互に見比べた。
そこにあるのは自分がよく知る少年の顔で、その体つきは間違いなく、風呂場で何度も見ていたもの。
少し華奢な印象すら与えるが、それは無駄な肉がなく引き締まっているからだ。
決してか弱いものではないし、何より、自分と同じものがあるのだから、そう言う意味ではこれまでの認識は何も間違ってはいない。

だが、同じ性ならない筈のものが、ある。
すっきりとした筋になったそれが意味するものを、バッツは困惑の中で辛うじて理解まで行き付いた。


「スコールって───両方、あったのか?」
「………」


スコールはやはり答えない。
言葉の変わりに、その顔は明らかな羞恥で真っ赤に染まる。

開いた口が塞がらない状態のバッツに、スコールは開いていた膝を寄せる。
足を閉じてしまえば、もうそこに筋があることは判らない。
バッツと同じ性のシンボルもあるから、こうしてみる分には全く“男”である。


「……気持ち、悪い…だろ……」


俯いたスコールの声は、酷く震えていた。
彼自身は平静を装っているつもりだろうが、内々の心が隠せていない。

だからスコールのその言葉を聞いた瞬間、バッツはすぐに言った。


「そんなことない!」
「……」
「本当だって!」


バッツは言い募ったが、蒼の瞳はこちらを見ない。
信じていない、信じられない、と言うスコールの心がありありと表れていた。

ならば、とバッツはスコールの閉じた膝を掴む。
は、とスコールが目を瞠る隙に、バッツは彼の足を左右に大きく割った。
スコールは蒼褪めた真っ赤になって、腰が逃げを打ったが後ろは壁に阻まれる。


「ちょ、バッツ……!?」
「スコールの体、もっと見たい。ちゃんと見せてくれよ」
「馬鹿、ふざけるな!俺は真面目に」
「おれもずっと真面目だよ」


スコールの足がバッツの肩を蹴った。
ようやく決断できたのに、と子供のようにスコールの声に泣きが混じる。

じたばたと暴れるスコールの足を掴んで、少し強引に押さえつける。
彼の意思を封じるようなやり方は好きではないが、今だけは他に方法がない。
言葉で何を言ってもスコールには信じられないのだから。


「やめろ、バッツ!こんなの、見たって面白くもないだろ!」
「そんなことないって。これがスコールなんだろ」
「や、あ、どこ触って……!」


バッツは開かせた足の間に体を入れて、その中心に指を添わせた。
自分と同じ象徴があって、そのすぐ下にある、綺麗な溝。
傷付けないように、溝そのものではなく、土手の膨らみを指の腹でなぞると、スコールの体が仰け反った。


「んぁ……っ!」


零れたスコールの声には、甘露が滲んでいる。
その音を聞いた瞬間、バッツはぞくぞくとした高揚が背中を駆け抜けるのを感じた。

すり、すり、と指で土手を撫で続けると、スコールはいやいやと頭を振る。
助けを求めるように彷徨ったスコールの手が、恥部を見つめるバッツの肩を掴んだ。
バッツが顔を上げれば、大粒の雫を浮かべた真っ赤な顔が、今にも泣き出しそうにこちらを見ている。


「バッツ……!」
「大丈夫だよ、スコール。嫌いになったりなんてしないよ」
「……っ!」
「びっくりしたけど。それだけだ。ここが“こう”だったからって、おれがスコールを嫌いになるわけない」


言ってバッツは、スコールの唇に自分のそれを押し付けた。
近い距離でブルーアイズが見開いて、まるで信じられないものを見ているかのようだ。
実際にスコールにとっては、そう言う気持ちなのだろう。

バッツはスコールに深く口付けながら、指先は彼の秘部を撫で続けた。
その手付きは優しく丁寧で、決して彼を弄ぶのが目的ではない。
時折手を動かして、もうひとつの性の象徴へと触れれば、これにもスコールは困惑した様子で息を喘がせた。


「ん、む……っ、は……っ、あぁ……!」


バッツはその声を耳元に聞きながら、興奮を高めていく。


(ここに、おれが、入る。おれが入るところを、スコールが持ってる)


ここは鞘だ。
剣を納める為の場所だ。

今はまだその口は堅い様子だが、こうして触れて行けば、徐々に解れていくだろう。
その時のことを考えると、バッツはどうしようもなく興奮した。
勿論、それがなくても彼と交わる方法があるのは知っているし、どちらでもバッツは構わない。
けれど“バッツを受け入れる為だけの場所”がある事実は、得も言われぬ歓びをバッツに齎す。

濡れたスコールの唇を解放して、バッツは赤い顔で喘ぐ恋人を見つめながら囁く。


「どっちだって良いんだ。どうだって良いんだ。それがスコールなら」
「は……あ、バッツ……っふぅ……!」
「急かしてごめん。勇気出してくれて、ありがとな」
「ん、んぁ……あ……っ!」


どうしてスコールが、頑なにバッツの誘いに頷けなかったのか。
全てを見せると決めた時、彼にとってはどんなに怖い賭けだったのか。
それでも受け入れて欲しいと、そこまで望んでくれる程に焦がれてくれたことが、バッツはどうしようもなく嬉しかった。

だから今度は、目いっぱいにスコールに伝えなくてはいけない。
自分がどれだけ、スコールのことを愛しているのか。



確かな安心を求めて恋人の名を呼ぶ声は、いつしか喜びに濡れていた。





『バツスコかフリスコでふたなりネタ』のリクエストを頂きました。
どちらのCPでも美味しかったのですが、今回はバツスコにさせて頂きました。

人と一緒に風呂に入ってるのは中々無防備ですが、一見すると男だし、下手に隠す方が不自然だと思ってたスコールです。
念の為にタオル一枚巻いてるくらいは、スコールだったらそう言うこともするよな、と言う印象で誰も気にせず。
それだけに、恋人になってからバッツに求められて、余計に言い出しにくかった様子。
スコールからすると「嫌われるかも知れない」ことだった訳ですが、バッツは寧ろ興奮しています。思い切り不安を吹き飛ばして貰うと良い。

[ウォルスコ]あなたのそばにいたいだけ

  • 2026/08/08 22:15
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



スコールには、少し変わった癖がある。
それは子供の頃から積み重ねられてきたものだ。


幼年期のスコールは、引っ込み思案で人見知りが激しく、身内以外には滅多に懐かない子供であった。
生後間もない頃から付き合いのある、父の旧友たちにも、自ら近付かなかった程である。
今も人見知りの片鱗は残っているが、幼い頃は怖がりだったこともあって、より顕著だったと言える。

そんなスコールが懐いていた数少ない年上の人間が、ウォーリアだ。
8歳年上の幼馴染に、彼は随分と心を許していた。
顔を見れば自ら駆け寄り、ぴったりと彼の傍から離れない。
見慣れない人間がいるのを見付けると、一目散でウォーリアの背中に隠れていた。
そんなスコールを、ウォーリアも無碍にはせず、スコールの両親からも「うちの子をよろしく」と言われていた。

ウォーリアの方は、始めは自分の方が年上だから、スコールが幼いから、と言う理由で面倒を見ていたと思う。
その面倒見の良さと、決して声を荒げたり、騒がしい気質ではなかったから、大人しいスコールにとって丁度良い塩梅だったのだろう。
家族以外で、必ずこの人は守ってくれる、と言う安心感で、スコールが懐いていたのは間違いない。

成長と共に、スコールの怖がりや泣き虫は克服されている。
それでも、ウォーリアに対する信頼までもが薄れることはなく、寧ろそれはより強いものとなっていた。
いつしかスコールはウォーリアに対し、自身の心を預けるようになっている。
それが、一時の憧れが齎す幻ではないことを、ウォーリアも受け入れている。
……二人がそこに至るまでに、約三年、周囲がやきもきする攻防があったことは、別の話として。

現在、スコールは高校二年生になっている。
ウォーリアは大学を卒業し、都内に構える進学塾の講師となっていた。
ウォーリアは実家を出て一人暮らしのアパートを持ち、そこにまだ実家暮らしのスコールが頻繁に訪れている。
理由としては、来年には受験シーズンを迎えるスコールの対策の為だが、それもどこか言い訳めいているのも確か。
お互い、拗らせるように三年の攻防をした反動があるのは否めなかった。

週末の休みに合わせて、スコールはウォーリアの自宅を訪れる。
ウォーリアもその日は大抵休みだから、お互いに気兼ねをしなくて良かった。
信頼しているウォーリアの下にいるならと、スコールの両親も目くじらを立てることはない。

スコールが作ってくれた夕飯を食べた後、ウォーリアはソファに座ってノートパソコンを開いていた。
その隣では、スコールがローテーブルに教材を広げ、宿題に取り組んでいる。
名目では“ウォーリアに勉強を教わる”として足を運ぶスコールだが、実の所、ウォーリアが手を貸すことは少ない。
スコールは地力で十分に優秀な成績を収めており、勉強姿勢も真面目なものだ。
ウォーリアがやる事と言ったら、ただただ見守ることと、彼が稀に悩んだ時に少しヒントを与える程度のことであった。

今日も例に漏れず、スコールは自力ですべての課題をクリアする。
最後にプリントの頭から順に確認をして、スコールはシャーペンを置いた。


「はあ……」
「終わったのか」
「ん」
「ご苦労様」


眼精疲労か、スコールは猫のように目を擦っている。
子供の頃にも勉強の後にはよく見られた仕草に、ウォーリアの口元が緩んだ。

スコールは勉強道具を片付けると、ウォーリアの隣に移動した。


「あんたの仕事は……」
「もう直に終わる。あとは確認だけだ」
「そうか」


ウォーリアの返事を聞いて、スコールはソファの背凭れに寄り掛かった。
携帯電話をいじりながら、そのまま時間を潰すことしばし。

ウォーリアも最後のチェックが終わり、ファイルを保存して、パソコンの電源を落とす。
端末が小さく音を立てて、液晶画面が暗くなると、


「終わった?」
「ああ」


答えると、すぐにするりと気配が近付いた。
ソファに座るウォーリアの膝に片手を突いて、腕の下───脇の隙間からスコールが体を突っ込んでくる。
そのまま体半分ほどをウォーリアの脇から侵入させたスコールは、ウォーリアの膝の上に上半身を乗せた。

スコールに膝上を占領された格好になって、ウォーリアは立ち上がることも儘ならない。


「スコール」
「ん」
「リモコンを取ってくれるか」
「ん」


スコールはウォーリアの膝上に居座ったまま、腕を伸ばして、テーブル端に置かれたリモコンを掴む。
無言で差し出されたそれを受け取って、ウォーリアはテレビの電源を点けた。

膝の重みを感じながら、ウォーリアはテレビを見ていた。
時間はもう直に21時となる所で、番組と番組の合間にニュースが流れている。
都内で事件があったと言うが、どうやらこの辺りからは遠いようだし、スコールもこの時間から外には出るまい。
物騒な世の中であるから、少年少女は日も落ちきった時間には外に出ないのが健全だ。

その“少年”はと言えば、ウォーリアの膝の上ですっかり落ち着いている。
ここはスコールが子供の頃からお気に入りの場所で、自分だけの定位置なのだ。
時折、過ごし辛くはないのだろうか、とウォーリアは思うのだが、スコールはそこにいて当たり前、と言う顔で、携帯電話をいじっていた。

ウォーリアが視線を落とすと、スコールの形の良い後頭部と、旋毛が見える。
柔らかな濃茶色の髪を手櫛で梳くと、ぴくりと小さく反応があった。


「……」
「……」


スコールはしばらく止まっていたが、ウォーリアが髪を梳き続けていると、また携帯電話を触り始める。
特に気にする必要はない、と判断したようだ。

ウォーリアはゆっくりとスコールの頭を撫でながら、


(……何かに似ている気がする)


そんなことを考えて、はて何だろうか、と首を傾げた。

テレビはニュースを終えて、バラエティ番組が始まった。
日々のささやかな疑問を、実験しながら検証し、最後に専門家の解説を挟む。
放送時間がゴールデンタイムの終盤とあってか、時には派手で過激なこともするのだが、今日はなんとも牧歌的だ。
テーマが“動物の不思議”と言うことで、動物の生態や特徴について調べているからだろう。

テレビに可愛らしい猫が映り、その独特な癖を飼い主が語っている。
猫の日々の過ごし方のVTRが流れて、パネルで可愛い可愛いと言う声が相次いだ。
それをじっと見つめながら、ああ、とウォーリアは得心する。


(……なるほど。猫、か)


膝に乗っているスコールを見て、ウォーリアはくすりと笑う。
今そこにいるスコールは、飼い主の膝の上で丸くなっている猫と、よく似ている。

テレビに映る猫の飼い主が言った。


『眠る時、かならず私にくっつくんですよ。専用のベッドも買ったんですけど、ちっとも興味がないみたいで』


高いベッドだったのになぁ、と飼い主は笑っている。
吟味したアイテムがお気に召されなかったのは悔しいが、自分に密着して眠る猫の姿は可愛い。
折角ではあったけれど、まあ良いか、と言う気持ちになった、とか。

───スコールも、そう言う所が少し、ある。
ここはウォーリアの一人暮らしのマンションだから、ベッドはひとつしかない。
だからスコールが泊まりにくるようになってから、布団をひとつ誂えて、彼が来たら敷いている。
布団でもベッドでも、スコールが落ち着く方を使うと良いと言ったのだが、スコールの行動はどちらとも違った。
ウォーリアがベッドで寝るならベッドで、布団で寝るなら布団でと、移動して来るのである。
そしてウォーリアの体に身を寄せて眠るのがお決まりだ。

今もそれと同じことだ。
ソファは長椅子になっていて、横幅には余裕があるのに、スコールの定位置はウォーリアの膝の上。
仕事をしている時はさすがにそこにはいなかったが、終われば自然とやってくる。


『猫って、自分が安心できる場所を覚えていて、そこをお気に入りにするんですよね』


猫を飼っていたというパネラーが語った。
動物を飼ったことがないウォーリアは、そう言うものなのか、と感心する。

もう一度視線を下へと落とせば、スコールがいる。
ふあ、と欠伸を殺す声が聞こえ、スコールは携帯電話から手を離していた。
もぞもぞと身動ぎしたスコールは、体の向きを変えて、ウォーリアの腹に顔を寄せる。


「スコール」
「……ん」
「眠いのなら、ベッドに行った方が良い」
「……」


促すと、ちら、と蒼がこちらを見遣る。
寝転んだまま、横目で見下ろす恋人を見つめたスコールは、不満そうに唇を引き結び、


「……ここで良い」
「そこでは寝辛いだろう」
「別に」


スコールの腕がウォーリアの腰へと回る。
しっかりとウォーリアの体に捕まって、スコールは足を縮めて丸くなった。


「スコール。ここでは窮屈だろう。落ちてしまうかも知れない」
「平気だ」
「スコール」
「……ここがいい」


ぎゅう、と捕まる腕に力が籠る。
ここじゃなければ嫌なんだと、尖らせた唇がウォーリアに訴えた。

スコールの我儘に弱いウォーリアである。
こうも言われては、仕方あるまい、と折れるのが常であった。
そんなウォーリアに、甘やかしすぎると癖になるぞ、と友人から忠告されたこともあったが、既に遅い。

ウォーリアはスコールの髪を撫でた。
それが恋人の了承の合図だと悟って、スコールのしがみつく力が緩む。
代わりに、スコールはまたもぞもぞと身動ぎして、自分が落ち着く場所を探す。
ややもしてから、自分の体がぴったりと収まりよくウォーリアと密着すると、ふう、と安心したように息を吐いた。

スコールが密着した場所から、彼の体温が移ってくる。
くすぐったくて暖かいその感触に、ウォーリアの唇は自然と緩む。


「スコール」
「……ん」
「寒くはないか」
「……別に……」


スコールはうつらうつらとしているようで、声にもあまり力が入っていない。
蒼い瞳が、ゆっくりとした瞬きの奥へと隠れながら、小さな声が言った。


「……あんた、体温、高いよな……」
「そうだろうか」


寧ろそれは君の方が、とウォーリアは思ったが、口を噤む。
すぅ、すぅ、と聞こえてきた寝息の邪魔をしたくなかった。

眠ったのなら、ベッドに運んでおかなくては。
ここで良いとスコールは言ったが、ソファはどうしても窮屈だ。
きちんと手足が伸ばせるところの方が、明日に差し支えもあるまい。

離れようとすればいやいやと訴えるから、ウォーリアは密着しているスコールから体を離さないように努めて、彼を抱き上げる。
意識が夢に入っても、流石にまだ睡眠は浅いらしく、振動でスコールが小さくむずかった。
首に伸ばされた腕が絡みついて、縋るように、寄り掛かるように、抱き着かれる。

寝室についても、スコールは離れまいとするので、一緒にベッドに横になる。


「んん……」


スコールが寝返りを打って、ウォーリアの方へ身を寄せる。


「……ウォ、ル……」


小さな声で名を呼ばれる。
顔を見ても、スコールは眼を開けていない。
そっと頬に触れてみると、スコールの眦が微か緩んだように見えた。


(君は私に、安心してくれているのだろうか)


問うには聊か野暮な気がして、口には出せない。
けれど、子供の頃から何度となく、こうしてぴったりと身を寄せてくれるのだから、そう自惚れても良いのではないか。

いつものように密着すると、もう離れる気のないスコールに、ウォーリアはそっとその身体を抱き寄せた。






『WoLスコで、ウォルにひっついてる安心するから、全身でくっついてくるスコール』のリクを頂きました。
安心するし、甘えたいし、許してくれるし。甘えたおすスコールと、甘やかし倒すWoLになりました。

子供の頃は守ってくれるお兄ちゃん、成長してからは自分を全部受け入れてくれる人。スコールから見たWoLはそんな感じだと思います。
WoLからすると、スコールの印象は子供の頃からあまり変わっていないのかも知れない。ずっとくっついて来てるので。
でも傍から見ると、スコールがそんなに密着したがる相手って、今となってはWoLだけなんだと思います。……傍からそれを見る人がいませんが(スコールが人前では密着しない為)。

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