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User: k_ryuto

[セフィレオ]その眼に映る

  • 2026/07/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



広大とも言える街並みが続いている。
だが、そこに生き物の気配は少なかった。

人の営みの気配も少ない。
かつては何万、何十万と言う数があったのだろう住人は、今はその千分の一にもならなかった。
いずこ遠くからやって来た───帰って来た───人々は、小さな一画に身を寄せ合うように集まって暮らしている。
その生活も頻繁に心無い影に脅かされていると言うのだから、戻って来たのにすぐに出て行く者も少なくはなかった。

この世界には、闇色が濃く燻ぶっている。
それもその筈で、街は十年以上もの間、闇に覆われていたのだと言う。
その間、住民たちは散り散りに他の世界へと渡り、喪われた故郷を懐かしみながら暮らしていた。
鍵の勇者によってようやく世界を覆う闇は払われたが、場所ばかりが元の形に戻ったとて、そこは人が生活できる環境ではなくなっている。
勇者の軌跡を追う形で、一番最初にこの地に戻った者ですら、途方に暮れたのは想像に難くない。

だが、セフィロスにとってはどうでも良い話だ。
この世界の成り立ちも、辿った歴史も、今から歩もうとしている未来すら。

眺める夕暮れの景色には、感慨も沸かない。
何を思っているのか、自分自身にすら興味はなかった。
ただ、待っているだけの時間と言うのは退屈を飽かすに十分で、俄かの暇潰しが欲しくなることもある。
かと言って、暇潰しになるものを積極的に求め探しに行く訳でもないのだが───目についたものを追う程度のことは、稀に、ごく稀に、起きることだ。


(熱の入ることだな)


細めたセフィロスの双眸に映るのは、壁上の回廊のひとつ。
空の上からぼうと眺める景色の中で、ひとつぽっかりと空間の空いた場所だ。
そこは周囲の民家よりもひとつ抜きんでた高台になっており、鐘楼ほどではないものの、街を一望するには手軽な位置だった。

その高台の上で、一心不乱に剣を振っている男がいる。
肩にかかる濃茶色の髪を靡かせながら、見えない何かを追うように、銀色の刃が幾度も軌道を描く。
じっと見下ろす者がいることなど、知りもせず。


(四日目だったか)


男は空かずに高台に来ては、ああして剣を振るっている。
時間としては概ね夕暮れが濃くなる時、街の一画で微かに夕餉の気配がする頃合いだ。
それから東の空が夜になり、灯りの乏しい街並みに心無い影の徘徊が増えてくる塩梅になると、去っていく。

男はいつも一人だが、昨日は仲間と思しき少女がやって来て、何事か声をかけていた。
短い遣り取りの後、少女はさっさと帰って行き、男はまたしばらくの間、剣を振るい、夜の帳が拡がる頃に帰って行った。


(飽きもせず)


恐らく、飽きる飽きないの話ではないのだろう。
男はストイックに自己鍛錬を行っていて、ここ数日はルーティンに組み込んでいる。
この時間は男にとって必要なものであり、熟すべきノルマなのだ。

男がどうしてそうも自分を苛めているのか、セフィロスは知る由もないし、知る意味もない。
セフィロスが佇む場所から、彼が鍛錬場所として使っている高台がよく見えるので、目につくだけの話だった。

────と。

何度となく振り下ろされた銀刃が、ふと動きを止めた。
男は滲む汗を拭いながら、腕を下ろしている。
そのまま幾許かの時間が流れた後、つい、と男の頭が此方を向いて、


(……)
「…………」


狭間に傷を抱いた蒼灰色の双眸が、じっとこちらを見つめている。
冷ややかな、じんわりと苛立ちを滲ませた宝玉の無言の圧に、ああ、とセフィロスは理解した。
自分がここにいることを誰も知りはしない、と言う認識は、改めねばなるまい。

黒の片翼が久方ぶりに風を叩く。
揚力に従って移動した体は、ゆっくりと高台の上へと下りた。
存外と小奇麗な石畳を敷き詰められた地面は、何も言わずに傍観者を着地させる。

男と、セフィロスと、数十メートルとあった距離は、今はほんの数メートルしかない。
一足で男が飛び掛かることも可能なら、その瞬きの間にセフィロスが男を寸断することも可能な距離だ。


「……」
「………」


距離はそれだけ縮まったが、二人の貌は変わらなかった。
男は眉間に深い皺を寄せ、不機嫌を隠さない。
それを見つめるセフィロスも、空の彼方で男を見ていた時のまま、眉のひとつと動いていない。

そのまま幾年でも過ごしているかと思う程、沈黙は長かった───少なくとも、男にとっては。
ともなれば焦れるように苛立ちも募るもので、口火を切る。


「何の用だ」
「別に、何も」


直線で問う男に、セフィロスはありのままに返した。
男は不審に肩眉を顰めたが、右手に持った獲物は離さずとも、構えようとはしない。
警戒しているが、今すぐにどうこうする必要はないことを、この男は悟っている。

はあ、と男は溜息を漏らした。


「じろじろと見ていただろう。それで何も用はないと?」
「ない。元より、私の視界に入ってきたのはお前の方だ」
「……成程。その理屈なら、俺の方が後客ではあるな」


納得はしていない表情だが、男は取り合えずそれは飲み込んだらしい。
男はもう一度溜息を漏らして、


「俺がここにいるのが目障りなら、明日から場所を変えるが」
「目障りとは?」
「あんたの視界に俺が後から入って来たんだろう。じろじろと見ていたから、てっきり、邪魔になっていたと思ったんだが」


違うのか、と問われて、セフィロスは首を傾けた。


「さてな」
「……」


セフィロスの反応に、男の瞳が胡乱に細められる。


「ずっとこっちを見ていただろう」
「ああ」
「邪魔だったからじゃないのか」
「別に」
「ただ見ていただけだと?」
「そうだな」


より正確に言うならば、“見えていた”と言う方が当て嵌まる。
セフィロスはそう言ったが、見られていた男からすれば、結果として大差はない。

男は傷のある額に左手を当てて、唇を固く引き結んでいる。
表情は見えないが、何を言わんとするやを硬い意思を押し留めているのが感じ取れた。


「……そうか」
「ああ」
「……」


額から手を放した男の顔には、諦念が浮かんでいる。
滲む疲労の色は、鍛錬に費やした体力の所為と言うよりは、目の前の人物───セフィロスが読めない存在であると理解したからだろう。

セフィロスは、男のそんな様子を見つめていた。
空の上で、高台で剣を振っていた男を見ていた時と同じように、じっと視界の中心に置いている。
男も次第にその視線の強さに居心地悪さを感じたか、先とは別の意味で不機嫌な表情を浮かべた。

しかし、既に遣り取りをするだけ徒労であることを理解しているからか。
男は再三の溜息を吐いて、自分に向けて呟いた。


「どうでも良い視線が邪魔になるのは、俺が未熟な証拠か……」


ぎ、と愛剣を握る右手が、微かに軋む音を鳴らす。
蒼灰色に浮かぶ苛立ちは、目の前の存在ではなく、彼自身へと向けられていた。

それがどうにも、セフィロスの琴線を揺らす。

立ち尽くす男の下へと、セフィロスはゆっくりと近付いた。
はっきりと鳴る足音に、男が顔を上げて、まとう空気が警戒に剣呑さを増す。
伏目勝ちにしていたブルーグレイの瞳が、真っ直ぐに自分を見据えると、セフィロスは得も言われぬ感覚が昇ってくるのが判った。


「良い目だな」
「……」


二人の距離は、どちらかが腕を伸ばせば届く程に狭くなっていた。
睨む眼に夕暮れ色の光が反射して、冷たい蒼の中に燃えるような赤が映り込んでいる。
正反対の色が齎す蒼灰の輝きに、セフィロスはおもむろに手を伸ばしていた。

頬を撫でた手が、するりと滑って登り、男の眦を擽る。
直後、ぱしん、と乾いた音が鳴って、男がセフィロスの手を払い除けていた。


「生憎、赤の他人に目玉をくれてやる趣味はない」


じっと睨み据えたまま告げた男の言葉に、く、とセフィロスの喉が震える。


「それは残念だ。大事にしてやろうと思ったのだが」
「……丁重に断らせて貰う」


剣呑な目には、悍ましいものを吐き捨てる冷たさが宿っている。
異常者とでも見られたのだろう。
強ち否定するものでもない、とセフィロス自身、理解している。

だが、駄目と言われれば欲しくなると言う人間心理は、セフィロスの内にもあるらしい。
そんな自分にまた可笑しな笑みが浮かぶと、相対する男からは、己を馬鹿にされたと見えたようだ。
きち、と男の右手で金属が掠れる音が鳴った瞬間、セフィロスは翼と共に地を蹴った。


「っ!」


ぶん、と振り抜かれた銀刃が宙を斬る。
狙いを外した蒼灰色が、剣を構えて空に佇む銀糸を見上げた。


「街に害がないなら放っておいて良いと───クラウドの奴に任せているつもりだったが、そう言う訳にもいかないようだな」


男は腰を深く落として、地面を強く蹴った。
跳躍した男が剣を振り被るのを、セフィロスは変わらない表情で眺めている。

セフィロスがほんの少し体の角度と位置をずらせば、振り抜いた剣はまたしても空気を裂き、男の体は重力と慣性の法則に従って地面へ下りる。
下りた体は直ぐに向きを変えて再びセフィロスと向き合ったが、宙をふわふわと浮く男をどう追い駆けたところで、男が捕まえられる訳もない。
忌々し気に睨む蒼灰色を、セフィロスは薄く笑みを浮かべた貌で見下ろしていた。

───が、じわりと空気に溶けるように滲む気配を感じ取って、セフィロスは眉尻を下げる。


「来たか」
「……クラウド?」


セフィロスの短い言葉に、それが指し示すものを男は的確に拾った。
睨みつけていた蒼の瞳が、僅かに剣呑が薄れるのを、眇めた翠の目が捉え、


「お前との語らいは、次の楽しみとしておこう」
「俺は別に────」


あんたとの語らいなんて。
そう続くであろう言葉は、片翼が風を叩く音にかき消される。

遠く高い空の上から見えるのは、遥かに広がる粒のような街並み。
それだけの距離があれば、最早人の姿や影も見える訳もなく、ジオラマよりもその存在感は小さくなる。
空気を滲み渡って届いていた気配も、ここまで来れば既に薄らぎ、あちら側から己の存在を辿ることも叶うまい。



夜と夕暮れが交じり合う空の境界で、セフィロスは鮮やかに閃く蒼玉石を思い出していた。





7月8日と言うことで、セフィレオ。
訳の分からないちょっかいをかけられて迷惑している図。

KHのセフィロスは原作やリメイクよりも、輪をかけて真っ当な遣り取りが成立する気がしない。
見られていることに我慢できなくなって目を合わせてしまったレオン。後悔先立たず。
こんな構い方をしてはとっとといなくなるのを繰り返していく内に、レオンの方から警戒心がうっかり鈍化しそうな気がしないでもない。

[クラスコ]触れ合う為の温度

  • 2026/07/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



夏の夜は、冷房の温度を低く設定する。
凍えるほどのことにはしないが、日中よりも、もう少し、温度を下げるのだ。

蒸し暑さも募る季節であるから、なんら可笑しなことはない。
寧ろ昨今の気温の危険性を考えると、夜であろうと冷房を止めることはできない。
ただ、太陽の熱に焼かれる昼日中に比べると、多少は暑さが和らぐから、冷房の設定温度を下げるほどの必要はないものだ。

それでもクラウドは、恋人がシャワーを浴びている間に、しれっとリモコンを操作する。
こうしておけば、この後、存分に恋人を可愛がってやれるからだ。

恋人であるスコールは、中々に気難しい性格をしている。
寂しがり屋の癖に、人に触れられることは苦手で、存外と頑固者なのに、それを表に出すのを嫌う。
歯に衣着せぬ言い方をする割に、自分の物言いが他者を不快にさせることには敏感で、揉め事は面倒と嫌っているから、あまり喋りたがらない。
人の機微にも敏感な節があって、これも含めて、彼の性格や言動に影響を及ぼしていることは間違いない。

そして、思春期の年齢なので性にデリケートなのは仕方がないとして、その癖、スイッチが入ると旺盛に求める。
これがクラウドにはとっては愛らしいもので、恥ずかしがっている様子も、その垣根を越えて甘えたになる姿も、堪らない。
しかしスコールの方は理性が強い性質をしているので、自らそれを暴くことはしなかった。
だからクラウドが少しの準備をする必要がある。

───その為のごくごく簡単な方法のひとつが、冷房の温度設定と言う訳だ。

日中過ごしている時よりも一度、暑そうな日は二度、下げる。
これでシャワーを終えて部屋に戻って来たスコールに、先ずはちょっとした涼を感じさせる。
風呂上りは体が火照っているから、汗ばむのが嫌いなスコールの為に、この時だけは冷風が判る程度にするのだ。
そうすることで、裸身になった時、ひんやりとした空気で囁かな爽快感もある。


「……クラウド」


ベッドに入ったスコールは、赤い顔でクラウドを呼んだ。
二人とも上半身は既に裸で、これからの準備が出来ている。

冷房で少し冷えたクラウドの肌に、まだ火照りを残したスコールの肌が触れる。
スコールの手のひらがするりとクラウドの肩を辿って、首の後ろへと回された。
こうして密着する為にも、部屋の温度は、少し肌寒いくらいにしておくのが良いのだ。

それからは、夢中で熱を交換した。
ベッドの軋む音が絶え間なく、初めはその音に隠れるように抑えていた聲は、次第に大きくなって行く。
やだ、と求める声に応じれば、スコールの奥はしとどに濡れて、クラウドを強く締め付けた。
冷たかったベッドシーツは温くなり、飛び散ったものでシミを作る。
汚れる、とスコールはことに気にするが、部屋の主であるクラウドが気にしないものだから、彼は何度となく熱を放つことになった。

息絶え絶えになるまで混じり合って、クラウドの疲労感も一入に、情交が終わる。
くったりとベッドに沈み転んだ体を抱き上げて、シャワーで軽く洗ってやった。


「中、洗うぞ」
「……ん」


温めの温度に設定したシャワーを、蜜で濡れたスコールの太腿に当てる。
きわどい場所に近付く水飛沫の刺激に、スコールはもどかしさで身を捩っている。


「ん、ふ……う、ん……っ」


鼻にかかった声が零れていた。
もぞ、もぞ、と膝を寄せ、太腿を擦り合わせているスコールだったが、クラウドはその片膝を掴んで大きく開かせた。
全部を晒した格好にされて、スコールは顔を真っ赤にしているが、洗っているのだから仕方がない。
物言いたげな蒼がこちらを見ていたが、クラウドが努めて仕事に集中するのを見て、やがてスコールの体の力は抜けた。

指で広げた秘部から溢れ出してくるものを、丁寧に洗い流す。
敏感な体は感じ入るのを精一杯に堪えていたが、丸まった足の爪先や、殺した声がどうしても反応を覗かせる。
クラウドはむらむらとする己を、精一杯の理性で堪えていた。


「……こんなものかな」
「う……あ……」


クラウドはシャワーの湯を止めた。
スコールは足を大きく開いた格好のまま、はあ、はあ、とあえかな息を漏らしている。

起き上がる気力もないスコールを抱き上げて、寝室へと戻った。
点けっぱなしだった冷房の風が、シャワーで温まった二人の肌を撫でていく。
クラウドの腕の中で、スコールがふるりと身体を震わせた。


「寒……」
「つけっぱなしだったからな。風、少し弱めておこう」


ベッドに入って、スコールをそこに横たえてから、クラウドはサイドボードに置いていたリモコンを取った。
風の強さを“中”から“微”にして、風向きも天井に向けて置けば、冷風が直接当たることはない。
これでよし、とクラウドも布団を引き上げて、スコールの隣に収まった。

シャワー上がりの体の温度と、冷房で冷えた布団の温度差が落ち着かないのか、スコールはもぞもぞと身動ぎしている。
ぬくたまった躰にシーツの肌触りは心地良いが、少し表面が冷たすぎるらしい。
丁度良い温度を探したスコールは、隣にいる男の方へ、ずりずりと近付いていた。


「……」
「ん?」


二人の距離は、もうほとんどなかった。
スコールがあと一回、体を捩って身を寄せてきたら、ぴたりと密着することが出来るだろう。

だが、恥ずかしがり屋の少年は、どうしても逡巡してしまう。
接触嫌悪とまでは言わないまでも、少々触れ合うことに恐怖心のようなものを抱くから、余計にスコールは躊躇うのだ。
そんなスコールに、クラウドはこっそりと眦を緩めて、寝返りついでにスコールの体に腕を回す。


「ほら」
「!」


ぐ、と背中を抱き寄せてやれば、スコールは僅かに緊張に強張ったが、そのままクラウドの方に体を寄せた。

スコールの体は、しっかりと引き締まった筋肉がついているが、まだ発展途上の青臭さがある。
その身体から薄らと漂う、未完成な性の匂いが、クラウドの欲望をまた刺激した。

身を寄せて動かなくなったスコールに、クラウドの手が背中を辿る。
宥めるように撫でながら、時折、意図的に、背筋のラインをゆっくりと下ろしていく。
スコールは、クラウドの指が辿る度に、ぞくぞくとしたものが背筋を端って、堪らず体を撓らせた。


「ん……、クラウド……っ」


咎める声だが、抵抗は弱い。
寧ろ、離れ難さを示すように、スコールからもクラウドの首に腕が回る。

ぴったりと密着した胸の奥から、流れる血が齎す熱と、鼓動のリズムが聞こえる。
そうしてくっついていると、俄かにふるりと震えるスコールの身体反応が伝わった。


「まだ寒いか」
「……ちょっと……」
「冷房、切るか?」
「切ったら絶対暑くなるだろ」


今夜も熱帯夜だと、天気予報士が言っていた。
都会のコンクリートジャングルは、太陽の熱で焼けてしまうと、簡単にその熱を解放してくれない。
安普請のアパートは外気の熱と当たり前に同期してしまうから、寝苦しさを回避したいなら、冷房は夜通しつけるのが賢い選択である。

でも寒いんだろう、とクラウドが言うと、スコールはむぅと頬を膨らませる。


「……こうするから良い」


スコールはクラウドの背中に回した腕に力を込めて、ぎゅう、と抱き着いた。
ついでに、日々の肉体労働でしっかり鍛えられた男の胸に顔を埋める。
文字通り、二人の体はぴたりと隙間がないほどに密着して、お互いの肌の温度を分け与える。

むずかる猫のように、スコールはクラウドの胸にぐりぐりと額を押し付けている。
筋肉量のお陰か、クラウドは少々体温が高いようで、スコールが暖を取りたい時には丁度良い塩梅なのだとか。

けれども、この体温の高さと言うのが、時にはスコールの不快を誘う。
そもそもスコールは極端に暑いのも寒いのも得意ではなく、その上、他者との接触、肌の触れ合いというものに聊か消極的だ。
心を許した相手ならばまだ良いが、それでも、例えば真夏の蒸し暑さの中で抱き合うようなことはしたくない、とのこと。
ただでさえジメジメと蒸されている時の人肌の温さと言うのは、滲む汗の感触も相俟って、不快を誘うものだから仕方がない。
スコールは、殊更そういった感触に敏感な性質なのだ。

だからこんな蒸し暑い夜は、冷房機能が欠かせない。
文明の利器に感謝だな、と恋人が遠慮なくくっついてくれる理由作りに役立つ家電に、クラウドは満足を覚えていた。


「んん……」


すん、とスコールが小さく鼻を鳴らす。
鼻呼吸で零れる息が、クラウドの胸元をちらちらとくすぐっていた。

それがまたクラウドの欲を煽るものだから、下半身は勝手に元気になっていく。
クラウドにとっては、まだまだ夜は長くて良いし、体力も余っていた。
しかしスコールの方はどうかな、と受け身の側として負担が大きいであろうスコールの状態について思慮していると、


「……クラウド」
「ん?」
「……もう、終わり、か?」


十分にまぐわって、シャワーも浴びて、ベッドに戻った。
このまま眠り落ちるに条件は十分だ。

だが、スコールの方からそんな風に言ってくれるのなら、クラウドは全く吝かでない。


「まだ眠くないか?」
「……」


スコールは答えなかったが、恥ずかしがれば逸らされる筈の蒼が、じっとこちらを見ている。
言葉が苦手なスコールだが、瞳はそれ以上にお喋りで、隠し事をしなかった。

頬をやんわりと撫でると、スコールは密着していた体を少し離して、首を伸ばす。
近付く気配にクラウドが待っていれば、ほんの一瞬、触れるだけのキスがあった。
精一杯の主張をしてくれたスコールの顔は、薄暗がりの中でも判り易く赤くなっている。


「……クラウド……」
「ああ」


ここまでやったのだから。
そう訴えるスコールに、クラウドは小さく笑みを浮かべて、抱き締めた体をベッドへと沈めた。



これから部屋の温度が熱くなることを察したように、冷房のファンの音が煩かった。




7月8日と言うことで、クラスコ。

暑いのやだって言うスコールといちゃいちゃする為に、敢えて冷房で小細工をするクラウドです。
これならスコールも遠慮なく甘えられるんだから良いじゃないか、と言うことで。
冬は冬でわざと暖房の設定温度をちょっと下げて、くっついてるのが丁度良いくらいにしてるんだと思う。

[ロクスコ]不思議な同行者

  • 2026/06/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

スコール in FF6
[始まりの前に]の続き





ニケアを出港した船は、一晩をかけてサウスフィガロの港に着いた。
ニケアよりも広く人の多い市場が立ち並び、客を呼び込む威勢の良い声があちこちで飛んでいる。
波止場をうろついている猫に魚を取られた店主が怒りの声を上げるのも聞こえた。

その市場を歩く間、ロックの奇妙な同行者───スコールは落ち着かない様子で辺りを見回している。

ロックにしてみれば、サイスフィガロの街は規模こそそれなりに大きいものだが、見た目としては然程目新しいところはないものだ。
行商人や旅人、傭兵を当てにした宿場に、武器防具を取り扱う鍛冶屋に、日々の生活を賄う野菜や魚や肉を扱う店。
ついでに酒場も大小含めればあちこちにあるが、それもこの規模の街ならよく見る光景だった。


「見慣れないか?」


半歩前を歩きながら、肩越しに振り返ってロックは言った。
案内人の後ろをついて来る形で歩いていたスコールが、視線をこちらに向けて、眉間に皺を寄せる。


「……多分」
「そうか。じゃあ、ここも馴染みじゃないってことなんだろうな」


答えたスコールにロックがそう返せば、もう一度「……多分」と返事があった。

濃茶色の髪に、蒼灰色の瞳と、黒と白を基調にした一風変わった出で立ちの若者。
その腰には草臥れた布を鞘替わりに巻き付けた、これまた風変りな形状の剣がある。
端正に整い、近づきがたい印象の皺を浮かべた眉間には、刃傷のような傷痕がくっきりと浮かんでいた。
全体の色味で言えば地味な印象だが、着ている服や腰に携えた獲物などが、どこか異質な存在感を匂わせている。

そんな変わった青年とロックが出逢ったのは、ニケアの港でのことだ。
少々賑やかな騒ぎを切っ掛けに相対した二人は、取りも遭えずの話の流れで、同行することになった。
詳細に言えば、記憶喪失であるが故に行く宛のなかったスコールを、ロックが傭兵として雇う形で誘った、と言うものである。

ロックは、一先ず腹ごなしをしよう、と波止場を過ぎた先にある酒場に入った。
船乗りの客も多いそこは、中央で見世の踊り子が舞い、ニケアよりもずっと賑やかだ。
やんややんやと踊り子を冷やかす客の隙間を抜けて、ロックはカウンター席に座った。
隣にスコールも腰を下ろし、また辺りを見回す。


「ここは……?」
「酒場だよ。飯でも酒でもあり付くならここだ。入ったことくらい───ないか?」


市場にしろ、船にしろ、どうにも見慣れない様子のスコールに、ロックは常識の範疇を一旦退けて尋ねてみる。
スコールは傷のある眉間に深い皺を浮かべ、しばらく考えた後、


「……俺の知ってる飯屋じゃない、気がする」
「酒場なんて、どこでも大体こんなもんだと思うけど……いや、ドマならそうでもないかな…?」


ドマは海を隔てた南の大陸にある国だ。
“侍”と言う特殊な剣技を扱う戦士を擁している他、言葉こそ公用語で通じるものの、文字や装飾には独特のものが使われている。
封建閉鎖的な傾向の国である為、ロックはドマの酒場を利用したことはなかったが、他国との文化との違いを考えると、どこかしらに差異があっても可笑しくはないだろう。
それを記憶喪失のスコールが、感覚として“違う”と感じることは、あるのかも知れない。

ロックはマスターを呼び、適当にメニューを注文した。
表情ばかりは愛想の良いマスターが頷いて、程なく女給からジョッキがふたつ運ばれてくる。


「ま、ともかく飯にしよう。平気そうだったから気にしなかったけど、船酔いはしてないよな?」
「問題ない」
「それなら食えるな。じゃあ飯が来るまで、ここからの予定を説明するか」


ロックは懐から地図を取り出した。
カウンターなので全面広げる訳にはいかないので、サイスフィガロから次の目的地の部分を見せる。


「今いるのがここだ。で、この後は北西の洞窟を抜けて、砂漠にある城に行く」
「城……?」
「この街はフィガロって言う国の領土にある。その国の本城が砂漠の中にあるんだよ。俺は何度も行ってるけど、この世界じゃ一番広い砂漠の真ん中にあるからな。ちょっと念入りに準備して行く」
「砂漠については理解した。その前にあると言う洞窟は、危険なのか?」
「魔物が棲みついてる。大体は虫の生態の魔物だから、火でも焚いてれば多少は追い払える。俺一人でも行けるから、個々の危険度は高くない。ただ、数がな。うっかり大群に出くわすときつい」
「……軍隊アリでも出るのか」
「似たような奴はいるな。アリじゃなくてハチだ」


ロックの言葉に、スコールは判りやすく顔を顰めた。
虫が嫌いか、多数を相手取る面倒を想像したか。

魚介を具にしたパスタが二皿、到着する。
一皿を隣に回すと、スコールは手を付けて良いものか、逡巡するようにしばしパスタを見詰めた。
ロックが食べ始めるのを確認してから、ようやくスコールも手を付ける。


「あんたの目的地は、砂漠にある城か」
「いや、そこはただの中継点。本命は砂漠から更に北だ」


ロックはパスタを食べながら、地図を手繰ってフィガロの砂漠から北を見せる。


「砂漠を北に抜けて、渓谷沿いに進むと、炭鉱がある。俺の目的地はそこ」
「炭鉱───」
「名前はナルシェ。聞き覚えは?」
「……」


スコールは首を横に振った。


(この大陸とは縁がない、ってことか?そうなると、いよいよドマか帝国辺りしか残らないんだけど───)


ロックは燻製サーモンを噛みながら、同行の傭兵について考える。
しかし、いくら思案を巡らせたところで、元より碌な情報もないのだ。
本人でさえ、自分自身の情報を探しあぐねているのだから、雲を掴むようなものである。

ロックは頭を切り替えて、ナルシェについて説明して置くことにした。


「ナルシェは炭鉱都市で、位置としてはフィガロ国に近いけど、自治都市だ。別に余所者お断りって訳じゃないけど、住人はちょっと取っつき難いかもな。最近はピリついてるだろうから、特に」


ロックの言葉に、スコールの双眸が微かに細められる。


「そのピリついた場所に行くのは、何が───」


そこまで言って、スコールは止まった。

続く言葉は恐らく「何が目的だ」と言ったところだろう。
問われて当然の言い方をしたな、と思いつつ、そこで止まったスコールに、今度はロックが眉根を寄せる。


「なんだ?」
「……いや」


訝しむロックに、スコールは視線を反らした。
目の前のパスタを見て、黙々と食べ進めるスコールに、ロックの方が落ち着かない気分になって来る。


「聞きたいことがあるなら言えよ。ちゃんと答えるつもりはあるぞ?」
「……いい。俺はあんたの傭兵だ。雇い主の意向に従うのが仕事だ」
「辺鄙なところに連れていかれて、何をやらされるか。悪いことでもやらされると思ったんじゃないか?」


傭兵に犯罪の片棒を担がせるなんて、よくある話だ。
地獄の沙汰も金次第、と支払い次第でそれを引き受ける輩は、決して珍しくない。
その傍ら、悪罪を背負(しょ)いこまされるのは御免だと、警戒するのも当然である。

青年もそれ考えたのではないか、とロックは言った。
スコールは図星を突かれたように口を一度噤むも、ジョッキを掴んで口元に運ぶ。
喉奥に何かを押し込むように、液体をぐびりと飲んで、言った。


「俺は傭兵だ。命令には従う」
「命令ってほどでもないんだけどなあ……」


硬質な声のスコールの言葉に、ロックは頭を掻いた。
彼を引き連れるにあたり、腰に携えたものと併せ、無難な言葉で誘いをかけたのはロックの方だが、どうもスコールにとって“傭兵”とはかくあるべしというものがあるらしい。
そこまで頑なにされてもロックの方が困るのだが、記憶喪失ながらに縁とするのがその単語であるなら、こちらからは触れるまい。

スコールが食事をすることに終始しているので、ロックもまあ良いか、と思うことにした。
どうせこの青年の正体と言うのは判らないのだ。


(ナルシェに行った時に、どう動くか。帝国絡みなら、何かある筈だ。その時に考えれば良い)


何せ、スコールの“記憶喪失”と言うのも、彼の自称でしかない。
ロックの直感で言えば、強ち嘘とも言い難いが、それは個人的な感情が齎すものであることは否めなかった。
若しかしたら、ロックが身を置く地下組織リターナーが討たんとしている、ガストラ帝国の関係者である可能性も、未だ否定はできないのだ。
故にロックは、彼を傭兵として同行にしながらも、彼に与える情報は少しずつ限定的に開示するに留めていた。

パスタの皿がふたつとも空になり、ロックはジョッキを開けた。
その横で、スコールも少しずつジョッキの中身を減らしていたが、半分ほどまでになると、その動きが止まる。


「……」
「スコール?」


俯き加減に沈黙したスコールに、ロックは声をかけた。

スコールは、両手でジョッキを捕まえるように持ち、皿の片付けられたテーブルを見下ろしている。
何か深く思案しているようにも見えるのだが────と思っていた時だった。

ぐら、とスコールの体が斜め横に傾いて、背凭れのない椅子の上でバランスが傾く。


「っおい!」


そのままゆっくり床に落ちていく体を、ロックは咄嗟に腕を掴んで捕まえた。
かくんと頭が重力に従って、体は斜め、それに対して首は90度になっている。

腕の力で引っ張って体勢を戻させるが、スコールの体は今度はロックの方へ傾いて来た。
完全に力の抜けた重みがロックに乗って、ぐったりと寄り掛かる。


「スコール?おい、大丈夫か?」
「……」
「……お前、ひょっとして、酔ったのか?」


胸元に顔を埋める形になっているスコールを見下ろして、ロックは言った。
返事はなく、「うん……」とむずがるような声が聞こえてくるだけだ。

ロックはスコールの頬やら肩やらを叩いてみるが、反応は芳しくなかった。
ぐでんと力の抜けた体は、すっかりロックに体重を預け、瞼は半分以下まで落ちている。
目元をとろんとさせたスコールの頬は薄らと赤らんで、耳や首筋まで紅潮して見えた。

ちらとロックがテーブルを見れば、飲みかけのジョッキがある。
中身は特段珍しくもない、どこの安酒場でも提供されるエールだ。


(……飲めない奴だったか?一応、今後の為に、覚えておくか)


意外、と思いつつ、ロックは海を越えて初めて知る青年の詳細情報を更新する。

スコールは完全に意識を飛ばしてはいないものの、宙に浮いている状態だ。
このままではどうにもなるまい、とロックは食事代をテーブルに置くと、スコールを背負ってカウンターを離れる。

酒場の奥にあるドアを潜れば、宿屋と繋がっている。
受付に行って二人分の寝床のある部屋を取り、そこへスコールを運び込んだ。
綺麗なリネンで整えられたベッドにスコールを横たえてやると、スコールは眉根を寄せながら数回寝返りを打った後、丸く縮こまって静かになる。

ロックは、ベッドの真ん中で丸くなったスコールに声をかけた。


「スコール。俺、色々調達に行ってくるけど」
「……」


瞼が薄く開いて、蒼灰色がぼうと揺蕩いながらロックを映す。
スコールはじっとこちらを見詰めたまま動かない。

ロックは肩を竦めつつ、まあ良いか、と思った。
どのみち、今日は諸々の準備に費やして、東の洞窟へ向かうのは明日にするつもりだったのだ。


「今日はここで寝るから、ま、大人しくしててくれよ」


なんとなく子供に聞かせる口調になって、ロックは言った。
返事がなかったので、念を押す気持ちも込めて、濃茶の髪をぽんぽんと軽く叩く。

ぼうっとロックを見つめるスコールの貌からは、眉間の皺が薄らいで、どこか幼い輪郭が覗いていた。
その双眸が次第に薄く細められて、瞼がすっかり閉じた後、すぅすぅと寝息が立てられる。
大人になり切らない寝顔に、妙な奴を拾ったなあ、と今更思うロックであった。




6月8日と言うことで、ロクスコ。
以前に書いたスコール in FF6(本編スタート前)が楽しかったので、続きを考えてしまった。

FF6ってキャラクター数が多く、年齢幅も上から下まで広いんですが、ロックって25歳なんですよね。ゲームのキャラグラフィックからはあまり判らないけど、良い大人。
スコールの見た目が大人びていること、この設定だと記憶喪失なので実年齢が情報としてはっきりしないので、ロックは同年くらいの感覚で扱っているつもり。少なくとも20歳は数えているだろと思っている。なのでエールも二人分注文してました。
スコールにしてみると、水ではなさそうだけど、ここに来るまでちゃんと水分も取れていなかったので、一応飲んでおこうと思った……と言う。ここまでの疲れや緊張もあって回ったんでしょうね。

お返事(6月2日)


ご連絡いただいた作品のリンクアドレスを修正しました。

報告ありがとうございました。


 

[セフィスコ]銀環

  • 2026/05/29 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



体の重怠さを自覚しながら、スコールはベッドを抜け出そうと試みる。
腰に絡みついていた、細いのに存外としっかりした腕が、駄々をこねるように掴んできた。
それを四苦八苦に解かせて、転がるようにベッドから落ち、床に散らばっていた服を拾う。

ブラインドの向こうから朝の光が差し込んでいる。
いや、ひょっとしたら昼かも知れない、と思って時計を見ると、案の定である。
体の重さ具合で、自分がこの時間まで寝沈んでいたことを推察できるのが、なんとなく厭になった。
別段、健康的で規則正しい生活を心がけている訳ではなかったが、朝ぼらけの頃までまぐわった末の今だと思うと、なんとも怠惰に思えてくる。

寝室を出て、綺麗に整えられたダイニングキッチンに入る。
三日に一度、この家にやってくる家政婦が仕事熱心なお陰で、台所はいつも綺麗に磨かれている。
まるで使われた形跡もないかのようだが、一応、スコールは毎日ここを使っていた。

家政婦が作り置きにしたスープの入ったタッパーを冷凍庫から取り出し、電子レンジで温めている間に、目玉焼きを作る。
トースターにはバターロールパンをふたつ、表面がうっすらと焦げる手前まで熱を入れた。
温め終わったスープをマグカップに移して、牛乳を添えれば、朝食の完成だ。

二人分のトレイにそれぞれ朝食を並べ、ダイニングテーブルに運んだところで、寝室のドアが開いた。
見事としか言いようのない、真っ直ぐに長いプラチナブロンドを持った男が出てくる。
ついさっきまでベッドにいたとは思えないほど、その髪は癖もうねりもなく、男の美丈夫ぶりをより一層引き立たせている。


(モデルになる為に生まれてきたような男だな)


毎日のようにその面を見ているスコールだが、見る度にそんなことを考える。
それ程、この男───セフィロスの容姿と言うのは、飛び抜けて整い優れているのだ。

スコールとて小柄ではないのだが、セフィロスの顔は見上げないと見えない。
整った顔立ちは言わずもがな。
足下まで届こうかと言うプラチナブロンドの長い髪は、癖や枝とは無縁なほどに整えられている。
彼が「使っている」と公言しているヘアケア商品が飛ぶように売れるのも無理はあるまい。
体型についても、無駄な筋肉も脂肪もない引き締まった体つきに、身長に見合った長い手足がつき、どんな服でも着こなすことが出来る、理想のかたちをしていた。
ランウェイを歩くだけで女たちが感嘆の溜息を漏らすのも、当然のことだ。

そんなセフィロスの周りには、沢山の人々が寄り集まって来るが、彼自身はまるで他人に興味がない。
ごく僅かな旧知の人間を除くと、後は蟻と同じようなもので、人の顔もろくに覚える気がなかった。
実際、モデル業の後輩だとか、撮影を共にした女優だとか、そう言うものが「三日前のお仕事で一緒になって」などと言っても、彼は基本的に無言である。
その時の顔は、これは何だったろうか、と考えているものなのだが、多くの人は綺麗な面に夢中なので、その中身の方まで見てはいない。
それで良いのか、とスコールは思うのだが、セフィロス程の地位ともなれば、いちいちそんなことを咎める人間の方が稀なのだろう。

そんな具合で、他人に根本的に無関心である男が、何をどうして自分なんかを気に入ったのか。
スコールは甚だ疑問であったが、問うたところでまともな返事があった試しがない。
ただ、こうして同居まで許されている辺り、一応、彼の本心───スコールのことを「閉じ込めたい」ほど執心してくれていることは、疑う必要はないのだろう。
なんとも風変りなことであるが、そのお陰で、諸所のトラブルに巻き込まれた所為で住む家を失くしたスコールが、幸運にも路頭に迷わず済んだのだ。
取り合えず追い出されない限りは、この恩恵を享受することにしている。

───眠い目を擦りもせず、茫洋とした顔でダイニングテーブルの横に立ち尽くしているセフィロス。
まだちゃんと起きていないな、とスコールは察して、自分の席に座りながら声をかけた。


「おはよう」
「……ああ」
「朝飯が出来てる。早く食べろ」
「……ああ」


スコールが言った通り、セフィロスは食卓に着き、食事に手を付けた。

こうして共に食事をしているが、二人の間に会話はほとんどない。
どちらも口が回る質ではなかったし、沈黙で過ごせるのならその方が楽だ。
黙々とした食事は、20分もすれば、食後の一服であるコーヒーも含めて終わっていた。

スコールが食器を片付けている間に、セフィロスはようやく身支度を整える。
顔を洗ったことで瞼がきちんと持ちあがると、その顔立ちは一層の完璧さを醸し出す。
身に着ける服はどれも一流ブランドのもので、シャツ一枚とっても桁が5つになるとかならないとか。
それは普通の洗濯機に放り込んで良いものなのか、とスコールは何度も思うのだが、持ち主はその辺りのことにまるで頓着がないのであった。

スコールが濡れた手を拭いていると、セフィロスがキッチンにやって来た。
目を合わせると、綺麗な顔がうっそりと笑みを浮かべて、


「お前の仕事だ」


そう言って、男は手に持っていた銀色を見せる。
スコールは眉根を寄せて唇を尖らせた。


「ネックレスくらい、自分でつけられるだろ」


燻し色の銀の意匠を提げた、銀色のネックレス。
ここ一月の間、男の首に毎日のように光るそれを渡した自分を、スコールは少しばかり後悔していた。

自分でやれよ、と言う気持ちで、スコールはじっと男を睨んでいた。
しかし眼前の人物は口元に笑みを浮かべたまま、掲げたネックレスも下ろそうとしない。
こうしてスコールが睨み続けていても、存外と忍耐強い男には大した効果もなかった。

はあ、とスコールは溜息を吐いて、右手を伸ばす。
ネックレスを受け取って金具の留めを外すスコールを、セフィロスは変わらぬ笑みで見つめている。


「あんた、別に不器用な訳でもないだろう。なんでいつも俺にやらせるんだ」
「それを俺に寄越してきたのはお前だ」
「だから、なんでそれで俺がやらなきゃいけないんだ」


会話になっていない、と青灰色がまた睨む。
セフィロスはそれに堪える様子もなく、陶然とした様子で返す。


「俺はなくても構わなかったが、お前がそれを着けろと持って来たのだろう。俺の出で立ちが不服だと言って」
「別に不服だった訳じゃない。あんた、なんでも大体似合うけど、なんか物足りなく見えることがあったから……こう言うものでもあれば良いんじゃないかって思っただけだ」
「そうだ。そうして、お前がそれを見繕った。俺にはそれが合うだろうと」


セフィロスの言葉に、スコールは唇を尖らせる。
彼の言っていることは、確かに事実であった。

どんな服でも着こなすセフィロスだが、彼自身はファッションと言うものに頓着がない。
仕事もあって、撮影の為に使用した服をまるごと買い取って持ち帰ることは儘あるのだが、それらを自分の思うように着こなそうと言う楽しみ方はしなかった。
好みのバランスは多少なりあるので、奇抜な取り合わせこそしないものの、モデルの割りにはどこか抜けた───スコールから見て、“物足りない”感が残ることがある。

それで、なんとなく手持ちのアクセサリーの中から、セフィロスに似合うものを選んでみた。

別段、セフィロスを着飾らせようと思った訳ではない。
そんなことをしなくても、この男は単体で十分見栄えのする姿かたちをしているから、華美に飾る必要もなかった。
けれども毎日のようにセフィロスの私服を見ているので、違和感がある状態を常に見るのが気持ちが悪かったのだ。


(……だからって、毎日着けていけとは言ってないし。俺が着けてやるのが仕事になるなんて思ってなかった)


どうしてこうなった、とスコールは何度目か知れず思う。

フックになっているカンを外して、チェーンの輪を解く。
小さな金具を相手の作業は、その細かさが案外とストレスになることもあって、面倒臭くなる。
人によっては、どうしても自分では出来ない、況して目に見えない位置でやるのは無理、と言う不器用さに苛まれることもあるだろう。
だが、目の前にいる男はそうではない筈だ、とスコールは胡乱な目で長身の男を見上げた。

蒼灰色と碧眼が交じり合うと、碧眼がうっそりと細められる。
そして男は、すぅ、と背中を丸めて頭の位置を下げてきた。


(……近い)


見上げる位置にあったセフィロスの顔が、スコールの目線の高さとほぼ同じになっている。
じっと見つめる碧眼をまた睨めば、ああ、とセフィロスは得心した様子で瞼を閉じた。

スコールはネックレスを持った腕を伸ばした。
プラチナブロンドのカーテンの隙間を抜けて、銀意匠がセフィロスの首の下へ。
チェーンの端を持ったスコールの両手が、頭を垂れるセフィロスの項へと回った。


(……やりづらい……)


向き合ったまま、男の首の後ろにキーフックをかけるのは、中々に難しい。
何せスコールからすると、男の頭頂部がほぼ目の前にあり、形の良い後頭部が邪魔になって、項に添えた自分の手元が見えないのだ。

それなら背中に回って、手元が見えるようにすれば良いではないか。
誰もがそう言うだろうが、それが出来れば苦労はなかった。
いつの間にかスコールの背中を抱くように回された腕が、このままやれ、と我儘を言っている。
これも振り払えれば楽なのだが、腕は細く見えて力が強く、また抵抗したところで同じことを繰り返されるのは既に経験済みだ。
無駄な労力と時間を割くくらいなら、男の望むに合わせて仕事を済ませた方が良い、とスコールは学習していた。


「……絶対、あんたが自分でやった方が早く済むぞ」
「だろうな」
「判ってるなら」
「だが、これはお前の仕事だ。お前が選んできたのだからな」
「……」


押し問答だ、とスコールは何度目になるかの諦念に行き付く。
どれだけ言った所で、セフィロスはこの謎の儀式を辞めるつもりがないらしい。
そして、居候の身である自分に、この儀式を拒否する権利はないのだ。

手探りでどうにかフックをかけて、スコールはようやく両手を下ろした。
セフィロスはスコールを腕の檻に閉じ込めたまま、垂れていた頭を上げる。
その瞳と色の薄い唇には、さも満足と言わんものが浮かんでいた。

スコールの目の前に、男の形の良い鎖骨のラインと、燻し銀の光が並んでいる。

このアクセサリーは、スコールが持っている物の中でも少し特殊だ。
スコールが普段から贔屓にしているブランドが、他業種とのコラボしたことでデザインされたものになっている。
その為、普段のスコールの好みからは少々外れていて、買ったは良いものの、平時のコーディネートと合わせ難くて眠らせていた。

それがセフィロスの首にあると、妙なもので、しっくりと来る。


(……別に、こいつの為に買ったものじゃないんだが……)


どちらかと言うと、こういうものは、自分の為に買っている。
身に着けなくても、コレクション的に揃えて眺めるだけでも満足するのだ。

けれども、身に着けて似合う者が身近にいるのなら、まあ良いか、と思う。
ましてや、誰もに雲上の人のように扱われる男が、このネックレスをスコール手ずからに首にかけさせる為、わざわざ頭を下げてくるのだ。
少年にとって、この現実が、なんとも言えない優越感を誘った。

じっと見上げるスコールを、高い位置から見下ろす碧眼は、まるで何もかもを見通しているかのようだ。
どうにもその視線に居心地の悪さを感じて、スコールは身動ぎする。


「……終わったんだから、もう離せ」
「つれない奴だ」


する、と背中で男の手が滑る。
背筋を辿る感触に、スコールが否応なく肩を震わせると、男の喉がくつりと笑った。


「っ早く行け!仕事だろ!」


真っ赤になったスコールが男の胸を叩く。
セフィロスはその反抗もそよ風のような顔だったが、ダイニングテーブルで携帯電話が無遠慮な振動音を鳴らしていることに気付いて、ようやく腕の檻を解いた。


「やれやれ……已むを得ん。続きは夜だな」
「やらないからな。明日は授業があるんだから、今日は寝る」
「構わん。お前は意識がなくとも良い反応をする」
「……あんた、俺が寝てる間に何してる?」


顔を顰めるスコールを、セフィロスは双眸を細めて見つめ返す。
じり、と後ずさりする少年に、男は如何にも楽しそうに喉を鳴らした。

揶揄われたと判ったスコールが顔を赤くするうちに、セフィロスは銀糸を翻して玄関へ消える。
静かな部屋に残されたスコールは、つい先に触られた背中がむず痒くなるのを感じていた。





デュエルムにセフィロス参戦、現代服衣装もお披露目。
フォロワーさんが、現代衣装のネックレスがちょっとスコールと似てると呟いてるのを見て、勝手に広げました。
スコールチョイスのネックレスを、スコールの手で首にかけさせるセフィロスです。

このスコールは高校生で、元々は一人暮らしをしていたけど、色々面倒な不動産トラブルに巻き込まれて、住む家がなくなった所をセフィロスに拾われた……と言う事情がありました。そのまま囲い込んでるセフィロスです。
私ロスなので偶に(頻繁に?)会話をしてくれない。でもお気に入りに対しては面倒見が良いのかも知れない。
自分より背の低い相手に頭を差し出してくる長身の男が見たかった。渋々顔しながら律儀に付き合ってあげるスコールでした。スコールからすると、何考えてるのか判らないけど妙に自分に懐いてくる、シュッとした見た目の大型犬(ボルゾイとかアフガンハウンドとか)を相手にしている気分。

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